説明

共重合ポリヒドロキシカルボン酸

【課題】耐熱性に優れ、かつ汎用樹脂の代替として十分に使用可能な程、高い分子量と機械強度を有する共重合ポリヒドロキシカルボン酸を提供する事にある。
【解決手段】脂肪族ヒドロキシカルボン酸乃至その誘導体(A)、特に好ましくはラクタイドと環状化合物(B)、特に好ましくはフェニレンジアミンと環状化合物(C)、特に好ましくはトリレンジイソシアネートより得られる共重合ポリヒドロキシカルボン酸が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な共重合ポリヒドロキシカルボン酸に関する。詳しくは、
一般式(1)
【0002】
【化1】

【0003】
(式中R1は炭素、酸素、窒素、硫黄中から選ばれる少なくとも1種以上の原子から構成され、かつ原子数が1〜30である直鎖型の脂肪族基、分岐を有する脂肪族基、単環式脂肪族基、縮合多環式脂肪族基、環式脂肪族基が直接または架橋員により相互に連結された非縮合多環式脂肪族基の何れかである)で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸乃至その誘導体(A)由来の構成単位(a)と、
一般式(2)
【0004】
【化2】

【0005】
(式中R2は炭素、酸素、窒素、硫黄中から選ばれる少なくとも1種以上の原子から構成され、かつ原子数が3〜30である環を主鎖及び/又は側鎖に有する基であり、式中X、XはNH、Oの何れかである。X、Xは同一、又は異なっていても良い)で表される環状化合物(B)由来の構成単位(b)と、
一般式(3)
【0006】
【化3】

【0007】
(式中R3は炭素、酸素、窒素、硫黄中から選ばれる少なくとも1種以上の原子から構成され、かつ原子数が3〜30である環を主鎖及び/又は側鎖に有する基であり、式中Y、YはC=O、NHC(=O)の何れかである。Y、Yは同一、又は異なっていても良い)で表される環状化合物(C)由来の構成単位(c)を構成成分に含む共重合ポリヒドロキシカルボン酸に関する。さらに詳しくは、高い分子量と機械強度と透明性を有し、かつ耐熱性が改善された共重合ポリヒドロキシカルボン酸に関する。
【背景技術】
【0008】
近年、環境保護に対する関心が高まってきており、グリーン購入法による環境にやさしい材料の購入推進や、容器包装リサイクル法や家電リサイクル法によるプラスチック材料、電化製品のリサイクル推進等はその現われである。このような一連の流れの中で、環境負荷の低いと言われている植物由来の原料から製造されるポリマーに対する期待は日増しに高まっている。
【0009】
ポリ乳酸は透明性が高く、実用強度を有している為、植物由来の原料から製造されるポリマーの中では汎用樹脂の代替に最も近い物として期待されているが、耐熱性という観点からすると十分であるとは言い難い。それ故、十分な機械強度有しており、かつ耐熱性の高い、植物由来の原料を使用したポリマーの出現が熱望されていた。
【0010】
主鎖中にヒドロキシカルボン酸繰り返し単位と環状炭化水素を含むヒドロキシカルボン酸共重合体であって、主鎖中に占める環状炭化水素部分の含有量が5〜60重量%であるヒドロキシカルボン酸共重合体が知られているが、分子量とガラス転移温度が共に高いヒドロキシカルボン酸共重合体は開示されておらず、故に十分な機械強度有と高い耐熱性を併せ持つ植物由来の原料を使用したポリマーは知られていない。
【0011】
【特許文献1】特開2003−238667号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、耐熱性に優れ、かつ汎用樹脂の代替として十分に使用可能な程、高い分子量と機械強度を有する共重合ポリヒドロキシカルボン酸を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、
一般式(1)
【0014】
【化4】

【0015】
(式中R1は炭素、酸素、窒素、硫黄中から選ばれる少なくとも1種以上の原子から構成され、かつ原子数が1〜30である直鎖型の脂肪族基、分岐を有する脂肪族基、単環式脂肪族基、縮合多環式脂肪族基、環式脂肪族基が直接または架橋員により相互に連結された非縮合多環式脂肪族基の何れかである)で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸(A)由来の構成単位(a)と、
一般式(2)
【0016】
【化5】

【0017】
(式中R2は炭素、酸素、窒素、硫黄中から選ばれる少なくとも1種以上の原子から構成され、かつ原子数が3〜30である環を主鎖及び/又は側鎖に有する基であり、式中X、XはNH、Oの何れかである。X、Xは同一、又は異なっていても良い)で表される環状化合物(B)由来の構成単位(b)と、
一般式(3)
【0018】
【化6】

【0019】
(式中R3は炭素、酸素、窒素、硫黄中から選ばれる少なくとも1種以上の原子から構成され、かつ原子数が3〜30である環を主鎖及び/又は側鎖に有する基であり、式中Y、YはC=O、NHC(=O)の何れかである。Y、Yは同一、又は異なっていても良い)で表される環状化合物(C)由来の構成単位(c)を構成成分に含む共重合ポリヒドロキシカルボン酸を提供する。
【0020】
また、数平均分子量(Mn)が30,000〜300,000、かつガラス転移温度が70℃〜250℃を同時に満足する前記共重合ポリヒドロキシカルボン酸も本発明の好ましい形態である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によるポリヒドロキシカルボン酸共重合体は透明で、分子量及び機械強度が高く、更に耐熱性に優れているので、従来の植物由来の原料から製造されたポリマーと比較して、同等以上の透明性や機械強度を有し、更に製品の形状安定性が著しく改善された容器や包装材料、家電製品やOA機器及び自動車の部材等を提供する事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0023】
[脂肪族ヒドロキシカルボン酸乃至その誘導体(A)由来の構成単位(a)]
脂肪族ヒドロキシカルボン酸乃至その誘導体(A)由来の構成単位(a)は、一般式(1)で表される、脂肪族ヒドロキシカルボン酸乃至はその誘導体に由来する構造を言う。
一般式(1)
【0024】
【化7】

【0025】
(式中R1は炭素、酸素、窒素、硫黄中から選ばれる少なくとも1種以上の原子から構成され、かつ原子数が1〜30である直鎖型の脂肪族基、分岐を有する脂肪族基、単環式脂肪族基、縮合多環式脂肪族基、環式脂肪族基が直接または架橋員により相互に連結された非縮合多環式脂肪族基の何れかである)
【0026】
ヒドロキシカルボン酸は分子中に少なくとも1個の水酸基と少なくとも1個のカルボキシル基を含む化合物であり、例えば乳酸、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸等が挙げられる。また、ヒドロキシカルボン酸誘導体とは、例えばラクタイド、グリコライドといったヒドロキシカルボン酸の分子間脱水縮合物である環状二量体、環状オリゴマー、線状オリゴマーや、β−プロピオラクトン、ピバロラクトン、β−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンといった分子内脱水縮合物であるラクトン、更にはグリコール酸メチル、乳酸メチル、乳酸エチルといったヒドロキシカルボン酸のカルボキシル基がエステル化されたヒドロキシカルボン酸エステル等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸やヒドロキシカルボン酸誘導体が重縮合や開環重合する事により、構成単位(a)は形成される。
【0027】
これらの脂肪族ヒドロキシカルボン酸乃至その誘導体に由来する構成単位(a)は単独又は2種類以上であってもよいが、2種類以上の脂肪族ヒドロキシカルボン酸乃至その誘導体に由来する構成単位である場合は、得られる共重合ポリヒドロキシカルボン酸の透明性から少なくとも乳酸に由来する構成単位を含むもの(乳酸に由来する構成単位とその他の脂肪族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位)であることが好ましい。
乳酸由来の構成単位とその他の脂肪族ヒドロキシカルボン酸由来の構成単位を組み合わせて使用する場合、構成単位(a)中の乳酸由来の構成単位の量は、好ましくは全ヒドロキシカルボン酸由来の構成単位に対して50mol%以上、さらに好ましくは70mol%以上、より好ましくは90mol%以上である。最も好ましくは乳酸由来の構成単位のみよりなるものである。
乳酸のように分子内に不斉炭素を有する場合にはD体、L体、及びそれらの等量混合物(ラセミ体)が存在するが、それらの何れも使用することができる。好ましくはL体であり、なかでもL−乳酸に由来する構成単位が特に好ましい。
【0028】
[環状化合物(B)由来の構成単位(b)]
環状化合物(B)由来の構成単位(b)は、一般式(2)で表される、環状化合物(B)に由来する構造を言う。
一般式(2)
【0029】
【化8】

【0030】
(式中R2は炭素、酸素、窒素、硫黄中から選ばれる少なくとも1種以上の原子から構成され、かつ原子数が3〜30である環を主鎖及び/又は側鎖に有する基であり、式中X、XはNH、Oの何れかである。X、Xは同一、又は異なっていても良い)
【0031】
本発明における環状化合物とは、化学大辞典(発行、株式会社東京化学同人)に記載されている「環式化合物」と同義である。即ち、環状化合物とは、分子内に環状構造をもつ有機化合物の総称であり、同素環式化合物、複素環式化合物、脂環式化合物、芳香族化合物、単環式化合物、多環式化合物等を包含する。また本発明で示す「環」とは、前述の環状化合物を構成する環構造のみのものを言う。
【0032】
本発明で用いる環状化合物(B)とは、2個以上、好ましくは2個の水酸基、及び/又はアミノ基を有している環状化合物を言う。例えば、シクロヘキサンジアミン、ビシクロ[2.2.1]ヘプタンメチルアミン(ノルボルナンジアミン)等に代表される脂肪族環を有するジアミンやフェニレンジアミン、キシリレンジアミン等に代表される芳香族環を有するジアミン等のジアミン類、及びシクロヘキサンジオール等に代表される脂肪族炭化水素環を有するジオールやイソソルビド等に代表される脂肪族複素環を有するジオールや、キシリレングリコール等に代表される芳香族環を有するジオール等のジオール類等が挙げられる。
環状化合物(B)由来の構成単位(b)は、環状化合物(B)が脂肪族ヒドロキシカルボン酸乃至その誘導体(A)由来の官能基及び/又は環状化合物(C)由来の官能基と反応して形成される。
【0033】
これらの環状化合物(B)由来の構成単位(b)は単独又は2種類以上であってもよいが、ガラス転移温度の著しく高い共重合ポリヒドロキシカルボン酸を得る為には、アミノ基及び/又は水酸基が環に直接結合している環状化合物(例えば、シクロヘキサンジアミンやフェニレンジアミンやイソソルビド等)に由来する構成単位を含むものが好ましい。また共重合ポリヒドロキシカルボン酸のガラス転移温度を高くする為には、アミノ基を有する環状化合物(例えば、m−キシリレンジアミン、シクロヘキサンジアミンやフェニレンジアミン等)に由来する構成単位を含むものも好ましい。さらにガラス転移温度の著しく高い共重合ポリヒドロキシカルボン酸を得る為には、アミノ基が直接結合している環状化合物(例えば、シクロヘキサンジアミンやフェニレンジアミン等)に由来する構成単位を含むものもがより好ましい。
環状化合物(B)には異性体が存在する場合があるが、その何れも単独又は複数の混合物として使用してもよい。
【0034】
[環状化合物(C)由来の構成単位(c)]
環状化合物(C)由来の構成単位(c)は、一般式(3)で表される、環状化合物(C)に由来する構造を言う。
一般式(3)
【0035】
【化9】

【0036】
(式中R3は炭素、酸素、窒素、硫黄中から選ばれる少なくとも1種以上の原子から構成され、かつ原子数が3〜30である環を主鎖及び/又は側鎖に有する基であり、式中Y、YはC=O、NHC(=O)の何れかである。Y、Yは同一、又は異なっていても良い)
【0037】
環状化合物(C)は、水酸基、及び/又はアミノ基と反応してエステル結合、ウレタン結合、アミド結合、尿素結合の中から選択される少なくとも1つの結合を形成し得る2個以上、好ましくは2個の官能基を有している環状化合物であり、例えば、ノルボルナンジカルボン酸クロライドに代表される脂肪族環を有するカルボン酸クロライドやテレフタル酸クロライド、イソフタル酸クロライドに代表される芳香族環を有するカルボン酸クロライド等のカルボン酸クロライド類、及びノルボルナンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートに代表される脂肪族環を有するジイソシアネートやトリレンジイソシアネートやキシリレンジイソシアネートに代表される芳香族環を有するジイソシアネート等のジイソシアネート類等が挙げられる。環状化合物(C)由来の構成単位(c)は、環状化合物(C)が脂肪族ヒドロキシカルボン酸乃至その誘導体(A)に由来する水酸基、及び/又は環状化合物(B)に由来する官能基(水酸基及び/又はアミノ基)と反応して形成される。
【0038】
これらの中でも、ガラス転移温度の著しく高い共重合ポリヒドロキシカルボン酸を得る為には、環に直接官能基が結合している環状化合物(例えば、テレフタル酸クロライド、イソフタル酸クロライド、トリレンジイソシアネート)に由来する構造単位である事が好ましく、更に共重合ポリヒドロキシカルボン酸のガラス転移温度を高くするためには2個の官能基が共にイソシアネート基である環状化合物(例えば、トリレンジイソシアネート)に由来する構成単位である事がより好ましい。
環状化合物(C)には異性体が存在する場合があるが、その何れも単独又は複数の混合物として使用してもよい。
【0039】
[構成単位(a)と構成単位(b)の量関係]
本発明において、構成単位(a)と構成単位(b)の量関係は、構成単位(b)に対する構成単位(a)の物質量(モル)で表すと、0.001〜1000である事が好ましく、0.01〜100である事がより好ましく、1〜50である事が更に好ましい。
【0040】
[構成単位(b)と構成単位(c)の量関係]
本発明において、構成単位(b)と構成単位(c)の量関係は、構成単位(b)に対する構成単位(c)の物質量(モル)で表すと、0.8〜1である事が好ましく、0.9〜1である事がより好ましい。
【0041】
[共重合ポリヒドロキシカルボン酸に対する構成成分(a)の占める割合]
本発明において、共重合ポリヒドロキシカルボン酸に対する構成成分(a)の占める割合は重量比で1%〜99%である事が好ましく、10%〜95%である事がより好ましく、50%〜90%である事が更に好ましい。
【0042】
[共重合ポリヒドロキシカルボン酸の数平均分子量]
本発明における共重合ポリヒドロキシカルボン酸の数平均分子量(Mn)は通常方法による成形が可能で、十分な機械強度を有していれば特に制限されないが、30,000〜300,000である事が好ましく、35,000〜150,000である事がより好ましく、40,000〜100,000である事が更に好ましい。尚、本発明で示す数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(カラム温度40℃、ヘキサフルオロイソプロパノール溶媒)で測定し、ポリメチルメタクリレートを標準としてサンプルとの比較によりMnを求めたものを言う。
【0043】
[共重合ポリヒドロキシカルボン酸のガラス転移温度]
本発明における共重合ポリヒドロキシカルボン酸のガラス転移温度(Tg)は40℃〜220℃である事が好ましく、60℃〜200℃である事がより好ましく、70℃〜150℃である事が更に好ましい。尚、本発明で示すガラス転移温度は走査熱量計(島津製作所社製DSC−60)で、昇温速度10℃/分、30℃〜260℃の温度範囲で示差熱分析(DSC分析)したものを言う。
【0044】
[共重合ポリヒドロキシカルボン酸の製造方法]
本発明の共重合ポリヒドロキシカルボン酸の製造方法については、上述の脂肪族ヒドロキシカルボン酸乃至その誘導体(A)由来の構成単位(a)、環状化合物(B)由来の構成単位(b)、及び環状化合物(C)由来の構成単位(c)が含まれていれば特に制限されず、公知公用の方法を用いることができる。例えば、その製造例として、(1)(A)がL−ラクタイド、(B)がm−フェニレンジアミン、(C)がイソフタル酸クロライドである場合と、(A)がL−ラクタイド、(B)がノルボルナンジアミン、(C)がキシリレンジイソシアネートである場合を一例としてここに記す。
【0045】
製造例1:(A)がL−ラクタイド、(B)がm−フェニレンジアミン、(C)がイソフタル酸クロライドである場合
(第一工程)
L−ラクタイドとm−フェニレンジアミンを反応させ、Mnで50〜5,000のオリゴマーを合成する。反応温度、反応時間は特に制限されず、通常ヒドロキシカルボン酸の環状エステルで行われる開環重合と同様の条件で良い。一般的には反応温度は0℃〜250℃、反応時間は1分〜20時間の範囲内で任意に選択できる。また、触媒は添加してもしなくても良いが、触媒を添加する場合は、例えばオクタン酸錫のような通常ヒドロキシカルボン酸の環状エステルを開環重合する時に使用される触媒を、得られるオリゴマーに対して0.00005〜5重量%の範囲内で用いる。
(第二工程)
第一工程で得られたオリゴマーとイソフタル酸クロライドを反応させ、Mnで30,000〜300,000のポリマーを合成する。この場合の反応温度、反応時間も特に制限されず、通常アルコールと酸クロライドを反応させてポリエステルを製造する際の条件と同様で良い。一般的には反応温度は0℃〜250℃、反応時間は1分〜100時間の範囲内で任意に選択できる。また溶媒や生成した塩酸を捕集する為の塩基は使用してもしなくても良いが、溶媒を使用する場合はキシレン等の炭化水素、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、N,N−ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド等が用いられ、塩基を使用する場合にはピリジン等のアミンが用いられる。
【0046】
製造例2:(A)がL−ラクタイド、(B)がノルボルナンジアミン、(C)がキシリレンジイソシアネートである場合
(第一工程)
L−ラクタイドとノルボルナンジアミンを反応させ、Mnで50〜5,000のオリゴマーを合成する。反応温度、反応時間は特に制限されず、通常ヒドロキシカルボン酸の環状エステルで行われる開環重合と同様の条件で良い。一般的には反応温度は0℃〜250℃、反応時間は1分〜20時間の範囲内で任意に選択できる。また、触媒は添加してもしなくても良いが、触媒を添加する場合は、例えばオクタン酸錫のような通常ヒドロキシカルボン酸の環状エステルを開環重合する時に使用される触媒を、得られるオリゴマーに対して0.00005〜5重量%の範囲内で用いる。
(第二工程)
第一工程で得られたオリゴマーとキシリレンジイソシアネートを反応させ、Mnで30,000〜300,000のポリマーを合成する。この場合の反応温度、反応時間も特に制限されず、通常アルコールとイソシアネートを反応させてポリウレタンを製造する際の条件と同様で良い。一般的には反応温度は0℃〜250℃、反応時間は1分〜100時間の範囲内で任意に選択できる。また溶媒や触媒は使用してもしなくても良いが、溶媒を使用する場合はキシレン等の炭化水素、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、N,N−ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド等が用いられ、触媒はオクタン酸錫やジブチルチンラウレート等のポリウレタン製造に使用されるものが用いられる。助触媒にピリジン等のアミンを使用しても良い。
これら方法により、十分な機械強度と透明性を有し、かつ耐熱性が改善された共重合ポリヒドロキシカルボン酸を得る事ができる。
【0047】
[共重合ポリヒドロキシカルボン酸の回収方法]
本発明において反応生成物たる共重合ポリヒドロキシカルボン酸を回収する方法は、実質的に、反応生成物を所望の純度で回収できるものであれば、特に制限されない。
反応生成物の回収方法は、公知・公用のいずれの方法によっても良く、回収方法の具体例としては、例えば、溶媒を使用している場合、反応終了後、適当な温度において、反応生成物が溶解している反応液に過剰の貧溶媒(例えば、イソプロピルアルコール等)を加え、析出した反応生成物の結晶をデカンテーション又は濾過等により回収し、該結晶を溶解しない貧溶媒で充分に洗浄した後乾燥する方法等が挙げられる。
【0048】
[共重合ポリヒドロキシカルボン酸の用途]
本発明における共重合ポリヒドロキシカルボン酸の用途は特に制限されないが、機械強度、透明性、耐熱性に優れているという特徴を生かした、容器や包装材料、汎用樹脂による成形物の代替物として好適に使用する事ができる。
【0049】
本発明により得られる共重合ポリヒドロキシカルボン酸の成形加工法は特に制限されず、具体的には、射出成形、押出成形、インフレーション成形、押出中空成形、発泡成形、カレンダー成形−、ブロー成形、バルーン成形、真空成形、紡糸等の成型加工法が挙げられる。
【0050】
[共重合ポリヒドロキシカルボン酸の成形加工法と用途]
また、共重合ポリヒドロキシカルボン酸は、適当な成形加工法により、例えば、ボールペン・シャープペン・鉛筆等の筆記用具の部材、ステーショナリーの部材、ゴルフ用ティー、始球式用発煙ゴルフボール用部材、経口医薬品用カプセル、肛門・膣用座薬用担体、皮膚・粘膜用張付剤用担体、農薬用カプセル、肥料用カプセル、種苗用カプセル、コンポスト、釣り糸用糸巻き、釣り用浮き、漁業用擬餌、ルアー、漁業用ブイ、狩猟用デコイ、狩猟用散弾カプセル、食器等のキャンプ用品、釘、杭、結束材、ぬかるみ・雪道用滑り止め材、ブロック、弁当箱、食器、コンビニエンスストアで販売されるような弁当や惣菜の容器、箸、割り箸、フォーク、スプーン、串、つまようじ、カップラーメンのカップ、飲料の自動販売機で使用されるようなカップ、鮮魚、精肉、青果、豆腐、惣菜等の食料品用の容器やトレイ、鮮魚市場で使用されるようなトロバコ、牛乳・ヨーグルト・乳酸菌飲料等の乳製品用のボトル、炭酸飲料・清涼飲料等のソフトドリンク用のボトル、ビール・ウイスキー等の酒類ドリンク用のボトル、シャンプーや液状石鹸用のポンプ付き、又は、ポンプなしのボトル、歯磨き粉用チューブ、化粧品容器、洗剤容器、漂白剤容器、保冷箱、植木鉢、浄水器カートリッジのケーシング、人工腎臓や人工肝臓等のケーシング、注射筒の部材、テレビやステレオ等の家庭電化製品の輸送時に使用するための緩衝材、コンピューター・プリンター・時計等の精密機械の輸送時に使用するための緩衝材、ガラス・陶磁器等の窯業製品の輸送時に使用するための緩衝材等に使用することができるが、優れた機械強度、耐熱性及び透明性を生かした、包装用フィルム、食品用容器、卵パック、ブリスターパック、コンパクトディスク(CD)、CD−R、CD−ROM、LD、DVD、透明導電性フィルム、ミニディスク(MD)、カセットテープ、ビデオテープ、パソコンや携帯電話の筐体、家電製品やOA機器、及び自動車の部材、哺乳瓶、吸い飲み等の用途へ好適に利用する事ができる。
【0051】
[実施例]
以下に実施例をあげて本発明を詳述する。なお、本出願の明細書における実施例の記載は、本発明の内容の理解を支援するための説明であって、その記載は本発明の技術的範囲を狭く解釈する根拠となる性格のものではない。この実施例で用いた評価方法は、以下の通りである。
【0052】
1)数量平均分子量(Mn)
得られた共重合ポリヒドロキシカルボン酸の数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(カラム温度40℃、ヘキサフルオロイソプロパノール溶媒)で測定し、ポリメチルメタクリレートを標準としてサンプルとの比較によりMnを求めた。
2)示差熱分析(DSC分析)
走査熱量計(島津製作所社製DSC−60)で、昇温速度10℃/分、30℃〜260℃の温度範囲で分析した。
【実施例1】
【0053】
Purac社L−ラクタイド24.06gとm−フェニレンジアミン(東京化成試薬品を精製したもの)7.28gを200mlの4口フラスコに装入し、室温/3〜5mmHgで3時間減圧乾燥した。
【0054】
窒素で常圧に戻した後、150℃/常圧、窒素雰囲気下で昇温した。150℃に到達後、脱水トルエンで希釈したオクタン酸錫(和光試薬)1.2453g(オクタン酸錫量として0.0254g)を装入し、150℃で2時間重合を行った。
得られたオリゴマーに脱水o−ジクロロベンゼン(和光試薬、モレキュラーシーブ3Aで脱水処理を施したもの)76.75g、ピリジン(和光試薬)16.65gを200mlの4口フラスコに装入し、80℃/常圧、窒素気流下に昇温した。80℃に到達後、脱水o−ジクロロベンゼンで希釈したイソフタル酸クロライド(東京化成試薬)21.57g(イソフタル酸クロライドの量として12.92g)を滴下した。
冷却後、反応マスにクロロホルムを装入し、更に1N−塩酸メタノール溶液を装入して室温で30分撹拌した。ろ過後、イソプロピルアルコールとn−ヘキサンで洗浄を繰り返し、50℃窒素雰囲気下で乾燥させた。
得られた共重合ポリヒドロキシカルボン酸はMn=3.8万、Tg=128.9℃であった。
【実施例2】
【0055】
Purac社L−ラクタイド210.01gとノルボルナンジアミン(三井化学品)71.40gを300mlセパラブルフラスコに装入し、室温/4〜5mmHgで3時間減圧乾燥した。
窒素で常圧に戻した後、150℃/常圧、窒素雰囲気下で昇温した。150℃に到達後、脱水トルエンで希釈したオクタン酸錫(和光試薬)0.6739g(オクタン酸錫量として0.1260g)を装入し、150℃で2時間重合を行った。
重合終了後、溶融液をバットに排出し、オリゴマー269.47g(収率=95.5%)を得た。得られたオリゴマーは薄い黄色の透明な固体で、Mn=140であった。
得られたオリゴマー30.06gに脱水o−ジクロロベンゼン(和光試薬、モレキュラーシーブ3Aで脱水処理を施したもの)98.20g、ピリジン(和光試薬)0.06g、オクタン酸錫(和光試薬)0.1004gを200mlの4口フラスコに装入し、80℃/常圧、窒素気流下に昇温した。80℃に到達後、キシリレンジイソシアネート(三井化学品)8.88gを滴下した。
冷却後、ポリマーとODCBを分離した後、ポリマーにクロロホルムを装入してポリマーを溶解させた。この溶液をエバポレーターにより乾固させた後、粉砕したポリマーに1N塩酸水100mlを装入して室温で30分間撹拌した。ろ過後、イオン交換水でポリマーを水洗してポリマーを回収した。
得られた共重合ポリヒドロキシカルボン酸はMn=4.0万、Tg=97.4℃であった。
【実施例3】
【0056】
Purac社L−ラクタイド48.04gとイソソルビド(東京化成試薬)16.94gを100mlセパラブルフラスコに装入し、室温/4〜5mmHgで3時間減圧乾燥した。
窒素で常圧に戻した後、150℃/常圧、窒素雰囲気下で昇温した。150℃に到達後、脱水トルエンで希釈したオクタン酸錫(和光試薬)0.8768g(オクタン酸錫量として0.0300g)を装入し、150℃で2時間重合を行った。
重合終了後、溶融液をバットに排出し、オリゴマー53.55g(収率=82.4%)を得た。得られたオリゴマーは薄い黄色の透明な固体であった。
得られたオリゴマー20.06gに脱水o−ジクロロベンゼン(和光試薬、モレキュラーシーブ3Aで脱水処理を施したもの)48.91g、ピリジン(和光試薬)8.74gを100mlのセパラブルフラスコに装入し、80℃/常圧、窒素気流下に昇温した。80℃に到達後、脱水o−ジクロロベンゼンで希釈したイソフタル酸クロライド(東京化成試薬)18.49g(イソフタル酸クロライドの量として8.01g)を滴下した。
冷却後、反応マスにクロロホルムを装入してポリマーを溶解させ、更に1N−塩酸水を装入して室温で30分撹拌した。分液後、n−ヘキサンでポリマーを沈殿させた。n−ヘキサンで洗浄を繰り返した後、ろ過して回収したポリマーを50℃窒素雰囲気下で乾燥させた。
得られた共重合ポリヒドロキシカルボン酸はMn=3.3万、Tg=83.1℃であった。
【0057】
[比較例1]
Mn=4.0万のポリ乳酸はTg=61.7℃であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中R1は炭素、酸素、窒素、硫黄中から選ばれる少なくとも1種以上の原子から構成され、かつ原子数が1〜30である直鎖型の脂肪族基、分岐を有する脂肪族基、単環式脂肪族基、縮合多環式脂肪族基、環式脂肪族基が直接または架橋員により相互に連結された非縮合多環式脂肪族基の何れかである)で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸乃至その誘導体(A)由来の構成単位(a)と、
一般式(2)
【化2】

(式中R2は炭素、酸素、窒素、硫黄中から選ばれる少なくとも1種以上の原子から構成され、かつ原子数が3〜30である環を主鎖及び/又は側鎖に有する基であり、式中X、XはNH、Oの何れかである。X、Xは同一、又は異なっていても良い)で表される環状化合物(B)由来の構成単位(b)と、
一般式(3)
【化3】

(式中R3は炭素、酸素、窒素、硫黄中から選ばれる少なくとも1種以上の原子から構成され、かつ原子数が3〜30である環を主鎖及び/又は側鎖に有する基であり、式中Y、YはC=O、NHC(=O)の何れかである。Y、Yは同一、又は異なっていても良い)で表される環状化合物(C)由来の構成単位(c)
を構成成分に含む共重合ポリヒドロキシカルボン酸。
【請求項2】
構成単位(b)に対する構成単位(a)の物質量が0.001〜1000である事を特徴とする、請求項1記載の共重合ポリヒドロキシカルボン酸。
【請求項3】
共重合ポリヒドロキシカルボン酸に対する構成単位(a)の占める割合が重量比で1%〜99%である事を特徴とする、請求項1乃至2記載の共重合ポリヒドロキシカルボン酸。
【請求項4】
構成単位(b)に対する構成単位(c)の物質量が0.8〜1である事を特徴とする、請求項1乃至3記載の共重合ポリヒドロキシカルボン酸。
【請求項5】
脂肪族ヒドロキシカルボン酸乃至その誘導体(A)由来の構成単位(a)が乳酸に由来する構成単位である事を特徴とする、請求項1記載の共重合ポリヒドロキシカルボン酸。
【請求項6】
前記環状化合物(B)由来の構成単位(b)中のX、Xが何れもNHである事を特徴とする、請求項1又は5記載の共重合ポリヒドロキシカルボン酸。
【請求項7】
構成単位(b)のX、X及び/又は、構成単位(c)のY、Yが環に直接結合している事を特徴とする、請求項1記載の共重合ポリヒドロキシカルボン酸。
【請求項8】
下記(1)、(2)を同時に満足する事を特徴とする共重合ポリヒドロキシカルボン酸。
(1)数平均分子量(Mn)が30,000〜300,000である。
(2)ガラス転移温度が70℃〜250℃である。

【公開番号】特開2006−37055(P2006−37055A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−223504(P2004−223504)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】