説明

全ての方向で測定できる陽子歳差磁力計センサ

【課題】全ての方向で測定が可能な、即ち感度脆弱角度(dead band)が存在しなくて全ての方向で測定できる陽子歳差磁力計センサを提供すること。
【解決手段】コイルに電流を流した後、前記電流を切って前記コイルに誘起される電流の振動数を測定して外部磁場の強さを算出する陽子歳差磁力計センサであって、
前記コイルは、2つのソレノイドコイル(solenoid coil)が垂直に連結されるか、N(Nは3以上の整数)個のソレノイドコイルが多角形形態で連結されてなされることを特徴とする全ての方向で測定できる陽子歳差磁力計センサ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルに強い電流を流した後、上記電流を切ってコイルに誘起される電流の振動数を測定して磁場の強さを測定する陽子歳差磁力計センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
物理探査において、磁力探査は概略探査及び精密探査のために基本的で、かつ重要な情報を提供する方法である。このために地表及び航空探査で使われる磁力計には3成分フラックスゲート磁力計(Fluxgate magnetometer)、陽子歳差磁力計(Proton precession magnetometer)、オーバーハウザー効果磁力計(Overhauser effect magnetometer)、光ポンピング磁力計(Optical-pumping magnetometer)などがある。
【0003】
フラックスゲート磁力計はベクトル的成分測定が可能であるが、温度ドリフト(drift)特性や直交性(orthogonality)角度が精密でなく、オーバーハウザー効果磁力計は経験的に60Hz電力線などの外部雑音環境に多少脆弱であり、光ポンピング磁力計は現在技術水準上、内部ランプ寿命の厳密な予測が可能でないので、取替のためには製作社での直接チューニングがまた必要であるという不便性がある。
【0004】
陽子歳差磁力計は、総磁場(total magnetic field)を正確な振動数カウンティングにより測定するので、基準発振振動数の温度特性さえ良ければ、精密な磁場値の獲得が可能であって、航空磁力探査を含んで、世界的に相変わらずたくさん使われている。
【0005】
しかしながら、陽子歳差の原理に起因するこのような磁場測定方式は、外部磁場に支配される特定方向の感度脆弱角度(dead band)が存在する源泉的な限界がある。陽子歳差の原理を詳細に説明すれば、次の通りである。
【0006】
原子核である陽子(proton)は、スピン(spin)という量子力学的性質を持っており、陽子のスピンは量子化された各運動量に従う磁気量子数(magnetic quantum number)を有し、一定な方向性を有する。H(proton)や13Cなどのように、総スピン量子数が0でない場合には、磁化率(r)を持つ。陽子のスピンは1/2であり、可能なスピン状態はm=±1/2である。このように、状態は異なるがエネルギー値は同一な場合を重畳されているという。熱平衡状態で両者の分布(population)は同一であるが、陽子に強い磁場を加えれば重畳状態が破られて陽子の磁気モーメントは加えられた磁場方向に整列して一致するようになる。この際、加えられた磁場を除去すれば陽子の磁気モーメントには地球磁場が作用するようになるが、下記の<数式1>のように地球磁場が陽子の磁気モーメントと平行しない方向に作用すれば、陽子は歳差運動をするようになる。この際、陽子の磁気モーメントに垂直な地球磁場成分が歳差運動を起こす。したがって、歳差運動は<数式1>のように陽子の磁気モーメントの方向と地球磁場の方向が平行すれば発生しないようになる。(即ち、陽子の磁気モーメントの方向と地球磁場の方向が0度であるとか180度の場合には歳差運動が発生しない。)
【0007】
【数1】

【0008】
歳差運動とは、回転体の回転軸が動かないある軸の周りを回る現象であって、弱い外力のモーメントが垂直に作用して生じて、地球の自転軸、人工衛星の自転軸などが歳差運動をする。一方、原子核である陽子(proton)はスピン量子数により磁気モーメントを持つようになるが、この磁気モーメントと異なる方向に弱い外部磁場(普通、地球磁場となる)が作用するようになれば、陽子は磁気モーメントに垂直な外部磁場成分に対して歳差運動(precession)をするようになり、このような歳差運動の周波数(fprec)は外部磁場の強さ(Hear)と比例する。
【0009】
陽子歳差磁力計は前述した原理を利用したものであって、ソレノイドコイルに電流を流した後、上記電流を切ってソレノイドコイルに誘起される電流の振動数(これは歳差運動の周波数(fprec)と等しい)を測定して外部磁場の強さを算出するものである。即ち、ソレノイドコイルに強い電流を流せば、ソレノイドコイルの内部にはソレノイドを貫通する方向に磁場が形成される。この磁場によりソレノイドの内部にある陽子の磁気モーメントは加えられた磁場の方向(ソレノイドを貫通する方向)と一致するようになるが、この時、電流を切れば陽子の磁気モーメントに地球磁場が作用しながら陽子は歳差運動をするようになる。
【0010】
ところが、歳差運動は上記<数式1>のように陽子の磁気モーメントと地球磁場の方向が平行しない時に発生するようになるが、<数式2>のように陽子の磁場と地球の磁場の方向が平行した場合(例えば、陽子歳差磁力計センサのソレノイドを貫通する方向と平行に地球磁場が作用する場合)には陽子の磁気モーメントの軸を移動させる外力が存在しなくて歳差運動が発生せず、地球磁場の強さが測定できなくなる。
【0011】
【数2】

【0012】
実質的には、陽子の磁気モーメントと地球磁場の方向が垂直な方向で誘起電圧の強さが最も大きく表れ、両磁場の方向が平行に近づくほど誘起電圧の強さが減少して振動数の測定が困難になる。即ち、従来の陽子歳差磁力計は外部磁場に支配される特定方向の感度脆弱角度(dead band)が存在するという源泉的な限界がある。したがって、従来の陽子歳差磁力計は地球磁場測定のためにソレノイドコイルの磁場方向と地球磁場方向とが垂直になるようにセンサの位置を調整してくれなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、前述した問題点を解決するために、全ての方向で測定が可能な、即ち感度脆弱角度(dead band)が存在しなくて全ての方向で測定できる陽子歳差磁力計センサを提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前述した課題を解決するための本発明の全ての方向で測定できる陽子歳差磁力計センサは、コイルに電流を流した後、上記電流を切って上記コイルに誘起される電流の振動数を測定して外部磁場の強さを算出する陽子歳差磁力計センサであって、上記コイルがトロイダルコイル(toroid coil)からなることを特徴とし、上記コイルは2つのソレノイドコイル(solenoid coil)を垂直に連結するか、N(Nは3以上の整数)個のソレノイドコイルを多角形形態で連結してなされることもできる。
【0015】
上記全ての方向で測定できる陽子歳差磁力計センサは、上記コイルは炭化水素系溶媒が詰められた非磁性容器に盛られ、測定装置と連結され、上記測定装置は、上記コイルに誘起された電流の振動数を測定するカウンターと、上記コイルに電流を供給する電流供給源と、上記コイルに供給する電流をスイッチングするリレーとを含んでなることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の全ての方向で測定できる陽子歳差磁力計センサは、感度脆弱角度が存在しなくて全ての方向で外部磁場の測定が可能である。したがって、磁力測定時、センサを特定の方向に合せる必要がないので簡便に外部磁場を測定することができる。
【0017】
また、この研究結果は、今後より良いインピーダンスマッチング及び電力消耗最適化開発過程を経て実践で多様に応用できる源泉技術蓄積に引き続くはずである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る全ての方向で測定できる陽子歳差磁力計センサの概念図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る全ての方向で測定できる陽子歳差磁力計センサの構成図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る全ての方向で測定できる陽子歳差磁力計センサの斜視図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る全ての方向で測定できる陽子歳差磁力計センサの概念図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係る全ての方向で測定できる陽子歳差磁力計センサの斜視図である。
【図6】従来の陽子歳差磁力計センサと本発明の実施形態が適用された全ての方向で測定できる陽子歳差磁力計センサの測定結果を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付した図面を参照しつつ本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。しかしながら、本発明はここで説明される実施形態に限定されず、他の形態で具体化されることもできる。むしろ、ここで紹介される実施形態は開示された内容が徹底し、かつ完全になることができるように、そして当業者に本発明の思想が十分伝えられることができるようにするために提供されるものである。
【0020】
各図面に図示された同一な参照符号は同一な機能を遂行する構成要素を意味する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る全ての方向で測定できる陽子歳差磁力計センサの概念図である。図示されたように、本発明の陽子歳差磁力計センサ10はコイルがトロイダルコイル(toroid coil)12からなり、トロイダルコイル12に誘起された電流の振動数(陽子の歳差運動の周波数(fprec)と同一)を測定して<数式3>により地球磁場の強さを測定する。
【0022】
【数3】

(Hearは地球磁場の大きさ、fprecは歳差運動周波数、rは陽子の磁化率)
【0023】
トロイダルコイル12に電流を加えると、トロイダルコイル12の内部に磁場が形成されるが、磁場の強さは中心からの距離に反比例し、磁場の方向は電流が流れる方向にネジを回した時、ネジが進行する方向であり、円形を描いて、トロイダルコイルの内部を回るようになり、トロイダルコイル12の内部の任意の地点での磁場の方向は、図1に示すように円周の接線方向である。したがって、トロイダルコイル12の内部に形成された磁場の方向は同一な円周上の各地点で各々全て異なるようになる。
【0024】
トロイダルコイル12に電流を流して上記のようにトロイダルコイル12の内部に強い磁場が形成されれば、トロイダルコイル12の内部に存在する陽子の磁気モーメント(Hexc)は励起段階(excitation stage)を経て内部磁場とその方向が一致するようになる。前述したように、トロイダルコイル12の内部に形成された磁場は同一な円周上の各地点でその方向が全て異なるので陽子の磁気モーメントの方向も同一な円周上の各地点でその方向が全て異なるように形成される。
【0025】
この際、コイルに印加された電流を切って外部磁場である地球磁場(Hear)が作用するようになる時、センサの方向に関わらず、地球磁場(Hear)に対して<数式1>を満たす陽子がトロイダルコイル12内の大部分の任意の地点で必ず存在するようになる。したがって、従来の単純なソレノイドコイルとは異なり、センサの方向に関わらず、陽子の歳差運動が発生するようになって、如何なる方向でも地球磁場の強さが測定できるようになる。
【0026】
図2は、本発明の一実施形態に係る全ての方向で測定できる陽子歳差磁力計センサの構成図である。本発明の全ての方向で測定できる陽子歳差磁力計センサ10は、トロイダルコイル12に測定装置20が連結されるようになる。測定装置20は、陽子の歳差運動によってコイルに誘起された電流を増幅させる増幅器22と、増幅された信号の振動数を測定するカウンター21と、コイルに電流を供給する電流供給源25と、コイルに供給する電流をスイッチングするリレーと、これらを制御するメーンコントローラ27とを含んでなされる。リレーはスイッチとリレースイッチングコントローラ23とを含む。
【0027】
図2を参照しながら本発明の全ての方向で測定できる陽子歳差磁力計センサの動作を簡単に説明すれば、次の通りである。
【0028】
まず、電流供給源25を通じてトロイダルコイル12に電流を印加する。コイルに印加された電流によってトロイダルコイル12の内部には強い磁場が誘導され、この磁場によってトロイダルコイル12の内に陽子は励起段階(excitation state)を経て磁場(Hexc)の方向と同一な方向に再配列された磁気モーメントを有するようになる定常状態となる。
【0029】
トロイダルコイル12の内部の陽子が定常状態になった時、リレー23によりトロイダルコイル12に印加された電流を切るようになる。すると、トロイダルコイル12の内部に存在する陽子には地球磁場が作用するようになり、センサ方向や地球磁場の方向に関わらず、トロイダルコイル12の内部の大部分の陽子は上記<数式1>の条件を満たすようになって、地球磁場方向を軸にして歳差運動をするようになる。
【0030】
陽子の歳差運動によってトロイダルコイル12には陽子の歳差運動の周波数(fprec)と同一な振動数を持つ交流電流が誘起される。カウンター21でコイルに誘起された電流の振動数を測定する。カウンター21における振動数の測定はコイルに誘起される電圧の大きさ及び方向の変化を一定時間の間カウントする方式により測定できる。電流は相対的に弱いので、電圧の変化を通じて振動数をカウントするようになる。
【0031】
測定された陽子の歳差運動周波数(fprec)は<数式3>を用いて演算装置(図示せず)により地球の磁場の強さで算出されてディスプレイ装置(図示せず)を通じてディスプレイされる。
【0032】
図3は、本発明の一実施形態に係る全ての方向で測定できる陽子歳差磁力計センサの斜視図である。本発明の全ての方向で測定できる陽子歳差磁力計センサ10は、炭化水素系溶媒が詰められた非磁性容器にトロイダルコイル12が盛られてなされ、トロイダルコイル12は測定装置と連結される。トロイダルコイル12は被覆された状態で盛られるようになり、図3には被覆されたトロイダルコイル12が図示されている。炭化水素系溶媒にはケロセン(kerosene)が使われることが好ましく、遊離される陽子を十分に含有し、含まれた他の元素は総スピン量子数が0になる物質であれば、その他の異なる溶媒も利用できる。
【0033】
図3に示すように、本発明の全ての方向で測定できる陽子歳差磁力計センサは単純な形態であって、運搬が容易で、何時何処でも測定装置と連結して磁力測定が可能である。
【0034】
[発明の実施のための形態]
図4は本発明の他の実施形態に係る全ての方向で測定できる陽子歳差磁力計センサの概念図であり、図5は適用された一例に対する斜視図である。
【0035】
本発明の全ての方向で測定できる陽子歳差磁力計センサは、前述したトロイダルコイル形態の以外にN(Nは3以上の整数)個のソレノイドコイルを多角形形態で連結して作られることができ、2つのソレノイドコイル(solenoid coil)の場合,垂直に連結して感度脆弱角度(dead band)を縮める形態でなされることもできる。その一例として,図4には4個のソレノイドコイル14を四角形形態(rectagular-type)で連結してなされた概念図が表れており、図5には本実施形態が適用されたセンサの斜視図が表れている。このような場合にも地球磁場を測定し難い脆弱角度をなくすことができる。
【0036】
図6は、従来の陽子歳差磁力計センサと本発明の実施形態が適用された全ての方向で測定できる陽子歳差磁力計センサの測定結果を比較したグラフである。図6で、横軸はセンサの位置変化に従う角度を示すものであり、縦軸はコイルに誘起される電圧の振幅を示し、本グラフは24回巻かれたコイルを使用して角度に従う測定値の相対大きさを図示したものである。
【0037】
図6に示すように、従来のソレノイドコイルを使用すれば、陽子の磁気モーメントが地球磁場の方向と垂直をなす方向では誘起される電圧が大きく表れるが、地球磁場と平行した方向へ移動するほど誘起される電圧の大きさが急激に減少して地球磁場を測定し難い脆弱角度(dead band)が存在する。
【0038】
しかしながら、ソレノイドコイルを垂直(Perpendicular-type)に連結した場合には従来の場合に比べて脆弱角度が格段に減ったことが分かり、3つのソレノイドコイルを三角形形態(Triangular-type)で連結した場合には脆弱角度がより一層減ったことが分かり、トロイダルタイプコイルの場合には脆弱角度が存在しないことが分かる。
【0039】
即ち、N個(N=2、3、4...∞)のコイルを多角形形態で、より多く連結するほど脆弱角度が減ることが分かり、その極限であるトロイダル形態では脆弱角度が存在しないことが実験的に分かる。
【0040】
以上、図面と明細書で最適の実施形態が開示された。ここで、特定の用語が使われたが、これは単に本発明を説明するために使われたものであり、意味の限定や特許請求範囲に記載された本発明の範囲を制限するために使われたのではない。したがって、本技術分野の通常の知識を有する者であれば、これから多様な変形及び均等な他の実施形態が可能であるということを理解するはずである。したがって、本発明の本当の技術的保護範囲は添付された特許請求範囲の技術的思想により定まるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、全ての方向で測定できる陽子歳差磁力計センサを提供することは勿論、今後より良いインピーダンスマッチング及び電力消耗最適化開発過程を経て実践で多様に応用できる源泉技術蓄積に引き続くはずである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルに電流を流した後、前記電流を切って前記コイルに誘起される電流の振動数を測定して外部磁場の強さを算出する陽子歳差磁力計センサであって、
前記コイルは、2つのソレノイドコイル(solenoid coil)が垂直に連結されるか、N(Nは3以上の整数)個のソレノイドコイルが多角形形態で連結されてなることを特徴とする全ての方向で測定できる陽子歳差磁力計センサ。
【請求項2】
前記コイルは、炭化水素系溶媒が詰められた非磁性容器に盛られ、測定装置と連結されることを特徴とする請求項1に記載の全ての方向で測定できる陽子歳差磁力計センサ。
【請求項3】
前記測定装置は、
前記コイルに誘起された電流の振動数を測定するカウンターと、
前記コイルに電流を供給する電流供給源と、
前記コイルに供給する電流をスイッチングするリレーと、
を含んでなることを特徴とする請求項2に記載の全ての方向で測定できる陽子歳差磁力計センサ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−37536(P2012−37536A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254533(P2011−254533)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【分割の表示】特願2010−544216(P2010−544216)の分割
【原出願日】平成20年12月23日(2008.12.23)
【出願人】(506081530)コリア インスティチュート オブ ジオサイエンス アンド ミネラル リソースズ (21)
【Fターム(参考)】