説明

共焦点顕微鏡

【課題】 ニプコウ方式の共焦点顕微鏡においてDMDを用いて標本の領域を選択的に照明して観察することができる共焦点顕微鏡を提供する。
【解決手段】 光源20からの照射光は集光レンズ1,回転式フィルタ14を介してDMD2に入射し、DMD2でオン制御された微小ミラー領域に照射した光のみがニプコウ板組立のマイクロレンズ5に入射する。マイクロレンズ5を通過した光はピンホール6で収束させられ対物レンズ8によって標本10の選択された領域に結像する。標本10の選択された領域から発せられる蛍光などの反射光は入射光路を逆向し、ダイクロイックミラー7によって反射され結像レンズ11によって2次元光検出器に結像される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニプコウ板を用いた共焦点顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
光学的切断像が得られる共焦点顕微鏡はバイオ研究において広く用いられている。
これを実現するには、レーザ光を点状に絞って、この点の像を扇形に回転振動する鏡で振り、標本上にできる輝点によってレーザ走査する方式と、鏡の代わりに小孔(ピンホール)の開いた円板を回転させて、標本上にできるピンホールの像によって走査するニプコウ板式がある。輝点走査によって標本の蛍光物質を励起し、生ずる蛍光を共役位置にあるピンホールを通して集光し画像として観察できる。マイクロレンズの結合により光の利用効率を高めたマイクロレンズ付きニプコウ板は、明るく、高速の走査ができ、比較的安価であるため使用が広がっている。例えば本件発明者が提案している特許文献1や特許文献2にニプコウ円板組立が用いられている。
【0003】
しかし、この方式の欠点は、視野の任意の指定した領域のみに照明光を与えてその領域のみを観察するということができず、常に視野全面を対象とした照明と観察になる。これは、蛍光染色した細胞の観察では都合が悪い場合がある。すなわち、蛍光観察には観察対象の退色という現象が伴い、観察する時間や与える光強度に応じて、その対象が見えないものに変化してしまうからである。
1つの視野に多数ある細胞のうち関心あるものだけを選択的に照明して観察できれば、対象としていないものには光が当たらず、順次観察していくことができる。
【0004】
一方、前者のレーザ方式で実現するものとしてDMDを用いたものが存在する。
これは、特許文献3,4および5等がある。
特許文献3記載の発明は、光源から出た光がDMDのオン素子により反射され対物平面に焦点を結ぶ技術を開示している。対物平面で励起された蛍光は同一の光路を経てDMDに戻り、半透明ミラーで反射されて一方のカメラに達する。焦点が外れた位置から発生した光はオフ素子によりミラーで反射され他方のカメラに達するようになっている。
特許文献4記載の走査型顕微鏡、走査型顕微鏡法における結像のための光学装置および方法の発明はレーザー光をマイクロミラーで反射させて標本に当て、反射された光を検出する共焦点走査型顕微鏡である。
【0005】
特許文献5は、本件発明者が提案したもので、落射形と透過形のDMDを用いた共焦点走査顕微鏡であり、DMDを用いて輝点の大きさや走査速度,走査のパターンを自由に変えることができる共焦点顕微鏡を実現するものである。
上記特許文献3,4および5いずれも標本の走査領域の選択は可能であるが、光の利用効率はマイクロレンズ付きニプコウ板式と比較して劣り、結果として暗い像になる。
また、共焦点顕微鏡ではなく蛍光顕微鏡において照射領域を制御するものとしてDMDを有するものが特許文献6に開示されている。
特許文献6記載の発明は、蛍光顕微鏡に関するもので図1において光源23から照射された照明光がコレクタレンズ22により集光され、ディジタル微小ミラー201において選択的に反射してディジタル微小ミラーを視野絞りとして使用することにより標本への部分的な照明を可能として退色を防止しているが、マイクロレンズ付きニプコウ板を備えた共焦点顕微鏡への適用を示す記載やそれらを示唆する記述はない。
【特許文献1】特願2003−187142号公報
【特許文献2】特許3099063号
【特許文献3】特開平11−194275号公報
【特許文献4】特開2002−131649号公報
【特許文献5】特願2003−186768号公報
【特許文献6】特開2003−107361号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記ニプコウ板方式共焦点顕微鏡が持っている上記欠点を解決するもので、その目的はニプコウ方式の共焦点顕微鏡において光の利用効率を高めつつDMDを用いて標本の領域を選択的に照明して観察することができる共焦点顕微鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために本発明の請求項1は、光源装置と、2次元に配列された多数の微小ミラーを備え、選択された微小ミラーにより前記光源装置からの光を点状の照明光に変換して選択された微小ミラーの集合に応じた平行光束を形成するDMDと、多数のピンホールを有する第1ニプコウ板および多数のマイクロレンズを有する第2ニプコウ板よりなり、前記DMDからの平行光束を前記第2ニプコウ板のマイクロレンズで収束させて前記第1ニプコウ板のピンホールに結像させるニプコウ板組立と、前記第1ニプコウ板のピンホールで結像された光束を視野の対応位置に結像させ、前記視野からの蛍光を逆向させる共焦点光学系と、2次元光検出手段と、前記第1および第2ニプコウ板の間に配置された色分割光学素子および該色分割光学素子からの反射光を前記光検出手段に結像するレンズ系からなる出力光学系と、前記DMDの多数の微小ミラーを選択してオン,オフ制御する制御装置とを有し、前記視野全体の一部を選択して照明を与えるように構成したことを特徴とする。
本発明の請求項2は、請求項1記載の発明において前記ニプコウ板組立は高速回転させられ前記光検出手段に映像を形成することを特徴とする。
本発明の請求項3は、請求項1記載の発明において前記視野内には蛍光標本が留置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
上記構成によれば、視野の任意の指定した領域のみに光源の光利用効率を高めた光を照射してその照射領域のみを観察することができる。
レーザの波長を選択し、DMDによりケージド化合物の光解除領域と解除光の強度、そして観察領域を任意に選択すれば、ニプコウ板共焦点顕微鏡によって標本を観察しながらケージド化合物の光による解除にも応用でき、ケージド試薬の広い応用に用いることができる。例えば、細胞などの生きた標本の化学刺激があり、それによって生ずる細胞の反応を、そのまま共焦点顕微鏡での蛍光観察によって捉えることができる。
図7に細胞等の生きた標本の各領域を順番に化学刺激したときの蛍光画像の一例を示す。ある細胞における特定の受容体の局在を探索するに当たり、複数の微小領域で順次光解除刺激を行い細胞内応答を観察できる。
また、DMDによる照明領域(或いはROI)の設定は、円や四角と言った単調な図形に止まらず、細胞形態の輪郭などの複雑な絵や文字も可能であり、細胞への文字の印刷などにおいて、ある限られた断層面だけに限局した印刷という形をとることができる。
光源としてレーザ以外のものも使用可能である。いくつかの波長の光が混合している(例えば白色光のような)光源を用いるならば、DMDの階調調整機能と高速に切り換えられるフィルタの色指定とを同期させて領域別の色の投影も可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面等を参照して本発明の実施の形態を詳しく説明する。
図1は、本発明による共焦点顕微鏡の概略を示すブロック図である。
共焦点顕微鏡は、共焦点光学系,ニプコウ板組立,出力光学系,DMD,照明光学系を備えている。照明光学系には光源装置からの光が入射する。
カメラ装置は出力光学系からの光学信号を検出してモニタに出力する。CPU,メモリ回路,制御プログラムなどから構成される制御装置はDMDの選択した領域の微小ミラーをオンオフ制御するDMD制御部やニプコウ板組立の回転を駆動制御する回転制御部の機能を備えている。
複数領域で蛍光強度の統一を図る場合や動きのある標本を追跡する場合は、2次元光検出器の出力信号をDMD制御部を含む制御装置にフィードバックし、該制御装置が励起光強度(DMDの階調調整機能を利用)やROIを自動的に調整するように構成される。
また、白色光源により異なる励起光で複数領域を観察する場合にはROIと励起光用フィルタ(照明光学系などに設けられる),ダイクロイックミラー(吸収フィルタもある場合、これも含む)はそれぞれ同期して切り替えるようにする必要があり、かかる場合DMD制御部を含む制御装置は励起用フィルタとダイクロイックミラー(吸収フィルタもある場合、これも含む)も同時に制御するように構成される。
操作部からの入力により視野に載置された標本のROIを選択してモニタにより観察することができる。
【0010】
光源装置からの光は照明光学系によって所定の波長帯域に変換されてDMDに導かれる。DMDの照明範囲についてDMD制御部の制御の下にROIが選択されてオンオフの制御が行われる。オン制御された微小ミラー群による光はその微小ミラー群対応の平行光束となり、該平行光束はニプコウ板組立のマイクロレンズ付きニプコウ板の対応のマイクロレンズに入射し、該マイクロレンズで収束されてピンホール付きニプコウ板のピンホールで結像する。ピンホールで結像した光は共焦点光学系によって標本の選択した領域に結像させられる。標本の選択した領域で発生した蛍光や散乱光は共焦点光学系を戻り出力光学系によって2次元光検出器(カメラ装置)に導かれ映像表示のための処理がなされてモニタに表示される。
回転制御部によってニプコウ板組立を高速回転させることにより秒当たり所定枚数の標本の画像を得ることができる。
【0011】
図2は、本発明による共焦点顕微鏡の実施の形態を示す図である。
集光レンズ1および回転式フィルタ14は照明用光学系を構成する。ニプコウ板組立は多数の螺旋状のピンホール6を有するニプコウ板4aおよび各ピンホール対応に設けられた多数のマイクロレンズ5を有するニプコウ板4bが回転軸15により連結されて構成される。共焦点光学系は多数のマイクロレンズ5を有するニプコウ板4b,多数のピンホール6を有するニプコウ板4a,ピンホール位置に対する共役の位置に結像させる対物レンズ6により構成される。出力光学系はニプコウ板4aおよび4bの光路上に挿入されたダイクロイックミラー7と結像レンズ11により構成される。カバーガラス9の上に標本が搭載され、該標本は顕微鏡の視野内の、ピンホール6に対する共役位置を含む位置である。
【0012】
光源20は所定波長のレーザ光を用いる他、幾つかの波長が混ざり合った光源が用いられる。この実施の形態は白色光のランプを用いたものであり、ROIを各色で投影することができる。図3に照明用光学系に挿入した回転式フィルタの一例を示す。
赤波長領域のフィルタ14a,緑波長領域のフィルタ14b,青波長領域のフィルタ14cが円周上に配置されており、回転軸16で回転させて各ROI毎に色を変えて投影することができる。
【0013】
光源20からの照明光はレンズ1により平行光束にされ、回転式フィルタ14を通過してDMD2の各微小ミラーを照射する。図4にDMDの所定のROIをオン制御した場合を示す。DMD2の25が照射可能領域であり、DMD制御部の制御の下に領域(R1 )2aと領域(R2 )2bの微小ミラーが選択されてオン状態となっている。
照射領域25の他の領域は微小ミラーがオフの領域である。DMD制御部によって順番に照射領域25の各領域を選択していくことができる。また、この選択された領域(R1 ),(R2 )は矩形領域であるが、その形や大きさは自由に設定することが可能である。
【0014】
オン制御された微小ミラーの領域(R1 )および領域(R2 )からの反射光は平行光束となってニプコウ板4bのそれぞれ対応のマイクロレンズ5に入射する。
一方、領域(R1 )および領域(R2 )以外の照射領域25の光は、その領域の微小ミラーのオフによりニプコウ板4bの方向以外に導かれ、光トラップ13により吸収される。対応のマイクロレンズ5に入射した光は、対応のピンホール6に結像される。この2つのニプコウ板の構成によって入射する光の利用効率が高められ、ピンホール以外の板表面で反射されるノイズ光が減少する。
【0015】
図5にニプコウ板組立の一例を示す。
ニプコウ板4aのピンホール6は、螺旋状に所定間隔で配置され、これら螺旋状ピンホール群は円板全体に多数設けられている。ニプコウ板4bには各ピンホール対応に多数のマイクロレンズ5が配置されている。ニプコウ板組立を回転制御部により回転させることにより標本の画像をモニタに表示することができる。螺旋状ピンホール群の数とニプコウ板の回転速度(分速)を適宜制御することにより例えば秒当たりの表示駒数を変更することができる。例えは、ニプコウ板を数千rpmで、螺旋状ピンホール群の数を10個程度形成することにより、1駒を数mmSで表示することができる。
【0016】
ピンホール6を通過した光は対物レンズ8で標本10の選択位置に結像される。
図6は、標本の選択位置から蛍光が発生している状態を示す。
DMDの領域(R1 )からの光26aは標本10の前面からz1 だけ入射した位置に焦点を結ぶ。縦横方向は領域(R1 )に対応する位置x1 ,y1 に結像する。また、DMDの領域(R2 )からの光26bは標本10の前面からz1 だけ入射した位置に焦点を結び、縦横方向は領域(R2 )に対応する位置x2 ,y2 に結像する。
標本10の結像位置に存在する物質により例えば蛍光27が発生し、蛍光27は共焦点光学系を戻り、蛍光波長帯を反射するダイクロイックミラー7で結像レンズ11に導かれる。結像レンズ11によって2次元光検出器12に蛍光が結像し標本10の位置x1 ,y1 ,z1 と位置x2 ,y2 ,z1 に像が検出される。
2次元光検出器12では光電変換され、この電気信号は、カメラ装置内で所定の信号方式に処理された後モニタに表示される。
【0017】
以上の実施の形態では出力光学系にダイクロイックミラーを用いた例を説明したが、出力(蛍光)の波長帯域を分離できる光学素子であれば、他の光学素子を用いても良い。ダイクロイックミラーに加えて吸収フィルタを挿入しダイクロイックミラーからの反射光を吸収フィルタに導き、吸収フィルタからの透過光を光検出手段に結像させても良い。また、回転式フィルタを挿入して照射光をRGBの波長域にする例を示したが、回転フィルタを挿入することなく光源装置で必要となる波長または波長域を発生させても良い。
さらに光源装置に白色光を用いDMDの階調調整機能と高速に切り換えられるフィルタの色指定とを同期させて領域別の色の投影を行う具体例は以下のような場合である。
細胞外刺激に対する細胞内応答の可視化の際にDMDとフィルタにより細胞外の特定の領域に、特定の波長(色)でケージド化合物の光解除刺激を行った後、DMDとフィルタを切り替えて細胞内の特定の領域に、特定の励起波長で蛍光を観察するものである。なお、刺激−応答反応が非常に速ければ高速に切り替える必要がある。
【産業上の利用可能性】
【0018】
DMDにより標本の照射領域を選択できるニプコウ式共焦点顕微鏡で、医学やバイオ研究などの広い範囲で応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による共焦点顕微鏡の概略を示すブロック図である。
【図2】本発明による共焦点顕微鏡の実施の形態を示す図である。
【図3】回転式フィルタの一例を示す図である。
【図4】DMDのROIを説明するための図である。
【図5】ニプコウ板組立の一例を説明するための図である。
【図6】標本の選択領域での蛍光の発生を説明するための図である。
【図7】細胞等の生きた標本の各領域を順番に化学刺激したときの蛍光画像の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0020】
1 集光レンズ
2 DMD(ディジタル・マイクロミラー・デバイス)
3 微小ミラー群(オン状態)
4 マイクロレンズ付きニプコウ板
5 マイクロレンズ
6 ピンホール
7 色分割鏡(ダイクロイックミラー)
8 対物レンズ
9 カバーガラス
10 共焦点像となる標本の領域
11 結像レンズ
12 2次元光検出器(カメラ)
13 光トラップ
14 回転式フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源装置と、
2次元に配列された多数の微小ミラーを備え、選択された微小ミラーにより前記光源装置からの光を点状の照明光に変換して選択された微小ミラーの集合に応じた平行光束を形成するDMDと、
多数のピンホールを有する第1ニプコウ板および多数のマイクロレンズを有する第2ニプコウ板よりなり、前記DMDからの平行光束を前記第2ニプコウ板のマイクロレンズで収束させて前記第1ニプコウ板のピンホールに結像させるニプコウ板組立と、
前記第1ニプコウ板のピンホールで結像された光束を視野の対応位置に結像させ、前記視野からの蛍光を逆向させる共焦点光学系と、
2次元光検出手段と、
前記第1および第2ニプコウ板の間に配置された色分割光学素子および該色分割光学素子からの反射光を前記光検出手段に結像するレンズ系からなる出力光学系と、
前記DMDの多数の微小ミラーを選択してオン,オフ制御する制御装置とを有し、
前記視野全体の一部を選択して照明を与えるように構成したことを特徴とする共焦点顕微鏡。
【請求項2】
前記ニプコウ板組立は高速回転させられ前記光検出手段に映像を形成することを特徴とする請求項1記載の共焦点顕微鏡。
【請求項3】
前記視野内には蛍光標本が留置されることを特徴とする請求項1記載の共焦点顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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