説明

免疫抑制剤を含む眼科用エマルジョン

【課題】安定性及び生物学的利用能の両方の要求を満たす、眼科用のエマルジョンの提供。更には、特にドライアイの治療薬の製造における、該エマルジョンの使用の提供に関する。
【解決手段】界面膜によって囲まれた、油性の核を有するコロイド粒子を含む眼科用のエマルジョン。該エマルジョンには、少なくとも一つの免疫抑制剤(好ましくはシクロスポリン、シロリムス、タクロリムスからなる群から選択される)が、油脂及びチロキサポールを含む溶剤中に含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広義には眼科用組成物、具体的には眼科用エマルジョンであって、油及び好ましくはチロキサポールを含む特異的な溶剤中に活性成分としての免疫抑制剤を含み、眼の症状、特にドライアイの治療に適するものに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明において、ドライアイとは、眼乾燥及び/若しくは涙液減少に関連する症状(角膜面からの液体の蒸発に関連する病理学的症状を含むがこれに限られない)、又は涙液の不十分な産生に起因する、不完全な涙液膜若しくは、一般的には、あらゆる角膜若しくは結膜の乾燥に関連する症状、並びに、それらから生じる、角膜炎又は角膜上皮浸食のような、あらゆる症状に関連するものを指す。例えば、乾性角結膜炎(KCS)、アトピー性乾性角結膜炎(AKC)、及び春季角結膜炎(VKC)がドライアイに含まれる。
【0003】
シクロスポリン類は、様々な製薬用途(例えば免疫抑制剤及び抗炎症用途)に適用可能な、ペプチド化合物の大きなカテゴリーである。シクロスポリンには、シクロスポリンA、B、C及びDが含まれる。最も広範に研究されているシクロスポリンは、シクロスポリンA及びシクロスポリンA誘導体である。他の一般的な免疫抑制剤には、シロリムス又はタクロリムス及びそれらの誘導体が存在する。
【0004】
シクロスポリンの水中油滴型の眼科用エマルジョンがこれまで報告され、その中のエマルジョンについて、「Restasis(登録商標)」(シクロスポリンの眼科用エマルジョン、0.05%)としてAllergan社から市販されている。
【0005】
特許文献1では、免疫性乾性角膜炎(KCS)の治療へのシクロスポリンの使用、及び涙液減少を呈する眼球における涙液の産生増加(特に、涙腺の免疫性機能不全を罹患する患者向けの)方法が記載されている。この特許で開示される方法には、医薬賦形剤(オリーブ油、ピーナッツオイル、ヒマシ油又は鉱物油)と共にシクロスポリン(好ましくはシクロスポリンA)を投与することが含まれる。
【0006】
Shulin Ding 及びOrest Olejnikは、1997年11月3日上のAAPS年次総会のポスター発表において、0.1〜0.4%のシクロスポリンを使用し、シクロスポリン/油=0.08の重量比の、ヒマシ油ベースの水中油滴型エマルジョンに関して報告している。このポスターにおいて、油中のシクロスポリンA濃度が、特異的な油性溶剤であるヒマシ油のシクロスポリンの溶解度(10%w/w)より少ない7.4%w/wで最適であることが開示されている。
【0007】
特許文献2には、0.1%未満のシクロスポリンを含み、シクロスポリン/ヒマシ油の重量比0.08未満のエマルジョンの投与を含む、ヒトの眼の治療方法を開示している。
【0008】
この上記で引用した特許出願において、その他の油脂に関して記載されているものの、シクロスポリンがいかなる油性賦形剤中でも同様の機能を発揮しうるか否かに関しては、当業者に明らかにされてはいない。その理由は、全ての油脂において同様の可溶性を有するわけではなく、また一つの油性賦形剤の場合におけるシクロスポリンの生物学的利用能が、他の油性賦形剤の場合におけるその生物学的利用能に関する情報を提供しないためである。
【0009】
エマルジョンとは、二つの相互に不溶性の液相から構成される系を指し、その一つの相が、微細な小滴の状態で他の相全体にわたって分散し、その系が第三成分(乳化剤)によって安定化しているものである。エマルジョンは本質的に不安定であり、乳化剤はその最初の形成及び長期間の安定化にとって不可欠である。
【0010】
その小滴のサイズはミクロン以下又はナノサイズであるため、エマルジョンは透明であり、ブラウン運動によりその沈降又はクリーミングが防止され、それゆえ安定性が増加する。
【0011】
エマルジョンの不安定性は、クリーミング(密度の違い)、オストワルト熟成(不均化)、フロック形成(粒子間衝突による凝集)及び合一(各小滴の融合)による相分離として現れる。決定的な違いとしては、凝集が可逆的であることが多いのに対し、合一はそうでないことである。小滴合一の過程は通常、エマルジョンが時間経過と共に合一する(すなわち貯蔵時に小滴の平均粒径が増加する)ことで生じる。
【0012】
大きい凝集体の存在により、クリーミングが促進され、それにより合一が生じやすくなる。これは、クリーミング率の相違により滴の衝突率が増加する多分散系において特に見られる。結果として、エマルジョンの小滴の径分布により、エマルジョン特性(例えば長期安定性)が規定される。
【0013】
したがって、単峰性の小滴分布は、薬成分の均一性以外にも安定性を向上させる効果もあり、またそれは医薬用途における医薬の正確な投与にとって必要不可欠である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第4,839,342号公報
【特許文献2】国際公開第2005/032577号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
先行技術の製剤、例えばRestasis(登録商標)は、現在のところ、治療方法が他にほとんどない症状の治療に有用であるが、その先行技術の製剤の生物学的利用能が最適でないことが公知であり、またRestasis(登録商標)の欠点の一つして、例えば最大限の効果を得るには数週間かかることが知られている。更に、ヒマシ油系シクロスポリンエマルジョン(例えばRestasis(登録商標))は、二モード性の小滴分布を示す(Ding、AAPS1997の要約)。この種の製剤は、油滴の合一により貯蔵寿命が減少することが考えられる。
【0016】
したがって、少なくとも物理化学的安定性が不変であり、更に薬物の生物学的利用能が改良されたエマルジョンを用いた、従来技術に替わるドライアイの治療方法が今なお求められている。本発明において、生物学的利用能とは、その投与の後、眼の標的組織において検出できる医薬のパーセンテージを意味する。医薬の検出は、薬力学的(シクロスポリンに対する生物反応の定量化)又は薬物動態的(実際の薬剤濃度の定量化)に行うことができる。
【0017】
更に、ドライアイ患者の眼は非常に敏感であるため、治療と同時に爽快感を提供しうる組成物を提供することも本発明の課題である。
【0018】
本発明の課題は、これらの特性を有する眼科用のエマルジョンの提供である。すなわち、本発明のエマルジョンは各種成分の組み合わせより構成されるものであり、それらは安定性及び生物学的利用能の両方の要求を満たすものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
すなわち、本発明は界面膜によって囲まれた、油性の核を有するコロイド粒子を含む眼科用のエマルジョンに関する。該エマルジョンは、少なくとも一つの免疫抑制剤(好ましくはシクロスポリン、シロリムス、タクロリムスからなる群から選択される)が、油脂及びチロキサポールを含む溶剤中に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のエマルジョン(EM050)と「Restasis(登録商標)」をウサギに点眼した後、0.33、0.66、1、2、4、8、12及び24時間の時点における、結膜組織中のCsA濃度を示すグラフ(実施例7)。
【図2】本発明のエマルジョン類における、CsA/油比率とその結膜中濃度との間の相関関係を示すグラフ(実施例8)。
【発明を実施するための形態】
【0021】
発明者らは驚くべきことに、MCT(とりわけ植物油が選択される)の使用により、予想できない顕著な安定性及び生物学的利用能が、シクロスポリン含有眼科用エマルジョンに付与されることを見出した。また発明者らは、本発明(実施例1から6)のエマルジョンにおいては、MCT中に好適にシクロスポリンが溶解し、それがシクロスポリンの生物学的利用能の向上にとって有用な役割を果たすことを見出した。
【0022】
本発明の一実施態様において、MCTの量は、エマルジョン中の油の総量に対するMCT重量の場合、少なくとも50重量%である。好適な実施態様では、エマルジョン中の油成分の100%がMCTである。好ましくはMCTの量は、エマルジョンに対して0.5〜4%、より好ましくは0.9〜3%、更に好ましくは2%(w/w)である。
【0023】
本発明の好ましい実施態様では、チロキサポールの量はエマルジョンの総重量の1%未満、好ましくは0.01〜0.6重量%である。
【0024】
より驚くべきことに、発明者らは、MCTをチロキサポールと組み合わせると、免疫抑制剤の生物学的利用能の面で良い結果が得られることを見出した(実施例7)。発明者らはまた、免疫抑制剤(特にシクロスポリン、シロリムス又はタクロリムス)を含む本発明の眼科用エマルジョンにおける、MCTとチロキサポールとの相乗効果を見出した。
【0025】
最後に、国際公開第2005/032577号パンフレットにおいて、ヒマシ油系(1.25%)エマルジョンにおいて、0.05%〜0.1%(すなわち0.04〜0.08のCsA/油比率)にシクロスポリンの量を増加させても、ドライアイ治療における全体的な効果が改善されなかったことが記載されている。この教示にも関わらず、発明者らは予想外にも、本発明のエマルジョン中の免疫抑制剤の量を増加させると、眼の標的部に送達される薬剤量が増加することを見出した(実施例8を参照)。これは、本発明のエマルジョンが免疫抑制剤/油の特定の比率に限定されないことを意味する。すなわち、本発明のエマルジョンは標的部位に送達される薬の治療量を増加させることを可能にし、ゆえに使用される免疫抑制剤の治療上の価値を高めるものである。
【0026】
本発明の一実施態様では、エマルジョンは、他のいかなる適切な油性成分であって、特にオリーブ、大豆、穀物、ミネラル、綿実、ベニバナ及びゴマの油からなる群から選択される一つ又は複数のものを更に含めても良い。本発明の好ましい実施態様において、該エマルジョンはヒマシ油を含まない。
【0027】
本発明の第一の実施態様において、該エマルジョンはアニオン性である。好適な実施の形態によれば、本発明のエマルジョンは、リン脂質、コール酸及びその誘導体、カルボキシメチルセルロース金属塩、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース金属塩、カルボキシメチル澱粉金属塩、カルボキシメチルヒドロキシエチル澱粉金属塩、ポリアクリルアミド及びポリアクリロニトリルの加水分解物、ヘパリン、グルコアミノグリカン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ペプチド及びポリペプチド、アルギン酸、アルギン酸金属塩、アクリル酸及びメタクリル酸、アクリル酸金属塩、メタクリル酸ビニルスルホン酸エステル、ビニルスルホン酸金属塩、アミノ酸(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸など)、アミノ酸金属塩、p−スチレンスルホン酸、p−スチレンスルホン酸金属塩、2−メタクリロイルオキシエチルスルホン酸、2−メタクリロイルオキシエチルスルホン酸金属塩、3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルスルホン酸、3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルスルホン酸金属塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸金属塩、アリールスルホン酸、アリールスルホン酸金属塩などから選択される一つ以上によるホモポリマー及びコポリマー、からなる群から選択される一つ以上の成分を含む。
【0028】
本発明の第二の実施態様において、該エマルジョンはカチオン性である。この実施態様において、カチオン性物質は0.001〜0.1重量%、好ましくは0.002〜0.05重量%、より好ましくは0.003〜0.03重量%の濃度で含まれるのが好ましい。この第二の実施態様が特に好ましいが、なぜなら、エマルジョンの正の帯電が、エマルジョン中のシクロスポリンの生物学的利用能を改善することが明らかとなっているからである。好ましくは、本発明のカチオン性のシクロスポリン含有眼科用エマルジョンは水中油滴(oil−in−water)型エマルジョンであり、それは界面膜によって囲まれた、油性の核を有するコロイド粒子を含むものである。該エマルジョンは少なくとも一つのカチオン性物質、少なくとも一つの非イオン性界面活性剤を含み、該エマルジョンはゼータ電位を有する。好適な実施態様において、本発明のカチオン性の眼科用エマルジョンは、後述するようにゼータ電位の安定性試験Aの要件を満たすものである。
【0029】
試験Aとは、温度負荷条件下でエマルジョンのゼータ電位の安定性を測定する試験である。
【0030】
エマルジョンのゼータ電位を、T=0時点(すなわちエマルジョンの調製直後)に測定し、得られた値をZ値とする。エマルジョンを5〜10mL含み、窒素雰囲気下(バブリングなし)で密封した有効容積10mLのガラスバイアル(I型)を、80℃で保管する。
【0031】
次いでT=7日にゼータ電位Z日を測定する。
【0032】
次いでT=15日にゼータ電位Z15日を測定する。
【0033】
次いでδA値(=Z7h−Z又はZ15h−Z)を算出する。
【0034】
ゼータ電位の測定は、以下の通り行う。
【0035】
エマルジョン小滴面のゼータ電位は、例えば適切なソフトウェアを備え、標準物質を供給して検量されたMalvern Zetasizer 2000(Malvern Instruments社、UK)などの装置を用い、電気泳動度により測定する。
【0036】
粒子の検出が最適となる散乱強度となるように、必要に応じて該エマルジョンを二回蒸留水で希釈する。ホモダイン検出の場合、試料の計測率を100〜1000KCpsとするべきである(ヘテロダイン検出の場合、対照ビームの寄与度を推定するべきである)。3つの連続的な測定を、25℃にて、150mVの一定電流でセルを駆動させることにより行う。電気泳動度を、水の比誘電率及び粘性から、スモルコフスキー方程式によりゼータ電位値に変換する。得られた3つの値の平均値を測定値とする。
【0037】
δAが測定値の標準誤差未満(好ましくは10mV未満、より好ましくは5mV未満)であるとき、そのエマルジョンがゼータ電位の安定性試験Aに適合しているものとする。
【0038】
本発明の好ましい実施態様において、本発明のエマルジョンにはシクロスポリンAが含まれる。好ましくは、本発明のエマルジョンには、免疫抑制剤、好ましくはシクロスポリン、より好ましくはシクロスポリンAが、0.01〜0.4重量%、より好ましくは0.05〜0.3重量%含まれる。本発明の他の実施態様において、エマルジョンに対して0.01〜0.3重量%、好ましくは0.05〜0.2重量%のタクロリムスが、該エマルジョン中に含まれる。本発明の他の実施態様において、エマルジョンに対して0.01〜0.3重量%、好ましくは0.05〜0.2重量%のシロリムスが、該エマルジョン中に含まれる。
【0039】
本発明の他の好ましい実施態様において、油脂に対する免疫抑制剤の重量比は、0.0125〜0.1である。本発明の特定の実施態様において、エマルジョンの油脂に対する免疫抑制剤の重量比は、0.083〜0.1である。本発明の他の特定の実施態様において、エマルジョンの油脂に対する免疫抑制剤の重量比は、0.0125〜0.05である。好ましくは、本発明のエマルジョンはミクロン以下のサイズ、最も好適な実施態様においては単峰性の径のミクロン以下のサイズ(すなわち本発明のコロイド粒子が1μm以下のサイズで非常に均一であることを意味し、0.2付近、通常、0.1〜0.15の小滴サイズの多分散性指数を有する)である。多分散性指数の算出法は、ISO標準書13321:1996Eにて定義されている。
【0040】
本発明のエマルジョン中のコロイド粒子は、好ましくは1μm以下、より好ましくは300nm以下、更に好ましくは100〜250nmの平均粒度を有する。
【0041】
本発明の好ましい実施態様において、本発明のエマルジョン類は、カチオン性のミクロン以下のサイズのエマルジョンであって、エマルジョンの陽ゼータ電位に影響を及ぼす程の陰電荷を生じさせるいかなる物質も含まない。本実施例において、該エマルジョンは好ましくはリン脂質を含まない。
【0042】
本発明はまた、少なくとも一つの免疫抑制剤(好ましくはシクロスポリン、好ましくはシクロスポリンA、シロリムス又はタクロリムス及びMCT及びチロキサポールからなる群から選択される)を含むエマルジョンの調製方法であって、一段階の剪断混合とそれに続く高圧ホモジナイズ工程を含む方法に関する。
【0043】
本発明に係る調製方法、使用方法の最良の形態を、以下の実施例に記載する。これらの実施例は、本発明に係る調製方法、使用方法の方針及び指針を提供するものに過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【0044】
(実施例)
以下の実施例において、以下の略記を使用する。
MCT:中鎖脂肪酸(Societe des Oleagineux、フランス)
BAK:塩化ベンザルコニウム
CsA:シクロスポリンA
Cremophor:Cremophor EL(BASF社、ドイツ)
Lipoid E80(Lipoid社、ドイツ)
Lutrol:Lutrol F68(BASF社、ドイツ)
Pemulen TR−2(Noveon社、米国)
Phospholipon 90G(Natterman社、ドイツ)
【実施例】
【0045】
実施例1 本発明のエマルジョン類の調製
油相の成分を連続して秤量し、次いで、透明でわずかに粘着性のある相が得られるまで若干加熱しながら撹拌した。水相の成分を連続して秤量し、次いで、透明かつ流動性の相が得られるまで若干加熱しながらマグネチックスターラーで撹拌した。両相を加熱し、更に油相に水相を急速に添加し、急速に75℃まで加熱することにより、きめの粗いエマルジョンを形成した。エマルジョンは白く、わずかに透明であった。その後、エマルジョン小滴のサイズを、例えばPOLYTRON PT6100を使用して激しく剪断混合して減少させ、次いで冷却した。
【0046】
例えば複数の連続サイクルを使用する高圧ホモジナイザー(C5、Avestin社)などの適切な機器で高圧ホモジナイズし、最終的なエマルジョンを得た。最終的なエマルジョンは、乳状で非常に流動性が高かった。エマルジョン温度をその後25℃まで低下させ、0.1MのHCl又は0.1MのNaOH溶液を用いてpHを測定しつつ、pH6.0、7.0、8.0に調整した。121℃で20分のオートクレーブ、又は0.22μmの濾過滅菌によって滅菌ができる。
【0047】
実施例2 本発明のエマルジョンの解析
エマルジョン小滴の平均粒径は、例えばHigh Performance Particle Sizer(Malvern Instruments社、英国)を使用して、水への希釈後の準弾性光散乱によって測定した。この測定は、多分散性指数の測定にも使用される。電気泳動度は、25℃にて、Malvern Zetasizer 2000(Malvern Instruments社、UK)のような適切な装置により測定し、その後、二回蒸留水により200倍希釈し、スモルコフスキー方程式を用いゼータ電位に変換した。エマルジョン中のCsAは、通常のHPLC−UV法で測定した。
【0048】
実施例3 CsA/油/チロキサポールを含む本発明の組成物
【0049】
【表1】

【0050】
実施例4 本発明の組成物の安定性
方法:
オートクレーブ又は濾過滅菌の後、80℃における加速安定性試験において、油滴サイズ、ゼータ電位及びCsA含量などの物理化学的パラメータを測定することによりエマルジョンの安定性を解析した。
結果:
【0051】
【表2】

【0052】
結論:
剪断混合工程及びそれに続く高圧ホモジナイズ工程を含む本発明の処理によって得られるCsAのMCT/チロキサポールベースのエマルジョンは、調製直後、また80℃にて少なくとも2週間安定であった。
【0053】
実施例5 比較例:CsA/ヒマシ油を含む組成物
【0054】
【表3】

【0055】
実施例6 CsA/ヒマシ油を含むエマルジョン類の安定性
方法:
実施例1から4と同様。
結果:
【0056】
【表4】

【0057】
パーセンテージは、散乱光で測定された相対値を示す。
結論:
上記のホモジナイズ方法によって得られたCsAのヒマシ油エマルジョンは、調製後又は80℃にて1週後も不安定であった。
【0058】
実施例7 薬物動態パラメータによって評価される、本発明のエマルジョンの有効性
方法:
HYRNZ104系統の96匹の着色ウサギを48匹の動物ずつの二治療群に無作為に分割し、各群を、8つの時点(0.33、0.66、1、2、4、8、12及び24時間)に対応する、動物6匹ずつの8サブグループに再分割した。上記のEM050又はRestasis(登録商標)(Allergan社、米国)を、上記の動物の右眼に一滴点眼した。対応する各時点において動物を安楽死させ、結膜を採取した。CsAの含量をHPLC−MSで測定した。
結果:
図1に示す。
結論:
本発明に記載されているエマルジョンは、少なくともヒマシ油ベースの市販のエマルジョン「Restasis(登録商標)」と同程度の良好な組織中濃度を示した。
【0059】
実施例8 本発明のエマルジョンのCsA/油比率がその有効性に与える影響の、薬物動態パラメータによる評価
方法:
HYRNZ104系統の144匹の着色ウサギを、動物48匹ずつの3治療群に無作為に分割し、各群を更に8つの時点(0.33、0.66、1、2、4、8、12及び24時間)に対応する、動物6匹ずつの8サブグループに分割した。上記のEM048、EM050又はEM053(0.025、0.05及び0.1重量%のCsA、0.2重量%MCTエマルジョン中)を、動物の右眼に一滴点眼した。対応する各時点において動物を安楽死させ、結膜を採取した。CsAの含量をHPLC−MSで測定した。動物の化合物への曝露を示す曲線の下の領域(AUC)を、台形則を使用して算出した。
結果:
図2に示す。
結論:
本発明のエマルジョン類では、CsA/油比率とその結膜での濃度との間で直線の相関関係が見られた。臨床効果とCsA濃度が相関することから、この特定の溶剤を使用した場合、CsAを増加させることにより治療効果を高めることができると考えられる。
【0060】
実施例9 本発明のエマルジョン類の眼許容度
この試験は、本発明のエマルジョン(EM048、EM050及びEM053、上記実施例の組成を参照)をアルビノウサギの右眼へ28日連続の眼局所投与した後における、眼許容度の決定を目的として行った。
方法:
一群当たり10匹(5匹のオス及び5匹のメス)のニュージランドホワイト種の白色ウサギをこの試験に使用した。28日連続で、1日4回の処置(50μLの眼局所投与)を行った。一般の許容度(体重、餌及び水の消費量、所見、臨床徴候、血液及び血液生化学)、眼許容度(検鏡、細隙灯検査及び眼組織学的観察結果)及び剖検(肉眼による顕著な検査、主要器官重量)により解析した。また、統計分析(MANOVA LSD試験)を、生体及び器官重量、餌及び水の消費量データ、血液学的及び生化学的パラメータについて行った。
結果:
一般的な挙動、摂食及び水消費量、体重並びに器官重量は処置による影響が表われなかった。剖検において、治療による著しい観察結果は見られなかった。眼及び付属器官に対する眼科観察及び顕微鏡観察でも悪影響が見られなかった。眼の反応としては、わずかな結膜の赤みのみが見られたが、それは試験に使用した全ての動物において観察され、またそれは眼薬の多数滴下後のウサギにおいて一般に観察されるものである。
結論:
本発明のエマルジョンは、慢性的に局所投与を行っても十分に許容されるものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面膜によって囲まれた、油性の核を有するコロイド粒子を含み、眼科用水中油滴型エマルジョンであって、そのエマルジョンが免疫抑制剤、油脂及びチロキサポールを含み、
前記免疫抑制剤はシロリムス又はタクロリムスであり、
前記エマルジョンがカチオン性であり、
前記エマルジョンがリン脂質を含まない、眼科用水中油滴型エマルジョン。
【請求項2】
局所的に投与できる、請求項1記載の眼科用水中油滴型エマルジョン。
【請求項3】
前記油性の成分の少なくとも50%が中鎖脂肪酸である、請求項1又は2のいずれか一項記載の眼科用水中油滴型エマルジョン。
【請求項4】
前記エマルジョンが、エマルジョンの総重量に対して0.5%〜4%の中鎖脂肪酸を含む、請求項3に記載の眼科用水中油滴型エマルジョン。
【請求項5】
前記免疫抑制剤の量が、エマルジョンの0.01%〜4%(w/w)である、請求項1乃至4のいずれか一項記載の眼科用水中油滴型エマルジョン。
【請求項6】
前記免疫抑制剤の量が、エマルジョンの0.05%〜0.3%(w/w)である、請求項1乃至4のいずれか一項記載の眼科用水中油滴型エマルジョン。
【請求項7】
前記チロキサポールの量が、エマルジョンの総重量に対して0.01重量%〜1%重量未満である、請求項1乃至6のいずれか一項記載の眼科用水中油滴型エマルジョン。
【請求項8】
前記チロキサポールの量が、エマルジョンの総重量に対して0.01重量%〜0.6重量%である、請求項1乃至6のいずれか一項記載の眼科用水中油滴型エマルジョン。
【請求項9】
オリーブ油、大豆油、穀物油、ミネラル油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油からなる群から選択される一つ又は複数の油脂を更に含む、請求項1乃至8のいずれか一項記載の眼科用水中油滴型エマルジョン。
【請求項10】
前記カチオン性の物質を0.001%〜0.1%(w/w)含む、請求項1乃至9のいずれか一項記載の眼科用水中油滴型エマルジョン。
【請求項11】
前記カチオン性の物質を0.002%〜0.05%(w/w)含む、請求項10記載の眼科用水中油滴型エマルジョン。
【請求項12】
前記カチオン性の物質を0.003%〜0.03%(w/w)含む、請求項10記載の眼科用水中油滴型エマルジョン。
【請求項13】
前記カチオン性の物質が塩化ベンザルコニウムである、請求項1乃至12のいずれか一項記載の眼科用水中油滴型エマルジョン。
【請求項14】
ゼータ電位安定性試験Aに適合する、請求項1乃至13のいずれか一項記載の眼科用水中油滴型エマルジョン。
【請求項15】
本発明のエマルジョンの前記コロイド粒子が、1μm以下の平均粒子径を有し、その粒子径の分布が単峰性である、請求項1乃至14のいずれか一項記載の眼科用水中油滴型エマルジョン。
【請求項16】
本発明のエマルジョンの前記コロイド粒子が、1μm以下の平均粒子径を有する、請求項1乃至15のいずれか一項記載の眼科用水中油滴型エマルジョン。
【請求項17】
本発明のエマルジョンの前記コロイド粒子が、300nm以下の平均粒子径を有する、請求項1乃至16のいずれか一項記載の眼科用水中油滴型エマルジョン。
【請求項18】
本発明のエマルジョンの前記コロイド粒子が、100〜250nmの平均粒子径を有する、請求項1乃至17のいずれか一項記載の眼科用水中油滴型エマルジョン。
【請求項19】
免疫抑制剤及び油脂及びチロキサポールを含む眼科用水中油滴型エマルジョンの調製方法であって、水相を油相に添加し、その後剪断混合し、次いで高圧ホモジナイズする工程を含み、
前記免疫抑制剤はシロリムス又はタクロリムスであり、
前記エマルジョンがカチオン性であり、
前記エマルジョンがリン脂質を含まない、方法。
【請求項20】
眼科的症状の治療薬の製造における、請求1乃至18のいずれか一項記載の眼科用水中油滴型エマルジョンの使用。
【請求項21】
前記眼科的症状はドライアイである、請求20記載の眼科用水中油滴型エマルジョンの使用。
【請求項22】
乾性角結膜炎、アトピー性乾性角結膜炎又は春季角結膜炎の治療薬の製造における、請求項20記載の眼科用水中油滴型エマルジョンの使用。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−162549(P2012−162549A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−86806(P2012−86806)
【出願日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【分割の表示】特願2007−539521(P2007−539521)の分割
【原出願日】平成17年10月10日(2005.10.10)
【出願人】(507149785)
【Fターム(参考)】