説明

共重合芳香族ポリエステルおよび二軸配向フィルム

【課題】フィルムに加工したときの表面欠点数の少ない、6,6’−(アルキレンジオキシ)−2−ナフトエ酸成分を共重合した共重合芳香族ポリエステルおよびそれを用いた二軸配向フィルムの提供。
【解決手段】芳香族ジカルボン酸成分とアルキレングリコール成分とからなり、全酸成分を基準として、5モル%以上80モル%以下が6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸(ANA)成分である共重合芳香族ポリエステルであって、そして
厚み5μmのシート状に成型したときに、ナトリウム元素またはカリウム元素とイオウ元素とを有する表面高突起異物の数が、10個/100cm以下である共重合芳香族ポリエステルおよびそれを用いた二軸配向フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ジカルボン酸成分の一部が6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分である共重合芳香族ポリエステルおよびそれを用いた二軸配向フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン−2,6−ナフタレートに代表される芳香族ジカルボン酸とグリコール成分とからなる芳香族ポリエステルは、優れた機械的特性や化学的特性を有することから、繊維、フィルムまたはボトルなどの成形品に幅広く展開されている。しかしながら、さらなる市場からの高性能化の要求は強く、その改良が望まれている。
【0003】
そのような中で、ポリエチレン−2,6−ナフタレートよりも更に高性能のポリエステルとして、特許文献1〜5には6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸のエステル化合物であるジエチル−6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエートから得られるポリアルキレン−6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエートが提案されている。そして、これらの特許文献によると、このようなポリマーは非常に寸法安定性に優れ、また非常に高い剛性を発現できることが開示されている。
【0004】
しかしながら、本発明者らの研究によると、これらの公報に記載されたポリマーは、非常に融点が高く、また結晶性が過度にあることから、成形加工、特にフィルムなどに製膜しようとすると、溶融押出工程が不安定化したり、延伸時に破断しやすかったりすることが判明した。
【0005】
【特許文献1】特開昭60−135428号公報
【特許文献2】特開昭60−221420号公報
【特許文献3】特開昭61−145724号公報
【特許文献4】特開平6−145323号公報
【特許文献5】国際公開第2008/010607号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートおよびポリエチレン−6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエートに変わる新たなポリマーを研究したところ、前述の6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸を共重合成分とすると、同じヤング率ならポリエチレンテレフタレートやポリエチレン−2,6−ナフタレートと同程度の温度膨張係数を有しつつ、より低い湿度膨張係数を有する、すなわち優れた温湿度変化に対する寸法安定性を有するポリマーが得られることを見出し、先に出願した。
【0007】
しかしながら、このように優れたポリマーであるものの異物が多く、フィルムなどにしたときにそれら異物が欠点を生じやすいという問題が新たに見つかり、それを解決して、特にフィルム表面欠点の少ない高密度記録用途などに適用可能な良質なフィルムを得ることが可能となるポリエステル組成物を提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決しようと鋭意研究したところ、フィルム欠点である表面の粗大高突起を形成する核が原料中に存在する特定の微量不純物の存在と相関があることを発見し、その微量不純物量を管理することによりフィルム表面の欠点数を制御できることを見出した。具体的には、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸もしくはそのエステル形成性誘導体の製造の際に残存するアルカリ金属元素と遊離イオン系のイオウ元素とが不純物として残留し、フィルム状に成形したとき、これらが多くの表面欠点を形成することを見出し、それらを特定値以下にすることで表面欠点を少なくしたのが本発明である。
【0009】
かくして本発明によれば、芳香族ジカルボン酸成分と下記(III)式で示されるアルキレングリコール成分とからなる芳香族ポリエステルであって、全酸成分を基準として、5モル%以上80モル%以下が、下記構造式(I)で表される6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分で、20モル%以上95モル%以下が下記構造式(II)で表される芳香族ジカルボン酸成分であること、そして
厚み5μmのシート状に成型したときに、アルカリ金属元素とイオウ元素とを有する表面高突起異物の数が、10個/100cm以下である共重合芳香族ポリエステルが提供される。
【0010】
【化1】

(上記構造式(I)中のRは、炭素数1〜10のアルキレン基を、上記構造式(II)中のRはフェニル基またはナフタレンジイル基、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を示す。)
【0011】
また、本発明によれば、上記本発明の共重合芳香族ポリエステルからなる二軸配向フィルムも提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、寸法安定性に優れる6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸を共重合した新規な共重合芳香族ポリエステルに、異物などによる欠点が少ないという特性を具備させることができ、その結果、特にフィルム表面欠点の少ない高密度記録用途などに適用可能な良質な二軸配向フィルムが得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の共重合芳香族ポリエステルは、酸成分が前述の構造式(I)と構造式(II)からなり、グリコール成分が前述の構造式(III)からなる。
前述の構造式(I)で示される具体的な酸成分としては、Rの部分が炭素数1〜10のアルキレン基であるものであり、好ましくは6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、6,6’−(トリメチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分および6,6’−(ブチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分などが挙げられ、これらの中でも本発明の効果の点からは、上記一般式(I)におけるRの炭素数が偶数のものが好ましく、特にRの炭素数が2である6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分が好ましい。
【0014】
前述の構造式(II)で示される酸成分としては、テレフタル酸成分、イソフタル酸成分、2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、2,7−ナフタレンジカルボン酸成分などが挙げられる。これらの中でも、機械的特性などの点からテレフタル酸成分、2、6−ナフタレンジカルボン酸成分が好ましく、特に2、6−ナフタレンジカルボン酸成分が好ましい。
【0015】
また、前述の構造式(III)で示される具体的なグリコール成分としては、エチレングリコール成分、トリメチレングリコール成分、テトラメチレングリコール成分などが挙げられ、機械的特性などの点からグリコール成分の90モル%以上はエチレングリコール成分であることが好ましく、さらに95〜100モル%がエチレングリコール成分であることが好ましい。
【0016】
ところで、本発明の特徴の一つは、ポリエステルの酸成分の内、全酸成分のモル数を基準として、5〜80モル%の範囲で上記構造式(I)で示される6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分が共重合されていることである。6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分の割合が下限未満では、湿度膨張係数の低減効果などが発現されがたい。一方、上限は成形性などの観点から80モル%以下が好ましく、さらに50モル%未満であることが好ましい。また、驚くべきことに、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分による湿度膨張係数の低減効果は、少量で非常に効率的に発現され、50モル%未満の部分ですでに特許文献3の実施例に記載されたフィルムと同等もしくはそれ以下の湿度膨張係数が達成されており、上限以上添加しても湿度膨張係数の観点からの効果は飽和状態になるともいえる。そのような観点から、好ましい6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分の共重合量の上限は、45モル%以下、さらに40モル%以下、よりさらに35モル%以下、特に30モル%以下であり、他方下限は、5モル%以上、さらに7モル%以上、よりさらに10モル%以上、特に15モル%以上である。一方、本発明の効果の点からは、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分が多いほど、異物による欠点が生じやすいことから、50モル%以上80モル%以下が好ましく、さらに60モル%以上75モル%以下が好ましい。
【0017】
このような特定量の6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を共重合したポリエステルを用いることで、温度膨張係数と湿度膨張係数も小さい成形品、例えばフィルムなどを製造することができる。
【0018】
つぎに、本発明におけるポリエステルは、DSCで測定した融点が、200〜260℃の範囲、さらに210〜255℃の範囲、特に220〜253℃の範囲にあることが製膜性の点から好ましい。融点が上記上限を越えると、溶融押し出しして成形する際に、流動性を高めるにはより高温にすることが必要となって熱劣化しやすくなり、他方溶融温度を低くすると流動性が劣り、吐出などが不均一化しやすくなる。一方、上記下限未満になると、製膜性は優れるものの、ポリエステルの持つ機械的特性などが損なわれやすくなる。なお、通常他の酸成分を共重合して融点を下げれば、同時に機械的特性などが低下するが、製膜性が向上するためか、機械的特性なども優れたものとすることができる。
【0019】
また、本発明におけるポリエステルは、DSCで測定したガラス転移温度(以下、Tgと称することがある。)が、90〜125℃の範囲、さらに95〜123℃の範囲、特に100〜120℃の範囲にあることが、耐熱性や寸法安定性の点から好ましい。なお、このような融点やガラス転移温度は、共重合成分の種類と共重合量、そして副生物であるジアルキレングリコールの制御などによって調整できる。
【0020】
ところで、本発明の共重合芳香族ポリエステルは、厚み5μmのシート状に成型したときに、アルカリ金属元素とイオウ元素とを具備する表面高突起異物の数が、10個/100cm以下、好ましくは5個/100cm以下であることが表面欠点を抑制する上で必要である。本発明における表面高突起数とは、2枚のフィルムを重ねて波長589nmのNaランプを照射しながら5cm×10cmの範囲を観察し、突起によって形成されるニュートンリングの個数をカウントし、1.5R以上のニュートンリングを有する突起数を意味する。また、表面高突起異物中にアルカリ金属元素およびイオウ元素が含まれているかどうかは、フィルム表面をエッチングして高突起異物の核をXMA分析し、アルカリ金属元素とイオウ元素との存在を確認することで判断できる。
【0021】
また、同様な観点から、厚み5μmのシート状に成型したときに、アルカリ金属元素とイオウ元素とを具備する表面高突起異物の数が、全表面高突起異物の数を基準として、40%以下、さらに35%以下であることが表面欠点を抑制する上で好ましい。
【0022】
このような共重合芳香族ポリエステルは、後述のとおり、原料として用いる6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸もしくはそのエステル形成性誘導体として、10重量%水スラリー化したときのイオウを有する遊離陰イオン量が、イオウ元素量として10ppm以下、好ましくは2ppm以下となるものを用いることなどが好ましい。
【0023】
ところで、本発明の共重合芳香族ポリエステルは、本発明の効果を損なわない範囲で、得られる共重合芳香族ポリエステルにそれ自体公知の他の共重合成分を、例えば繰り返し単位のモル数に対して10モル%以下、さらに5モル%以下の範囲でさらに共重合していてもよい。また、本発明の共重合芳香族ポリエステルは、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の熱可塑性ポリマー、紫外線吸収剤等の安定剤、酸化防止剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、離型剤、顔料、核剤、充填剤あるいはガラス繊維、炭素繊維、層状ケイ酸塩などを必要に応じて配合してポリエステル組成物としても良く、そのようなポリエステル組成物にすることは得られる成形品に更なる特性を付与しやすいことから好ましい。なお、他の熱可塑性ポリマーとしては、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルイミド、液晶性樹脂、さらには6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の共重合量が外れるポリエステル系樹脂などが挙げられる。
【0024】
つぎに、本発明の共重合芳香族ポリエステルを得ることができる製造方法について、以下、詳述する。
まず、本発明の共重合芳香族ポリエステルは、酸成分として前記式(I)で表される6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸もしくはそのエステル形成性誘導体(以下、原料Aと称することがある。)と前記式(II)で表わされる芳香族ジカルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体(以下、原料Bと称することがある。)とを用い、グリコール成分としてアルキレングリコールとを反応させるものであり、通常は酸成分とグリコール成分とのエステル化反応もしくはエステル交換反応を第1反応とし、得られた前駆体を重縮合反応させる第2反応工程とからなる。なお、本発明における前述の構造式(I)で示される6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸および前記構造式(II)で示される芳香族ジカルボン酸は、前述のとおり、エステル形成性誘導体であってもよい。具体的なエステル形成性誘導体としては、例えば炭素数1〜3の低級アルキルエステルが好ましく挙げられ、特にジメチルエステルやジエチルエステルなどが好ましく挙げられる。
【0025】
このとき、重要なことは、全酸成分中の原料Aの割合を5〜80モル%とすることと、原料Bの割合を20〜95モル%とすること、および原料Aとして、前述のとおり10重量%水スラリー化したときのイオウを有する遊離陰イオン量が、イオウ元素量で10ppm以下になるものを使用することである。
【0026】
ところで、原料Aを水スラリーとしたときに遊離イオンとしてのイオウ元素量が前述の範囲を外れる理由としては、原料Aは特許文献1〜3に記載されているように、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸から合成され、そのときにイオウ化合物などが使用され、更にアルカリ金属元素も同様に原料Aもしくはその前駆体として一旦水溶性化合物であるカリウムあるいはナトリウム塩化合物として同様に使用されることにあり、こうして合成された原料A中に完全に除去されずに残留するためと考えられる。すなわち、硫酸根、亜硫酸根などに代表されるイオウ元素系遊離陰イオン成分の残留とカリウムあるいはナトリウムの残留成分がポリエステル組成物の合成および、シート状成形物として再溶融成形するときに粗大異物を形成し、成形品であるシート中の高突起異物の核として存在するものと考えられる。
【0027】
なお、前述の原料A中のイオウ元素の遊離イオンの量が前記上限を越える場合は、合成された原料Aの洗浄を前記範囲となるまで水あるいは反応に使用した分散媒による洗浄を繰り返し行なえばよい。なお、このような問題は、通常テレフタル酸やナフタレンジカルボン酸などの前記構造式(II)で示される原料Bでは問題としてでてこなかったことから、前記式(I)で示される原料Aを用いたとき特有の課題を解決したものといえる。また、このようにすることで副生するジアルキレングリコールなどの急増も抑制でき、結果として得られる共重合芳香族ポリエステルの融点を著しく低下させないといった効果もある。
【0028】
また、前述のアルカリ金属元素とイオウ元素とを具備する表面高突起異物を減らすには、アルカリ金属化合物を減らすことも有効である。なお、アルカリ金属元素を含有するカリウム化合物やナトリウム化合物は6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の製造過程において生成し、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸中に塩として通常残存する。そのため、異物を減らす観点からは、カリウム塩やナトリウム塩を除去すればよいが、これらカリウム化合物やナトリウム化合物は、重合反応を促進する効果や副生するジアルキレングリコールなどの生成を抑制する効果がある。また前述の遊離イオウ元素イオンが存在しない状態であれば、アルカリ金属元素の存在自体はかかる異物形成の原因ともならないことから、前述のとおり、遊離イオウ元素イオンをまずは減らすことでよい。
【0029】
ところで、前述の第一反応工程に存在させるアルキレングリコール成分のモル数は、全酸成分のモル数に対して、1.5〜10倍、さらに2〜6倍、特に3〜5倍であることが好ましい。特に、反応におけるエチレングリコールと酸成分のモル比をポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートの合成反応に比べて大きくすることで、グリコール成分にほとんど溶解しない6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸もしくはそのエステル形成性誘導体を希釈分散させて、反応系の流動性を高めることが出来る。
【0030】
また、第1反応は徐々に加温していき、最終的に260℃までの範囲で行なうことが好ましい。副生物であるジアルキレングリコール成分の生成を抑えるためには、出来るだけ低い温度で反応を完結させることが好ましい。なお、本発明では、前述のカリウム化合物やナトリウム化合物を存在させることによって、反応を常圧下で行うこともできるが、さらに生産性を高めるために加圧下で反応を行ってもよいし、マンガン化合物やカルシウム化合物などのそれ自体公知の触媒を用いても良いし、テトラブチルチタネートに代表されるチタン触媒などの重合触媒をエステル化あるいはエステル交換触媒として加えて反応性をさらに高める方法も可能である。
【0031】
さらに反応性を高める方法として原料Aとエチレングリコールとを予めエステル化反応もしくはエステル交換反応させた前駆体を種モノマーとして用意しておき、そのモノマーをベースとして新たに原料Aを添加してエステル化反応もしくはエステル交換反応を行う方法もある。こうした方法は、反応した共重合モノマーを一部残して、それを次の共重合モノマーの合成反応に用いることで新たに工程を必要とせず、さらに反応時間を短縮でき、副生するジアルキレングリコール成分の生成などを抑えられるという利点も具備する。
【0032】
また、それ自体公知のチタン化合物を第1反応の触媒として用いることもでき、その場合、共重合芳香族ポリエステルの重量を基準として、チタン元素量で5〜150ppm、さらに10〜100ppm、さらに15〜50ppmの範囲で用いることが、反応性と得られるポリマーの耐熱性や色相の点から好ましい。
【0033】
また、最終的に重縮合反応で生成される共重合芳香族ポリエステルの耐熱性を向上させる目的で、第一反応工程が終了した段階で、リン化合物を安定剤として加えても良い。リン化合物を安定剤として用いる場合は、共重合芳香族ポリエステルの重量を基準として、5〜150ppm、さらに10〜100ppm、さらに15〜50ppmの範囲で用いることが好ましい。また、チタン化合物とリン化合物の量は、それぞれの元素量(リン:P、チタン:Ti)のモル比(P/Ti)は2以下、さらに1.5以下であることが、重縮合反応の反応性の点から好ましい。
【0034】
このようにして第一反応工程によって得られた反応性生物は、さらにそれらを重縮合反応させる第二反応工程に導かれ、O−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(重量比40/60)の混合溶媒を用いて35℃で測定したときの固有粘度が0.4〜1.0の共重合芳香族ポリエステルとされる。もちろん、必要に応じて、さらに固相重合処理を行っても良い。
【0035】
さらに、第二反応工程で行なわれる重縮合反応について説明する。まず、重縮合温度は得られるポリマーの融点以上、より好ましくは融点より5℃高い温度から融点より100℃高い温度まで、さらに好ましくは融点より20℃高い温度から50℃高い温度までである。また、重縮合反応は通常50Pa以下の減圧下で行うのが好ましい。50Paより高いと重縮合反応に要する時間が長くなり且つ重合度の高い共重合芳香族ポリエステルを得ることが困難になる。
【0036】
重縮合触媒としては、少なくとも一種の金属元素を含む金属化合物が挙げられ、それ自体公知のものを用いることができる。中でも、チタン化合物はエステル化反応と重縮合反応との双方の反応で、高い活性を発揮するので好ましい。かかる触媒量は、全酸成分のモル数に対して、0.001〜0.5モル%、さらには0.005〜0.2モル%が好ましい。
【実施例】
【0037】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明では、以下の方法により、その特性を測定および評価し、特に断らない限り、ppmおよび部は、重量を基準とした値である。
【0038】
(1)固有粘度(IV)
得られたポリエステルの固有粘度はO−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(40/60重量比)の混合溶媒を用いて、温度35℃で測定し求めた。
【0039】
(2)イオウ元素イオン量の測定
原料Aを乳鉢で微粉砕後攪拌子入りポリエチレン容器に入れ、超純水(イオン交換水)にて10重量%スラリー化し、1時間分散させ、放冷後、水層をフィルター分離して、イオンクロマト分析装置(Dionex社製ICS−2000、カラム:IonPacASII−HC)にてスラリー中のイオウ元素系イオン(硫酸、亜硫酸、メタンスルホン酸の各イオン)量を測定した。なお、検出されたイオウ元素系イオン量は、原料Aの重量を基準としたときのイオウ元素量に換算し、その値をイオウ元素イオン量に示した。
【0040】
(3)カリウムおよびナトリウム金属元素量
含有カリウムおよびナトリウム金属元素量については、得られた粉体あるいは共重合ポリエステルの試料を灰化後、0.5N塩酸に溶解して、原子吸光分析装置(日立製作所製 Z−2300)にて測定した。
【0041】
(4)ポリエステル中のイオウ元素の濃度は、粒状のサンプルをアルミ板上で加熱溶融した後、圧縮プレス機で平面を有する成形体を作成し、蛍光X線装置(理学電機工業製、3270E型)にて、定量分析した。
【0042】
(5)ジアルキレングリコール量の分析
得られた共重合芳香族ポリエステルを425μmパスまで粉砕したポリマーサンプルを1g用意し、それをヒドラジン一水和物(試薬)10mlに加えて、2時間加熱還流させて加水分解したのち放冷した。その後、上澄み部分をガスクロマトグラフィー(Hewlett Packard社製 6890series GC System)にて分析し、遊離したジアルキレングリコール量を測定した。
【0043】
(6)表面高突起数
2枚のフィルムを重ねてNaランプ(波長589nm)を照射しながら5cm×10cmの範囲を観察し、突起によって形成されるニュートンリングの個数をカウントし1.5R以上のニュートンリングを有する突起数を粗大突起数とした。
【0044】
(7)表面高突起異物の核分析
ナトリウム(Na),カリウム(K)、イオウ(S)などの元素は、フィルムをエッチングして核を露出させたのちカーボン蒸着後、SEM(SEM 日立製作所製 S−2150 Scaning Electron Microscope)にて0.5μm以上の粗大粒子を確認しながら、無作為に100個以下の条件のもと100個の粗大粒子についてXMA(堀場製作所製 XRay microanalyzer EMAX 2770)分析を行い、その有無を確認した。なお、XMA分析では印加電圧20KV、2Aで100秒間電子線を照射し、20cps以上カウントされたものを検出金属元素とした。
【0045】
(8)共重合量
(グリコール成分)試料10mgをp−クロロフェノール:1,1,2,2−テトラクロロエタン=3:1(容積比)混合溶液0.5mlに80℃で溶解し、イソプロピルアミンを加えて十分に混合した後に、600MHzのH−NMRを日本電子株式会社製、JEOL A600を用いて80℃で測定し、それぞれのグリコール成分量を求めた。
(酸成分)試料60mgをp−クロロフェノール:1,1,2,2−テトラクロロエタン=3:1(容積比)混合溶液0.5mlに140℃で溶解し、150MHzの13C−NMRを日本電子株式会社製、JEOL A600を用いて140℃で測定し、それぞれの酸成分量を求めた。
【0046】
[参考例1]
容量10リットルの攪拌付きオートクレーブに2−ヒドロキシー6−ナフトエ酸1000重量部、水酸化カリウム597重量部、ジクロロエタン263重量部、水5000重量部を仕込み窒素置換後、窒素圧0.3Mpaを掛け攪拌下120℃〜130℃で反応した。反応後冷却・ろ過することにより6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸モノカリウム塩を主成分とする固体を得た。この生成物の乾燥重量は380重量部であった。この生成物を5Lのセパラブルフラスコに入れ、ついで水酸化カリウム100重量部、水5400重量部を加え100℃で加熱した。塩が完全に溶解したところで熱ろ過してエタノール5400重量部を加えた後、硫酸を加え温度75℃で酸析を行った。酸析後、析出した固体をろ過し水洗し減圧乾燥し、6,6−(エチレンジオキシ)−ジ−2−ナフトエ酸の粉体1を製造した。得られた粉体1をイオンクロマト分析にかけたところ、イオウ元素換算の遊離イオンは65ppmであった。また原子吸光分析で測定したカリウムとナトリウムの合計元素量(M)は264ppmだった。
【0047】
[参考例2]
容量10リットルの攪拌付きオートクレーブに2−ヒドロキシー6−ナフトエ酸1000重量部、水酸化カリウム597重量部、ジクロロエタン263重量部、水5000重量部を仕込み窒素置換後、窒素圧0.3Mpaを掛け攪拌下120℃〜130℃で反応した。反応後冷却・ろ過することにより6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸モノカリウム塩を主成分とする固体を得た。この生成物の乾燥重量は380重量部であった。この生成物を5Lのセパラブルフラスコに入れ、ついで水酸化カリウム50重量部、水5400重量部を加え100℃で加熱した。塩が完全に溶解したところで熱ろ過してエタノール5400重量部を加えた後、50%メタンスルホン酸水溶液を加え温度75℃で酸析を行った。酸析後、析出した固体をろ過し水洗し減圧乾燥し、6,6−(エチレンジオキシ)−ジ−2−ナフトエ酸の粉体2を製造した。得られた粉体2のイオウ元素換算の遊離イオンは17.1ppm、カリウムとナトリウムの合計元素量(M)は549ppmであった。また、さらにろ過および水洗を繰り返し、減圧乾燥して、6,6−(エチレンジオキシ)−ジ−2−ナフトエ酸の粉体3を製造した。得られた粉体3のイオウ元素換算の遊離イオンは8ppm、カリウムとナトリウムの合計元素量(M)は499ppmであった。
【0048】
[参考例3]
参考例2の方法で合成した6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の粉体22200重量部、メタノール14000重量部、テトラ−n−ブチルチタネートをチタン元素として0.14重量部加えて、オートクレーブで220℃、5.5MPaにて5時間反応させて、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸ジメチルエステルを合成し、それを再結晶化させて粉体4を製造した。得られた粉体4のイオウ元素換算の遊離イオンは0.3ppm、カリウムとナトリウムの合計元素量(M)は51ppmだった。
【0049】
[参考例4]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル350部およびエチレングリコール180部とを攪拌機、精留塔、冷却管を備えた圧力容器に仕込み、150℃まで昇温した。その時点でトリメリット酸チタンをチタン元素として0.008部を加え、反応装置全体を窒素にて0.08MPaに加圧して、圧力容器内温を235℃へと徐々に昇温した。圧力は常に0.08MPaにコントロールさせ、精留塔の塔頂温度は還流比1にて反応を続けた。235℃まで昇温したのち圧力を10分間で常圧に戻し、放圧により低下した反応物を再度過熱し220℃とし燐酸トリメチル0.09部を加え更に昇温させてエチレングリコールの一部を留出させつつ240℃にて反応終了とした。
続いて30μmの金網フィルターを通過させて反応液を重縮合容器に移した。
その後反応容器内温を徐々に昇温しながら、ゆっくりと容器内を減圧し、290℃、50Paで所定の攪拌電力に到達するまで重縮合反応を続け、固有粘度0.62dl/g、DEG量0.80wt%の2,6−ポリエチレンナフタレート(以下PENと称す)を得た。
【0050】
[比較例1]
参考例1で得られた粉体1(6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸)30kg(74.6モル)と、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル7.8kg(32.0モル)およびエチレングリコール25kgとを攪拌機、精留塔、冷却管を備えた圧力容器に仕込み、150℃まで昇温した。その時点でトリメリット酸チタンをチタン元素として2.3g相当量加え、反応装置全体を窒素にて0.25MPaに加圧して、圧力容器内温を240℃へと昇温した。圧力は常に0.25MPaにコントロールさせ、精留塔の塔頂温度は200℃になると全還流とし、200℃以下では還流比1にて反応を続けた。反応の進行に従い容器内は徐々に透明になり最終的に内温を250℃まで昇温し、液が透明であることを確認して反応終了とした。
続いて圧力を常圧に戻しトリメチルフォスフェート9.0gを加え内温を250℃まで再度昇温、余分のエチレングリコールを留出させたのち、平均目開き30μmの金網フィルターを通過させて反応液を重縮合容器に移した。
その後反応容器内温を徐々に昇温しながら、ゆっくりと容器内を減圧し、290℃、50Paで所定の攪拌電力に到達するまで重縮合反応を続け、共重合芳香族ポリエステルを製造した。
得られた共重合芳香族ポリエステルの特性を表1に示す。
【0051】
続いて当共重合ポリエステルと参考例4で合成したPENそれぞれのチップを6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分が20モル%となるようブレンドして乾燥後、溶融押し出しして厚み210μmのシートを得、その後2軸延伸機にて延伸(縦延伸:フィルム表面135℃にて5.3倍、横延伸:145℃にて8倍)し210℃にて熱固定して厚み5μmのフィルムを得た。このフィルムの表面高突起数を表1に示すが、高突起数は335個と多く、その核からイオウ元素とナトリウムあるいはカリウムを同時に検出した割合が90%を超え、イオウ元素換算の遊離イオンは65ppmが高濃度の素原料を使用したことで、合成反応あるいは成形時の再溶融による異物形成が推定される結果となった。
【0052】
[比較例2]
参考例1で得られた粉体1の代わりに、参考例2で得られた粉体2(6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸)30kg(74.6モル)を用いた以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。
得られた共重合芳香族ポリエステルの特性とフィルムの表面高突起数を表1に示すが、比較例1と同様の結果となった。
【0053】
[実施例1]
参考例1で得られた粉体1の代わりに、参考例2で得られた粉体3(6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸)30kg(74.6モル)を用いた以外は、比較例1と同様な操作を繰り返した。
得られた共重合芳香族ポリエステルの特性とフィルムの表面高突起数を表1に示すが、高突起数は8個と少なく、その核からイオウ元素とナトリウムあるいはカリウムを同時に検出した割合も30%と、イオウ元素換算の遊離イオンが低濃度の素原料を使用したことで、ナトリウムやカリウムの濃度が高いにもかかわらず、異物形成が抑制された。
【0054】
[実施例2]
参考例3で得られた粉体4(6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸ジメチルエステル)32.1kg(74.6モル)、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル7.8kg(32.0モル)、エチレングリコール25kgならびにトリメリット酸チタンをチタン元素として1.5g相当量加え、攪拌機、精留塔、冷却管を備えた圧力容器に仕込み、徐々に昇温しながら、塔頂温度が80℃で全還流でそれ以下は還流比1にて反応を続けた。反応の進行に従い容器内は徐々に透明になり、メタノールの留出が終了し塔頂温がメタノールの沸点以下に低下したことを確認したのち240℃まで昇温し、容器内の液が透明であることを最終確認した。
続いてトリメチルフォスフェート4.5gを加え、内温を250℃まで再度昇温し、余分のエチレングリコールを留出させたのち、30μmの金網フィルターを通過させて反応液を重縮合容器に移した。
その後反応容器内温を徐々に昇温しながら、ゆっくりと容器内を減圧し、290℃、50Paで所定の攪拌電力に到達するまで重縮合反応を続け、共重合芳香族ポリエステルを製造した。
続いて比較例1と同様に5μmのフィルムを得た。
得られた共重合芳香族ポリエステルの特性とフィルムの表面高突起数を表1に示す。
【0055】
[実施例3]
実施例2の共重合成分である2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステルに代えて、テレフタル酸ジメチルエステルを6.2Kg(32モル)としたほかは、実施例2と同様な操作を繰り返して共重合芳香族ポリエステルを製造した。なお、得られた共重合ポリエステルはエチレングリコールと6、6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分とテレフタル酸成分との共重合体であった。このようにして得られた共重合芳香族ポリエステルと参考例4のPENとをブレンドして6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分が20モル%となるようしたほかは、実施例1と同様な操作を繰り返して二軸配向フィルムとした。
得られた共重合芳香族ポリエステルの特性とフィルムの表面高突起数を表1に示す。
【0056】
[実施例4〜6]
表1に示すとおり、ENAとNDAの割合を変更し、参考例4のPENを使用せずに二軸配向フィルムとしたほかは実施例1と同様な操作を繰り返した。
得られた共重合芳香族ポリエステルの特性とフィルムの表面高突起数を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1中のSはイオンクロマト分析で得られたイオウ元素量、Sは蛍光X線分析で得られたイオウ元素量、Mはカリウム元素量とナトリウム元素量の合計量、ENAは、6,6’−(エチレンジオキシ)−2−ナフトエ酸成分量、NDAは2,6−ナフタレンジカルボン酸成分量、TAはテレフタル酸成分量、IVは固有粘度、DEGはジエチレングリコール成分量、全数は単位面積当たりにある1.5R以上の粗大突起数、S+M含有はイオウ元素とカリウム元素またはナトリウム元素とを有する単位面積あたりにある1.5R(リング)以上の粗大突起数、NDは検出限界である5ppmに到達しなかったことを意味する。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の共重合芳香族ポリエステルは、さらに溶融紡糸することで繊維に、溶融製膜することでフィルムやシートに、そして射出成形することでボトルや容器などの成形品とすることができる。特にフィルムとする場合、表面高突起異物による欠点の少ない二軸配向フィルムとすることができる。しかも、本発明の共重合芳香族ポリエステルは、前述のとおり、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を共重合していることから、低い温度膨張係数と湿度膨張係数とを有し、そのような優れた寸法安定性などが要求される用途に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジカルボン酸成分と下記(III)式で示されるアルキレングリコール成分とからなる芳香族ポリエステルであって、全酸成分を基準として、5モル%以上80モル%以下が、下記構造式(I)で表される6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分で、20モル%以上95モル%以下が下記構造式(II)で表される芳香族ジカルボン酸成分であること、そして
厚み5μmのシート状に成型したときに、ナトリウム元素またはカリウム元素とイオウ元素とを有する表面高突起異物の数が、10個/100cm以下であることを特徴とする共重合芳香族ポリエステル。
【化1】

(上記構造式(I)中のRは、炭素数1〜10のアルキレン基を、上記構造式(II)中のRはフェニル基またはナフタレンジイル基、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を示す。)
【請求項2】
請求項1記載の共重合芳香族ポリエステルからなることを特徴とする二軸配向フィルム。

【公開番号】特開2010−7018(P2010−7018A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−170525(P2008−170525)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】