説明

免疫機能調節作用を有する組成物

【課題】安全性が高く、優れた免疫機能調節作用を有する組成物を提供すること。
【解決手段】平均重合度が2.0〜15.0であり、分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を有する酸性キシロオリゴ糖を有効成分とするする免疫機能調節作用を有する組成物。前記の酸性キシロオリゴ糖が、「リグノセルロース材料を酵素的及び/又は物理化学的に処理して酸性キシロオリゴ糖とリグニン成分の複合体を得、次いで該複合体を酸加水分解処理して得られた酸性キシロオリゴ糖」である前記免疫機能調節作用を有する組成物。ウロン酸が、グルクロン酸もしくは4−O−メチル−グルクロン酸である前記免疫機能調節作用を有する組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体に対して安全性の高い免疫機能調節作用を有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
サルモネラ等の病原菌は、腸内において腸管上皮細胞から侵入し、食中毒等の感染症を引き起こすことが知られている。これらの細菌に感染したマクロファージは、病原菌、リポポリサッカライド(LPS)、INF−γ等の刺激により活性酸素や一酸化窒素を産生する。活性酸素や一酸化窒素は病原菌に対して殺菌作用をもつが、過剰に産生されると組織に障害を起こしたり、リウマチ、関節炎、糖尿病あるいは癌等の疾病の発症につながることが知られている。一方、病原菌の感染により、同時にTNF−α等の炎症性サイトカインも誘導される。炎症性サイトカインが過剰に産生されると周辺組織での炎症の増悪を促進する。
もし、生体に病原菌等が感染した時に、活性酸素や一酸化窒素の適度な産生を維持し、炎症性サイトカインの産生を抑制することができれば、感染症の症状を効率よく緩和することができると期待される。このような優れた免疫機能調節作用を有し、人体に対して安全性の高い組成物の開発が望まれている。
【0003】
【特許文献1】特開2000-333692号公報
【特許文献2】特開2003-183303号公報
【特許文献3】特開2004−059481号公報
【特許文献4】特開2003−221339号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、安全性が高く、優れた免疫機能調節作用を有する組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決する為、鋭意研究した結果、ウロン酸残基が付加した酸性キシロオリゴ糖組成物が優れた免疫機能調節作用を持つことを見出し、本発明を完成させるに到った。
なお、本出願人は、酸性キシロオリゴ糖の製造方法や(特許文献1、特許文献2参照)、及び経腸栄養剤、抗炎症剤等の生理作用(特許文献3、特許文献4参照)については既に報告している。
【0006】
本発明においては、上記課題を解決するため、以下の構成を採用する。
すなわち、本発明の第1は、平均重合度が2.0〜15.0であり、分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を有する酸性キシロオリゴ糖を有効成分とする免疫機能調節作用を有する組成物である。
【0007】
本発明の第2は、酸性キシロオリゴ糖が、「リグノセルロース材料を酵素的及び/又は物理化学的に処理して酸性キシロオリゴ糖とリグニン成分の複合体を得、次いで該複合体を酸加水分解処理して得られた酸性キシロオリゴ糖」である、本発明の第1に記載の免疫機能調節作用を有する組成物である。
【0008】
本発明の第3は、ウロン酸が、グルクロン酸もしくは4−O−メチル−グルクロン酸である本発明の第1または第2のいずれかに記載の免疫機能調節作用を有する組成物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、安全性の高い免疫機能調節作用を有する組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の構成について詳述する。本発明はこれにより限定されるものではない。
本発明の免疫機能調節作用を有する組成物とは、平均重合度が2.0〜15.0であり、分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を有する酸性キシロオリゴ糖を有効成分として含有するものである。
キシロオリゴ糖とは、キシロースの2量体であるキシロビオース、3量体であるキシロトリオース、あるいは4量体〜20量体程度のキシロースの重合体をいう。酸性キシロオリゴ糖とは、キシロオリゴ糖1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を有するオリゴ糖である。なお、本発明で使用する酸性キシロオリゴ糖の一分子中のウロン酸残基の個数は、平均1〜5が好ましく、平均1〜2個がさらに好ましい。
【0011】
また、本発明で使用する酸性キシロオリゴ糖は、通常の場合、重合度の異なるキシロオリゴ糖が混合された混合組成物である。酸性キシロオリゴ糖は、天然物から製造するためにこのような混合組成物として得られることが多い。
【0012】
上記混合組成物の重合度は、キシロール鎖長の平均重合度で示される。平均重合度とは、正規分布をとる酸性キシロオリゴ糖のキシロース鎖長の平均であり、本発明で使用する酸性キシロオリゴ糖の平均重合度は、2.0〜15.0が好ましく、2.0〜11.0がより好ましい。キシロース鎖長の上限と下限との差は20以下が好ましく、10以下がより好ましい。
【0013】
また、本発明の酸性キシロオリゴ糖のウロン酸残基は、天然ではペクチン、ペクチン酸、アルギン酸、ヒアルロン酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、デルタマン硫酸等の種々の生理活性を持つ多糖の構成成分として知られている。
本発明におけるウロン酸としては特に限定されないが、グルクロン酸もしくは4−0−メチル−グルクロン酸が好ましい。
【0014】
本発明に使用される酸性キシロオリゴ糖の製造方法としては、様々な方法を用いることが可能であり、特に限定はされない。
【0015】
キシロオリゴ糖の製造方法としては、大別して、(1)木材からキシランを抽出し、それを酵素的に分解する方法(セルラーゼ研究会発行、セルラーゼ研究会報第16巻、2001年6月14日発行、p17−26)、(2)リグノセルロース材料を酵素的及び/又は物理化学的に処理してキシロオリゴ糖成分とリグニン成分の複合体を得、次いで該複合体を酸加水分解処理してキシロオリゴ糖混合物を得る方法、に大別される。
本発明においては、上記(2)の方法が、5〜10量体のように比較的高い重合度のキシロオリゴ糖を大量かつ安価に製造することが可能であるという理由で特に好適に用いられる。
なお、本発明で使用される酸性キシロオリゴ糖は、(2)の方法で得られるキシロオリゴ糖混合物から、1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を有するキシロオリゴ糖を分離することで得られる。以下、その製造方法の概要を示す。
【0016】
キシロオリゴ糖組成物は、化学パルプ由来のリグノセルロース材料を原料とし、加水分解工程、濃縮工程、希酸処理工程、精製工程を経て得ることができる。加水分解工程では、希酸処理、高温高圧の水蒸気(蒸煮・爆砕)処理もしくは、ヘミセルラーゼによってリグノセルロース中のキシランを選択的に加水分解し、キシロオリゴ糖とリグニンからなる高分子量の複合体を中間体として得る。
【0017】
なお、本発明の酸性キシロオリゴ糖の製造には、市販のヘミセルラーゼや、微生物由来のヘミセルラーゼを用いることができる。市販のヘミセルラーゼとしては、例えば、商品名カルタザイム(クラリアント社製)、商品名エコパルプ(ローム・エンザイム社製)、商品名スミチーム(新日本化学工業社製)、パルプザイム(ノボノルディクス社製)、マルチフェクト720(ジェネンコア社)等が挙げられる。また、微生物由来のヘミセルラーゼとしては、トリコデルマ属、テルモミセス属、オウレオバシヂウム属、ストレプトミセス属、アスペルギルス属、クロストリジウム属、バチルス属、テルモトガ属、テルモアスクス属、カルドセラム属、テルモモノスポラ属などの微生物により生産されるキシラナーゼが挙げられる。
【0018】
酵素処理における酵素反応温度は、一般には10〜90℃の範囲が好ましく、30〜60℃の範囲がより好ましい。酵素処理時の反応溶液のpHは3〜10が好ましく、5〜9の範囲がより好ましい。
【0019】
濃縮工程では、逆浸透膜等により、キシロオリゴ糖−リグニン様物質複合体が濃縮され、低重合度のキシロオリゴ糖や低分子の夾雑物などを除去することができる。濃縮工程は逆浸透膜を用いることが好ましいが、限外濾過膜、塩析、透析などでも可能である。
【0020】
上記濃縮工程で得られた濃縮液は、希酸処理工程により、複合体からリグニン様物質が遊離し、酸性キシロオリゴ糖と中性キシロオリゴ糖を含む希酸処理液を得ることができる。
糖液のpHの調整方法としては、糖液に対して鉱酸(例えば塩酸、硫酸、硝酸など)もしくは有機酸(例えばp−トルエンスルホン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸など)を適宜添加して糖液のpHを3.5付近に調整することが一般的であるが、例えば、アンバーライト200C(商品名、ローム・アンド・ハース社製)などのカチオン交換樹脂(イオン交換樹脂)で糖液を処理してpHを下げることも可能である。
【0021】
その後、pH調整の終わった糖溶液を105〜150℃、好ましくは110〜130℃の範囲で加熱し、酸加水分解の処理を行う。処理時間は15分以上が好ましく、さらに言えば30〜60分がより好ましい。酸加水分解の処理時間を90分以上に設定するとオリゴ糖の単糖への分解が進み好ましくない。酸加水分解処理で、キシロオリゴ糖−リグニン複合体からはリグニン様の有機物が分解除去され、酸性キシロオリゴ糖とキシロオリゴ糖へと変換される。糖液を121℃で60分間(pH3.5)の条件で加水分解処理した場合のキシロオリゴ糖複合体から酸性キシロオリゴ糖とキシロオリゴ糖(中性キシロオリゴ糖)への変換効率は約95%である。酸加水分解処理で複合体から切り離されたリグニン様物質は酸性条件下で縮合し沈殿するのでセラミックフィルターや濾紙等を用いた濾過等により除去することができる。また、希酸処理工程の代替として、例えば、リグニン分解酵素を用いた酵素分解による方法でも行うことが可能である。
【0022】
精製工程は、限外濾過工程、脱色工程、吸着工程から構成される。希酸処理後、一部のリグニン様物質は可溶性高分子として糖溶液中に残存するが、限外濾過工程(例えば、分画分子量20000以下のUF膜使用)で除去される。限外濾過工程は限外濾過膜を用いることが好ましいが、逆浸透膜、塩析、透析等を用いることも可能である。
また、着色物質等の夾雑物は活性炭を用いた脱色工程によってそのほとんどが取り除かれる。
【0023】
こうして得られた糖液中には中性キシロオリゴ糖と酸性キシロオリゴ糖が溶解している。イオン交換樹脂を用いた吸着工程により、この糖液から以下の方法で中性キシロオリゴ糖画分、及び酸性キシロオリゴ糖画分を分離することができる。糖液をまず強陽イオン交換樹脂にて処理し、糖液中の金属イオンを除去する。次いで強陰イオン交換樹脂を用いて糖液中の硫酸イオンなどを除去する。この工程では、硫酸イオンの除去と同時に弱酸である有機酸の一部と着色成分の除去も同時に行われる。強陰イオン交換樹脂で処理された糖液はもう一度強陽イオン交換樹脂で処理し、更に金属イオンを除去する。最後に弱陰イオン交換樹脂で処理し、酸性キシロオリゴ糖を樹脂に吸着させ、中性キシロオリゴ糖のみを回収する。
【0024】
樹脂に吸着した酸性キシロオリゴ糖画分を、低濃度の塩(NaCl、CaCl、KCl、MgClなど)によって溶出させることにより、夾雑物を含まない酸性キシロオリゴ糖溶液を得ることができる。この溶液を、例えば、スプレードライや凍結乾燥処理により、酸性キシロオリゴ糖組成物の粉末を得ることができる。
【0025】
化学パルプ由来のリグノセルロースを原料とし、キシロオリゴ糖とリグニンからなる高分子量の複合体を中間体とした酸性キシロオリゴ糖組成物の上記製造法のメリットは、経済性とキシロースの平均重合度の高い酸性キシロオリゴ糖組成物が容易に得られる点にある。平均重合度は、例えば、希酸処理条件を調節するか、再度ヘミセルラーゼで処理することによって調節が可能である。また、弱陰イオン交換樹脂に吸着した酸性キシロオリゴ糖の溶出に用いる溶出液の塩濃度を変化させることによって、1分子あたりに結合するウロン酸残基の数が異なる酸性キシロオリゴ糖組成物を得ることもできる。さらに、適当なキシラナーゼ、ヘミセルラーゼを作用させることによってウロン酸結合部位が末端に限定された酸性キシロオリゴ糖組成物を得ることも可能である。
【0026】
本発明の酸性キシロオリゴ糖組成物を配合した免疫機能調節作用を有する組成物は、その用途として、医薬品、医薬部外品、化粧品、食品、動物用食品、スプレー剤、等に使用することができる。
【0027】
本発明の酸性キシロオリゴ糖を有効成分として配合した免疫機能調節作用を有する組成物は、粉末状で使用することが可能である。また、顆粒状、液状等の任意の形態に加工して使用することが可能である。また、打錠により錠剤としてもよい。さらに水溶性カプセル等に封入してカプセル状としてもよい。
【0028】
本発明の免疫機能調節作用を有する組成物は、単独で経口摂取して使用することができる。また、他の食品、経腸栄養剤、他の栄養成分、或いは医薬品と混合して医療用食品として使用することが出来る。また、一般的に医薬部外品や医薬品に使用される成分と混合し、医薬部外品や医薬品としても提供することも出来る。
なお、上述の食品、医療用食品及び医薬品の対象としては、ヒトだけではなく、ペット用、または家畜用としても用いることが可能である。
【0029】
本発明の酸性キシロオリゴ糖、または、酸性キシロオリゴ糖を配合した免疫機能調節作用を有する組成物は、繊維製品(シーツ、衛生シート、ティッシュペーパー、おむつ等)に含有させたり、ウェットティッシュの薬剤として使用することができる。
上記組成物を繊維製品に含有させる手段としては、例えば、液体状とした上記組成物を繊維(布、紙、不織布、等)に塗布または含浸させて乾燥させる、粉末状の組成物を繊維に混合する、組成物をローションに配合しローションを繊維に塗布する、等の任意の方法により行うことができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。なお、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0031】
以下、本発明の有効成分である酸性キシロオリゴ糖の調製例を示す。
<キシロオリゴ糖の調製>
混合広葉樹チップ(国内産広葉樹20%、ユーカリ80%)を原料として、クラフト蒸解及び酸素脱リグニン工程により、酸素脱リグニンパルプスラリー(カッパー価9.6、パルプ粘度25.1cps)を得た。スラリーからパルプを濾別、洗浄した後、パルプ濃度10%、pH8に調製したパルプスラリーを用いて以下のキシラナーゼによる酵素処理を行った。
キシラナーゼコンク(アドバンスト・バイオケミカルス社製)を対パルプ50ユニット/gとなるように添加した後、60℃で120分間処理した。その後、濾過によりパルプ残渣を除去し、酵素処理液1000Lを得た。
次に、得られた酵素処理液を濃縮工程、希酸処理工程、精製工程の順に供した。
濃縮工程では、逆浸透膜(日東電工(株)製、RO NTR−7410)を用いて濃縮液(40倍濃縮)を調製した。希酸処理工程では、得られた濃縮液のpHを3.5に調整した後、121℃で60分間加熱処理し、リグニンなどの高分子夾雑物の沈殿を形成させた。さらに、この沈殿をセラミックフィルター濾過で取り除くことにより、希酸処理溶液を得た。
精製工程では、限外濾過・脱色工程、吸着工程の順に供した。限外濾過・脱色工程では、希酸処理溶液を限外濾過膜(オスモニクス社製、分画分子量8000)を通過させた後、活性炭(和光純薬(株)製)770gの添加、及びセラミックフィルター濾過により脱色処理液を得た。
吸着工程では、脱色処理液を強陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製PK218)、強陰イオン交換樹脂(三菱化学(株)製PA408)、強陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製PK218)各100kgを充填したカラムに順次通過させた後、弱陰イオン交換樹脂(三菱化学(株)製WA30)100kgを充填したカラムに供した。
前記弱陰イオン交換樹脂充填カラムを通過した画分をスプレードライ処理することにより、中性キシロオリゴ糖(NX5)の粉末(全糖量50.2kg、回収率55.1%)を得た。
【0032】
また、最後に溶液を通過させたカラムである弱陰イオン交換樹脂充填カラムからNaCl水溶液(75mM)によって溶出させた溶液をスプレードライ処理して、酸性キシロオリゴ糖(UX10)の粉末(全糖量12.7kg、回収率13.9%)を得た。
以上の方法で得た酸性キシロオリゴ糖(UX10)は、平均重合度10.2、キシロース鎖長の上限と下限との差は10、酸性キシロオリゴ糖1分子あたりウロン酸残基を1つ含む糖組成化合物であった(測定方法は後述)。
【0033】
<キシロオリゴ糖の測定法>
(1) 全糖量の定量
全糖量は、検量線をD−キシロース(和光純薬工業(株)製)を用いて作成し、フェノール硫酸法(還元糖の定量法,学会出版センター発行)にて定量した。
(2) 還元糖量の定量
還元糖量は、検量線をD−キシロース(和光純薬工業(株)製)を用いて作成し、ソモジ−ネルソン法(還元糖の定量法,学会出版センター発行)にて定量した。
(3) ウロン酸量の定量
ウロン酸量は、検量線をD−グルクロン酸(和光純薬工業(株)製)を用いて作成し、カルバゾール硫酸法(還元糖の定量法,学会出版センター発行)にて定量した。
(4) 平均重合度の決定法
サンプル糖液を50℃に保ち15,000rpmにて15分遠心分離し不溶物を除去し上清液の全糖量を還元糖量(共にキシロース換算)で割って平均重合度を求めた。
(5) キシロオリゴ糖の分析方法
オリゴ糖鎖の分布はイオンクロマトグラフ(ダイオネクス社製、分析用カラム:Carbo Pac PA−10)を用いて分析した。分離溶媒には100mM NaOH溶液を用い、溶出溶媒には前述の分離溶媒に酢酸ナトリウムを500mMとなるように添加し、溶液比で、分離溶媒:溶出溶媒=10:0〜4:6となるような直線勾配を組み分離した。得られたクロマトグラムより、キシロース鎖長の上限と下限との差を求めた。
(6) オリゴ糖1分子あたりのウロン酸残基数の決定法
サンプル糖液を50℃に保ち15,000rpmにて15分遠心分離し不溶物を除去し上清液のウロン酸量(D−グルクロン酸換算)を還元糖量(キシロース換算)で割ってオリゴ糖1分子あたりのウロン酸残基数を求めた。
(7) 酵素力価の定義
酵素として用いたキシラナーゼの活性測定にはカバキシラン(シグマ社製)を用いた。酵素力価の定義はキシラナーゼがキシランを分解することで得られる還元糖の還元力をDNS法(還元糖の定量法,学会出版センター発行)を用いて測定し、1分間に1マイクロモルのキシロースに相当する還元力を生成させる酵素量を1ユニットとした。
【0034】
前述した方法によって得られた酸性キシロオリゴ糖(UX10)を実施例1の被検物質とする以下の実験により、酸性キシロオリゴ糖の免疫機能調節作用について調べた。
【0035】
<免疫調製機能試験>
実施例1の被検物質を0.4質量%含有する水溶液をBALB/cマウス(3週齢、雌)に飲水として6週間自由摂取させた。
摂取から6週間後にマウス腹腔内からマクロファージを採取し、以下の方法で培養した。
調製したマクロファージをHam’s F12培地(10%ウシ胎児血清含有)に懸濁後(細胞密度4×10/ml)、48ウエルプレートの各ウエルに0.25mlずつ添加し、37℃、5%COの条件下で培養した。
1時間後、表1に示す培地(組成1〜組成8)に交換し37℃、5%COの条件下で20時間培養した。培養上清中に回収された亜硝酸イオン濃度(NO:一酸化窒素の代謝産物である亜硝酸イオン)、およびTNF−α濃度を測定するとともに、細胞を洗浄してハンクス塩溶液(HBSS)と交換し、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)感受性のチトクロムc(cytochrome c)の還元によって活性酸素(O)産生量を測定した。
なお、実施例1の被検物質の代わりに、蒸留水を飲水として摂取させたマウスから同様にマクロファージを採取し、実施例1の対照実験(比較例1)とした。
実施例1及び比較例1の各培地における活性酸素産生量、亜硝酸イオン産生量、TNF―α産生量を図1〜図3に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
図1より、酸性キシロオリゴ糖(実施例1)を摂取したマウスのマクロファージでは、蒸留水(比較例1)を摂取したマウスのマクロファージと比較し、活性酸素産生量にほとんど差が認められなかった。
図2より、酸性キシロオリゴ糖(実施例1)を摂取したマウスのマクロファージでは、蒸留水(比較例1)を摂取したマウスのマクロファージと比較し、一酸化窒素産生量に若干の増加が認められた。
図3より、酸性キシロオリゴ糖(実施例1)を摂取したマウスのマクロファージでは、蒸留水(比較例1)を摂取したマウスのマクロファージと比較し、TNF−α産生量に減少が認められた。
以上の結果から、酸性キシロオリゴ糖は、病原菌に対して殺菌作用をもつ活性酸素や一酸化窒素の産生量を維持し、一方、炎症の増悪を誘導するTNF−αの生産量を減少させる作用があり、病原菌等の感染に対して効率的に免疫機能を調節する作用があることが期待できる。
【0038】
なお、前述の調製例により得られた酸性キシロオリゴ糖の安全性試験(皮膚刺激性試験、急性経口毒性試験)、及び、安定性試験を以下の方法により実施した。
【0039】
(1)皮膚刺激性試験
2質量%の酸性キシロオリゴ糖(UX10)水溶液100μlを、各々、除毛後のC3Hマウス(雄、6週齢、日本チャールズリバー(株)製)の背皮に、約1ヶ月間、連続塗布した(1回/日、各群10匹)。
塗布期間及び塗布終了後の2週間、マウス背皮において、紅斑、浮腫、炎症等の異常は特に観察されなかった。また、ブランク(水塗布群)と比較し、体重推移においても有意差(P<0.05)が認められなかった。
【0040】
(2)急性経口毒性試験
60質量%の酸性キシロオリゴ糖(UX10)水溶液を、各々、ICR系マウス(雄、6週齢、日本チャールズリバー(株)製)に胃ゾンデを用いて、経口投与した(投与量:2g/マウス体重1kg、各群10匹)。
投与してから2週間後まで、死亡例はなかった。又、体重推移においてもブランク(水投与群)と比較し、有意差(P<0.05)が認められなかった。
【0041】
(3)安定性試験
1質量%の酸性キシロオリゴ糖(UX10)水溶液を調製後、室温で保存した。調製直後、及び、1ヶ月保存後の酸性キシロオリゴ糖水溶液をイオンクロマトグラムで分析した。
1ケ月保存後のサンプルのクロマトグラムのパターンは、調製直後のサンプルと比較して変化はなかった。又、クロマトグラムの各ピークの面積の差は、1ケ月保存後のサンプルと調製直後のサンプルの間で、5%未満であった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明により、人体に対して安全性が高く、優れた免疫機能調製作用を有する組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】各培地におけるO産生量を示すグラフ
【図2】各培地におけるNO産生量を示すグラフ
【図3】各培地におけるTNF−α産生量を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均重合度が2.0〜15.0であり、分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を有する酸性キシロオリゴ糖を有効成分とすることを特徴とする免疫機能調節作用を有する組成物。
【請求項2】
前記の酸性キシロオリゴ糖が、「リグノセルロース材料を酵素的及び/又は物理化学的に処理して酸性キシロオリゴ糖とリグニン成分の複合体を得、次いで該複合体を酸加水分解処理して得られた酸性キシロオリゴ糖」であることを特徴とする請求項1に記載の免疫機能調節作用を有する組成物。
【請求項3】
ウロン酸が、グルクロン酸もしくは4−O−メチル−グルクロン酸であることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の免疫機能調節作用を有する組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−96729(P2009−96729A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−267355(P2007−267355)
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】