説明

光電極、及びそれを用いた色素増感太陽電池、並びにその製造方法

【課題】
実用化に耐えうる高いエネルギー変換効率を有する色素増感太陽電池の提案を課題とする。
【解決手段】
色素増感太陽電池の光電極において、コロイド溶液における自己組織化により規則的に配列させた金属微粒子と半導体微粒子の積層構造に基づいて規則的に配列した金属微粒子同士の相互作用により局在型表面プラズモン共鳴を増強して、金属微粒子に吸着した光増感剤の吸収係数を向上させることにより、実用化に耐えうる高いエネルギー変換効率を有する色素増感太陽電池を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
石油や石炭など地球埋蔵資源の枯渇や、それらの燃焼により発生する二酸化炭素による地球温暖化が懸念されている今日において、代替エネルギーの重要性が増してきている。太陽光から電気を生み出す太陽電池は、重要な代替エネルギー供給源の一つである。太陽電池の一種であるシリコンを用いた乾式太陽電池は様々なところで使用されるようになってきており、一般家庭にも利用されるようになった。しかし、乾式太陽電池は高温・高真空プロセスを用いるためコストが高く、経済的な代物とは言い難い。一方、印刷技術など簡単な製法で作成できる湿式太陽電池は、乾式太陽電池と比較して製造コストが格段に低いが、エネルギーの変換効率が低い問題がある。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1では、酸化チタン微粒子を導電性ガラス上に塗布した後焼結し、酸化チタン微粒子表面上に光増感剤(色素)を結合させて光電極を作成している。光電極の多孔質酸化チタン内部を電解質で充満させた後、対電極を貼り合わせて色素増感太陽電池としている。この形態の色素増感太陽電池は発明者の名を取ってグレッツェルセルと呼ばれている。該色素増感太陽電池においては、表面積が大きい多孔質酸化チタン膜を光電極に用いて、太陽エネルギーを電気エネルギーへ変換する光増感剤をより多く固定したため、従来の色素増感太陽電池より単位面積当たりの効率が格段に向上している。しかし、シリコン系太陽電池と比較すると変換効率は劣っている。
【0003】
色素増感太陽電池の性能向上の鍵となる要素技術が幾つか挙げられる。従来技術として一つ目に挙げられるのは、光電極を構成する半導体微粒子の粒径を小さくして、比表面積を大きくする技術である。これにより、半導体微粒子の表面に吸着させる光増感剤の量を増加させることができるので、半導体微粒子層の厚みに対して吸着した光増感剤の密度を大きくすることができるため、光電変換効率が向上する。
従来技術として二つ目に挙げられるのは、色素増感太陽電池における光電極の多孔質膜に入射した光を閉じこめることにより変換効率を向上させる方法である。特許文献1、2は、粒径が異なる半導体微粒子で構成される多孔質層が積層した光電極を有する色素増感太陽電池に関する。特許文献3は、光増感剤を担持した光吸収粒子からなる光吸収層に光吸収粒子と異なる導電性材料等からなる光散乱粒子を含有した色素増感太陽電池に関する。特許文献1、2、3記載の技術を用いると、半導体微粒子から構成される多孔質層の内部における散乱効果と、隣接する多孔質層の界面における反射効果によって、入射光が閉じ込められることにより光電変換効率が向上する。特許文献4は、バンドギャップを利用した光閉じこめ効果による光電変換効率の向上のために、光増感剤を担持した光吸収粒子からなる光吸収層に光吸収粒子と異なる導電性材料等からなる光散乱粒子を規則的に配列した色素増感太陽電池に関する。
従来技術として三つ目に挙げられるのは、光増感剤の吸収係数を向上させる方法がある。非特許文献2では、光増感剤を担持した銀微粒子が凝集した不規則な微粒子凝集構造を有する光電極を作成し、光増感剤と銀微粒子との相互作用による表面プラズモン共鳴を用いて光増感剤の吸収係数を149倍に増加させている。また、非特許文献3では、非特許文献2記載の光電極と同様の構造を持つ光電極を用いた表面プラズモン共鳴を利用したグレッツェルセルに関する。
【特許文献1】特開平10−255863
【特許文献2】特開2002−352868
【特許文献3】特開2003−303629
【特許文献4】特開2006−24495
【非特許文献1】O'Reagan, B and M. Graetzel, Nature, 353, 737-740(1991)
【非特許文献2】Ihara, M., K. Tanaka, K. Sasaki, I. Honma and K. Yamada, J. Phys. Chem. B., 101, 5153-5157(1997)
【非特許文献3】Wen, C., K. Ishikawa, M. Kishima and K. Yamada, Solar Energy Materials & Solar Cells, 61, 339-351(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
色素増感太陽電池について前記何れの技術を採用しても実用化に耐えうる変換効率を得られていない。本発明は、この問題解決を目的としたものであり、色素増感太陽電池の光電極において、自己組織化により規則的に配列させた金属微粒子と半導体微粒子の積層構造に基づいて規則的に配列した金属微粒子同士の相互作用により局在型表面プラズモン共鳴を増強して、光増感剤の吸収係数を向上させた、高いエネルギー変換効率を有する色素増感太陽電池を提供するものである。
【0005】
本発明は、安価に作製でき且つ実用的な色素増感太陽電池に関するものであって、特に局在型表面プラズモン効果を利用した高効率なものを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、光透過性を有する透明の基板部材の上面側に透明導電性薄膜が形成された基板と、前記透明導電性薄膜上に形成された金属微粒子と半導体微粒子からなる微粒子積層構造を有し、前記微粒子積層構造が規則的に配列した前記金属微粒子、並びに前記半導体微粒子から構成される光電極に関する。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1の発明に係る光電極において、微粒子積層構造に含まれる半導体微粒子に色素が吸着していることを特徴としている。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1の発明に係る光電極において、微粒子積層構造に含まれる半導体微粒子が、酸化チタン微粒子であることを特徴としている。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1の発明に係る光電極において、微粒子積層構造に含まれる金属微粒子が、金微粒子であることを特徴としている。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1の発明に係る光電極において、微粒子積層構造に含まれる金属微粒子が、銀微粒子であることを特徴としている。
【0011】
請求項6の発明は、請求項1の発明に係る光電極において、微粒子積層構造に含まれる金属微粒子が、直径1〜200nmであることを特徴としている。
【0012】
請求項7の発明は、請求項1の発明に係る光電極において、微粒子積層構造に含まれる半導体微粒子が、直径1〜500nmであることを特徴としている。
【0013】
請求項8の発明は、色素増感太陽電池が請求項1から7の発明に係る光電極を備えることを特徴としている。
【0014】
請求項9の発明は、色素増感太陽電池の製造方法において、請求項1から7に記載の光電極を構成する前記透明導電性薄膜上に形成された金属微粒子と半導体微粒子からなる微粒子積層構造が規則的に配列して形成されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、前記透明導電性薄膜上にコロイド溶液における自己組織化により形成された微粒子積層構造は金属微粒子、並びに半導体微粒子が規則的に配列しており、金属微粒子の表面プラズモン共鳴が増強されるため、金属微粒子に吸着した光増感剤の吸収係数が向上し、色素増感太陽電池として高いエネルギー変換効率を有することとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明する(図1参照)。
【0017】
図2は本発明の実施の形態に係る光電極を示すものである。図2に示すように光電極は、光透過性を有する透明の基板部材10の上面側に透明導電性薄膜20が形成され、前記透明導電性薄膜の表面に金属微粒子30、並びに半導体微粒子40が規則的に配列してなる微粒子積層構造が形成され、前記微粒子積層構造における金属微粒子に光増感剤50が吸着されることによって構成されている。
【0018】
前記基板部材は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン等ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等ポリエステル、ポリメタクリル酸メチル等アクリル樹脂、ABS樹脂、エポキシ樹脂、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ナイロン樹脂、フッ素樹脂、フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネートなどの透明樹脂や、石英、ガラスなどの透明な無機材料から成る。前記基板部材の表面には、透明導電性薄膜を形成させる。前記透明導電性薄膜は、スパッタリング等によって、酸化インジウムと酸化スズの混合物、アンチモン添加酸化スズ、アルミニウム添加酸化亜鉛などの透明導電性金属酸化物を薄膜化することによって形成する、或いは触媒存在下にて合成を行う等によりポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリ-p -フェニレン、ポリフェニレンビニレンなどの導電性高分子を薄膜として形成する。
【0019】
金、銀、白金、銅、鉄、アルミニウムなどの金属微粒子と、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニオブ、酸化タングステン、酸化ニッケル、ヨウ化銅、酸化セレンなどの半導体微粒子と、カルボン酸、トリーnーアルキルリン酸などの界面活性剤と、並びにオレイン酸、トリーnーオクチルホスフィンオキサイドなどを混合した溶液を、前記基板部材に作成した前記透明導電性薄膜上に滴下し、乾燥し溶媒を蒸発させて前記金属微粒子と前記半導体微粒子を自己組織化によって規則的に配列させた後、高温で処理し前記半導体微粒子を焼結し、その後、ブラックダイ、ビピリジンーカルボン酸基を有するルテニウム錯体、ビピリジン基を有するルテニウム錯体、フェナントロリン基を有するルテニウム錯体、キノリン基を有するルテニウム錯体、β−ジケトナート錯体、オスミウムを中心金属とする錯体、鉄を中心金属とする錯体、銅を中心金属とする錯体、白金を中心金属とする錯体、メチン系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、マーキュロクロム系色素、キサンテン系色素、ポルフィリン系色素、フタロシアニン系色素、アゾ系色素、クマリン系色素などの光増感剤をメタノールやエタノールなどのアルコールに溶解した溶液に侵漬し、再び乾燥して光電極とする。
【0020】
図3は本発明の実施の形態に係る色素増感太陽電池を示すものである。図3に示すように色素増感太陽電池は、前記光電極60、対極70、電解質80で構成されている。
【0021】
前記光電極と、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリーpーフェニレン、ポリフェニレンビニレン等導電性高分子薄膜を形成したガラス基板、白金、カーボンなどを用いた前記対極とで、ヨウ素系、フェロセン系の添加物をカーボネート系、ニトリル系、水系、などの溶媒に溶解した電解質溶液やイミダゾリウム塩などのイオン性液体などの液体状電解質、ゲル状電解質、或いはポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリーpーフェニレン、ポリフェニレンビニレン等導電性高分子などの固体状電解質などの電解質を挟み込むことで色素増感太陽電池が作製できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の色素増感太陽電池の製法のフローチャート
【図2】本発明の光電極の模式図
【図3】本発明の色素増感太陽電池の模式図
【符号の説明】
【0023】
10基板部材
20透明導電性薄膜
30金属微粒子
40半導体微粒子
50光増感剤
60光電極
70対極
80電解質


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性を有する透明の基板部材の上面側に透明導電性薄膜が形成された基板と、前記透明導電性薄膜上に形成された金属微粒子と半導体微粒子からなる微粒子積層構造を有する光電極であって、
前記微粒子積層構造が規則的に配列した前記金属微粒子、並びに前記半導体微粒子から構成される光電極
【請求項2】
微粒子積層構造に含まれる半導体微粒子に光増感剤が吸着している請求項1に記載の光電極。
【請求項3】
微粒子積層構造に含まれる半導体微粒子が、酸化チタン微粒子である請求項1に記載の光電極。
【請求項4】
微粒子積層構造に含まれる金属微粒子が、金微粒子である請求項1に記載の光電極。
【請求項5】
微粒子積層構造に含まれる金属微粒子が、銀微粒子である請求項1に記載の光電極。
【請求項6】
微粒子積層構造に含まれる金属微粒子が、直径1〜200nmである請求項1に記載の光電極。
【請求項7】
微粒子積層構造に含まれる半導体微粒子が、直径1〜500nmである請求項1に記載の光電極。
【請求項8】
請求項1から7に記載の光電極を備える色素増感太陽電池 。
【請求項9】
請求項1から7に記載の光電極を備える色素増感太陽電池の製造方法であって、基板部材上に透明導電性薄膜を作成する工程、前記透明導電性薄膜上に自己組織化によって金属微粒子と半導体微粒子が規則的に配列した微粒子積層構造を形成させて光電極を作成する工程、前記光電極の微粒子積層構造上に電解質を積層する工程、前記光電極に積層した電解質の上に対極を積層する工程、を有する製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−335222(P2007−335222A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−165511(P2006−165511)
【出願日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(502037638)株式会社アイ・ピー・ビー (28)
【Fターム(参考)】