説明

六価クロム溶出抑制方法及び火力発電システム

【課題】多額の設備投資が不要で、かつ、薬剤購入費の低コスト化を図ることが可能な六価クロム溶出抑制方法及び六価クロムの溶出を抑制することが可能な火力発電システムを提供すること。
【解決手段】六価クロム溶出抑制方法は、燃料を燃焼させる燃焼ボイラ142と、燃焼ボイラ142の下流に設けられ石炭の燃焼によって発生する排ガス中の石炭灰を集塵する集塵装置164と、を備えた火力発電システムにおいて、石炭灰からの六価クロムの溶出を抑制する方法であって、排ガス中の硫黄酸化物と、カルシウム化合物と、を低酸素雰囲気下で反応させることによって亜硫酸カルシウムを生成する亜硫酸カルシウム生成工程S40と、この亜硫酸カルシウム生成工程S40にて生成された亜硫酸カルシウムと、集塵装置164によって集塵されたフライアッシュと、を混合する灰・溶出抑制剤混合工程S50と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、六価クロム溶出抑制方法及び火力発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電システムの一例である石炭火力発電システムにおいて石炭を燃焼させる方法としては種々の方式があるが、中でも、石炭を微粉砕した粒子を燃焼ボイラ(石炭ボイラ)の火炉内に吹き込んで燃焼させる、いわゆる微粉炭燃焼方式が主に採用されている。そして、石炭燃焼後の残渣となる石炭灰は、資源の有効利用の観点から、コンクリートや土壌改良材等の土木建築材料として一部が使用されているが、余剰分については埋め立て処分されている。
【0003】
ところで、燃料となる石炭は炭素以外にも、硫黄化合物や窒素化合物を含み、更には、ホウ素、フッ素、セレン、ヒ素、六価クロム等の有害な元素を微量ながら含んでいる(以下、上記有害な元素を「有害微量元素」という)。このため、環境への配慮から、石炭灰からの有害微量元素の溶出について、その許容濃度が法律で規定されている。
【0004】
特に、有害微量元素のうち六価クロムは、人体に多大な悪影響を与え、過去においては大規模な土壌汚染の原因物資となっている。このため、石炭灰からの六価クロム(以下、「六価クロム」という場合は、六価クロムの化合物を含む)の溶出について厳しく規制されている。
【0005】
したがって、石炭灰に含まれている六価クロムの溶出濃度を規制値以下に低減するための技術が検討されている。
【0006】
例えば、亜硫酸ソーダ、重亜硫酸ソーダ、及び、亜硫酸カルシウムのいずれか一つの水溶液を含浸させた人工ゼオライトをセメントに添加して、セメントから六価クロムの溶出を抑制するための溶出抑制剤が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−112706号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の従来技術で使用する亜硫酸ソーダ、重亜硫酸ソーダ、及び、亜硫酸カルシウムの薬剤の購入コストは高く、火力発電所において、実際にこれらの薬剤を使用して六価クロムの溶出の抑制を図ることは困難である。また、上記薬剤の製造設備を設け、薬剤の購入コストの低減を図ろうとしても、当然ながら、製造設備の設置のためには多額な設備投資が必要となる。
【0008】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、多額の設備投資が不要で、かつ、薬剤購入費の低コスト化を図ることが可能な六価クロム溶出抑制方法及び六価クロムの溶出を抑制することが可能な火力発電システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、亜硫酸カルシウム及び燃焼灰を混合することにより、燃焼灰からの六価クロムの溶出を抑制することが可能であることを見出した。
【0010】
(1) 燃料を燃焼させる燃焼ボイラと、前記燃焼ボイラの下流に設けられ前記燃料の燃焼によって発生する排ガス中の燃焼灰を集塵する集塵装置と、を備えた火力発電システムにおいて、前記燃焼灰からの六価クロムの溶出を抑制する六価クロム溶出抑制方法であって、前記排ガス中の硫黄酸化物と、生石灰、石灰石、消石灰からなる群より選ばれる少なくとも一種以上を含むカルシウム化合物と、を低酸素雰囲気下で反応させることによって亜硫酸カルシウムを生成する亜硫酸カルシウム生成工程と、前記亜硫酸カルシウム生成工程にて生成された亜硫酸カルシウムと、前記集塵装置によって集塵された燃焼灰と、を混合する混合工程と、を有する六価クロム溶出抑制方法。
【0011】
(1)の発明によれば、火力発電システムにおける燃料の燃焼によって発生した排ガス中の硫黄酸化物(亜硫酸ガス(SO))を原料に亜硫酸カルシウムを生成している。硫黄酸化物は、排ガスに含まれるものであるため、硫黄酸化物の製造設備は不要である。また、亜硫酸カルシウムは火力発電システムであれば通常備えている既存の脱硫装置を改良することによって製造可能である。更に、薬剤費は比較的安価で容易に入手可能な生石灰、石灰石、消石灰からなる群より選ばれる少なくとも一種以上を含むカルシウム化合物の購入費用のみであるため、薬剤の購入コストを低く抑えることが可能である。
【0012】
以上に示しように、(1)の発明によれば、火力発電システムにおいて有害物質として排出規制がされている硫黄酸化物を有効利用し、多額な設備投資を必要とせず、薬剤購入費の低コスト化を図りながら燃焼灰からの六価クロムの溶出を抑制することが可能である。
【0013】
(2) 前記火力発電システムは微粉炭燃焼方式の発電システムである(1)記載の六価クロム溶出抑制方法。
【0014】
(3) 前記火力発電システムは重原油燃焼方式の発電システムである(1)記載の六価クロム溶出抑制方法。
【0015】
(2)又は(3)の発明は、火力発電システムを具体的に規定したものである。(2)又は(3)の発明において、火力発電システムが、石炭火力発電システムの場合、固定層燃焼方式、流動層燃焼方式、微粉炭燃焼方式等の発電システムがあるが、微粉炭燃焼方式の発電システムが好ましい。また、火力発電システムが、油火力発電システムの場合、重原油燃焼方式、原油燃焼方式等の発電システムがあるが、いずれの発電システムであってもよい。なお、他の火力発電システムとして、有機性廃棄物燃焼方式、廃棄物固形燃料(RDF)燃焼方式等の発電システムにも適用可能である。
【0016】
(4) 燃料を燃焼させる燃焼ボイラと、前記燃焼ボイラの下流に設けられ前記燃料の燃焼により発生する排ガス中の燃焼灰を集塵する集塵装置と、を備え、前記燃焼灰からの六価クロムの溶出を抑制可能な火力発電システムであって、前記排ガス中の硫黄酸化物と、生石灰、石灰石、消石灰からなる群より選ばれる少なくとも一種以上を含むカルシウム化合物と、を低酸素雰囲気下で反応させることにより亜硫酸カルシウムを生成する亜硫酸カルシウム生成装置と、前記亜硫酸カルシウム生成装置によって生成された亜硫酸カルシウムと、前記集塵装置によって集塵された燃焼灰と、を混合する混合装置と、を備える火力発電システム。
【0017】
(4)の発明は、(1)の発明を火力発電システムとして捉えたものである。(1)の発明と同じ効果を奏する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、火力発電システムにおいて有害物質として排出規制がされている硫黄酸化物を有効利用し、多額な設備投資を必要とせず、薬剤購入費の低コスト化を図りながら燃焼灰からの六価クロムの溶出を抑制することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の一例を示す実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0020】
<A:石炭火力発電システムの構成>
図1は、火力発電システムの一例である石炭火力発電システム10を示す概略説明図である。ここで、図1に示すように、石炭火力発電システム10は、石炭供給・微粉炭生成部12と、微粉炭を燃焼する微粉炭燃焼部14と、微粉炭の燃焼により生成された排ガスを処理する排ガス処理部16と、亜硫酸カルシウム生成部18と、灰・溶出抑制剤混合部20と、排ガス放出部22と、を備える。
【0021】
なお、本実施形態において、本発明における火力発電システムは、微粉炭燃焼方式の発電システムであるが、他の火力発電システムであってもよく、具体的には、重油若しくは原油を使用する重原油燃焼方式の発電システムであってもよい。
【0022】
<A−1:石炭供給・微粉炭生成部>
石炭供給・微粉炭生成部12は、石炭サイロ(図示しない)から運炭設備によって供給された石炭を貯蔵する石炭バンカ122と、微粉炭機124と、を備える。微粉炭機124は、石炭バンカ122から図示しない給炭機を介して供給された石炭を、微細な粒度に粉砕して微粉炭を形成する。そして、この微粉炭と空気とを混合することにより、微粉炭を予熱及び乾燥させ、燃焼を容易にする。形成された微粉炭には、エアーが吹きつけられて、これにより、微粉炭機124は、微粉炭燃焼部14に微粉炭を供給する。
【0023】
<A−2:微粉炭燃焼部>
微粉炭燃焼部14は燃料の一例である石炭を燃焼させる燃焼ボイラ142を備える。燃焼ボイラ142は、微粉炭機124から供給された微粉炭を、強制的に供給された空気とともに燃焼する。微粉炭を燃焼することによって、燃焼灰の一例であるクリンカアッシュ、シンダアッシュ、及びフライアッシュ等の石炭灰が生成されるとともに、二酸化硫黄(亜硫酸ガス、SO)及び三酸化硫黄(SO)等の硫黄酸化物(SOx)、及び、窒素酸化物(NOx)等の排ガスが発生する。燃焼ボイラ142は、排気通路を介して排ガス処理部16の脱硝装置162に接続されている。
【0024】
ここで、クリンカアッシュは燃焼ボイラ142の炉底へ落下し回収されたもので、ボトムアッシュとも称される。クリンカアッシュは多孔質であり、排水性(透水性)、通気性を有する。シンダアッシュとは、燃焼ボイラ142の排ガスが節炭器や空気予熱器の近傍を通過する際に、落下する燃焼灰である。また、フライアッシュは残りの煤塵であり、後述する集塵装置164で捕集(集塵)される。
【0025】
<A−3:排ガス処理部>
排ガス処理部16は、脱硝装置162と、燃焼ボイラ142の下流に設けられ石炭の燃焼により発生する排ガス中のフライアッシュ(煤塵)を集塵する集塵装置164と、脱硫装置166、を備える。
【0026】
排気通路上に配置される脱硝装置162は、排ガス中の窒素酸化物を除去するものである。即ち、比較的高温(300℃〜400℃)の排ガス中に還元剤としてアンモニアガスを注入し、脱硝触媒との作用により排ガス中の窒素酸化物を無害な窒素と水蒸気に分解する、いわゆる乾式アンモニア接触還元法が好適に用いられる。そして、排ガスは、図示しない空気予熱器(AH)で燃焼用の空気と熱交換することで冷却され、図示しないガスヒータによって熱回収された後に集塵装置164へ送られる。
【0027】
集塵装置164は、排ガス中の石炭灰のうちフライアッシュを捕集する装置である。集塵装置164は複数段設けられていることが好ましい。この集塵装置164により捕集されたフライアッシュは、フライアッシュ回収装置174に回収される。集塵装置164を通過した排ガスは、脱硫装置166へ導かれる。
【0028】
なお、集塵装置164としては、フライアッシュを捕集する装置であればどのようなものでもよく、具体的には、フライアッシュを電極で集塵する電気集塵装置(EP)、バグフィルターのようなろ過集塵装置、フライアッシュの重力による自然沈降によって分離する重力集塵装置、フライアッシュに作用する慣性力、遠心力、静電気力等の力や粒子群の拡散運動等により障害物上に分離する障害物形式集塵装置、遠心力集塵装置等であってもよい。
【0029】
脱硫装置166は、排ガス中の硫黄酸化物を除去するものである。即ち、脱硫装置166は、排ガスに石灰石、生石灰、消石灰、ドロマイト等と水との混合液(石灰スラリー)を吹き付けることにより、排ガスに含まれる硫黄酸化物を混合液に吸収、酸化させて石こうスラリーを生成させる。脱硫装置166は、この石こうスラリーを脱水処理することで石こう(硫酸カルシウム)を生成させる。この脱硫装置166から排出される脱硫排水は、一部循環され、その他は排水処理設備に送られる。生成した石こうは石こう倉庫に送られる。
【0030】
また、石炭火力発電システム10は、石灰石サイロ172と、フライアッシュ回収装置174と、を備える。
【0031】
石灰石サイロ172は、貯蔵した生石灰、石灰石、消石灰からなる群より選ばれる少なくとも一種以上を含むカルシウム化合物を、脱硫装置166、及び、後述する亜硫酸カルシウム生成部18に送る装置である。
【0032】
フライアッシュ回収装置174は、集塵装置164によって集塵されたフライアッシュを回収し、更に、回収されたフライアッシュを後述する灰・溶出抑制剤混合部20に送る装置である。なお、フライアッシュ回収装置174を省略するようにしてもよい。即ち、集塵装置164によって集塵されたフライアッシュは、直接、灰・溶出抑制剤混合部20に送られるようにしてもよい。
【0033】
<A−4:亜硫酸カルシウム生成部>
亜硫酸カルシウム生成部18は亜硫酸カルシウム生成装置182を備え、排ガス処理部16を通過した排ガスの一部がここに導かれる。式(1)に示すように、亜硫酸カルシウム生成装置182は、排ガス中の亜硫酸ガスと、生石灰、石灰石、消石灰からなる群より選ばれる少なくとも一種以上を含むカルシウム化合物と、を低酸素雰囲気下で反応させることにより溶出抑制剤としての亜硫酸カルシウム(亜硫酸石こう、CaSO・1/2HO)を生成する装置である。
【0034】
【化1】

【0035】
即ち、亜硫酸カルシウム生成装置182は、脱硫装置166から排出された排ガス中の亜硫酸ガスを、上記カルシウム化合物と水との混合液(カルシウム化合物のスラリー)内で反応させる設備である。具体的には、亜硫酸カルシウム生成装置182は、カルシウム化合物のスラリーを蓄える水槽を有し、この水槽内に排ガスを気泡分散させる。生成された亜硫酸カルシウムは溶出抑制剤として灰・溶出抑制剤混合部20に送られる。亜硫酸カルシウム生成装置182で処理された空気は排ガス放出部22に送られる。
【0036】
なお、本実施形態において、亜硫酸カルシウム生成装置182はカルシウム化合物のスラリーを蓄える水槽に導かれた排ガスを気泡分散させる気泡分散方式を採用しているが、これに限定されない。即ち、亜硫酸カルシウム生成装置は、排ガス中の亜硫酸ガスとカルシウム化合物とを低酸素雰囲気下で反応させることができるものであれば、どのようなものでもよい。
【0037】
<A−5:灰・溶出抑制剤混合部>
灰・溶出抑制剤混合部20は混合装置202を備える。混合装置202は、亜硫酸カルシウム生成装置182によって生成された亜硫酸カルシウムと、集塵装置164によって集塵されたフライアッシュと、を混合(混練)する装置である。具体的には、混合装置202は、フライアッシュに亜硫酸カルシウム、更には、水が供給されて、これらを混練する混練機を有する。
【0038】
なお、混合装置202は、フライアッシュと亜硫酸カルシウムとを混合する混練機を有しているが、フライアッシュ(燃焼灰)と亜硫酸カルシウムとを十分に混合させる機能を有するものであれば、どのようなものであってもよい。
【0039】
<A−6:排ガス放出部>
排ガス放出部22は煙突222を備える。煙突222は、排ガス処理部16及び/又は亜硫酸カルシウム生成部18によって処理された排ガスを大気に放出するものである。
【0040】
<B:本発明の六価クロム溶出抑制方法>
本発明の六価クロム溶出抑制方法は、燃料を燃焼させる燃焼ボイラと、前記燃焼ボイラの下流に設けられ前記燃料の燃焼によって発生する排ガス中の燃焼灰を集塵する集塵装置と、を備えた火力発電システムにおいて、前記燃焼灰からの六価クロムの溶出を抑制する六価クロム溶出抑制方法であって、前記排ガス中の硫黄酸化物と、生石灰、石灰石、消石灰からなる群より選ばれる少なくとも一種以上を含むカルシウム化合物と、を低酸素雰囲気下で反応させることによって亜硫酸カルシウムを生成する亜硫酸カルシウム生成工程と、前記亜硫酸カルシウム生成工程にて生成された亜硫酸カルシウムと、前記集塵装置によって集塵された前記燃焼灰と、を混合する灰・溶出抑制剤混合工程と、を有する方法であるが、この方法を、上記石炭火力発電システム10を用いて説明する。本発明の六価クロム溶出抑制方法は、亜硫酸カルシウム生成工程、及び、灰・溶出抑制剤混合工程で行われる。
【0041】
石炭火力発電システム10の各工程は、供給された石炭を粉砕して微粉炭を生成する石炭供給・微粉炭生成工程S10と、この微粉炭を燃焼する微粉炭燃焼工程S20と、微粉炭の燃焼によって発生する排ガスの処理をする排ガス処理工程S30と、前記排ガス中の硫黄酸化物と、生石灰、石灰石、消石灰からなる群より選ばれる少なくとも一種以上を含むカルシウム化合物と、を低酸素雰囲気下で反応させることによって亜硫酸カルシウムを生成する亜硫酸カルシウム生成工程S40と、前記亜硫酸カルシウム生成工程S40によって生成された亜硫酸カルシウムと、前記集塵装置によって集塵された前記燃焼灰と、を混合する灰・溶出抑制剤混合工程S50と、処理された排ガスを大気に放出する排ガス放出工程S60と、を含み、これら各工程は、それぞれ、上述の石炭火力発電システム10の石炭供給・微粉炭生成部12、微粉炭燃焼部14、及び排ガス処理部16、亜硫酸カルシウム生成部18、灰・溶出抑制剤混合部20、排ガス放出部22、において行われる。そして、本発明の特徴である亜硫酸カルシウム生成工程S40及び灰・溶出抑制剤混合工程S50は、上記の亜硫酸カルシウム生成部18、及び、灰・溶出抑制剤混合部20で行われる。
【0042】
<石炭供給・微粉炭生成工程>
まず、石炭供給・微粉炭生成工程S10では、石炭バンカ122に貯蔵された石炭が、図示しない給炭機により、微粉炭機124に供給される。なお、この微粉炭機124に供給される石炭は、具体的には瀝青炭、亜瀝青炭、又は、褐炭等であるが、これらの石炭に限定されるものではなく微粉炭燃焼が行える石炭であればよい。供給された石炭は微粉炭機124によって粉砕され、これにより、微粉炭が生成される。生成された微粉炭は、燃焼ボイラ142に供給される。このとき、この微粉炭生成工程で粉状に形成された微粉炭の平均の粒度は、微粉炭燃焼で一般的に用いられる粒径範囲であればよく、一般的には、74μmアンダー80wt%以上の粉砕度である。なお、この範囲は燃焼灰が添加された場合にも適用できる。
【0043】
<微粉炭燃焼工程>
次に、微粉炭燃焼工程S20では、微粉炭機124で生成された微粉炭が、燃焼ボイラ142により燃焼される。このときの燃焼温度は1300℃から1500℃に及ぶ。燃焼によって生成される石炭灰のうち、クリンカアッシュは燃焼ボイラ142の下部で排出され、フライアッシュは排ガスとともに、次工程に送られる。フライアッシュは、その後、後段の脱硝装置162、集塵装置164に送られる。この微粉炭燃焼工程で生成される石炭灰は、通常、その平均の粒度が1μmから100μmの範囲内の粉末状である。
【0044】
<排ガス処理工程>
排ガス処理工程S30は、微粉炭の燃焼によって発生した排ガスが脱硝装置162、集塵装置164、及び、脱硫装置166に順次送られ、処理される工程である。脱硫装置166で処理された排ガスは、亜硫酸カルシウム生成装置182に送られる。
【0045】
<亜硫酸カルシウム生成工程>
亜硫酸カルシウム生成工程S40は、排ガス中の硫黄酸化物と、生石灰、石灰石、消石灰からなる群より選ばれる少なくとも一種以上を含むカルシウム化合物と、を低酸素雰囲気下で反応させることによって亜硫酸カルシウムを生成する工程である。好ましくは、亜硫酸カルシウム生成工程では、亜硫酸カルシウム生成装置182によって、脱硫装置166から排出された排ガスを、生石灰、石灰石、消石灰からなる群より選ばれる少なくとも一種以上を含むカルシウム化合物と水との混合液(カルシウム化合物のスラリー)に気泡分散させることにより亜硫酸カルシウムが生成される。
【0046】
上記したように、本発明のカルシウム化合物は、石灰石サイロ172から送られた、生石灰、石灰石、消石灰からなる群より選ばれる少なくとも一種以上を含むカルシウム化合物に水を加えてスラリーとしたものであることが好ましい。本発明のカルシウム化合物は、ドロマイトが含まれるものであってもよい。生成された亜硫酸カルシウムは、混合装置202に送られる。
【0047】
また、本実施形態において、亜硫酸カルシウム生成工程では、排ガス処理工程S30で処理された排ガス中の硫黄酸化物と、カルシウム化合物のスラリーと、を反応させることによって亜硫酸カルシウムを生成しているが、排ガス処理工程S30で処理される前の排ガス、即ち、脱硫装置166で処理される前の硫黄酸化物と、カルシウム化合物のスラリーと、を反応させることによって亜硫酸カルシウムを生成するようにしてもよい。
【0048】
<灰・溶出抑制剤混合工程>
灰・溶出抑制剤混合工程S50は、亜硫酸カルシウム生成工程S40によって生成された亜硫酸カルシウムと、集塵装置164によって集塵されたフライアッシュと、を混合する工程である。
【0049】
具体的には、灰・溶出抑制剤混合工程S50は、混合装置202にフライアッシュ、水を投入し、ほぼ同時に亜硫酸カルシウムを添加して、混合(混練)する工程である。亜硫酸カルシウムが添加されたフライアッシュは、石炭灰置き場に送られる。
【0050】
なお、混合装置202へのフライアッシュ及び亜硫酸カルシウムの投入時期は、両者が確実に混合される時期であればよく、例えば、フライアッシュ及び亜硫酸カルシウムを同時に混合装置202に投入するようにしてもよい。水の投入は適宜の量、タイミングでよく、更には、水を投入しなくてもよい。
【0051】
還元作用を有する亜硫酸カルシウムとフライアッシュとを混合させると、フライアッシュ中の六価クロム(Cr6+)が還元されて三価クロム(Cr3+)が生成する。このため、有害な六価クロムの溶出を抑制することが可能である。
【0052】
フライアッシュ100質量部に対して、亜硫酸カルシウムを0.1質量部以上100質量部以下を投入することが好ましい。亜硫酸カルシウムの投入量が0.1質量部未満の場合は、六価クロムを三価クロムに十分に還元することができないため、フライアッシュから六価クロムの溶出を防止することができない。亜硫酸カルシウムの投入量が100質量部を超えても、三価クロムの還元効果に大きな向上は認めらない。亜硫酸カルシウムの投入量の上記上限としては、50質量部が更に好ましく、10質量部が特に好ましい。
【0053】
上記に示したように、石炭火力発電システム10では、石炭の燃焼によって発生した排ガス中の硫黄酸化物(亜硫酸ガス(SO))を原料に亜硫酸カルシウムを生成している。硫黄酸化物は、排ガスに含まれるものであるため、石炭火力発電システム10では、硫黄酸化物の製造設備は不要である。また、亜硫酸カルシウムは石炭火力発電システム10であれば通常備えている既存の脱硫装置166を改良することによっても製造可能である。更に、薬剤費は比較的安価で容易に入手可能な生石灰、石灰石、消石灰からなる群より選ばれる少なくとも一種以上を含むカルシウム化合物の購入費用のみであるため、薬剤の購入コストを低く抑えることが可能である。
【0054】
以上に示しように、本発明によれば、石炭火力発電システム10において有害物質として排出規制がされている硫黄酸化物を有効利用し、多額な設備投資を必要とせず、薬剤購入費の低コスト化を図りながら六価クロムの溶出を抑制することが可能である。
【0055】
なお、本発明においては、亜硫酸カルシウムと混合する燃焼灰として、フライアッシュを挙げたが、これに限定されない。即ち、亜硫酸カルシウムと混合する燃焼灰はクリンカアッシュ、シンダアッシュであってもよい。また、火力発電システムが重原油燃焼方式システムの場合、燃焼灰とは重油若しくは原油の燃焼残渣である重原油灰をいう。火力発電システムが有機性廃棄物燃焼方式システムの場合、燃焼灰とは有機性廃棄物の燃焼残渣をいう。有機性廃棄物の一例としては、間伐材をチップ化したもの等が挙げられる。
【0056】
<排ガス放出工程>
排ガス放出工程S60は、排ガス処理工程S30で処理され、亜硫酸カルシウム生成工程S40を経由した排ガスを煙突222から大気中に放出する工程である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、火力発電所等の燃焼ボイラから排出される燃焼灰の有害性(環境負荷)を低減できることから、燃焼灰のさらなる有効利用及び安全な廃棄処理を可能とする技術である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一実施形態を示す石炭火力発電システムを示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0059】
10 石炭火力発電システム
12 石炭供給・微粉炭生成部
14 微粉炭燃焼部
16 排ガス処理部
18 亜硫酸カルシウム生成部
20 灰・溶出抑制剤混合部
22 排ガス放出部
122 石炭バンカ
124 微粉炭機
142 燃焼ボイラ
162 脱硝装置
164 集塵装置
166 脱硫装置
182 亜硫酸カルシウム生成装置
202 混合装置
222 煙突
S10 石炭供給・微粉炭生成工程
S20 微粉炭燃焼工程
S30 排ガス処理工程
S40 亜硫酸カルシウム生成工程
S50 灰・溶出抑制剤混合工程
S60 排ガス放出工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を燃焼させる燃焼ボイラと、前記燃焼ボイラの下流に設けられ前記燃料の燃焼によって発生する排ガス中の燃焼灰を集塵する集塵装置と、を備えた火力発電システムにおいて、前記燃焼灰からの六価クロムの溶出を抑制する六価クロム溶出抑制方法であって、
前記排ガス中の硫黄酸化物と、生石灰、石灰石、消石灰からなる群より選ばれる少なくとも一種以上を含むカルシウム化合物と、を低酸素雰囲気下で反応させることによって亜硫酸カルシウムを生成する亜硫酸カルシウム生成工程と、
前記亜硫酸カルシウム生成工程にて生成された亜硫酸カルシウムと、前記集塵装置によって集塵された燃焼灰と、を混合する混合工程と、を有する六価クロム溶出抑制方法。
【請求項2】
前記火力発電システムは微粉炭燃焼方式の発電システムである請求項1記載の六価クロム溶出抑制方法。
【請求項3】
前記火力発電システムは重原油燃焼方式の発電システムである請求項1記載の六価クロム溶出抑制方法。
【請求項4】
燃料を燃焼させる燃焼ボイラと、前記燃焼ボイラの下流に設けられ前記燃料の燃焼により発生する排ガス中の燃焼灰を集塵する集塵装置と、を備え、前記燃焼灰からの六価クロムの溶出を抑制可能な火力発電システムであって、
前記排ガス中の硫黄酸化物と、生石灰、石灰石、消石灰からなる群より選ばれる少なくとも一種以上を含むカルシウム化合物と、を低酸素雰囲気下で反応させることにより亜硫酸カルシウムを生成する亜硫酸カルシウム生成装置と、
前記亜硫酸カルシウム生成装置によって生成された亜硫酸カルシウムと、前記集塵装置によって集塵された燃焼灰と、を混合する混合装置と、を備える火力発電システム。

【図1】
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【公開番号】特開2008−272574(P2008−272574A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−5177(P2007−5177)
【出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】