説明

全固体電池

【課題】充放電に伴う負極体積の変化が少ない全固体電池を提供すること。
【解決手段】電池反応の進行により体積が変化しない固体電解質中に、電池反応により体積が変化する負極活物質を分散させることにより、負極の体積変化は固体電解質中で分散された部分が空隙になることで吸収されて負極の体積の変化には関係なくなる。負極は、リチウムイオン伝導性をもつ固体電解質からなる連続相である基材部と、基材部内に分散された金属Liである負極活物質とから構成され、固体電解質は、それぞれ独立して選択される水素化物系固体電解質をもつリチウムイオン伝導性材料である全固体電池である。この構成によれば、負極活物質において電池反応の進行に伴い進行する体積変化は基材部中の空隙により吸収されて負極自身の体積変化には発現しなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主要な構成要素が固体から形成されている全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の全固体電池としては正極、固体電解質、及び負極の3層からなるものが知られている。
【0003】
固体電解質を採用した全固体電池は電解質が固体であるため電解質の移動がない。そのため、電解質の漏洩などの不具合が発生し難く、また、電池筐体などで明確に区画しなくても電解質の混合がなく簡易な筐体を採用することができる。
【0004】
また、固体電解質を採用することにより、負極活物質として金属リチウムなどを採用してもデンドライトの生成が進行せず、高い安全性が実現できる。
【0005】
しかしながら、負極活物質として金属リチウムなどを採用すると、電池反応の進行により金属リチウムの体積が変化する問題があった。そのため、負極と固体電解質との間の接触などを保つために外部から圧力を付与することが一般的であった。
【0006】
この課題を解決するため、従来技術としては弾力がある導電性ポリマーによりポリマー層を形成して活物質の表面を被覆し、その導電性ポリマーの弾力により体積変化を吸収しようとする技術が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−7942号公報
【特許文献2】特開2003−59492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示の技術では以下の問題があった。
【0009】
すなわち、固体電解質は一般に高温で電気伝導度が向上するため、高温で使用する要求がある。そのように高温で使用すると、ポリマー層が容易に劣化する可能性がある。
【0010】
さらに、特許文献2に記載されている通り、活物質粒子の表面を全面的にポリマー層で被覆した場合には、活物質の膨張時に圧縮されて変形した部分のポリマーが収まる空隙がない。そのため、活物質の膨張がそのまま電極の膨張に反映されることになり、電極の膨張を抑制する効果が乏しい。また、活物質粒子の全面がポリマー層で被覆されているので、活物質粒子間の電子伝導のネットワークが不十分となり、高率充放電特性が低下する。
【0011】
本発明は上記実情に鑑み完成したものであり、充放電に伴う負極体積の変化が少ない全固体電池を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者ら上記課題を解決する目的で鋭意検討を行った結果、水素化物系固体電解質及びハロゲン化リチウムからなる群から選択される1種又は2種以上のリチウムイオン伝導性材料からなる固体電解質中に負極活物質を分散させた構成をもつ負極を採用することにより、負極活物質の体積変化を吸収できることを見出した。
【0013】
つまり、電池反応の進行により体積が変化しない固体電解質中に、電池反応により体積が変化する負極活物質を分散させることにより、負極の体積変化は固体電解質中で分散された部分が空隙になることで吸収されて負極の体積の変化には関係なくなる。本発明は上記知見に基づき完成したものである。
【0014】
すなわち、上記課題を解決する請求項1に記載の発明は、正極集電体と前記正極集電体の表面に形成された正極層とをもつ正極と、負極集電体と前記負極集電体の表面に形成された負極層とをもつ負極と、前記正負極間に介設され、リチウムイオン伝導性をもつ第1固体電解質から形成される電解質と、を備えており、
前記負極層は、リチウムイオン伝導性をもつ第2固体電解質からなる連続相である基材部と、前記基材部内に分散され且つ負極活物質から形成される活物質部とから構成され、
前記負極活物質は、金属リチウム,リチウム合金,リチウムの吸蔵と放出が可能な金属材料,リチウムの吸蔵と放出が可能な合金材料、及びリチウムの吸蔵と放出が可能な化合物からなる群から選択される1種又は2種以上の負極材料であり、
前記第1及び第2固体電解質は、それぞれ独立して選択される水素化物系固体電解質をもつリチウムイオン伝導性材料である全固体電池である。
【0015】
この構成によれば、負極活物質において電池反応の進行に伴い進行する体積変化は基材部中の空隙により吸収されて負極自身の体積変化には発現しなくなる。
【0016】
例えば、負極層に含まれる基材部中に空隙がある場合について説明する。負極活物質の体積が大きくなった場合には、その空隙内に負極活物質が侵入することにより体積変化が吸収される。負極活物質の体積が小さくなった場合には、基材部中の空隙の大きさが大きくなることにより負極活物質の体積変化が吸収される。
【0017】
ここで、本発明において、負極活物質が収縮し、空隙が大きくなった場合に負極層の体積が小さくならない、又は、体積の収縮を抑制できるための条件としては、負極層内における基材部を構成する第2固体電解質が連続相を形成しているとの要件を加えている。
【0018】
ここで、「連続相」とは、負極層に含まれる負極活物質の体積について想定される最大の収縮が進行した場合であっても体積変化が生じない(又は、許容できる程度の体積変化しか生じない)ように、第2固体電解質が負極層内で連続して存在していることを意味する。
【0019】
更には「連続相」形成することにより、リチウムイオンの伝導における障壁が小さくなるため電池出力が大きくなる。特にリチウムイオン伝導性の観点からは、「連続相」とは粒界などの界面なく1相である場合はもちろん、互いにしっかりと接触するものが望ましい。特に組成の変化がないか、又は、その変化が少なくリチウムイオンが伝導する際の伝導抵抗が小さいことが望ましい。なお、全体が連続して1つになっていることまでは必須の要件とはしない。
【0020】
更に、負極活物質の間の空隙が全て固体電解質により充填された場合を想定しても、それ以上の負極活物質へのリチウムイオンの移動がない条件での負極層の形成条件が選択されていれば、負極活物質の体積は電池反応の進行により減少する方向にのみ進行することになるため、負極活物質の体積変化は負極活物質の周囲に形成される空隙が大きくなることで吸収されて負極層の体積変化としては現れないことになる。
【0021】
なお、第1及び第2固体電解質は機械的強度に優れ且つリチウムイオン伝導性に優れた材料である。
【0022】
請求項2に記載の発明は、薄膜状の正極集電体と前記正極集電体の一面側にのみ形成された正極層とをもつ正極と、薄膜状の負極集電体と前記負極集電体における前記正極の前記正極層が形成された側に対向する一面側にのみ形成された負極層とをもつ負極と、前記正負極間に介設され、リチウムイオン伝導性をもつ第1固体電解質から形成される電解質と、を備えた単電池を、互いに区画することなく、電気的に直列に複数組接続しており、
前記負極層は、リチウムイオン伝導性をもつ第2固体電解質からなる連続相である基材部と、前記基材部内に分散され且つ負極活物質から形成される活物質部とから構成され、
前記負極活物質は、金属リチウム,リチウム合金,リチウムの吸蔵と放出が可能な金属材料,リチウムの吸蔵と放出が可能な合金材料、及びリチウムの吸蔵と放出が可能な化合物からなる群から選択される1種又は2種以上の負極材料であり、
前記第1及び第2固体電解質は、それぞれ独立して選択される水素化物系固体電解質をもつリチウムイオン伝導性材料である全固体電池である。
【0023】
この構成によれば、上述の効果のほかに、電池筐体を簡易化できる効果を奏する。つまり、固体電解質を採用することにより、異なる単電池間における電解質を介した短絡を防止することが可能になるからである。更に、負極体積の変化を抑制できるため、単電池を直列に並べた場合の電池全体としての体積変化も大幅に抑制することができる。
【0024】
請求項3に記載の発明は、電池の使用状態における前記負極層のLiのモル分率が25モル%以上である。
【0025】
Liのモル分率がこの範囲にあることにより高い充放電容量が実現できると共に、高い出力密度が実現できることが期待される。ここでLiのモル分率とは金属LiとLiBHの混合物に含まれる金属Liのモル数に基づいて算出される値である。
【0026】
請求項4に記載の発明は、前記第1及び/又は第2固体電解質が前記水素化物系固体電解質とMX(Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属;Xはハロゲン原子、NR基(Rは水素又はアルキル基)、及びNR基(Rは水素又はアルキル基)からなる群から選択される1種、aは1または2)で表されるアルカリ金属化合物との混合物又はそれらの反応物である。
【0027】
アルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物の少なくとも1つを水素化物系固体電解質に混合乃至反応させたリチウムイオン伝導性材料はリチウムイオン伝導特性が向上すると共に充分な機械的強度をもつ。
【0028】
請求項5に記載の発明は、前記アルカリ金属化合物が、LiF,LiCl,LiBr,LiI,RbI,及びCsIである。
【0029】
これらのアルカリ金属化合物は水素化物系固体電解質との共存下で高いリチウムイオン伝導性と充分な機械的強度とが両立される。
【0030】
請求項6に記載の発明は、前記アルカリ土類金属化合物が、BeF,BeCl,BeBr,BeI,MgF,MgCl,MgBr,MgI,CaF,CaCl,CaBr,CaI,SrF,SrCl,SrBr,SrI,BaF,BaCl,BaBr,及びBaIである。
これらのアルカリ土類金属化合物は水素化物系固体電解質との共存下で高いリチウムイオン伝導性と充分な機械的強度とが両立される。
【0031】
請求項7に記載の発明は、前記水素化物系固体電解質が、LiBH,LiAlH,LiAlH,LiBH(Et),LiBH(s−Bu),LiNH,LiNH,Li〔OC(CHAlH,Li(OCHAlH,及びLi(OCHである。
【0032】
これらの水素化物系固体電解質はアルカリ金属化合物との共存下で高いリチウムイオン伝導性と充分な機械的強度とが両立される。
【0033】
請求項8に記載の発明は、前記第1及び第2固体電解質は同一のリチウムイオン伝導性材料である。
【0034】
第1及び第2固体電解質を同じ固体電解質から形成することで、負極層と電解質との間のリチウムイオン伝導性が向上できる。特に、両者の間を、上述した「連続相」のように形成することにより、更なるリチウムイオン伝導性を向上できる。
【0035】
請求項9に記載の発明は、前記負極活物質の形態は粒子状である。
【0036】
つまり、負極層において分散されている負極活物質を粒子状にすることにより、その粒子状の負極活物質の間に基材を介設させることになるため、負極活物質の体積変化をその粒子の大きさの範囲に留めることが可能になって、その体積変化が負極層の体積に影響を与え難くできる。
【0037】
請求項10に記載の発明は、前記負極層は前記負極活物質の粒子の集合体からなる前記活物質部に対して、その空隙に前記第2固体電解質を含浸させたものである。
【0038】
特に粒子状の負極活物質の間の空隙に第2固体電解質を充填することにより、負極活物質由来の体積変化を確実に抑制できる。更には第2固体電解質からなる基材部の強度が大きくできると共に、リチウムイオン伝導性も向上できる。
【0039】
請求項11に記載の発明は、前記水素化物系固体電解質がLiBHである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例における金属LiとLiBHとの混合物のSEM写真である。
【図2】実施例におけるLiBHのXRDスペクトルと金属LiとLiBHとの混合物のXRDスペクトルとを示す図である。
【図3】実施例における電気伝導度の測定結果を示す図である。
【図4】実施例における充電容量の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明の全固体電池について実施形態に基づき詳細に説明を行う。
【0042】
(全固体電池)
本発明の全固体電池は正極、負極、そして電解質を有する。本実施形態の全固体電池の形態は特に限定されず、正極、負極、及び電解質をシート状に成形し、それらを重ね合わせた上で巻回する巻回型電池、積層する積層型電池などの通常の形態を採用することができる。正極、負極、電解質の形態は特に限定されないが、それぞれシート状、板状の形態が例示できる。
【0043】
また、本実施形態の全固体電池は全体が固体で構成されているから、電解質が移動するおそれは低く、正極、負極、及び電解質からなる単電池を複数接続して組電池を形成する場合に、1つ1つの単電池を厳密に区画する必要が無い。
【0044】
電解質はリチウムイオン伝導性をもつ第1固体電解質から形成される。電解質は正極及び負極の間に介設される。電解質の厚みは特に限定されない。第1固体電解質は水素化物系固体電解質を有するリチウムイオン伝導性材料である。第1固体電解質は単独の化合物から形成されても良いし、複数の化合物の混合物であっても良い。混合物を採用する場合の形態としては粒子形態として混合したり、分子レベルで混合したり、層状に積層したりすることができる。ここで、水素化物系固体電解質はLiBH,LiAlH,LiAlH,LiBH(Et),LiBH(s−Bu),LiNH,LiNH,Li〔OC(CHAlH,Li(OCHAlH,及びLi(OCHであることが望ましい。特に、LiBHを採用することが望ましい。
【0045】
第1固体電解質は更にアルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物の少なくとも1つを有することが望ましい。水素化物系固体電解質とアルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物とは単純に混合されているか又は反応物を生成しているかのいずれかである。水素化物系固体電解質及びアルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物は機械的な混合操作(混合機、粉砕機などによる混合)により混合することができるのは勿論だが、溶融して混合することが望ましい。リチウムイオン伝導性材料にアルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物を採用する場合におけるアルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物の添加量は、水素化物系固体電解質のモル数を基準として、5%〜100%程度にすることが望ましく、10%〜100%とすることが更に望ましい。アルカリ金属化合物はハロゲン化リチウム(特にLiF,LiCl,LiBr,及びLiI)を採用することが望ましい。
【0046】
負極は負極集電体とその負極集電体の表面に形成された負極層とをもつ。負極集電体は、例えば、銅、ニッケルなどを網、パンチドメタル、フォームメタル、板状、箔状などの形態とすることができる。負極集電体としては電池筐体を兼用することもできる。
【0047】
負極層は、リチウムイオン伝導性をもつ第2固体電解質からなる連続相である基材部と、その基材部内に分散され且つ負極活物質から形成される活物質部とから構成される。そして、Liのモル分率が25モル%以上であることが望ましく、30モル%以上であることがより望ましい。
【0048】
基材部内に活物質部を分散させる方法としては特に限定しないが、活物質部を粒子化して固めた後、第2固体電解質を液状化して加圧充填する方法が挙げられる。また、粒子化した活物質部と液状化した第2固体電解質とを混合して(又は、混合後、液状化し)固化させる方法が挙げられる。更には負極活物質と第2固体電解質との双方を液状化して混合し(又は混合後、液状化し)固化させる方法が挙げられる。更には、第2固体電解質と負極活物質とを固体状(粒子状、塊状など)で混合した後(一般的な混合操作、粉砕操作などにより混合することができる。両者共に粒子状であればそのまま混合することもできる)、一体化(圧縮するなどの操作、加熱温度・時間の調節により両者の界面の一部を溶解して融着させるなど)することができる。なお、基材部が連続相になるかどうかは、基材部を構成する第2固体電解質と、活物質部を構成する負極活物質との混合割合、混合条件を変化させることで調製可能である。
【0049】
活物質部についても連続相であることが電気伝導度向上の観点からは望ましい。基材部内において活物質部が粒子状の形態にて分散される場合における好ましい粒径の範囲としては電池の使用条件にもよるが、体積平均粒径が1μm〜6μm程度にすることが望ましい。また、負極層を形成する際において、第2固体電解質を粒子状の形態で混合する場合には体積平均粒径が2μm〜30μm程度の粒径にして混合することが望ましい。
【0050】
負極層には必要に応じて、導電材、結着材などを添加することも妨げない。導電材は負極活物質間、負極活物質と負極集電体との間の電気伝導度が充分で無い場合に導電性を補う目的で添加することができる。導電材としては炭素材料、リチウムイオンを吸蔵・放出できない金属材料・合金材料などである。結着材は、負極層内に含む構成要素間、構成要素と負極集電体との間をつなぎ止める作用を有する。結着材はとしては、有機系結着材や、無機系結着材を用いることができ、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の化合物を挙げることができる。
【0051】
基材部を構成する第2固体電解質は前述した第1固体電解質と同様の選択肢から選択可能な固体電解質であるため、詳細の説明は省略する。第2固体電解質は第1固体電解質と同じものを採用することも異なるものを採用することもできる。特に同じものを採用することにより電解質との間でのリチウムイオンの伝導性を好ましいものにできる
負極活物質は、金属リチウム,リチウム合金,リチウムの吸蔵と放出が可能な金属材料,リチウムの吸蔵と放出が可能な合金材料(金属のみからなる合金はもちろん、金属と半金属との合金をも含む概念として用いる。その組織には固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物あるいはそれらのうち2種以上が共存するものがある。)、及びリチウムの吸蔵と放出が可能な化合物からなる群から選択される1種又は2種以上の負極材料である。
【0052】
金属材料及び合金材料を構成できる金属元素及び半金属元素としては、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、亜鉛(Zn)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)、銀(Ag)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、ハフニウム(Hf)が例示できる。これらの合金材料あるいは化合物としては、化学式MaMbLi、あるいは化学式MaMcMdで表されるものが挙げられる。これら化学式において、Maはリチウムと合金を形成可能な金属元素及び半金属元素のうちの少なくとも1種を表し、Mbはリチウム及びMa以外の金属元素及び半金属元素のうちの少なくとも1種を表し、Mcは非金属元素の少なくとも1種を表し、MdはMa以外の金属元素及び半金属元素のうちの少なくとも1種を表す。また、f、g、h、s、t、及びuの値はそれぞれf>0、g≧0、h≧0、s>0、t>0、u≧0である。
【0053】
なかでも、短周期型周期表における4B族の金属元素あるいは半金属元素の単体、合金または化合物が好ましく、特に好ましいのはケイ素(Si)あるいはスズ(Sn)、またはこれらの合金あるいは化合物である。これらは結晶質のものでもアモルファスのものでもよい。
【0054】
リチウムを吸蔵・放出可能な負極材料としては、さらに、酸化物、硫化物、あるいはLiNなどのリチウム窒化物などの他の金属化合物が挙げられる。酸化物としては、MnO、V、V13、NiS、MoSなどが挙げられる。その他、比較的電位が卑でリチウムを吸蔵及び放出することが可能な酸化物として、例えば酸化鉄、酸化ルテニウム、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化チタン、酸化スズなどが挙げられる。硫化物としてはNiS、MoSなどが挙げられる。
【0055】
正極は正極集電体とその正極集電体の表面に形成された正極層とをもつ。正極集電体は、例えば、アルミニウム、ステンレスなどの金属を網、パンチドメタル、フォームメタル、板状、箔状などの形態としたもの用いることができる。正極集電体としては電池筐体を兼用することもできる。
【0056】
正極層は、リチウムイオンを充電時には放出し、かつ放電時には吸蔵することができるものであれば充分であり、その材料構成で特に限定されるものではなく、公知の材料構成のものを用いることができる。特に、正極活物質、導電材及び結着材を混合して得られた合材から形成されることが好ましい。この合材を前述の正極集電体の表面に塗布することで正極層を形成する。
【0057】
正極活物質には、その活物質の種類で特に限定されるものではなく、公知の活物質を用いることができる。例えば、TiS、TiS、MoS、FeS、Li(1−x)MnO、Li(1−x)Mn、Li(1−x)CoO、Li(1−x)NiO、V等の化合物をあげることができる。また、フッ化物ペロブスカイト(MF:MはFe,V,Ti,Co,及びMnのうちの何れか)も採用できる。ここで、xは0〜1を示す。また、これらの化合物の混合物を正極活物質として用いてもよい。さらに、Li1−xMn2+x、LiNi1−xCoなどのようにLiMn、LiNiOの遷移金属元素の一部を少なくとも1種類以上の他の遷移金属元素あるいはLiで置き換えたものを正極活物質としてもよい。
【0058】
正極活物質としては、LiMn、LiCoO、LiNiO等のリチウム及び遷移金属の複合酸化物がより好ましい。すなわち、電子とリチウムイオンの拡散性能に優れるなど活物質としての性能に優れているため、高い充放電効率と良好なサイクル特性とを有する電池が得られる。
【0059】
結着材は、活物質粒子をつなぎ止める作用を有する。結着材としては、有機系結着材や、無機系結着材を用いることができ、例えば、PVDF、ポリ塩化ビニリデン、PTFE、CMC等の化合物を挙げることができる。
【0060】
導電材は、正極の電気伝導性を確保する作用を有する。導電材としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛等の炭素物質の1種または2種以上の混合したものをあげることができる。また、活物質の表面をカーボンコートすることもできる。カーボンコートする方法としては特に限定しないが、高分子化合物(ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニルなど)などの炭素源と共に活物質を混合した後、焼成して炭化することにより、表面をカーボンコートすることもできる。焼成後は適宜粉砕操作などを行うこともできる。
【実施例】
【0061】
本発明の全固体電池について以下の実施例に基づき更に詳細に説明を行う。
(電気伝導度の測定)
・試験試料の製造
水素化物系固体電解質としてのLiBHと、負極活物質としての金属Liとを用いて負極層を構成できる材料を調製した。両者の混合比は図1に示すリチウムモル分率(モル%Li)になるように複数の試料を調製した。リチウムモル分率の算出は前述した通りであり、 金属LiとLiBHの混合物に含まれる金属Liのモル数に基づいて算出する。
【0062】
具体的な製造方法としては金属LiとLiBHとを所定の混合比で混合した。混合は物理的に行った。その後、圧縮してペレット化した。ペレットの大きさは直径10mm、厚み0.093mmとした。圧縮前の混合物についてSEMにより観察した。SEMでは二次電子像と反射電子像とを測定した。反射電子像は原子番号が大きい原子の存在比が高い部位の方がより明るく観察されるため、LiBHの分布が明らかになることを期待した。
【0063】
結果を図1に示す。図1より明らかなように、二次電子像も反射電子像も大差なく金属Liの周囲に満遍なくLiBHが存在することが示唆された。
【0064】
また、LiBH、混合物のそれぞれについてXRD測定を行った。結果を図2に示す。図2より明らかなように、両者のXRDスペクトルを比較しても生成したピーク、消失したピークともに発見できず、混合物中においては金属LiとLiBHとは単純に混合されているのみで両者の間に結晶構造が変化するほどの相互作用は進行していないことが明らかになった。
・測定及び結果
このペレットをプラチナ製の電極にて挟持して電気伝導度を測定した。電気伝導度の測定はSI−1260インピーダンスアナライザ(ソーラトロン社製)を用いて交流インピーダンス法により行った。
【0065】
結果を図3に示す。図3より明らかなように、Liのモル分率が20モル%付近(25モル%以上)でLiモル分率が上昇するとイオン伝導から電子伝導に移行していることが明らかになった。すなわち、Liのモル分率が20モル%を超えると電子伝導が優勢になることが明らかになった。
(充放電特性の測定)
・試験電池の作製
水素化物系固体電解質としてのLiBHと、負極活物質としての金属Liとを用いて負極層を構成できる材料を調製した。両者の混合比はリチウムモル分率(モル%Li)が11モル%、25モル%、そして75モル%になるように調製した。
【0066】
具体的な製造方法としては金属LiとLiBHとを所定の混合比で混合した。混合は物理的に行った。その後、圧縮してペレット化し負極層(負極ペレット)とした。ペレットの大きさは直径10mm、厚み0.093mmとした。
【0067】
更に、第1固体電解質としてのLiBHからなるペレット(直径10mm、厚み0.76mm)を作製して電解質とした。正極活物質としてのSnCoFeのペレット(直径10mm、厚み0.052mm)も作製した。
【0068】
製造した、負極層、電解質、正極活物質のそれぞれのペレットをこの順に積層し、両側から電極(負極集電体及び正極集電体に相当)により挟持して試験電池とした。
・測定及び結果
この試験電池について電流密度0.13mA/cmになるように、電圧範囲0.01V〜1.5VまででCC−CV充電、CC放電を行い充放電容量を測定した。測定雰囲気は120℃とした。
【0069】
測定した充電容量を図4に示す。図4より明らかなように、Liのモル分率が25モル%程度を超えると充電容量が飛躍的に大きくなることが分かった。特にLiのモル分率が30モル%を超えた後は充電容量の向上は飽和した。
(充放電時の体積変化の検討)
前項で作製した試験電池のうち、負極Liのモル分率が50モル%の試験電池(試験例1の電池)と、負極活物質として金属Liの円板(直径10mm、厚み0.093mm)を採用した試験電池(試験例2の電池)について前項と同様に製造し、充放電試験を行った。その時の負極層のうち、正極容量に相当する部分の厚みを測定した。測定結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
表1より明らかなように、負極層のペレットとして金属リチウムとLiBHとのコンポジットを採用した試験例1の電池では充放電に伴う直径、厚み、体積などの変化は認められなかったのに対して、負極層のペレットとして金属Liを採用した試験例2の電池では充放電に伴い直径、厚み、体積などが大きく変化することが明らかになった。特に試験例2の電池においては体積が約20分の1程度にまで変化しており、充放電の繰り返し数を増加させていくと電極の耐久性に不安があった。
【0072】
つまり、本発明の全固体電池の具現化の一例である試験例1の電池は充放電を繰り返してもその大きさが安定しており、電池の使用時にも圧力を印加し続けるなどの煩雑な操作を省略できることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体と前記正極集電体の表面に形成された正極層とをもつ正極と、
負極集電体と前記負極集電体の表面に形成された負極層とをもつ負極と、
前記正負極間に介設され、リチウムイオン伝導性をもつ第1固体電解質から形成される電解質と、
を備えており、
前記負極層は、リチウムイオン伝導性をもつ第2固体電解質からなる連続相である基材部と、前記基材部内に分散され且つ負極活物質から形成される活物質部とから構成され、
前記負極活物質は、金属リチウム,リチウム合金,リチウムの吸蔵と放出が可能な金属材料,リチウムの吸蔵と放出が可能な合金材料、及びリチウムの吸蔵と放出が可能な化合物からなる群から選択される1種又は2種以上の負極材料であり、
前記第1及び第2固体電解質は、それぞれ独立して選択される水素化物系固体電解質をもつリチウムイオン伝導性材料である、
全固体電池。
【請求項2】
薄膜状の正極集電体と前記正極集電体の一面側にのみ形成された正極層とをもつ正極と、
薄膜状の負極集電体と前記負極集電体における前記正極の前記正極層が形成された側に対向する一面側にのみ形成された負極層とをもつ負極と、
前記正負極間に介設され、リチウムイオン伝導性をもつ第1固体電解質から形成される電解質と、
を備えた単電池を、互いに区画することなく、電気的に直列に複数組接続しており、
前記負極層は、リチウムイオン伝導性をもつ第2固体電解質からなる連続相である基材部と、前記基材部内に分散され且つ負極活物質から形成される活物質部とから構成され、
前記負極活物質は、金属リチウム,リチウム合金,リチウムの吸蔵と放出が可能な金属材料,リチウムの吸蔵と放出が可能な合金材料、及びリチウムの吸蔵と放出が可能な化合物からなる群から選択される1種又は2種以上の負極材料であり、
前記第1及び第2固体電解質は、それぞれ独立して選択される水素化物系固体電解質をもつリチウムイオン伝導性材料である、
全固体電池。
【請求項3】
電池の使用状態における前記負極層のLiのモル分率が25モル%以上である請求項1又は2に記載の全固体電池。
【請求項4】
前記第1及び/又は第2固体電解質は前記水素化物系固体電解質とMX(Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属;Xはハロゲン原子、NR基(Rは水素又はアルキル基)、及びNR基(Rは水素又はアルキル基)からなる群から選択される1種、aは1または2)で表されるアルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物との混合物又はそれらの反応物である請求項1〜3の何れか1項に記載の全固体電池。
【請求項5】
前記アルカリ金属化合物は、LiF,LiCl,LiBr,LiI,RbI,CsIである請求項4に記載の全固体電池。
【請求項6】
前記アルカリ土類金属化合物は、BeF,BeCl,BeBr,BeI,MgF,MgCl,MgBr,MgI,CaF,CaCl,CaBr,CaI,SrF,SrCl,SrBr,SrI,BaF,BaCl,BaBr,BaIである請求項4に記載の全固体電池。
【請求項7】
前記水素化物系固体電解質は、LiBH,LiAlH,LiAlH,LiBH(Et),LiBH(s−Bu),LiNH,LiNH,Li〔OC(CHAlH,Li(OCHAlH,及びLi(OCHである請求項1〜6の何れか1項に記載の全固体電池。
【請求項8】
前記第1及び第2固体電解質は同一のリチウムイオン伝導性材料である請求項1〜7の何れか1項に記載の全固体電池。
【請求項9】
前記負極活物質の形態は粒子状である請求項1〜8の何れか1項に記載の全固体電池。
【請求項10】
前記負極層は前記負極活物質の粒子の集合体からなる前記活物質部に対して、その空隙に前記第2固体電解質を含浸させたものである請求項9に記載の全固体電池。
【請求項11】
前記水素化物系固体電解質はLiBHを含む請求項1〜10の何れか1項に記載の全固体電池。

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−209104(P2012−209104A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73266(P2011−73266)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】