説明

免疫賦活能を有する酵母、及び、食品又は飼料

【課題】安全性に優れ、菌体のまま摂取しても高い免疫賦活能を奏することができ、入手が容易で安価であり、食品の製造に直接利用可能であり、低い浸透圧でも培養可能であり、更に、培養中の凝集性が低く、対糖収率の高い酵母、及び、この酵母を含有する食品又は飼料を提供すること。
【解決手段】細胞壁のマンナンが少なく、免疫賦活能を有し、浸透圧が300m OsmのYPD液体培地で増殖可能であり、対糖収率が75質量%以上であり、ゲノム数が2倍体以上であることを特徴とする酵母である。前記酵母は、Saccharomyces cerevisiae FERM P−21728、Saccharomyces cerevisiae FERM P−21729、及びSaccharomyces cerevisiae FERM P−21730のいずれかが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全性に優れ、菌体のまま摂取しても高い免疫賦活能を奏することができる酵母、及び、これを含有する食品又は飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫とは、外部から侵入したウイルスや細菌、癌細胞などによる生体への攻撃から、生体が自己を防御する機構である。免疫には、多くの種類の細胞が関与しているが、中でもマクロファージは、全動物種に普遍的に存在しており、免疫応答の特に初期段階での働きを含めてあらゆる段階に関与することから、その重要性が認識されている。
免疫が低下すると、癌、感染症、アレルギー症状などの各種疾患が誘発されることが知られている。一方、免疫が賦活されると、発癌抑制、制癌作用、抗感染症、抗アレルギー作用、更には体調リズムの回復・恒常性維持など様々な効果が期待できる。
【0003】
そこで、消費者の健康状態を改善することを目的として、免疫賦活作用を有する様々な化合物や微生物が提供されている。例えば、ラクトフェリンの加水分解物を用いるもの(特許文献1参照)、キチン(特許文献2参照)、トレハロース(特許文献3参照)、フコイダン(特許文献4参照)などの糖質を用いるもの、植物由来物質を用いるもの(特許文献5参照)、ペプチド(特許文献6参照)やインターロイキン(特許文献7参照)を用いるもの、核酸を用いるもの(特許文献8参照)、グルタチオン(特許文献9参照)、アミノ酸(特許文献10参照)、ポリリジン(特許文献11参照)を用いるもの、腸内細菌(特許文献12参照)、乳酸菌(特許文献13参照)、エンテロコッカス属細菌(特許文献14参照)などの微生物を用いるもの、などが挙げられる。
また、近年では、βグルカンの免疫賦活効果が注目されており、例えば、酵母あるいはキノコ類からβグルカンを精製し、前記βグルカンを用いた免疫賦活方法が提案されている(特許文献15〜16参照)。
【0004】
しかしながら、前記免疫賦活作用を有する化合物を用いて、消費者の免疫を賦活させるためには、その化合物を大量に精製して投与しなければならず、多くの作業工程、労力、及び費用を要する。また、前記免疫賦活作用を有する微生物の中には、性状が明らかではないものがあり、食品用途に適さないものがある。また、前記免疫賦活能を有する微生物は、その微生物自身が食品の製造(発酵など)に直接利用できない場合には、食品に免疫賦活能を付与するために、食品に対して別途添加する必要があった。
【0005】
ここで、酵母の染色体上の遺伝子のうち、MCD4遺伝子、GAS1遺伝子、及びCWH41遺伝子からなる群のうち、1つ又は2つ以上の遺伝子が破壊された結果、免疫賦活能を有している酵母が開示されている(特許文献17参照)。前記特許文献17に開示される酵母によれば、前記特許文献15、及び16に記載の技術のように、酵母から特にβグルカンを精製することなく、酵母をそのまま投与した場合であっても、免疫を賦活させることができる。
【0006】
しかしながら、前記特許文献17に開示される酵母は、遺伝子組換え技術により、前記特定の遺伝子が破壊されている。近年、遺伝子組換え技術の発達に伴い、安全性が確認された上で数多くの遺伝子組換え食品が認可乃至販売されているが、消費者から見れば、遺伝子組換えされた食物の安全性に対する不安感は依然として高い。したがって、現時点では、前記特許文献17に開示される酵母を食用として用いることは、実用上難しい。
更に、特許文献17に開示される酵母は、細胞壁の構造に関わる遺伝子が欠損していることから予期されるように、浸透圧が低い培地では極めて増殖が遅いことが明らかとなった。したがって、前記酵母の培養には、構造が脆くなった細胞壁に負荷を与えないように、例えば、糖を培地中に添加して培地の浸透圧を上げて、培地と酵母の細胞膜内の溶液との浸透圧を等張にしなければならず、培養コストが高くなるなどの問題があった。また、前記酵母を、例えば、パンなどの食品の発酵に用いる場合には、発酵条件が制限されたり、発酵液を等張にするために糖を添加したときに食品の風味が変化してしまったりするなどの問題があった。
【0007】
一方、突然変異誘発法は、例えば、突然変異誘発剤、紫外線照射、放射線照射などの突然変異誘発要因により、自然変異に比べて高い頻度でDNAに変異を引き起こす方法である。前記突然変異誘発法は、前記遺伝子組換え技術とは異なり、その食物が本来有している塩基配列以外の塩基配列が導入されることがない。したがって、前記突然変異誘発法により遺伝的形質が変化した食物は、現状においても比較的安全性が高いものとして消費者に受け入れられている。
【0008】
したがって、安全性に優れ、菌体のまま摂取しても高い免疫賦活能を奏することができ、入手が容易で安価であり、食品の製造に直接利用可能であり、低い浸透圧でも培養可能であり、更に、培養中の凝集性が低く、対糖収率の高い酵母などの微生物は、未だ提供されておらず、その速やかな提供が強く求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−178759号公報
【特許文献2】特開平6−271470号公報
【特許文献3】特開2003−81839号公報
【特許文献4】特開2001−181303号公報
【特許文献5】特開平6−56685号公報
【特許文献6】特許第2873434号公報
【特許文献7】特開2002−3395号公報
【特許文献8】特許第2529605号公報
【特許文献9】特開平11−49696号公報
【特許文献10】特開2000−281571号公報
【特許文献11】特開2003−128589号公報
【特許文献12】特開平6−56678号公報
【特許文献13】特開平7−228536号公報
【特許文献14】特開平11−92389号公報
【特許文献15】特開2001−354570号公報
【特許文献16】特開2003−183176号公報
【特許文献17】特開2006−75039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、安全性に優れ、菌体のまま摂取しても高い免疫賦活能を奏することができ、入手が容易で安価であり、食品の製造に直接利用可能であり、低い浸透圧でも培養可能であり、更に、培養中の凝集性が低く、対糖収率の高い酵母、及びこの酵母を含有する食品又は飼料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。即ち、現在食品製造に広く利用されている酵母に対して、エチルメタンスルホン酸を利用した突然変異誘発法により、酵母染色体上に変異を導入したところ、細胞壁のマンナンが少ない酵母を取得することができたこと;この酵母は、細胞壁のマンナンが少ないことにより、菌体表面にβグルカンが露出しているので、特にこの酵母からβグルカンを精製せずに、菌体のまま免疫賦活能試験に供しても、顕著な免疫賦活能が示されたこと;この酵母は、細胞壁のマンナンが少ないにも関わらず、予期しなかったことに低浸透圧に対して高い耐性を示し、更に、培養中の凝集性が低く、対糖収率が高いため、酵母そのものの製造(培養)、並びに、この酵母を含有する食品及び飼料の製造に好適に利用できることを知見した。
【0012】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 細胞壁のマンナンが少なく、免疫賦活能を有し、浸透圧が300m OsmのYPD液体培地で増殖可能であり、対糖収率が75質量%以上であり、ゲノム数が2倍体以上であることを特徴とする酵母である。
<2> 酵母がウラシル非要求性である前記<1>に記載の酵母である。
<3> 免疫賦活能がマクロファージ活性化能である前記<1>から<2>のいずれかに記載の酵母である。
<4> 突然変異誘発法により免疫賦活能を獲得した前記<1>から<3>のいずれかに記載の酵母である。
<5> 突然変異誘発法が、突然変異誘発剤、紫外線照射、及び放射線照射のいずれかを利用する方法である前記<1>から<4>のいずれかに記載の酵母である。
<6> 遺伝子組換えされていない前記<1>から<5>のいずれかに記載の酵母である。
<7> ゲノム数が2倍体以上である酵母の親株が、Saccharomyces cerevisiaeである<1>から<6>のいずれかに記載の酵母。
<8> Saccharomyces cerevisiae FERM P−21728、Saccharomyces cerevisiae FERM P−21729、及びSaccharomyces cerevisiae FERM P−21730のいずれかである前記<1>から<7>のいずれかに記載の酵母である。
<9> 前記<1>から<8>のいずれかに記載の酵母を含有する食品又は飼料である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、安全性に優れ、菌体のまま摂取しても高い免疫賦活能を奏することができ、入手が容易で安価であり、食品の製造に直接利用可能であり、低い浸透圧でも培養可能であり、更に、培養中の凝集性が低く、対糖収率の高い酵母、及びこの酵母を含有する食品又は飼料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、変異体1〜4の顕微鏡像である。
【図2】図2は、変異体1〜4のマクロファージ活性化能試験の結果を表す図である。
【図3】図3は、変異体6〜8の顕微鏡像である。
【図4】図4は、変異体6〜8のマクロファージ活性化能試験の結果を表す図である。
【図5A】図5Aは、実用菌株、及び変異体6〜8のマクロファージ活性化能試験の結果を表す図である。
【図5B】図5Bは、実用菌株、及び変異体6〜8のマクロファージ活性化能試験のポジティブコントロールとして用いた、LPS刺激したマクロファージの活性化能の結果を表す図である。
【図6A】図6Aは変異体4、及び変異体6〜8をウラシル添加培地で培養した菌体の育成度合いを表す図である。
【図6B】図6Bは変異体4、及び変異体6〜8をウラシル非添加培地で培養した菌体の育成度合いを表す図である。
【図7】図7は、変異体4、及び変異体6〜8の凝集性を表す図である。
【図8】図8は、野生型2倍体株、実用菌株E、及び変異体6〜8により製造した食パンを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(酵母)
本発明の酵母は、細胞壁のマンナンが少なく、免疫賦活能を有し、浸透圧が300m OsmのYPD液体培地で増殖可能であり、対糖収率が75質量%以上であり、ゲノム数が2倍体以上であることを特徴とする。
【0016】
<マンナン>
一般に、マンナンとは、酵母の細胞壁を構成する主要成分のひとつであり、D−マンノースを主体とする糖鎖である。前記マンナンは、タンパク質と結合したマンナンタンパク質として存在する。酵母の細胞壁においては、細胞膜の外周面に沿ってβグルカン層が形成されており、前記マンナンタンパク質は、前記βグルカンにGPI(glycosylphosphatidylinositol)アンカーという糖脂質を介して結合されている。その結果、マンナンは、βグルカンを覆い隠すようにして、細胞壁の最外層(即ち、菌体表面)に配される。これに対し、本発明の前記酵母においては、細胞壁のマンナンが少ないことにより、マンナンに代えてβグルカンが菌体表面に露出している。
【0017】
前記酵母において、細胞壁のマンナンが少ない理由は明らかではないが、例えば、マンナン、マンナンタンパク質、及びGPIアンカーの少なくとも1つが、生合成されていない、生合成はされたが細胞膜外に輸送されない、互いの結合部位に欠損や変異が生じているなどの理由が考えられる。
【0018】
−マンナンの検出−
前記酵母において、細胞壁のマンナンが少ないことは、例えば、マンナンに特異的な抗体や、マンナン中のD−マンノースやメチル−α−D−マンノピラノシドなどに対して特異的に結合するConA(コンカナバリンA)レクチンなどを利用して確認することができる。
具体的には、前記抗体又は前記ConAを、例えば、FITC(Fluorescein isothiocianate)などの蛍光色素により標識し、前記抗体又は前記ConAの菌体表面への結合を、蛍光により検出する(以下、「マンナン染色」と称することがある)。この場合、菌体表面に前記抗体又は前記ConAの結合に由来する蛍光が検出されなければ、細胞壁のマンナンが少ないと判定できる。
前記蛍光の検出は、蛍光顕微鏡下で目視により行ってもよく、例えば、フローサイトメーター、蛍光プレートリーダーなどの装置を用いて定量的に行ってもよい。
【0019】
また、前記酵母において、細胞壁のマンナンが少ないことは、例えば、細胞壁中のマンナンの含有量を定量することにより、調べることができる。マンナンの含有量を定量する方法としては、特に制限はないが、例えば、以下の手順により定量できる。
即ち、まず、細胞をガラスビーズで破砕し、遠心によって細胞壁画分を調製し、凍結乾燥する。次に、Dalliesらの方法(Yeast, 14, 1998, p.1297−1306)に従い硫酸加水分解を行い、中和した後の上清を凍結乾燥し、REZEXTM RPM−Monosaccharide Phenomenex (ShimadzuGLC LTD)などのカラムを用いHPLCで解析し、グルコースとマンノースとの比を求めることで、細胞壁中のマンナンの含有量を求めることができる。
【0020】
細胞壁中のマンナンの含有量としては、βグルカンが菌体表面に露出される程度に少なくなっている限り、特に制限はなく、細胞壁中にマンナンを有さないことがより好ましい。以下、マンナンが少なく、βグルカンが菌体表面に露出されている酵母を「グルカン露出酵母」と称することがある。
【0021】
−βグルカン−
前記βグルカンとは、酵母の細胞壁を構成する主要成分の1つであり、グルコースがβ1−3型で結合されてなる糖鎖である。
前記βグルカンの平均分子量、及び修飾の態様としては、免疫賦活能を有する限り、特に制限はなく、酵母の種類や培養条件に応じて変化しうる。
【0022】
前記酵母において、βグルカンが菌体表面に露出していることを確認する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、βグルカンに特異的な抗体や、アニリンブルーなどの蛍光試薬を利用して確認することができる。また、電子顕微鏡により、菌体表面のβグルカン線維を観察することにより確認することもできる。
【0023】
<免疫賦活能>
前記免疫賦活能は、自然免疫を賦活する能力である。前記自然免疫とは、生体が備える免疫のうち、生体に先天的に備わっており、事前に抗原に暴露していなくても前記抗原を生体から排除するに際に機能する機構を意味する。前記抗原としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、例えば、ウイルスや細菌などの外来の抗原、及び癌細胞などの内来の抗原などが挙げられる。
【0024】
前記免疫賦活能としては、前記自然免疫を賦活できる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、食細胞(マクロファージ、単球、好中球、樹状細胞)、抗原提示細胞(マクロファージ、樹状細胞)、ナチュラルキラー(NK)細胞、多形核白血球(好酸球、好塩基球、肥満細胞)などの活性化能がなど挙げられる。これらの中でも、各種生物に広く存在し、抗原を排除する効果が高い点で、前記マクロファージの活性化能が好ましい。
【0025】
前記酵母が免疫賦活能を有する理由としては、細胞壁のマンナンが少なく、免疫賦活能を有するβグルカンが菌体表面に露出しているためと考えられている。
【0026】
−免疫賦活能の評価−
前記酵母が前記免疫賦活能を有することを評価する方法としては、特に制限はなく、自然免疫に関与する前記細胞の種類に応じた従来公知の評価方法の中から、適宜選択することができる。
例えば、前記マクロファージの活性化能の評価は、マクロファージに対して、培地又は緩衝液中で前記酵母を接触させることにより、前記マクロファージを刺激し、刺激前後において前記マクロファージが産生するサイトカイン(例えば、TNF−α(Tumor Necrosis Factor−α)など)の量を測定することで行うことができる。
【0027】
<浸透圧に対する耐性>
一般に、酵母を含む一部の微生物や、植物が備える細胞壁は、浸透圧への耐性や細胞形態の維持など、極めて重要な機能を有している。
これに対して、本発明の前記酵母は、前記したように細胞壁のマンナンが少ないので、浸透圧への耐性が失われることが危惧されていた。しかしながら、本発明者らにより製造された酵母は、予期しなかったことに浸透圧への耐性を有していることが、後述する実施例より明らかとなっている。
【0028】
−浸透圧に対する耐性の評価−
本発明の前記酵母が低浸透圧に対して耐性であることを示す指標としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、浸透圧が300m OsmのYPD液体培地で増殖可能であることが好ましい。ただし、前記YPD液体培地としては、1質量% イーストエキス,2質量% ペプトン,2質量% グルコースの組成のものを用いる。また、前記YPD液体培地に用いるイーストエキスとしては、オリエンタル酵母工業(株)製のものを使用し、ペプトンとしては、日本製薬(株)製のものを使用し、グルコースとしては、国産化学(株)製のものを使用することとする。前記浸透圧は、例えば、ソルビトールなどの非発酵性糖類、NaClなどにより調節することができる。前記浸透圧は、例えば、浸透圧計F−2000(roebling社製)により測定することができる。
【0029】
本発明における「増殖可能」とは、YPD寒天培地(1質量% イーストエキス、2質量% ペプトン、2質量% グルコース、2質量% 寒天)で培養した前記酵母を、高浸透圧培地であるYPD液体培地に1白金耳植菌し、適切な条件で一晩振盪培養したときに、対糖収率が75質量%以上であることを意味する。前記対糖収率とは、1gの糖当たりに回収される前記酵母の湿質量をいう。
前記対糖収率は、例えば、前記培養で得た前記酵母の懸濁液を蒸留水で洗浄後、前記酵母の乾燥(DM)質量を測定し、1gの糖当たりに回収される前記酵母の湿質量(水分含有量を67質量%として)(g)を算出する方法などが挙げられる。
【0030】
前記酵母は、浸透圧が300m OsmのYPD液体培地で増殖可能であるので、例えば、培地の浸透圧を上げるために糖などを添加する必要がなくなり、培養コストを低減させることができる点で有利である。また、前記酵母を食品に添加する場合には、培養後に低浸透圧の溶液で洗浄しても菌体が破壊されないので、生菌の回収率を高めることができ、食品の製造効率を上げることができる点でも有利である。
【0031】
<株>
本発明の前記酵母が栄養要求性を有するか否かは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、栄養非要求性株が、培養コストを低減させることができる点で好ましい。前記栄養としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ウラシルなどが挙げられる。
【0032】
−培地中のウラシル含有量−
スクリーニングが行われる際、酵母がウラシル要求性か否かを判断する場合には、使用するYPD液体培地に、グルコースの含有量に対して、0.3質量%以上のウラシルを含有させてスクリーニングを行うこととする。即ち、YPD液体培地に対するグルコースの含有量が2質量%である場合には、YPD液体培地に対するウラシルの含有量は、6×10−3質量%以上である。
また、スクリーニングが行われる酵母が他の要求性を有している場合には、使用するYPD液体培地に、その要求される物質を充分量含有させてスクリーニングを行うこととする。
【0033】
<酵母の種類>
前記酵母の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、パン酵母、ビール酵母、ワイン酵母、清酒酵母、味噌醤油酵母などが挙げられる。これらの中でも、パン酵母が好ましい。
【0034】
前記酵母としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、ザイゴサッカロミセス(Zygosaccharomyces)属、ヤロウィア(Yarrowia)属、ウイリオプシス(Williopsis)属、トルラスポラ(Torulaspora)属、キャンディダ(Candida)属、ロードトルラ(Rhodotorula)属、ピキア(Pichia)属などが挙げられる。
【0035】
前記酵母の種としては、Saccharomyces cerevisiaeSaccharomyces pastorianusSaccharomyces bayanusZygosaccharomyces rouxiiCandida saitoanaCandida tropicalisYarrowia lipolyticaTorulaspora delbrueckiiCandida sakeCandida tropicalisCandida utilisPichia anomalaWilliopsis saturnusSaccharomycopsis fibligeraRhodotorula glutinisPichia farinosa、などが挙げられる。
これらの中でも、Saccharomyces cerevisiaeSaccharomyces pastorianusが好ましく、Saccharomyces cerevisiaeが特に好ましい。
【0036】
前記Saccharomyces cerevisiaeとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、Saccharomyces cerevisiae FERM P−21728、Saccharomyces cerevisiae FERM P−21729、及びSaccharomyces cerevisiae FERM P−21730が好ましく、免疫賦活能が高い点で、Saccharomyces cerevisiae FERM P−21729、及びSaccharomyces cerevisiae FERM P−21730がより好ましく、更に、製造(培養)中の凝集性が低く、対糖収率が高いなど、製造適性が良好な点で、Saccharomyces cerevisiae P−21729が特に好ましい。
Saccharomyces cerevisiae FERM P−21728、Saccharomyces cerevisiae FERM P−21729、及びSaccharomyces cerevisiae FERM P−21730は、本発明者らにより製造された株であり、独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センターに寄託されている。
【0037】
<培養方法>
前記酵母の培養方法としては、特に制限はなく、従来公知の方法の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、バッチ培養、流加培養などが挙げられる。
前記培養は、ジャーファーメンターを用いて好適に行うことができ、このときのジャーファーメンターにおける条件としては、特に制限はなく適宜決定することができるが、例えば、培養温度としては28℃〜33℃程度であり、培養時間としては1時間〜120時間程度であり、pHとしてはpH4〜pH7程度であり、通気量としては0vvm〜5vvm程度であり、攪拌速度としては100rpm〜700rpm程度である。
【0038】
−流加培養−
前記流加培養の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記YPD培地で培養した種酵母を300g〜500g使用し、所定の培地に播種した後、総添加量が、糖量(蔗糖換算)1,000g〜2,000g、尿素100g〜200g、リン酸1ナトリウム20g〜40gの条件にて、28℃〜33℃で連続流加する方法などが挙げられる。
【0039】
<製造方法>
前記ゲノム数が2倍体以上の酵母の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、食品用途に使用可能な酵母を親株とし、この親株に対して突然変異誘発法により染色体上に変異を誘発することにより製造する方法、食品用途に使用可能な酵母を親株とし、この親株において自然突然変異により染色体上に変異を生じさせる方法、2倍体の野生株に突然変異誘発法を施す方法などが挙げられる。
前記食品用途に使用可能な親株としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、前述した<酵母の種類>の項目において例示した酵母を利用することができる。
前記ゲノム数が2倍体以上の酵母の親株としては、1倍体の株でもよく、前記1倍体の株を交雑することで、2倍体を得ることができる。
【0040】
−突然変異誘発法−
前記突然変異誘発法とは、例えば、突然変異誘発剤、紫外線照射、放射線照射などの突然変異誘発要因により、自然突然変異に比べて高い頻度でDNAに変異を引き起こす方法を意味する。前記突然変異誘発法を用いることにより、親株が本来有している塩基配列以外の塩基配列が導入されることなく、染色体上に変異を生じさせることができる。
前記突然変異誘発剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エチルメタンスルホン酸、ニトロソグアニジン、5−ブロモウラシルなどが挙げられる。
前記放射線としては、例えば、X線、α線、β線、γ線、粒子線などが挙げられる。
前記突然変異誘発法は、前記食品用途に使用可能な酵母が本来有する塩基の中で変異が起こることから、遺伝子組換えとは異なり安全性が高いため、食品に利用できる点で有利である。
【0041】
前記突然変異誘発法又は前記自然突然変異により変異が生じる遺伝子としては、親株が免疫賦活能を獲得できる限り、特に制限はなく、例えば、RPS12,MRS6,GPB1,RAD17,NDD1,SCP1,MCD4,GAS1,CWH41などの遺伝子が挙げられる。また、これらの遺伝子以外の染色体上の塩基配列が変異していてもよい。
また、前記変異の種類としても、親株が免疫賦活能を獲得できる限り、特に制限はなく、例えば、塩基置換、挿入、欠失、逆位などが挙げられる。
【0042】
−−1倍体の1次スクリーニング−−
前記突然変異誘発法により得た1倍体変異株から、マンナンの少ない株をスクリーニングする方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、マンナンの少ない株のSDSに対する感受性を利用する方法などが挙げられる。SDS添加培地と、SDS非添加培地との前記1倍体変異株の増殖を比較して、前記SDS添加培地で増殖が遅い株、若しくは死滅する株を選択することで、マンナンの少ない株(グルカン露出酵母)を得ることができる。
【0043】
−−1倍体の2次スクリーニング−−
グルカン露出酵母1倍体株をスクリーニングする方法として、前記1次スクリーニングで得られた1倍体変異株を、更に前記マンナン染色することで、よりマンナンの少ない株を選択することが好ましい。
【0044】
−−1倍体の3次スクリーニング−−
前記2次スクリーニングで得られたグルカン露出酵母1倍体株から、免疫賦活能を有する株をスクリーニングする方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前述した免疫賦活能の評価方法を用いることができる。
【0045】
−グルカン露出酵母2倍体株の製造−
グルカン露出酵母2倍体株は、前記1倍体の3次スクリーニングで得られた免疫賦活能を有するグルカン露出酵母1倍体株と、1倍体の野生株とを交雑させた株を親株とし、その子孫として得ることができる。
【0046】
−−免疫賦活能を有するグルカン露出酵母1倍体株−−
前記グルカン露出酵母1倍体株としては、免疫賦活能を有し、マンナンが少ない株であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前述したグルカン露出酵母1倍体株の製造により得られた株が好ましく、Saccharomyces cerevisiae FERM P−21355がより好ましい。
前記Saccharomyces cerevisiae FERM P−21355は、独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センターに寄託されている。
【0047】
−−2倍体の親株の製造−−
前記グルカン露出酵母2倍体株の親株は、前記グルカン露出酵母1倍体株と、1倍体の野生株とを交雑させることにより得ることができる。前記交雑の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、常法を用いることができる。
ここで、前記グルカン露出酵母1倍体株の形質が、ウラシル要求性かつマンナンが少ない株(以下、「ウラシル(−)・マンナン(−)株」と称することがある。)であり、前記1倍体の野生株が、ウラシル非要求性かつマンナンが正常である株(以下、「ウラシル(+)・マンナン(+)株」と称することがある。)である場合、これらを交雑させた2倍体株は、ウラシル要求性、及びマンナンの形質において、ヘテロ型となる。この場合、前記2倍体株は、胞子分離させ、再び1倍体株を得た後、所望の形質を有する前記胞子分離後の1倍体株同士を交雑させることで、ウラシル要求性、及びマンナンの形質において、ホモ型の2倍体株を得ることができる。
【0048】
−−2倍体の1次スクリーニング−−
前記グルカン露出酵母2倍体株の所望の形質としては、ウラシル非要求性であることが、培養コストを低減させることができる点で好ましい。そのため、1次スクリーニングでは、前記胞子分離後の1倍体株から、ウラシル非要求性かつマンナンが少ない株(以下、「ウラシル(+)・マンナン(−)株」と称することがある。)をスクリーニングすることが好ましい。
前記1次スクリーニングの方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ウラシルを含有していない培地を用い、ウラシル非添加培地で増殖可能な株を選択した後、更に前述した1倍体の1次スクリーニングと同様に、SDSに対する感受性を利用して、前記SDS添加培地で増殖が遅い株、若しくは死滅する株を選択する方法を用いることができる。
前記ウラシルを含有していない培地としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、SD培地(0.67質量% Yeast Nitrogen Base(W/O アミノ酸)、2質量% グルコース、2質量% 寒天)などが挙げられる。
【0049】
−−ウラシル非要求性グルカン露出酵母2倍体の製造−−
前記ウラシル(+)・マンナン(−)株の1倍体から2倍体株を得る方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記ウラシル(+)・マンナン(−)株の1倍体の接合型を確認し、メイティングマトリクス判定を行うことにより得ることができる。
前記接合型を確認する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記1次スクリーニングで得られた1倍体株と、接合型が既知の株とを共培養し、目視で凝集を確認する方法などが挙げられる。
【0050】
−−2倍体の2次スクリーニング−−
前記メイティングマトリクス判定により得られた前記ウラシル(+)・マンナン(−)株の2倍体の中から、更にマンナンの少ないグルカン露出酵母2倍体株を選択するために、2次スクリーニングを行うことが好ましい。
前記2次スクリーニングの方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前述した1倍体の2次スクリーニングと同様の方法を用いることができる。
【0051】
−−2倍体のマクロファージ活性化能の評価−−
前記2倍体の2次スクリーニングで得られたグルカン露出酵母2倍体株の免疫賦活能を評価する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前述した1倍体の3次スクリーニングと同様の方法を用いることができる。
【0052】
<製造適性の検討>
前記酵母は、ゲノム数が2倍体以上であることから、1倍体における問題、即ち、1倍体は接合能を有するためコンタミにより性質が変化するといった問題を解消でき、安定した酵母である点、1倍体と比較して優れた増殖能を有する点、1倍体と比較して凝集性が低い点、栄養非要求性であり培養コストを低減させることができる点で、製造において有利である。
前記グルカン露出酵母2倍体の製造適性を検討する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、対糖収率、栄養要求性、凝集性などを指標に検討する方法などが挙げられる。
【0053】
−対糖収率−
前記対糖収率とは、前述した通りであり、前記対糖収率が高い場合は、前記酵母の収率が高いこと、即ち、増殖能が高いことを示す。
前記対糖収率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、75質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、95質量%以上が更に好ましい。前記好ましい範囲内であると製造コストを低減させることができる点で有利である。
【0054】
−栄養要求性−
前記酵母の栄養要求性は、前述した通り、栄養非要求性であることが、培養コストを低減させることができる点で好ましい。
前記酵母が栄養非要求性であるか否かを確認する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ウラシルを添加していない培地に前記酵母を接種し、ウラシルを添加していない培地で増殖可能であることを確認する方法などが挙げられる。
【0055】
−凝集性−
前記酵母は、凝集性を有さないことが好ましい。前記酵母が凝集性を有していると、製造工程でセパレーターに目詰まりするなどの点で問題である。
前記酵母が凝集性を有するか否かを確認する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、YPD液体培地を用い、適切な条件で一晩培養した後、前記酵母を光学顕微鏡で観察することにより確認する方法などが挙げられる。
【0056】
<用途>
前記酵母の用途としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、食品に添加されて用いられる食品素材、飼料、餌料などとしての用途が好ましく、前記食品素材としての用途が特に好ましい。また、前記酵母は、例えば、パンやビールの発酵など、食品の製造に好適に用いることができる。本発明の酵母を用いることにより、免疫賦活能を有する食品、免疫賦活能を有する飼料、免疫賦活能を有する餌料などが得られる。このとき、前記酵母は、菌体が破砕されない状態のまま使用されてもよいし、破砕された状態で使用されてもよく、また、乾燥された状態で使用されてもよいし、生菌乃至未乾燥の状態で使用されてもよい。
前記破砕の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ダイノミルなどの物理的破砕処理であってもよいし、化学的破砕処理であってもよい。
【0057】
前記酵母の適用対象としては、自然免疫を有する限り、特に制限はなく、例えば、ヒト、ヒトを除く動物(ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ラクダ、ラマなどの家畜、マウス、ラット、モルモット、ウサギなどの実験動物、鶏、アヒル、七面鳥、ダチョウなどの家禽、マダイ、イシダイ、ヒラメ、カレイ、ブリ、ハマチ、ヒラマサ、マグロ、シマアジ、アユ、サケ・マス類、トラフグ、ウナギ、ドジョウ、ナマズなどの魚類、クルマエビ、ブラックタイガー、タイショウエビ、ガザミなどの甲殻類など、アワビ、サザエ、ホタテ貝、カキなどの貝類、ペット動物としてイヌ、ネコなど)などが挙げられる。
【0058】
(食品又は飼料)
本発明の食品又は飼料は、前記酵母を含有することを特徴とする。
前記食品としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、パン、ビスケットやスコーンなどの製菓、病院食、流動食、水産・食肉加工品、麺類、調味料、ビールやジュースなどの飲料、健康食品、健康飲料などが挙げられる。
前記飼料としては、特に制限はなく、適用対象に応じて適宜選択することができる。前記適用対象としては、特に制限はなく、例えば、前記酵母の用途の項目で例示した適用対象が挙げられる。
前記食品又は飼料は、高い免疫賦活能を有する前記酵母を含有していることにより、高い免疫賦活能を有している。
【実施例】
【0059】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0060】
(実施例1:免疫賦活能を有する2倍体の酵母)
<グルカン露出酵母1倍体株の製造>
−自然突然変異体の選択−
突然変異誘発法に供する親株としては、実用パン酵母の1倍体であるT−21株(オリエンタル酵母工業(株)製)のウラシル要求性変異株T−21U株を用いた。
前記T−21U株は、T−21株をYPD液体培地で培養した後、5−フルオロオロチン酸を含む培地(0.7質量% YEAST NITROGEN BASE(DIFCO社製)、2質量% グルコース、0.1質量% 5−フルオロオロチン酸、0.05質量% ウラシル、2質量% 寒天)に塗沫し、30℃で3日間培養して生育させることにより、自然突然変異体として選択された菌株である。
【0061】
−突然変異誘発法−
ウラシル含有YPD液体培地(1質量% イーストエキス(オリエンタル酵母工業(株)製)、2質量% ペプトン(日本製薬(株)製)、2質量% グルコース(国産化学(株)製)、6×10−3質量% ウラシル(和光純薬工業(株)製)、以下同じ)を用いて、前記親株(T−21U株)を一晩培養した。培養菌体をエッペンチューブ2本に分注し、遠心分離し集菌した。上清を除去し、滅菌水で2度洗浄し、0.1M(mol/L、以下同じ)リン酸緩衝液(pH7.0)に菌体を懸濁した。30μLのメタンスルホン酸エチル(EMS)(和光純薬工業(株)製)を混合し、30℃で1時間、振とうしながらインキュベートした。菌体を遠心により回収し、上清を捨て、200μLの5質量% チオ硫酸ナトリウムに再懸濁した。懸濁液を新しいチューブに移し、遠心回収、200μLの5質量% チオ硫酸ナトリウムによる洗浄を2度行なった。菌体を1mLの滅菌水に再懸濁し、適度に希釈した後に、YPD寒天培地に塗布した。
この突然変異誘発法により得た1倍体の酵母群の中から、マンナンが少なく、免疫賦活能を有する酵母を、下記1次〜3次スクリーニングによりスクリーニングした。
【0062】
−1倍体の1次スクリーニング−
1次スクリーニングとして、細胞壁変異株の選択を行った。前記細胞壁変異株の選択は、下記3種の寒天培地を用い、各培地に菌体を塗布した後、30℃で3日間培養し、下記評価方法により行った。
【0063】
−−培地−−
前記細胞壁変異株の選択に用いた培地は、下記3種の培地である。
(1)ウラシル含有YPD寒天培地(1質量% イーストエキス、2質量% ペプトン、2質量% グルコース、6×10−3質量% ウラシル、2質量% 寒天)
(2)ウラシル含有1/5YPD寒天培地(0.2質量% イーストエキス、0.4質量% ペプトン、0.4質量% グルコース、1.2×10−3質量% ウラシル、2質量% 寒天)
(3)ウラシル含有1/5YPD+0.05質量% SDS寒天培地
【0064】
−−評価方法−−
細胞壁変異株の評価方法としては、下記(1)、及び下記(2)を満たす株を選択した。
(1)ウラシル含有YPD寒天培地とウラシル含有1/5YPD寒天培地とを比較したときに、ウラシル含有1/5YPD寒天培地で増殖が遅く、かつ、
(2)ウラシル含有1/5YPD寒天培地と、ウラシル含有1/5YPD+0.05質量% SDS寒天培地とを比較したときに、ウラシル含有1/5YPD+0.05質量% SDS寒天培地で増殖が遅い株(あるいは死滅する株)。
【0065】
−−結果−−
1次スクリーニングを行った結果、3,120株の変異体が得られた。
【0066】
−1倍体の2次スクリーニング−
−−方法−−
2次スクリーニングとして、FITC標識ConAによるマンナン染色を行った。コロニーを爪楊枝でかきとり、PBS+1.0Mソルビトール溶液に懸濁した。遠心回収し、PBS+1.0Mソルビトール溶液で再懸濁した後に、FITC標識ConA溶液(SIGMA社製)に混合し、室温、遮光下で30分間放置した。1回洗浄し、蛍光顕微鏡を用いてBlue励起光下で菌体を観察した。全体的に観察したときに殆ど蛍光が見られず、撮像した写真上で蛍光が確認できない株を選択した。
【0067】
−−結果−−
前記2次スクリーニングの結果、前記1次スクリーニングで得た3,120株から4株(変異体1〜4)を選択した。
図1は、変異体1〜4の顕微鏡像であって、上段は光学顕微鏡像であり、下段はマンナン染色後に観察された蛍光顕微鏡像である。図1において、変異体1〜4は、蛍光がほとんど観察されず、特に変異体2〜4は、蛍光が全く観察されていない。
【0068】
なお、変異体1は、Saccharomyces cerevisiae FERM P−21313であり、変異体2は、Saccharomyces cerevisiae FERM P−21314であり、変異体3は、Saccharomyces cerevisiae FERM P−21354であり、変異体4は、Saccharomyces cerevisiae FERM P−21355であり、4株とも、独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センターに寄託されている。
【0069】
−1倍体の3次スクリーニング−
−−方法−−
3次スクリーニングとして、変異体1〜4のマクロファージ活性化能を測定した。変異体1〜4を遠心集菌し、エタノールで処理後、滅菌水で2度洗浄した。更にRPMI−1640培地で1度洗浄した後、RPMI−1640培地に再懸濁し、血球計算盤で酵母数をカウントした。酵母濃度が、規定量となるように調製し、サンプルとした。
マクロファージは、培養2日目の細胞を使用した。培養したマクロファージを培養フラスコから回収し、新しい培地で2度洗い、血球計算盤で細胞数をカウントした。マクロファージの細胞濃度が、規定量となるように調製し、活性測定用のマクロファージ培養液とした。
【0070】
前記マクロファージ培養液を24穴プレートに分注し、前記サンプルを酵母対マクロファージの細胞数の割合が30:1になるように混合した。これを37℃、5%COの条件で、6時間培養した後、培養液をチューブに取り、遠心した。上清を回収し、上清中に含まれるTNF−αのタンパク量を、Quantikine Mouse TNF−α Immunoassay(R&D systems社製)を使用して測定した。マクロファージ活性化に対するポジティブコントロールとしては、Lipopolysaccharide(LPS、和光純薬工業(株)製)を用いた。
【0071】
−−結果−−
図2は、変異体1〜4についてのマクロファージ活性化能試験の結果を示す図である。図2において、変異体3、4は、親株(T21−U株)に比べ、非常に強いマクロファージ活性化能(免疫賦活能)を有することが示された。
3次スクリーニングの結果、変異体1〜4の4株の中から、1株(変異体4)を選択し、グルカン露出酵母2倍体の製造に用いた。
【0072】
<2倍体株の製造>
前記変異体4と、実用パン酵母の1倍体であるT−19(オリエンタル酵母工業(株)製)とを交雑し、2倍体の変異体5を製造した。前記変異体5を胞子分離させ、胞子分離した酵母群(以下、「変異体5胞子分離株」と称することがある。)を、下記1次スクリーニングに用いた。
【0073】
−2倍体の1次スクリーニング−
1次スクリーニングとして、ウラシル非要求性、かつ細胞壁変異株の選択を行った。
【0074】
−−ウラシル非要求性株の選択−−
−−−方法−−−
ウラシル非要求性株の選択は、SD培地(0.67質量% Yeast nitrogen base without amino acids(Difco社))、2質量% グルコース、2質量% 寒天)を用い、前記SD培地に菌体をスポットして生育した菌株を選択した。
【0075】
−−細胞壁変異株の選択−−
細胞壁変異株の選択は、下記3種の培地を用い、各培地に菌体をスポットし、30℃で3日間培養した後に、下記評価方法により行った。
【0076】
−−−培地−−−
前記培地は、下記3種の培地を用いた。
(1) ウラシル含有1/5YPD寒天培地(0.2質量% イーストエキス、0.4質量% ペプトン、0.4質量% グルコース、6×10−3質量% ウラシル、2質量% 寒天)
(2) ウラシル含有1/5YPD+0.02質量% SDS寒天培地
(3) ウラシル含有1/5YPD+0.05質量% SDS寒天培地
【0077】
−−−評価方法−−−
細胞壁変異株の評価方法としては、下記(1)、及び下記(2)を満たす株を選択した。
(1)ウラシル含有1/5YPD寒天培地とウラシル含有1/5YPD+0.02質量% SDS寒天培地とを比較したときに、ウラシル含有1/5YPD+0.02質量% SDS寒天培地で増殖が遅く、かつ、
(2)ウラシル含有1/5YPD+0.02質量% SDS寒天培地と、ウラシル含有1/5YPD+0.05質量% SDS寒天培地とを比較したときに、ウラシル含有1/5YPD+0.05質量% SDS寒天培地で増殖が遅い株(あるいは死滅する株)。
【0078】
−メイティングマトリクス判定−
前記1次スクリーニングにより得られた1倍体株(変異体5胞子分離株)の接合型(α型株、若しくはa型株)を下記方法により確認し、メイティングマトリクス判定を行った。
【0079】
−−接合型の確認−−
96穴プレートにYPD培地を分注し、爪楊枝を用いて変異体5のセグリガントを接種した後、30℃で一晩静置培養した。YPD培地入りφ16mm試験管に、テスター株(接合型が既知の株)であるX−2180A(ATCC社製)と、X−2180B(ATCC社製)とをそれぞれ接種し、30℃で一晩振盪培養した。24穴プレートにYPD培地を分注し、セグリガント培養液を添加した。更に、X−2180A又はX−2180Bの培養液を添加し、30℃で4時間静置培養をした。その後、目視で凝集を観察することで、接合型を確認した。
【0080】
−2倍体株の造成−
前記α型株と、前記a型株とをそれぞれYPD培地中にて、30℃で1日間培養することで増殖させた。両菌数を同程度として、両酵母を新たなYPD培地に入れ、30℃で12時間培養した。接合酵母を分離し、YPD寒天培地に塗布して、1日間〜2日間、30℃で振盪培養し、比較的大きなコロニーを2倍体として分離した。分離したコロニーについて、接合性を有していないこと、及び顕微鏡下で1倍体よりも大きくなっていることを観察し、2倍体の造成を確認した。2倍体は、70株得られた。
なお、これらの株は、YPD培地で生育、及び増殖可能であったことから、マンナンが少ないにもかかわらず浸透圧耐性を有することが認められた。
【0081】
−2倍体の2次スクリーニング−
−−方法−−
2次スクリーニングとして、FITC標識ConAによるマンナン染色を行った。マンナン染色は、前記1倍体の2次スクリーニングと同様の方法で行った。なお、2次スクリーニングは再現性を確認するため3回行った。
【0082】
−−結果−−
前記2次スクリーニングの結果、前記2倍体70株から3株(変異体6〜8)を選択した。
図3は、変異体6〜8の顕微鏡像であって、上段は光学顕微鏡像であり、下段はマンナン染色後に観察された蛍光顕微鏡像である。
【0083】
なお、変異体6は、Saccharomyces cerevisiae FERM P−21728であり、変異体7は、Saccharomyces cerevisiae FERM P−21729であり、変異体8は、Saccharomyces cerevisiae FERM P−21730であり、3株とも、独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センターに寄託されている。
【0084】
−マクロファージ活性化能−
前記変異体6〜8のマクロファージ活性化能を下記方法により測定した。
【0085】
−−サンプル処理−−
対数増殖期(培養12時間)の変異体6〜8を、遠心集菌し、70質量% エタノールで60分間処理した後、滅菌水で2度洗浄した。更にRPMI−1640培地(SIGMA社製)で1度洗浄した後、RPMI−1640培地に再懸濁し、血球計算盤で酵母数をカウントした。酵母濃度が、3.0×10細胞/mLになるように調製し、サンプルとした。
【0086】
−−細胞の調製−−
マウスのマクロファージ細胞(RAW264.7、ATCC社製)は、培養2日目の細胞を使用した。培養したRAW264.7細胞を培養フラスコから回収し、新しいRPMI−1640培地で2度洗浄後、血球計算盤で細胞数をカウントした。RAW264.7細胞の細胞濃度が、1.0×10細胞/mLとなるように調製し、活性測定用のRAW264.7細胞培養液とした。
【0087】
−−マクロファージ活性化能測定−−
RAW264.7細胞培養液を24穴プレートに0.25mLずつ分注し、前記サンプルを酵母対マクロファージの細胞数の割合が30:1になるように混合した。これを37℃、5%CO下で、6時間培養した後、培養液をチューブに取り、2,000×gで1分間遠心分離を行った。上清を回収し、上清中に含まれるTNF−αのタンパク量を、Quantikine(登録商標) Mouse TNF−α Immunoassay(R&D systems社)を使用して測定した。測定には、MICROPLATE READER Model−680(BIO−RAD社製)を使用した。マクロファージ活性化に対するポジティブコントロールとしては、Lipopolysaccharide(LPS、和光純薬工業(株)製)0.2μg/mLを用いた。
【0088】
−−結果−−
図4は、変異体6〜8についてのマクロファージ活性化能試験の結果を示す図である。図4中、野生型2倍体株は、実用パン酵母の1倍体であるT−19株と(オリエンタル酵母工業(株)製)、T−21株(オリエンタル酵母工業(株)製)とを交雑した株である。
前記野生型2倍体株のTNF−α濃度が約900pg/mLであったのに対し、変異体6は約1,750pg/mL、変異体7は約2,250pg/mL、変異体8は2,100pg/mLと、いずれも高い活性が確認された。
これらの結果より、変異体6〜8は、野生型2倍体に比べ、TNF−α産生誘導能が高く、非常に強いマクロファージ活性化能(免疫賦活能)を有することが示された。
【0089】
(実施例2:実用菌株とのマクロファージ活性化能の比較)
前記変異体6、前記変異体7、及び前記変異体8のマクロファージ活性化能と、実用菌株A、B、C、及びD(全てオリエンタル酵母工業(株)製)のマクロファージ活性化能とを下記方法により測定し、比較した。
なお、前記実用菌株A〜Dのゲノム数は、2倍体の酵母である。
【0090】
<サンプル処理>
YPD培地(1質量% イーストエキス,2質量% ペプトン,2質量% グルコース)5mLに、各菌株を1白金耳植菌し、30℃で2日間振盪培養した。前記培養で得た酵母懸濁液を蒸留水(大塚製薬(株)製)で2回洗浄した後、各菌株の乾燥(DM)質量を測定した。遠心集菌し、70質量% エタノールで60分間処理した後、RPMI−1640培地で2度洗浄した後、牛血清(CELLECT社製)を10質量%含むRPMI−1640培地に1,000μg(DM質量)/mLになるように懸濁した。
【0091】
<細胞の調製>
RAW264.7は、実施例1と同様の方法で培養し、細胞懸濁液を、1.0×10細胞/mLとなるように調製した。
【0092】
<マクロファージ活性化能測定>
RAW264.7細胞培養液を48穴プレートに0.5mLずつ分注し、37℃、湿度100%、5%COの条件化で2時間培養を行った。RAW264.7細胞の接着を確認した後、培養上清を除去し、前記サンプル1,000μg/mLを0.5mL添加して、24時間培養を行った。培養上清回収し、実施例1と同様の方法でTNF−αのタンパク量を測定した。マクロファージ活性化に対するポジティブコントロールとしては、Lipopolysaccharide(LPS、和光純薬工業(株)製)0.001μg/mLを用いた。
【0093】
<結果>
図5Aは、実用菌株A〜D、及び変異体6〜8についてのマクロファージ活性化能試験の結果を示す図である。図5Bは、ポジティブコントロールとして用いた、LPS刺激したマクロファージの活性化能を示す図である。
実用菌株のTNF−α濃度は、約300pg/mL〜500pg/mLであり、野生型2倍体株のTNF−α濃度は、約600pg/mLと同程度であった。
一方、変異体6は約800pg/mL、変異体7は約1,000pg/mL、変異体8は約800pg/mLと、いずれも野生型2倍体株と比較して高い活性が確認された。これらの中でも、変異体7が最も高い活性を示した。
これらの結果より、変異体6〜8は、野生型の2倍体株、及び実用菌株と比べ、TNF−α産生誘導能が高く、非常に強いマクロファージ活性化能(免疫賦活能)を有することが示された。
【0094】
(実施例3:製造適性)
変異体6〜8について、下記方法により、製造適正の検討を行った。比較対照としては、1倍体の変異体4を用いた。
【0095】
<対糖収率>
−方法−
ウラシル含有YPD寒天培地(組成は、実施例1と同様)で培養した変異体4、及び変異体6〜8を、それぞれ6×10−3質量% ウラシルYPD液体培地5mLに1白金耳植菌し、30℃で一晩振盪培養を行った。前記培養で得た各変異体懸濁液を蒸留水で洗浄後、各菌株の乾燥(DM)質量を測定した。
対糖収率は、酵母の水分含有量を67質量%として、1gの糖当たりに回収される前記各変異体の湿質量(g)より算出した。
結果を下記表1に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
−結果−
2倍体株である変異体6〜8は、80質量%以上の対糖収率を示したのに対し、1倍体株である変異体4の対糖収率は、4質量%と非常に低かった(表1)。
これらの結果より、1倍体株である変異体4の増殖能は低く、2倍体株である変異体6〜8は、変異体4と比較して、非常に高い増殖能を有することが認められた。
【0098】
<栄養要求性>
−方法−
SD培地に2×10−3質量% ウラシルを添加した寒天培地(以下、「ウラシル添加培地」と称することがある。)、若しくはウラシルを添加していない寒天培地(以下、「ウラシル非添加培地」と称することがある。)に、変異体4、及び変異体6〜8をそれぞれ塗布し、30℃で2日間培養後、生育度合を確認した。
【0099】
−結果−
図6Aにウラシル添加培地の結果を、図6Bにウラシル非添加培地の結果を示す。
これらの結果より、変異体4は、ウラシル添加培地では生育したが、ウラシル非添加培地では生育しなかったことから、ウラシル要求性であることが確認された。
一方、変異体6〜8は、ウラシル添加培地においても、及びウラシル非添加培地においても生育していることが確認されたことから、変異体6〜8はウラシル非要求性株であり、低製造コストで製造可能であることが認められた。
【0100】
<凝集性>
−方法−
変異体4、及び変異体6〜8を、それぞれ6×10−3質量% ウラシルYPD液体培地5mLに1白金耳植菌し、30℃で一晩振盪培養を行った。培養後の各変異体の菌体の形態を光学顕微鏡にて400倍で観察した。
【0101】
−結果−
各変異体の顕微鏡像を図7に示す。
1倍体株である変異体4は、凝集性が非常に高かった。変異体8も凝集性が認められたが、その凝集の度合いは、変異体4よりも低かった。変異体4はセパレーターの目詰まりを起こし、製造上問題があったが、変異体8はセパレーターの目詰まり起こさず、製造上問題ないものであった。変異体6〜7は、凝集性が認められなかった。
これらの結果より、2倍体株は、1倍体株と比較して凝集性が低いことから、製造適性に優れることが認められた。
【0102】
(実施例4:食パンの製造)
変異体6〜8を使用して、食パンを製造した。比較対照としては、野生型2倍体株を使用した。
【0103】
<圧搾酵母の製造>
YPD液体培地で培養した変異体6〜8、実用菌株E、及び野生型2倍体株を種酵母として、流加培養を実施した。糖量(蔗糖換算)1,400g、尿素140g、リン酸1ナトリウム28gの条件にて、30Lジャーファーメンターを用いて容量15Lにて連続流加し培養した。流加方法は常法に従った。培養終了後、培養ブロスを分離・水洗・ろ過して圧搾生酵母を得た。
【0104】
<食パンの製造方法>
食パンは、日本イースト工業会(平成8年8月)を参照し、製造した。即ち、砂糖と、食塩とを、水の一部を用いて溶解し、ミキサーボール中のミリオン(日清製粉(株)製)及びナンバーワン(日清製粉(株)製)に加え、更に残りの水を添加した。次いで、前記したように製造した変異体6〜8、実用菌株E、及び野生型2倍体株のいずれかの圧搾酵母、及びショートニング(ミヨシ油脂(株)製)をミキサーボールへ添加し、ミキシングを行った。ミキシングは、28℃にて、製パン用ミキサー(関東混合機工業(株)製)で、低速(L)1分間、中速(M)4分間行い、パン生地を捏ね上げた後、更にバッティングを10回行った。捏ね上げ後、パン生地をビーカーに移し、28℃の定温器内でパン生地が1,750mLになるまでの時間を測定し、第1発酵を行った。5回〜6回パンチすることによりガス抜きした後、ビーカーに戻し、更に28℃で30分間第2発酵を行い、ビーカーの目盛りからパン生地の体積を測定した。発酵後、360gに分割し、丸めを行ってから28℃で20分間のベンチタイムをとった。次いで、モルダー(規格用ローフ型)を通し成型し、38℃、相対湿度85%のホイロ内で型上2cmになるまでの時間を測定した。ホイロ発酵終了後、200℃にて20分間焼成した。焼成後のパンの体積(cm)、長さ(mm)、幅(mm)、高さ(mm)、及び質量(g)を測定した。
各材料の配合を表2に示す。
【0105】
【表2】

【0106】
<結果>
第1発酵の時間、ホイロの発酵時間、焼成後のパンの体積、長さ、幅、高さ、及び質量を測定した結果を表3に示す。また、焼成後のパンを図8に示す。
【0107】
【表3】

表3、及び図8より、変異体6〜8により得られた食パンは、第1発酵時間、ホイロ発酵時間、体積、長さ、幅、高さ、質量、及び外形において、実用菌株E、及び野生型2倍体株と全く変わらないものであった。また、変異体6〜8により得られた食パンを食してみたところ、香り、味などの風味、及び食感においても、実用菌株E、及び野生型の2倍体株と全く変わらないものであった。
【0108】
(実施例5:乾燥酵母粉末の製造)
変異体6〜8、及び野生型2倍体株を使用して、乾燥酵母粉末を製造した。
変異体6〜8、及び野生型2倍体株をそれぞれ水に懸濁し、この懸濁液をスプレードライヤー(大川原化工機(株)製)で乾燥減量7質量%未満にまで噴霧乾燥処理をした。このときの熱風温度を185℃、排気温度を100℃、処理量を3kg/時間とした。
変異体6〜8より得られた乾燥酵母粉末を食してみたところ、香り、味などの風味、及び食感においては、野生型2倍体株の乾燥酵母粉末と全く変わらないものであった。
【0109】
(実施例6:スコーンの製造)
変異体6〜8、及び野生型2倍体株を使用して、スコーンを製造した。
薄力粉100gに、4gの変異体6〜8、及び野生型2倍体株のいずれか、及びその他、ベーキングパウダー、砂糖、食塩、生クリーム、油脂、牛乳などを適宜加え、24℃でミキシングし捏ね上げた後、30℃、相対湿度75%にて30分ホイロ発酵を行い、200℃にて焼成した。充分に発酵したトップの立ったスコーンが製造出来た。
変異体6〜8より得られたスコーンを食してみたところ、香り、味などの風味、及び食感においては、野生型2倍体株のスコーンと全く変わらないものであった。
【0110】
(実施例7:ドッグフードの製造)
変異体6〜8を使用して、ドッグフードを製造した。
イヌ用動物実験用飼料DS−A(オリエンタル酵母工業(株)製)の仕込み原料に仕上がり固形物ペレット中の乾燥含量が3質量%になるように、変異体6〜8のいずれかを加え、攪拌、水を加え捏ね上げ、ペレット状に成型し、乾燥した。通常製品のDS−Aと同様に製造することが出来た。
【受託番号】
【0111】
FERM P−21313
FERM P−21314
FERM P−21354
FERM P−21355
FERM P−21728
FERM P−21729
FERM P−21730
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の酵母は、優れた免疫賦活能を有し、安全に摂取することができるので、免疫機能が低下した消費者の免疫機能の改善、並びに、癌、アレルギー症状、感染症などの疾患の予防及び治療に、好適に利用することができる。具体的には、前記酵母は、食品素材、飼料、餌料などへの使用や、パンやビールの発酵など、食品の製造に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞壁のマンナンが少なく、免疫賦活能を有し、浸透圧が300m OsmのYPD液体培地で増殖可能であり、対糖収率が75質量%以上であり、ゲノム数が2倍体以上であることを特徴とする酵母。
【請求項2】
酵母がウラシル非要求性である請求項1に記載の酵母。
【請求項3】
免疫賦活能が、マクロファージ活性化能である請求項1から2のいずれかに記載の酵母。
【請求項4】
突然変異誘発法により免疫賦活能を獲得した請求項1から3のいずれかに記載の酵母。
【請求項5】
突然変異誘発法が、突然変異誘発剤、紫外線照射及び放射線照射のいずれかを利用する方法である請求項1から4のいずれかに記載の酵母。
【請求項6】
遺伝子組換えされていない請求項1から5のいずれかに記載の酵母。
【請求項7】
ゲノム数が2倍体以上である酵母の親株が、Saccharomyces cerevisiaeである請求項1から6のいずれかに記載の酵母。
【請求項8】
Saccharomyces cerevisiae FERM P−21728、Saccharomyces cerevisiae FERM P−21729、及びSaccharomyces cerevisiae FERM P−21730のいずれかである請求項1から7のいずれかに記載の酵母。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の酵母を含有する食品又は飼料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−284085(P2010−284085A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138642(P2009−138642)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(000103840)オリエンタル酵母工業株式会社 (60)
【出願人】(504342354)
【Fターム(参考)】