説明

光電気化学デバイス

2つの基板を備える光電気化学(PEC)デバイスであって、少なくとも一方の基板は透明であり、透明電子導体(TEC)でコーティングされ、染料増感多孔性半導体を含む作用電極が一方の基板上に形成され、触媒層を含む対向電極が別の基板上に形成され、電解質が上記2つの基板間に配置され、金属導体を用いて、デバイス内に、且つデバイスから電流を流し、十分な導電率を有し、PECデバイスからの実用的な電気的出力を可能にする非金属材料の保護層を用いて、デバイスの電解質から上記金属導体を保護する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光起電(PV)デバイスに関し、より詳細には、限定はしないが、光電気化学光起電デバイスに関する。さらに、本発明はそのようなデバイスを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
[発明の背景]
電磁放射のエネルギーを電気エネルギーに変換するために種々の光起電デバイスを利用することができる。これらのデバイスには、従来の固体デバイス(M. Green著「Third generation photovoltaics : concepts for high efficiency at low cost」The Electrochemical Society Proceedings, Vol. 2001-10, p. 3-18を参照されたい)及び最近になって開発された光電気化学(PEC)デバイスが含まれる。
【0003】
関係するタイプのPECセルの例が以下の米国特許に開示されている。
第4,927,721号Photoelectrochemical cell; Michael Graetzel and Paul Liska, 1990
第5,525,440号Method of manufacture of photo-electrochemical cell and a cell made by this method; Andreas Kay, Michael Graetzel and Brian O'Regan, 1996
第6,297,900号Electrophotochromic Smart Windows and Methods; G. E. Tulloch and I. L. Skryabin, 1997
第6,555,741号Methods to implement interconnects in multi-cell regenerative photovoltaic photoelectorchemical devices; J. A. Hopkins, G. Phani,I. L. Skryabin, 1999
第6,652,904号Methods to manufacture single cell and multi-cell regenerative photoelectrochemical devices; J. A. Hopkins, D. Vittorio, G. Phani, 1999
【0004】
前掲の特許に開示されるタイプのような光電気化学デバイスは、2つの大面積の基板間に積層して製造することができる。1つの典型的な構成は2つのガラス基板を含み、各基板は、基板の内側表面上において導電性コーティングを用いる。
【0005】
上記第1及び第2の基板のうちの少なくとも一方は、被着される透明導電性(TEC)コーティングと同じように、可視光に対して概ね透過性である。PECセルは、通常、一方の導電性コーティングに被着される染料増感ナノ多孔性半導体酸化物(たとえば、チタニアとして知られている二酸化チタン)層を含む作用電極と、通常、他方の導電性コーティングに被着される酸化還元電気触媒層を含む対向電極とを含む。酸化還元メディエータを含む電解質が光陽極と陰極との間に配置され、その電解質は周囲の環境から密封される。
【0006】
多くの光電気化学デバイスでは、モジュールを大きくすることが有利に働くであろう。しかしながら、TECコーティングは、通常は金属酸化物(複数可)を含み、標準的な金属導体に比べて抵抗率が高く、結果として、大面積の光電気化学セルの場合には抵抗損が高くなり、高い照度条件においては特に、それがデバイスの効率に影響を及ぼす。
【0007】
基板の電気抵抗は、金属板、金属箔又は金属網を用いることにより減少させることができる。しかしながら、一般的に用いられる金属のほとんどは光電気化学セルの電解質と化学反応する。PECセルの金属成分の腐食は、何年にもわたって、PECデバイスの商用化の成功を大きく制限しているものと見なされている。
【0008】
1つの構成では、光電気化学セルが、単一のモジュールの内部に直列に接続される。そのような相互接続をするために金属導体が用いられる。再び、光電気化学セルの典型的なヨウ化物含有電解質との化学的な相互作用に起因して、金属導体の選択は、プラチナ及び類似の金属、チタン並びにタングステンに限られる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
それゆえ、本発明の目的は、光電気化学セルにおいて用いられる低コストの金属導体のための保護コーティングを提供し、実効的に性能を低下させることなく、コスト効率も依然として良い、有効な耐食性に関する複合的な問題を解決することである。。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[発明の概要]
上記の目的、及び関連する目的を達成する際に、本発明は、導電性であるが、化学反応を起こさない材料(たとえばダイヤモンド並びに導電性の窒化物及び炭化物)の層を用いて、光電気化学セルの金属成分を保護しながら、光電気化学セルの内部に電流を流すことを実現する。これらの材料は、PECにおいて用いられる電解質に対して化学反応を起こさないと同時に、これらの材料の薄い層が、導電率が高い金属成分を電気的に接続するだけの十分な導電率を与えることが知見された。その層を種々の応用形態(たとえば光条件)に対して最適化できるように組成又は厚みを変更することによって、保護層の導電率を変更することができる。
【0011】
保護層は、それを形成するための任意の既知の技術(たとえば、アーク堆積、ゾル−ゲル、スパッタリング、CVDなど)を用いて堆積させることができる。光電気化学セルの成分と化学反応を起こさないようにしながら、実用的な電気的出力を可能にするために、その層は十分に導電性である必要がある。
【0012】
そのような層の導電性を考慮に入れて、本発明はまた、導電率のための要件が高くないとき(たとえば光条件が低い場合、又はセルサイズが小さい場合)に、中間に位置する金属成分を用いることなく基板(ガラス、ポリマー材料)上にこれらの層が直に形成されることを実現する。
【0013】
本発明は、窒化チタンのようないくつかの材料が、金属導体を保護するための、ピンホールがなく強く結合されるコーティングを形成すると同時に、PECデバイスを良好に動作させるだけの十分な導電率を与えることを実現できることに基づく。本発明者らは実験で、保護をしていない316ステンレス鋼基板が、室温で動作させると数日以内に腐食し、PECデバイスの電解質に対して不可逆的な損傷を与えるが、同じ基板上に堆積させた薄く高密度のTiNコーティング層は、確実に、75℃で何ヶ月も良好に動作することを実証した。
【0014】
さらに分析すると、或る特定の非金属材料が、数ミクロン厚の薄膜を用いることにより、腐食保護及び導電率の要件を満たすことが実証された。これらの材料には、ダイヤモンド、及び半金属、金属(及び多金属)窒化物、炭化物、酸化物、ホウ化物、リン化物、ケイ化物、アンチモン化物、ヒ化物、テルル化物及びその組み合わせ(たとえば、酸窒化物、ヒ素硫化物)が含まれる。
【0015】
本発明の目的を果たすのにさらに好ましい材料は窒化チタン(TiN)、窒化ジルコニウム及び炭化ホウ素である。
【0016】
さらに好ましい材料は、ニオブ、モリブデン、タンタル、タングステン又はバナジウムのケイ化物を含む。
【0017】
本発明は上記金属導体を保護するために用いられることになる、或る範囲の特定の材料を提供するが、これ以降の説明では、一例としてTiNが用いられる。
【0018】
本発明の一態様によれば、金属箔又は金属板(たとえばステンレス鋼箔)上にTiN層が堆積され、それにより金属箔がセルの電解質から保護される。
【0019】
金属箔又は金属板は、光電気化学セルの作用電極又は対向電極のいずれかのための基板としての役割を果たす。
【0020】
本発明の別の態様によれば、セルの内部で局所的に生成される電流を外部端子まで流すために用いられる金属網上にTiNが堆積される。金属網は、光電気化学セルの作用電極及び/又は対向電極のいずれか又は両方に用いることができる。
【0021】
本発明のさらに別の態様によれば、光電気化学セルを直列に接続されるモジュールとして相互接続するために用いられる金属導体上にTiN層が堆積される。この場合には、作用電極及び対向電極がいずれも、それぞれ電気的に分離された部分に分割され、その金属導体は作用電極の少なくとも1つの部分を対向電極の1つの部分に接続する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
[実施例の説明]
本発明の本質を大まかに説明するために、ここで、一例として本発明の実施形態が説明されることになるが、それは例示にすぎない。以下の説明では、添付の図面が参照されるであろう。
【0023】
図1を参照すると、作用電極基板がTiNコーティング2によって保護されるステンレス鋼箔1を含む。作用電極3(染料増感TiO)がTiNコーティング上に形成される(3ミクロン厚、フィルタードプラズマ堆積)。デバイスの対向電極5(薄く分散したPt触媒層)が透明導電性基板6(TECによってコーティングされたポリマー薄膜)上に形成される。電解質4が2つの電極間に配置される。そのデバイスはシリコーン系封止剤7によって封止される。そのデバイスは、対向電極側から照明されることになる。
【0024】
図2Aを参照すると、TiNコーティング2によって保護されるステンレス鋼箔1がPECデバイスの対向電極5を支持する。作用電極は透明導電性基板6によって支持され、その基板に、TiN2によってコーティングされたステンレス鋼網8が取り付けられる。そのステンレス鋼網は、作用電極3(染料増感TiO)への電気的接続を改善する。そのデバイスはシリコーン系封止剤7によって封止される。このデバイスは作用電極側から照明されることになる。
【0025】
図2Bを参照すると、ステンレス鋼網8(50μ孔、30μワイヤ)がTiNコーティング2によって保護される。
【0026】
図3を参照すると、PECデバイスが2つの透明基板6間に形成される。各基板は透明電子導体9(TEC、Fドープト酸化スズ)によってコーティングされる。レーザ放射の助力によって形成されるTEC内の分離線10が各電極を小さな部分に分割する。作用電極基板は染料増感TiO層3によってコーティングされ、対向電極基板は触媒層5によってコーティングされる。その電極間の空間を電解質4で満たすことにより、3つの個別のセルが形成される。導体を用いてセルが直列に接続される。その導体はTiNコーティング12によって保護されるステンレス鋼コア11を含む。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施例に従って形成されるPECデバイスの拡大断面図である。
【図2】本発明の別の実施例に従って形成されるPECデバイスの拡大断面図である。
【図3A】本発明のさらに別の実施例に従って形成されるPECデバイスの拡大断面図である。
【図3B】本発明の先行する実施例において用いられる保護されたステンレス鋼網の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの基板を備える光電気化学(PEC)デバイスであって、
少なくとも一方の基板は透明であり、透明電子導体(TEC)でコーティングされ、
染料増感多孔性半導体を含む作用電極が一方の基板上に形成され、
触媒層を含む対向電極が別の基板上に形成され、
電解質が前記2つの基板間に配置され、
金属導体を用いて、該デバイス内に、且つ該デバイスから電流を流し、
十分な導電率を有し、該PECデバイスからの実用的な電気的出力を可能にする非金属材料の保護層を用いて、該デバイスの前記電解質から前記金属導体を保護する、光電気化学(PEC)デバイス。
【請求項2】
前記金属導体は金属板又は金属箔である、請求項1に記載のPECデバイス。
【請求項3】
前記金属板又は金属箔は、前記PECデバイスの前記作用電極又は前記対向電極のいずれかから電流を流す、請求項2に記載のPECデバイス。
【請求項4】
前記金属導体は金属網である、請求項1に記載のPECデバイス。
【請求項5】
前記金属網を用いて、前記デバイスの前記作用電極又は前記対向電極のいずれかを電気的に接続する、請求項4に記載のPECデバイス。
【請求項6】
前記作用電極及び前記対向電極はいずれも、それぞれ電気的に分離された部分に分割され、前記金属導体は前記作用電極の少なくとも1つの部分を前記対向電極の1つの部分に接続する、請求項1に記載のPECデバイス。
【請求項7】
前記保護層は、ダイヤモンド又は半金属若しくは金属窒化物、炭化物、酸化物、ホウ化物、リン化物、硫化物、ケイ化物、アンチモン化物、ヒ化物、テルル化物及びその組み合わせを含む、請求項1に記載のPECデバイス。
【請求項8】
前記材料は窒化チタン又は窒化ジルコニウムである、請求項8に記載のPECデバイス。
【請求項9】
前記炭化物はホウ炭化物である、請求項8に記載のPECデバイス。
【請求項10】
前記ケイ化物は、ニオブ、モリブデン、タンタル、タングステン又はバナジウムのケイ化物である、請求項8に記載のPECデバイス。

【図1】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−526254(P2006−526254A)
【公表日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−504032(P2006−504032)
【出願日】平成16年5月5日(2004.5.5)
【国際出願番号】PCT/AU2004/000590
【国際公開番号】WO2004/100196
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(505412384)サステイナブル・テクノロジーズ・インターナショナル・プロプライエタリー・リミテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】SUSTAINABLE TECHNOLOGIES INTERNATIONAL PTY LTD
【住所又は居所原語表記】11 Aurora Avenue, Queanbeyan, NSW 2620, Australia
【Fターム(参考)】