説明

光電変換素子及び光電変換素子の製造方法

【課題】電極と光電変換層間の密着性を向上させることにより、良好な光電変換効率の発現を可能にするステンレス製グリッド電極を用いた光電変換素子を提供する。
【解決手段】少なくとも、酸洗処理が施され、かつ、半導電性の化合物を含有する表面層を有するステンレス製グリッド電極の第1電極と、光電変換層、正孔輸送層、第2電極を有する光電変換素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光エネルギーを電気エネルギーに変換する機能を有する色素増感型太陽電池に代表される光電変換素子に関し、特に、グリッド電極を有する光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池に代表される光電変換素子は、無限に存在する太陽光エネルギー等の光エネルギーを電気エネルギーに変換して各種機器に電力を供給する素子で、シリコンを用いた太陽電池等、環境にやさしいエネルギー変換素子として従来より検討されてきた。シリコンを用いた太陽電池には、人工衛星等に用いられる単結晶シリコン型の太陽電池の他に、多結晶シリコンを用いたものやアモルファスシリコンを用いた太陽電池が産業用や家庭用に普及している。また、携帯電話や携帯端末機等の各種携帯用情報機器の普及に伴い、これらコンパクトな装置にスムーズにセットして安定した電力供給が行える様に、可撓性を有する太陽電池も登場している。これらシリコンを用いた太陽電池は、いずれも、大型で高価な製造装備が必要な上に原料価格も高く製造コストに課題を有し、また、製造時のエネルギー消費量や光電変換効率にも課題があり、必ずしも省エネ対応で環境にやさしい電源であるというには難しいものであった。
【0003】
この様な背景から、シリコンを用いた太陽電池に代わる新しいタイプの光電変換素子の開発が検討される様になり、その中でも色素増感型太陽電池と呼ばれるタイプの光電変換素子の開発が注目される様になった(たとえば、非特許文献1参照)。前記非特許文献1に開示された光電変換素子は、貴金属原子の1つであるルテニウム錯体で分光増感させた酸化チタンを用いたもので、半導体材料である酸化チタンを高純度に精製する手間をかけずに可視光領域での光電変換を可能にした。
【0004】
ところで、色素増感型の光電変換素子には、入射光量を確保する観点から、耐熱ガラス板表面にインジウムドープ酸化スズ等の化合物を導電膜として蒸着させた透明電極が用いられていたが、この透明導電膜は高価なため低コスト化の実現に支障を来していた。
【0005】
そこで、透明電極に代わる光電変換素子用電極として、低抵抗の材質で、かつ、入射光量の確保が可能な形態の電極が検討され、線状の金属材料等を格子状に配置させた構造のグリッド電極と呼ばれる電極が提案された(たとえば、特許文献1、2参照)。たとえば、特許文献1は、金属箔に無数の開口部を設けた金属製グリッドに酸化物半導体焼結物を一体的に結合させた構造の電極としたもので、安価な金属材料により電極の電気抵抗を低減させて光電変換効率を高めることを可能にした。また、特許文献2は、電極を形成する線材の外周に色素を担持させた多孔質酸化物半導体層を設け、当該線材をすき間なく配置して電極を形成することで、発電有効面積を十分確保し、優れた光電変換効率を実現している。
【0006】
また、導電性に優れる金属材料で形成したグリッド電極を有する光電変換素子では、含有される電解液によりグリッド電極が浸食されることを防ぐための表面層をグリッド電極に設ける技術が検討されている(たとえば、特許文献3、4参照)。たとえば、特許文献3には、金属グリッド配線をガラスやポリイミド樹脂等で作製した遮蔽層で被覆する技術が開示され、特許文献4には銀細線に電解銅めっき等を施す技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−123855号公報
【特許文献2】特開2009−301840号公報
【特許文献3】特開2009−277624号公報
【特許文献4】特開2009−129552号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】B.O’Regan,M.Gratzel,Nature,353,737(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、グリッド電極を用いた光電変換素子は、電極と光電変換層との接触面積の確保が困難な構造を有するため、両者間の密着性が不十分になり、所定の光電変換効率の発現や安定維持が困難な傾向を有するものであった。たとえば、光電変換素子の作製工程では、光電変換層形成時等で焼成処理が行われるが、焼成時の高温から室温への温度変化により電極が光電変換層から微小に剥離して、初期段階より光電変換効率の低いものが生産されるおそれがあった。また、たとえば調理器具に使用する場合の様に、高温と低温の温度変化を繰り返す条件下で光電変換素子を使用する場合も、電極の剥離が懸念され、この様な環境下でも安定した光電変換効率を発現するグリッド電極使用の光電変換素子が求められていた。
【0010】
本発明は、光電変換層との接触面積の確保が困難なグリッド電極を使用する光電変換素子について、電極と光電変換層との間で良好な密着性を発現して、高い光電変換効率を安定して維持することが可能な光電変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題が以下の構成により解消されるものであることを見出した。すなわち、請求項1に記載の発明は、
『少なくとも、第1電極、光電変換層、正孔輸送層、第2電極を有する光電変換素子であって、
前記第1電極は、
酸洗処理が施され、かつ、表面層を有するステンレス製のグリッド電極であり、
前記表面層が半導電性の化合物を含有するものであることを特徴とする光電変換素子。』というものである。
【0012】
請求項2に記載の発明は、
『前記表面層は、
前記半導電性の化合物として酸化チタン化合物を含有するものであることを特徴とする請求項1に記載の光電変換素子。』というものである。
【0013】
請求項3に記載の発明は、
『前記表面層に含有される酸化チタン化合物は、
チタンアルコキシド化合物単体、チタンアルコキシド化合物とアミン化合物の混合物、チタンアルコキシド化合物とカルボキシル基またはカルボニル基を有する有機化合物の混合物のいずれかを加熱して形成されるものであることを特徴とする請求項1または2に記載の光電変換素子。』というものである。
【0014】
請求項4に記載の発明は、
『前記表面層に含有される酸化チタン化合物は、チタンアルコキシド錯体化合物を加熱分解して形成されるものであることを特徴とする請求項1または2に記載の光電変換素子。』というものである。
【0015】
請求項5に記載の発明は、
『前記ステンレス製のグリッド電極は、少なくともフッ酸(HF)を含有する溶液に浸漬させる工程を経て前記酸洗処理が施されて形成されたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光電変換素子。』というものである。
【0016】
請求項6に記載の発明は、
『前記ステンレス製のグリッド電極は、線状のステンレス部材を用いて形成されたものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の光電変換素子。』というものである。
【0017】
請求項7に記載の発明は、
『前記ステンレス製のグリッド電極は、板状のステンレス部材を用いて形成されたものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の光電変換素子。』というものである。
【0018】
請求項8に記載の発明は、
『少なくとも、第1電極、光電変換層、正孔輸送層、第2電極を有する光電変換素子の製造方法であって、
前記第1電極は、
ステンレス製のグリッド電極で形成されるものであり、
少なくとも、酸洗処理を施す工程と、半導電性の化合物を含有する表面層を形成する工程を有するものであることを特徴とする光電変換素子の製造方法。』というものである。
【0019】
請求項9に記載の発明は、
『前記表面層は、
前記半導電性の化合物として酸化チタン化合物を含有するものであることを特徴とする請求項8に記載の光電変換素子の製造方法。』というものである。
【0020】
請求項10に記載の発明は、
『前記表面層に含有される酸化チタン化合物は、
チタンアルコキシド化合物単体、チタンアルコキシド化合物を含有する液にアミン化合物を添加した混合物、あるいは、チタンアルコキシド化合物を含有する液にカルボキシル基またはカルボニル基を有する有機化合物を添加した混合物のいずれかを加熱して形成されるものであることを特徴とする請求項8または9に記載の光電変換素子の製造方法。』というものである。
【0021】
請求項11に記載の発明は、
『前記表面層に含有される酸化チタン化合物は、チタンアルコキシド錯体化合物を含有する液を加熱分解して形成されるものであることを特徴とする請求項8または9に記載の光電変換素子の製造方法。』というものである。
【0022】
請求項12に記載の発明は、
『前記ステンレス製のグリッド電極を酸洗処理する工程は、少なくともフッ酸(HF)を含有する溶液に前記ステンレス製のグリッド電極を浸漬させて行うものであることを特徴とする請求項8〜11のいずれか1項に記載の光電変換素子の製造方法。』というものである。
【0023】
請求項13に記載の発明は、
『前記ステンレス製のグリッド電極は、線状のステンレス部材を用いて形成されるものであることを特徴とする請求項8〜12のいずれか1項に記載の光電変換素子の製造方法。』というものである。
【0024】
請求項14に記載の発明は、
『前記ステンレス製のグリッド電極は、板状のステンレス部材を用いて形成されるものであることを特徴とする請求項8〜12のいずれか1項に記載の光電変換素子の製造方法。』というものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明では、光電変換素子を構成するステンレス製のグリッド電極に酸洗処理を施し、かつ、半導体材料を含有する表面層を設けることにより、グリッド電極と光電変換層間の密着性を大幅に向上させることを実現させた。すなわち、上記構成によりグリッド電極と光電変換層間の密着性が大幅に向上して、電極と光電変換層の接触面積確保が困難な構造を有するグリッド電極を用いた光電変換素子で良好な光電変換効率の発現が可能になったのである。
【0026】
たとえば、光電変換素子を作製する工程では、光電変換層形成時等で焼成処理を行うが、本発明により、焼成時の高温から室温への温度が変化する際に電極が光電変換層から剥離することがなくなり、初期段階より所定レベルの光電変換効率を発現する光電変換素子を生産することができる様になった。また、調理器具に光電変換素子を使用する場合の様に、高温と低温の温度変化が繰り返される環境下で光電変換素子を使用する場合も、本発明によれば、光電変換層からの電極の剥離が起こらず、この様な環境下でも安心して使用できる様になった。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】グリッド電極を有する光電変換素子の断面構成を模式的に示す図である。
【図2】グリッド電極の形状を模式的に示す概略図である。
【図3】「形状係数FF」の数値と「電圧−電流特性グラフ」の形状との関係を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、線状導電性材料を格子状に形成するなどして導電性部材間に光を通過させるための領域を有している「グリッド電極」と呼ばれる電極を有する光電変換素子に関する。そして、本発明に係る光電変換素子は、酸洗処理を施し、かつ、半導電性の化合物を含有する表面層を有するステンレス製のグリッド電極を有するものである。
【0029】
本発明者は、光電変換層との接触面積の確保が困難とされていたグリッド電極を有する光電変換素子について、上記構成を有するステンレス製のグリッド電極とすることにより、上記課題を解消するものであることを見出した。そして、上記構成のグリッド電極は従来のグリッド電極に関する技術から容易に想到されるものではないと考えられる。
【0030】
すなわち、前述の特許文献1には、金、銀、白金、パラジウム、銅、チタンのいずれかからなる金属製グリッドが好ましいと記載され、ステンレス鋼でグリッド電極を作製することを示唆する記載はなかった。また、特許文献2には、電極を形成する線材に、チタン、ニッケル、タングステン、ロジウム、モリブテンのいずれかまたはこれらの合金を用いることの記載はあるが、鉄含有材料で電極を形成する記載はなくステンレス製電極を示唆するものではなかった。
【0031】
また、特許文献3や4には電極を構成する金属部材表面に遮蔽層や導電性金属めっき層を設けることが開示されているが、これらは電解液との接触によるグリッド電極の腐蝕を防ぐために設けられたものであった。また、形成した層内に半導電性化合物の様なものを含有させることは構造的に無理のあるものであった。したがって、耐蝕性に優れるステンレスに表面層を設け、しかも槽内に化合物を含有させるという本発明の構成を示唆するものではないと考えられた。また、特許文献3と4に開示されるグリッド電極の材質は、特許文献1や2と同じ様なものであり、ステンレスを用いてグリッド電極を形成することを示唆するものとはいえなかった。
【0032】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0033】
最初に、本発明に係る光電変換素子の構成について説明する。図1は、本発明に係る光電変換素子、すなわち、グリッド電極を有する光電変換素子の断面構成を模式的に示した図である。本発明に係る光電変換素子は、一般に「色素増感型光電変換素子」と呼ばれるタイプのものである。
【0034】
図1に示す光電変換素子1は、太陽光の受光により電子を形成する光電変換層5内に第1電極3(本発明ではグリッド電極ともいう)が配置され、第1電極3に対向する様に第2電極4が配置されているものである。そして、第1電極3と第2電極4の間には、第1電極3側より公知の色素を吸着させた半導体材料を含有する光電変換層5と、芳香族アミン化合物に代表される公知の正孔輸送物質を含有する正孔輸送層6が設けられている。
【0035】
また、図1の光電変換素子1を構成する第1電極(グリッド電極)3は、後述する方法で酸洗処理を施したステンレス製の電極であり、その表面には後述する方法により形成される表面層3Aを有するものである。グリッド電極の形態を有する第1電極3は、光電変換層5上面を覆う様に配置され、第1電極3と光電変換層5との間では電子の授受が行われ、第1電極に受け取られた電子は外部回路へ伝達される。
【0036】
また、図1に示す光電変換素子1には、第1電極3と第2電極4の外側に平板状の形態を有する透明な基体7がそれぞれ配置され、基体7は上述した第1電極3、光電変換層5、正孔輸送層6及び第2電極4を支持し、光電変換素子1に機械的強度を付与する。なお、図1の上方に示す下向きの白矢印は太陽光12を表すものである。
【0037】
図1に示す様に、本発明に係る光電変換素子は、第1電極にグリッド電極を用いるものである。そして、グリッド電極は、透明電極の様に貴金属を使用する必要がなく、コスト面や材料供給の面で有利なもので、特に、本発明では汎用の導電性金属であるステンレスを用いてグリッド電極を形成することからコスト面や材料供給安定性の面で特に有利である。以下、グリッド電極について説明する。
【0038】
図1に示す第1電極3は、前述の様にグリッド電極あるいはメッシュ電極と呼ばれる形態のもので、第1電極3に隣接する光電変換層5が太陽光をスムーズに受光できる様に、電極を構成する部材間に光を通過させるための領域が設けられた電極である。すなわち、本発明でいうグリッド電極とは、金属材料の様に光透過性をもたない導電性材料で作製され、電極内に光を通過させるための領域が形成されている電極のことをいう。つまり、第1電極3に用いられるグリッド電極は、たとえば、ワイヤ等の線状導電性材料を格子形状に編み上げて形成したものや、板状の導電性材料に打ち抜きを行って複数の穴を設けたもの等がある。
【0039】
これら第1電極3に用いられるグリッド電極は、「開口部」と呼ばれる「導電性材料間に光透過用の領域」が配置されていることで、隣接する光電変換層5へ太陽光12がスムーズに入射できる様に設計されている。そして、グリッド電極における太陽光12の入射量は、「開口率」と呼ばれるグリッド電極全面積に占める開口部面積の比率から把握が可能であり、開口率の値が大きなものほど太陽光12の入射量が多くなることを示す。
【0040】
グリッド電極の具体例を図2に模式的に示す。図2は、図1に示す太陽光12の照射方向よりグリッド電極をみたときの形状を示すもので、光電変換層5の受光面上にグリッド電極を配置させた状態を示している。なお、本発明で使用可能なグリッド電極の形状は図2に示すもののみに限定されるものではない。先ず、図2(a)はステンレス製ワイヤ等の線状導電性材料を編み上げて、あるいは織り上げて形成した格子形状のもので、線状導電性材料が縦と横に交差させた形状のものであり、図2(b)と(c)は線状導電性材料を平行に配置させた形状のものである。また、図2(d)〜(f)はステンレス製薄板等の導電性板状材料に複数の穴を規則的に打ち抜いて作製したものである。
【0041】
図2に示す形状の例からも明らかな様に、グリッド電極の開口率は、たとえば、線状導電性材料を用いる場合には線状導電性材料の太さやその配置間隔の制御、板状導電性材料を用いる場合には打ち抜く穴の面積の制御により、所望の値にすることができる。なお、グリッド電極の開口率は、公知の方法により算出可能であり、たとえば、グリッド電極に光を照射してグリッド電極全体及び開口部の投影面積を算出し、これらの投影面積より算出することが可能である。
【0042】
本発明で使用されるグリッド電極の開口率は、70%から90%が好ましく、75%から90%がより好ましい。グリッド電極の開口率が上記範囲のとき、受光面積を広く確保できるので高い光電変換効率が得られるとともに、光電変換領域で形成された電荷が短時間で電極へ到達できる環境になっているので光電変換層では無駄のない効率的な電荷形成が行える。
【0043】
本発明で使用されるグリッド電極に導電性材料として使用されるステンレスについて説明する。前述の様に、本発明に係る光電変換素子を構成する第1電極は、酸洗処理を施したステンレス製のグリッド電極表面に酸化チタン等の化合物を含有する層を設けたものである。
【0044】
本発明に係る光電変換素子の第1電極でグリッド電極として使用されるステンレス(以下、ステンレス鋼ともいう)とは、鉄をベースにクロムやニッケル等を含有させた合金で、鉄成分の含有量が60%から80%の公知のものである。ステンレス鋼は、通常、クロムやニッケル等の添加金属の種類や含有量により様々な種類のものが形成されるもので、この様なステンレス鋼の種類のことを鋼種と呼ぶ。ステンレスは添加されたクロム等の作用でその表面に不動態被膜と呼ばれる酸化被膜を形成する特性を有しており、この酸化被膜はキズ等で表面が破壊されてもすぐに修復する性質を有し、ステンレス鋼に耐腐蝕性を付与するものである。
【0045】
本発明で使用可能なステンレス材料は、特に限定されるものではなく、公知のものを使用することが可能である。ステンレス鋼の具体例としては、たとえば、SUS304やSUS316等があり、SUS304は、クロムを18%、ニッケルを8%含有する鋼種で、SUS316は、SUS304を基にニッケルの含有量を増やし、モリブデンを2〜3%含有させた鋼種である。
【0046】
本発明に係る光電変換素子の第1電極に使用されるステンレス製のグリッド電極は、たとえば、後述する実施例に記載の様に、ステンレスワイヤ等の線状ステンレス鋼を公知の方法で編み上げあるいは織り上げて作製することが可能である。また、ステンレスの薄板に複数の穴を打ち抜いて作製することも可能である。
【0047】
本発明では、上記の方法で作製したステンレス製のグリッド電極に、強酸性薬液の浸漬やペースト状酸性剤の塗布等を行う「酸洗処理」と呼ばれる処理が行われる。
【0048】
ステンレス製品の酸洗処理は、通常、以下の工程を経て行われるものである。先ず、ステンレス製品表面に付着している異物や油分を水洗等により除去する前処理工程がある。次に、前処理工程で異物や油脂分を取り除いたステンレス製品を酸性溶液槽に入れて製品表面を酸性溶液にムラなく接触させることによりステンレス製品表面を溶解させて粗面化する酸洗工程がある。そして、酸洗工程を終えたステンレス製品を水洗し、残留する酸成分を除去する水洗工程を経て、洗浄をすませたステンレス製品を乾燥させて水分の除去を行う乾燥工程がある。
【0049】
なお、酸洗工程は上述の酸性溶液槽へステンレス製品を浸漬する方法の他に、ハケや吹き付け等で酸洗薬剤をステンレス製品上に塗布する方法もある。また、前処理工程では、上記水洗に加えて、油脂類除去のために水酸化ナトリウム水溶液槽への浸漬やアルコール等の有機溶剤を含ませたウェス等での拭き取りを行うこともある。さらに、洗浄工程では、上記水洗に加えて、アルカリ水溶液を用いて中和処理を施すこともある。
【0050】
本発明で用いられるステンレス製のグリッド電極は、光電変換素子としたときに隣接する光電変換層との間で電子の授受を行うものであり、従来の透明電極と同等レベルの電子の授受が行える様にするために、電極構成部材の表面積を大きくする必要があった。そこで、本発明者はグリッド電極を構成する部材表面を粗面化することにより、光電変換層との接触面積を大きくして光電変換層との間での電子の授受を効率よく行える様にしようと考えた。そして、酸洗処理ならばステンレス製部材をメッシュ状に編み上げる等して形成された複雑な形状のグリッド電極表面も処理液でムラなく均一にぬらすことができるので、複雑で微細な形状を有する金属材料表面もムラなく均一に粗面化できるものと考えた。
【0051】
そして、後述する実施例の結果から確認される様に、酸洗処理を施したステンレス製のグリッド電極を用いた光電変換素子が良好な光電変換効率を発現できる様になった。すなわち、グリッド電極表面を粗面化することにより電極の表面積が増大し、電極と光電変換層の接触面積の増大により両者間での電子の授受がスムーズに行える様になるものと考えられる。また、電極の表面積が増大することにより、電極と光電変換層の接着性を向上させて、光電変換素子の耐久性向上にも寄与していると考えられる。
【0052】
本発明で用いられるステンレス製のグリッド電極は、半導電性の化合物を含有する表面層を有するものである。この表面層はグリッド電極に光電変換層と同等の電気伝導性を付与するもので、光電変換層で形成された電子が第1電極に向かってスムーズに移動できるようにしている。この様に、グリッド電極の表面層は、光電変換層で形成された電子を第1電極へ効率よく移動させて、光電変換効率の向上に寄与している。
【0053】
表面層による光電変換効率の向上は、当該表面層に半導電性の化合物を含有することにより実現されるものであり、表面層に含有させる半導電性の化合物は第1電極に隣接する光電変換層に含有される半導体材料と同じものが好ましい。この様に、本発明では第1電極表面に半導電性の化合物を介在させることにより、光電変換層で形成された電子が第1電極へ移動し易くなっているので良好な光電変換効率が発現されるものとみられる。
【0054】
ここで、表面層に含有される「半導電性の化合物」とは、たとえば、入射光量の増大等によりしきい値以上の電荷量が形成されたときに、形成された電荷を移動させる性質、つまり導電性を発現する化合物のことをいうものである。本発明では、表面層に含有される半導電性の化合物として、電子による電荷移動を発現し促進させるN型の半導電性化合物が用いられる。この様に、グリッド電極表面層にN型の半導電性化合物を存在させることにより、光電変換層と第1電極の界面付近における電子の移動が促進され、かつ、光電変換層で形成された正孔は第1電極に向けて移動してこない様にブロックしている。
【0055】
グリッド電極の表面層に含有させて、当該グリッド電極への電子の移動を促進させる半導電性の化合物としては、たとえば、酸化チタンや酸化スズ(SnO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化亜鉛(ZnO)、SrTiOやSiO等の金属酸化物がある。また、TiC、Si、SiC、BN、BN等の金属化合物の使用も可能で、これら金属酸化物や金属化合物を1種類または2種類以上組み合わせて含有させることができる。
【0056】
上記金属酸化物や金属化合物の中でも酸化チタンをグリッド電極の表面層に含有させるものが好ましく、チタンアルコキシド化合物とチタンアルコキシド錯体化合物の少なくともいずれか一方を加熱分解して形成される酸化チタンが特に好ましい。そして、上記金属酸化物や金属化合物は、後述する光電変換層に半導体材料として含有されてもよい。
【0057】
また、グリッド電極に設けられる表面層の平均膜厚は、特に限定されるものではないが、接着性と電子伝導性を両立させる観点から10nm以上200nm以下が好ましい。
【0058】
次に、光電変換層5について説明する。図1に示す光電変換素子1は、前述した酸洗処理を施したステンレス製のグリッド電極3の下方に太陽光等の光エネルギーを電気エネルギーに変換する光電変換層5を有する。光電変換層5は、上面に第1電極3を配置させた受光面5Aを有し、内部に光増感色素を吸着させた半導体材料と呼ばれる半導電性の化合物を含有するものである。光電変換層5の受光面5Aは、前述した第1電極3間に形成されている開口部を通過した光を受ける個所であり、また、受光面5Aを覆う様に配置されている第一電極3との間で電子の授受を行う個所である。
【0059】
光電変換層5における光エネルギーの電気エネルギーへの変換は、以下の様な手順で行われるものである。先ず、第一電極3の開口部を通過した光は光電変換層5に進入し、進入した光が後述する半導体材料と衝突する。半導体材料に衝突した光は、任意の方向に乱反射して光電変換層5内に拡散し、拡散した光が増感色素に接触することにより電子と正孔(ホール)を発生し、発生した電子は第一電極3に向かって移動する。この様な仕組みで、光電変換層5は光エネルギーを電気エネルギーに変換している。
【0060】
光電変換層5の厚さは、特に限定されるものではないが、具体的には0.1μm〜50μm程度が好ましく、より好ましくは0.5μm〜25μm程度、特に好ましくは1μm〜10μm程度である。なお、光電変換層5の厚さは、含有される半導体材料の厚さにほぼ一致するものであり、素子の小型化や製造コストの低減化を実現する観点から層状の形態を有する半導体材料を用いることが好ましい。
【0061】
前述した様に、光電変換層5は光増感色素を吸着させた半導体材料を含有するもので、半導体材料には、たとえば、酸化チタンや酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)に代表されるn型半導体材料が用いられる。これらn型半導体材料の中でも酸化チタンが好ましく用いられ、酸化チタンには、二酸化チタン(TiO)、一酸化チタン(TiO)、三酸化チタン(Ti)等があり、これらの中でも二酸化チタンが特に好ましく用いられる。すなわち、二酸化チタンは、良好な電子輸送性を有する他に、光に対して高い感受性を有しており、二酸化チタン自体が光を受けて直接電子を発生する等、高い光電変換効率が期待できることから特に好ましいとされる。また、二酸化チタンは、安定した結晶構造を有するので、過酷な環境下で光の照射を受け続けても経時による劣化が起こりにくく、所定性能を長期にわたり安定して発現することができる。
【0062】
ところで、二酸化チタンの結晶構造には、アナターゼ型とルチル型があり、光電変換素子用の半導体材料は、アナターゼ型の結晶構造を主とするもの、ルチル型の結晶構造を主とするもの、両者の混合物を主とするもののいずれも使用が可能である。このうち、アナターゼ型の結晶構造を有する二酸化チタンは、効率のよい電子輸送を行うことができる。また、アナターゼ型とルチル型を混合して使用する場合、アナターゼ型のものとルチル型のものの混合比は特に限定されるものではなく、アナターゼ型:ルチル型=95:5〜5:95とすることが可能で、80:20〜20:80とすることが好ましい。
【0063】
また、半導体材料は、衝突した光の乱反射と拡散を促進させて光電変換効率を向上させる観点から、その表面に複数の微細な孔(細孔)を有するものが好ましく、前述の二酸化チタンは表面に細孔を有するので高い光電変換効率を期待することができる。半導体材料の細孔は、たとえば、空孔率と呼ばれる半導体粒子表面の単位面積あたりに占める孔の面積の比率で規定することができる。すなわち、適度な空孔率を有する半導体材料は、光の乱反射と拡散を促進させる他に、細孔による表面積の増大に伴って半導体材料の外面及び細孔の内面に吸着している増感色素の吸着面積も増大しており光電変換効率のさらなる向上が行える。半導体材料の空孔率は、特に限定されるものではないが、たとえば、二酸化チタンの場合、5%〜90%が好ましく、より好ましくは15%〜80%、特に好ましくは25%〜70%である。
【0064】
また、半導体材料の平均粒径は、特に限定されるものではないが、本発明では1nmから1μmのものが好ましく、5nmから50nmのものがより好ましい。半導体材料の平均粒径を上記範囲内にすると、ゾル液を形成したときに半導体材料の均一性を向上させ易くなり、均一性の向上により半導体材料の比表面積が揃い、各半導体材料へ増感色素が同等レベルに吸着するので発電効率の向上に寄与する。
【0065】
さらに、半導体材料は光増感色素を吸着させた構造を有するものであるが、半導体材料と光増感色素との間で形成される吸着は、たとえば、分子間引力や静電引力等の物理的作用、あるいは、共有結合や配位結合等の化学結合により実現されるものである。光増感色素は、受光により電子と正孔(ホール)を発生するもので、光電変換層5内で光エネルギーを電気エネルギーに実際に変換するものである。すなわち、光電変換層5において、光増感色素が存在している領域が電子と正孔を発生する受光領域として機能する場であり、前述した様に、光増感色素は半導体材料の外面や孔内面に沿って吸着している。そして、光増感色素により発生した電子は、光増感色素と結合している半導体材料に移動し、半導体材料より第1電極3に向かって移動する。
【0066】
光増感色素の半導体材料への吸着量は、特に限定されるものではないが、たとえば、二酸化チタンの場合、光電変換層1mあたり0.01〜100ミリモルが好ましく、より好ましくは0.1〜50ミリモル、特に好ましくは0.5〜20ミリモルである。なお、半導体材料へ吸着可能な光増感色素の具体的な化合物例は後述する。
【0067】
次に、正孔輸送層6について説明する。正孔輸送層6は、光電変換層5に隣接して層状に形成されている。正孔輸送層6は、芳香族アミン化合物等の正孔輸送物質により、光電変換層5で発生した正孔(ホール)が注入され、後述する第2電極を介して外部回路に向けて輸送するものである。また、正孔輸送層6自体が第2電極として機能するものもある。正孔輸送層6の平均厚さは、特に限定されるものではないが、たとえば、0.1〜100μmが好ましく、より好ましくは0.5〜50μm、特に好ましくは1〜20μmである。なお、正孔輸送層に含有可能な正孔輸送物質の具体的な化合物例は後述する。
【0068】
次に、第2電極4について説明する。第2電極4は、正孔輸送層6に隣接して層状(平板状)に形成され、その平均厚さは材料や用途等により適宜設定され、特に限定されるものではない。第2電極4は、公知の導電性材料や半導電性材料を用いて形成することが可能である。導電性材料としては、たとえば、各種イオン導電性材料や、アルミニウム、ニッケル、コバルト、白金、銀、金、銅、モリブデン、チタン、タンタル等の金属またはこれらを含む合金、あるいは、黒鉛等の各種炭素材料等が挙げられる。また、半導電性材料としては、たとえば、トリフェニルジアミン(モノマー、ポリマー等)、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、フタロシアニン化合物(たとえば、銅フタロシアニン等)等またはこれらの誘導体等のp型半導体材料が挙げられる。これら導電性材料や半導電性材料を1種または2種以上組み合わせて第2電極4を形成することが可能である。
【0069】
なお、図1に示す様に、本発明に係る光電変換素子は、上述した第1電極3、光電変換層5、正孔輸送層6及び第2電極4を支持する平板状の形態を有する透明な基体8を使用することが可能である。基体の具体例としては、たとえば、石英やガラス等の透明無機材料や以下に示す公知の透明樹脂材料が挙げられる。
【0070】
透明樹脂材料の具体例としては、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリイミド(PI)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、トリメチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリアミドイミド、シクロオレフィン重合体、スチレンブタジエン共重合体等がある。上記透明樹脂材料の中でもポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリイミド(PI)等は可撓性を有するものが市販され、フレキシブルな光電変換素子を作製する上で好ましい。
【0071】
また、基体の厚さは材料や用途等により適宜設定が可能で、たとえば、ガラス等の透明無機材料の様な硬質材料で構成する場合、その平均厚さは0.1mm〜1.5mmが好ましく、0.8mm〜1.2mmがより好ましい。また、透明樹脂材料を使用する場合も前記透明無機材料と同じ平均厚さとしてもよいが、可撓性を有する透明樹脂材料を使用する場合は0.5〜150μmが好ましく、10〜75μmがより好ましい。
【0072】
次に、光電変換層5に含有される半導体材料に吸着させる光増感色素について説明する。図1に示す光電変換素子1を構成する光電変換層5は、前述した様に、光増感色素を吸着させた半導体材料を含有するものである。光電変換層5に含有される半導体材料に吸着可能な光増感色素は、特に限定されるものではなく、公知の顔料や染料を単独または混合して使用する。これら光増感色素のうち、顔料は経時的変質や劣化が少ない耐久性の面でのメリットを有するものであり、染料は半導体材料に良好な吸着性を発現するというメリットを有するものである。
【0073】
光増感色素として使用可能な顔料には、たとえば、以下に挙げる様な有機顔料や炭素系顔料、公知の無機顔料が挙げられる。このうち、有機顔料としては、たとえば、以下に示す様なフタロシアニン系顔料やアゾ系顔料、アントラキノン系顔料、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料等がある。
【0074】
ここで、フタロシアニン系顔料の具体例としては、たとえば、フタロシアニングリーン、フタロシアニンブルー等がある。また、アゾ系顔料の具体例としては、たとえば、ファストイエロー、ジスアゾイエロー、縮合アゾイエロー、ペンゾイミダゾロンイエロー、ジニトロアニリンオレンジ、ペンズイミダゾロンオレンジ、トルイジンレッド、パーマネントカーミン、パーマネントレッド、ナフトールレッド、縮合アゾレッド、ベンズイミダゾロンカーミン、ベンズイミダゾロンブラウン等がある。
【0075】
また、アントラキノン系顔料の具体例としては、たとえば、アントラピリミジンイエローやアントラキノニルレッド等がある。また、キナクリドン系顔料の具体例としては、たとえば、キナクリドンマゼンタ、キナクリドンマルーン、キナクリドンスカーレット、キナクリドンレッド等があり、ペリレン系顔料の具体例としては、たとえば、ペリレンレッドやペリレンマルーン等がある。
【0076】
さらに、上記有機顔料の他にも、光増感色素として使用可能な有機顔料としては、たとえば、銅アゾメチンイエロー等のアゾメチン系顔料、キノフタロンイエロー等のキノフタロン系顔料、イソインドリンイエロー等のイソインドリン系顔料、ニッケルジオキシムイエロー等のニトロソ系顔料、ペリノンオレンジ等のペリノン系顔料、ジケトピロロピロールレッド等のピロロピロール系顔料、ジオキサジンバイオレット等のジオキサジン系顔料等がある。また、炭素系顔料には、カーボンブラック、ランプブラック、ファーネスブラック、アイボリーブラック、黒鉛、フラーレン等がある。
【0077】
また、光増感色素として使用可能な染料としては、たとえば、RuL(SCN)、RuLCl、RuL(CN)、Rutenium535−bisTBA(Solaronics社製)、〔Ru(NCS)O等の金属錯体色素が挙げられる。なお、前記金属錯体色素の組成式中のLは、2,2’−bipyridine、または、その誘導体を表すものである。前述の前記金属錯体色素の他にも、シアン系色素、キサンテン系色素、アゾ系色素、ハイビスカス色素、ブラックベリー色素、ラズベリー色素、ザクロ果汁色素、クロロフィル色素等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて使用することが可能である。
【0078】
これら光増感色素の二酸化チタン等の半導体材料への総担持量は、特に限定されるものではないが、光電変換層1mあたり0.01〜100ミリモルが好ましく、0.1〜50ミリモルがより好ましく、0.5〜20ミリモルが特に好ましい。
【0079】
次に、前述した正孔輸送層6に含有される正孔輸送物質の具体例について説明する。本発明に係る光電変換素子を構成する正孔輸送層は、芳香族アミン化合物等に代表される正孔輸送物質として含有するものである。前述した様に、正孔輸送層6では、正孔輸送物質により光電変換層5で発生した正孔(ホール)が捕捉され、捕捉された正孔は第2電極を介して外部回路に向けて輸送されるものである。
【0080】
本発明に係る光電変換素子を構成する正孔輸送層に添加可能な正孔輸送物質は、光電変換層で発生した正孔(ホール)を輸送することが可能な化合物であれば特に限定されるものではなく、公知のものを使用することが可能である。正孔を輸送する性質を有する化合物の中でも、芳香族アミン化合物は以下の理由で好ましく用いられている。すなわち、光増感色素化合物を担持させた半導体材料により光電変換層における光電変換効率が向上した光電変換素子では、より多くの正孔が発生する環境になっており、芳香族アミン化合物はこの様な環境下で形成された全ての正孔を確実に輸送することができる。この様に、芳香族アミン化合物を正孔輸送物質に用いると、発生した正孔を正孔輸送層へもれなく輸送し、良好な光電変換効率を安定的に維持することができるので好ましい。
【0081】
正孔輸送物質として使用される芳香族アミン化合物の中でも、分子量が500以上2000以下のものがより好ましく用いられる。上記範囲の分子量を有する芳香族アミン化合物を正孔輸送物質に用いると、固体膜で形成された正孔輸送層が得られるので、電解液の漏洩や揮発を起こさない耐久性に優れた光電変換素子が形成されるものと考えられる。また、前記範囲の分子量を有する芳香族アミン化合物は、光電変換層内部へ浸透し易い性質を有するので、浸透による電荷輸送性能の向上にも寄与するものと考えられる。
【0082】
正孔輸送物質に使用可能な芳香族アミン化合物の具体例としては、たとえば、以下に示すものが挙げられる。なお、具体的な化合物名の後のかっこ内には、当該化合物が開示されている文献名を記載しておく。すなわち、
N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(4−メトキシフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(J.Hagen et al.,Synthetic Metal 89(1997)215−220)
2,2’,7,7’−テトラキス(N,N−ジ−p−メトキシフェニルアミン)9,9’−スピロビフルオレン(Nature,Vol.395、8 Oct.1998,p583−585及びWO97/10617)
1,1−ビス〔4−(ジ−p−トリルアミノ)フェニル〕シクロヘキサンの3級芳香族アミンユニットを連結させた構造の芳香族ジアミン化合物(特開昭59−194393号公報)
4,4−ビス〔(N−1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニルに代表される3級アミンを形成する窒素原子を2個以上含有し、当該窒素原子に2個以上の縮合芳香族環が結合した構造の芳香族アミン化合物(特開平5−234681号公報)
トリフェニルベンゼンの誘導体であるスターバースト構造を有する芳香族トリアミン化合物(米国特許第4,923,774号、特開平4−308688号公報)
N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン等の芳香族ジアミン化合物(米国特許第4,764,625号)
α,α,α’,α’−テトラメチル−α,α’−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−p−キシレン(特開平3−269084号公報)
p−フェニレンジアミン誘導体
分子全体として立体的に非対称なトリフェニルアミン誘導体(特開平4−129271号公報)
ピレニル基に芳香族ジアミノ基を複数個置換させた構造の芳香族アミン化合物(特開平4−175395号公報)
3級芳香族アミンユニットをエチレン基で連結させた構造を有する芳香族ジアミン化合物(特開平4−264189号公報)
スチリル構造を有する芳香族ジアミン化合物(特開平4−290851号公報)
ベンジルフェニル化合物(特開平4−364153号公報)
フルオレン基で3級アミンを連結させた構造の芳香族アミン化合物(特開平5−25473号公報)
トリアミン化合物(特開平5−239455号公報)
ピスジピリジルアミノビフェニル(特開平5−320634号公報)
N,N,N−トリフェニルアミン誘導体(特開平6−1972号公報)
フェノキザジン構造を有する芳香族ジアミン(特開平7−138562号公報)
ジアミノフエニルフエナントリジン誘導体(特開平7−252474号公報)等。
【0083】
また、以下に示すチオフェン化合物も正孔輸送物質として使用することができる。すなわち、α−オクチルチオフェン及びα,ω−ジヘキシル−α−オクチルチオフェン(Adv.Mater.1997,9No.7,p557)、ヘキサドデシルドデシチオフェン(Angew.Chem.Int.Ed.Engl.1995,34,No.3,p303−307)、2,8−ジヘキシルアンスラ〔2,3−b:6,7−b’〕ジチオフェン(JACS,Vol120,No.4,1998,p664−672)等のオリゴチオフェン化合物等がある。
【0084】
また、以下に示す導電性高分子も正孔輸送物質として使用することができる。すなわち、ポリピロール(K.Murakoshi et al.,Chem.1997,p471)、Handbook of Organic Conductive Molecules and Polymers Vol.1,2,3,4(NALWA著、WILEY出版)に記載のポリアセチレン及びその誘導体、ポリ(p−フェニレン)及びその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)及びその誘導体、ポリチエニレンビニレン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリアニリン及びその誘導体、ポリトルイジン及びその誘導体等がある。
【0085】
さらに、有機の正孔輸送物質に対して、Nature,Vol.395、8 Oct.1998,p583−585に記載の様に、ドーパントレベルをコントロールするためにトリス(4−ブロモフェニル)アルミニウムヘキサクロロアンチモネートの様なカチオンラジカルを含有する化合物を添加することや、酸化物半導体表面のポテンシャル制御を行うためにLi〔(CFSON〕の様な塩を添加することも可能である。
【0086】
次に、本発明に係る光電変換素子の製造方法について説明する。本発明に係る光電変換素子の製造方法は、たとえば、以下に示す〔1〕〜〔6〕の工程を少なくとも有する製造方法が代表的なものである。すなわち、
〔1〕第1電極(グリッド電極)の作製
〔2〕グリッド電極の酸洗処理
〔3〕グリッド電極への表面層の形成
〔4〕光電変換層の形成
〔5〕正孔輸送層の形成
〔6〕第2電極の形成
以下、〔1〕から〔6〕の工程を順次説明するが、本発明に係る光電変換素子の製造方法は、以下の工程を有するもののみに限定されるものではない。
【0087】
〔1〕第1電極(グリッド電極)の作製
第1電極(グリッド電極)の作製方法には、ステンレス製のワイヤを編み上げ、あるいは、織り上げて網目状に形成して太陽光が通過する領域(開口部)を形成する方法やステンレス製の板状部材を打ち抜いて穴を開けて開口部に形成する方法がある。
【0088】
〔2〕グリッド電極の酸洗処理
次に、上記方法により太陽光を通過させる開口部を設けたステンレス材料(グリッド電極)に酸洗処理を施す。グリッド電極への酸洗処理は、ステンレス材料に通常実施される公知の酸洗処理を適用することが可能である。酸洗処理に使用する液は、具体的には、後述する実施例に記載のフッ酸、塩素酸ナトリウム、塩酸を混合させた溶液やフッ酸、塩素酸ナトリウム、硫酸を混合させた溶液、あるいは、硝フッ酸と呼ばれる硝酸(HNO)とフッ酸(フッ化水素HF)の混合液がある。また、市販の酸洗用の処理液を使用することも可能で、たとえば、「ラスノンウエルP−500(萬商(株)製)」や「クールミンES(クールミン化学工業(株)製)」等がある。
【0089】
酸洗処理は、処理液の温度を室温から60℃の範囲にして行うことが可能で、処理を効率的に行う観点から35℃から45℃で行うことが好ましい。また、処理時間は1分から20分が好ましく、ステンレス製のワイヤあるいは薄い板材という材質の観点から10分前後が好ましい。
【0090】
さらに、処理方法には、処理液の入った槽内にグリッド電極を浸漬する方法(浸漬法)の他、グリッド電極に処理液をハケで塗布する方法や、スプレーノズルやエアポンプを用いてミスト状にした処理液を吹き付ける方法(吹付法)等がある。なお、浸漬法では酸洗処理を行う際にグリッド電極を入れる槽にエアレーションやポンプ循環を併用することも可能である。
【0091】
〔3〕グリッド電極への表面層の形成
次に、酸洗処理を施したグリッド電極に表面層を形成する。表面層の形成は、たとえば、ゾル・ゲル法、蒸着(真空蒸着)法、スパッタリング法(高周波スパッタリング、DCスパッタリング)、スプレー熱分解法、ジェットモールド(プラズマ溶射)法、CVD法等の公知の方法で行うことができる。上記の方法の中でも、「ゾル・ゲル法」は以下の手順で表面層を形成するもので、大きな装置を用いることなく簡便に表面層の形成が行えることから好ましい。ゾル・ゲル法では、先ず、表面層に含有される半導電性化合物のゾル液を作製し、作製したゾル液をディッピング(浸漬塗布)や滴下、ドクターブレード、スピンコート、刷毛塗り、スプレー塗装、ロールコータ等の公知の塗布方法でグリッド電極へ塗布する。そして、塗布が行われたグリッド電極を加熱、焼成することにより表面層を形成する。
【0092】
前述した様に、表面層は、光電変換層で形成された電子を効率よくグリッド電極へ移動させる酸化チタン等の半導電性化合物を含有するものである。以下、代表的な半導電性化合物の1つである酸化チタンを含有する表面層をゾル・ゲル法で形成する方法について説明する。
【0093】
ところで、酸化チタンを含有する表面層を形成する際に使用されるゾル液は、たとえば、チタンアルコキシド化合物やチタンアルコキシド錯体化合物等の酸化チタン形成化合物を含有するものである。そして、ゾル・ゲル法には、加水分解や重縮合による酸化チタン形成反応が許容されるゾル液を使用する方法と、酸化チタン形成反応を許容しない様に対処したゾル液を用いる方法がある。
【0094】
酸化チタン形成反応を許容しない様に対処したゾル液を用いる方法の1つに、「MOD法(Metal Organic Deposition法あるいはMetal Organic Decomposition法)」と呼ばれる方法がある。「MOD法」は、金属有機化合物を有機溶媒に溶解させ、この溶液をゾル液としてグリッド電極に塗布し、これを加熱処理して有機成分を燃焼除去することで、酸化チタン等の金属酸化物を成膜状に形成する方法である。すなわち、ゾル液中では酸化チタン形成化合物の反応性を抑制し、グリッド電極表面へ塗布後に行われる加熱、焼成により酸化チタン形成化合物が酸化チタンになるもので、緻密な構造の表面層を形成する上で好ましい方法である。
【0095】
「MOD法」による表面層形成で使用されるゾル液は、酸化チタン形成化合物として、チタンアルコキシド化合物に代表される有機チタン化合物を1種または2種以上含有するものである。チタンアルコキシド化合物の具体例としては、たとえば、チタンテトライソプロポキシド(TPT)、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラブトキシド等がある。また、有機チタン化合物には、上記のチタンアルコキシド化合物の他にチタンオキシアセチルアセトナート(TOA)等の化合物もある。さらに、ゾル液の作製には、上記有機チタン化合物の他に四塩化チタン(TTC)等の無機チタン化合物を使用することも可能である。
【0096】
以下、「MOD法」による表面層形成方法の具体例として、酸化チタン形成化合物にチタンアルコキシド化合物を用いてゾル液を形成し、当該ゾル液により表面層の形成を行う方法について説明する。「MOD法」による酸洗処理したステンレス製グリッド電極への表面層形成は、少なくとも、(1)ゾル液の作製、(2)ゾル液のグリッド電極への塗布、(3)塗布層の焼成処理、の3つの工程を経て行われるものである。ここで、(1)〜(3)の各工程について説明する。
【0097】
(1)ゾル液の作製
この工程は、酸洗処理したステンレス製グリッド電極へ塗布する酸化チタン形成化合物を含有するゾル液を作製する工程である。酸化チタン形成化合物としてチタンアルコキシド化合物を用いる場合、先ず、チタンアルコキシド化合物を有機溶媒に溶解させて溶液を作製する。この様に形成したチタンアルコキシド化合物単体の溶液をグリッド電極表面へ塗布し、加熱処理を施して酸化チタンを形成することが可能である。
【0098】
チタンアルコキシド化合物を溶解させる有機溶媒は、チタンアルコキシド化合物を溶解可能なものであればよく、たとえば、無水エタノール、2−ブタノール、2−プロパノール、2−n−ブトキシエタノール、2−エトキシエタノール等がある。これらの有機溶媒を単独、あるいは、複数種類用いた混合溶媒にしてチタンアルコキシド化合物を溶解させる。なお、ゾル液の形成に使用されるチタンアルコキシド化合物は、1種類であってもまた2種類以上を組み合わせたものであってもよい。
【0099】
チタンアルコキシド化合物溶液のチタンアルコキシド化合物の濃度は、特に限定されるものではないが、たとえば、0.1モル/リットル〜10モル/リットルにすることで電極へのスムーズな塗布が行える粘度が得られるので好ましい。すなわち、後述する塗布工程でグリッド電極への塗布を浸漬塗布法で行う場合には、当該塗布法で最適粘度とされる0.5cP〜20cP(常温)となる様にチタンアルコキシド化合物の添加量を調製する。また、浸漬塗布法で塗布を行う場合には、当該塗布法で最適粘度とされる0.1cP〜2cP(常温)となる様にチタンアルコキシド化合物の添加量を調製する。
【0100】
また、チタンアルコキシド化合物を有機溶媒に溶解させた前述の溶液へ、アセチルアセトンやジエタノールアミン等のチタンアルコキシド化合物を安定化させる化合物を添加してゾル液を作製する方法もある。上記チタンアルコキシド化合物の溶液へアセチルアセトン等の化合物を添加してチタンアルコキシド化合物を安定化させる方法について説明する。チタンアルコキシド化合物を安定化させる化合物(以下、安定化化合物ともいう)には、たとえば、酢酸、アセチルアセトン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン等がある。これら化合物は、チタンアルコキシド化合物中でチタン原子と配位しているアルコキシル基にかわってチタン原子と配位して錯体を形成するもので、この錯体形成によりチタンアルコキシド化合物の加水分解が抑制されて安定化するものと考えられる。
【0101】
たとえば、溶液中にジエタノールアミンを添加すると、チタンアルコキシド化合物中のアルコキシル基はジエタノールアミンに置換され、チタン原子にはジエタノールアミン2分子が配位する。そして、ジエタノールアミンが配位して形成された錯体は、酸化チタンを形成する上でチタンアルコキシド化合物よりも安定した化合物になる。溶液中での安定化化合物とチタンアルコキシド化合物の配合比は、特に限定されるものではないが、たとえば、モル比で1:2から8:1の範囲にすることが好ましい。
【0102】
以上の手順により、チタンアルコキシド化合物のゾル液を作製することができる。なお、チタンオキシアセチルアセトナート等の安定な有機チタン化合物や四塩化チタン等の無機チタン化合物を用いてゾル液を作製する場合は、これらを上記有機溶媒にそのまま溶解させることでゾル液を作製することができる。たとえば、無機チタン化合物を用いる場合では、無機チタン化合物を溶解した有機溶媒がチタン原子に配位して安定化を実現する。
【0103】
(2)ゾル液のグリッド電極への塗布
この工程は、上記手順で作製したゾル液を酸洗処理したステンレス製のグリッド電極へ塗布する工程である。ステンレス製グリッド電極への前記ゾル液の塗布は、前述した塗布方法を用いて行うことが可能で、たとえば、スピンコート法で塗布を行う場合、前述した粘度に調製したゾル液を用い、塗布装置の回転数を500rpmから4000rpmに設定して行うことができる。なお、ゾル液の塗布を行う前に公知の方法でグリッド電極表面より有機物等の付着物を除去しておくことが好ましい。有機物等の付着物の除去方法としては、たとえば、Oプラズマ処理やEB(電子線)処理、エタノールやアセトン等による洗浄処理等が挙げられる。
【0104】
(3)焼成処理
この工程は、グリッド電極を加熱して前記塗布工程でグリッド電極表面に形成された塗膜より有機溶媒を除去するとともに、酸化チタンを生成して表面層を形成する工程である。具体的には、最初に50℃から250℃の温度で1分から60分の加熱を行って主に塗膜の乾燥を行い、続いて、300℃から700℃の温度で1分から70分の加熱を行って塗膜中に残存有機溶媒の除去と二酸化チタンを含有する表面層を形成するものである。この加熱処理は、大気中あるいは窒素ガスや各種不活性ガスの雰囲気下、あるいは、真空や減圧状態下といった非酸化性雰囲気下で行うことが好ましい。なお、最初の「50℃から250℃の温度で1分から60分行う加熱処理」は、100℃から200℃の温度で5分から30分行うことが好ましい。また、続いて行われる「300℃から700℃の温度で1分から70分行う加熱処理」は、400℃から550℃の温度で5分から45分行うことが好ましい。
【0105】
以上の操作を経て、酸洗処理したステンレス製のグリッド電極に半導体化合物を含有する表面層が形成される。
【0106】
〔4〕光電変換層の形成
次に、表面層を形成した第1電極に隣接させて光電変換層の形成を行う。光電変換層の形成は、以下に示す様に、少なくとも、光電変換層を構成する半導体材料を形成する工程、形成した半導体材料を第1電極面へ塗布して光電変換層を形成する工程、形成した光電変換層に増感色素を吸着する工程を経て行われるものである。
【0107】
先ず、「光電変換層を構成する半導体材料を形成する工程」について説明する。半導体材料は、たとえば、ゾル・ゲル法、蒸着法、スパッタリング法等の公知の方法により形成可能でこの中でもゾル・ゲル法が好ましい。その理由は、以下に示す様に、半導体材料をゾル液にすると、表面が多孔質の半導体材料を形成し易いことによる。
【0108】
ここで、半導体材料の具体的な形成方法の一例として、酸化チタン化合物と二酸化チタン粉末を含有するゾル液を作製して、半導体材料を形成する方法を説明する。
【0109】
(1)酸化チタン粉末の調製
ルチル型の二酸化チタン粉末とアナターゼ型の二酸化チタン粉末とを所定の配合比になる様に混合する。ルチル型の二酸化チタン粉末の平均粒径とアナターゼ型二酸化チタン粉末の平均粒径はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、特に両者が異なっている方が好ましい。
【0110】
(2)ゾル液の調製
ゾル液の調製は、たとえば、下記(a)〜(d)の手順を経て行われるが、これに限定されるものではない。すなわち、
(a)チタン化合物溶液の調製
先ず、公知の有機チタン化合物や公知の無機チタン化合物を1種類または2種類以上組み合わせたものを有機溶媒に溶解させて、前記チタン化合物の溶液を調製する。このとき、有機溶媒中の前記チタン化合物濃度(含有量)は、特に限定されるものではないが、たとえば、0.1〜3.0モル/リットルとするのが好ましい。
【0111】
ここで使用される有機チタン化合物は、前述のグリッド電極上への表面層形成の説明で挙げたチタンテトライソプロポキシド(TPT)等のチタンアルコキシド化合物やチタンオキシアセチルアセトナート(TOA)等がある。また、無機チタン化合物も前述した四塩化チタン(TTC)等が挙げられる。また、チタン化合物を溶解させる有機溶媒は、前述のグリッド電極上への表面層形成の説明で挙げた無水エタノール等の有機溶媒や前述の有機溶媒の混合溶媒を使用することが可能である。
【0112】
また、グリッド電極上への表面層を形成するときと同様、上記溶液中に前記チタン化合物を安定化させる化合物を添加することも可能である。溶液中のチタン化合物を安定化させる化合物としては、たとえば、チタンアルコキシドを含有させた場合、酢酸やアセチルアセトン、硝酸等を添加することが好ましく、これらによりチタンアルコキシドを化学的に安定化させる。これら安定化化合物とチタン化合物の配合比は、グリッド電極上へ表面層を形成するときと同様、モル比で1:2〜8:1とすることが好ましい。
(b)チタン溶液中への水の添加
上記チタン化合物溶液中に、蒸留水や超純水、イオン交換水等の水を添加、混合するもので、水とチタン化合物の配合比はモル比で1:4〜4:1とすることが好ましい。
(c)二酸化チタン粉末の添加
上記水を添加したチタン化合物溶液中に、前記工程(1)の工程で調製した二酸化チタン粉末を添加、混合して懸濁液(分散液)を作製する。
(d)ゾル液の調製
上記二酸化チタン粉末を添加、混合して作製した懸濁液(分散液)を、(a)で使用した有機溶媒で希釈してゾル液を調製する。ゾル液を調製する際、有機溶媒による希釈率は、たとえば、1.2〜3.5倍程度が好ましく、二酸化チタン粉末の含有量は、たとえば、0.1〜10質量%が好ましく、0.5〜5質量%がより好ましい。有機溶媒による希釈率と二酸化チタン粉末の含有量を上記範囲にすることにより、適度な空孔率を有する多孔質の二酸化チタンの半導体材料が形成される。
【0113】
次に、形成した半導体材料を第1電極へ面状に塗布して光電変換層を形成する工程について説明する。この工程は上記手順で作製した多孔質の半導体材料のゾル液を公知の塗布方法で第1電極に直接塗布する工程である。第1電極へのゾル液塗布方法の具体例としては、たとえば、ディッピング法、滴下法、ドクターブレード法、スピンコート法、刷毛塗り法、スプレー塗布法、ロールコータ法等がある。
【0114】
前述した公知の塗布方法により第1電極へゾル液を塗布した後、たとえば、80℃〜180℃、好ましくは100℃〜160℃に加熱処理して塗膜を形成する。そして、加熱処理を行った後、形成した塗膜に再びゾル液を塗布し、これを加熱処理して塗膜を成長させる。この様な塗布処理と加熱処理を、たとえば、1回から10回、好ましくは5回から7回繰り返し行うことにより、第1電極に隣接させて光電変換層を形成することができる。
【0115】
次に、「形成した光電変換層に増感色素を吸着する工程」について説明する。この工程は、上記手順で形成した光電変換層を構成する半導体材料に前述した光増感色素を含有する液に接触させ、当該半導体材料の外表面や孔に光増感色素を吸着、結合させる工程である。具体的には、第1電極と光電変換層より構成される積層体を光増感色素含有液に浸漬させると、光電変換層を構成する半導体材料の外表面や孔内面に沿って光増感色素が吸着し、半導体材料に光増感色素を結合させることになる。ここで、光増感色素含有液とは、たとえば、光増感色素を溶媒に溶解させた溶液の他に、光増感色素を溶媒中に分散させた懸濁液等の分散液も含むもので、光増感色素を半導体材料へ吸着、結合させることが可能な性質を有する液のことである。
【0116】
光増感色素含有液に使用可能な溶媒は、特に限定されるものではないが、たとえば、蒸留水やイオン交換水等の水の他に、アルコールやエーテル等の有機溶媒が挙げられる。アルコールの具体例としては、たとえば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等があり、エーテルの具体例としては、たとえば、メチルエチルエーテル、ジエチルエーテル等がある。また、アセトニトリルや酢酸エチル、N−メチルピロリドン等も使用可能である。
【0117】
上記の様に、積層体を光増感色素含有液中へ浸漬した後、積層体を液中より取り出し、自然乾燥、あるいは空気や窒素ガス等の気体吹き付けを行って溶媒を除去する。さらに、必要に応じて、たとえば、60℃〜100℃の温度で30分〜2時間乾燥処理を施し、溶媒を除去することも可能である。これら溶媒除去処理により、光電変換層を構成する半導体材料に光増感色素をより強固に吸着、結合させる。
【0118】
〔5〕正孔輸送層の形成
正孔輸送層は、たとえば、光電変換層面に前述した芳香族アミン化合物に代表される正孔輸送材料を公知の方法で塗布することにより形成される。正孔輸送層の形成に使用可能な塗布方法は、前述した光電変換層の形成で述べた公知の塗布方法が挙げられる。具体的には、ディッピング法、滴下法、ドクターブレード法、スピンコート法、刷毛塗り法、スプレー塗布法、ロールコータ法等がある。これら公知の塗布方法により光電変換層に正孔輸送層を浸透させて形成することが可能である。
【0119】
また、上記方法で形成した正孔輸送層に、たとえば、減圧下、不活性雰囲気下等で熱処理を施すことも可能である。熱処理を施すことにより、正孔輸送層内の残留溶媒が効率よく除去され、正孔輸送層の作製が迅速化されるので光電変換素子の生産効率を向上させる。熱処理を行う際の加熱温度は、たとえば、50℃〜150℃が好ましい。そして、上述した塗布と熱処理を繰り返し行うことにより、積層型の正孔輸送層の形成が可能である。
【0120】
正孔輸送層の形成に使用可能な溶媒は、以下に挙げる極性溶媒や非プロトン系溶媒の有機溶媒が挙げられる。極性溶媒としては、たとえば、テトラヒドロフラン(THF)、ブチレンオキサイド、シクロヘキサノン、アセトン、各種アルコール等がある。また、非プロトン系溶媒としては、たとえば、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル、ジメトキシエタン、ジメチルスルフォキシド、ヘキサメチルリン酸トリアミド等がある。これら有機溶媒のうちの1種または2種以上を組み合わせて使用することが可能である。
【0121】
〔6〕第2電極の形成
第2電極は、正孔輸送層面に隣接させて形成される。第2電極は、たとえば、金等で構成される材料を用い、たとえば、蒸着法、スパッタリング法、印刷法等の公知の方法により、正孔輸送層面に隣接させて形成することが可能である。
【0122】
以上の工程を経て、本発明に係る光電変換素子を作製することが可能である。
【実施例】
【0123】
以下、実施例を挙げて本発明の実施態様を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0124】
1.「光電変換素子1〜12」の作製
1−1.「光電変換素子1」の作製
(1)第1電極(グリッド電極)の形成
直径30μmの線状SUS316鋼(市販品)を、公知の方法により図2(a)に示す形状に編み上げて、開口率85%のステンレス製のグリッド電極を作製した。
【0125】
(2)グリッド電極の酸洗処理
次に、上記ステンレス製のグリッド電極を、フッ酸(HF)2%、塩素酸ナトリウム5%、塩酸5%の酸性混合溶液を入れた槽へ投入し、温度40℃で10分間浸漬処理した後、当該グリッド電極を水洗処理した。
【0126】
(3)表面層の形成
先ず、上記酸洗処理を行ったグリッド電極に塗布する塗布液を作製した。酸化チタン形成化合物であるチタンテトライソプロポキシドを濃度0.5モル/リットルとなる様に2−(n−ブトキシ)エタノールへ投入し溶解させた。続いて、チタンテトライソプロポキシドとの配合比がモル比で2:1となる様にジエタノールアミンを添加し塗布液を調製した。
【0127】
次に、上記塗布液を上記第1電極上へ浸漬塗布することにより表面層を形成し、表面層を形成した第1電極をホットプレート上に載置して120℃で3分間熱処理して表面層を乾燥させ、さらに、450℃で20分間、オーブン内で熱処理を行った。なお、前記浸漬塗布は、塗布速度1mm/secに設定して引き上げを行ったものである。この様にして、第1電極表面に酸化チタンを含有する表面層を形成した。
【0128】
(4)光電変換層の形成
次に、下記手順により、前記表面層を有する第1電極に隣接させて酸化チタンを含有する光電変換層を形成した。
【0129】
(酸化チタン粉末の調製)
ルチル型二酸化チタン粉末とアナターゼ型二酸化チタン粉末の混合物からなる二酸化チタン粉末を用意した。なお、二酸化チタン粉末の平均粒径は40nmであり、ルチル型二酸化チタン粉末とアナターゼ型二酸化チタン粉末の混合比は質量比で60:40とした。
【0130】
(ゾル液の調製)
先ず、チタンテトライソプロポキシドを濃度1モル/リットルとなる様に2−プロパノールへ溶解させた後、チタンテトライソプロポキシドに対してモル比で1:1となる様に当該溶液へ酢酸を添加した。続いて、当該溶液にチタンテトライソプロポキシドに対してモル比で1:1となる様に蒸留水を添加した。
【0131】
次に、上記溶液へ前述の酸化チタン粉末を添加して懸濁液を作製し、この懸濁液を2−プロパノールで2倍に希釈してゾル液を調製した。なお、上記酸化チタン粉末の上記溶液への添加量は、ゾル液にしたときの濃度が3質量%となる様に添加した。
【0132】
(光電変換層の形成)
前述の表面層を有する第1電極を140℃に加熱したホットプレート上に載置し、当該第1電極上に上記ゾル液を滴下法により塗布した後、乾燥処理を行った。この処理を3回繰り返し行って、平均厚さ30μmの酸化チタンを含有する光電変換層を前記第1電極に隣接させて形成し、さらに、厚さ75μmの市販の可撓性PEN(ポリエチレンナフタレート)樹脂を第1電極の光電変換層が形成された側と逆側に接合させた。この様にして、基板、グリッド構造の第1電極、光電変換層を有する積層体を形成した。
【0133】
(光増感色素の吸着)
次に、光増感色素であるRutenium535−bisTBA(Solaronics社製)をアセトニトリル/t−ブタノール混合溶液(質量比1:1)に飽和状態になるまで溶解させた溶液を予め用意しておき、当該溶液中に前記積層体を浸漬させた。その後、当該溶液より前記積層体を取り出して自然乾燥を行い、アセトニトリルとt−ブタノールを揮発させ、さらに、80℃に加熱したクリーンオーブン中で30分間乾燥処理を行った。この様にして、光電変換層に含有される二酸化チタンの外面と孔の内面に沿って上記光増感色素を吸着、結合させた。
【0134】
(5)正孔輸送層の形成
次に、正孔輸送物質である芳香族アミン化合物(2,2’,7,7’−テトラキス(N,N−ジ−p−メトキシフェニルアミン)9,9’−スピロビフルオレン)をテトラヒドロフランに溶解させた正孔輸送層形成用塗布液を予め調製しておく。そして、当該正孔輸送層形成用塗布液を、前述した光増感色素を吸着、結合させた光電変換層の上面にスピンコート法により塗布を行い、10分間真空乾燥処理を行うことにより、テトラヒドロフランを除去して正孔輸送層を形成した。なお、前記正孔輸送層形成用塗布液の塗布は、スピンコートの回転数を500rpmに設定して行った。
【0135】
(6)第2電極の形成
次に、上記手順で形成した正孔輸送層の上面に、蒸着法で金(Au)の膜を形成することにより第2電極を作製した。以上の手順で、可撓性PEN(ポリエチレンナフタレート)基体、表面層を有するグリッド構造の第1電極、上記色素増感色素を吸着した二酸化チタンを含有する光電変換層、上記芳香族アミン化合物を含有する正孔輸送層、金製の第2電極を有する積層構造の「光電変換素子1」を作製した。
【0136】
1−2.「光電変換素子2〜11」の作製
(1)「光電変換素子2」の作製
前記「光電変換素子1」の作製で、上記ステンレス製のグリッド電極を酸洗処理する際、フッ酸2%、塩素酸ナトリウム5%、硫酸10%の酸性混合溶液を用いた他は同じ手順で「光電変換素子2」を作製した。
【0137】
(2)「光電変換素子3」の作製
前記「光電変換素子1」の作製で、上記ステンレス製のグリッド電極へ塗布する表面層形成用塗布液の溶媒を2−エトキシエタノールに変更した他は同じ手順で「光電変換素子3」を作製した。
【0138】
(3)「光電変換素子4」の作製
前記「光電変換素子1」の作製で、上記ステンレス製のグリッド電極へ、前述した酸洗処理と表面層の形成を行わなかった他は同じ手順で「光電変換素子4」を作製した。
【0139】
(4)「光電変換素子5」の作製
前記「光電変換素子1」の作製で、上記ステンレス製のグリッド電極へ前述した酸洗処理を行わなかった他は同じ手順で「光電変換素子5」を作製した。
【0140】
(5)「光電変換素子6」の作製
前記「光電変換素子1」の作製で、上記ステンレス製のグリッド電極へ前述した表面層の形成を行わなかった他は同じ手順で「光電変換素子6」を作製した。
【0141】
(6)「光電変換素子7〜9」の作製
前記「光電変換素子1」の作製で、上記酸洗処理を施したステンレス製のグリッド電極へ塗布する表面層形成用塗布液を調製する際、ジエタノールアミンに代えてトリエタノールアミンをチタンテトライソプロポキシドに対しモル比で3:1となる様に添加した。その他は同じ手順で「光電変換素子7」を作製した。
【0142】
また、前記「光電変換素子1」の作製で、上記酸洗処理を施したステンレス製のグリッド電極へ塗布する表面層形成用塗布液を調製する際、ジエタノールアミンに代えて酢酸をチタンテトライソプロポキシドに対してモル比で1:1となる様に添加した。その他は同じ手順で「光電変換素子8」を作製した。さらに、前記「光電変換素子1」の作製で、上記酸洗処理を施したステンレス製のグリッド電極へ塗布する表面層形成用塗布液を調製する際、ジエタノールアミンに代えてアセチルアセトンをチタンテトライソプロポキシドに対してモル比で1:1となる様に添加した。その他は同じ手順で「光電変換素子9」を作製した。
【0143】
(7)「光電変換素子10」の作製
前記「光電変換素子1」の作製で、上記酸洗処理を施したステンレス製のグリッド電極へ塗布する表面層形成用塗布液を調製する際、チタンテトライソプロポキシドに代えてチタンオキシアセチルアセトナートを2−プロパノールに溶解させて調製した。このとき、チタンオキシアセチルアセトナートの2−プロパノール中の濃度は0.5モル/リットルとなる様に添加した。また、当該溶液にはジエタノールアミンを添加しなかった。その他は同じ手順で「光電変換素子10」を作製した。
【0144】
(8)「光電変換素子11」の作製
前記「光電変換素子1」の作製で、上記酸洗処理を施したステンレス製のグリッド電極へ塗布する表面層形成用塗布液を、チタンテトライソプロポキシド単体を2−(n−ブトキシ)エタノールへ溶解した溶液にジエタノールアミンを添加しないものにした。その他は同じ手順で「光電変換素子11」を作製した。
【0145】
(9)「光電変換素子12」の作製
前記「光電変換素子1」の作製で、直径30μmの線状SUS316鋼に代えて、厚さ40μmの市販のSUS316板材に公知の方法で打ち抜きを行って、図2(d)に示す形状のステンレス製のグリッド電極を作製した。なお、当該グリッド電極の開口率は85%にした。また、当該ステンレス製のグリッド電極を酸洗処理する際に使用する処理液を、フッ酸(HF)と硝酸を混合した市販の酸洗処理液「ラスノンウエルP−500(萬商(株)製)」に変更した。その他は同じ手順で「光電変換素子12」を作製した。なお、前記市販の酸洗処理液「ラスノンウエルP−500」は硝酸濃度が13.5%、フッ酸濃度が3.7%のものであった。
【0146】
以上の手順により作製した「光電変換素子1〜11」の作製条件を下記表1に示す。
【0147】
【表1】

【0148】
2.評価実験
評価は、初期状態における光電変換効率η、及び、50℃を1時間と−20℃を1時間の間を変換時間2時間で繰り返し行う定速温度変化(ヒートサイクル試験)を100回行った後の光電変換効率ηを測定し、光電変換効率の差(低下幅)Δηを算出して行った。評価は、市販のソーラシミュレータ「WXS−85−H((株)ワコム電創製)」により形成される照射強度100mW/cmの擬似太陽光を各光電変換素子に照射することにより行ったものである。なお、前記擬似太陽光は、前記ソーラシミュレータによりキセノンランプ光をAMフィルタ(AM1.5)に通過させて形成されたものである。
【0149】
最初に、室温環境(温度20℃)下で前記擬似太陽光照射時における各光電変換素子の電流−電圧特性を、市販のI−Vテスタを用いて測定して、短絡電流値Iscと開放電圧Voc、及び、電流−電圧特性グラフより形状係数FFを算出した。そして、これらの値を用いて後述する計算式より光電変換効率を算出した。次に、温度85℃の暗所下に240時間放置した後、再び上記と同じ条件で擬似太陽光照射を行い、短絡電流値Iscと開放電圧Voc、形状係数FFを算出し、下記計算式より光電変換効率ηを算出した。この様にして光電変換効率の変動を評価するとともに、暗所保存後における液漏れ発生の有無を評価した。
【0150】
ここで、評価項目中の「開放電圧Voc」とは、光電変換素子に電圧負荷をかけたときに電流が流れなくなる電圧のことであり、「短絡電流値Isc」とは、光電変換素子に電圧負荷をかけていない状態の時に流れる電流値のことである。さらに、「形状係数FF」は、後述する光電変換効率を測定する際の電圧−電流特性グラフにおいて、Pmaxを短絡電流値Iscと開放電圧Vocの積で除して得られる値である。なお、図3に「形状係数FF」の数値と「電圧−電流特性グラフ」の形状との関係を示す。
【0151】
また、評価項目中の光電変換効率ηは、下記式より算出されるものである。すなわち、前記ソーラシミュレータより、AM1.5フィルタ、照射強度100mW/cmの疑似太陽光を照射したときに得られる各光電変換素子の短絡電流をIsc(mA/cm)、開放電圧をVoc(V)、形状係数をFF(%)としたときの光電変換効率η(%)は、
η(%)=Isc(mA/cm)×Voc(V)×FF(%)
より算出される。
【0152】
初期状態及びヒートサイクル試験実施後の光電変換効率ηがいずれも4.00%以上であり、かつ、光電変換効率の低下幅Δηが0.50%以下であるものを合格とした。以上の結果を下記表2に示す。
【0153】
【表2】

【0154】
表2に示す様に、本発明の構成を有する「光電変換素子1〜3、7〜12」を用いた「実施例1〜9」は、いずれもヒートサイクル試験実施後も初期状態と変わらぬ光電変換効率が得られ、高温と低温の温度変化を繰り返す条件下でも使用可能なことが確認された。すなわち、「実施例1〜9」では、高温と低温の温度変化を繰り返す環境下におかれてもグリッド電極が光電変換層と剥離するおそれがなく、両者の良好な密着による安定した光電変換効率の発現が可能なグリッド電極の光電変換素子が得られることが確認された。一方、ステンレス製グリッド電極に酸洗処理や表面層形成を行わなかった「比較例1〜3」では、「実施例1〜9」で得られた様な安定した光電変換効率は発現されなかった。
【符号の説明】
【0155】
1 光電変換素子
3 第1電極(グリッド電極)
3A 表面層
4 第2電極
5 光電変換層
6 正孔輸送層
7 基体
12 太陽光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、第1電極、光電変換層、正孔輸送層、第2電極を有する光電変換素子であって、
前記第1電極は、
酸洗処理が施され、かつ、表面層を有するステンレス製のグリッド電極であり、
前記表面層が半導電性の化合物を含有するものであることを特徴とする光電変換素子。
【請求項2】
前記表面層は、
前記半導電性の化合物として酸化チタン化合物を含有するものであることを特徴とする請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記表面層に含有される酸化チタン化合物は、
チタンアルコキシド化合物単体、チタンアルコキシド化合物とアミン化合物の混合物、チタンアルコキシド化合物とカルボキシル基またはカルボニル基を有する有機化合物の混合物のいずれかを加熱して形成されるものであることを特徴とする請求項1または2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記表面層に含有される酸化チタン化合物は、チタンアルコキシド錯体化合物を加熱分解して形成されるものであることを特徴とする請求項1または2に記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記ステンレス製のグリッド電極は、少なくともフッ酸(HF)を含有する溶液に浸漬させる工程を経て前記酸洗処理が施されて形成されたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項6】
前記ステンレス製のグリッド電極は、線状のステンレス部材を用いて形成されたものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項7】
前記ステンレス製のグリッド電極は、板状のステンレス部材を用いて形成されたものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項8】
少なくとも、第1電極、光電変換層、正孔輸送層、第2電極を有する光電変換素子の製造方法であって、
前記第1電極は、
ステンレス製のグリッド電極で形成されるものであり、
少なくとも、酸洗処理を施す工程と、半導電性の化合物を含有する表面層を形成する工程を有するものであることを特徴とする光電変換素子の製造方法。
【請求項9】
前記表面層は、
前記半導電性の化合物として酸化チタン化合物を含有するものであることを特徴とする請求項8に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項10】
前記表面層に含有される酸化チタン化合物は、
チタンアルコキシド化合物単体、チタンアルコキシド化合物を含有する液にアミン化合物を添加した混合物、あるいは、チタンアルコキシド化合物を含有する液にカルボキシル基またはカルボニル基を有する有機化合物を添加した混合物のいずれかを加熱して形成されるものであることを特徴とする請求項8または9に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項11】
前記表面層に含有される酸化チタン化合物は、チタンアルコキシド錯体化合物を含有する液を加熱分解して形成されるものであることを特徴とする請求項8または9に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項12】
前記ステンレス製のグリッド電極を酸洗処理する工程は、少なくともフッ酸(HF)を含有する溶液に前記ステンレス製のグリッド電極を浸漬させて行うものであることを特徴とする請求項8〜11のいずれか1項に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項13】
前記ステンレス製のグリッド電極は、線状のステンレス部材を用いて形成されるものであることを特徴とする請求項8〜12のいずれか1項に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項14】
前記ステンレス製のグリッド電極は、板状のステンレス部材を用いて形成されるものであることを特徴とする請求項8〜12のいずれか1項に記載の光電変換素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−59388(P2012−59388A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198690(P2010−198690)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】