説明

光電変換装置の製造方法

【課題】本発明は、光電変換セルを形成後に、光電変換セルの出力特性を低下させることなく複数の領域に分離した光電変換装置の製造方法を提供する。
【解決手段】第1の電極、光電変換層、第2の電極を順に積層し、光電変換素子を形成する第1の工程と、光電変換層、第2の電極を除去し、第1のスリットを形成する第2の工程と、第1のスリットと重なる領域において第1の電極を除去して第2のスリットを形成し、光電変換素子を複数の領域に分割する第3の工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多結晶、微結晶またはアモルファスシリコンを用いた光電変換装置が知られている。特に、微結晶またはアモルファスシリコンの薄膜を積層した構造を有する光電変換装置は、資源消費の観点、コストの低下の観点および効率化の観点から注目されている。
【0003】
図5(e)に、光電変換装置200の基本構成の断面模式図を示す。光電変換装置200は、一般的に、ガラス等の透明基板10上に透明電極12、光電変換ユニット14及び裏面電極16を積層した構造を有し、透明基板10から光を入射させることによって電力を発生させる。このような光電変換装置を分割するための製造方法が開示されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
図5(a)〜図5(e)に、従来の光電変換装置200の製造工程を示す。図5(a)〜図5(e)では、光電変換装置200の製造工程の各ステップにおける断面図を模式的に示している。 ステップS20では、図5(a)に示すように、透明基板10上に透明電極12を形成する。ステップS22では、図5(b)に示すように、レーザ加工により透明電極12を分割するスリットS3を形成する。ステップS22では、図5(c)に示すように、透明電極12を被うように光電変換層14を成膜する。光電変換層14としては、アモルファスシリコン(a−Si)光電変換層、微結晶(μc−Si)光電変換層又はそれらのタンデム構造が挙げられる。ステップS26では、図5(d)に示すように、光電変換層14を被うように裏面電極16を形成する。ステップS28では、図5(e)に示すように、レーザ加工によりスリットS3内に形成された光電変換層14及び裏面電極16を分割するスリットS4を形成する。これにより、隣接する光電変換セル間が電気的に分離され、複数の光電変換セルからなる領域が複数並設された構造が得られる。そして、これらの光電変換セルからなる領域は最終的に並列に接続され、光電変換装置200を構成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−186573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の光電変換装置の製造方法では、透明電極12を分離するスリットS3をレーザ加工により形成した後、光電変換層14、裏面電極16を順次、スリットS3を含む透明基板10上に積層する。そして、スリットS4をレーザ加工によりスリットS3と重畳するように形成して隣接する光電変換セル間を電気的に分離していた。このため、電気的に分離するためにはスリット3とスリット4を重畳させる必要があり、スリットS3を形成する工程以降においては、光電変換セルを分離する溝の配置を自由に決めることができなかった。
【0007】
したがって、従来技術では製造工程の順番を前後を変えることができず、製造の自由度が低いという問題が発生していた。
【0008】
本発明は、光電変換セルを形成した後に光電変換セルを分割することを可能とし、製造の自由度を向上させた光電変換装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、この発明の一の局面における薄膜太陽電池モジュールは、第1の電極、光電変換層、第2の電極を順に積層し、光電変換素子を形成する第1の工程と、光電変換層、第2の電極を除去し、第1のスリットを形成する第2の工程と、第1のスリットと重なる領域において第1の電極を除去して第2のスリットを形成し、光電変換素子を複数の領域に分割する第3の工程と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光電変換層を形成した後に、所望の特性となるように光電変換セルを複数の領域に分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態における光電変換装置の製造工程を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態におけるスリットS1及びS2の形成を説明する図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態における光電変換装置の製造工程を示す断面図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態におけるスリットS1´及びS2´の形成を説明する図である。
【図5】従来技術に係る光電変換装置の製造工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1(a)〜図1(e)及び図2に、本実施の形態における光電変換装置100の製造工程を示す。図1(a)〜図1(e)は、光電変換装置100の製造工程の各ステップにおける断面図を模式的に示している。
【0013】
ステップS10では、図1(a)に示すように、透明基板10上に透明電極12を形成する。透明基板10は、光電変換装置において光電変換に利用される波長の光を透過し絶縁表面を有するものとし、例えば、ガラス、プラスチック等を用いる。透明電極12は、酸化錫(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)、インジウム錫酸化物(ITO)等に錫(Sn)、アンチモン(Sb)、フッ素(F)、アルミニウム(Al)等をドープした透明導電性酸化物(TCO)を用いることができる。
【0014】
ステップS12では、図1(b)に示すように、透明電極12を被うように光電変換層14を成膜する。光電変換層14は、特に限定されるものではないが、例えば、アモルファスシリコン(a−Si)光電変換層、微結晶(μc−Si)光電変換層又はそれらのタンデム構造が挙げられる。光電変換層14は、プラズマCVD等を用いて形成することができる。
【0015】
ステップS14では、図1(c)に示すように、光電変換層14を形成する。裏面電極16は、反射性金属とすることが好適である。また、反射性金属と透明導電性酸化物(TCO)との積層構造とすることも好適である。金属電極としては、銀(Ag)、アルミニウム(Al)等が使用できる。また、透明導電性酸化膜(TCO)としては、酸化錫(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)、インジウム錫酸化物(ITO)等が使用できる。
【0016】
ステップS16では、図1(d)に示すように、レーザ加工により光電変換層14及び裏面電極16を分割するスリットS1を形成する。スリットS1は、光電変換層14及び裏面電極16を分割するように透明電極12の表面まで形成する。
【0017】
スリットS1を形成するためのレーザ装置は、波長532nmのYAGレーザ(2倍波)を用いることが好適である。レーザ装置から出射されるレーザビームのパワーを調整して透明基板10側から照射し、スリット3の方向に走査することによってスリットS1を形成することができる。
【0018】
ステップS18では、図1(e)に示すように、レーザ加工により透明電極12を分割するスリットS2を形成する。すなわち、光電変換層14及び裏面電極16からなる光電変換セルを複数の領域に分割するようにスリットS1と重畳するように透明電極12の表面までスリットS2を形成する。
【0019】
スリットS2は、波長1064nmのYAGレーザ(基本波)を用いて、レーザ装置から出射されるレーザビームのパワーを調整して透明基板10側から透明電極12の表面に焦点されるように照射し、所望の方向に走査することによって形成することができる。
【0020】
このとき、図2の拡大断面図に示すように、スリットS2の全幅L2はスリットS1の全幅L1より小さくなるように、レーザ光の幅及び照射位置を調整してスリットS2を形成する。
【0021】
以上のように、スリットS1及びS2の方向に沿って隣接する光電変換セル間が電気的に分離され、光電変換セルからなる複数の領域が並設された構造が得られる。これら光電変換セルの複数の領域は最終的に並列に接続され、光電変換装置100が構成される。
【0022】
上記の実施形態では、基板10上に透明電極12、光電変換層14、裏面電極16を積層して光電変換セルを形成した後に自由に光電変換セルを分割することができる。従来技術では、光電変換層14を積層する前に、透明電極12を分離するスリットS3を形成しなくてはならず、光電変換セルが完成する前に分離する位置を決めなくてはならなかった。つまり、基板10上に透明電極12、光電変換層14、裏面電極16を積層して光電変換セルを形成した後に、光電変換セルを任意の領域に分割することができなかった。一方、上記の実施形態では、光電変換セルを完成させた後に、この光電変換セルを任意の領域で分割することができるため、複数の光電変換セルを併設した構造にすることができ、製造の自由度を向上させることができる。光電変換発電装置においては、光電変換セル中にピンホール等の低抵抗部が形成された場合、透明電極12と裏面電極16にリークが生じ、リーク箇所を含む光電変換セルにおいては電界が生じない。このため、この光電変換セル一段の全領域を発電に寄与させることができず、出力が小さくなってしまう問題が生じている。この問題の対策として、周知の欠陥検出手段(特許第3098950号公報など)を用いてリーク箇所等の欠陥を特定し、欠陥を含む光電変換セルを小さくするように光電変換素子を分離することによりことにより、発電に寄与しない光電変換セル領域を小さくし、光電変換装置の出力を向上させること知られている。上記の実施形態においては、光電変換装置が完成した後に、任意の領域で分割して複数の光電変換セルが併設した構造に分離して光電変換装置の出力を改善する方法を適応することが可能になるという効果がある。
【0023】
また、上記の実施形態では、スリットS2を除いた基板10上に透明電極12が接するように形成され、スリットS2の側壁からスリットS1の側壁までの間においても、透明電極12が基板10と接触する。これにより、従来技術に記載されたスリットS4の側壁からスリットS3の側壁までの間において、光電変換層14と基板10とが接触するものに比べ、接着強度を強くすることができる。このため、スリットS2がレーザで形成され、スリットS2の側壁に凹凸があるような形状であっても、製造工程や屋外に設置された際に加えられる熱サイクルによって発生する応力が掛ったときに、膜が剥がれることを防止することができる。さらに、膜が剥がれることにより、有効な発電面積が減少したり、透明電極12と基板10との間に水分が侵入して発電効率が低下し、光電変換装置100の出力が減少することを防止することができる。
【0024】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。第2の実施形態では、第1の実施形態同様、S10からS14の工程を行い、基板10上に透明電極12、光電変換層14、裏面電極16が順に積層された積層体を形成する。
【0025】
そしてステップS16´において、図3(d´)に記載されたように、基板10上に積層された透明電極12、光電変換層14、裏面電極16を除去し、スリットS1´を形成する。スリットS1´は、基板10の表面までレーザ加工により透明電極12、光電変換層14及び裏面電極16を分離するように形成し、光電変換セルを複数の領域に分割する。
【0026】
スリットS1´を形成するためのレーザ装置は、波長1064nmのYAGレーザ(基本波)を用いることが好適である。レーザ装置から出射されるレーザビームのパワーを調整して透明基板10側から透明電極12の表面に焦点されるように照射し、走査することによってスリットS1´を形成することができる。
【0027】
続いて、ステップS18´において、図3(e´)に記載されたように、基板10上に積層された光電変換層14、裏面電極16を除去し、スリットS2´を形成する。このとき、図4の拡大断面図に示すように、スリットS2´の全幅L2´はスリットS1´の全幅L1´より大きくなるようにレーザ光の幅を調整し、スリットS1´と重畳するように透明電極12の表面までスリットS2´を形成する。つまり、スリットS1´によって露出した光電変換層14と裏面電極16の切断面を除去するよう照射位置を調整しながらスリットS2´を形成する。
【0028】
スリットS2´は、波長532nmのYAGレーザ(2倍波)を用いて、レーザ装置から出射されるレーザビームのパワーを調整して透明基板10側から光電変換層14の表面に焦点されるように照射し、所望の方向に走査することによって形成することができる。
【0029】
第2の実施形態では、第1の実施形態同様、基板10上に透明電極12、光電変換層14、裏面電極16を積層して光電変換セルを形成した後に自由に光電変換層を分割することができ、製造の自由度を向上させることができる。その結果、光電変換装置を完成した後に、任意の領域で分割して複数の光電変換セルが併設した構造に分離して光電変換装置の出力を改善する方法を適応することが可能になるという効果がある。
【0030】
また、上記の実施形態では、スリットS1´の側壁からスリットS2´の側壁までの間においても、透明電極12が基板10と直接接触する。これにより、第1実施形態と同様の作用効果を享受することができる。
【0031】
加えて、スリットS1´をレーザにより形成する場合、レーザが照射された領域が加熱され、光電変換層14において溶融して結晶化して低抵抗部が発生することがある。この低抵抗部は、光電変換層14の他の領域に比べ電流が流れやすいため、透明電極10と裏面電極16において、また中間層が形成されている場合にあっては、透明電極10と裏面電極16、中間層の相互間において低抵抗部を介して短絡が生じ、光電変換セルの出力を低下させてしまう問題があった。一方、上記の実施形態では、スリットS2´を形成することにより、スリットS1´で形成された裏面電極16と光電変換層14の側壁部を除去するため、スリットS1´を形成した際に生じるスリットS1´の側壁部の光電変換層14に生じる低抵抗部を除去することができる。これにより、低抵抗部を介して発生する短絡を防止し、光起電力装置100の出力低下をよりよく防止することができる。
【0032】
なお、上記各実施形態は一例に過ぎず、ステップS12においては、複数のアモルファスシリコン(a−Si)光電変換ユニットや微結晶(μc−Si)光電変換ユニットからなるタンデム構造の場合、中間層を有する構造としてもよい。中間層としては、酸化錫(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)、インジウム錫酸化物(ITO)等に錫(Sn)、アンチモン(Sb)、フッ素(F)、アルミニウム(Al)等をドープした透明導電性酸化物(TCO)を用いてもよい。
【0033】
また、ステップS18の後に、光電変換装置100の外周部分を除去する工程等を設けてもよい。また、ステップS18の後に、光電変換装置100の表面を保護するためのバックシートや樹脂層を形成する工程を設けてもよい。バックシートや樹脂層は、光電変換装置100の保護層として機能する。
【0034】
さらに、上記実施の形態では、スリットS1、S2´を形成するためのレーザ装置として、波長532nmのYAGレーザ(2倍波)を用いたが、光電変換層14を除去することができるエネルギーを持つものであれば良い。具体的には、光電変換層14としてアモルファスシリコンを用いた場合では、400〜600nmの波長を持つものであれば良く、光電変換層14として微結晶シリコンを用いた場合では、600〜800nmの波長を持つものであれば良い。
【0035】
また、スリットS2、S1´を形成するためのレーザ装置として、波長1064nmのYAGレーザ(基本波)を用いたが、透明電極12を除去することができるエネルギーを持つものであれば良い。具体的には、透明電極12として透明導電性酸化物(TCO)を用いた場合では、400nm以下の波長を持つ紫外光もしくは800nm以上の波長を持つ赤外光であれば良い。なお、400nm以下の紫外光を用いて透明電極を除去する場合には、基板10の材料として用いられるガラスや樹脂も光を吸収してしまうため、レーザは透明電極12が形成された側から照射されるのが好ましい。また、800nm以上の波長を持つ赤外光を用いた場合のうち、8000nm以上の遠赤外光を用いるときにおいては、基板10の材料として用いられるガラスも透明電極12同様、光を吸収してしまうため、レーザは透明電極12が形成された側から照射されるのが好ましい。
【符号の説明】
【0036】
10 透明基板、12 透明電極、14 光電変換ユニット、16 裏面電極、100,200光電変換装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極、光電変換層、第2の電極を順に積層し、光電変換素子を形成する第1の工程と、
前記第2の電極、前記光電変換層を除去し、第1のスリットを形成する第2の工程と、
前記第1のスリットと重なる領域において前記第1の電極を除去して第2のスリットを形成し、前記光電変換素子を複数の領域に分割する第3の工程と、
を含むことを特徴とする光電変換装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の光電変換装置の製造方法であって、
前記第2の工程は、前記光電変換層及び前記第2の電極を第1の幅だけ除去する工程であり、
前記第3の工程は、前記第1の電極を前記第1の幅より小さい第2の幅だけ除去する工程である
ことを特徴とする光電変換装置の製造方法。
【請求項3】
第1の電極、光電変換層、第2の電極を順に積層し、光電変換素子を形成する第1の工程と、
前記第1の電極、前記光電変換層、前記第2の電極を除去し、第3のスリットを形成し、光電変換素子を複数の領域に分割する第2の工程と、
前記第3のスリットを含む領域において、前記第2の電極、前記光電変換層を除去して第4のスリットを形成する第3の工程と、
を含むことを特徴とする光電変換装置の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の光電変換装置の製造方法であって、
前記第2の工程は、前記第1の電極、前記光電変換層及び前記第2の電極を第3の幅だけ除去する工程であり、
前記第3の工程は、前記光電変換層及び前記第2の電極を前記第3の幅より大きい第4の幅だけ除去する工程である
ことを特徴とする光電変換装置の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光電変換装置の製造方法であって、
前記第1の工程で形成される光電変換素子を、絶縁表面を有する基板上に形成することを特徴とする光電変換装置の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光電変換装置の製造方法であって、
前記第2の工程及び前記第3の工程において、前記第1の電極、前記光電変換層、前記第2の電極をレーザを用いて除去することを特徴とする光電変換装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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