説明

共押出多層フィルム

【課題】 不活性ガス置換包装体や真空包装体の蓋材を形成し、易開封性、密封性、透明性が良好で、尚且つ、包装体の改竄や悪戯を困難にする機能を有した共押出多層フィルムを提供する。
【解決手段】 融点が155℃以上であるプロピレン系樹脂及びポリエチレン系樹脂を混合してなるシーラント層(A)、並びに該シーラント層(A)に隣接しポリエチレン系樹脂からなる支持層(B)の少なくとも2層により構成されてなる共押出多層フィルムを提供する。この多層フィルムにおいて、シーラント層(A)に用いるプロピレン系樹脂は融点が155℃以上のポリプロピレン樹脂、特にプロピレンの単独重合体が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種包装用フィルム、特に食品包装用として不活性ガスによる置換包装や真空包装用の蓋材若しくは底材として好適に用いられる共押出多層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品の保存性を改善するためには、食品を入れた包装体に不活性ガスを充填したガス置換包装体や包装体の中に残存する気体を真空脱気した真空包装体が用いられている。たとえば深絞り成形機で成形した底材に食品を詰めて、不活性ガスを充填或いは真空引きして蓋材をシールした包装体が知られている。前記の底材または蓋材用フィルムとしては、シール性と易開封性とを共に備えた複合多層フィルムを使用するのが一般的である。このようなシール性と易開封性を同時に付与する公知の技術としては、例えば、ポリプロピレン系樹脂にエチレン成分を共重合したエチレン−プロピレンランダム共重合体とポリエチレン系樹脂等の非相溶な2種類以上の樹脂をブレンドしてシーラント層に使用し、開封にあたってはこの層を凝集破壊により剥離させる、いわゆる凝集破壊機構が一般的に知られている。
【0003】
このような凝集破壊機構による開封を行う複合フィルムには、シール性と易開封性が良好なものも一部には見られるが、元来、非相溶である2種類以上の樹脂を混合しているため、シーラント層表面の肌荒れによるフィルム表面のヘーズや内部のヘーズが大きく、透明性に劣る傾向がある。このような複合フィルムを不活性ガス置換包装体や真空包装体用の底材や蓋材として用いた場合、包装体の透明性が充分ではなくしばしば外観上の問題を生ずる。
【0004】
凝集破壊機構を用いた複合フィルムとしては、ポリオレィン系樹脂を用いたシーラント層とこれに隣接する凝集破壊性を有する層とからなる複合フィルムの提案がある。例えば、凝集破壊層の上にさらにポリオレフィン系樹脂層を配置することで表面ヘーズによる透明性の改善を試みたものがあるが、このような複合フィルムを用いた場合は、開封にあたり表層のポリオレフィン系樹脂層の破断強度と、凝集破壊層の破壊強度との両方に対する力が必要となり、開封の容易性の観点から好ましくない(例えば、特許文献1)。
【0005】
また、別の提案では、フィルムの全ヘーズを6%以下とした複合フィルムにおいて、シーラント層とその隣接する基材層との層間接着強度をシール強度、すなわちヒートシールしたシーラント層界面の接着強度よりも小さくしたいわゆる層間剥離タイプの層構成が提案されている。
【0006】
この提案によれば、流通時においては密封性が保持され、内容物の取り出し時にはシーラント層とこれに隣接する基材層との間で剥離が生ずるので開封の容易なものが得られる。しかし、このような層間剥離によるシーラント層は、高温ではピール強度が低下する傾向にあり、ヒートシール時に熱せられたシーラント層が基材層との間で層間剥離を起こす点に問題がある。しかも、ヒートシール時に熱板との接触不良によるシール不良等の欠陥が発生した場合、これを確認する手段がなく、シール不良のまま流通すると内容物が早く傷んでしまう危険性もある(例えば、特許文献2)。
【0007】
【特許文献1】特開平2001−253028
【特許文献2】特開平2002−241716
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、優れた透明性、開封性、シール性を併せて保有し、不活性ガスを用いたガス置換包装体および真空包装体の蓋材、並びに底材として好適な易開封性を有する共押出多層フィルムを提供することにある。より具体的には、本発明の目的は、主に食品の包装に用いられる不活性ガス置換包装体や真空包装体などの気密性包装体において、透明性が高く内容物に対する優れた視認性を保持しつつも、開封した際にヒートシール部分のフィルムのヘーズが大きく変化するため開封の有無確認が容易で偽装や悪戯を有効に防止することができる易開封性を有する共押出多層フィルムを提供することにある。更には気密性包装体を開封する時に必要とする力を低く抑えつつも優れた密封性を有する包装体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、シーラント層及びこれに隣接したポリエチレン系樹脂からなる支持層の少なくとも2層により構成されてなる共押出多層フィルムにあって、シーラント層としてポリエチレン系樹脂に対し、融点155℃以上のプロピレン系樹脂を配合することにより前記課題を解決し得るとの知見を得て本発明を完成するに至った。
本発明は融点が155℃以上であるプロピレン系樹脂、及びポリエチレン系樹脂を混合してなるシーラント層(A)、並びに該シーラント層(A)に隣接しポリエチレン系樹脂からなる支持層(B)の少なくとも2層により構成されてなる共押出多層フィルムおよびこれを用いた包装体を提供するものである。
【0010】
本発明の多層フィルムにおいて、シーラント層(A)に用いるプロピレン系樹脂は融点が155℃以上のポリプロピレン樹脂、特にプロピレンの単独重合体が好ましい。また、ポリエチレン系樹脂はこれよりも融点が25℃以上低いものが好ましい。支持層のポリエチレン系樹脂はシーラント層の場合と同じく用いるプロピレン系樹脂よりも融点が25℃以上低いポリエチレン系樹脂が好ましい。プロピレン系樹脂の配合量は5〜40重量%であるのが好ましい。シーラント層の厚みは1〜15μm、少なくともシーラント層と支持層の2層で構成される多層フィルムの総厚みは30〜300μmであるのが好ましい。本発明の多層フィルムを用いた気密性包装体では、開封時にシーラント層(A)と支持層(B)の層界面付近において層間で剥離するか、若しくは、シーラント層(A)か支持層(B)の一方の凝集破壊による剥離を生じる。このとき、シーラント層(A)とこれに隣接する支持層(B)を剥離した際の多層フィルムのヘーズが、JIS K7105に定める測定法により、剥離前に比較して10%以上の増加を生じるのが好ましい。
【0011】
従来、シーラント層に使用するプロピレン系樹脂としては、本発明とは異なりエチレン成分と共重合したランダム共重合体樹脂、いわゆるエチレン−プロピレンランダム共重合体樹脂(以下、R−PPと略す)が用いられている。このようなR−PP単体を用いた多層フィルムでは低温シール性などは良好であるものの、ポリエチレン系樹脂と混合しても良好な透明性は得られず、また、隣接する層をポリエチレン系樹脂とした場合には、エチレン樹脂を共重合している為にその層間で剥離させることは非常に困難である。
また、シーラント層は数ミクロンから数十ミクロン程度と薄く設定されることが多く、本明細書に記載のような非相溶で融点差の大きい樹脂を混合して用いると、未溶融物の発生要因となったり、適切な融解温度が得られず充分なシール性が得られず、これを避けるのが通常であった。
これに対して、本発明の共押出多層フィルムでは、シーラント層(A)の樹脂とは融点差が大きく従来は配合されることのなかった融点155℃以上のプロピレン系樹脂の採用により相溶性に不具合が生じないとの知見を新た得て前記課題を解決した。特にシーラント層(A)の主材としてプロピレン系樹脂よりもその融点が25℃以上低いポリエチレン系樹脂を用いたことにより適切な融解温度が得られると共に相溶性に不具合が生じないことがわかった。
【0012】
本発明の共押出多層フィルムの使用方法としては、不活性ガスによる置換包装体や真空包装体において、一般的には予熱された後、適宜、任意の形状に成形される、所謂、底材として使用しても何ら差し支えない。また、ピロー包装体等の容器形状への成形加工を施さない袋物形状の包装体のシーラント層として使用しても差し支えない。
【発明の効果】
【0013】
本発明の共押出多層フィルムによれば、シーラント層(A)と支持層(B)の層間界面付近において、層間若しくは、凝集破壊により剥離が生ずる。シーラント層(A)と支持層(B)とは共にポリエチレン系樹脂を主材料とするにも関わらず、シーラント層(A)に所定量のプロピレン系樹脂、特に融点155℃以上のプロピレン単独重合体が配合されていることにより開封時に毛羽の発生のない良好な剥離感を有する共押出多層フィルムが得られる。本発明によれば、衛生的でかつ透明性が高く、光沢、シール性、耐熱性および易開封性に優れたガス置換包装体や真空包装体用の易開封性の共押出多層フィルムが得られる。シーラント層(A)と支持層(B)の層間界面付近に於いて、層間若しくは、層内の凝集破壊により剥離を生じ、ヒートシール部の剥離箇所の透明性が開封の前後で変化し、そのヘーズが10%以上増加する(JISK7105に定める方法にて測定)。これにより包装体の開封の有無をより明確に確認できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の共押出多層フィルム形態の一具体例をより詳しく説明する。
即ち、この共押出多層フィルムは、シーラント層(A)とこれに隣接する支持層(B)の少なくとも2層で構成される共押出多層フィルムである。
【0015】
(A)シーラント層
シーラント層(A)には、ポリエチレン系樹脂及びプロピレン系樹脂の混合物を用いる。ポリエチレン系樹脂としては、プロピレン系樹脂よりも融点が25℃以上低いものであればよい。また、シーラント層には前記以外の樹脂を本発明の目的を損なわない範囲で適宜配合してもよい。
【0016】
(ポリエチレン系樹脂)
シーラント層(A)に用いられる前記ポリエチレン系樹脂としては、例えば、直鎖状のポリエチレン樹脂として密度dが0.940以上の高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)、α−オレフィンとの共重合ポリマーである直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)、密度dが0.910以下の超低密度ポリエチレン樹脂(VLDPE)、また、分岐状ポリエチレン樹脂として低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、極性モノマーとのコポリマーである、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)、エチレン−エチルアクリレート樹脂(EEA)、エチレン−メチルアクリレート樹脂(EMA)、エチレン−メタクリル酸樹脂(EMAA)または、これらの分子間をナトリウムや亜鉛などの金属のイオンで分子間結合したアイオノマー樹脂(ION)、エチレン−アクリル酸共重合体樹脂(EAA)、また、エラストマーとしてエチレン−プロピレンゴム(EPR)、エチレン−プロピレンジエン三元共重合体(EPDM)、塩素化ポリエチレンなどを単独で或いは混合して用いてよい。
【0017】
(ポリプロピレン系樹脂)
シーラント層に配合されるポリプロピレン系樹脂としては、JIS K7121に定める示差走査熱量測定(DSC)の試験方法により測定された融点が155℃以上、好ましくは160℃以上であるポリプロピレン系樹脂を用いる。かかる樹脂としては、プロピレンの単独重合体、所謂、ホモポリプロピレン樹脂が好ましい。融点が上記範囲より低いと耐熱性が不足することがある。また、ポリエチレン系樹脂との接着、融着性の阻害作用が十分とはならず、隣接する支持層(B)との間で適切な剥離強度が得られない。
該シーラント層中、プロピレン系樹脂の配合量は5〜40重量%、好ましくは10〜30重量%である。プロピレン系樹脂の配合量がこれより少ないと、適正なシール強度が得られず堅くなり、またこの範囲より多いと、シール強度が軽くなりすぎて適切な密封強度が得られず、透明性もヘーズが大きくなり悪化する傾向となる。なお、プロピレン系樹脂は融点が上記の範囲であれば2種以上を併用してもよく、R−PPを用いた場合も本発明に規定するプロピレン系樹脂が処方されていれば本発明の効果が得られ、併用する場合には融点155℃以上のプロピレン単独重合体を用いることが重要である。
本発明の多層フィルムにおいて、シーラント層(A)の厚みは1〜15μmであり、2〜10μmであるのが好ましい。シーラント層(A)の厚みがこれより薄いと必要な密封性が得られないことがある。また、前記の範囲よりも厚くなると開封時に毛羽の原因となって見栄えを損なったり、開封時の強度が強くなり過ぎ好ましい開封性が得られない。
【0018】
(B)支持層
支持層(B)に用いられるポリエチレン系樹脂としては前記シーラント層について記載したポリエチレン系樹脂がいずれも採用でき、各種ポリエチレン系樹脂の共重合樹脂も適宜使用してよい。また、支持層に用いられるポリエチレン系樹脂は、前記シーラント層に用いられる樹脂と同一であってもよく、また異なっていてもよい。また、使用する樹脂は単独であってもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
なお、この共押出多層フィルムの支持層(B)側に10〜20μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを設けてもよいし、また、底材として使用する場合には、ポリエチレンテレフタレート樹脂系、ポリエチレン樹脂系、ポリプロピレン樹脂系、ポリスチレン樹脂系といったフィルム、及びシートを同じく支持層(B)側に公知のドライラミネート法などによりを設けても差し支えない。これらは延伸されたものであっても良いし、未延伸のものであっても構わない。
【0019】
シーラント層(A)と支持層(B)を含む多層フィルムの厚みは30〜300μm、好ましくは40〜200μmである。総厚みがこれより薄いと強度が充分でなく、厚いと透明性が優れないことがある。また、支持層(B)の厚さは多層フィルム全体の厚みの範囲内にて適宜調製してよいが、好ましくは20〜100μmである。支持層(B)の厚さがこれより薄いと製膜加工時に厚みが安定し難い。また、前記の範囲より厚くなると薄膜化、低コストを求める市場の要求に合致しないばかりか優れた透明性が得られず好ましくない。
本発明の多層フィルムは、シーラント層(A)とこれに隣接する支持層(B)を剥離させた際、シーラント層(A)と支持層(B)の少なくとも2層以上で構成されるフィルムの剥離後のヘーズが剥離前に比較してJIS K7105に定める方法により測定した場合、10%以上増加する。このため、これにより包装体の開封の有無をより明確に確認できる。
【0020】
本発明の多層フィルムには、前記シーラント層、支持層以外にかかる易開封性の多層フィルムに積層される種々の樹脂層が用いられてよく、たとえば下記の樹脂層が目的に応じ採用されてよい。
(1)印刷基材若しくは、包装材料に剛性を付与する為に10〜20μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを配し、次の共押出多層フィルムと公知のラミネート法により接着する。以下、共押出多層フィルムは、透明性、剛性を付与する目的で共重合ポリエステル樹脂層を配し、/酸素ガスバリア性を付与する目的でエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂層を配し、/フィルムへの強靭性、耐ピンホール性を付与する為にポリアミド樹脂層を配し、/低密度ポリエチレン系樹脂からなる支持層(B)を配し、/本明細書に規定したポリエチレン系樹脂とプロピレン系樹脂とからなる層であってここでプロピレン系樹脂の配合比率が5〜40重量%であり、ポリエチレン系樹脂が低密度ポリエチレン樹脂であるシーラント層(A)を順次、この順に積層した共押出多層フィルムである。
(2)前記(1)と同様に10〜20μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム/エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂層/ポリアミド樹脂層/低密度ポリエチレンからなる支持層(B)/ポリエチレン系樹脂とプロピレン系樹脂とからなり、ポリエチレン系樹脂がエチレン−メタクリル酸樹脂であり、プロピレン系樹脂の配合比率が40%未満であるシーラント層(A)を順次、この順に積層した共押出多層フィルム等が挙げられる。
(3) 包装材料に剛性、保型性などを付与する為に200〜300μmの未延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを配し、次の共押出多層フィルムと公知のラミネート法により接着する。以下、共押出多層フィルムは、酸素ガスバリア性を付与する目的でエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂層を配し、/フィルムへの強靭性、耐ピンホール性を付与する為にポリアミド樹脂層を配し、/低密度ポリエチレン系樹脂からなる支持層(B)を配し、/本明細書に規定したポリエチレン系樹脂とプロピレン系樹脂とからなる層であってここでプロピレン系樹脂の配合比率が5〜40重量%であり、ポリエチレン系樹脂が低密度ポリエチレン樹脂であるシーラント層(A)を順次、この順に積層した共押出多層フィルムである。
(4) また、本発明に共押出多層フィルムを用いれば、酸素ガスバリア性を付与する目的でエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂層を配し、/フィルムへの強靭性、耐ピンホール性を付与する為にポリアミド樹脂層を配し、/低密度ポリエチレン系樹脂からなる支持層(B)を配し、/本明細書に規定したポリエチレン系樹脂とプロピレン系樹脂とからなる層であってここでプロピレン系樹脂の配合比率が5〜40重量%であり、ポリエチレン系樹脂が低密度ポリエチレン樹脂であるシーラント層(A)を順次、この順に積層した共押出多層フィルムである。
共押出多層フィルムの層構成は、本発明の各請求項に記載した要件を満たしていればこれらに限定するものではない。具体的には、本発明に記載の多層フィルムとは、融点が155℃以上であるプロピレン系樹脂及びポリエチレン系樹脂を混合してなるシーラント層(A)、並びに該シーラント層(A)に隣接しポリエチレン系樹脂からなる支持層(B)の少なくとも2層が共押出法により構成された多層フィルムであって、さらに多くの樹脂層を積層した構成とする為には、新たに付加される層は本発明に記載された2層以上の構成の共押出多層フィルムと同時に共押出加工し積層されても構わないし、また、公知のラミネート法を用いて別途、製膜された単層、若しくは多層のフィルムと積層されても何ら差し支えはない。
また、各樹脂層の層間強度を高める為に、シーラント層(A)と支持層(B)の層間以外には既に公知の接着性樹脂層を配置してもよい。
【0021】
(接着性樹脂層)
接着性樹脂層に使用する接着性樹脂としては、例えば、EVA、エチレン−無水マレイン酸共重合体、EAA、EEA、エチレン−メタクリレート−グリシジルアクリレート三元共重合体、あるいは、各種ポリオレフィンに、アクリル酸、メタクリル酸などの一塩基性不飽和脂肪酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの二塩基性不飽和脂肪酸またはこれらの無水物をグラフトさせたもの、例えばマレイン酸グラフト化EVA、マレイン酸グラフト化エチレン−α−オレフィン共重合体など、公知のものを適宜使用することができる。
【0022】
(添加剤)
また、本発明の共押出多層フィルムのシーラント層(A)及び、これに隣接する支持層(B)には、必要に応じて滑り性やブロッキングを防止、防曇性を付与する目的で適宜、公知の滑剤や添加剤を付与してもよい。その場合、本発明はこれらに限定されるものではないが好ましい例として、滑り性やブロッキング防止では、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等の有機系滑剤、シリカ、ゼオライト、炭酸カルシウム等の無機系滑剤を挙げることができる。その添加量としては0.1〜5重量%が好適であり、通常マスターバッチの形で加える。また、防曇性を付与する為には、既に公知の界面活性剤等を適宜、添加し使用することができる。
【0023】
(製膜方法及び包装体の製造法)
本発明の共多層フィルムの製膜方法については公知の共押出法によって多層、複合フィルムとしたものとする。
【0024】
本発明の共押出多層フィルムは、不活性ガスを用いたガス置換包装体および、真空包装体などの気密性包装体の包装フィルムとして使用され、公知の深絞りの技術を適用して所望の形状の蓋材、若しくは内容物を収容するために適宜、成形して底材とし、これに内容物を収容してヒートシールを行い製品化される。ヒートシールの温度は、特に限定するものではないが、通常、100〜150℃が好ましい。深絞り成形では、フィルムの片面より熱板による接触加熱を行い、フィルム全体が十分な熱量を与えられて軟化した時点で圧空または真空成形により金型通りの成形品を得る。その後、不活性ガスによる置換を施したり、真空脱気により包装体内の空気を除去した上、生肉などの生鮮食品、ハム、ソーセージ、ウインナー、ハンバーグなどの加工食品、その他惣菜、水産ねり製品などの内容物を底材に収容し蓋体とヒートシールすることで密封される。
前記のとおり、当該分野のヒートシール温度は通常100〜150℃℃である。しかるに本発明多層フィルムのシーラント層には融点155℃以上のプロピレン系樹脂が使用され、かかる成分構成は熱的な側面から従来、容易に着想しうるものではない。
【実施例】
【0025】
つぎに実施例および比較例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。多層フィルムの製造に使用した原料樹脂はつぎのとおりである。
(樹脂材料)
(1)OPETフィルム:
二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム;帝人デュポンフィルム(株)製)、
テトロンフィルム GE
(2)PETG:共重合ポリエチレンテレフタレート;
イーストマンケミカルジャパン(株)製、GN071
(3)EVOH:(株)クラレ製、エバールJU102B
密度1.17g/cm3 、メルトインデックス2.0g/10min(190℃測定)
融点183℃、エチレン含有量32モル%
(4)NY:宇部興産(株)製、宇部ナイロン1013B、密度1.14
(5)支持層(B):
低密度ポリエチレン樹脂、住友化学(株)製、スミカセンL211
密度0.924kg/m3 、MFR2.0g/10min(190℃測定)、融点113℃
(6)シーラント層(A)
(i)低密度ポリエチレン樹脂、住友化学(株)製、スミカセンL211
密度0.924kg/m3 、MFR2.0g/10min(190℃測定)、融点113℃
(ii)ポリエチレン系樹脂、日本ポリエチレン(株)製、ハイゼックス 530M
密度0.956kg/m3 、MFR0.38g/10min(190℃測定)、融点136℃
(iii)ホモポリプロピレン樹脂:住友化学(株)製、ノーブレンFS2111DG3
密度0.910kg/m3 、MFR2.5g/10min(230℃測定)、融点158℃
(iv)ポリプロピレン系樹脂:住友化学(株)製、ノーブレンFH3315
密度0.910kg/m3 、MFR3.0g/min(230℃測定)、融点144℃
(7)APETシート
ポリエチレンテレフタレート製無延伸単層シート;東洋紡(株)製、
PETMAX A750FEIR
(8)アルミ蒸着OPET(VM−PET)フィルム:
二軸延伸アルミ蒸着ポリエチレンテレフタレートフィルム;
東レフィルム加工(株)製、1510(#12)
(9)OPPフィルム:
二軸延伸ポリプロピレンフィルム;東洋紡(株)製、
パイレンフィルム−OT P2002(30μ)
(10)LLDPEフィルム
直鎖状低密度ポリエチレン無延伸フィルム;東洋紡(株)製、
LIX−NP L4103(30μ)
【0026】
(実施例1)
後記表1の樹脂配合、層構成にて6層構成の多層フィルムを作製した。PETG/EVOH/NY/支持層(B)/シーラント層(A)の順の層構成で押出加工して積層を行い、さらにOPETをドライラミネート法により上記の多層フィルムのPETG側に積層した。得られたフィルムの各層厚み(μm)は表1に示すとおりであり、全体の厚さは102μmであった。
(実施例2)
シーラント層の樹脂配合及び厚みを表1に記載のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして多層フィルムを製造した。得られたフィルムの各層厚み(μm)は表1に示すとおりであり、全体の厚さは98μmであった。
【0027】
(実施例3)
後記表1の樹脂配合、層構成にて3層構成の多層フィルムを製膜した。NY/支持層(B)/シーラント層(A)の順の層構成で押出加工して積層を行い、さらにOPETをドライラミネート法により上記の多層フィルムのNY層側に積層した。得られたフィルムの各層厚み(μm)は表1に示すとおりであり、全体の厚さは52μmであった。
【0028】
(実施例4)
シーラント層の樹脂配合を表1に記載のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして多層フィルムを製造した。得られたフィルムの各層厚み(μm)は表1に示すとおりであり、全体の厚さは102μmであった。
(実施例5)
シーラント層の樹脂配合、及び厚みを表1に記載のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして多層フィルムを製造した。得られたフィルムの各層厚み(μm)は表1に示すとおりであり、全体の厚さは112μmであった。
【0029】
(実施例6)
後記表1の樹脂配合、層構成にて5層構成の多層フィルムを作製した。EVOH/NY/支持層(B)/シーラント層(A)の順の層構成で押出加工して積層を行い、さらにAPETをドライラミネート法により上記多層フィルムのEVOH側に積層した。得られたフィルムの各層厚み(μm)は表1に示すとおりであり、全体の厚さは250μmであつた。
【0030】
(実施例7)
後記表1の樹脂配合、層構成にて4層構成の多層フィルムを作製した。EVOH/NY/支持層(B)/シーラント層(A)の順の層構成で押出加工して積層した。得られたフィルムの各層厚み(μm)は表1に示すとおりであり、全体の厚さは150μmであつた。
【0031】
(比較例1)
実施例1において、シーラント層(A)に使用するポリプロピレン系樹脂をエチレン−ポリプロピレンランダム共重合樹脂(住友化学(株)製、ノーブレンFH3315)とし、比率を変更した以外は実施例1と同様にして多層フィルムを製造した。得られたフィルムの各層厚み(μm)は表1に示すとおりであり、全体の厚さは102μmであった。その結果、シーラント層(A)と支持層(B)の層間強度が強く、適度な密封強度を得ることができなかった。
【0032】
(比較例2)
実施例1において、シーラント層(A)に使用するプロピレン系樹脂をエチレン−ポリプロピレンランダム共重合樹脂(住友化学(株)製、ノーブレンFH3315)とし、比率を変更した以外は実施例5と同様にして多層フィルムを製造した。その結果、シーラント層(A)と支持層(B)の層間強度が強く、適度な密封強度を得ることが出来なかった。また、開封前後でのヘーズの変化が小さく、有効な改竄防止効果が得られなかった。
【0033】
(評価方法)
実施例1〜5および比較例にて得られた多層フィルムについて、ムルチバッグ(株)製真空、及びガス置換包装機(R530シリーズ)を用い特性の評価を行った。縦200mm×横90mm×深さ25mmの大きさの容器を形成し、層構成が非晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂/接着剤/EVOH/接着剤/ポリエチレン樹脂(各層厚みが250/5/30/5/10μm、合計厚みが300μm)よりなる形成加工された長方形のトレーに、内容物としてスライスハム80gを充填した。この容器に前記の多層フィルムを蓋材としてヒートシール(135℃×1.5秒、シール圧力0.5MPa)して包装体を得た。この包装体の開封時の状態について以下の基準で評価した。結果を表1にまとめて示す。
また、実施例7にて得られた多層フィルムについて、同じくムルチバッグ(株)製真空、及びガス置換包装機(R530シリーズ)を用い特性の評価を行った。縦200mm×横90mm×深さ25mmの大きさの底材容器を成形した。また、層構成が二軸延伸ポリプロピレンフィルム/二軸延伸アルミ蒸着ポリエチレンテレフタレートフィルム/直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(各層厚みが30/12/30μm、合計厚みが72μm)よりなる多層フィルムをドライラミネート法におり積層して蓋材とし、この底材容器に内容物としてスライスハム80gを充填、ヒートシール(135℃×1.5秒、シール圧力0.5MPa)して包装体を得た。この包装体の開封時の状態について以下の基準で評価した。結果を同じく表1にまとめて示す。
また、実施例8にて得られた多層フィルムについて、同じくムルチバッグ(株)製真空、及びガス置換包装機(R530シリーズ)を用い特性の評価を行った。直径80mm×深さ15mmの大きさの円柱状の形状の底材容器を成形した。また、層構成が二軸延伸ポリプロピレンフィルム/二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム/直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(各層厚みが20/12/30μm、合計厚みが62μm)よりなる多層フィルムをドライラミネート法におり積層して蓋材とし、この底材容器に内容物としてスライスハム50gを充填、脱気処理をした後、ヒートシール(135℃×1.5秒、シール圧力0.5MPa)して包装体を得た。この包装体の開封時の状態について以下の基準で評価した。結果を同じく表1にまとめて示す。
【0034】
(1)毛羽
良好:繊維状のフィルム片などは確認されず、良好な開封性が確認できた。
発生:繊維状のフィルム片が多く発生し、目立つ。
(2)デラミネーション
無し :多層フィルムの層間に於いて、フィルム剥がれ、破れの発生がない。
一部発生:多層フィルムの層間に於いて、フィルム剥がれが部分的に発生した。
(3)堅さ
適当:モニター10名による開封試験で、6名以上が適度な堅さと判定した。
堅い:モニター10名による開封試験で、6名以上が重い・硬いと判定した。
軽い:モニター10名による開封試験で、6名以上が軽すぎると判定した。
【0035】
【表1】

【0036】
本発明の共押出多層フィルムを用いた包装体は易開封性、密封性、透明性が良好であり、包装体の開封による改竄や悪戯を有効に防止できる優れた不活性ガス置換包装体や真空包装体が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の共押出多層フィルムより成形した不活性ガス置換包装体及び真空包装体は、高い密封性を有しつつ開封が容易で、また透明性も良好である。さらに、前記包装体は、一旦開封すると開封痕が明確に残るため、例えば、販売店の陳列棚での開封などによる改竄や悪戯の防止に有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が155℃以上であるプロピレン系樹脂、及びポリエチレン系樹脂を混合してなるシーラント層(A)、並びに該シーラント層(A)に隣接しポリエチレン系樹脂からなる支持層(B)の少なくとも2層により構成されてなる共押出多層フィルム。
【請求項2】
プロピレン系樹脂が、プロピレンの単独重合体である請求項1に記載の共押出多層フィルム。
【請求項3】
プロピレン系樹脂の配合量が5〜40重量%である請求項1又は2に記載の共押出多層フィルム。
【請求項4】
シーラント層(A)の厚みが1〜15μmであり、シーラント層(A)と支持層(B)の少なくとも2層で構成される多層フィルムの総厚みが30〜300μmである請求項1〜3のいずれかに記載の共押出多層フィルム。
【請求項5】
シーラント層(A)とこれに隣接する支持層(B)を剥離させた際の多層フィルムのヘーズが、JIS K7105に定める測定法により、剥離前に比較して10%以上の増加を生じる請求項1〜4のいずれかに記載の共押出多層フィルム。
【請求項6】
蓋材(H)と底材(S)からなる包装体であって、前記蓋材(H)または底材(S)のいずれかが請求項1〜5のいずれか1項に記載の共押出多層フィルムである包装体。

【公開番号】特開2009−96198(P2009−96198A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−251931(P2008−251931)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】