説明

免疫疾患の処置において使用するための、プロバイオティック細菌を含む組成物

本発明は、免疫系の変化に関連した病状を処置するためのプロバイオティック細菌を含む組成物に関する。特に、本発明は、アレルギー、例えばアトピー性皮膚炎の処置用組成物の製造のために選択されたプロバイオティック細菌の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫系の変化に関連した病変の処置のための、プロバイオティック細菌を含む組成物に関する。特に、本発明は、アレルギー、例えばアトピー性皮膚炎の処置のための組成物の調製のために選択したプロバイオティック細菌の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
アトピー性皮膚炎(略称として以後AD)は、新生児期または幼児期に始まり、青年期中持続し得る慢性の再発性皮膚障害であることがよく知られている。そのため、ADの段階は、新生児、幼児期および成人に分けられる。ADは、喘息およびアレルギー性鼻炎のようにインターロイキン-4(IL-4)およびインターロイキン-5(IL-5)を産生するTリンパ球の局所浸潤と関連がある炎症性皮膚疾患である。
【0003】
よく知られていることであるが、IL-4は、イムノグロブリン(Ig)の過剰産生および好酸球増加の結果として、Tヘルパー2(Th2)表現型の発生を制御する。上昇した血清IgEレベルおよび食品および吸入アレルゲンに対する皮膚試験の陽性反応は、80-90%のアトピー性皮膚炎対象において実証され得る。
【0004】
多数の外因的ファクターによりその発現を改変できるとしても、ADは遺伝子ファクターおよび免疫学的ファクターの双方に基づいている。AD症例の60%において、アトピーの家族歴を示し得る;言い換えれば、片方の親がアトピー体質であれば、子供はほぼ60%程度アトピーである。
【0005】
アトピーは、アレルゲンの接触、摂取、接種または吸入後に局所アナフィラキシー反応を発症する遺伝的素因である。
【0006】
ADの病因を考察した免疫学的ファクターは次のものである:食品に対するアレルギー、アレルゲンおよび刺激物質の接触により誘導されるアレルギー、空気中のアレルゲンにより誘導されるアレルギーおよび免疫調節異常。
【0007】
アレルギーまたは皮膚炎症、特にアトピー性皮膚炎の処置時の治療および/または予防に対する多数の処置のなかでは、様々な薬物を基にした処置が目立つ。
【0008】
薬剤を基にした処置は、それらの使用を制限するいくつかの禁忌症を有する。さらに、これらの薬剤は、あるカテゴリーの患者によっては十分に耐用性であるとはいえない。
【0009】
しかし、現在のところ、絶対的および決定的効力を有する処置は存在しない。アレルギー発症に対してある種の予防的処置、あるいは、随時、厄介な症状、例えばそう痒および皮膚の発赤を緩和するための治療方法を採用することしかできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
それ故に、薬物を基にした処置の制限を示さず、かつ全てのカテゴリーの患者に投与できる処置を行う必要性がのこっている。
【0011】
特に、アレルギーの発症および皮膚炎の発症に対抗するよう機能し得る処置および/または厄介な症状、例えば、皮膚組織の発赤、そう痒および湿疹を低減させるよう機能し得る処置を行う必要性がのこっている。
【0012】
出願人は、熱心な研究活動の後に、特定のプロバイオティック細菌株の選択に成功し、上記の必要性に対する解決策を提供するものである。
【0013】
本発明の主題は、別記独立請求項に記載したような、少なくともの一つのプロバイオティック細菌の培養物(culture)を含む組成物である。
【0014】
本発明の主題は、さらに、別記独立請求項に記載したような、少なくともの1つのプロバイオティック細菌の培養物の使用に関する。
【0015】
本発明の他の好ましい実施態様は、実施例に従い明細書に記載されているが、これは本発明の範囲を制限するものではない。
【0016】
出願人は、中程度または重度のADを有する患者の臨床的経過およびクオリティー・オブ・ライフに対するその効果を評価するため、ならびに臨床学的および免疫学的パラメーターに対するその影響を決定するために、特定の細菌株を選択することを目標とした。
【0017】
さらに、出願人は、患者にとって耐用可能であり、かつ腸管に定着できるプロバイオティック活性を有する菌株を選択することを目標とする。
【0018】
中程度/重度のADの診断を、アトピー性皮膚炎−以降ADとして示す−(SCORADインデックス=SCORing Atopic Dermatitis)について標準化した重症度インデックスを用いて評価した。前記インデックスは当業者によく知られている。
【0019】
本発明の菌株が、高い免疫調節効果を有し、よって免疫系の変化に関連した病変の処置に有用であることが判った。
【課題を解決するための手段】
【0020】
熱心な研究活動により、出願人は、多くの試験株の中から、以下のプロバイオティック細菌株を選択した:
1)イタリアのノヴァーラにある会社であるProbiotical SpAにより、2009年7月23日に寄託されたLactobacillus salivarius (LS01) DSM 22775;
2)イタリアのノヴァーラにある会社であるProbiotical SpAにより2004年7月20日に寄託された、Bifidobacterium breve (BR03) DSM 16604;
3) イタリアのノヴァーラにある会社であるProbiotical SpAにより2008年11月14日に寄託されたLactobacillus pentosus (LPS01) DSM 21980;
4) イタリアのノヴァーラにある会社であるMofin Srl により、2006年9月13日に寄託されたStreptococcus thermophilus (FP4) DSM 18616;
5)イタリアのノヴァーラにある会社であるProbiotical SpAにより2004年7月20日に寄託されたLactobacillus casei ssp. rhamnosus (LR04) DSM 16605;および
6) イタリアのノヴァーラにある会社であるProbiotical SpAにより、2008年8月6日に寄託されたLactobacillus acidophilus (LA02) DSM 21717。
【0021】
ブタペスト条約に従って、上記培養物は、ドイツのDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)にて全て受託された。
【0022】
本発明において、上記したプロバイオティック細菌の培養物は、生存細菌、死菌または細胞成分、その細胞抽出物または溶菌物の形態であり得る。
【0023】
好ましい実施態様において、該組成物は、免疫系を調節することができる免疫調節組成物として使用するための少なくとも1つの微生物培養物を含む。
【0024】
「免疫調節組成物」なる表現は、該組成物が、免疫系のある応答を刺激/誘導できるという意味において、即ち、例えば特異的サイトカインの産生を介して中断することなどにより、免疫系の応答をより高い反応性とすることができるという意味において、免疫系を調節することができることを意味する。
【発明の効果】
【0025】
有利には、該免疫調節組成物は、1型サイトカインの産生に対する免疫系を誘導する。
【0026】
有利には、細菌株および対応する細菌培養物は、臨床学的および免疫学的パラメーターを改善できることを示している。特に、以下のことが可能であることを観察した:
1) SCORADインデックスおよびDLQIを有意に改善すること;
2) 微生物移行(血漿LPSレベル)を低下すること、およびCD8+Tリンパ球を活性化すること;
3) 全調節性Tリンパ球(Treg)ならびにマーカーTLR2およびTLR4を発現するTリンパ球双方の%を増加すること;
4) Th1/Th2 および Th17/Treg の割合を改善すること。
【0027】
従って、本発明の組成物(免疫調節組成物)は、免疫系の変化に関連した病状、例えば、アレルギー、アトピー、アレルギー性鼻炎、食品に対する過敏性、アトピー性皮膚炎、湿疹、喘息および免疫不全症を、予防、低下および/または治療することができる
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、T0およびT16時のScoradインデックスに相対するヒストグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
一実施形態に従って、本発明は、少なくとも1つのプロバイオティック細菌の培養物を含む組成物あるいは少なくとも1つのプロバイオティック細菌の培養物からなる組成物に関し、該少なくとも1つのプロバイオティック細菌の培養物は、下記の培養物を含むか、または下記の培養物からなる群:Lactobacillus salivarius (LS01) DSM 22775、Bifidobacterium breve (BR03) DSM 16604 および Lactobacillus pentosus (LPS01) DSM 21980、から選択される。
【0030】
好ましい実施態様において、該組成物は、下記の株の培養物を含むか、または下記の株の培養物からなる:Lactobacillus salivarius (LS01) DSM 22775およびBifidobacterium breve (BR03)。
【0031】
好ましい実施態様において、該組成物は、下記の株を含むか、または下記の株からなる群:Lactobacillus pentosus (LPS01) DSM 21980、Streptococcus thermophilus (FP4) DSM 18616、Lactobacillus casei ssp. rhamnosus (LR04) DSM 16605およびLactobacillus acidophilus (LA02) DSM 21717から選択される少なくとも1つの他の培養物と組み合わせて、下記の株の培養物を含むか、または下記の株の培養物からなる:Lactobacillus salivarius (LS01) DSM 22775およびBifidobacterium breve (BR03) DSM 16604を含む。
【0032】
好ましい実施態様において、該組成物は、下記の株の培養物を含むか、または下記の株の培養物からなる:Lactobacillus salivarius (LS01) DSM 22775、Bifidobacterium breve (BR03)およびLactobacillus pentosus (LPS01) DSM 21980。
【0033】
別の好ましい実施態様に従って、本発明は、免疫系の変化に関連した病状、例えば、アレルギー、アトピー、アレルギー性鼻炎、食品に対する過敏症、アトピー性皮膚炎、湿疹、喘息および免疫不全症を、予防、低下および/または治療することができる組成物を製造するための、下記の培養物を含むか、または下記の培養物からなる群:Lactobacillus salivarius (LS01) DSM 22775、Bifidobacterium breve (BR03) DSM 16604 および Lactobacillus pentosus (LPS01) DSM 21980、から選択される少なくとも1つのプロバイオティック細菌の培養物の使用に関する。
【0034】
別の好ましい実施態様に従って、本発明は、下記の培養物を含むか、または下記の培養物からなる組成物の使用に関する:Lactobacillus salivarius (LS01) DSM 22775およびBifidobacterium breve (BR03)。
【0035】
好ましくは、本発明は、アトピー性皮膚炎の予防および/または治療のための組成物の調製のために、Lactobacillus salivarius (LS01) DSM 22775 の培養物およびBifidobacterium breve (BR03) DSM 16604 の培養物を、下記の株:Lactobacillus pentosus (LPS01) DSM 21980、Streptococcus thermophilus (FP4) DSM 18616、Lactobacillus casei ssp. rhamnosus (LR04) DSM 16605およびLactobacillus acidophilus (LA02) DSM 21717を含む群から選択される少なくとも1つの他の培養物と組み合わせて使用することに関する。
【0036】
別の好ましい実施態様に従って、本発明は、下記の培養物を含むか、または下記の培養物からなる組成物の使用に関する:Lactobacillus salivarius (LS01) DSM 22775、Bifidobacterium breve (BR03)およびLactobacillus pentosus (LPS01) DSM 21980。
【0037】
有利には、該組成物は、1:3〜3:1の重量比にて、好ましくは1:1の重量比にて、下記の株を含むか、または下記の株からなる: Lactobacillus salivarius (LS01) DSM 22775 および Bifidobacterium breve (BR03) DSM 16604。
【0038】
あるいは、該組成物は、好ましくは1:1:1の重量比にて、下記の株を含むか、または下記の株からなる:Lactobacillus salivarius (LS01) DSM 22775、Bifidobacterium breve (BR03) DSM 16604 および Lactobacillus pentosus (LPS01) DSM 21980。
【0039】
本発明の細菌培養物を「活性成分」とみなし得て、これは生理学的におよび/または医薬上許容し得る賦形剤と共に、正しい比率で混合され得る。
【0040】
それらの活性を増強するために、該活性成分を、全身的に、有利には経口的に、固体の組成物の形態で、当業者には既知の技術に従って調製できる。
【0041】
好ましい実施態様において、該組成物は、凍結物、粉末、粒状物、錠剤、ソフトゲルカプセルまたは懸濁液の形態にある。
【0042】
本発明の組成物は、医薬、食品、栄養または栄養補助組成物であり得る。
【0043】
本発明の組成物は、さらにプレバイオティック活性を有する食物繊維、例えば、フラクトオリゴ糖 (FOS)、イヌリンおよび部分的に加水分解されたグアーガム(PHGG)を含むことができる。
【0044】
本発明の医薬、食品、栄養または栄養補助組成物は、上記したような少なくともの1つのプロバイオティック細菌の培養物を含む。該組成物の終濃度は、組成物あたり1x107〜lx1011 CFU/g、好ましくは組成物あたり1x108〜1x1010 CFU/gを含む。
【0045】
選択されたプロバイオティック細菌を含む本発明の組成物は、免疫系を調節できる免疫調節組成物として有用である。
【0046】
前記組成物は、以下のサイトカインの機能:Th1 (IFN-γおよびIL-12) および Th2 (IL-4、IL-5およびIL-10)における変化に関連した病状を治療および/または予防できる。
【0047】
さらに、前記組成物は、免疫系を誘導することができ、1型サイトカインの産生に対して後者を誘導できる。
【0048】
それ故に、本発明の組成物は、免疫系の変化に関連した病変の予防および/または治療、特に、アレルギー、アトピー、アレルギー性鼻炎、食品に対する過敏性、アトピー性皮膚炎、湿疹、喘息または免疫不全症の予防および/または治療に対して有用な用途を有する。
【0049】
有利には、本発明の組成物は、アトピー性皮膚炎の予防および/または治療において有価な用途を有する。
【0050】
有利には、アトピー性皮膚炎ADの罹患患者が1x107〜1x1011 CFU、好ましくは1x109 CFU/gを成す濃度にて、Lactobacillus salivarius (LS01) DSM 22775 の培養物およびBifidobacterium breve (BR03) DSM 16604の培養物を含むプロバイオティック組成物を摂取することにより、Scorad インデックス(より低いScorad値は、良好なクオリティー・オブ・ライフを示す)の低下が測定された。
【0051】
さらに、12〜24週、好ましくは16週を含む期間の間、前記プロバイオティック組成物を投与することにより、サイトカインIL-4の分泌を低減/遮断することができる。
【実施例】
【0052】
実験の部(I)
出願人は、上記株の6つの全ての株を試験した。
【0053】
最初の臨床試験を、Lactobacillus salivarius (LS01) DSM 22775の培養物およびBifidobacterium breve (BR03) DSM 16604の培養物を含む組成物を試験するために行った。
【0054】
中程度/重度のADを有する40人の患者(18〜55歳の男性および女性)の一群を、無作為に二群(1:1)に分けた。
【0055】
中程度/重度のADの診断を、標準的なAD重症度インデックス(SCORADインデックス=SCORing Atopic Dermatitis)を用いて評価した。前記インデックスは、当業者には知られている。
【0056】
T0は、処置開始時としての0時を表し、一方、T16は、処置の16週期間を表す。T16時点で、Scoradおよびサンプル採取により実験を行う。
【0057】
群Aは、1x109 CFU 濃度(0.01 gに対応する)にて、Lactobacillus salivarius (LS01) DSM 22775の培養物およびBifidobacterium breve (BR03) DSM 16604の培養物を含む組成物により処置した。この2つの培養物を、1gのコーンスターチと共に混合して、小袋中に1.01 gの最終組成物とした。群Aの20人の患者に、16週間の間、2袋/日を与えた。
【0058】
群Bを、1gのコーンスターチ(単独)のプラセボにより処置した。群Bの20人の患者に、16週間の間、2袋/日のプラセボを与えた。
【0059】
以下のサイトカインについて試験した:Th1 (IFN-γおよびIL-12) および Th2 (IL-4、IL-5およびIL-10)。
【0060】
40人の患者の全てのデータを、注意深く集めて分析した。
【0061】
図1は、T0およびT16時のScoradインデックスに相対するヒストグラムを示す。
【0062】
得られた結果は、群Aの20人の患者が、lx109 CFUの濃度にて、Lactobacillus salivarius (LS01) DSM 22775の培養物およびBifidobacterium breve (BR03) DSM 16604の培養物を含むプロバイオティック組成物を摂取することにより、AD罹患患者におけるScoradの低下(より低いScorad値は、良好なクオリティー・オブ・ライフを示す)が測定されたことを示す。
【0063】
さらに、16週間の間の前記プロバイオティック組成物の投与により、検討されたサイトカインであるIL-4の分泌を遮断することができ、この平均値は登録の時点で得た値に相当した。対照的に、プラセボの投与は、サイトカインIL-4の放出を遮断することはできず、16週間の処置後に有意に増加した(疾患の発生)。
【0064】
一連のイン・ビトロの前臨床試験を、とりわけLactobacillus salivarius (LS01) DSM 22775の培養物およびBifidobacterium breve (BR03) DSM 16604の培養物を含む細菌群に対しておこなった。
【0065】
試験した菌株の免疫調節能を比較するイン・ビトロの前臨床試験は、Lactobacillus salivarius (LS01) DSM 22775の培養物およびBifidobacterium breve (BR03) DSM 16604の培養物は、1型サイトカインの産生を誘導する際に優れた能力を示すことを提示した。
【0066】
細菌 Lactobacillus pentosus (LPS01) DSM 21980、Streptococcus thermophilus (FP4) DSM 18616、Lactobacillus casei ssp. rhamnosus (LR04) DSM 16605およびLactobacillus acidophilus (LA02) DSM 21717の培養物も試験した。
【0067】
株 L. pentosus (LPS01) DSM 22775の培養物は、イン・ビトロで強力なTh1サイトカイン促進プロファイル(pro-Th1 cytokine profile)を誘導することを示した。
【0068】
さらに、株Lactobacillus pentosus (LPS 01) DSM 21980、Streptococcus thermophilus (FP4) DSM 18616、Lactobacillus casei ssp. rhamnosus (LR04) DSM 16605およびLactobacillus acidophilus (LA02) DSM 21717の全ての培養物を、インビボ試験においてPBMCによりIL-12の合成を誘導するその能力について試験した。IL-12は、Th1型サイトカインであり、アレルギーおよび他のアトピー病因の処置において重要な要因である。
【0069】
例として、PBMCに対して試験した L. pentosus (LPS01) DSM 21980 に関するデータを以下に報告する:Th-1 (pg/ml) = 1.754;Th-2 (pg/ml) = 326;Th1/Th2 = 5.38。
【0070】
実験の部(II)
出願人は、培養物 Lactobacillus salivarius (LS01) DSM 22775およびBifidobacterium breve (BR03)を含む組成物を用いる第一の臨床試験ならびに培養物 Lactobacillus salivarius (LS01) DSM 22775、Bifidobacterium breve (BR03)およびLactobacillus pentosus (LPS01) DSM 21980を含む組成物を用いる第二の臨床試験を行った。簡略化のために、第二の臨床試験は同じ方法に従って行ったため、第一の臨床試験の詳細のみを報告する。双方の臨床試験(第一および第二)は、同程度の結果を示した。
【0071】
出願人は、2つのプロバイオティック細菌株、即ち、受託番号DSM 22775を有するDSMZに寄託されたLactobacillus salivarius (LS01)および受託番号DSM 16604を有するDSMZに寄託されたBifidobacterium breve (BR03)の投与に関する臨床的効力を評価するために、前記第一の臨床試験(重度または中程度のアトピー性皮膚炎に罹患した患者に対する無作為二重盲検)を行った。
【0072】
材料および方法
アトピー性皮膚炎(以後AD)に罹患した48人の患者をこの試験に採用した。彼らの特徴を表1に示した。
【0073】
【表1】

【0074】
本臨床試験を、2010年の4月-9月の期間に行った。
【0075】
32人の患者(処置群)は、2つのプロバイオティック細菌株、即ち、L. salivarius (LS01) DSM 22775 および B. breve (BR03) DSM 16604を含有する調製物を、マルトデキストリン中で各株につき1x109 CFU/gの用量にて受容した。
【0076】
一方、16人の患者(プラセボ群)は、マルトデキストリン単独調製物を受容した。双方の群を、12週間の間、1日に2回処置した。凍結乾燥形態の組成物を水に溶解して、患者に経口投与した。
【0077】
患者らの食事を改変した患者はおらず、また全員が臨床試験中に生存微生物を含む発酵食品を摂取しないように言われた。妊娠または授乳中に、活動性のアレルギー性疾患(呼吸性または皮膚)または感染疾患に罹患した患者を、本試験から除外した。登録の前の6ヶ月の間にプロバイオティクス、抗生物質または免疫調節剤による処置を受容していた患者、あるいは登録の前の1ヶ月に経口ステロイドによる処置を受容した患者を、本試験から除外した。全ての患者は、登録の時点で患者のインホームド・コンセントを受けた。
【0078】
臨床評価は、SCORADインデックス(SCORing Atopic Dermatitis)、DLQI(皮膚科学のクオリティー・オブ・ライフのインデックス)ならびに微生物移行および免疫学的パラメーターを基準とした。各個々の患者について、全ての評価を、登録の時点(ベースライン)、処置3ヶ月後(3ms)および治療終了後2ヶ月目(3+2ms)に行った。
【0079】
症候およびクオリティー・オブ・ライフに対する質問表
ADに対する診断基準を、近年発行された臨床ガイドに従って設定した。臨床的重症度を、アトピー性皮膚炎について欧州タスク・フォース(European Task Force)により開発されたSCORADインデックス用いて評価した。試験期間中、病状に関連がある兆候の変化を測定するために、全ての登録患者が、特定のDLQI(皮膚科学のクオリティー・オブ・ライフのインデックス)質問表に記入した。SCORAD評価を、処置開始時(プロバイオティクスまたはプラセボ)、終了時および2ヶ月後に、どの群にその患者が登録されたかを知らないオペレーターにより行った。登録時および12および20週間の時点でのDLQIは、患者により記入された。
【0080】
血漿および末梢血液の単核細胞(PBMC)の分離
血漿および末梢血単核球細胞(PBMC)の分離のために、末梢静脈血のサンプルを、登録時、処置の3ヶ月後および治療停止後2ヶ月の全ての試験対象から採取した。血漿を、分析時まで貯蔵し、該PBMCを、密度勾配遠心分離により分離した。細胞生存性を、Adam-MC細胞計測器を用いて決定した。
【0081】
PBMCの刺激
PBMCを、リポ多糖(LPS)の細菌刺激の存在または非存在において18時間インキュベートした。抗原刺激により誘導されたサイトカインの分析をフロー・サイトメトリーにより行い、培養の最後の数時間に細胞内輸送の阻害剤としてBrefeldin Aを加えた。
【0082】
免疫表現型分析
活性化したCD8+T リンパ球の%を、蛍光色素(CD8、CD38、CD45RO)と結合したモノクローナル抗体(mAb)を用いるフロー・サイトメトリー分析による末梢静脈血のサンプルに対して直接計算した。mAbを用いるインキュベーションの後、赤血球を溶解し、細胞を固定し、FC500 フロー・サイトメーター(Beckman Coulter)を用いて分析した。
【0083】
リンパ球亜集団の分析
Tリンパ球の異なる亜集団の同定を、全ての時点で(ベースライン、3msおよび3+2ms)、非刺激性PBMC培養物および18時間LPSにて刺激したPMBC培養物に対して行った。細胞標識を、同時に、細胞表面上および細胞内成分の双方の分子を認識できる蛍光抗体の組み合わせ物を用いて行った。特に、1型Tヘルパーリンパ球(Th1)を、CD4+/IFN-γ+/Tbet+として;2型Tヘルパーリンパ球 (Th2)をCD4+/IL-4+/GATA3+として;17型 T ヘルパーリンパ球 (Th17)をCD4+/IL-17+/RORγT+として、および最後に調節T ヘルパーリンパ球(Treg)をCD4+/CD25+/FoxP3+/IL-10+/TGF-β+として同定した。
【0084】
調節Tリンパ球に対するtoll様 レセプター(TLR)の発現の評価
該分析を、mAbの製造により提供されるプロトコールに従って、非刺激性PBMCに対して行った。特に、以下のmAbが必要であった:CD4、CD25、FoxP3、TLR-4、TLR-2。
【0085】
血漿LPSアッセイ
血漿サンプル中に存在するLPSの濃度を決定するために、製造者の指示書に従ってHycult biotechnology社により販売される「LAL 比色エンドポイントアッセイ」キットにより行った。この試験を、96ウェルプレートで行った。室温で45分のインキュベーション後に、405 nmの波長での吸光度を分光光度計により読み取り、LPS濃度を、pg/mlで表して、既知濃度の曲線を外挿して計算した。
【0086】
糞便サンプルの採取および貯蔵
糞便サンプルを、登録時、処置3ヶ月後および試験終了後2ヶ月に採取した。サンプルを、直ちに4℃で静置し、分配し、分析時まで-80℃で貯蔵した。
【0087】
糞便サンプル中に存在する細菌の定量
定量を全ての好気性菌および以下の細菌群に対して行った:Enterobacteria、Staphylococci、Lactobacilli (特に、L.salivarius LS01)、およびBifidobacteria(特に、B. breve BR03)。糞便サンプルを、生理溶液中に希釈し、好適な希釈物を、以下のスキームに従ってインキュベートした:
全ての好気性菌:5% ヒツジ血液(AS)を含むトリプシン分解大豆寒天培地(Tryptic soy agar);
Enterobacteria:マッコンキー寒天培地(MacConkey Agar)(MC);
Staphylococci:マンニット食塩寒天培地(Mannitol salt agar)(MSA);
Lactobacilli:マン・ロゴサ・シャープ寒天培地(Man, Rogosa and Sharp agar)(MRS);
Bifidobacteria:ビフィズス菌選択培地(BSM)。
MCおよびBSM培地を、37℃で各々24および48時間インキュベートした。AS、MRSおよびBSM培地を、37℃で、各々24、48および72時間、10% 二酸化炭素の存在にてインキュベートした。
【0088】
全てのコロニーを、選択培地での増殖、グラム染色、細胞形態ならびにカタラーゼおよびオキシダーゼに対する試験により同定した。
【0089】
腸の微生物叢の組成を、各微生物群についての計測数として表した(平均±標準偏差、基準 10 対数(1og10)/g 糞便)。検出限界は、B. Breve(この極限は5 1og10 CFU/gであった)を例外として、全ての微生物については 2 log10 CFU/gであった。様々な微生物群の計測数の修正を以下のように計算した:

[(T12 または T16時の Log10 CFU/g) − (T0時の Log10 CFU/g)]
【0090】
L. salivarius LS01 および B. breve BR03 の分子同定
2つの細菌株を、最初にその形態学的特長に基づいて同定した:BSM 寒天培地で培養したL. salivarius LS01は、細長い丸い形状のクリーム白色コロニーを形成し、直径は2〜4 mmから成る;BSM寒天培地上のB. breve BR03は、細長い丸い形状の赤紫色コロニーを形成し、直径は1〜2 mmから成る。
【0091】
培養物中には、株 L. salivariusおよびB. breveの存在を仮定することができ、10の無作為コロニーを、National Institute of Healthにより発行されたガイドラインに従って、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により分析した。L. salivarius または B. breve として分類されたコロニー全てを、パルス・フィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を行い、該プロファイルを好適な参照と比較して、さらに特徴分析した。
【0092】
統計学的分析
該結果を、好適な統計学的試験を用いて分析した。T検定を使用して、処置中の患者を比較した。起こり得る関係を、ピアソンの相関検定を用いて評価した。細菌計測における偏差を、ウィルコクソン・マン・ホイットニー(Wilcoxon-Mann-Whitney)検定を用いて分析した。統計学的分析を、SPSS統計学パッケージを用いて行った。
【0093】
結果
a)臨床効力
ADに罹患した46人の患者は臨床試験を完了した;2人の患者(1群あたり1人の患者)を排除した。SCORAD(SCORADインデックス)およびDLQIの評価を経過観察中に行った。プロバイオティクスを用いて処置した患者は、処置終了時にSCORADにおける有意な低下(p=0.001)を示し、また該処置の停止後も維持された(p=0.006)(表2)。
【0094】
同様に、DLQIは、プロバイオティック混合物を用いて処置した患者において改善を示した(登録 vs. 3m 処置:p=0.024;登録 vs. 停止後2ms:p=0.001)。プラセボを投与された患者の群において、SCORADまたはDLQIのいずれに関しても有意差を観察しなかった(表2)。
【0095】
b) 血漿LPS濃度
LPS濃度は、微生物移行のインデックスである;LPS濃度における増加は、腸管透過性における変化と関連する。2つのプロバイオティック株による処置は、血漿LPS濃度における低下を誘導し、これは以下に示すような治療中断後に維持された(ベースライン vs. 処置の3ヶ月:p=0.050;ベースライン vs. 処置停止後2ヶ月:p<0.001;処置3ヶ月 vs. 処置停止後2ヶ月:p<0.001)(表3)。
【0096】
表3
【表2】

【0097】
プラセボで処置した患者において、試験期間中(ベースライン vs. 処置停止後2ヶ月:p=0.004;処置の3ヶ月 vs. 処置停止後2ヶ月:p=0.016)、血漿LPSレベルにおいて有意な増加を観察した(表3)。試験終了時に、血漿LPS濃度は、処置群と比較して、コントロール(プラセボ)において有意に高かった(p<0.001)。
【0098】
c) 活性化Tリンパ球
活性化したCD8+T細胞を、CD38およびCD45分子のものに対する発現を評価することにより分析した。2つのプロバイオティクスを用いて処置した患者において、試験期間に、該細胞にて漸進的低下を観察した(ベースライン vs. 処置停止後2ヶ月:p<0.001;処置の3ヶ月 vs. 処置停止後2ヶ月:p<0.001)(表4)。プラセボ群においては、有意差を観察しなかった。
【0099】
表4
【表3】

【0100】
d) 調節T細胞(Treg)
調節T細胞を、刺激非存在下およびLPSによる刺激後の双方において評価した。プロバイオティック混合物を用いる処置後、非刺激性 Treg リンパ球の%は有意に増加した(ベースライン vs. 処置停止後2ヶ月:p=0.002;処置3ヶ月 vs. 処置停止後2ヶ月:p=0.034)(表5Aおよび表5B)。同様の結果を、LPSによる刺激後の分析から得た。
【0101】
表5A
【表4】


表5B
【表5】

【0102】
e) 調節Tリンパ球に対するToll様レセプターの発現
Toll様レセプター2(TLR-2)および4(TLR-4)の発現を、末梢静脈血中で直接評価した。表5Cおよび表5Dに示したとおり、Tregリンパ球に対する両分子の発現を、プロバイオティクス投与3ヶ月後に有意に増加した;この結果は、処置停止後の2ヶ月においても維持した(TLR-2:ベースライン vs. 処置の3ヶ月:p<0.001;ベースライン vs. 処置停止後2ヶ月:p=0.010;TLR-4:ベースライン vs. 処置の3ヶ月:p<0.001;ベースライン vs. 処置停止後2ヶ月:p=0.011)。コントロール群(プラセボ)において、有意な低下を、試験終了時にTregリンパ球によるTLR-2分子の発現において観察した(処置の3ヶ月 vs. 処置停止後2ヶ月:p=0.009)。
【0103】
表5C
【表6】


表5D
【表7】

【0104】
f) リンパ球亜集団 Th1、Th2 および Th17
リンパ球亜集団Th1、Th2 および Th17を、分析中の双方の群において刺激の非存在およびLPSによる刺激後に評価した:CD4およびTbet分子の発現ならびにサイトカインIFN-γの分泌に基づいて同定した亜集団Th1%は、LPSによる刺激の非存在およびLPSによる刺激後の双方においてプロバイオティック混合物を用いて処置した患者において、有意に増加した(非刺激性:ベースライン vs. 処置の3ヶ月:p=0.003;LPS:ベースライン vs. 処置の3ヶ月:p=0.025;ベースライン vs. 処置停止後2ヶ月:p=0.019)(表6Aおよび表6B)。プロバイオティクスにより処置された患者において、処置終了後の2ヶ月では、Th1 細胞におけるさらなる低下を観察した(p<0.001)。
【0105】
表6A
【表8】


表6B
【表9】

【0106】
CD4およびGATA3 分子の発現ならびにサイトカインIL-4の分泌に基づいて同定したTh2 細胞亜集団の%は、プロバイオティクスの投与中に有意に低下したが、治療停止の後、再び増加した(非刺激性:ベースライン vs. 処置の3ヶ月:p=0.016;処置の3ヶ月 vs. 処置停止後2ヶ月:p=0.005;LPS:ベースライン vs. 処置の3ヶ月:p=ns;処置の3ヶ月 vs. 処置停止後2ヶ月:p=0.0045)(表6Cおよび表6D)。
【0107】
表6C
【表10】

【0108】
表6D
【表11】

【0109】
CD4およびRORγT分子の発現およびサイトカインIL-17の分泌に基づいて同定したT17細胞亜集団の%は、処置の3ヶ月後のプロバイオティクスにより処置した患者において低下した(非刺激性:ベースライン vs. 処置の3ヶ月:p=0.037;LPS:ベースライン vs. 処置の3ヶ月:p 0.046)(表6Eおよび表6F)。処置停止後2ヶ月の有意差は、Th2およびTh17リンパ球亜集団について分析中の2群間にて観察された(p=0.008およびp=0.031各々)。コントロール群(プラセボ)の対象におけるTh1、Th2およびTh17細胞集団において、有意差は見られなかった。
【0110】
表6E
【表12】

【0111】
表6F
【表13】

【0112】
g) Th1/Th2およびTh17/Tregの割合
プロバイオティクスの投与3ヶ月後、有意な増加を、Th1/Th2の割合において観察した(p=0.028)(表7A)。この効果は、処置の停止後に消失した(p=0.002)。対照的に、細菌混合物を用いて処置した群において、Th17/Tregの割合は徐々に低下し、そしてこの結果は治療の中止後の2ヶ月間も見られた(p=0.029)。この試験期間中、コントロール群(プラセボ)に登録した対象は、Th1/Th2およびTh17/Tregの割合において、いずれの有意な変化も示さなかった。該Th17/Tregの割合は、処置の3ヶ月後のプロバイオティック群と比較して、プラセボ群において有意に高かった(P=0.037)(表7B)。
【0113】
表7A
【表14】

【0114】
表7B
【表15】

【0115】
h) 相関関係
プロバイオティクスを投与した患者において、処置終了時に、負の相関関係を、SCORADおよびLPS刺激後のTregリンパ球%の間(p=0.020)、ならびに活性化したCD8+Tリンパ球%およびLPSにより刺激されたTh1細胞%の間(p=0.046)で観察した。
【0116】
有意な正の相関関係を、血漿LPS濃度および非刺激性Th2細胞%の間(p=0.016)、血漿LPS濃度およびLPSにより刺激されたTh17細胞%の間(p=0.04)ならびに活性化したCD8+Tリンパ球%およびLPSにより刺激されたTh17細胞%の間(p=0.037)で観察した。
【0117】
i) 糞便微生物相の改変および株L. salivarius LS01およびB. breve BR03の検出
登録時、処置3ヶ月後および投与終了後2ヶ月の細胞計測数を表8に示した。
【0118】
表8
【表16】

* ベースラインと比較して有意な低下(P<0.05)
同時のプラセボと比較して有意な差異(P<0.05)
【0119】
コントロール群(プラセボ)においては、糞便叢において有意な変化が見られなかった。プロバイオティクスにより処置された群において、staphylococciにおける有意な低下を3ヶ月後に検出した。この知見は、処置の3ヶ月後のコントロール群と比較して、有意であった。かかる低下は、プロバイオティクスの停止後の2ヶ月でさえ統計的有意差を維持した。その他の分析した微生物群においては、有意な変化は見られなかった。
【0120】
試験中に登録した対象の糞便サンプルに対するプロバイオティック株に関連した知見を表9に示した。PCR分析およびPFGEにより同定された、検討される株に対応する形態学を有する全てのコロニーは、L. salivarius LS01または B. breve BR03として先に同定された株のものと一致した。
【0121】
株L. salivarius LS01を、102-105 CFU/gに等しい量で処置の3ヶ月後の全ての対象において見出した。株 B. breve BR03を、処置の3ヶ月後の対象の90%において、106-108 CFU/gに等しい量で検出した。
【0122】
数人の患者において、双方の株を、処置停止2ヶ月後に単離したが、投与終了直後に得たものと比較するとわずかな量であった。
【0123】
出願人は、本発明の組成物、特に、重度または中程度のアトピー性皮膚炎に罹患した成人対象に3ヶ月投与した、前記第一の臨床試験の組成物(Lactobacillus salivarius (LS01) DSM 22775 および Bifidobacterium breve (BR03) DSM 16604)ならびに前記第二の臨床試験の組成物(Lactobacillus salivarius (LS01) DSM 22775、Bifidobacterium breve (BR03) DSM16604 および Lactobacillus pentosus (LPS01) DSM 21980)が、その臨床学的および免疫学的パラメーターを改良できるということを示したことを検証できた。特に、プロバイオティック処置の終了時に、以下の点を観察した:
1) SCORADインデックスおよびDLQIにおける有意な改善;
2) 微生物移行(血漿LPSレベル)およびCD8+Tリンパ球の活性化における低下;
3) 全調節Tリンパ球(Treg)ならびにマーカーTLR2およびTLR4を発現するTリンパ球の双方の%における増加;
4) Th1/ Th2 および Th17/ Treg の割合の改善。
【0124】
有利には、使用したプロバイオティック株が、患者の胃腸管に定着することができ、そして糞便中に含むstaphylococcalを低下できることを示した。
【0125】
有利には、プロバイオティクスの投与の臨床効果は、病理の症候およびクオリティー・オブ・ライフを改善することから、処置の3ヶ月後に明らかとなった。前記効果は、該処置停止後2ヶ月でさえ維持することを示した。
【0126】
有利には、胃腸管内での3つのプロバイオティック細菌株(Lactobacillus salivarius (LS01) DSM 22775、Bifidobacterium breve (BR03) DSM16604 および Lactobacillus pentosus (LPSO1) DSM 219809)の持続性は、処置停止後にも見られ、特定の細菌の組み合わせが腸に定着する能力を示唆している。
【0127】
腸管浸透性(intestinal permeability)における変化は、アトピー性皮膚炎および炎症性成分を特徴とする他の疾患における病原論において重要な役割を担う。臨床試験から得た結果は重要な局面を示し、これは血漿LPSレベルおよびアトピーとの負の相関関係の存在により示される。特に、プロバイオティック処置中および処置後の双方の微生物移行における有意な改善の提示により、直接的および間接的双方に作用することにより腸の防御機能を改善できる3つの細菌株が持つ免疫調節効果が示された。
【0128】
HIV感染に対する試験は、微生物移行および過剰なT-細胞のターンオーバーによる免疫学的活性化の間の関連性を示している。HIV感染における重要な予後ファクターと考えられる活性化したCD8+Tリンパ球%の評価は、免疫系のLPS介在性活性化に関する最も広く許容されたマーカーの一つである。予測したとおり、本試験において登録されたアトピー性皮膚炎罹患患者において、血漿LPS値の低下は、活性化したCD8+T細胞における低下と関連して観察された。これらのデータは、試験した菌株が、腸の防御機能を増加させる能力の結果として強力な免疫調節活性を有することを示した。プラセボ群において、この相関関係を観察しなかった。
【0129】
CD4+T-ヘルパーリンパ球の4種の様々な亜集団を、サイトカインを分泌するその能力に基づいて同定した:IFN-γおよびIL-2の主なプロデューサーであるTh1は、細胞介在性免疫応答と関係がある;IL-4を分泌するTh2は、体液性免疫応答の開始に関与している;IL-17、IL-21およびIL-22を分泌するTh17は、細胞外病原体に対する免疫応答および自己免疫疾患に関係がある;免疫調節機能を有する調節T細胞は免疫応答の過反応を制御する。
【0130】
Treg細胞における低下は、アトピー性皮膚炎および喘息を有する患者において報告されており、その数はIgEの分泌、好酸球増加症、およびIFN-γレベルと逆相関し有る。
【0131】
プロバイオティック株の摂取は、全Tregリンパ球の%における有意な増加ならびに該処置後にレセプターTLR2およびTLR4を発現するTregリンパ球における有意な増加を誘導した。これらの細胞亜集団は、その主要機能として免疫抑制活性を発揮する。疾患の重症度とS. aureusによるコロニー化との間に陽性の相関関係があるので、S. aureusのコロニー形成は、アトピー性皮膚炎の進行について極めて重要な疑問である。プロバイオティクスの価値ある効果は、S. aureusおよびグラム陰性細菌に対する免疫学的寛容のTreg-細胞媒介性の回復を理由とするためであろう。さらに、負の相関関係が、SCORADインデックスとTreg細胞との間に見出られたが、これはアトピー性皮膚炎の評価において後者の正の役割を示唆している。
【0132】
Th2サブタイプは、アレルギー性喘息反応の病原論において重要な役割を担い、アトピー性皮膚炎の急性期に関与しているが、一方、Th1亜集団は、疾患の慢性期と関連のある保護的役割をもつ。アトピー性皮膚炎罹患患者において、Th17細胞は、慢性の創傷においてではなく急性の皮膚創傷において増加し、疾患の重傷度と正の相関がある。この試験において得られたデータは、この新規のプロバイオティックの組合せが、Th2およびTh17亜集団の損失に対してTh1細胞の機能性を増加させ、こうしてTh1/Th2およびTh17/Tregの割合を増加させることを示した。
【0133】
Th2およびTh17のサブタイプは、血漿LPSレベルと正に相関しており、微生物移行および免疫系の変化との間の強い相互作用を示唆している。この知見を、Th17と活性化したCD8+との間の正の相関関係によりさらに確認した。免疫学的寛容の発生およびアレルギー性疾患の発症において、微生物腸内細菌叢が為した役割は十分に示された。腸内細菌叢内の変化は、アトピー性皮膚炎の発病および皮膚症候の悪化において役割を担う。同著者らは、感作された喘鳴幼児および非喘鳴幼児の糞便の微生物相の組成を分析した場合に、lactobacteriaおよびbifidobacteriaが双方の群において類似することを観察した。
【0134】
本試験において、分析した2群の微生物組成物において、Staphylococciに関して有意差を観察した。それ故に、前記の属は、アトピー性皮膚炎に罹患した患者の皮膚のレベルおよび腸において双方に重要な役割を有し、そして本プロバイオティックの組合せ物の投与によりそのバランスを取り戻すことができるということを想定できる。
【0135】
本臨床試験により、本発明の菌株は、十分に耐容性であって、炎症性皮膚疾患の典型的な最も重要な免疫病理学的変化の幾つかの調節を介して、アトピー性皮膚炎に罹患した対象において腸管に定着できること、かつ価値ある臨床効果を誘導できることが示された。
【0136】
本発明の主題は、成人対象においてアトピー性皮膚炎の処置を補佐する追加的治療における、上記に試験した細菌株の使用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫系の変化に関連した病変の処置において使用するための、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH,(DSMZ)に寄託された以下の細菌の培養物を含む群から選択される少なくとも1つのプロバイオティック細菌の培養物を含む組成物:
- 2009年7月23日に寄託されたLactobacillus salivarius (LS01) DSM 22775;
- 2004年7月20日に寄託されたBifidobacterium breve (BR03) DSM 16604;
- 2008年11月14日に寄託されたLactobacillus pentosus (LPS01) DSM 21980;
- 2006年9月13日に寄託されたStreptococcus thermophilus (FP4) DSM 18616;
- 2004年7月20日に寄託されたLactobacillus casei ssp. rhamnosus (LRO4) DSM 16605;および
- 2008年8月6日に寄託されたLactobacillus acidophilus (LA02) DSM 21717。
【請求項2】
アレルギー、アトピー、アレルギー性鼻炎、食品に対する過敏性、アトピー性皮膚炎、湿疹、喘息または免疫不全症を含む群から選択される、免疫系の変化に関連した病変の予防および/または治療における、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
アトピー性皮膚炎の予防および/または治療における、請求項1または2に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
Lactobacillus salivarius (LS01) DSM 22775、Bifidobacterium breve (BR03) DSM 16604およびLactobacillus pentosus (LPS 01) DSM 21980を含む群から選択される少なくとも1つのプロバイオティック細菌の培養物を含む、請求項1-3のいずれか一項記載の使用のための組成物。
【請求項5】
Lactobacillus salivarius (LS01) DSM 22775、Bifidobacterium breve (BR03) DSM 16604 および L. pentosus (LPS01) DSM 21980からなる、請求項4記載の使用のための組成物。
【請求項6】
Lactobacillus salivarius (LS01) DSM 22775およびBifidobacterium breve (BR03) DSM 16604からなる、請求項4記載の使用のための組成物。
【請求項7】
該細菌培養物が、生存細菌、死菌または細胞成分、その細胞抽出物または溶菌物の形態で存在する、請求項1-6いずれか一項記載の使用のための組成物。
【請求項8】
経口投与のための固体形態である、請求項1-7いずれか一項記載の使用のための組成物。
【請求項9】
該プロバイオティック細菌の培養物が、組成物あたり、1x107〜1x1011 CFU/g、好ましくは1x108〜lx1010 CFU/gを為す濃度で存在する、請求項1-8いずれか一項記載の使用のための組成物。
【請求項10】
フラクトオリゴ糖(FOS)、イヌリンおよび部分的に加水分解されたグアーガム(PHGG)の中から選択されるプレバイオティック活性を有する食物繊維をさらに含む、請求項1-9いずれか一項記載の使用のための組成物。
【請求項11】
医薬、食品、栄養または栄養補助用の組成物である、請求項1-10いずれか一項記載の使用のための組成物。
【請求項12】
免疫系の変化に関連した病変の処置において使用するための、Deutsche Sammlung und Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH,(DSMZ)に寄託された以下の細菌の培養物を含む群から選択される少なくとも1つのプロバイオティック細菌の培養物の使用:
- 2009年7月23日に寄託されたLactobacillus salivarius (LS01) DSM 22775;
- 2004年7月20日に寄託されたBifidobacterium breve (BR03) DSM 16604;
- 2008年11月14日に寄託されたLactobacillus pentosus (LPS01) DSM 21980;
- 2006年9月13日に寄託されたStreptococcus thermophilus (FP4) DSM 18616;
- 2004年7月20日に寄託されたLactobacillus casei ssp. rhamnosus (LR04) DSM 16605、;および
- 2008年8月6日に寄託されたLactobacillus acidophilus (LA02) DSM 21717。
【請求項13】
該組成物が、アレルギー、アトピー、アレルギー性鼻炎、食品に対する過敏性、アトピー性皮膚炎、湿疹、喘息または免疫不全症を含む群から選択される免疫系の変化に関連した病変の予防および/または治療のためのものである、請求項12記載の使用。
【請求項14】
該組成物が、アトピー性皮膚炎の予防および/または治療用である、請求項13記載の使用。
【請求項15】
該組成物が、請求項4-11いずれか一項記載のものである、請求項12-14いずれか一項記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−521335(P2013−521335A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−556603(P2012−556603)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【国際出願番号】PCT/IB2011/000490
【国際公開番号】WO2011/110918
【国際公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(512233329)プロバイオティカル・ソシエタ・ペル・アチオニ (1)
【氏名又は名称原語表記】PROBIOTICAL S.P.A.
【Fターム(参考)】