説明

免震用積層ゴムの取替え工法

【課題】ジャッキ等の支持構造により上部構造物を浮かすことなく、また、支保工等の付加的設備を用いることなく、原子力発電施設等の建築構造物における免震用積層ゴムを容易に取替え可能にする。
【解決手段】免震用積層ゴムの上部及び下部フランジに設けた圧縮ボルトを圧縮ナットを使用して回転させ免震用積層ゴムを圧縮し、免震用積層ゴムと上部基礎間に空間を設ける。空間が生じたことにより、前記免震用積層ゴムの取り出しが可能となる。続いて前記圧縮ボルトにより圧縮された新たな免震用積層ゴムを配置し、圧縮を解除し、新たな免震用積層ゴムを取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電施設等における建築構造物の基礎と上部構造物間に配置した免震用積層ゴムの取替え工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、免震装置は、一般建築物から工業施設など様々な分野で実際に適用されている。特にゴムと鋼板を交互に積層した積層ゴムを用いた免震装置は、免震装置の中でも代表的なものである。高減衰ゴムや天然ゴムを用いた免震用積層ゴムは、半永久的にその効果を発揮するものではなく、上部構造物の加圧による弾性の劣化、空気、湿度、オゾン等の外部環境により免震用積層ゴムの劣化が生じる可能性がある。従って、免震用積層ゴムを定期的に取替える必要がある。その交換方法として、特許文献1のように上記建築構造物基礎と上記構造物間に複数のジャッキを配置し、各ジャッキを均等に伸張して上部構造物を若干浮かせ、その間に免震用積層ゴムを取替える工法が開示されている。
【0003】
また、特許文献2、特許文献3では、フランジ間に逆ねじを有するねじ棒を回転させて免震積層ゴムに予め荷重を加えて圧縮させ、建物に挿入する設置方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−76973号公報
【特許文献2】特開平10−280705号公報
【特許文献3】特開平11−152933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の免震用積層ゴムの取替え工法は、重量が大きな原子力発電施設においては、ジャッキにより上部構造物を浮かす場合に多数のジャッキが必要となる。また、特許文献2の取替え工法では、梁と基礎工の間に支保工を設けて、負荷荷重を負担させ、免震積層ゴムを圧縮して交換する。
【0006】
本発明は、ジャッキ等の大掛りな荷重支持構造により上部構造物を浮かすことなく、また、支保工等の付加的設備を用いることなく、原子力発電施設の免震用積層ゴムを容易に取替え可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上部構造物を載置した上部基礎と下部構造物に載置された下部基礎との間に、前記上部基礎に取付ボルトを介して取付けられた上部フランジ及び前記下部基礎に取付ボルトを介して取付けられた下部フランジを有する免震用積層ゴムを複数個取付けた免震装置を有する建築構造物における、前記免震用積層ゴムの一部を取替える建築構造物の免震用積層ゴム取替え工法において、前記取替え対象である一部の免震用積層ゴムの上部フランジ及び上部基礎間に取り付けられた取付ボルトを除去し、前記免震用積層ゴムの上部フランジ及び下部フランジに取り付けられた圧縮装置で前記免震用積層ゴムを圧縮し、前記免震用積層ゴムを圧縮した際に、前記上部基礎と下部基礎との間の間隔をほぼ一定に保ち、前記免震用積層ゴムの下部フランジ及び前記下部基礎間に取り付けられた取付ボルトを除去して前記免震用積層ゴムを取去り、前記圧縮装置にて圧縮した新たな免震用積層ゴムを据付けることを特徴とする。
【0008】
また、建築構造物の免震用積層ゴム取替え工法において、前記圧縮装置を、前記上部フランジおよび下部フランジに設けられた圧縮ボルトと、該圧縮ボルトに両端でねじ嵌合し前記上部フランジおよび下部フランジの距離を短縮して前記免震用積層ゴムを圧縮する圧縮ナットから構成したことを特徴とする。
【0009】
また、建築構造物の免震用積層ゴム取替え工法において、前記圧縮装置を、前記上部フランジおよび下部フランジに設けられたリンクと、該リンクを回動させて前記上部フランジおよび下部フランジの距離を短縮して前記免震用積層ゴムを圧縮するリンク装置から構成したことを特徴とする。
【0010】
さらに、建築構造物は原子力発電施設であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、免震用積層ゴムを圧縮することで上部基礎と免震用積層ゴムの上部フランジ間に空間を作り、免震用積層ゴムを引き抜き、同様に圧縮した新たな免震用積層ゴムを挿入するだけでよいので、ジャッキ等の支持構造が不要でかつ構造物や基礎に損傷を与えることなく免震用積層ゴムを取替えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例1の免震用積層ゴムの設置状態を示す正面図である。
【図2】本発明の実施例1の免震用積層ゴムを挟むフランジの平面図である。
【図3】本発明の実施例1の免震用積層ゴムの圧縮状態を示す正面図である。
【図4】本発明の実施例2の免震用積層ゴムの圧縮状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態に関し、原子力発電施設を例にとって図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0014】
図1はこの発明が適用される実施例1の免震構造物の正面図、図2は本発明の免震用積層ゴムを挟むフランジの平面図、図3は免震用積層ゴムを圧縮状態とした正面図を示している。
【0015】
初めに、図1及び図2に関して説明する。実施例1の免震構造物は、原子力発電施設の上部構造物を載置した上部基礎1と、下部構造物に載置された下部基礎2、および両者の間に配置された免震用積層ゴム3から構成されている。免震用積層ゴム3は中心に、震動減衰用の鉛材等からなる振動減衰部材3Aを有している。
【0016】
免震用積層ゴム3は、上部フランジ4が上部基礎1に取付ボルト5により接合され、下部フランジ6が取付ボルト5により下部基礎2に接合されている。7は上部フランジ4と下部フランジ6に設けられた圧縮ボルト、8は圧縮ナット、9は圧縮ボルトを固定するロックナットである。圧縮ナット8は、上下に圧縮ボルト7とねじ嵌合する逆ねじ部を設けている。免震用積層ゴム3は、基礎間に設置された状態では上下方向の荷重を受け圧縮状態にある。
【0017】
ここで取付ボルト5の上部基礎1、下部基礎2側の受け口はねじが切ってあり、取付ボルト5の取り外しにより前記基礎が損傷しない構造となっている。5Aは上部フランジ4に設けた取付ボルト5用の貫通孔である。7Aは圧縮ボルト7を固定するねじ孔である。下部フランジ6も同一構造を有する。
【0018】
このような免震積層ゴムの取替えは以下の方法にて行う。まず、上部基礎1と上部フランジ4を結合している取付ボルト5を取り外し、下部フランジ6に着脱可能な圧縮ボルト7、ロックナット9及び圧縮ナット8を設置する。次に、上部フランジ6に着脱可能な圧縮ボルト7及びロックナット9を設置する。圧縮ナット8により、上部フランジ及び下部フランジに取り付けた圧縮ボルト7を接続させ、圧縮ナット8を回転させて免震用積層ゴム3を圧縮する。ここで、ロックナット9は圧縮ボルト7の空回りを防止するため、圧縮ボルト7に取り付ける。
【0019】
上部フランジの圧縮ボルト7は右ねじ、下部フランジに取り付けた圧縮ボルト7は左ねじにすることで、圧縮ナット8を右周りに回転させることにより、上部フランジの圧縮ボルト7は下方向に移動し、下部フランジの圧縮ボルト7は上方向に移動し、免震用積層ゴム3は圧縮される。
【0020】
前記免震用積層ゴムを圧縮した状態を図3に示す。原子力発電所施設に免震用積層ゴム3を設置する場合、原子力発電所施設は耐震性能や遮へい性能について高い安全性を確保する必要があるため、施設の質量が大きくなり、施設の質量を支持するために免震用積層ゴム3を多数設置する必要があり、例えば直径1600mm前後の数百個の免震用積層ゴム3を設置する必要がある。
【0021】
ここで、免震用積層ゴム3を取替える場合に、対象となる1基の免震用積層ゴム3を圧縮させたとしても、その他の免震用積層ゴム3に作用する原子力発電所施設の荷重増加は微小であり、上部基礎1と下部基礎2の間隔はほとんど変わらない。したがって、取替えの対象となる免震用積層ゴム3を1基毎に圧縮させた場合でも、免震用積層ゴム3の上部フランジ4と上部基礎1の間に空間を確保することが可能となる。
【0022】
上部基礎1と免震用積層ゴム3間に空間を確保し、下部フランジ6と下部基礎2を結合している取付ボルト5を取り外すことにより、小型のフォークリフト等を使用することで圧縮させた免震用積層ゴム3を取り出すことが可能となる。
【0023】
さらに、前記圧縮ボルト、圧縮ナットにてあらかじめ圧縮された新規免震積層ゴムを下部フランジ6の取付ボルト5により下部基礎6に据付け、圧縮ナット8を圧縮ボルト7のまわりに左回りに回転させて免震用積層ゴム3の圧縮を解除し、接触した上部フランジ4と上部基礎1を取付ボルト5により固定する。
【0024】
以上により、圧縮ボルト7及び圧縮ボルト8により免震用積層ゴム3を圧縮させることで、ジャッキ等の大掛りな荷重支持構造を用いることなく免震用積層ゴム3と、上部基礎1の間に空間を確保することができ、容易に免震用積層ゴムの取替えが可能となる。
【実施例2】
【0025】
図4は、本発明の実施例2の正面図である。実施例2は、免震用積層ゴム4の圧縮装置として、リンク11と、ロックレバー12を有するリンク装置10を用いる。リンク装置10は免震用積層ゴム4の周囲のほぼ対称位置に適当な個数を設ける。ロックレバー12を回動させてリンク11がデッドポイントを越えるとロックがなされる。実施例2の構成は比較的軽荷重の場合に適しているが、操作性がよく、迅速な作業を要求される様な箇所において有効に用いられる。
【符号の説明】
【0026】
1…上部基礎、2…下部基礎、3…免震用積層ゴム、4…上部フランジ、5…取付ボルト、6…下部フランジ、7…圧縮ボルト、8…圧縮ナット、9…ロックナット、10…リンク装置、11…リンク、12…ロックレバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造物を載置した上部基礎と下部構造物に載置された下部基礎との間に、前記上部基礎に取付ボルトを介して取付けられた上部フランジ及び前記下部基礎に取付ボルトを介して取付けられた下部フランジを有する免震用積層ゴムを複数個取付けた免震装置を有する建築構造物における、前記免震用積層ゴムの一部を取替える免震用積層ゴムの取替え工法において、
前記取替え対象である一部の免震用積層ゴムの上部フランジ及び上部基礎間に取り付けられた取付ボルトを除去し、
前記免震用積層ゴムの上部フランジ及び下部フランジ間に取り付けられた圧縮装置で前記免震用積層ゴムを圧縮し、
前記免震用積層ゴムを圧縮した際に、前記上部基礎と下部基礎との間の間隔をほぼ一定に保ち、
前記免震用積層ゴムの下部フランジ及び前記下部基礎間に取り付けられた取付ボルトを除去して前記免震用積層ゴムを取去り、
前記圧縮装置にて圧縮した新たな免震用積層ゴムを据付ける
ことを特徴とする免震用積層ゴムの取替え工法。
【請求項2】
請求項1に記載された建築構造物の免震用積層ゴム取替え工法において、前記圧縮装置は、前記上部フランジおよび下部フランジに設けられた圧縮ボルトと、該圧縮ボルトに両端でねじ嵌合し前記上部フランジおよび下部フランジの距離を短縮して前記免震用積層ゴムを圧縮する圧縮ナットを有することを特徴とする免震用積層ゴムの取替え工法。
【請求項3】
請求項1に記載された建築構造物の免震用積層ゴム取替え工法において、前記圧縮装置は、前記上部フランジおよび下部フランジに設けられたリンクと、該リンクを回動させて前記上部フランジおよび下部フランジの距離を短縮して前記免震用積層ゴムを圧縮するリンク装置を有することを特徴とする免震用積層ゴムの取替え工法。
【請求項4】
請求項1乃至3に記載された建築構造物の免震用積層ゴム取替え工法において、前記建築構造物は原子力発電施設であることを特徴とする免震用積層ゴムの取替え工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−132769(P2011−132769A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−294628(P2009−294628)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】