説明

免震建物の変位記録装置

【課題】免震建物における地震時における上部構造の変位を経時的に記録可能な有効適切な変位記録装置を提供する。
【解決手段】下部構造1の上面に平板状の感圧センサー4を水平に設置して、上部構造2に設けたタッチペン6の先端を感圧センサーの表面に対して水平方向に変位可能に当接せしめ、感圧センサーに対するタッチペンの当接位置を検出してその位置信号を刻々と情報演算処理装置7に出力し、情報演算処理装置により上部構造の経時的な相対変位を刻々と演算処理してそのデータをデータ記録装置8に電磁的に記録する。タッチペンを棒状の支持部材5の先端部にコイルバネ等の弾性部材を介して上下方向に変位可能かつ下方に付勢された状態で装着する。支持部材とタッチペンとの圧力センサーを設けて上部構造の上下方向の相対変位も検出可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震建物の地震時の変位を記録するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、免震建物は上部構造としての建物と下部構造としての基礎とを構造的に絶縁してそれらの間に免震層を設けたうえで、免震層に設置した積層ゴム等の免震装置によって上部構造を下部構造に対して水平方向に相対変位可能に免震支持することを基本とする。
【0003】
この種の免震建物では地震時に上部構造が下部構造に対して相対的に大きく変位するので、その安全性を確認するために、あるいは設計手法の検証のために、地震時における上部構造の変位の状況を記録するための記録装置を設置することがあり、そのための記録計としては特許文献1に示されるような変位測定装置が一般に用いられている。
【0004】
これは、下部構造の上面に金属平板からなる記録板を水平に設置しておくとともに、先端が鋭利な記録針を上部構造から下方に向けて設置してその記録針の先端を記録板の表面に押圧状態で当接せしめておくようにしたものであり、地震時には記録針が上部構造と一体に変位して記録板の表面をけがくことにより、上部構造の変位の軌跡をけがき線として記録するようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−142135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の変位測定装置は水平2方向の変位を簡便に記録できるものではあるが、けがき線の痕跡からは最大変位量が判定できるだけでその経時的な変位の状況を確認することは困難である。
また、1枚の記録板に複数回の地震による変位を重複して記録してしまうと個々の地震による記録を識別できないから、地震後には記録板を速やかに交換する必要があるが、余震が短時間で繰り返されるような状況下ではそのような対応がとれない場合もある。
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は地震時における変位を経時的にも記録可能であり、また記録板の交換を必要としない有効適切な変位記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、上部構造を下部構造に対して少なくとも水平方向に相対変位可能に免震支持してなる免震建物に設置されて、前記下部構造に対する前記上部構造の相対変位を記録するための記録装置であって、前記下部構造の上面に平板状の感圧センサーを水平に設置して、前記上部構造に設けたタッチペンの先端を前記感圧センサーの表面に対して水平方向に変位可能に当接せしめ、前記感圧センサーにより該感圧センサーに対する前記タッチペンの当接位置を検出してその位置信号を刻々と情報演算処理装置に出力し、前記位置信号に基づいて前記情報演算処理装置が前記下部構造に対する前記上部構造の経時的な相対変位を刻々と演算処理して、そのデータをデータ記録装置に電磁的に記録可能に構成してなることを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の免震建物の変位記録装置であって、前記タッチペンを、前記上部構造より下方に向けて固定した棒状の支持部材の先端部に弾性部材を介して上下方向に変位可能かつ下方に付勢した状態で装着してなることを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の免震建物の変位記録装置であって、前記支持部材と前記タッチペンとの間に該タッチペンに作用する鉛直荷重を検知する圧力センサーを設け、該圧力センサーの検知信号に基づいて前記下部構造に対する前記上部構造の上下方向の相対変位を検出可能に構成してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、地震時における下部構造に対する上部構造の水平2方向の相対変位をデジタルデータとして時々刻々と記録できることはもとより、けがき針による従来の記録装置では困難である経時的な振動の状況を支障なく判定できるものであるし、また従来の記録装置のように記録板をその都度交換せずとも複数の地震による変位の状況を識別可能に記録できるものであるから、免震建物の振動状態の分析や設計時における建物評価モデルの検証を従来に比べて高精度でかつ容易に実施することが可能となる。
【0012】
特に、タッチペンを弾性部材によって上下方向に変位可能かつ下方に付勢した状態で感圧センサーに対して押圧する構成とすることにより、仮に上部構造が下部構造に対して上下方向に変位した際にもその変位を弾性部材の弾性変形力の範囲内で吸収し得るから、タッチペンが感圧センサーに対して過度に押圧されてそれらが損傷してしまったり、タッチペンが感圧センサーから浮き上がってしまって記録不能になるようなことを確実に防止することができる。
【0013】
また、タッチペンに作用する鉛直荷重を圧力センサーにより検知することにより、その検知信号に基づいて下部構造に対する上部構造の上下方向の相対変位も検出することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態である変位記録装置の全体概略構成を示す図である。
【図2】同、要部拡大図(図1におけるII部拡大図)である。
【図3】同、変形例を示す図である。
【図4】同、変形例を示す図である。
【図5】同、変形例を示す図である。
【図6】同、他の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の変位記録装置の一実施形態を図1〜図2を参照して説明する。
図1は本実施形態の変位記録装置を免震建物の免震層に設置した状況を示すものである。図中、符号1は下部構造(基礎)、2は上部構造(建物)、3はそれらの間に設けられた免震層であって、この免震層3の要所に設置されている積層ゴム等の免震装置(図示略)により上部構造2が下部構造1に対して水平方向に相対変位可能な状態で免震支持されている。
【0016】
本実施形態の変位記録装置は、地震時における上部構造2の下部構造1に対する水平2方向の相対変位を記録するためのもので、下部構造1の上面に水平に設置された薄い平板状の感圧センサー4と、上部構造2の底部に支持部材5を介して設けられてその先端が上記の感圧センサー4の上面に押圧状態で当接しているタッチペン6と、上記の感圧センサー4から出力される位置情報を演算処理する情報演算処理装置7と、その情報演算処理装置7により出力されたデータを記録するデータ記録装置8により構成されている。
【0017】
上記の感圧センサー4およびタッチペン6は、コンピュータ用のポインティングデバイスの一種であるいわゆるペンタブレット(周知のように板状のタブレット上を動く専用のペン形入力装置の位置座標を読み取ってコンピュータのディスプレイ上のポインタを操作するものである)と同様に構成されたものであり、それら感圧センサー4およびタッチペン6により検知される位置情報に基づいて情報演算処理装置7およびデータ記録装置8が下部構造1に対する上部構造2の相対位置を電磁的に演算処理し記録するように構成されている。
【0018】
すなわち、本実施形態の変位記録装置は、感圧センサー4に対して押圧されるタッチペン6の先端の当接位置を感圧センサー4自体が検知してその位置情報を刻々と情報演算処理装置7に対して出力し、情報演算処理装置7はその位置情報に基づいて演算処理を行って感圧センサー4に対するタッチペン6の相対位置(つまりは下部構造1に対する上部構造2の相対位置)を刻々と求め、そのデータを有線あるいは無線によりデータ記録装置8に伝送してそこにデジタルデータとして電磁的に記録するように構成されている。
【0019】
なお、上記のタッチペン6はその先端が常に感圧センサー4の表面に適度の押圧力で押し付けられつつその表面を移動し得るように構成することが好ましく、そのためにはタッチペン6を上記の支持部材5の先端部に対して弾性部材を介して上下方向に変位可能かつ下方に付勢された状態で装着すると良い。
【0020】
具体的には、たとえば図2に示すようにタッチペン6をブッシュ10の先端に取り付けて、そのブッシュ10を支持部材5の先端に上下方向に相対変位可能に装着するとともに、支持部材5の下端部に設けたフランジプレート5aとブッシュ10との間に押しバネとして機能するコイルバネ11を装着しておき、そのコイルバネ11の弾性を利用してタッチペン6をブッシュ10を介して感圧センサー4に対して適度の付勢力で押圧させることが考えられる。
上記のような押圧機構によってタッチペン6を常に適切な押圧力で感圧センサー4に対して押圧することにより、仮に上部構造2が下部構造1に対して上下方向に変位した際にもその変位をコイルバネ11の弾性変形力の範囲内で吸収することができ、したがってタッチペン6が感圧センサー4に対して過度に押圧されてそれらが損傷してしまったり、タッチペン6が感圧センサー4から浮き上がってしまって記録不能になるようなことを確実に防止することができる。
【0021】
本実施形態の変位記録装置によれば、地震時における下部構造1に対する上部構造2の水平2方向の相対変位をデジタルデータとして時々刻々と記録できることはもとより、記録板をけがき針によって機械的にけがくことでその痕跡を記録する従来の変位記録装置では困難である経時的な変位の変動状況も支障なく判定できるものであり、また従来の記録装置のように記録板をその都度交換せずとも複数の地震による変位の状況を識別可能に記録できるものであるから、免震建物の振動状態の分析や設計時における建物評価モデルの検証を従来に比べて高精度でかつ容易に実施することが可能となる。
勿論、この変位記録装置を複数台用いて免震層の要所に分散配置することにより、上部構造2の水平面内における回転や捻れの状況も把握することが可能である。
【0022】
以上で本発明の一実施形態について説明したが、上記実施形態は好適な一例であって、本発明は上記実施形態に限定されるものではなくたとえば以下に列挙するような適宜の設計的変更や応用が可能である。
【0023】
上記実施形態のように、感圧センサー4からの位置情報を演算処理するための情報演算処理装置7と、それにより得られたデータを記録するデータ記録装置8とを独立に構成して、情報処理演算装置7は感圧センサー4の近傍位置に設置するかあるいは感圧センサー4に組み込み、その情報演算処理装置7から遠方の監視室等に設置したデータ記録装置8に対して有線あるいは無線にてデータ伝送する構成として、変位の状況を遠方の監視室等において監視し評価することが現実的であるが、それに限るものではなく、情報演算処理装置7とデータ記録装置8を一体に構成することも勿論可能であるし、それらの設置位置も任意である。
【0024】
また、情報演算処理装置7やデータ記録装置8の構成も任意であり、必要に応じてそれらに対して適宜の機能を任意に付加することも可能である。
たとえば、情報演算処理装置7は感圧センサー4から出力される位置情報を常にモニターする必要はあるが、ある値を超えた時点でデータ記録装置8にデータ伝送を開始するようなトリガーシステムを具備して、記録するまでもないノイズレベルの微小変位は無視して有意な変位のみを記録するように構成することでも良い。
また、情報演算処理装置7に過大変形時に警報を発する機能を付加して、情報演算処理装置7を警報装置としても機能させるることも考えられる。
【0025】
感圧センサー4は想定される最大変位量よりも大きい面積を有し、またタッチペン6の先端の当接位置を高精度で検知できるものであれば良く、そのための位置検知方式としてはタッチペン6による電磁誘導作用を利用するものでも良い。
いずれにしても、上述したようにタッチペン6を感圧センサー4に対して適度に押圧することが好ましいことから、そのためには図2に示したような押圧機構に代えて図3〜図5に示すものも好適に採用可能である。
図3は、上記のコイルバネ11をブッシュ10内に組み込んで支持部材5の先端面(下端面)とブッシュ10との間に介装したものである。
図4は、支持部材5の先端部に凹部5bを形成してその凹部5b内にブッシュ10を装着してボルト12により固定したうえで、タッチペン6を取り付けた芯材13をブッシュ10内に装着して、凹部5b内に組み込んだコイルバネ11により芯材13を介してタッチペン6を押圧するようにしたものである。
図5は、図4に示したものをさらに変形して、タッチペン6を太径としてそれ自体を凹部5b内に装着してコイルバネ11により下方に押圧するようにしたものである。
勿論、いずれの場合においても、コイルバネ11の剛性や限界変位は想定される鉛直変位と感圧センサー4の限界強度に応じて適切に設定しておけば良いし、上記のコイルバネ11に代えて板ばねや皿バネ等の適宜の弾性部材を採用することも可能である。
【0026】
なお、本発明においては、上記実施形態のようにタッチペン6を弾性部材を介して上下方向に変位可能かつ下方に押圧する状態で装着することが好ましいのではあるが、本発明の変位記録装置を設置する免震建物においてその上部構造2が下部構造1に対して上下方向に相対変する余地が全くなく、タッチペン6が常に適切かつ安定に感圧センサー4に対して当接する状態を確実に維持できる構造である場合(つまり、タッチペン6が感圧センサー4に対して過度に押圧されたり浮き上がってしまう余地が全くない場合)には、本発明においては必ずしも上記のようタッチペン6を弾性部材によって押圧する必要はなく、タッチペン6を上部構造2に対して単に固定的に設置しておくことも不可能ではない。
【0027】
逆に、3次元免震建物のように上部構造2が下部構造1に対して上下方向にも相対変位することを前提としているような場合には、タッチペン6に作用する鉛直荷重の変動状況を検知することによって上下方向の変位も記録できるようにすることが考えられ、その場合の一構成例を図6に示す。
これは図5に示したように太径のタッチペン6を支持部材5の凹部5bに上下方向に変位可能に装着してコイルバネ11により下方に付勢した場合の適用例であって、コイルバネ11と支持部材5との間にさらにロードセル等の圧力センサー14を介装してタッチペン6に作用する鉛直荷重を圧力センサー14により検知可能とし、その圧力センサー14からの検知信号を情報演算処理装置7に刻々と出力してそれに基づき上下方向の相対変位を演算処理しデータ記録装置8により記録するようにしたものである。
これによれば、本発明の変位記録装置によって水平2方向の相対変位のみならず上下方向の相対変位もデジタルデータとして刻々と記録することが可能であるし、複数台の変位記録装置を免震層に分散配置することにより上部構造2の鉛直面内での傾斜や回転の状況についても記録することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 下部構造(基礎)
2 上部構造(建物)
3 免震層
4 感圧センサー
5 支持部材
5a フランジプレート
5b 凹部
6 タッチペン
7 情報演算処理装置
8 データ記録装置
10 ブッシュ
11 コイルバネ(弾性部材)
12 ボルト
13 芯材
14 圧力センサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造を下部構造に対して少なくとも水平方向に相対変位可能に免震支持してなる免震建物に設置されて、前記下部構造に対する前記上部構造の相対変位を記録するための記録装置であって、
前記下部構造の上面に平板状の感圧センサーを水平に設置して、前記上部構造に設けたタッチペンの先端を前記感圧センサーの表面に対して水平方向に変位可能に当接せしめ、前記感圧センサーにより該感圧センサーに対する前記タッチペンの当接位置を検出してその位置信号を刻々と情報演算処理装置に出力し、前記位置信号に基づいて前記情報演算処理装置が前記下部構造に対する前記上部構造の経時的な相対変位を刻々と演算処理して、そのデータをデータ記録装置に電磁的に記録可能に構成してなることを特徴とする免震建物の変位記録装置。
【請求項2】
請求項1記載の免震建物の変位記録装置であって、
前記タッチペンを、前記上部構造より下方に向けて固定した棒状の支持部材の先端部に弾性部材を介して上下方向に変位可能かつ下方に付勢した状態で装着してなることを特徴とする免震建物の変位記録装置。
【請求項3】
請求項2記載の免震建物の変位記録装置であって、
前記支持部材と前記タッチペンとの間に該タッチペンに作用する鉛直荷重を検知する圧力センサーを設け、該圧力センサーの検知信号に基づいて前記下部構造に対する前記上部構造の上下方向の相対変位を検出可能に構成してなることを特徴とする免震建物の変位記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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