説明

光電流センサ

【課題】 光伝送路に単一モードファイバを使用でき、なおかつ計測精度が高く、長距離伝送が可能な光電流センサを提供すること。
【解決手段】
光源11から出射する光を偏波無依存型サーキュレータで構成した分光素子12、偏光解消素子13、単一モードファイバで形成した入力光ファイバ21を介してセンサ部30に供給する。また、センサ部30の出射する2つの光信号の一方を単一モードファイバで形成した出力光ファイバ22を介して光電変換器14に入力するとともに、他方を入力光ファイバ21,偏光解消素子13,分光素子12を介し、光電変換器14に入力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光電流センサに関する。
【背景技術】
【0002】
ファラデー効果を利用した光電流センサは電磁雑音の影響を受けないなどの利点があり、電力分野における電流の測定に利用されている。このような光電流センサは例えば、1998年発行の電気学会電線ケーブル研究会資料EC−98−8や、特開平7−248338に開示されている。
【0003】
研究会資料(EC−98−8)に記載の光電流センサの構成の概要を図2に示す。光電流センサは、光源11、偏光解消素子(デポラライザ)13、光電変換器14から成る信号処理部10と、センサ部30と、信号処理部10とセンサ部30とを接続する入力光ファイバ21および出力光ファイバ22から成る光伝送路20により構成されている。ここで、光源11に高輝度発光ダイオード(高輝度LED)を、入力光ファイバ21および出力光ファイバ22に単一モードファイバを使用している。
【0004】
この構成の光電流センサは、光源11が有する偏波の偏りを偏光解消素子13で解消した後、入力光ファイバ21を介してセンサ部30に送ることにより、センサ部30に供給する光強度を一定にできる。そのため、入力光ファイバ21が受ける外乱により生じる光電流センサの出力変動を小さくすることができる。
【0005】
一方、電力用送電線は架空地線に単一モード光ファイバを内蔵した構造のもの(OPGW)が普及している。そのため、信号処理部10とセンサ部30とを接続する光伝送路20を単一モードファイバにすることにより、光伝送路を新たに敷設することなく光電流センサを利用することができる。
【0006】
次に、前記公報(特開平7−248338)記載の光電流センサの構成の概要を図3に示す。光電流センサは、光源11、分光素子12、光電変換器14から成る信号処理部10と、偏光素子31、光学バイアス素子32、ファラデー素子33、反射ミラー34より成るセンサ部30と、信号処理部10センサと部30とを接続する入力光ファイバ21および出力光ファイバ22から成る光伝送路20により構成されている。ここで、分光素子12に偏光素子および45度のファラデー回転子から成る偏波依存型サーキュレータを、入力光ファイバ21に偏波面保持ファイバを、出力光ファイバ22にマルチモードファイバを使用している。
【0007】
この構成の光電流センサは、ファラデー素子33を光ファイバで形成し、その一端に反射ミラー34を設けることにより、被測定電流が流れる導体40を切り離すことなく当該センサ部30を取り付けることができる。また、センサ部30から出力される位相が反転した2つの光信号を使用することにより、ファラデー素子33が受ける外乱により生じる複屈折の影響をキャンセルできるため、電流計測精度を向上できる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、図2の構成では、光源11に使用する高輝度LEDの発光量と、光電変換器14の最低受光量から光伝送路20の最大距離を算出すると5km程度となる。
【0009】
一方、電力分野では架空送電線と地中送電線の混在線路において事故が発生した場合、事故区間が架空送電線で生じたものか、地中送電線で生じたものかを判定できる装置(地中線事故区間判定装置)が実用化されている。この判定には地中送電線の両端に存在する架空送電線との接続部に流れる零相電流の大きさと位相を比較する必要がある。そのため、この装置に使用する光電流センサは電流情報を長距離伝送できなければならない。地中送電線は長いものでは20kmを越えるものがあるため、従来の伝送距離を更に長距離化できる光電流センサが望まれている。
【0010】
また、図2の構成による光電流センサは、センサ部30から出射する光を1つしか使用しないため、センサ部30が受ける外乱の影響を除去することができない。その結果、光電流センサの電流計測精度が低下する。
【0011】
一方、前述した地中線事故区間判定装置では判定精度を上げるために、より高い電流計測精度を有した光電流センサが望まれている。
【0012】
また、図3の構成では、精度の良い電流計測ができるものの、入力光ファイバ21に偏波面保持ファイバを使用しているため、前述したOPGWに収納された単一モードファイバを使用することは困難である。そのため、この光電流センサの出力を長距離伝送するためには、新たに光伝送路を敷設する必要が生じる。しかし、偏波面保持ファイバは単一モードファイバと比較して高価であるため、偏波面保持ファイバを敷設することは現実的とは言えない。
【0013】
仮に図3における入力光ファイバ21を単一モードファイバで構成すると、単一モードファイバには偏波方位を安定に伝送する機能が無いため、分光素子12である偏波依存型サーキュレータを通過した直線偏波光の方位は、単一モードファイバが外乱を受けることにより生じる複屈折により、単一モードファイバ伝搬中に任意に変化する。その結果、センサ部30に到達する光の偏波方位は時間毎に変化する。センサ部30に入射する光の偏波方位が時間毎に変化すると、それに伴って偏光素子31を通過しファラデー素子33に供給される光量が変動する。その結果、被測定電流が無通電の状態において光電変換器14に入射する光量が変化する。この光量変動は光電流センサの電流測定精度を低下させる原因となる。
【0014】
そこで本発明は、光伝送路に単一モードファイバを使用し、なおかつ計測精度が高く、長距離伝送が可能な光電流センサの構成を提案することにある。
【0015】
また、その光電流センサを使用した地中線事故区間判定装置を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の請求項1では、被測定電流が流れる導体に光ファイバで形成されたファラデー素子を周回させ、ファラデー効果により回転する光の偏波方位を光強度に変換する手段を設け、その光強度の変化から被測定導体に流れる電流の大きさを算出する光電流センサにおいて、光源と、被測定導体に流れる電流の大きさを位相が反転した2つの光強度信号に変換するセンサ部と、そのセンサ部から得られる2つの光信号を電気信号に変換し、その電気信号を演算することにより電流値を算出する光電変換器と、前記光源と前記センサ部とを接続する単一モードファイバで形成した入力光ファイバと、前記センサ部と前記光電変換器とを接続する単一モードファイバで形成した出力光ファイバと、前記光源と前記入力光ファイバとの間に配置した偏光解消素子と、前記光源と前記偏光解消素子との間に配置し、前記光源から出射した光を偏光状態と強度を変化させることなく前記偏光解消素子に供給するとともに、前記入力光ファイバおよび前記偏光解消素子を介して前記センサ部から入力される光を偏光状態と強度を変化させることなく前記光電変換器に供給する分光素子と、を備えたことを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項2では、前記光源が希土類元素添加物ファイバを半導体レーザ等の励起用光源で励起することにより生じた自然放出光がファイバ内を導波するに従い増幅する現象を利用した光源であることを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項3では、架空線路と地中線路が混在する送電線路における事故区間判定装置において、請求項1および請求項2記載の光電流センサを備えたことを特徴とする。
【0019】
上記構成による光電流センサでは、光伝送路に単一モードファイバを使用でき、なおかつ計測精度が高く、長距離伝送が可能な光電流センサを提供できる。
【0020】
また、その光電流センサを使用した地中線事故区間判定装置を提供できる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、上記構成による光電流センサでは、光伝送路に単一モードファイバを使用でき、なおかつ計測精度が高く、長距離伝送が可能な光電流センサを提供できる。また、その光電流センサを使用した地中線事故区間判定装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下2つの実施例について説明する。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。尚、以下の説明では、上記従来の技術で参照した図において、同一もしくは相当する部分には同一符号を付してその説明は省略している。
【0024】
図1は本発明のうち請求項1および請求項2の実施形態である光電流センサの構成を示した一例である。図1では、光源11と偏光解消素子13との間に分光素子12を配置する。また、センサ部30は電流計測精度を向上させるために2つの光信号を出力するものとし、一方の出力光は出力光ファイバ22を介して、もう一方の出力光は入力光ファイバ21、偏光解消素子13および分光素子12を介して光電変換器14に入射する構造となっている。
【0025】
ここで、光源11には希土類元素添加物ファイバを半導体レーザ等の励起用光源で励起することにより生じた自然放出光がファイバ内を導波するに従い増幅する現象を利用した光源(ASE)を使用する。また、入力光ファイバ21および出力光ファイバ22に単一モード光ファイバを使用する。ASEは、出力光量が大きい(数十mW)、時間的コヒーレンスが低い、空間的コヒーレンスが高いなどの特徴を有しており、光電流センサの光源として適している。また、出力光の偏光度は小さいため、偏光解消素子による無偏光化が容易となる。そのため、入力光ファイバ21を単一モードファイバとする光電流センサにおける光源として優れている。
【0026】
また、分光素子12に偏波無依存型サーキュレータを使用する。偏波無依存型サーキュレータを分光素子12として使用することにより、光源11から出射した光を偏波状態と強度を変化させることなく偏光解消素子13に供給するとともに、入力光ファイバ21、偏光解消素子13を介して偏光素子31から入力される光を偏光状態と強度を変化させることなく光電変換器14に供給することができる。
【0027】
以下に、図1に示す光電流センサの構成により、長距離伝送が可能である理由を試験データを踏まえて説明する。長距離伝送が可能であることを裏付けるために、光伝送路20を長距離にした状態で戻り光量が十分確保できること、光伝送路20が受ける外乱により光電流センサの出力が変動しないこと、の2項目について検証を行った。
【0028】
まず、図1に示す光電流センサの構成により長距離伝送が可能となることを示す試験として、分光素子12に偏波無依存型サーキュレータ、偏波依存型サーキュレータ、カプラの3種類を用いて光挿入損失の測定を行った。その結果を下表に示す。光損失(P)は、光源11の発光量(P0)から光電変換器14の受光量(分光素子12側をP1、出力光ファイバ22側をP2)を引いた値を示している。この試験では入力光ファイバ21、出力光ファイバ22の長さをそれぞれ10kmとしている。この表より分光素子12に偏波無依存型サーキュレータを使用することにより、他の分光素子を使用したものより約6dB低減できることがわかる。
【0029】

【0030】
一方、光源11にASEを使用した場合の発光量(P0)は+10dBm以上である。また、電流計測精度を保証するためには少なくとも−20dBmの光量が必要となる。ここで、片道10kmの光伝送路20の光損失を含む光電流センサの光損失を20dB、光伝送路20の光損失を0.5dB/kmとすると、試験に使用した光伝送路20の距離を更に10km延長することが可能であることが分かる。つまり、図1に示す構成の光電流センサでは20km以上の長距離伝送が可能となる。
【0031】
次に、図1に示す光電流センサの構成により、光伝送路20が受ける外乱により光電流センサの出力が変動しないことを検証した試験結果を説明する。試験は図1に示す光電流センサの構成において単一モードファイバを使用した入力光ファイバ21を揺動させ、そのときの光電流センサの出力を測定した。また、分光素子12の特性が比較できるように、偏波無依存型サーキュレータ、偏波依存型サーキュレータ、カプラの3種類について行った。試験結果を下表に示す。この試験結果より、偏波無依存型サーキュレータを使用した場合と、カプラを使用した場合の入力光ファイバ21の揺動に対する影響は実用上問題が無い程度に小さいが、偏波依存型サーキュレータを使用した場合は実用に耐えられない程の影響を受けることがわかる。
【0032】

【0033】
図4は本発明のうち請求項3の実施形態である地中線故障区間判定装置の一例を示す。架空線路と地中線路が混在する送電線路において、架空送電線41と地中送電線42との一方の接続部付近にセンサ部30aを、もう一方の接続部付近にセンサ部30bを取り付ける。
【0034】
光源31aを出射した光は分光素子12a、偏光解消素子13a、入力光ファイバ21aを介してセンサ部30aに入射する。センサ部ではファラデー効果を利用することで、入射した光を地中送電線42に流れる電流により発生する磁界の大きさに依存した光の偏波方位の回転角度を2つの光強度に変換して出射する。一方の光信号は出力光ファイバ22aと介して光電変換器14aに入射される。もう一方の光信号は入力光ファイバ21a、偏光解消素子13a、分光素子12aを介して光電変換器14aに入射される。光電変換器14aでは2つの光信号を電気信号に変換した後、所定の演算を行い、センサ部30aを取り付けた位置の地中送電線42に流れる電流を算出する。
【0035】
同様に、光電変換器14bではセンサ部30bを取り付けた位置の地中送電線42に流れる電流を算出する。
【0036】
光電変換器14a、14bで得られた電流情報は、区間検出装置15に送られ、電流値と位相差から地絡事故が架空送電線41で発生したのか、地中送電線42で発生したのかを判定する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係わる、光電流センサの構成の一例を示す図である。
【図2】従来の光電流センサの構成の一例を示した図である。
【図3】従来の光電流センサの構成の別の一例を示した図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係わる、光電流センサを使用した地中線事故区間判定装置構成の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
10 信号処理部
11 光源
12 分光素子
13 偏光解消素子
14 光電変換器
15 区間検出装置
20 光伝送路
21 入力光ファイバ
22 出力光ファイバ
30 センサ部
31 偏光素子
32 光学バイアス素子
33 ファラデー素子
34 反射ミラー
40 導体
41 架空送電線
42 地中送電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定電流が流れる導体に光ファイバで形成されたファラデー素子を周回させ、ファラデー効果により回転する光の偏波方位を光強度に変換する手段を設け、その光強度の変化から被測定導体に流れる電流の大きさを算出する光電流センサにおいて、
光源と、被測定導体に流れる電流の大きさを位相が反転した2つの光強度信号に変換するセンサ部と、
そのセンサ部から得られる2つの光信号を電気信号に変換し、その電気信号を演算することにより電流値を算出する光電変換器と、
前記光源と前記センサ部とを接続する単一モードファイバで形成した入力光ファイバと、
前記センサ部と前記光電変換器とを接続する単一モードファイバで形成した出力光ファイバと、
前記光源と前記入力光ファイバとの間に配置した偏光解消素子と、
前記光源と前記偏光解消素子との間に配置し、前記光源から出射した光を偏光状態と強度を変化させることなく前記偏光解消素子に供給するとともに、前記入力光ファイバおよび前記偏光解消素子を介して前記センサ部から入力される光を偏光状態と強度を変化させることなく前記光電変換器に供給する分光素子と、
を備えたことを特徴とする光電流センサ。
【請求項2】
前記光源は、希土類元素添加物ファイバを半導体レーザ等の励起用光源で励起することにより生じた自然放出光がファイバ内を導波するに従い増幅する現象を利用した光源であることを特徴とする、請求項1に記載の光電流センサ。
【請求項3】
架空線路と地中線路が混在する送電線路における事故区間判定装置において、
請求項1および請求項2記載の光電流センサを備えたことを特徴とする地中線事故区間判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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