説明

免疫細胞バイオセンサーおよびその使用方法

本発明は、疾病を診断する方法または患者の治療経過をモニターする方法を提供する、生理的状態の変化を検出する際に有用な免疫細胞に関する。また、生理状態の変化を検出するための抗原提示細胞特異的マーカーのアレイおよびこのような変化を検出する方法も提供される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、疾病を診断する方法または患者の治療経過をモニターする方法を提供する、生理状態の変化を検出する際に有用な免疫細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
癌、自己免疫性疾患または循環器系疾患などの多数の疾病において、健常者の細胞表面には見つけることができない正常または異常なタンパク質のペプチドが細胞表面に提示される。ヒトにおいて抗原提示が不十分であると、ヒト免疫系は多数の病原体感染および悪性細胞増殖を制御し、除去することができない。慢性感染の治療ワクチンおよび免疫療法の成功は、防御抗原を制御し、除去することができる種々の免疫応答を誘導するのに効率的な抗原提示の新規方法の開発を頼りにしている。
【0003】
T細胞が抗原を認識する能力は、抗原とMHCクラスI(MHC-I)またはクラスII(MHC-II)タンパク質の関連に依存している。例えば、細胞障害性T細胞はMHC-Iタンパク質と関連して抗原に応答する。従って、細胞が適当なMHC-Iタンパク質を発現しない場合も、ウイルス感染細胞を死滅させるT細胞はこのウイルスに感染した細胞を死滅させない。ヘルパーT細胞はMHC-IIタンパク質を認識する。ヘルパーT細胞活性は、一般に、抗原提示細胞における抗原の認識およびこれらの細胞における「自己」MHC-IIタンパク質の存在の両方に依存する。自己MHCタンパク質に関連して抗原を認識するこの要件はMHC拘束と呼ぶ。MHC-Iタンパク質は、実質的に全ての有核細胞の表面に見られる。MHC-IIタンパク質は、脾臓のマクロファージ、B細胞および樹状細胞(DC)ならびに皮膚のランゲルハンス細胞を含む細胞に見られる。
【0004】
哺乳動物において免疫応答を開始する際に重大な段階は、主要組織適合性抗原複合体(MHC)-II拘束性外来抗原を認識するCD4+ヘルパーT細胞の活性化である。これらの抗原は、樹状細胞などの抗原提示細胞の細胞エンドソーム経路に捕獲されて処理される。エンドソームおよびリソソームにおいて、抗原は小さい抗原ペプチドに処理されて、ゴルジ画分のMHC-II上で提示されて、抗原-MHC-II複合体を形成する。この複合体は細胞表面において発現され、発現はCD4+T細胞の活性化を誘導する。
【0005】
動物における効果的な免疫応答の誘導における他の重大な事象は、CD8+T細胞およびB細胞の活性化に関係する。CD8+細胞は、望ましいタンパク質が処理済みタンパク質として細胞表面に提示されるような方法で細胞を通過して、MHC-I抗原と複合体を形成する場合に活性化される。B細胞は、MHCタンパク質の必要性なく、表面の免疫グロブリン(IgMおよびIgD)によって抗原と相互作用することができる。しかし、CD4+T細胞の活性化は免疫系の全てのアームを刺激する。活性化の結果、CD4+T細胞(ヘルパーT細胞)はインターロイキンを産生する。これらのインターロイキンは、免疫系の他のアームを活性化する助けをする。例えば、ヘルパーT細胞は、B細胞が抗体を産生する助けをするインターロイキン-4(IL-4)およびインターロイキン-5(IL-5);CD4+およびCD8+T細胞を活性化するインターロイキン-2(IL-2);ならびにマクロファージを活性化するγインターフェロンを産生する。MHC-II拘束性抗原を認識するヘルパーT細胞は、細胞障害性T細胞、マクロファージ、ナチュラルキラー細胞およびB細胞の活性化およびクローン性増殖において中心的な役割を果たすので、抗原に応答してヘルパーT細胞を活性化する初期事象は、その抗原に対する効果的な免疫応答の誘導に重大である。
【0006】
罹患細胞において発現されるペプチドおよびタンパク質は、このような異常な細胞の同定のためのマーカーとして使用することができる。さらに、これらのペプチドに対する抗体の血清または他の生体液における検出もリスクの指標としてまたは予後指標として使用することができる。しかし、これらの疾患関連ペプチドの濃度は極めて低く、それらの単離および同定は、通常、疾病が個人において優勢となったときしか有効ではなく、その時までには通常効果的な治療は不可能になる。哺乳動物の病的状態を検出するための迅速且つ感度の高いアッセイの必要性が当技術分野において残っている。
【発明の開示】
【0007】
発明の概要
本発明は、抗原提示細胞の柔軟性およびAPC、特にDCが抗原と遭遇後に受ける特異的の高い代謝変化に基づいている。これらの変化は定量することができ、APCの参照の正(抗原接触)および負(未処理)対照と比較するとき、それらを得た哺乳動物の免疫状態および微小環境に関する情報を提供する。
【0008】
一局面において、本発明は、抗原提示細胞の亜集団を有する血液試料を哺乳動物被験体から得る段階、血液試料から抗原提示細胞を実質的に単離する段階、単離された抗原提示細胞のゲノムまたはプロテオミクス哺乳動物被験体シグニチャーを誘導する段階であって、哺乳動物被験体シグニチャーが被験体の抗原提示細胞の代謝状態を示す段階、疾病状態を有する参照被験体から抗原提示細胞の1つまたは複数のゲノムまたはプロテオミクス参照シグニチャーを誘導する段階、および哺乳動物被験体のシグニチャーと参照シグニチャーを比較する段階であって、哺乳動物被験体のシグニチャーと参照シグニチャーとの一致性が哺乳動物における疾病状態の存在を示す段階を含む診断方法を提供する。哺乳動物被験体は、好ましくは、ヒトであるが、イヌ、ネコ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギまたは他の動物などの動物被験体であってもよい。一態様において、抗原提示細胞は樹状細胞である。別の態様において、疾病状態は癌または細胞増殖性疾患である。さらに別の態様において、疾病状態は病原体感染である。さらに別の態様において、病原体感染はウイルス感染である。よりさらに別の態様において、病原体感染は細菌感染である。
【0009】
別の局面において、本発明は、複数のアドレスを含むアレイであって、各アドレスに抗原提示細胞によって発現される遺伝子に対応する核酸試料が付加されているアレイを提供する。一態様において、アレイは、複数の二次アドレスをさらに含み、各二次アドレスに、抗原に遭遇した経験のある抗原提示細胞によって発現される遺伝子に対応する核酸試料が付加されている。別の態様において、抗原提示細胞は樹状細胞である。さらに別の態様において、抗原は癌抗原である。さらに別の態様において、抗原はウイルス抗原である。さらに別の態様において、抗原は細菌抗原である。さらに別の態様において、抗原は真菌抗原である。
【0010】
さらに別の局面において、本発明は、単離された抗原提示細胞集団を得る段階、食品媒介性病原体の存在下で抗原提示細胞を培養し、それによって食品媒介性病原体に特異的なプロテオミクスまたはゲノム参照シグニチャーを有する参照細胞を作製し、参照シグニチャーを得る段階、食品試料を得る段階、ナイーブ(naive)抗原提示細胞を試料の食品と共に培養する段階、培養した抗原提示細胞から試料シグニチャーを得る段階、および試料シグニチャーと参照シグニチャーを比較する段階であって、試料シグニチャーと参照シグニチャーとの一致性が食品中の食品媒介性病原体の存在を示す段階を含む診断方法を提供する。一態様において、抗原提示細胞は樹状細胞である。別の態様において、食品媒介性病原体は細菌病原体である。さらに別の態様において、食品媒介性病原体はウイルス病原体である。さらに別の態様において、食品媒介性病原体はプリオン病原体である。関連する局面において、本発明は、家畜哺乳動物から抗原提示細胞を得る段階、ならびに家畜哺乳動物における食品媒介性病原体へのAPC接触、および抗原接触によって生ずるAPCにおける遺伝子およびタンパク質発現の変化をアッセイする段階を提供する。一態様において、抗原提示細胞は樹状細胞である。別の態様において、食品媒介性病原体は細菌病原体である。さらに別の態様において、食品媒介性病原体はウイルス病原体である。さらに別の態様において、食品媒介性病原体は、プリオン病原体、例えばウシ海綿状脳症(BSE)を生ずるプリオンである。
【0011】
よりさらに別の局面において、本発明は、疾患の治療を受けている患者から、抗原提示細胞の亜集団を有する血液試料を得る段階、血液試料から抗原提示細胞を実質的に単離する段階、単離された抗原提示細胞についてゲノムまたはプロテオミクス患者シグニチャーを誘導する段階であって、患者シグニチャーが被験体の抗原提示細胞の代謝状態を示す段階、患者と同じ疾患を有する参照被験体から抗原提示細胞の1つまたは複数のゲノムまたはプロテオミクス参照シグニチャーを誘導する段階、および患者シグニチャーを参照シグニチャーと比較する段階であって、患者シグニチャーと参照シグニチャーとの一致性が治療中に低下し、それによって疾患の治療における治療の有効性を示す段階を含む、診断方法を提供する。一態様において、疾患は細胞増殖性疾患または癌であり、治療は抗悪性腫瘍薬の投与である。別の態様において、疾患は細胞増殖性疾患または癌であり、治療は細胞増殖性疾患に対する免疫応答を誘発する。さらに別の態様において、疾患は自己免疫性疾患であり、治療は自己免疫応答を低下する。さらに別の態様において、疾患は細菌感染であり、治療は抗菌剤の投与である。さらに別の態様において、疾患はウイルス感染であり、治療は抗ウイルス剤の投与である。よりさらに別の態様において、疾患は真菌感染であり、治療は抗真菌剤の投与である。また別の態様において、疾患は遺伝性疾患であり、治療は遺伝子置換治療である。
【0012】
別の局面において、本発明は、抗原の存在下において培養された抗原提示細胞であって、抗原は、抗原負荷に応答して特異的にアップレギュレーションされる複数の遺伝子を発現する、抗原提示細胞を提供する。一態様において、抗原提示細胞は樹状細胞である。さらに別の態様において、抗原は癌抗原である。さらに別の態様において、抗原はウイルス抗原である。さらに別の態様において、抗原は細菌抗原である。さらに別の態様において、抗原は真菌抗原である。さらに別の態様において、抗原はプリオン抗原である。一局面において、抗原接触に応答して産生される特異的なポリペプチド(マーカータンパク質)を単離する。これらを使用して抗体を形成し、抗体を、患者から単離したAPCに関係するその後のアッセイに使用し、それによってAPCを単離した患者において発現されるポリペプチドを、免疫学的アッセイ、例えば、ELISA、FAC、RIAおよび同様の技法によって定性的および定量的に同定する。
【0013】
別の局面において、本発明は、抗原に接触させた抗原提示細胞のプロテオミクスシグニチャーを決定する段階を提供する。一態様において、プロテオミクスシグニチャーは、抗原提示細胞をSELDI質量分析法に供することによって得られる。別の局面において、プロテオミクスシグニチャーは、抗原提示細胞をMALDI-O-TOFおよび他の形態の質量分析法に供することによって得られる。さらに別の局面において、本発明は、抗原に接触させた抗原提示細胞から得られるプロテオミクスシグニチャーを提供する。一態様において、抗原提示細胞は樹状細胞である。さらに別の態様において、抗原は癌抗原である。さらに別の態様において、抗原はウイルス抗原である。さらに別の態様において、抗原は細菌抗原である。さらに別の態様において、抗原は真菌抗原である。さらに別の態様において、抗原はプリオン抗原である。
【0014】
一局面において、本発明は、疾患を有する哺乳動物から、抗原提示細胞の亜集団を有する血液試料を得る段階;血液試料から抗原提示細胞を実質的に単離する段階、抗原提示細胞から1つまたは複数のマーカーポリペプチドを誘導する段階であって、マーカーポリペプチドが抗原接触に応答して抗原提示細胞において発現され、接触した抗原が疾患に関連するかまたは疾患の原因因子である、段階;マーカーポリペプチドに対する抗体を得る段階;および被験体の抗原提示細胞において、抗体に結合するポリペプチドの有無を検出する段階であって、ポリペプチドの存在が被験体における疾患の存在を確認する段階を含む、診断方法を提供する。抗体に結合するポリペプチドの検出は、ELISA、RIA、FRET、FACおよび他の免疫検出方法などのアッセイを使用して実施することができる。一態様において、抗原提示細胞は樹状細胞である。一態様において、疾患は癌または細胞増殖性疾患である。一態様において、疾患は病原体感染である。一態様において、疾患はウイルス感染である。一態様において、疾患は細菌感染である。一態様において、疾患はプリオン感染である。一態様において、疾患は真菌感染である。
【0015】
別の局面において、本発明は、抗原に接触していない哺乳動物組織または哺乳動物生体液の試料に存在するタンパク質/遺伝子発現量を検出する段階を含む、抗原との接触を診断する方法を含む。次いで、抗原に接触した哺乳動物組織または哺乳動物生体液の試料に存在するタンパク質/遺伝子発現量を検出する。接触試料と未接触試料間のタンパク質/遺伝子発現の検出量の差を求める。所定の抗原の予想されるタンパク質/遺伝子発現のライブラリーとの差を比較する。最後に、差が特定抗原との接触を示すかどうかを評価する。本発明は、任意の症状の猛襲の前に、人が抗原に接触したかどうかの診断を提供することができるので、特に有用である。本発明はまた、抗原に接触した可能性のある人の哺乳動物組織または哺乳動物生体液試料に存在する遺伝子発現/タンパク質パターンを検出する段階、接触した可能性のある個人のそれらの組織において発現されるハウスキーピング遺伝子およびタンパク質に対する遺伝子またはタンパク質パネル発現の相対的な量を求める段階、所定の抗原の予想される遺伝子発現/タンパク質ライブラリーに対する相対的な量の差を比較する段階;および公知の、目録となっている毒性因子、これまでに未知の抗原または増強因子(potentiating agent)と混合されている抗原との接触が生じたことを差が示すかどうかを評価する段階を含む、抗原との接触を診断する方法に関する。ハウスキーピング遺伝子は、抗原と接触するとき変化しない傾向の遺伝子である。
【0016】
これらの局面および他の特徴は以下の考察から明らかになる。
【0017】
詳細な説明
本発明は、抗原提示細胞(APC)の観察される柔軟性ならびに病原体、腫瘍および有害な病原体に応答してヒト樹状細胞および単球において生じる遺伝子およびタンパク質発現の特異的な変化を迅速に検出するためのそれらの用途に基づいている。抗原提示細胞、特に樹状細胞(DC)マクロファージおよび単球(M)ならびに少ない程度であるがB細胞は、哺乳動物の生体において見られる種々の微小環境を絶え間なくサンプリングしている。例えば、DC細胞はほとんどの組織において未成熟状態で見られ(CD1a+、CD83Low)、それらは病原体および他の抗原を認識し、貪食する(Poindexter, et al., (2004) Breast Cancer Res. 6(4): 408-415参照)。血小板はそれ自体細胞ではないが、血小板も感染性微生物および血清タンパク質に結合し、貪食することができ、病原体ならびに腫瘍細胞およびアポトーシス細胞細片などの細胞断片を検出するための貯蔵所と考えることができる(Youssefian, et al., Host defense role of platelets: engulfment of HIV and Staphylococcus aureus occurs in a specific subcellular compartment and is enhanced by platelet activation. Blood. 2002 Jun 1; 99(11): 4021-9参照)。従って、抗原提示細胞は、一般に、抗原を内部移行して、これらの抗原を他の細胞に提示する能力を有するような細胞および細胞断片をいう。例示的な抗原提示細胞には、T細胞、B細胞、リンパ関連樹状細胞およびナチュラルキラー細胞などのリンパ系の細胞、ならびに骨髄関連樹状細胞などの骨髄系列細胞、マクロファージ、単球、巨核球、血小板、顆粒球および好中球などの骨髄系の細胞が含まれるが、それらに限定されるわけではない。マクロファージ、単球および樹状細胞などの貪食性の強い細胞が好ましい。
【0018】
抗原または他の病原因子と直接接触することにより、これらの抗原提示細胞は成熟し、抗原提示の増加、同時刺激分子の発現、サイトカインの発現およびその後のリンパ器官における未処理のT細胞ならびに樹状細胞における表面CD83発現などの他の細胞特異的マーカーの刺激によって特徴づけられる。この成熟過程は、定性的および定量的に測定することができる、これらの細胞における遺伝子発現の数多くの対応する変化によって調節される。生ずる一連の遺伝子発現変化は特異性が高く、APCが接触される特定の抗原に特異的に応答する。APCは、例えば、特定のペプチド、糖ペプチド、糖脂質を識別し、種々の抗原に接触されたとき、類似しているが、同一ではない応答を開始することができる。抗原付加に応答したAPCの遺伝子およびタンパク質発現の特定の変化は非常に特異的な測定可能な生物的シグニチャーを示し、APCが抗原を経験したということならびに抗原自体の性質、例えば、その化学的組成および起源を同定するために使用することができる。ある態様において、APCの単離により、その後に貪食された抗原または場合によっては病原体全体をAPCから抽出し、単離することが可能となり、MSまたは同様のツールによってさらに特徴づけることができる。例えば、DCは、ウイルスおよび細菌病原菌を死滅させないで内部移行することが公知である(Sundquist et al., 2004, and Jantsch et al., 2003)。従って、本発明の一目的は、病原体または抗原のゲノム/プロテオミクスシグニチャーを得る以外に、病原体または抗原の一部および/または全体を回収する方法を含む。本発明の別の目的は、抗原接触に応答してアップレギュレーションされるAPCポリペプチドの単離である。これらのポリペプチドは抗原接触に特異性の高いマーカーであり、それらの発現は、APCが特定の抗原に出会った経験があることを示す。これらのポリペプチドを全体としてまたは部分として単離することによって、抗体を形成することができ、その後のアッセイに使用して抗原接触を判定する。
【0019】
例えば、Dasらに付与された米国特許第6,316,197号、特定の遺伝子の発現レベルの別個のパターンを測定することによって毒性の病原体への接触を診断する方法(Method of diagnosing of exposure to toxic agents by measuring distinct pattern in the levels of expression of specific genes)参照。未成熟DCのLPS刺激への接触はCD70(+)DCへの最終分化に寄与する(Iwamoto S., et al., Lipopolysaccharide stimulation converts vigorously washed dendritic cells (DCs) to nonexhausted DCs expressing CD70 and evoking long-lasting type 1 T cell responses., J Leukoc Biol. 2005 Apr 27; [Epub ahead of print])参照)。Kumar, A., Kurl, R. N. Kryworuchko, M., Diaz-Mitoma, F., & Sharma, S. 1995. EBV形質転換とc-mycおよびポリAポリメラーゼ(PAP)の発現増加の関連を詳細に記載している、ヒトバーキットリンパ腫B細胞系統においてRNA代謝に与えるヒートショックの差別的な影響(Differential effect of heat shock on RNA metabolism in human Burkitt's lymphoma B-cell lines). Leuk. Res, 19(11): 831-840も参照。LPSまたはTNF-α刺激に応答するIDOのアップレギュレーションを記載している、Hwang SL., et al., インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)は樹状細胞活性化およびケモカインに対する走化性反応に必須である(Indoleamine 2,3-dioxygenase (IDO) is essential for dendritic cell activation and chemotactic responsiveness to chemokines)., Cell Res. 2005 Mar; 15(3): 167-75;およびヒト臍帯血単球由来DCは、臍帯血DC細胞質におけるTNF-α関連アポトーシス誘導リカンド(TRAIL)発現の増加に関連する、リポ多糖(LPS)またはγ-インターフェロン(IFN-γ)による活性化により、血液腫瘍細胞を死滅させる能力を獲得することを記載している、Shi J., et al., Cancer Sci. 2005 Feb; 96(2): 127-33も参照。ヒトヘルペスウイルス-6(HHV-6)はDCによるインターロイキン-12(IL-12) p70の分泌を劇的に抑制し、密接に関連するベータヘルペスウイルスHHV-7は抑制しなかったが、DC成熟に影響する他のサイトカインの、すなわち、IL-10および腫瘍壊死因子α産生は有意に改変されなかったことを詳細に記載している、Smith, A. P., et al., J Virol. 2005 Mar; 79(5): 2807-13も参照。Komerらは、炭疽菌(Bacillus anthracis) 致死性毒素(LeTx)に応答してアップレギュレーションされるマクロファージの103種の遺伝子のアップレギュレーションを記載した。同様に、Tucker et al.,は、種々の異なるAPC細胞種におけるマイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ(MAPKK)のLeTx切断を記載している。MAPKK活性によって調節される遺伝子の発現は有意に変化しなかったが、グリコーゲンシンターゼキナーゼ-3-β(GSK-3β)調節下にある一連の遺伝子は、LeTx処理後発現を変化させた。リーシュマニア・メジャー(Leishmania major)、野兎病(野兎病菌(Francisella tularensis))、ウシ型結核菌(Mycobacterium bovis)(BCG)およびネズミマラリア原虫(Plasmodium berghei)との接触に応答したAPCによる一酸化窒素(NO)産生の調節を記載している、Green, S. J. 、Scheller, L. F., Marletta, M. A.、Seguin, M. C.、Koltz, F. W.、Slayter, M.、Nelson, B. J., & Nacy, C. A. 1994. 一酸化窒素:細胞内病原体に対する宿主抵抗性における一酸化窒素のサイトカイン調節(Nitric oxide: cytokine-regulation of nitric oxide in host resistance to intracellular pathogens). Immunol. Lett, 43(1-2): 87-94も参照。Hernychova, L., Kovarova, H., Macela, A., Kroca, M., Krocova, Z.&Stulik, J. 1997. マウスにおける異なる遺伝子バックグラウンドの影響下におけるマクロファージ野兎病菌相互作用の早期結果(Early consequences of macrophage-Francisella tularensis) interaction under the influence of different genetic background in mice). Immunol. Lett, 57(1-3): 75-81およびClemens, D. L., Lee, B. Y. & Horwitz, M. A. 2004. 病原性および非病原性株の野兎病菌はファゴソームの酸性化および成熟ならびにヒトマクロファージの細胞質への逃避を防止する(Virulent and avirulent strains of Francisella tularensis prevent acidification and maturation of their phagosomes and escape into the cytoplasm in human macrophages). Infect. Immun., 72(6): 3204-3217も参照。ペスト菌(Y. pestis)感染に応答してアップレギュレーションされる合計22種の異なる遺伝子を詳細に記載している、Ng, L. C.、Forslund, O.、Koh, S.、Kuoppa, K.&Sjostedt, A. 2003. DNAマイクロアレイ分析によって明らかにされるペスト菌(Yersinia pestis)感染に対するマウスマクロファージの応答(The response of murine macrophages to infection with Yersinia pestis as revealed by DNA microarray analysis). Adv. Exp. Med Biol, 529: 155-160も参照。これらの遺伝子には、未知のEST、サイトカイン、サイトカインの酵素、受容体、リガンド、転写因子、転写因子の阻害因子、細胞骨格に関与するタンパク質ならびに細胞周期および細胞増殖に関連することが公知の因子をコードする7種の遺伝子が挙げられ、それらのうち3種がアポトーシスに役割を果たす。APCのLPS処理は転写因子、プロトオンコジーン、アポトーシス関連タンパク質(システインプロテアーゼ)、細胞内キナーゼおよび増殖因子の発現をダウンレギュレーションしたことを詳細に記載している、Saban, M. R.、Hellmich, H.、Nguyen, N. B.、Winston, J.、Hammond, T. G.&Saban, R. 2001.尿生殖器炎症のマウスモデルにおけるLPS誘導性遺伝子発現の経過 (Time course of LPS-induced gene expression in a mouse model of genitourinary inflammation). Physiol Genomics, 5(3): 147-160も参照。LPSに応答した遺伝子アップレギュレーションは、インターロイキン-6(IL-6)受容体、α-およびβ-神経増殖因子(α-およびβ-NGF)、血管内皮増殖因子受容体-1(VEGF R1)、C-Cケモカイン受容体およびP-セレクチンを含むクラスターにおいて観察された。発現が顕著な別の密接なクラスターは、プロトオンコジーンc-Fos、Fos-B、Fra-2、Jun-B、Jun-DおよびEgr-1を含んだ。ほとんど全てのインターロイキン遺伝子は、LPS刺激の1時間後にはアップレギュレーションされた。核因子κB(NF-κB)経路遺伝子は、LPS刺激の4時間後にピーク発現を有するシングルクラスターで集合した。一方、インターロイキン受容体およびケモカイン受容体のほとんどは、LPS接触の24時間後に遅い発現ピークを示した。Mendis, C.、Das, R.、Hammamieh, R.、Royaee, A.、Yang, D.、Peel, S.&Jett, M. 2005. ブドウ球菌エンテロトキシンBに対するヒトリンパ球の転写応答シグニチャー(Transcriptional response signature of human lymphoid cells to staphylococcal enterotoxin B). Genes Immun., 6(2): 84-94. も参照。
【0020】
従って、これらのポリペプチドおよび他のAPCポリペプチドは、抗原接触を示すタンパク質マーカーを提供する。一局面において、これらのポリペプチドマーカーを単離して、抗体を形成するために使用する。抗APCマーカー抗体は、抗原接触が疑われる患者から得られる細胞におけるAPCマーカーポリペプチドの発現を検出するために使用することができるアッセイに有用である。一態様において、抗APCマーカー抗体は、蛍光標示式細胞分取(FACS)、蛍光共鳴放出断層撮影(FRET)、ラジオイムノアッセイ(RIA)および酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)などの免疫学的検出方法を使用するアッセイに使用される。他の免疫学的検出アッセイは当業者に公知であり、本明細書に記載する検出方法に好適である。
【0021】
従って、抗原付加に応答したAPCの変化を使用して前駆症状(病気ではない)状態の人についてアッセイすることができ、疾病の進行または疾病を治療する際の治療法の有効性をモニターすることができる。例えば、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)による外毒素の分泌に対する抗生物質リネゾリド(linezolid)の影響を、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動とマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法およびウェスタンブロット分析を組み合わせたものによって分析したことを記載している、Bernardo, K.、Pakulat, N.、Fleer, S.、Schnaith, A.、Utermohlen, O.、Krut, O.、Muller, S.&Kronke, M. 2004. 阻止濃度以下のリネゾリドは黄色ブドウ球菌の病原性因子発現を低下する(Subinhibitory concentrations of linezolid reduce Staphylococcus aureus virulence factor expression). Antimicrob. Agents Chemother., 48(2): 546-444参照。同様に、抗原付加に応答したAPCの変化は、生物兵器に接触した人をアッセイするために使用することができ、高リスク接触個人の早期診断の際に;ならびに症状を発症する早期段階にある人をモニターするために使用することができる。例えば、ウイルスまたは細菌病原体からの抗原付加に応答したAPCの変化はこれらの病原体を迅速に同定し、血漿中への最終的な病原体の出現より数時間または数日早期に判定することができる。関連出願において、本発明は、ワクチンの1つまたは複数の成分とDCの相互作用をアッセイすることによって、ワクチン化の有効性をモニターするために使用することができる。同様に、腫瘍からの抗原付加に応答したAPCの変化は、個人が症状を呈する前に腫瘍の検出を可能にし、それによって早期積極的治療が可能になる。また、工業用化学薬品または生物戦争兵器への接触に応答したAPCの変化は、個人が接触している可能性のある未知の原因因子を同定することができる。
【0022】
APCは生体の天然免疫バイオセンサーとして働く。これらの細胞種は全生体組織を循環し、微小環境をサンプリングすることによって生体組織の全てではないにしてもほとんどの調査を担当する。調査を実施する際には、それらは、危険信号、すなわち、有糸分裂活性の増加またはウイルス/細菌感染が認められる組織領域を探し出す(Crawford et al., 2003)。この信号が検出されると、APCは早期転写変化を開始し、細胞表面抗原が発現され、炎症性媒介因子が放出される(Crawford et al., 2003)。これらの細胞の変更は関与部位への他の炎症細胞の動員および細胞対細胞接触の改善に必要とされる。DCなどの抗原提示細胞はパターン認識受容体を有し、種々の病原体に結合し、識別することが可能になる(Chaussabel et al., 2003)。他の受容体には、Toll様受容体、ICAM-1などのICAM、DCSIGN、その他が含まれる。
【0023】
上記のように、APCは、種々の病原体との接触に応答して独自の遺伝子シグニチャーを作製する。細菌、カンジダ、インフルエンザまたは異なる寄生虫に感染したDCおよびマクロファージにおける不調和な遺伝子発現をオリゴヌクレオチドアレイを使用して検討したところ、約6800種の遺伝子試料のうち、約1300遺伝子が、抗原との接触後に発現パターンの大きな変更を証明することを示唆している(Huang et al., The plasticity of dendritic cell responses to pathogens and their components, Science, 294: 2001参照)。例えば、DCは病原体認識受容体としてC型レクチン、例えばDC特異的ICAM-3グラビングノンインテグリン(Grabbing nonintegrin)(SIGN)/CD209を発現し、DCのHIV-1受容体としてならびにヒト型結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)、メキシコリーシュマニア(Leishmania mexicana)、マンソン住血吸虫(Schistosoma mansoni)および他の病原体の表面グリカンについて同定されている(Appelmelk et al. (2003), J. Immunol., 170:(4)1635-9参照)。Hofer et al., (2001) Immunol. Rev., Jun: 181:5-19およびPuldendran et al., (2001), J. Immunol. Nov.:167(9): 5067-76も参照。これらの受容体およびそれらが相互作用する細胞経路は、DC活性化および応答をモニタリングするための独自のマーカーを提供する。さらに特に、DC応答の変化は測定可能であり、特定の疾病原因因子とDCの相互作用を証拠立てる病原体特異的シグニチャーを提供する。数種のMMP遺伝子は、ホルボールエステル、リポ多糖(LPS)およびブドウ球菌エンテロトキシンB(SEB)などの種々の刺激との接触後に試験した細胞において転写が活発であることを詳細に記載している、Machein, U. & Conca, W. 1997. ヒト単球細胞における数種のメタロプロテイナーゼ遺伝子の発現(Expression of several matrix metalloproteinase genes in human monocytic cells). Adv. Exp. Med. Biol, 421: 247-251.参照。
【0024】
有害な環境因子はAPC特異的免疫細胞応答そのものを誘発することができるので、または細胞および組織を破壊し、サイトカインおよび種々の細胞因子に応答して炎症の増加、血管外遊走およびAPCの活性化を生じるので、有害な環境因子も本明細書に記載する方法によって検出可能である。ヒトAPCのこれらの特性により、任意の病原性因子、例えば、感染性病原体、腫瘍、毒素もしくは毒性工業用化学薬品(TIC)または大量破壊兵器(WMD)との接触を迅速に検出するのに好適となる。
【0025】
記載されているAPC、好ましくは、単球および最も好ましくは、DCは、感染性疾患および癌などの疾病に特に応答して被験者の生理の変化を検出するのに有用である。本明細書において使用する抗原という用語は、健康な哺乳動物には一般に外来性である、または哺乳動物にとって天然であるが、病的状態の哺乳動物において突然変異されている、異常であるもしくは濃度が増加しているのが見られる任意の組成物をいうために広義的に使用される。従って、抗原は、細菌、ウイルス、真菌、原虫などの病原体全体ならびに病原体の1つまたは複数の成分を含み、例えば、細菌抗原はリポ多糖(LPS)を含み、ウイルス抗原はHIVのgp120またはインフルエンザのヘマグルチニンなどのウイルスコートタンパク質を含み、真菌抗原は細胞壁由来タンパク質マンニン(mannin)を含む。プリオンも抗原性であり、疾病状態に関連する特異的なペプチド配列を示す。抗原はまた、癌胎児性抗原(CEA)および異常にグリコシル化されたムチン(MUC)ならびにbcl-2、サバイビン、ヘプシン等数多くの他の腫瘍特異的抗原およびタンパク質などの腫瘍に関連するタンパク質およびペプチドも含む。従って、抗原または抗原性因子の共通の特徴は、抗原提示タンパク質および共同受容体のアップレギュレーションなどのAPCの特異的な生化学的変化を生ずる、ならびにAPCの成熟および増殖、組織遊走ならびに抗原との接触を示す他の特性を生ずるという点においてAPCに与える影響である。APCの検出可能な増加は、未接触すなわち健康な哺乳動物におけるAPCのレベルと比較して、APCの数の2倍以上の増加が抗原に接触した哺乳動物において形成されるまたは活性化されるまたは成熟されるように誘導される増加である。DCおよび他の血液細胞を測定するアッセイ技法は当技術分野において周知であるが、例えば、成熟DC細胞マーカーCD2+およびCD83+または未成熟マーカーCD1a+を使用するFACSに限定されない。
【0026】
一局面において、本発明は、疾病状態に対する患者の応答をモニタリングするための免疫細胞に基づいた方法を提供する。病原体または腫瘍特異的ゲノムおよびプロテオミクス発現パターンまたはシグニチャーの測定は、疾病状態に対する患者の免疫応答を継続的にモニタリングする改善された方法を提供する。この情報を、癌患者の腫瘤もしくは全身腫瘍組織量の低下、またはHIV感染患者のウイルス量の低下、または結核患者における放線菌の除去などの他の関連する医学的情報と併用して使用して、例えば、化学療法、抗ウイルス療法または抗生物質の投与に対して応答する治療効果のモニタリングを可能にする。
【0027】
従って、APCは、細胞代謝の変化に基づいて、抗原を同定し、個人の健康状態をモニタリングするための有用な診断ツールを提供する。測定可能な変化は数多くの遺伝子、タンパク質およびサイトカインなどの分泌因子の発現において生じ、抗原はまた(血小板の細胞質内などの)APCの細胞質においても検出することができる。従って、一局面において、本発明はAPC遺伝子シグニチャーのアレイ、好ましくは、単球またはDCシグニチャーのアレイを提供する。アレイは、オリゴヌクレオチド、オリゴリボヌクレオチドまたは複数のAPCマーカー遺伝子およびタンパク質のポリペプチド、すなわち、抗原提示細胞において識別的に発現される遺伝子またはタンパク質産物を含む。さらに好ましくは、アレイは、マトリックスの個別のアドレスに約500〜1000種の特異的マーカーを含む。よりさらに好ましくは、アレイは、アレイ上に示される約5,000、約10,000、約20,000種以上の遺伝子または遺伝子産物を含む。最も好ましくは、アレイはゲノムワイドアレイ、例えば、成熟DC cDNAアレイである。AffymetrixおよびIllumina(両システムは相補的である)アレイは例示的である。個々の遺伝子または遺伝子産物は、例えば、対照としてまたは遺伝子発現の定量分析のためにアレイ上で2つ組にしてもよい。このようなアレイの製造および用途は米国特許第6,741,344号、同第6,733,977号および同第6,733,964号に記載されている。基板の選択された領域またはアドレスに、例えばオリゴヌクレオチドのアレイの合成のために材料を選択的に基板に適用するための方法および装置は、さらに米国特許第6,667,394号に記載されている。作製される遺伝子アレイは病原体に対する宿主反応を非常に詳細に代表しており(典型的には52,000遺伝子以上)、例えば、Q-PCRによる同定の場合のように、1つまたは数個の遺伝子の同定(本質的に偏りが生じる)に依存しない。プロテオミクスデータは種々の技法によって形成することができるが、例えば、表面プラスモン共鳴または質量分析法(MALDIまたはSELDI等)の使用に限定されない。DC遺伝子アレイなどのハイスループットスクリーン様式においてゲノムおよびプロテオミクス方法を使用して得られる情報の組み合わせは例外的に特異的な診断データを提供し、従って抗原同定または患者モニタリングの強力なツールを提供する。
【0028】
種々の目的のためにAPCに基づいた診断アレイを形成するためであるが、一般にAPC、特にDCが異なる抗原との接触の結果どのように反応するかについてのデータセットを得るために、数多くの種類のアレイは作製される。特定のアレイの使用は化学的組成に依存し、アレイが核酸、ペプチド、その両方、またはレクチン等などの他の化学的部分を有するかどうかに依存して変わる。一般的な例示として、Affymetrix社製のGeneChip(登録商標)などのアレイは、細胞抽出物から作製されるビオチン標識cRNAを使用する。約5マイクログラムの総RNAが適当な出発材料である。RNA試料から作製されるcRNAをアレイに接触させて、適当な標的にハイブリダイゼーションさせる。次いで、アレイを洗浄し、例えば、ストレプトアビジンフィコエリスリンで染色し、次いでAffymetrix社製のGeneChip(登録商標)スキャナー3000またはAgilent GeneArray(登録商標)スキャナーを使用して可視化する。この技法、ならびに公知の免疫学的方法ならびにプロテオミクスおよびゲノムアレイを使用する他の一般的な方法は、一般に当業者に理解されている。
【0029】
アレイは、病原体および病原性因子の検出および同定ならびに被験者由来の試料を使用する形質転換細胞および組織の検出および同定を提供する。患者の疾病状態についての情報、すなわち、患者データセットは、最初に被験者から血液試料を入手し、次いでその血液試料からDCを単離することによって、記載されているAPCアレイの1つまたは複数を使用して得られる。例えば、記載されているハイブリダイゼーションアレイを使用して、患者のDCシグニチャーを1つまたは複数の対照DCシグニチャーと比較する。アレイ上の対照シグニチャーは、1つまたは複数の疾病状態について正常または健康DCシグニチャーおよび異常または病的DCシグニチャーの両方を最低限示す。種々の他の態様は、種々の疾病状態の病期、例えば、癌の病期の参照シグニチャーを提供する追加の対照DCシグニチャーを含む。そこで得られるアレイおよびデータセットは、例えば、遺伝子病もしくは染色体異常の存在を発見もしくは診断するのに、または疾病もしくは状態に対する素因を診断するアイデンティティー、遺伝もしくは適合性に関する情報を提供するために、病原性微生物による感染を診断するのに、細胞もしくは組織の腫瘍性形質転換を発見もしくは診断するのに、生物兵器もしくは化学兵器試料もしくは毒性の工業用化学薬品との接触および同定を判定するのに有用である。
【0030】
一局面において、特定の病原体の有無ならびにそれらが関係する疾病状態の進行中の免疫学的結果を同定するために設計されたAPCアレイが開発されている。例えば、HIVなどのウイルス感染を検出し、モニタリングするアレイが作製される。アレイは、未成熟またはナイーブAPC由来、HIV接触であるが無症候性の人から得られるAPC由来、HIV接触があり早期症状の人から得られるAPCおよび後期症状の人のAPC由来のコンセンサスAPCシグニチャーを含む。同様のウイルスアレイ、例えば、肝炎、腫瘍性ウイルスまたは他の慢性もしくは病原性ウイルス感染を診断し、モニタリングするのに有用なものが開発される。遺伝子治療に使用されるウイルスベクターをモニターするために使用することができる診断用アレイ、例えば、ワクシニアまたはポックスウイルスに対するもの、さらに特には、野生型ベクターとは異なるDCシグニチャーを産生するはずである、形質転換ベクターに特異的なものも好ましい。さらに別の局面において、アレイはヒトAPC、特にCDC優先リストの病原体に接触させたDCおよびマクロファージ細胞を含む。そのような種類のアレイは、接触した個人または接触の可能性のある個人の迅速な緊急診断、病因研究、応答および治療を促進にする。生物兵器病原体に特異的なDCアレイはテロリストまたは敵の生物兵器攻撃の迅速な検出および応答を提供するので、本土防衛または軍事利用に特異的なアレイも本明細書に提供される。このようなアレイは、天然痘アレイ、炭疽菌(Bacillus anthracis)アレイおよび他のWMD病原体を含む。例えば、毒性病原菌に接触したヒトAPC、特にDCおよびマクロファージ細胞は、接触した個人または接触した可能性のある個人の緊急診断、応答および治療を促進にする。別の態様において、そこから得られるアレイおよび患者データセットは接触した個人の法医学または毒性学的研究を促進する。
【0031】
別の局面において、アレイは、ヒトAPC、特に異なる病期の腫瘍増殖を含む異なる腫瘍を有する患者のDCおよびマクロファージから得られる。APCアレイは、特定の腫瘍抗原マーカーの有無および患者の癌の進行中に患者の腫瘍の免疫学的な結果を同定するように設計される。この種のアレイは、罹患個人の迅速な診断、腫瘍同定および適当な治療を促進する。以下の癌種は各々特異的なAPC応答を生じ、記載されている技法を使用する検出の可能性がある:急性リンパ芽球性白血病、成人;急性リンパ芽球性白血病、小児;急性骨髄性白血病、成人;急性骨髄性白血病、小児;副腎皮質癌;副腎皮質癌、小児;AIDS関連癌;AIDS関連リンパ腫;肛門癌;星状細胞腫、小児小脳;星状細胞腫、小児大脳;胆管癌、肝外;膀胱癌;膀胱癌、小児;骨癌、骨肉腫/悪性線維性組織球腫;脳幹グリオーマ、小児;脳腫瘍、成人;脳腫瘍、脳幹グリオーマ、小児;脳腫瘍、小脳星状細胞腫、小児;脳腫瘍、大脳星細胞腫/悪性グリオーマ、小児;脳腫瘍、上衣細胞腫、小児;脳腫瘍、髄芽腫、小児;脳腫瘍、テント上原始神経外胚葉腫瘍、小児;脳腫瘍、視経路および視床下部膠腫、小児;脳腫瘍、小児(他);乳癌;乳癌および妊娠;乳癌、小児;乳癌、男性;気管支腺腫/カルチノイド、小児;カルチノイド腫瘍、小児;カルチノイド腫瘍、消化管;癌、副腎皮質;癌、膵島細胞;原発部位不明の癌;中枢神経系リンパ腫、原発性;小脳星状細胞腫、小児;大脳星細胞腫/悪性グリオーマ、小児;子宮頸癌;小児癌;慢性リンパ性白血病;慢性骨髄性白血病細胞;慢性骨髄増殖性疾患;腱鞘の明細胞肉腫;結腸癌;結腸直腸癌、小児;皮膚T 細胞性リンパ腫;子宮内膜癌;上衣腫、小児;上皮癌、卵巣;食道癌;食道癌、小児;ユーイング腫瘍;頭蓋外胚細胞腫瘍、小児;性腺外胚細胞腫瘍;肝外胆管癌;眼癌、眼内黒色腫;眼癌、網膜芽細胞腫;胆嚢癌;胃(gastric)(胃(stomach))癌;胃(胃)癌、小児;消化管カルチノイド腫瘍;胚細胞腫瘍、頭蓋外、小児;胚細胞腫瘍、性腺外;胚細胞腫瘍、卵巣;妊娠性絨毛腫瘍;グリオーマ、小児脳幹;グリオーマ、小児視覚伝導路および視床下部;ヘアリー細胞白血病;頭頸部癌;肝細胞(肝臓)癌、成人(原発性);肝細胞(肝臓)癌、小児(原発性);ホジキンリンパ腫、成人;ホジキンリンパ腫、小児;ホジキンリンパ腫、妊娠中;下咽頭癌;視床下部および視覚伝導路グリオーマ、小児;眼内黒色腫;島細胞癌(内分泌膵臓);カポジ肉腫;腎臓癌;喉頭癌;喉頭癌、小児;白血病、急性リンパ芽球性、成人;白血病、急性リンパ芽球性、小児;白血病、急性骨髄性、成人;白血病、急性骨髄性、小児;白血病、慢性リンパ性;白血病、慢性骨髄性;白血病、ヘアリー細胞;口唇および口腔癌;肝臓癌、成人(原発性);肝臓癌、小児(原発性);肺癌、非小細胞、肺癌、小細胞;リンパ芽球性白血病、成人急性;リンパ芽球性白血病、小児急性;リンパ性白血病、慢性;リンパ腫、AIDS関連;リンパ腫、中枢神経系(原発性);リンパ腫、皮膚T細胞;リンパ腫、ホジキン、成人;リンパ腫、ホジキン、小児;リンパ腫、ホジキン妊娠中;リンパ腫、非ホジキン、成人;リンパ腫、非ホジキン、小児;非ホジキン妊娠中;リンパ腫、原発性中枢神経系;マクログロブリン血症、ヴァルデンストレーム;男性乳癌;悪性中皮腫、成人;悪性中皮腫、小児;髄芽腫、小児;黒色腫;黒色腫、眼内;メルケル細胞腫;中皮腫、悪性;原発不明の転移性頸部扁平上皮癌;多発性内分泌腫瘍症候群、小児;多発性骨髄腫/形質細胞腫;菌状息肉腫;骨髄異形成症候群;骨髄異形成/骨髄増殖性疾患;骨髄性白血病、慢性;骨髄性白血病、成人急性;骨髄性白血病、小児急性;黒色腫、多発性;骨髄増殖症候群、慢性;鼻腔および副鼻腔癌;鼻咽頭癌;鼻咽頭癌、小児;神経芽細胞腫;非ホジキンリンパ腫、成人;非ホジキンリンパ腫、小児;非ホジキンリンパ腫、妊娠中;非小細胞肺癌;口腔癌、小児;口腔および口唇癌;口腔咽頭癌;骨肉腫/骨の悪性線維性組織球腫;卵巣癌、小児;卵巣上皮癌;卵巣性胚細胞腫瘍;低悪性度卵巣癌;膵臓癌;膵臓癌、小児;膵臓癌、島細胞;副鼻腔および鼻腔癌;副甲状腺癌;陰茎癌;褐色細胞腫;松果体およびテント上原始神経外胚葉腫瘍、小児;下垂体腫瘍;形質細胞腫/多発性骨髄腫;胸膜肺芽腫;妊娠および乳癌;妊娠およびホジキンリンパ腫;妊娠および非ホジキンリンパ腫;原発性中枢神経系リンパ腫;原発性肝臓癌、成人;原発性肝臓癌、小児;前立腺癌;直腸癌;腎細胞(腎臓)癌;腎細胞癌、小児;腎盂および尿管、移行上皮癌;網膜芽細胞腫;横紋筋肉腫、小児;唾液腺癌;唾液腺癌、小児;肉腫、ユーイング腫瘍;肉腫、カポジ;肉腫(骨肉腫)/骨の悪性線維性組織球腫;肉腫、横紋筋肉腫、小児;肉腫、軟部組織、成人;肉腫、軟部組織、小児;セザリー症候群;皮膚癌;皮膚癌、小児;皮膚癌(黒色腫);皮膚癌、メルケル細胞;小細胞肺癌;小腸癌;軟部組織肉腫、成人;軟部組織肉腫、小児;原発不明の頸部扁平上皮癌、転移性;胃(胃)癌;胃(胃)癌、小児;テント上原始神経外胚葉腫瘍、小児;T細胞リンパ腫、皮膚;精巣癌;胸腺腫、小児;胸腺腫および胸腺癌甲状腺癌;甲状腺癌、小児;腎盂および尿管の限局性移行細胞癌;絨毛性腫瘍、妊娠中;原発部位不明、成人の癌;原発部位不明、小児の癌;小児の珍しい癌;尿管および腎盂、移行性細胞癌;尿管癌;子宮癌、子宮内膜;子宮肉腫;膣癌;視覚伝導路および視床下部膠腫、小児;外陰癌;ヴァルデンストレームマクログロブリン血症;およびウィルムス腫瘍。
【0032】
乳癌、結腸癌、卵巣癌、子宮癌、前立腺癌、グリオーマ、黒色腫、小細胞および大細胞癌、白血病ならびに他の腫瘍性および前癌疾病状態などの種々の癌の検出およびモニタリングを提供するアレイが作製される。異常にグリコシル化されたMUC-1またはCEAもしくはヘプシンなどのマーカーは、上記の腫瘍のほとんどに関連することが公知の共通の腫瘍マーカーの例である。腫瘍特異的マーカーを含む総合的なリストは医学文献において公知である。例示的なアレイには、未成熟またはナイーブAPC由来および病期0、1、2、3または4に段階分けされた腫瘍が認められる患者から得られるAPC由来のコンセンサスAPCシグニチャーが含まれる。組織学的プロファイルおよび他の医学的データをAPCアレイと関連して使用して、疾病状態についての追加の情報を提供することができる。癌に対するAPC応答の柔軟性および特異性により癌種を特異性高く同定し、疾病の病期を判定することが可能になる。従って、それらにより、医療従事者は、例えば、化学療法中にAPCシグニチャーの変化をモニタリングすることによって治療法の経過をモニタリングすることも可能になる。例えば、膵臓癌患者にゲムシタビンを提供し、ゲムシタビン治療コースの前または最中にDCを患者から抽出して、膵臓癌DCアレイと共に使用する。アレイは治療開始時には膵臓癌は段階3であることを示し、1ヶ月のゲムシタビン治療により癌は段階2の病期に戻ったことを示し、それによって患者のゲムシタビン治療の継続を示す。
【0033】
さらに別の態様において、遺伝子疾患が認められる個人からAPCアレイを作製する。代表的な遺伝子疾患には、例えば、遺伝子の存在、疾病状態を生じるもしくは疾病状態に寄与する生理活性分子である遺伝子の発現産物、または健康な個人における遺伝子の発現産物が疾病状態を改善もしくは予防する生理活性分子である遺伝子の欠損によって生じる疾病状態が含まれる。前者の例は嚢胞性線維症であり、疾病状態はCFTRタンパク質の突然変異によって生じる。後者の例はPKUであり、疾病状態は、フェニルアラニンの代謝を可能にする酵素の欠損によって生じる。本発明のアッセイおよび方法を用いるスクリーニングに適当な遺伝子疾患の例には、例えば、多発性硬化症、内分泌疾患、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、狼瘡、アンジェルマン症候群、シャルコー・マリー・ツース病、てんかん、本態性振せん、脆弱性X症候群、フリードライヒ失調症、ハンチントン病、ニーマン-ピック病、パーキンソン病、プラダー-ウィリ症候群、レット症候群、脊髄小脳萎縮、ウィリアム症候群、エリス-ファン-クレフェルト症候群、マルファン症候群、筋強直性ジストロフィー、大脳白質萎縮症、アテローム性動脈硬化症、ベスト病、ゴーシェ病、グルコースガラクトース吸収不良、脳回転状萎縮、若年型糖尿病、肥満、発作性夜間血色素尿症、フェニルケトン尿症、レフサム病およびタンジアー病が含まれる。このようなアレイは患者の遺伝子疾患を検出し、治療中に遺伝子疾患患者をモニタリングする際に有用である。同様に、本発明のアッセイは、特に健康な遺伝子産物の出現についてまたは遺伝子治療ベクターに対する有害反応について、このように治療されている患者の免疫状態をモニタリングすることによって、遺伝子治療の経過をモニタリングする。
【0034】
上記の考察は試料中の生物学的変化を測定するための診断にAPCを使用することに焦点を絞っているが、別の態様において、血液、痰、尿、唾液、粘液、脳脊髄液、リンパ液等などの被験者の体液の直接分析をアッセイに供することができる。これらの試料は種々の医学的技法、例えば、脳脊髄液中の感染を探すための腰椎穿刺またはプロテオミクスツールなどの実験技法、例えば、質量分析法を使用して分析され、一般に公知で、以下にも記載されている。従って、本発明のアッセイは、よりさらに高機能の検出およびモニタリング方法を提供する被験者の生体液の直接分析と併せて、変化についてAPCをモニタリングすることに関係し得る。
【0035】
従って、APCは、特定の状態においてDCによって代表される特異的なゲノムおよびプロテオミクスシグニチャーに基づいて、生物の生物学的変化をモニタリングする特異性が高く、迅速な手段を提供する。上記の考察は、ハイブリダイゼーションまたは免疫学的反応性としてこのような一般的な技法を使用するアッセイにAPCを使用することに中心を置いている。他のプロテオミクスツールは、APC状態の変化を測定する際に適当である。DCプロテオミクスシグニチャーを得る特に好ましい方法は、APC試料の質量スペクトルを得ることに関係する。
【0036】
ここ10年で、質量分析法(MS)は、生物高分子の分析における重要な分析ツールとなっている。質量分析法は、真空下において分子をイオン化し、蒸発によってそれらを「飛行させる」ことによって個々の分子の「重量を測る」手段を提供する。電場と磁場の組み合わせの影響下において、イオンは、個々の質量(m)および荷電(z)に応じて軌道を描く。MSを実施するためには、検討中の試料を、エネルギー注入によって表面からエネルギー脱離/イオン化(EDI)に供する。典型的には、EDIは熱脱離/イオン化(TDI)、プラズマ脱離/イオン化(PDI)および高速原子衝撃(FAB)、電子衝撃等などの種々の種類の照射脱離/イオン化(IDI)である。試料をイオン化するためにレーザーを使用する場合には、方法は、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)などのレーザー脱離/イオン化(LDI)と呼ばれる。脱離は、好ましくは、表面増強レーザー脱離/イオン化(SELDI)などのイオン化表面において種々のヘルパー物質または官能基と共にMS分析物を提示することによって支援することができる。
【0037】
低分子量分子については、質量分析法は、長い間、親分子イオンの質量を求めることによって有機分子を分析し、特徴づけるための通常の物理-有機レパートリーの一部であった。いわゆる「ソフトイオン化」方法、すなわちMALDIおよびエレクトロスプレーイオン化(ESI)の導入により、高分子、すなわち、ペプチドおよびタンパク質などの質量が300 kDaを超える高分子の無傷(intact)イオン化、検出および正確な質量測定が可能になった(Fenn, J. B., et al., (1989) Science 246, 64-71; Karas M. & Hillenkamp F. (1988) Anal. Chem. 60, 2299-3001参照)。また、イオン化した親分子と他の粒子(例えば、アルゴン原子)との衝突をアレンジすることによって、イオン化した親分子をフラグメント化し、衝突誘起解離(CID)によって二次イオンを形成する。フラグメント化パターン/経路により、より詳細な情報、例えば、分子の構造情報が誘導されうることが非常に多い。
【0038】
MALDI-MSおよびESI-MSは、核酸およびタンパク質を分析するために使用されている(Nordhoff E., et al., (1997) Mass Spectrom. Rev. 15: 67-138参照)。しかし、核酸は極性が強い生体分子であり、揮発が困難であるので、明瞭で正確な分解能には質量の上限があった。ESIは、MDa質量範囲の大型核酸の無傷の脱離がMALDIより優れていると思われる(Fuerstenau S. D. & Benner W. H. (1995). Rapid Commun. Mass Spectrom. 9, 1528-38; Chen R., Cheng X., Mitchell et al., (1995). Anal. Chem. 67, 1159-1163)。
【0039】
紫外線(UV)のレーザーを用いる大型DNA分子のMALDI-MSの報告が数報報告されている(Ross P. L. & P. Belgrader (1997) Anal. Chem. 69: 3966-3972; Tang K., et al., (1994) Rapid Commun. Mass Spectrum. 8: 727-730; Bai J., et al., (1995) Rapid Commun. Mass Spectrum. 9: 1172-1176; Liu Y-H-, et al., (1995) Anal. Chem. 67: 3482-3490 and Siegert C. W., et al., (1997) Anal. Biochem. 243, 55-65。しかし、これらの報告に基づいて考えると、質量が30 kDaを超える核酸のUV-MALDI-MSによる分析は、現在の約90 kDaの質量の上限では困難さが増すことが明らかである(Ross P. L. & P. Belgrader (1997) Anal. Chem. 69: 3966-3972)。DNA UV-MALDIスペクトルの質の低下は、リン酸骨格のイオンフラグメント化および多数の塩形成の組み合わせに原因があった。RNAは、UV-MALDI条件下ではDNAより安定性がかなり高いので、RNAの利用可能な質量範囲は最高約150 kDaである(Kirpekar F., et al., (1994). Nucleic Acids Res. 22, 3866-3870)。
【0040】
固体マトリックス(ほとんどコハク酸で、わずかな程度で、尿素およびニコチン酸)を用いるIR-MALDIによる核酸の分析が記載されている(Nordhoff, E. et al., (1992) Rapid Commun. Mass Spectrom. 6: 771-776; Nordhoff, E. et al., (1993) Nucleic Acids Res. 21 : 3347-3357; and Nordhoff, E. et al., (1995) J. Mass Spec. 30: 99-112)。1992年のNordhoffらの論文は、20merのDNAおよび80merのRNAが分解能のほぼ上限であることを報告している。しかし、1993年のNordhoffらの論文は、26merのDNAおよび104merのtRNAの別個のスペクトルを提供している。1995年のNordhoffらの論文は、コハク酸を用いるIR-MALDIより、3-ヒドロキシピコリン酸固体マトリックスを用いるUV-MALDIによって40merの分析の実質的な良好なスペクトルが得られることを示す(図1(d)および1(e)参照)。実際、1995年の報告は、IR-MALDIにより実質的な程度の迅速なフラグメント化が得られたことを報告している。
【0041】
時間飛行型(TOF)質量分析計では、イオンの質量対荷電比m/zは飛行時間から求めることができる。質量分析法では測定されるものは常に質量対荷電比m/zであり、mは質量であり、zはイオンが保有する基本的な荷電の数であるが、以下では、簡単にするために、質量mおよびその測定だけに言及する。MALDIなどの多数の種類のイオン化は主に単一荷電イオン(z=1)だけを供給するので、これらの種類のイオン化の差は実際には消滅する。イオンセレクターおよび速度集束リフレクターを備えている時間飛行型質量分析計(TOF-MOS)では、飛行時間に基づいてイオンセレクターによって選択される親イオンの娘イオンまたはフラグメントイオンスペクトルを測定することが可能である。親イオンの娘またはフラグメントイオンへの分解は、イオン化中に過剰エネルギーを導入することによって(いわゆる、PSD「ポストソース分解(post source decay)」スペクトル)または衝突誘起フラグメント化などの他の方法を適用することによって誘導することができる。分解によって生じた親イオンおよび娘イオンは、異なるエネルギーによってリフレクター内に質量に応じて分散するように、同じ平均速度であるが、異なる質量比例比で同時にリフレクターに入る。
【0042】
従って、質量分析ならびに例えば、赤外および紫外線吸収スペクトル、核磁気共鳴スペクトルの検出を可能にする他のツールならびに生体分子相互作用分析(例えば、ELISAまたは表面プラスモン共鳴(SPR)プロファイル、Nedlekov et al., (2003) Appl. Env. Microbiol.参照)および試料の物理特性を測定するための他の技法も試料を分析するための方法を提供する。従来の実験方法に関連して上記のAPCを使用する方法から得られる情報は、検討中の各試料の異なる特性を解像することができる統合的アプローチを提供する。例えば、2つの試料のMSプロファイルが類似性の高いパターンを示す場合には、IRスペクトル、NMRスペクトルまたはSPRなどの第2の分析を使用して追加の比較シグニチャーおよび情報を提供する。結果は、試料(単独または混合状態)の独立した同定を提供する、ならびにある態様において、濃度などの試料の定量的情報および試料混合物中の他の薬剤または物質の同定などの定性的情報も提供することができる各試料または分析中の試料に特異的な分析シグニチャープロファイルである。
【0043】
好ましい方法は、健康状態および抗原付加に応答したAPCのプロテオミクスシグニチャーを得るために質量分析を使用する。質量分析はまた、抗原または他の汚染物質を含有することが疑われる混合物に直接使用することができる。これらのシグニチャーを得るための最も好ましい分析方法には、Ciphergen社製の ProteinChip(登録商標) System Series 4000などのSELDIまたはPerkin Elmer社製のprOTOF(商標)2000 MALDI O-TOF質量分析計などのMALDIをMSに接続する直交プラットホームに基づいたMALDI O-TOFが含まれる。
【0044】
一局面において、APC、好ましくは、DCのプロテオミクスシグニチャーは、アメリカ国立アレルギー感染病研究所生物兵器防衛優先病原体リスト(National Institute for Allergy and Infectious Diseases Biodefense Priority Pathogens List)の毒素および生物の負荷後に得られる。以下に記載するように、DCを抗原またはそのフラグメントと培養する。プロテオミクスシグニチャーを得る。これらの関連抗原には、炭疽菌(Bacillus anthracis)(炭疽菌)、クロストリジウム・ボツリナム(Clostridium botulinum)、エルシニア・ぺスティス(Yersinia pestis)、 バリオラ・メジャー(Variola major) (天然痘)および他のポックスウイルス、 野兎病菌(Francisella tularensis)(野兎病)、およびウイルス性出血熱を生じるもの、 LCM、フニンウイルス(Junin virus)、マチュポウイルス(Machupo virus)、 グアナリトウイルス(Guanarito virus)およびラッサ熱を生じるものなどのアレナウイルス(Arenavirus)、リフトバレー熱を生じるものなどのブンヤウイルス(Bunyavirus)およびハンタウイルス(Hantavirus)、カリシウイルス(Calicivirus)、 A型、B型およびC型肝炎、 西ナイルウイルス(West Nile Virus)、ラクロス(LaCrosse)、カリフォルニア脳炎(California encephalitis)、 VEE、 EEE、 WEE、 日本脳炎ウイルス(Japanese Encephalitis Virus)などのウイルス性脳炎、キャサヌール森林病ウイルス(Kyasanur Forest Virus)、 ダニ媒介性出血熱ウイルス(Tickborne hemorrhagic fever virus)、クリミア-コンゴ出血熱ウイルス(Crimean-Congo Hemorrhagic fever virus)、ダニ媒介性脳炎ウイルス(Tickborne encephalitis viruses)、黄熱病(Yellow fever)、多剤耐性TB、インフルエンザ、他のリケッチアおよび狂犬病、フラウイルス(Flavirus)、デング熱(Dengue)、フィロウイルス(Filovirus)、エボラ(Ebola)、マーブルグ類鼻疽菌(Marburg Burkholderia pseudomallei)、コクシエラ・ブルネッティ(Coxiella burnetii)(Q熱)、ブルセラ種(Brucella species)(ブルセラ症)、鼻疽菌(Burkholderia mallei)(鼻疽)、リシン毒素(ヒマ(Ricinus communis)由来)、クロストリジウム・パーフリンゲンス(Clostridium perfringens)のε毒素、スタヒロコッカス・エンテロトキシンB(Staphylococcus enterotoxin B)、発疹チフス(Typhus fever)(発疹チフスリケッチア(Rickettsia prowazekii))、 食品および水媒介性病原体、下痢原性大腸菌(Diarrheagenic E.coli)、病原性ビブリオ(Pathogenic Vibrios)、シゲラ種(Shigella species)、サルモネラ(Salmonella)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、エルシニア・エンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)などの細菌およびクリプトスポリジウム・パルバム(Cryptosporidium parvum)、シクロスポラ・カヤタネンシス(Cyclospora cayatanensis)、ジアルジア・ランブリア(Giardia lamblia)、エンタモエバ・ヒストリチカ(Entamoeba histolytica)、トキソプラズマ(Toxoplasma)、微胞子虫(Microsporidia)などの原虫が含まれる。これらの生体試料は、リポ多糖含量、糖タンパク質含量、膜組成、ウイルスエンベロープの有無、病原性因子などの特定のタンパク質の発現および他の生化学プロファイルなどの基準に基づいて、検出および同定を可能にする。例えば、Dell A, Morris HR, 質量分析法による糖タンパク質構造決定(Glycoprotein structure determination by mass spectrometry). Science. 2001; 291(5512):2351-6参照。また、Rudd P.M.ら、正常および病的プリオンタンパク質アイソフォームのグリコシル化の差(Glycosylation differences between the normal and pathogenic prion protein isoforms). Proc Natl Acad Sci U S A. 1999, 96(23): 13044-9も参照。また、Beermanら、B.ブルドルフェリ(B. burdorferi)のリポタンパク質の脂質成分:構造分析、抗原性およびヒト樹状細胞による提示(The lipid component of lipoproteins from B. burdorferi: structural analysis, antigenicity, and presentation by human dendritic cells), Biochem. Biophys. Res. Comm., 267: 897-905 (2000)も参照。分析シグニチャーは、アメリカ国立アレルギー感染病研究所生物兵器防衛優先病原体リスト(National Institute for Allergy and Infectious Diseases Biodefense Priority Pathogens List)の1つまたは複数の毒素および生物に接触した(または接触が疑われる)被験者の細胞、体液および組織の試料から得られる。DCおよび体液または組織のシグニチャーを参照シグニチャーと比較して、接触を確認し、治療のモニタリングの助けとする。例えば、天然痘に接触したことが疑われる被験者から血液試料を得る。試料を2つに分割する;一方からDCを回収し、他方から血漿を精製する。両方の試料を質量分析に供する。接触およびナイーブDCの陽性および陰性対照を提供する参照シグニチャーとDCシグニチャーを比較し、痘瘡ウイルスの存在について血漿をアッセイする。患者がウイルス血症または有症になる前にシグニチャーは感染を確認することができ、検疫を促進することができる。
【0045】
SELDIまたはMALDI O-TOF質量分析計シグニチャーは、微生物試料の核酸、タンパク質、炭水化物および脂質をプロファイリングすることができるが、好ましくは、病原体全体のシグニチャーをプロファイリングし、得ることができる。シグニチャーは、微生物種および種の変種、例えば、大腸菌O157、微生物増殖期、例えば、胞子形成、栄養または活発増殖期および相対年代ならびに病原性、例えば、A群連鎖球菌の化膿性外毒素A産生、コレラ菌(Vibrio choleae)のコレラ毒素、志賀毒素産生性大腸菌(STEC)または腸管出血性株(EHEC)の大腸菌におけるエンテロトキシン産生などの他の特徴を識別する。例えば、Laiらは、67株のカルノバクテリウム属(Carnobacterium)、非定型ラクトバチルス(Lactobacillus)、エンテロコッカス・デュランス(Enterococcus durans)、ラクトバチルス・マルタロミカス(Lactobacillus maltaromicus)およびバガコッカス・サルモニナルム(Vagacoccus salmoninarum)をフーリエ変換赤外(FT-IR)分光法によって調査したことを考察している。6ヶ月の期間にわたる培養齢および再現性の影響も検討した。結果を多変量解析によって分析し、以前に実施された数量表現検討、熱分解質量分析(PyMS)検討の結果およびDNA-DNAおよび16S rRNA配列相同性を使用した検討と比較した。FT-IRデータとこれらの検討の分類学的関連が観察された。培養齢は、得られるスペクトルにほとんど影響しないことが観察された。再現性検討は、6ヶ月の期間に2回作製されたスペクトル間に関連があることを示した。FTIRはカルノバクテリウム属(Carnobacterial)の分類を検討するための信頼できる方法であり、カルノバクテリウム属(Carnobacterium)の同定に使用するための迅速な方法としてさらなる可能性を有するとLaiらは結論づけた。Lai, S., R. Goodacre, et al. (2004). 「フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)を使用するカルノバクテリウム属(Carnobacterium) の生物全体フィンガープリント法(Whole-organism fingerprinting of the genus Carnobacterium using Fourier transform infrared spectroscopy (FT-IR).)」 Syst Appl Microbiol 27(2): 186-91参照。同様に、Leeらは、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法による検出を用いるフローフィールドフローフラクショネーション(フロー(flow) FFF)分離技法を併せた細菌分析方法を考察している。フローFFFに使用する担体液体の組成は、細菌細胞の保持およびMALDI方法との適合性に基づいて選択される。フローFFFとMALDI-TOF MSとの組み合わせはP. プチダ(P. putida)および大腸菌(E. coli)について実証されている。FFFによる分離により全細胞分画を回収し、さらにMALDI-MSによって分析した。異なる時間間隔において回収された各分画は、細菌の異なるサイズおよび異なる増殖期に対応した。Lee, H., S. K. Williams, et al. (2003). 「フローフィールドフローフラクショネーションおよびマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法による全細菌細胞の分析(Analysis of whole bacterial cells by flow field-flow fractionation and matrix-assisted laser desorption/ionization time-of-flight mass spectrometry.)」 Anal Chem 75(11): 2746-52参照。同様に、Lefmannらは、放線菌の同定に使用されるPCR増幅し、インビトロ転写した16S rRNA遺伝子(rDNA)の塩基特異的切断後のMALDI-TOF MSを考察している。臨床検体から頻繁に単離されること12種の標準株のマイコバクテリウム種(Mycobacterium spp.)の全長の16S rDNA参照配列をPCR、クローニングおよび配列決定によって決定した。MALDI-TOF MSに基づいた比較配列分析については、12種の標準株および24種の臨床単離株の放線菌16S rDNAシグニチャー配列(約500 bp)を、RNAプロモータータグ付き順方向プライマーを使用してPCR増幅した。5-メチルリボ-CTPの存在下における順方向鎖のT7 RNAポリメラーゼ媒介性転写は、塩基特異的切断によって作製されるフラグメントの質量差を最大にした。その後、インビトロ転写物をRNase T1で処理して、G特異的切断を生じた。MALDI-TOF MSによる試料分析は、12種の標準株の各々の特異的な質量信号パターンを示し、疑う余地のない同定を可能にした。検出された質量信号パターンをその標準株の参照配列由来コンピュータパターンおよび報告されている16S rDNA配列のコンピュータ質量パターンと比較することによって、24種全ての臨床単離株を明白に同定した。マイコバクテリウム・キセノピ(Mycobacterium xenopi)標準株(DSM 43995)の16S rDNA微小不均一性をMALDI-TOF MSによって検出し、その後サンガージデオキシ配列決定によって確認した。RNA転写物の塩基特異的切断後のMSによる16S rDNAアンプリコンの分析は、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)群および遍在性(ubiquitous)放線菌(ツベルクロシス(tuberculosis)以外の放線菌)の迅速で、信頼性の高い同定を可能にすることをLefmannらは結論づけた。Lefmann, M.ら、放線菌の遺伝子型同定のための新規質量分析に基づいたツール(Novel mass spectrometry-based tool for genotypic identification of mycobacteria). J Clin Microbiol 42(1): 339-46 (2004)参照。従って、本発明の一目的は、細菌病原体のプロテオミクス、ゲノム、脂質、炭水化物および全生物シグニチャーを得る段階を含む。好ましくは、これらは、SELDIまたはMALDI O-TOF質量分析法を単独または他のアッセイと併用して使用して得られる。微生物の同定は細菌に限定されず、従って、他の病原性生物の分析シグニチャーには、真菌、ウイルス、プリオンならびに他の感染性菌および病原体のものが含まれる。
【0046】
APCから誘導されるプロテオミクスシグニチャーおよび患者の体液の病原体の直接評価によって得られるものは記載の疾病の診断に使用されるが、例えば、テルビナフィン、フルコニゾール(fluconizole)、ラミブジン、シプロフロキサシン、バンコマイシン、ペニシリン、メチシリンおよび他の抗生物質などの抗菌化合物に応答する治療経過のモニタリングに特に有用である。抗菌化合物で治療的に治療された被験者の組織、体液および細胞のシグニチャーはまたこのような治療中の毒性についても分析することができる。ウイルス試料の検出は、例えば、ラミブジンの長期治療中に生じるラミブジン耐性を可能にするB型肝炎ウイルス(HBV)の突然変異をアッセイしたHongらに記載されている。ラミブジンによる治療は、HBV DNAポリメラーゼのYMDDモチーフにアミノ酸置換を有するHBVビリオンの選択を生じることが多い。MALDI-TOF MS遺伝子型分けは、感度よくかつ特異的にHBV変種を検出する。Hongらのアッセイは、YMDDモチーフの突然変異部位を含有するオリゴヌクレオチドのPCR増幅および質量測定に基づいている。そこに記載されているMALDI-TOF MSに基づいた遺伝子型分けは、血清1ミリリットルあたり100コピー程度の少ないHBVゲノムを検出するのに十分に感度が高く、野生型および変種ウイルスの混合物を測定するのにすぐれた特異性を有する。40人の患者の血清を分析したとき、MALDI-TOF MSに基づいたアッセイは、公知のウイルス変種および以前の方法で検出されなかった追加のウイルス疑似種ならびにそれらの相対存在量を正確に同定した。感度、精度およびハイスループット分析の可能性により、MALDI-TOF MSに基づいたアッセイは、ラミブジンを投与されているHBV感染患者の集団検診に好適になり、疾病の進行および治療への応答をさらに理解する助けとなりうるとHongらは結論づけた。Hongら、オリゴヌクレオチドフラグメントの質量分光分析を使用したB型肝炎ウイルスYMDD変種の検出(Detection of hepatitis B virus YMDD variants using mass spectrometric analysis of oligonucleotide fragments), J Hepatol. (2004)参照。従って、本発明の一目的は、ウイルス病原体のプロテオミクス、ゲノム、脂質、炭水化物および全生物シグニチャーならびにウイルス感染が認められる被験者のDCおよび他の組織、体液および細胞の分析シグニチャーを含む。好ましくは、これらは、SELDIまたはMALDI O-TOF質量分析法を単独または他のアッセイと併用して使用して得られる。
【0047】
Bonettoらは、細胞(PrP(C))の疾病特異的アイソフォームへの構造遷移の機序およびプリオン疾患の病原性を罹患する基礎としてプリオンタンパク質スクレイピー(PrP(Sc))の構造および生物学的特性の評価を考察している。マウスPrPから誘導される106アミノ酸の構築物(PrP106またはミニプリオンと呼ばれる)は初代ニューロン培養物に毒性が高く、膜微小粘度の顕著な増加を誘導することをBonettoらは観察した。Bonetto V.ら、合成ミニプリオンPrP106(Synthetic miniprion PrP106), J Biol Chem. 277(35):31327-34 (2002)参照。従って、さらに別の局面において、本発明は、プリオン試料のシグニチャーならびにプリオン感染が認められる被験者のAPCおよび組織、体液および細胞のシグニチャーを含む。好ましくは、これらは、SELDIまたはMALDI O-TOF質量分析法を単独または他のアッセイと併用して使用して得られる。
【0048】
本発明のさらに別の目的は、健康被験者および例えば、心筋、腎臓もしくは神経組織などの種々の病期の身体的退化、ウイルスもしくは細菌などの種々の病期の感染、または種々の病期の形質転換、悪性度もしくは腫瘍形成能(tumorogenicity)によって特徴付けられる罹患被験者、すなわち、APC、体液および組織からシグニチャー、例えばSELDIまたはMALDI O-TOF MSおよび他の分析シグニチャーを得ることである。特に、癌および前悪性組織は全て、非罹患細胞および組織と比較して大きな生化学的変化を受け、スペクトルおよび他の種類の分析方法によって容易に検出することができる。この一例は、多数の異なる癌種の腫瘍関連抗原MUC-1に見られるグリコシル化パターンの変化または癌胎児性(chorioembrionic)抗原(CEA)もしくは網膜芽細胞腫(RB)、p53およびサイクリン依存的キナーゼcdkなどの腫瘍抑制遺伝子の識別的な発現である。細胞形質転換および癌の数多くのマーカーが医学文献において公知であり、これらは全て本発明の目的のための疾病シグニチャーとなりうる。同様に、これらの組織は、化学療法試料および放射線による治療に応答して代謝状態の変化を示す。これらの変化は治療に対する応答の分子的シグニチャーであり、従って、本明細書に記載する目的に有用である。従って、本発明の方法を使用して、例えば、特定の腫瘍種を同定し、病期を判定し、化学療法または放射線などの治療経過の腫瘍の変化をモニタリングすることができる。記載されている方法を使用して、このような化学療法または放射線療法中に生じる健康な器官および組織の変化をモニタリングして、例えば治療クールを調節するために治療の全身毒性を評価することもできる。一態様において、化学療法の毒性プロファイルが提供される。このプロファイルは、未処置状態、すなわち、化学療法剤に接触していないおよび複数回投与された薬剤に応答した複数の哺乳動物器官および組織の組織特異的分子分析シグニチャーを含む。プロファイルは、時間領域、すなわち、一定の期間にわたる組織の用量応答シグニチャーを含んでもよい。従って、本発明は、疾病の検出および治療に有用な分析シグニチャーを含む。器官の薄い組織切片の分析により、組織試料の特定の領域内のタンパク質組成に直接相関する2〜70 kDaの質量範囲の500種以上の個別のタンパク質信号を生じることをChaurandらは決定した。画像形成MSを含むこのようなプロファイリングは、ヒトグリオーマおよび非小細胞肺癌を含む多数の罹患組織に適用されている。得られた複雑なMSデータセットの調査により、疾病状態および患者予後特異的タンパク質パターンが同定されている。Chaurand Pら、画像化質量分析法を使用する疾病のタンパク質パターンの評価(Assessing protein patterns in disease using imaging mass spectrometry). J Proteome Res. 2004 Mar-Apr;3(2):245-52参照。同様に、Ahmedらは、卵巣癌のバイオマーカーとして有用となりうる、卵巣癌患者の血清中に識別的に発現されるタンパク質を考察している。Ahmedの論文では、合計24種の血清タンパク質がグレード1の卵巣癌患者において識別的に発現され、31種がグレード2において、25種がグレード3において識別的に発現された。全ての群の卵巣癌患者において有意にアップレギュレーションされていたタンパク質スポットの6つを、ヒト血清に存在する肝臓糖タンパク質であるハプトグロビン-1前駆体(HAP1)のアイソフォームとしてナノエレクトロスプレー四重極時間飛行型質量分析法(n-ESIQ(q)TOFMS)およびマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法によって同定した。異なる病理学的グレードのスポットのさらなる同定は、HAP1に含有されるハプトグロビンエピトープに対するモノクローナル抗体を使用してウェスタンブロット法および免疫組織化学的局在化によって確認した。Ahmed Nら、卵巣癌の新規循環バイオマーカーとしてのハプトグロビン前駆体のプロテオミクスに基づいた同定(Proteomic-based identification of haptoglobin-1 precursor as a novel circulating biomarker of ovarian cancer). Br. J. Cancer 2004参照。同様に、Bhartiらは、癌患者の全体の生存率を改善するために早期病期における血清腫瘍バイオマーカーの検出を考察している。MALDI-TOF質量分析法(MS)に基づいたタンパク質同定技法を使用すると、SCLC特異的過剰発現タンパク質は、ハプトグロビンα-サブユニットであることが同定され、その血清レベルは疾病の病期に相関している。α-ハプトグロビンの平均レベルは、正常の対照と比較してSCLC血清において増加していた。血清HGFも腫瘍バイオマーカーの可能性のあるものとして検討され、疾病状態に関連することが見出された。Anticancer Res. 2004 Mar-Apr;24(2C): 1031-8。いくつかの他の腫瘍種は、本発明の方法を使用する検出に従う。Iwadateらは、グリオーマの検出および化学療法治療に対する応答を考察している。同じ組織学的カテゴリーにおいて異種性の高い生物学的攻撃性によって特徴付けられるグリオーマの生物学的特徴は、タンパク質レベルにおいて全体的な遺伝子発現によって正確に記載されている。2次元ゲル電気泳動およびマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法に基づいたプロテオーム分析は、高グレードと低グレードグリオーマ組織間のタンパク質発現の差を同定することができることをIwadateらは検討した。プロテオームプロファイリングパターンを85種の組織試料、すなわち:52試料の多形神経膠芽腫、13試料の未分化星状細胞腫、10試料の星状腫および10試料の正常な脳組織において比較した。Iwadateらは、プロテオームプロファイリングパターンに基づいたクラスター分析によって正常な脳組織をグリオーマ組織から完全に識別することができた。プロテオームに基づいたクラスタリングは患者生存率に有意に相関しており、Iwadateらは攻撃性を有する生物学的に別個のサブセットの星状腫を同定することができた。Iwadateらは、判別分析は、組織学的グレード分けに基づいて識別的に発現される37種のタンパク質セットを抽出することを見出した。それらのうち、高グレードグリオーマにおいて増加していたタンパク質の多くは、小型のGタンパク質を含むシグナル伝達タンパク質と分類された。免疫組織学的分析は、グリオーマ組織において同定されたタンパク質の発現を確認した。Iwadate Y, ら、 タンパク質分析に基づいたヒトグリオーマにおける分子的分類および生存率の予測(Molecular classification and survival prediction in human gliomas based on proteome analysis). Cancer Res. 2004 Apr 1;64(7):2496-501参照。Friedmanらは、ヒト直腸結腸癌および隣接する正常な粘膜のプロテオームの腫瘍特異的な変化を検討するために使用される2次元ディファレンスゲル電気泳動解析に質量分析(MS)を組み合わせたものを考察している。Friedmanらは、一対の正常/腫瘍比較の各々において、試料内部標準混合物を用いるDIGE技術を使用して、1500種以上のタンパク質スポット特徴を検討し、多数の試料間の各タンパク質量変化の統計学的に有意な定量的比較を同時に行った。マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型およびタンデム(TOF/TOF)MSは、データベースインタロゲーション(interrogation)のための感度が高く、正確な質量スペクトルデータを提供し、コホート間で量が変化していた(タンパク質分解および翻訳後修飾アイソフォームによる重複性を含む)52種の独自のタンパク質を同定した。Friedman DBら、2次元ディファレンスゲル電気泳動および質量分析によるヒト大腸癌のプロテオーム分析(Proteome analysis of human colon cancer by two-dimensional difference gel electrophoresis and mass spectrometry). Proteomics. 2004 Mar;4(3):793-811参照。Hamlerらは、正常および悪性乳癌上皮細胞系統の細胞溶解物のプロテオミクス分析のための、2次元液相分離スキームに質量分析(MS)を組み合わせたものを考察している。液相分離は、第1次元としての等電点電気泳動および第2次元としての非多孔性シリカ逆相高速液体クロマトグラフィー(NPS-RP-HPLC)からなる。タンパク質定量および質量測定は、エレクトロスプレーイオン化時間飛行型MS(ESI-TOF MS)を使用して実施される。タンパク質は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型MSおよびMALDI四重極時間飛行型(QTOF)タンデム質量分析法(MS/MS)を使用するペプチド質量フィンガープリント法によって同定される。Hamlerらは、正常と悪性乳上皮細胞のタンパク質定量差の可視化を可能にする質量マップを作製した。制限されたpH範囲において質量マッピング実験から得られた約110種の独自のタンパク質のうち、40種(36%)はペプチド質量フィンガープリント法によって陽性として同定され、質量マップのバンドに割り付けられた。これらの40種のうち、22種は、悪性細胞系統の1つまたは複数においてより強く発現されていた。これらのタンパク質は、診断、治療または薬物開発の助けになる可能性のある乳癌バイオマーカーとなる。Hamler RLら、乳癌のプロテオミクス研究およびバイオマーカー同定のための、質量分析を組み合わせた2次元液相分離方法 (A two-dimensional liquid-phase separation method coupled with mass spectrometry for proteomic studies of breast cancer and biomarker identification). Proteomics. 2004 Mar;4(3):562-77参照。Veestraらは血清タンパク質フィンガープリント法を考察している。多数のプロテオミクス研究は、血清および組織などの複雑な生物システムを占める数千のタンパク質の同定およびその後の比較分析に焦点を絞っている。Veenstra T.Dら、血清タンパク質フィンガープリント法(Serum protein fingerprinting). Curr Opin MoI Ther. 2003 Dec;5(6):584-93参照。従って、これらのプロテオミクス、炭水化物、核酸および脂質の分光学的プロファイルまたはパターンは、健康な状態および疾病状態の両方において数多くの組織のシグニチャーを提供し、診断的観点から、疾病の存在を示し、疾病を有する生物の変化をモニタリングするために使用することができる。一態様において、血清またはリンパ試料はこのようなシグニチャーを得るために使用される。別の態様において、DCが使用される。他の態様において、APCは分析学的シグニチャーを提供する。さらに他の態様において、血液細胞、筋肉組織、神経組織、上皮組織および結合組織を評価する。
【0049】
本発明の別の目的は、毒性の工業用化学薬品の化学的シグニチャーならびに毒性の工業用化学薬品(TIC)に接触したまたは接触したことが疑われる被験者のAPC、組織、体液および細胞の結果として生じるプロテオミクス、ゲノム、脂質および炭水化物シグニチャーの判定を含む。好ましくは、これらはSELDIまたはMALDI O-TOF質量分析法を単独または他の分析方法と併用して使用して得られる。得られたシグニチャーはデータベースに記憶されて、診断および治療適用に利用可能になる。毒性の工業用化学薬品は、一般に、100,000 Mg/分/M3未満の毒性(吸入によるLC50)および20℃において感知できるほどの(規定されていない)蒸気圧を有する材料と理解される。本明細書において使用するTICという用語は、一般に、所定の量の吸入、摂取または吸収によって接触した個人において毒性の作用を生ずる任意の物質と考えられる毒性の工業用化学材料(TIM)を含む。TICおよびTIMの例には、燃料、オイル、殺虫剤および除草剤、酸および塩基、放射線源、肥料、ヒ素、塩素、臭素、二硫化炭素、シアン化物、金属(例えば、コバルト、鉛、水銀、カドミウムおよびタリウム)、ホスゲンならびに他の有機および重金属毒素が含まれる。多数のTICおよびTIMが工業上公知であり、上記に言及されている物質は包括的または限定するものであると意図されてはいない。
【0050】
別の局面において、本発明は、生物兵器および化学兵器(WMDとしても公知)などの国防に重要な物質のシグニチャー、例えば化学的、プロテオミクス、ゲノム、脂質、炭水化物および全生物シグニチャー、ならびにこのような物質に接触したまたは接触したことが疑われる被験者のAPC、組織、体液および細胞のプロテオミクス、ゲノム、脂質および炭水化物シグニチャーを提供する。好ましくは、これらのシグニチャーはSELDI、MALDI O-TOF MSおよび他の分析方法を用いて得られる。特に、スペクトル分析は迅速で正確な検出手段を提供するので、試料中の生物および化学兵器を野外同定するための迅速または初期反応プログラムの一部として本発明を使用することが可能である。
【0051】
分析方法の第1の段階は、研究中の、因子である(TIC、WMD)細菌、ウイルス、プリオン、細胞、APC、流体または組織の試料を得る段階を含む。試料は調査前に処理することができる、すなわち、水もしくは溶媒に溶解するまたは無傷の状態で使用することができる。試料分析方法を使用して、試料についての初歩的な情報を得ることができる。質量スペクトルの収集およびその分析は以下の通りである。試料をMSのインレットポート(inlet port)に適用し、混合物または全細胞(または生物)が、脂質、炭水化物、核酸および/またはペプチド構造または任意の他の無機もしくは有機構造を含んでもよい1つまたは複数の分析物をさらに含有する場合には。試料はMSの前に処理を受けてもよく、試料は、MS分析物が出発分析物の誘導体であるものに変換されてもよく、非分析物種の量は出発試料と比較して変更されており、試料中の異なるMS分析物の相対的な存在は出発試料と比較して変更されており、MS分析物の濃度は出発試料中の対応する出発分析物と比較して変更されており、または溶媒などの試料構成成分は変更され、および/または分析物は溶解された形態から固体の形態、例えば共結晶化型に変更されている。このような処理には、例えば種々のサイズのフラグメントへの消化および/または分析物の化学的誘導体化が含まれる。消化は純粋に化学的または酵素的であってもよい。誘導体化は出発分析物もしくはフラグメントのいわゆる質量タグ法または試料処理プロトコール中に形成される他の誘導体を含む。他の処理は、分析前に試料を精製および/または濃縮することを含む。このような処理は、例えば、炭水化物、脂質、核酸および/またはペプチド構造を含むバイオポリマーである分析物に適用する。または、試料は、変更しないで、マイクロチャネル構造を通過してもよい。
【0052】
実施例1
以下の実施例は疾病のバイオセンサーとしてのAPCの使用を詳細に記載している。種々の病原体に接触させたDCの参照標準を作製し、その後の患者アッセイに使用して、接触を判定し、病原体に対する免疫学的応答を定性する。
【0053】
遺伝子発現分析:種々のドナーのDCおよびマクロファージ/単球を病原体の存在下および非存在下において培養して、病原体に対する応答を開始し、次いで回収する。総RNAを未感染および感染細胞から抽出し、参照アレイを作製するために使用する。または、参照アレイを作製する前に総RNAをcDNAに変換する。患者由来のDC試料を回収して、核酸を抽出し、マイクロアレイにハイブリダイゼーションし、次いでスキャンする。マイクロアレイのデータ処理において、本発明者らは、平均差強度値の一定の変化に基づいてフィルタリング方法を使用する。生データの分析のためには、本発明者らは、極度にロバスト性の発現データ分析プラットホームであるGenNetを使用する。このようなプラットホームの使用はハイスループット要求を満たし、拡張可能である。
【0054】
病原体の遺伝子型分け:DCおよびマクロファージは病原体貯蔵所として働くので、これらの細胞の濃縮および病原体の存在についての遺伝子型分析の使用は新規スクリーニング方法を提供する。ウイルスおよび細菌疾患の従来の診断方法は、例えば、血液培養による病原体自体の検出または例えばPCRによる病原体特異的タンパク質もしくはDNA/RNAの検出およびこれらの所見と臨床症状の相関を必要とする。従来のスクリーニング方法に関連する限界を克服するために、本発明者らはハイスループット遺伝子型アッセイを開発しており、大多数の病原体をスクリーニングするために使用する。また、これらのアッセイは微生物株の分子変異を検出することができる;したがって、例えば、特定の細菌、ウイルス、心筋または寄生虫株等の感染経路、起源および関係の識別を可能にする。
【0055】
質量分析法(MS):ペプチド同定の成功および再現性(productivity)を改善するために、本発明者らはSELDIおよびMALDI時間飛行型(TOF)質量分析計を使用した。これらは、ペプチド質量フィンガープリントを検出するために最も一般的に使用されている質量分析方法である。このMALDI-O-TOFシステムは、MALDIソースからリフレクションTOF質量分析計に試料イオンを導入するために直交注入を使用している。従来の軸方向MALDI-TOFシステム(直線またはリフレクションモード)のMALDIはTOFMSに直接接続されている。この直接接続は、試料標的に関連する任意の不一致が検出器に運ばれるので、機器の精度、分解能および感度に影響を与える。一方、直交型幾何学を使用すると、MALDIソースはTOFから分離され、従って不一致を排除し、性能を増加し、方法の開発を単純化する。処理後の培養物と比較した未処理の培養物に見られるタンパク質シグニチャーを確立する。
【0056】
バイオマーカー検出:バイオマーカーを検出するために、本発明者らは市販のパターン認識を使用し、Eclipse Diagnostics社製のソフトウェアまたは同様のソフトウェアを発見する。このソフトウェアは、ゲノムおよびプロテオミクスバイオマーカーおよび他の複雑な生物学的関係の迅速な検出を可能にする。これらのバイオマーカーはデータベースの一部であり、病原体特異的参照として使用される。
【0057】
利点 第一に、骨髄細胞は細胞内に病原体を濃縮している;従って、検出感度を改善した。第二に、cDNAマイクロアレイ技術は、試料あたり52,000種以上の遺伝子を分析することができる高分解能技術であり、血液から病原体を培養することから独立している。本発明者らのマイクロアレイ構成方法は、遺伝子あたり長い70merプローブデザインおよび30倍内部重複性に関係する。第三に、症状が生じる前に診断する能力である。遺伝子操作した病原体の場合には、新たな病原体を検出するために従来の分子生物学、ELISAまたはPCRに基づいた技術を作製しなければならない。主要な細胞経路(例えば、アポトーシス、炎症、NFκBおよび炎症媒介因子)を評価することによって、本発明者らは接触の早期事象を検出することができる。本発明者らは、長期培養または分化を推し進めるための高価なサイトカインの使用を必要としない、血液からDCおよびマクロファージを迅速に濃縮する方法(1.5 時間)を開発した。一方、当代の方法はDC前駆体を7日培養することを必要とする。サイトカインに長期接触させて培養中のDCは細胞経路に特定の変化を誘導することが公知であり、病原体の感染性、遺伝子の活性化およびタンパク質合成を変更することが実証されている。ハイスループット(HT)遺伝子アレイは1日あたり1,000種を越える試料の分析を可能にする。1日あたり処理される試料数は装置依存的であり、プロテオミクス技術の場合と同様である(例えば、10,000試料/1日)。HTシステムとゲノムおよびプロテオミクスデータベースの統合は検出効率を改善し、疾病進行のリアルタイムモニタリングも可能にする。集合的に、組み合わせは、ネットワークでリアルタイムに共有することができる、病院および研究室のための高い複雑性のゲノムおよびプロテオミクスに基づいたアレイおよび情報データベースを提供する。
【0058】
本発明は、生体内および環境の病原体を迅速に同定する方法を提供する。以下の病原体はAPCおよび本明細書に記載する技法を使用する検出および特徴づけが可能である:細菌、ウイルス、心筋、プリオンおよび原虫。
【0059】
APCに提示されて病原体接触APCシグニチャーを作製する代表的な細菌には、表皮ブドウ球菌(S. epidermis)およびブドウ球菌(S. aureus)などのブドウ球菌(Staphylococcus);マイクロコッカス(Micrococcus);化膿レンサ球菌(S. pyogenes)、 S. エクイ(S. equis)、 S.ズウェピデミカス(S. zooepidemicus)、S. エクイシミリス(S. equisimilis)、 肺炎レンサ球菌(S. pneumoniae) および S. アガラクティエ(S. agalactiae)などのレンサ球菌(Streptococcus);C. ピオゲネス(C. pyogenes)およびC. シュードツベルクローシス(C. pseudotuberculosis)などのコリネバクテリウ(Corynebacterium);E. ルジオパシエ(E. rhusiopathiae)などのエリジペロスリックス(Erysipelothrix);L. モノサイトゲネス(L. monocytogenes)などのリステリア(Listeria);B. アントラシス(B. anthracis)などのバチルス(Bacillus);C. パーフリンジェンス(C. perfringens)などのクロストリジウム(Clostridium);ならびに結核菌(M. tuberculosis)およびM. レプレ(M. leprae)などのマイコバクテリウム(Mycobacterium)などのグラム陽性およびグラム陰性細菌が含まれる。グラム陰性細菌種は、大腸菌(E. coli) O157などの大腸菌(Escherichia);S. ティフィ(S. typhi)および S. ガリナルム(S. gallinarum)などのサルモネラ(Salmonella);S. ディセンテリエ(S. dysenteriae)などのシゲラ(Shigella);V. コレレ(V. cholerae)などのビブリオ(Vibrio);Y. ペスティス(Y. pestis)およびY. エンテロコリチカ(Y. enterocolitica)などのエルシニア(Yersinia);P.ミラビリス(P. mirabilis)などのプロテウス(Proteus);B. ブロンキセプチカ(B. bronchiseptica)などのボルデテラ(Bordetella);緑膿菌(P. aeroginosa)などのシュードモナス(Pseudomonas);K. ニューモニエ(K. pneumoniae)などのクレブシエラ(Klebsiella);P. ムルトシダ(P. multocida)などのパスツレラ(Pasteurella);M. ボビス(M. bovis)などのモラクセラ(Moraxella);S. マルセッセンス(S. marcescens)などのセラチア(Serratia);H. インフルエンザ(H. influenza)などのヘモフィルス(Hemophilus)ならびにカンピロバクター(Campylobacter)種を含む属によって例示されるが、これらに限定されない。本発明のアッセイに好適な他の種には、ライム病を生じるものなどのスピロヘータ、エンテロコッカス(Enterococcus)、 ナイセリア(Neisseria)、 マイコプラズマ(Mycoplasma)、 クラミジア(Chlamidia)、 フランシセラ(Francisella)、 パスツレラ(Pasteurella)、 ブルセラ(Brucella)および腸内細菌(Enterobacteriaceae)が含まれる。また、CDC生物学的病原体A、BおよびC生物学的病原体も検出可能である。本発明により検出可能である病原性細菌種のさらに別の例は、Bergey's Manual of Determinative Bacteriology)、第9編、1994年、Williams and Wilkins, Baltimore, Mdなどの標準的な分類学的で説明的な研究を参照することによって得られる。
【0060】
病原体接触APCシグニチャーを作製するためにAPCに提示される代表的なウイルスには、アデノウイルス(小児胃腸炎、急性出血性膀胱炎、非細菌性肺炎およびウイルス性結膜炎において見出されうるものなど)、ヘルペスウイルス(I型およびII型単純ペルペス、水痘帯状疱疹(水疱の原因菌)、サイトメガロウイルスおよび単核球症(原因菌エプスタインバーウイルス(Epstein-Barr virus))、ポックスウイルス(天然痘などの疾患の原因菌(バリオラ メジャー(Variola major)およびバリオラ マイナー(Variola minor))、A、BおよびC型肝炎、ワクシニアウイルス、ハンタウイルスおよび伝染性軟属腫など)、ピコルナウイルス(ライノウイルス(コロナウイルスによっても生じる感冒)など)、ポリオウイルス(灰白髄炎)、オルソミクソウイルスまたはパラミクソウイルス(インフルエンザおよび呼吸器合胞体ウイルス(RS)など)、パラインフルエンザウイルス(流行性耳下腺炎などのような疾病を含む)および麻疹(はしか)、ラブドウイルス(狂犬病)、水疱性口内炎(VSV)、ルベラなどのトガウイルス--三日ばしかを生ずる原因菌および脳炎を生ずるトガウイルス科(EEE、WEEおよびVEE)、デング熱、西ナイル熱、黄熱および脳炎を生じる原因菌などのフラビウイルス、ブンヤウイルスおよびアレナウイルス、レオウイルス、SARS、肝炎を生ずる原因菌などのコロナウイルス、などのパピローマウイルスなどのパポバウイルス感染、HIV、HTLV-1およびHTLV-IIなどのレトロウイルス感染が含まれる。
【0061】
APCに提示されて病原体接触APCシグニチャーを作製する代表的な真菌には、例えば、C. albicansなどのカンジダ(Candida);C. ネオフォルマンス(C. neoformans)などのクリプトコッカス(Cryptococcus);マラセジア(Malassezia)(ピチロスポルム(Pityrosporum));H. カプスラーツム(H. capsulatum)などのヒストプラズマ(Histoplasma);C. イミチス(C. immitis)などのコクシディオイデス(Coccidioides);H. デストルーエンス(H. destruens)などのヒフォマイセス(Hyphomyces);B. デルマチチジス(B. dermatiditis)などのブラストマイセス(Blastomyces);A. フミガーツス(A. fumigatus)などのアスペルギルス(Aspergillus);P. マルネフェリ(P. marneffei)などのペニシリウム(Penicillium);シュードアレシェリア(Pseudallescheria);フサリウム(Fusarium);ペシロミセス(Paecilomyces);ケカビ(Mucor)/クモノスカビ(Rhizopus);ならびにP. カリニ(P. carinii)などのニューモシスチス(Pneumocystis);種が含まれる。リノスポリジウム(Rhinosporidium)およびスポロトリックス(Sporothrix)などの皮下真菌、ならびにミクロスポルム(Microsporum)および白癬菌(Trichophyton)種などの皮膚糸状菌は本明細書において本発明の態様による予防および治療が可能である。検出することができる他の疾病を生ずる真菌には、白癬菌(Trichophyton);ミクロスポルム(Microsporum); エピデルモフィトン(Epidermophyton);バシディオボルス(Basidiobolus);コニディオボルス(Conidiobolus);リゾプスクニンガメリア(Rhizopus Cunninghamelia);リゾムコール(Rhizomucor);パラコクシディオイデス(Paracoccidioides);シュードアレシェリア(Pseudallescheria);リノスポリジウム(Rhinosporidium)およびスポロトリックス(Sporothrix)が含まれる。
【0062】
APCに提示されて病原体接触APCシグニチャーを作製する代表的な原虫には、アメーバ、繊毛虫、鞭毛無視および胞子虫、例えば、プラスモジウム(Plasmodium)、トリパノソーマ(Trypanosoma)またはクリプトスポリジウム(Cryptosporidium)などの1つまたは複数の単細胞で、通常顕微鏡サイズの真核生物が含まれる。
【0063】
実施例2
抗原提示細胞(APC)特異的シグニチャーの作製は2段階方法である。第1の段階は免疫細胞集団を入手して、細胞膜を分画化し、膜、細胞質および核からタンパク質を濃縮することに関係する。好ましい細胞は骨髄系統であるが、PBMCが好適である。DCを含む骨髄細胞集団を濃縮する方法は、米国特許第6,589,526号および同第6,194,204号に記載されている。骨髄細胞は、約90%から10%の集団の単球および樹状細胞を含む。単球の抗原マーカーには、CD14+、HLA-DRまたは MHCクラスII、CD80+ CD86+が含まれる。DCの抗原マーカーには、CD2+、CD5+、CD14+ CD83+およびCD90+が含まれる。これらは正または負の選択方法によって得られる。好ましい細胞種は、DCおよび単球細胞に一致した抗原マーカーを発現する骨髄である。現在のところ、培養骨髄細胞ではなく、単離直後、すなわち、血液精製骨髄細胞を使用することが好ましい。
【0064】
以下はPBMCから単球を単離するための示唆されている手法である:軟膜を健康なボランティアから単離し(Transfusion Therapy, Children's Hospital, Boston, MA)、PBSで洗浄し、濃縮した。次いで、軟膜濃縮物を、例えば、StemCell Technologiesから市販されているRosetteSepキットなどの改良型単球濃縮手段と共にインキュベーションした。このロゼットカクテルは、T細胞、B細胞、NK細胞および顆粒球に結合する抗CD3、抗CD19、抗CD54および抗CD62モノクローナル抗体を含有する。30分のインキュベーション後、この集団をフィコールグラジエントで層化し、2500 rpmにおいて30分遠心分離(Sorvall RT 6000, DuPont, Wilmington, DE)して、高密度(T、B、顆粒球およびNK細胞)から低密度DCおよびMoを分離した。低密度細胞集団は、フローサイトメトリーによって>95% CD14highであった。これらの細胞を、ヒトCD2に対する100倍希釈したマウスmAB(腹水中)と共に4℃で30分間インキュベーションし(1O1d2-4Cl (抗Tl12); Dana-Farber Cancer Institute, Boston, MA) (26)、洗浄し、ヤギ抗マウスIgG磁気ビーズ(Miltenyi Biotech)と共にインキュベーションした。インキュベーション後、製造業者の使用説明書により調製物を磁気カラムに通した。磁気カラムはCD2+細胞を保持し、純度>96%であったが、CD2細胞は、抗CD2および抗CD14を用いたフローサイトメトリーによって純度>95%であった。マグネシウムおよびカルシウムを含有しないHBSS(Cellgro; Fisher Scientific, Pittsburgh, PA)に10% v/v熱不活性化プールヒト血清(PHS) (Nabi, Boca Raton, FL)およびヒトIgG(50 mg/ml; Immuno AG, Vienna, Austria)を含有するブロック緩衝液を使用して、単離またはフローサイトメトリー分析の各段階中の非特異的mAb結合を防止した。単離直後の無サイトカイン(noncytokine)インキュベーションしたCD2+およびCD2- Moの形態学的および機能的検討のために、本発明者らは、10%熱不活性化PHS、20μg/mlゲンタマイシン、100 U/mlペニシリンおよび100μg/mlストレプトマイシンを添加したRPMI 1640 (Cellgro)を含有する培養培地(CM)を使用した(Life Technologies, Gaithersburg, MD)。
【0065】
第2の段階は、例えば、QSTAR (ABI)、Ciphergen社製のSELDI TOFまたはPerkin Elmer社製のproTOFを使用してDCから質量スペクトルを得ることに関係する。スペクトルはナイーブAPCおよび病原体、腫瘍または他の抗原に接触させたものについて取った。この実施例において、本発明者らは、病原体-APCまたは病原体-食品試料(すなわち、リステリア(Listeria)-APC、リステリア-ミルク)から個々のデータセット(シグニチャー)を得て、細菌汚染されたミルクおよび汚染されていないミルクのプロファイルを作製するための方法を記載している。個人のAPCのサンプリングから得られるリステリア感染個人のシグニチャーも提供する。
【0066】
各プロファイルは、m/zサイズ(kD)、m/z強度(uAmp)および標準偏差値などの特性によって測定される、検討中の病原菌の細胞膜、細胞質タンパク質および核タンパク質特徴、タンパク質荷電(すなわち、正および負)、Cu2+キレート特性、種々のエンドペプチダーゼによる未変性または変性タンパク質の切断パターン等を含む。シグニチャーの特徴を同定する出現頻度は反復試料、好ましくは、3〜4試料のスペクトルを得、それによってコンセンサスシグニチャーを提供することによって裏付けられる。
【0067】
試料タンパク質を単離、分画化または濃縮する一般的に使用されるいくつかの方法は以下のようであり、他は当技術分野において公知である。PARISキット-これはAmbion社製のキットであり、試料からRNAおよびタンパク質の迅速な単離を可能にする。このキットは、APCウイルスまたは細菌同時培養物からのAPCタンパク質の単離に関係するような検討に使用することができる。試料のさらに感度の高い検出および特徴づけのためには、一般的な分子生物学的技法によって得られる細胞膜分画を使用することが有利である。膜、細胞質および核タンパク質の組み合わせはAPCに基づいた検出方法の感度を増強する。
【0068】
超音波処理による細菌溶解はグラム陰性およびグラム陽性細菌に使用することができ、超音波処理を使用し、任意に細胞膜が厚いまたは頑強なグラム陰性細菌または微生物のプロファイルのために強く進められている、Tween、Triton X-100、ジギトニン、CHAPS、SDS、ノニデット等などの界面活性剤を使用する。このプロトコールを、図11〜13に示すミルク検討に使用した。寒天プレートから5 mlのTEN緩衝液(10 mM Tris-HCl pH 7.4、 1 mM EDTA、 100 mM NaCl)に細菌を回収する。5,000×gにおいて10分間で細菌をペレット化する。ドライアイス/エタノール浴で3ラウンドの凍結/融解に試料を供し、37℃において融解する。細菌ペレットを小容量(0.1〜0.5 ml)の氷冷MTBS緩衝液(16 mM Na2HPO4、 4 mM NaH2P04、 150 mM NaCl、 1% Triton X-100、 1 mM PMSF)に再懸濁させる。15秒のバーストで懸濁液を超音波処理し、次に氷上で30秒インキュベーションする(4ラウンドの超音波処理)。細菌小片を14,000 rpmでペレット化する。上清を新たなチューブに取り出す。Bradfordタンパク質アッセイ、標準曲線、UV吸収または他の方法によってタンパク質濃度を測定する。SELDI分析時まで-70℃において保存する。
【0069】
繰り返しの凍結融解は、凍結融解サイクルを反復して細胞を剪断することに関係する。試料をドライアイス-エタノール混合物において凍結し、37℃において融解した。これらの段階を4回反復し、試料を14,000 rpmで5分間微小遠心分離器で遠心分離して透明な上清を形成した。上清を取り、試料の操作時まで-70℃で保存した。フレンチプレス(French Press)による細菌の溶解はグラム陰性細菌に使用することができ、グラム陽性細菌には推奨されない。この技法を実施するためには、20 mM HEPES pH 7.4、 50 mM NaCl、 1% Triton-X 100、 1 mM PMSFに細菌のペレットを再懸濁する。750 psiにおいてフレンチプレスを使用して分離する。4℃において20,000×gで20分遠心分離することによって細胞小片を除去する。Bradfordタンパク質アッセイまたは同様のアッセイによって上清中のタンパク質濃度を測定する。SELDI技法の実施時まで-70℃において分量を保存する。BugBuster抽出キット-これは、Novagenによって販売されている市販のキットであり、大腸菌(E. coli) の細胞壁を穏やかに破壊して、活性なタンパク質を放出することができる。これは、細胞調製物に発現標的タンパク質を放出するためのフレンチプレスまたは超音波処理の簡単で、迅速で、低費用の代替法である。または、10 mM Tris-HCl pH 7.4、 8 M Urea、 2% (w/v) CHAPS、 ImM PMSFなどの緩衝液も溶解緩衝液として使用することができる。SELDI技法の実施時まで-70℃において分量を保存する。
【0070】
以下に記載されているSELDI実験プロトコールはIMAC ProteinChip Array (PCA)を使用する。その後の金属親和性結合タンパク質のための遷移金属を捕獲するためのNTA官能基をIMACアレイにコーティングする。これらのプロファイリング検討では、表面に試料を適用する前にアレイに銅をチャージする。結合緩衝液中のイミダゾール濃度によって選択的に求める。結合/洗浄緩衝液中のイミダゾール濃度を増加すると、金属に対する親和性の低いタンパク質の結合が低下されて、バックグラウンド信号が低くなる。IMAC PCAのプロトコールは以下に詳細に記載されており、他のCiphergen PCAプロトコールと同様である。
【0071】
8スポットアレイの使用:バイオプロセッサーにPCAを集合させて、各ウェルに50マイクロリットルのIMAC添加液を加える。室温において5分間ボルテックスする。ウェルから緩衝液を除去する。水ですすぐ。各ウェルに50マイクロリットルのIMAC中和緩衝液を加える。室温において5分間ボルテックスする。ウェルから緩衝液を除去し、すすぐ。各ウェルに150マイクロリットルのIMAC結合緩衝液を加え、室温において5分ボルテックスする。緩衝液を除去する。結合緩衝液による洗浄段階を2回反復する。次に、90マイクロリットルのIMAC結合緩衝液および10マイクロリットルの試料を加え、室温において30分ボルテックスする。試料濃度に対するIMAC結合緩衝液の比は、望ましいタンパク質濃度に依存して変わってもよい。試料を取り出し、IMAC結合緩衝液で3回洗浄し、各洗浄は5分の撹拌段階を必要とする。終了したら、脱イオン水ですすぎ、バイオプロセッサーのウェルを排水し、空気乾燥させる。各スポットに1.0マイクロリットルのEAM(マトリックス)溶液を適用し、空気乾燥させる。Ciphergen ChipリーダーでPCAを分析する。
【0072】
一方、Perkin-Elmer proTOF実験プロトコールは、MALDI表面に単離されたタンパク質試料を直接適用する。しかし、この方法では、MALDI表面は試料中の全て(すなわち、タンパク質および非タンパク質)に結合する。試料をクリーンアプすること、例えば、ある種のタンパク質を除去し、それによって総タンパク質レベルを低下し、試料混合物の複雑さを低下することができるMillipore ZIP TIPS(登録商標)、フィルター付きイオン交換ピペットチップを使用したミクロスケールタンパク質精製を製造業者は示唆している。しかし、この技法は、チップごとに異なるチップ性能が得られるシグニチャーに影響することがあるほどに敏感である。
【0073】
次の段階は、病原体とAPCの相互作用からのマーカータンパク質の誘導体化に関係する。マーカータンパク質が単離されたら、タンパク質は、診断用抗体を作製するための鋳型を提供する。誘導体化されたAPCタンパク質に対するこれらの抗体は、例えば、診断目的のためにマルチプレクサーまたは蛍光リーダーに取り付けられて、免疫学的アッセイに使用することができる。
【0074】
実施例3
この実験は、細菌およびウイルス病原体に接触させたDCのAPC由来シグニチャーの再現性を検討した。リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)を、上記の細菌溶解および超音波処理方法によって処理し、金属結合(図1〜2)または疎水性表面(図3〜4)について評価した。試料は平行処理し、異なるチップアナライザーにおいて異なるPCAチップで分析した。結果はすぐれた実験再現性を実証している。データはスペクトル(図1、図3)またはゲル(図2、図4)像で示す。
【0075】
図5は、未処置/未感染骨髄細胞(Mx、上のパネル、樹状細胞の(DC)混合物、中央のパネルおよび(Mo)単球、下のパネル)、DCおよびMoの細胞質タンパク質プロファイル(シグニチャー)を例示する。DCおよびMoの個々のプロファイルに差が観察される。
【0076】
図6〜11は、対照アデノウイルスの存在下(図6、8および10)または単一遺伝子置換したアデノウイルスの存在下(図7、9および11)で培養したMx、MoおよびDCの細胞質タンパク質プロファイル(シグニチャー)を例示する。観察されたシグニチャーは、野生型および突然変異型アデノウイルスを感染させたAPCは、本発明を使用して同定し、識別することができることを示している。一遺伝子置換/改変を有するウイルスを識別することができる独自のタンパク質シグニチャーを得ることができる。
【0077】
図12〜14は、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)の存在下において同時培養したMx(図12)、DC(図13)およびMo(図14)の核タンパク質抽出物から得られるタンパク質プロファイル(シグニチャー)を例示する。他のグラム陽性およびグラム陰性細菌の存在下で培養したAPCも、APCと同時培養した微生物を同定するために使用することができる独自のシグニチャーを作製する。リステリア単独、すなわちAPCと共に培養しないプロテオミクスシグニチャー(図15の下のパネル)は3つの同時培養シグニチャーとは別個で、リステリアの異常増殖は生じず、それによってAPC同時培養を汚染しないことを示唆している。
【0078】
図16〜17は、リステリア混入した脱脂乳または全乳の分光プロファイル(シグニチャー)を例示する。図15は、結果のスペクトル像を示すが、図16〜17はゲル像を示す。結果は、APC検出方法とは関係なく、本発明が乳汁および他の食料品中の独自の病原体の存在を検出する能力を実証している。
【0079】
実施例4
病原菌以外に、本発明の診断方法は、種々の癌および遺伝子疾患の検出、診断および病期判定を含む。癌は数多くのマーカーによって検出可能である。悪性細胞は、しばしば、正常な細胞ではみられない抗原を発現する:これらの抗原の一部は細胞表面に見られ、例えば、CEA(癌胎児性抗原)および識別的にグリコシル化された(低グリコシル化)MUC-1は2つの周知の腫瘍関連抗原である。MUC-1/DF-3は、とりわけ、大多数のヒトの癌、多発性骨髄腫、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病および濾胞性リンパ腫において過剰発現されている。抗原は、DCによる抗原の提示によりHLA制限されたT細胞応答を開始することができる(Brossart et al., (2001) Cancer Res. Sept.:61(18):6846-50参照)。癌細胞においてアップレギュレーションされている他のタンパク質には、血管内皮増殖因子(VEGF)、Her-2/neuおよびヘプシンが含まれる。細胞接着分子-1(ICAM-1)、血管接着分子-1(VCAM-1)およびEセレクチン(ELAM-1)は、癌および腫瘍抑制に関連する炎症応答に関連する複雑な系列の事象において重要な役割を果たす。
【0080】
病原菌以外に、本発明の診断方法は種々の腫瘍および悪性新生物の検出、診断および病期判定を含む。本発明は、周囲組織に浸潤し、新たな生体部位に転移する傾向のある未分化細胞の増殖によって特徴づけられる種々の悪性新生物のいずれかを検出することができる。例えば、APCを以下の癌と培養して、癌接触細胞のAPCシグニチャーを作製する:星状細胞腫、グリオーマ、上衣腫、骨肉腫、ユーイング肉腫、網膜芽細胞腫、膀胱癌、小および非小細胞肺癌、麦細胞肺癌、膵臓癌、結腸直腸癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、膣癌、卵巣癌、肝臓癌、急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、リンパ腫、骨髄腫、基底細胞癌、メラノーマ、甲状腺濾胞腺癌、膀胱癌、グリオーマ、骨髄異形成症候群、精巣癌、胃癌、食道癌、喉頭癌、扁平細胞癌、腺癌、平滑筋肉腫、尿路上皮癌、乳癌または前立腺癌。
【0081】
APC、特にCD2+ DCを、生検によって得られる原発性または転移腫瘍細胞、好ましくは、代表的な病期の腫瘍増殖から取られる細胞と共に培養する。または、DCを、精製されたCEA(chorioembryonic antigen)調製物または識別的にグリコシル化された(低グリコシル化)MUC-1または他の腫瘍関連抗原と共に培養する。DC溶解物を使用してcDNAを作製し、次いでこれを使用して、ハイスループットスクリーニングのためのDC参照標準アレイを作製する。上記に掲載する各主要種についてアレイを作製し、好ましくは、特定の癌種の各病期を含む。
【0082】
実施例5
被験者および環境から試料を単離するためのキットを開発する。
【0083】
患者診断用途のためには、キットは、患者から血液試料を入手し、単離するための試薬および材料、ならびにAPC、PBMC、好ましくは、DCなどの細胞を濃縮し、細胞を処理して細胞質、核または膜分画を形成し、任意に大きいタンパク質を処理して小さいペプチドにするための試薬および材料を含む。
【0084】
キットは、SELDIのためのCiphergenおよびMALDI-O-TOFのためのPerkin Elmerによって作製されるものなどの、質量分析法に使用するのに適当なチップまたはプレートおよび試薬をさらに含んでもよい。キットはまた使用の好適な取扱説明書も含む。ある態様において、キットは、例えば、癌を診断し、病期判定する際に使用するため、または感染菌および感染の進行を判定するため、または法医学的分析のために上記に記載するAPCアレイの1つまたは複数を含む。他のキット構成要素は、質量分析計を較正するために使用する参照タンパク質などの対照を含む。さらに他の態様において、キットは、アルブミンまたは高分子量タンパク質を含み、シグニチャーにおける低分子量タンパク質の分解能を増強するために使用される(アルブミン衝撃(bump)技法)。患者に使用するキットはヒトおよび獣医学的使用に好適である。
【0085】
以下のキットが本明細書において提供される:環境および接触被験者において生物兵器に関連する病原体を同定するための生物兵器防衛キット;食品の乳製品および家畜の汚染をサンプリングするための農業用キット;被験者の内分泌および代謝機能を評価するための内分泌および代謝キット;変性性変化を評価するための神経額的キット;接触被験者において病原体を同定するための感染性疾患キット;胎児の健康を評価するための出生前キット;被験者の癌進行を診断し、病期判定し、化学療法および疾患進行をモニタリングするための癌キット;心障害および虚血および血管閉塞の早期徴候を検出するための循環器系キット;すなわち、造影剤および化学療法剤による被験者の障害を検出するための腎キット。
【0086】
等価物
本発明の具体的な態様の上記の詳細な説明から、独自の検出方法が記載されていることが明らかになるはずである。特定の態様が本明細書において詳細に開示されているが、これは例示目的のためだけに例として実施されており、以下の添付の特許請求の範囲に関して限定するものと意図されていない。特に、特許請求の範囲によって規定されている本発明の精神および範囲から逸脱しないで、種々の置換、変更および改良を本発明に加えることができることが考慮されている。例えば、検出方法に使用されるスペクトルの選択またはAPCは、本明細書に記載されている態様の知識を有する当業者にとって日常的なことであると考えられる。
【0087】
参照文献




【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】リステリア・モノサイトゲネスを、細菌溶解および超音波処理方法によって処理し、金属結合について評価した図である。データはスペクトル像で示す。
【図2】リステリア・モノサイトゲネスを、細菌溶解および超音波処理方法によって処理し、金属結合について評価した図である。データはゲル像で示す。
【図3】リステリア・モノサイトゲネスを、細菌溶解および超音波処理方法によって処理し、疎水性表面について評価した図である。データはスペクトル像で示す。
【図4】リステリア・モノサイトゲネスを、細菌溶解および超音波処理方法によって処理し、疎水性表面について評価した図である。データはゲル像で示す。
【図5】未処置/未感染骨髄細胞(Mx、上のパネル、樹状細胞の(DC)混合物、中央のパネルおよび(Mo)単球、下のパネル)、DCおよびMoの細胞質タンパク質プロファイル(シグニチャー)を例示する図である。
【図6】対照アデノウイルスの存在下で培養したMxの細胞質タンパク質プロファイル(シグニチャー)を例示する図である。
【図7】単一遺伝子置換したアデノウイルスの存在下で培養したMxの細胞質タンパク質プロファイル(シグニチャー)を例示する図である。
【図8】対照アデノウイルスの存在下で培養したMoの細胞質タンパク質プロファイル(シグニチャー)を例示する図である。
【図9】単一遺伝子置換したアデノウイルスの存在下で培養したMoの細胞質タンパク質プロファイル(シグニチャー)を例示する図である。
【図10】対照アデノウイルスの存在下で培養したDCの細胞質タンパク質プロファイル(シグニチャー)を例示する図である。
【図11】単一遺伝子置換したアデノウイルスの存在下で培養したDCの細胞質タンパク質プロファイル(シグニチャー)を例示する図である。
【図12】リステリア・モノサイトゲネスの存在下において同時培養したMxの核タンパク質抽出物から得られるタンパク質プロファイル(シグニチャー)を例示する図である。
【図13】リステリア・モノサイトゲネスの存在下において同時培養したDCの核タンパク質抽出物から得られるタンパク質プロファイル(シグニチャー)を例示する図である。
【図14】リステリア・モノサイトゲネスの存在下において同時培養したMoの核タンパク質抽出物から得られるタンパク質プロファイル(シグニチャー)を例示する図である。
【図15】リステリアの混入した脱脂乳または全乳の分光プロファイル(シグニチャー)を例示する図である。結果のスペクトル像を示す。
【図16】リステリアの混入した脱脂乳または全乳の分光プロファイル(シグニチャー)を例示する図である。ゲル像を示す。
【図17】リステリアの混入した脱脂乳または全乳の分光プロファイル(シグニチャー)を例示する図である。ゲル像を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a. 抗原提示細胞の亜集団を有する血液試料を哺乳動物から得る段階、
b. 血液試料から抗原提示細胞を実質的に単離する段階、
c. 単離された抗原提示細胞のゲノムまたはプロテオミクス哺乳動物試料シグニチャー(signature)を誘導する段階であって、哺乳動物試料シグニチャーが哺乳動物における抗原提示細胞の代謝状態を示す段階、
d. 疾病状態を有する参照被験体から抗原提示細胞の1つまたは複数のゲノムまたはプロテオミクス参照シグニチャーを誘導する段階、および
e. 哺乳動物試料シグニチャーを参照シグニチャーと比較する段階
を含み、哺乳動物試料シグニチャーと参照シグニチャーとの一致性が哺乳動物における疾病状態の存在を示す、診断方法。
【請求項2】
抗原提示細胞が樹状細胞である、請求項1記載の診断方法。
【請求項3】
疾病状態が癌または細胞増殖性疾患である、請求項1記載の診断方法。
【請求項4】
疾病状態が病原体感染である、請求項1記載の診断方法。
【請求項5】
病原体感染がウイルス感染である、請求項4記載の診断方法。
【請求項6】
病原体感染が細菌感染である、請求項4記載の診断方法。
【請求項7】
複数のアドレスを含むアレイであって、各アドレスに、抗原提示細胞によって発現される遺伝子に対応する核酸試料が付加されているアレイ。
【請求項8】
複数の二次アドレスをさらに含み、各二次アドレスに、抗原に遭遇した経験のある抗原提示細胞によって発現される遺伝子に対応する核酸試料が付加されている、請求項7記載のアレイ。
【請求項9】
抗原提示細胞が樹状細胞である、請求項8記載のアレイ。
【請求項10】
抗原が癌抗原である、請求項9記載のアレイ。
【請求項11】
抗原がウイルス抗原である、請求項9記載のアレイ。
【請求項12】
抗原が細菌抗原である、請求項9記載のアレイ。
【請求項13】
a. 単離された抗原提示細胞集団を得る段階、
b. 食品媒介性病原体の存在下で抗原提示細胞を培養し、それによって、食品媒介性病原体に特異的なプロテオミクスまたはゲノム参照シグニチャーを有する参照細胞を作製し、参照シグニチャーを得る段階、
c. 食品試料を得る段階、
d. ナイーブ(naive)抗原提示細胞を試料食品と共に培養する段階、
e. 培養した抗原提示細胞から試料シグニチャーを得る段階、および
f. 試料シグニチャーを参照シグニチャーと比較する段階
を含み、試料シグニチャーと参照シグニチャーとの一致性が食品中の食品媒介性病原体の存在を示す、診断方法。
【請求項14】
抗原提示細胞が樹状細胞である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
食品媒介性病原体が細菌病原体である、請求項13記載の方法。
【請求項16】
食品媒介性病原体がウイルス病原体である、請求項13記載の方法。
【請求項17】
a. 疾患の治療を受けている哺乳動物患者から、抗原提示細胞の亜集団を有する血液試料を得る段階、
b. 血液試料から抗原提示細胞を実質的に単離する段階、
c. 単離された抗原提示細胞についてゲノムまたはプロテオミクス患者シグニチャーを誘導する段階であって、患者シグニチャーが被験体における抗原提示細胞の代謝状態を示す、段階、
d. 患者と同じ疾患を有する参照被験体から抗原提示細胞の1つまたは複数のゲノムまたはプロテオミクス参照シグニチャーを誘導する段階、および
e. 患者シグニチャーを参照シグニチャーと比較する段階
を含み、患者シグニチャーと参照シグニチャーとの一致性が治療中に低下し、それによって疾患の治療における治療の有効性を示す、診断方法。
【請求項18】
疾患が細胞増殖性疾患であり、治療が抗悪性腫瘍薬の投与である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
疾患が細胞増殖性疾患であり、治療が細胞増殖性疾患に対する免疫応答を誘発する、請求項17記載の方法。
【請求項20】
疾患が細菌感染であり、治療が抗菌剤の投与である、請求項17記載の方法。
【請求項21】
疾患がウイルス感染であり、治療が抗ウイルス剤の投与である、請求項17記載の方法。
【請求項22】
a. 疾患を有する哺乳動物から、抗原提示細胞の亜集団を有する血液試料を得る段階、
b. 血液試料から抗原提示細胞を実質的に単離する段階、
c. 抗原提示細胞から1つまたは複数のマーカーポリペプチドを導く段階であって、マーカーポリペプチドが抗原接触に応答して抗原提示細胞において発現され、接触した抗原が疾患に関連するかまたは疾患の原因因子である、段階、
d. マーカーポリペプチドに対する抗体を得る段階、および
e. 被験体の抗原提示細胞において、抗体に結合するポリペプチドの有無を検出する段階であって、ポリペプチドの存在が被験体における疾患の存在を確認する、段階
を含む、診断方法。
【請求項23】
抗原提示細胞が樹状細胞である、請求項22記載の診断方法。
【請求項24】
疾患が癌または細胞増殖性疾患である、請求項22記載の診断方法。
【請求項25】
疾患が病原体感染である、請求項22記載の診断方法。
【請求項26】
疾患がウイルス感染である、請求項22記載の診断方法。
【請求項27】
疾患が細菌感染である、請求項22記載の診断方法。
【請求項28】
疾患がプリオン感染である、請求項22記載の診断方法。
【請求項29】
疾患が真菌感染である、請求項22記載の診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2007−536939(P2007−536939A)
【公表日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−513472(P2007−513472)
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【国際出願番号】PCT/US2005/017136
【国際公開番号】WO2006/076025
【国際公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(506381234)アモークス インコーポレーティッド (1)
【Fターム(参考)】