説明

内周面に一対の段差を設けて鋳型厚み方向の偏流を抑制する浸漬ノズル

【課題】鋳型厚み方向の偏流を高いレベルで抑制できる浸漬ノズルを提供する。
【解決手段】浸漬ノズル1の内周面4であって、平面視で一対の吐出孔2の間に挟まれる位置に、整流突起5が夫々設けられる。各整流突起5の下端部5dは、立面視で鋳型幅方向に対して略平行である。下記式(1)〜(5)の条件を満足する。









【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内周面に一対の段差を設けて鋳型厚み方向の偏流を抑制する浸漬ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術として、特許文献1(特許第4076516号)は、浸漬ノズルの内周面のうち一対の吐出孔に挟まれる領域に溶鋼中のアルミナが付着して堆積することを防止すべく、浸漬ノズル内で上記の領域に溶鋼流を強制的に導く技術を開示する。この技術では、上記の領域の上方に、例えば上記領域に向かって窄まるように形成される突起が設けられる(特許文献1の図1参照)。また、吐出流が偏らないよう、上記の突起は、対向する位置に一対で設けることとしている。なお、特許文献1の段落番号0023には、上記の突起を吐出孔の上方に配設すると効果的である旨が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述したように、上記特許文献1には、吐出流が偏らないよう、上記の突起を対向する位置に一対で設ける旨が記載されている。しかし、このように単に一対で突起を設けることによって得られる効果は、格別なものではない。
【0004】
本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、鋳型厚み方向の偏流を高いレベルで抑制できる浸漬ノズルを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0005】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、本願発明の発明者らは、鋭意研究の末、浸漬ノズルの内周面であって平面視で一対の吐出孔の間に挟まれる位置に整流突起を夫々設け、平面視で吐出孔の形成方向と略平行な小径の渦流を一対で発生させると鋳型厚み方向の偏流を強力に抑制できることを見出し、以下の発明を完成させた。
【0006】
本願発明の観点によれば、タンディッシュ内に保持される溶鋼を鋳型内へ注湯するのに供される有底円筒状の浸漬ノズルであって、前記浸漬ノズルの周壁には、一対の対向する吐出孔が、前記浸漬ノズルの内側底面から上方へ離れた位置に、形成され、前記浸漬ノズルの内周面における前記吐出孔の縁の下端である吐出孔下端と前記内側底面との間の垂直方向における距離である吐出孔下端距離hd[mm]が20〜40であり、前記浸漬ノズルの内周面における前記吐出孔の縁の上端である吐出孔上端と前記内側底面との間の垂直方向における距離である吐出孔上端距離hu[mm]が50〜120であり、前記浸漬ノズルの内径φ[mm]が60〜100である、浸漬ノズルは、以下のように構成される。
【0007】
即ち、前記浸漬ノズルの内周面であって、平面視で前記一対の吐出孔の間に挟まれる位置に、整流突起が夫々設けられる。各整流突起の下端部は、立面視で鋳型幅方向に対して略平行である。・各整流突起の、平面視で前記吐出孔の形成方向に対して垂直な方向において特定する突起水平厚みA[mm]と、・各整流突起の、平面視で前記吐出孔の形成方向に対して平行な方向において特定する突起水平長さB[mm]と、・各整流突起の下端である整流突起下端と前記内側底面との間の垂直方向における距離である整流突起下端距離d1[mm]と、・各整流突起の上端である整流突起上端と上記の整流突起下端との間の垂直方向における距離である突起垂直厚みd2[mm]と、は、下記式(1)〜(5)の条件を満足する。
【0008】
【数1】

【0009】
【数2】

【0010】
【数3】

【0011】
【数4】

【0012】
【数5】

【0013】
上記の特異な整流突起を備えた浸漬ノズルの作用を、図1及び図2を参照しつつ説明する。図1は、一般的な浸漬ノズルの斜視図である。図2は、本願発明に係る浸漬ノズルの斜視図である。
【0014】
<一般的な浸漬ノズル>図1(a)は一般的な浸漬ノズルの斜視図であり、図1(b)は図1(a)の一部切欠き斜視図であり、図1(c)は図1(b)に類似する図であって、溶鋼の流れをイメージした図である。図1に示す一般的な浸漬ノズルでは、内側底面に衝突した溶鋼は、内側底面と内周面によって形成される所謂湯溜り部にて、吐出孔の形成方向を軸とする大きな単一の渦流を形成し、この渦流が型崩れすることなく吐出孔の外方へと連続することで、鋳型厚み方向に顕著な偏りを持った吐出流が形成される。そして、このように鋳型厚み方向に顕著な偏りを持った吐出流が形成されると、この吐出流は纏まった強い流れとなって凝固シェルのコーナー部へ向かい、その凝固シェルのコーナー部における再溶解・凝固遅れを招き、場合によってはブレークアウトを誘発する虞がある。
【0015】
<本願発明に係る浸漬ノズル>図2(a)は本願発明に係る浸漬ノズルの斜視図であり、図2(b)は図2(a)の一部切欠き斜視図であり、図2(c)は図2(b)に類似する図であって、溶鋼の流れをイメージした図である。図2に示す本願発明の浸漬ノズルでは、溶鋼は、内側底面に衝突する前に、前記一対の整流突起と衝突する。そして、この衝突によって浸漬ノズル内の溶鋼の流れは一旦、吐出孔の中心軸寄りに集約される。このとき、各整流突起と内側底面との間に大きな負圧域が形成され、上記溶鋼の流れは各負圧域内に、吐出孔の形成方向と略平行な軸を有する一対の小径な渦流を形成する。隣り合う各渦流は、浸漬ノズルの内側底面及び内周面、それと上記の整流突起と、によって囲まれ、型崩れすることなく吐出孔の外方へと連続することで、鋳型厚み方向の偏りが強力に抑制された吐出流が形成される。そして、このように鋳型厚み方向の偏りが強力に抑制された吐出流が形成されると、この吐出流の均一化(即ち、低速化)が実現され、上述した再溶解・凝固遅れといったようなブレークアウトを誘発する現象を回避できるようになり、もって、安定した連続鋳造が達成される。
【0016】
遡って、特許文献1には、(a)溶鋼の流れを一旦、吐出孔の中心軸寄りに集約する点、(b)隣り合う一対の小径な渦流を形成する点、(c)形成された渦流を型崩れすることなく吐出孔へ案内する点、が記載も示唆もされていない。特に、特許文献1の図1及び図3に開示の技術では、澱みに溶鋼を強制的に導くという目的で、突起の下端部がV字状となっている。これに対し、本願発明に係る整流突起は、上記(b)及び(c)を具現化すべく、下端部が鋳型幅方向に対して略平行となっている。また、特許文献1の図2及び図4、図5に開示の突起は中央で分割されているので、上記の(a)及び(b)の思想に反する。このように、本願発明と上記特許文献1とは、思想上でも全く異なるし、突起の形状に関してもはっきりした違いが認められる。
【0017】
なお、図2に開示の浸漬ノズルは本願発明を具現化した一例であり、本願発明の技術的範囲は図2によっては何ら限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】一般的な浸漬ノズルの斜視図
【図2】本願発明に係る浸漬ノズルの斜視図
【図3】図5の3−3線矢視断面図であって、本願発明の一実施形態に係る浸漬ノズルの立面断面図
【図4】図5の4−4線矢視断面図であって、本願発明の一実施形態に係る浸漬ノズルの立面断面図
【図5】図4の5−5線矢視断面図であって、本願発明の一実施形態に係る浸漬ノズルの水平断面図
【図6】本願発明の一実施形態に係る浸漬ノズルによって実現される溶鋼の流れをイメージした図
【図7】整流突起の変形例を示す図
【図8】技術的効果の確認試験の試験方法に関する第一説明図
【図9】技術的効果の確認試験の試験方法に関する第二説明図
【図10】整流突起による流体の剥離現象と、再付着の可能性について説明するための図
【図11】偏流度の評価閾値の根拠を示す第一説明図(凝固遅れ度の定義)
【図12】偏流度の評価閾値の根拠を示す第二説明図(ブレークアウトの実績)
【図13】偏流度の評価閾値の根拠を示す第三説明図(偏流度と凝固遅れ度との対応関係)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本願発明の一実施形態に係る浸漬ノズルの構成を説明する。図2に示される浸漬ノズル1は、タンディッシュ内に保持される溶鋼を鋳型内へ注湯するのに供されるものであって、有底円筒状に形成される。この浸漬ノズル1の周壁には、一対の対向する吐出孔2が、浸漬ノズル1の内側底面3から若干上方へ離れた位置に、形成される。そして、本実施形態に係る浸漬ノズル1の内周面4であって、平面視で前記一対の吐出孔2の間に挟まれる位置に、整流突起5が夫々設けられる。ここで、浸漬ノズル1の吐出孔2から吐出される溶鋼の吐出流の向きと、鋳型幅方向及び鋳型厚み方向は技術的に密接に関連するので、各図には極力、鋳型幅方向と鋳型厚み方向を図示した。図2に示すように浸漬ノズル1は、吐出孔2の形成方向6が鋳型幅方向と一致するように鋳型内に配される。各図には極力、鋳型幅方向及び鋳型厚み方向の何れにも直交する関係にある浸漬ノズル1の軸心方向も併せて図示した。以下、上記の浸漬ノズル1の構成を詳細に説明する。
【0020】
(浸漬ノズル1)
浸漬ノズル1は、図3に示すように、内径φ[mm]を有する有底円筒状であって、整流突起5と共に耐火物で一体形成される。浸漬ノズル1の内径φ[mm]は60〜100とされる。
【0021】
(吐出孔2)
吐出孔2は、図5に示すように一対で対向するように浸漬ノズル1の周壁に形成され、図4に示すように浸漬ノズル1の内周面4から外周面7へ向かって若干斜め下向きに傾斜し、図3に示すように浸漬ノズル1の内周面4においては丸みを帯びた矩形の縁8を有し、浸漬ノズル1の外周面7においても同様に丸みを帯びた矩形の縁9を有する(図4を併せて参照)。また、吐出孔2は、図5に示されるように浸漬ノズル1の内周面4から外周面7へ向かって緩やかに幅広となるように形成される。
【0022】
図3に示すように、浸漬ノズル1の内周面4における吐出孔2の縁8の下端である吐出孔下端8dと内側底面3との間の垂直方向における距離である吐出孔下端距離hd[mm]は20〜40とされる。同様に、上記の縁8の上端である吐出孔上端8uと内側底面3との間の垂直方向における距離である吐出孔上端距離hu[mm]は50〜120とされる。そして、図3において内側底面3と吐出孔下端8dと内周面4によって囲まれる空間は、一般に湯溜り部10と称され、この湯溜り部10は、主として鋳造開始時の溶鋼の飛び散りを防止する機能を発揮するものである。図4に示す立面視で吐出孔2の内底面2aが水平と成す角度θである下向き吐出角θ[deg.]は概ね10〜55とされる。
【0023】
(整流突起5)
<断面形状>図3に示すように、鋳型幅方向に対して垂直な断面において、整流突起5は略台形状であって、内周面4から浸漬ノズル1の軸心Cに向かって次第に窄まる形状である。即ち、整流突起5は、軸心C側下方へ向かって傾斜する平面としての突起上面11と、軸心C側上方へ向かって傾斜する平面としての突起下面12と、突起上面11と突起下面12を連結する突起内周面13と、を有する。図3に示す断面視で突起上面11及び突起下面12は水平に対して概ね30〜60度で傾斜する。上記の突起内周面13は平面であって、鋳型厚み方向に対して直交する関係にある。この突起内周面13は図4に示す断面視において鋳型幅方向に延在し、特に突起内周面13の下端線13d(整流突起5の下端部5d)は、図4の立面視で鋳型幅方向に対して平行とされる。同様に、突起内周面13の上端線13u(整流突起5の上端部5u)も、図4の立面視で鋳型幅方向に対して平行とされる。端的に言えば、本実施形態において整流突起5は、鋳型幅方向に延在するように形成される。
【0024】
<突起垂直厚み>図4に示す符号d2は、上記の上端線13u(整流突起上端)と下端線13d(整流突起下端)との間の垂直方向における距離である突起垂直厚みd2[mm]である。即ち、整流突起5の突起垂直厚みd2[mm]は、突起内周面13に着目して特定する。
【0025】
<整流突起下端距離>図4に示す符号d1は、上記の下端線13dと内側底面3との間の垂直方向における距離である整流突起下端距離d1[mm]である。即ち、整流突起5の整流突起下端距離d1[mm]は、突起内周面13と内側底面3に着目して特定する。
【0026】
<突起水平厚み>図5に示す符号Aは、整流突起5の、図5の平面視で吐出孔2の形成方向6に対して垂直な方向において特定する突起水平厚みA[mm]である。具体的には、突起水平厚みA[mm]は、図5の平面視で吐出孔2の形成方向6に対して垂直であり、浸漬ノズル1の軸心Cを通る直線Eと整流突起5との重複距離として特定される。
【0027】
<突起水平長さ>図5に示す符号Bは、整流突起5の、図5の平面視で吐出孔2の形成方向6に対して平行な方向において特定する突起水平長さB[mm]である。具体的には、突起水平長さB[mm]は、図5において破線と実線で特定される整流突起5の、鋳型幅方向における最大長さそのものとして特定される。
【0028】
以上の形状をした整流突起5は、更に、下記式(1)〜(5)の条件を満足する。
【0029】
【数1】

【0030】
【数2】

【0031】
【数3】

【0032】
【数4】

【0033】
【数5】

【0034】
以上に、本実施形態に係る浸漬ノズル1の構成を説明した。なお、強度や溶損などの観点から、面と面は鈍角で交差するものとし、面と面の交差する部位には適度な丸みを付すのが好ましい。ただし、丸みを付すことで上記各寸法が不明瞭となった場合は、丸みが付されていない場合を想定したときに特定できる寸法を代わりに採用するものとする。
【0035】
次に、図6に基づいて、本実施形態に係る浸漬ノズル1の作用を説明する。本実施形態に係る浸漬ノズル1では、図6(a)に示すように浸漬ノズル1の上端から下端へ向かって流れてきた溶鋼は、内側底面3に衝突する前に、一対の整流突起5と衝突する。そして、この衝突によって、浸漬ノズル1内の溶鋼の流れは一旦、吐出孔2の中心軸2c寄りに集約される。このとき、各整流突起5と内側底面3との間に大きな負圧域Fが形成され、上記溶鋼の流れは各負圧域F内に、図6(b)に示すように吐出孔2の形成方向6と略平行な軸を有する一対の小径な渦流Pを形成する。隣り合う各渦流Pは、図6(a)に示すように浸漬ノズル1の内側底面3及び内周面4、それと上記の整流突起5と、によって囲まれ、型崩れすることなく吐出孔2の外方へと連続することで、鋳型厚み方向の偏りが強力に抑制された吐出流が形成される。
【0036】
このとき、図4の立面視で、整流突起5の下端部5dが鋳型幅方向に対して平行となるように形成されるので、(b)隣り合う一対の小径な渦流Pが形成され易く、更に、(c)形成された渦流Pを型崩れすることなく吐出孔へ案内できるようになっている。また、図6(a)で示すように負圧域Fが概ね正方形に近いかたちで形成されるので、同様に、(b)隣り合う一対の小径な渦流Pが形成され易く、更に、(c)形成された渦流Pを型崩れすることなく吐出孔へ案内できるようになっている。
【0037】
以上に本願発明の好適な実施形態を説明したが、上記の整流突起5は、以下のように変更することができる。
【0038】
即ち、図7(a1)に示す平面視で、整流突起5の突起内周面13は、内周面4と同じように円弧を描くように形成されてもよい。突起水平厚みA[mm]や突起水平長さB[mm]、整流突起下端距離d1[mm]、突起垂直厚みd2[mm]の測定基準については、図7(a1)及び(a2)に示すように、上記実施形態と全く同様である。
【0039】
また、図7(b1)に示す平面視で、上記実施形態に係る整流突起5は、鋳型幅方向における端が斜めにカットされて形成されてもよい。突起水平厚みA[mm]や突起水平長さB[mm]、整流突起下端距離d1[mm]、突起垂直厚みd2[mm]の測定基準については、図7(b1)及び(b2)に示すように、上記実施形態と全く同様である。
【0040】
以下、上記実施形態に係る浸漬ノズル1の技術的効果を確認するための試験に関して説明する。上述した各数値範囲などは、下記の試験により合理的に裏付けられている。
【0041】
≪試験:試験概要≫
各試験は、鋳型と溶鋼に代えて水槽と水を採用した所謂水モデル試験である。各試験は、浸漬ノズル1の構造や水槽のサイズなどに細かな変更を加えながら実施した。浸漬ノズル1の構造や水槽のサイズなどの詳細な設定値は後述の表1を参照されたい。各試験に採用された浸漬ノズル1は、二つの観点から評価した。即ち、図8に示す鋳型厚み方向の偏流を評価する試験と、図9に示す水面流速を評価する試験である。
【0042】
≪試験:第一評価試験:図8≫
本試験においては、浸漬ノズル1に所定の水流量Wat[L/min]で水が供給されている定常状態において、100秒間、太丸で図示した地点A〜D(広面の流速が最も大きくなる位置、即ち、流速の差が最も顕著に現れる位置)における水の流速を電磁流速計(型番:KENEK VM−806H VMT2−200−04PL)を用いて0.1秒間隔で測定した。図8における数値の単位はmmであり、符号Wは水槽の幅(鋳型幅に相当する。)を、符号Dは水槽の厚み(鋳型厚みに相当する。)を夫々示す。そして、下記式(6)に従って鋳型厚み方向における偏流度TW[m/s]を求める。ただし、下記式(6)において、Tは任意の測定開始時点を意味し、ΔTは100秒であり、v(t)はX地点における水の流速の測定結果(ただし、離散データである。)を意味する。
【0043】
【数6】

【0044】
そして、下記式(7)の関係を満たすとき、該当する試験について、「○(ブレークアウトの危険性なし)」と評価し、満たさないとき、「×(ブレークアウトの危険性あり)」と評価することとする。下記式(7)における評価の閾値の根拠については、本明細書の末尾に添付する。
【0045】
【数7】

【0046】
≪試験:第二評価試験:図9≫
本試験においては、浸漬ノズルに所定の水流量Wat[L/min]で水が供給されている定常状態において、10分間、太丸で図示した地点E〜Fにおける水の流速を第一評価試験で用いたものと同じ電磁流速計を用いて1秒ごとに測定する。図9における数値の単位はmmであり、符号Wは水槽の幅(鋳型幅に相当する。)を、符号Dは水槽の厚み(鋳型厚みに相当する。)を夫々示す。地点Eにおける水の流速の測定結果(離散データである。)を10秒ごとに区分し、各区分における平均値を求め、60個の平均値のうち最大の平均値を選出する。地点Fについても同様とする。そして、地点Eにおいて選出した最大の平均値と、地点Fにおいて選出した最大の平均値と、のうち大きい方で定義される「水面流速v[m/s]」を求め、この水面流速v[m/s]が下記式(8)を満たすとき、該当する試験について、「○(パウダー巻き込みが発生する可能性が低い)」と評価し、満たさないとき、「×(パウダー巻き込みが発生する可能性が高い)」と評価することとする。下記式(8)における評価の閾値の根拠については、本明細書の末尾に添付する。
【0047】
【数8】

【0048】
≪試験:個別の試験条件及び試験結果≫
次に、各試験の個別の試験条件とその試験結果を下記表1に示す。下記表1において、列タイトル「W mm」は水槽のサイズであって、実機における鋳型幅に相当する。列タイトル「D mm」も水槽のサイズであって、実機における鋳型厚みに相当する。下記表1の水槽のサイズは、一般的なスラブ向けの鋳型を想定したものである。列タイトル「Air NL/min」は試験中に浸漬ノズルに導入する空気の流量を意味する。この空気は、図2に示される浸漬ノズルの上端近傍から吹き込んだ。列タイトル「SV開閉方向」とあるのは、スライドバルブの開閉方向を意味する。即ち、一般に、浸漬ノズル1の上端には、鋳型への溶鋼の流量を調整するためのスライドバルブが設けられており、このスライドバルブは、バルブをある特定の方向にスライドさせ、このスライドの開度を調整することで上記流量を調整できるようになっている。このバルブのスライド方向が鋳型厚み方向と一致する場合、列タイトル「SV開閉方向」において該当する箇所に「鋳型厚方向」と記載し、このバルブのスライド方向が鋳型幅方向と一致する場合、同様に、「鋳型幅方向」と記載した。列タイトル「整流段差形状」において、「直線型」とあるのは図5に相当し、「円弧型」とあるのは図7(a1)に相当し、「切欠き型」とあるのは図7(b1)に相当する。列タイトル「整流段差位置」において、「吐出孔の間」とあるのは、図5の平面視で一対の吐出孔2の間に挟まれる位置に整流突起5を夫々配置したことを意味し、「吐出孔の上」とあるのは、図3の立面視において吐出孔2の縁8の吐出孔上端8uの上方の位置に整流突起5を夫々配置したことを意味する。列タイトル「数式(1)」などについては、各数式を参照されたい。なお、該当する数式を満足する場合を「○」とし、そうでない場合を「×」とした。列タイトル「総合評価」には、上記数式(7)及び(8)の両方が同時に満足されている場合を「○」とし、それ以外のすべてを「×」とした。なお、試験No.34では、他の特別な理由でこの総合評価の欄が「×」となっている。
【0049】
【表1】

【0050】
(まとめ)
(請求項1)
以上説明したように上記実施形態において、浸漬ノズル1は、以下のように構成される。即ち、浸漬ノズル1の内周面4であって、平面視で一対の吐出孔2の間に挟まれる位置に、整流突起5が夫々設けられる。各整流突起5の下端部5dは、立面視で鋳型幅方向に対して略平行である。下記式(1)〜(5)の条件を満足する。
【0051】
【数1】

【0052】
【数2】

【0053】
【数3】

【0054】
【数4】

【0055】
【数5】

【0056】
以上の構成によれば、鋳型厚み方向の偏りが強力に抑制された吐出流が形成される。そして、このように鋳型厚み方向の偏りが強力に抑制された吐出流が形成されると、この吐出流の均一化(即ち、低速化)が実現され、上述した再溶解・凝固遅れといったようなブレークアウトを誘発する現象を回避できるようになり、もって、安定した連続鋳造が達成される。
【0057】
(考察)
以下、上記表1の結果を詳細に考察する。
【0058】
(整流段差形状)
試験No.1〜38と、試験No.39〜42、試験No.43〜46によれば、整流段差形状のバリエーションとして、図5に示す直線型に加え、図7(a1)に示す円弧型、図7(b1)に示す切欠き型も十分、有効であることが実証された。
【0059】
(整流段差位置)
試験No.14と、その他の試験と、の対比によれば、上記の整流突起5を吐出孔2の上方に配置すると、鋳型厚み方向の偏流を抑制できなかった。これは、整流突起5を吐出孔2の上方に配置すると、先ず、図1(c)に示す大きな単一の渦流の形成を許容することになるからだと考えられる。なお、実際に試験してはいないが、整流突起5が一対で設けられず片方だけしか設けられない場合は、もはや、一対の渦流Pの形成は期待できないだろう。また、試験No.15では、整流突起5を設けなかった。このときの溶鋼の流れはまさに図1(c)の通りだった。
【0060】
(数式1、数式2)
試験No.15〜26によれば、図5の平面視において整流突起5が過小であると、十分な偏流抑制効果が得られなかった。このときの溶鋼の流れはまさに図1(c)の通りだろう。即ち、図6(a)に示す負圧域Fが十分には確保されなかったからだと考えられる。一方、図5の平面視において整流突起5が過大であると、水面流速v[m/s]が過大となり、パウダー巻き込みが発生する可能性が高くなった。これは、図5の平面視において整流突起5が過大となったため、この平面視で特定できる浸漬ノズル1の流路断面積が小さくなって溶鋼の流速が上昇し、この結果、吐出流の流速が過大となったからだと考えられる。また、吐出流の流速が過大となったため、凝固シェルのコーナー部への入熱も同様に過大となったと推測できる。なお、凝固シェルのコーナー部への入熱が過大であると、凝固シェルの成長が阻害され、凝固シェルの厚み不足に起因するブレークアウトが発生する可能性が高くなる。
【0061】
(数式3)
試験No.27〜33によれば、d1/φが0.5に近いほど、偏流抑制効果が高いことが判る。これは、図6(a)に示すように、整流突起5と内側底面3との間に形成される負圧域Fがより正方形に近く、この負圧域Fが正方形に近ければ近いほど各渦流Pが発生し易く、また、発生した渦流Pが真円形に近く、更には、発生した渦流Pが型崩れし難いからだと考えられる。
【0062】
(数式4)
試験No.27によれば、整流突起5の整流突起下端距離d1[mm]が吐出孔2の吐出孔下端8dを下回るほど過小であると、偏流抑制効果が得られないことが判る。これは、一対の小径な渦流Pが浸漬ノズル1の内周面4によって出口を塞がれた状態となり、安定した吐出を実現できないからだと考えられる。また、試験No.33によれば、整流突起下端距離d1[mm]が吐出孔2の吐出孔上端8uを上回るほど過大であると、十分な偏流抑制効果が得られないことが判る。これは、数式3を満たさないこととなるからだと考えられる。また、それでも数式3を満たすようにすると、必然的に吐出孔の面積が過小となって吐出流の流速が過大となり、凝固シェルのコーナー部への入熱も同様に過大となるだろう。
【0063】
(数式5)
試験No.34によれば、図3に示す整流突起5の断面を正方形に近づけた場合、試験の評価は一応は良好だったが、実機の鋳造で使用に耐え得る十分な強度を確保することはできない。この意味で、試験No.34の総合評価は×としている。また、試験No.38によれば、図3に示す整流突起5の断面を扁平形状とすると、十分な偏流抑制効果が得られないことが判る。これは、図10に示すように、整流突起5の突起上面11との衝突で剥離した溶鋼の流れが整流突起5の突起内周面13上に再付着し、この結果、整流突起5の下方に、十分な大きさの負圧域Fが形成されなかったからだと考えられる。なお、『機械工学便覧 基礎編α4 流体工学 初版P.47』には、『流れ方向の長さがBで厚さがHである角柱において、・・・、B/H>6.0では、前縁角から剥離した剪断層は側壁上で再付着し・・・』なる記載がある。この記載は、上記実施形態において数式(5)の右辺に6.0を採用することとした補強的な裏付けとなっている。
【0064】
なお、上記式(1)〜(5)において、比を用いて表現してるのは、以下の理由による。即ち、一般的な連続鋳造において、浸漬ノズル1の管内や湯溜り部10は十分に乱流場となっており、浸漬ノズル1の内側の形状や、浸漬ノズル1の内側における溶鋼の流れには相似則が適用され、サイズが異なっても比が一定であれば溶鋼の流れも変化しないだろうからである。
【0065】
<第一評価試験の閾値の根拠:図11〜13>
(凝固遅れ度の定義)
凝固遅れ度は凝固遅れの程度の指標である。図11を参照されたい。図11は、偏流度の評価閾値の根拠を示す第一説明図(凝固遅れ度の定義)である。この凝固遅れ度Cg[%]は鋳片を鋳造方向に対して垂直に切断して得られる切断面に視認し得る負偏析線に基づき鋳片のコーナー部夫々において観念でき、凝固遅れ度Cg[%]は下記式(9)に基づいて求められる。下記式(9)中、A[mm]は狭面から5[cm]離れた地点における負偏析線と広面との間の距離であり、B[mm]は負偏析線が広面に最も接近する地点における負偏析線と広面との間の距離である。本明細書中において「凝固遅れ度Cg[%]」とは、原則として、一の切断面から観念できる4つの凝固遅れ度Cg[%]のうち最大のものを意味するものとする。
【0066】
【数9】

【0067】
(ブレークアウトの実績)
次に、図12を参照されたい。図12は、偏流度の評価閾値の根拠を示す第二説明図(ブレークアウトの実績)である。即ち、100チャージ分、連続鋳造(種々の鋳造条件は完全には統一していない。)を実施し、各チャージごとに、(1)任意に1本の1次切断スラブを選択し、この1次切断スラブの鋳片表面に湯漏れの痕跡があった場合は、当該痕跡を含むように鋳片を鋳造方向に対して垂直に切断し、この切断により得られる切断面において凝固遅れ度Cg[%]を測定し、(2)この1次切断スラブの鋳片表面に湯漏れの痕跡がなかった場合は、任意に選択した箇所で鋳片を鋳造方向に対して垂直に切断し、この切断により得られる切断面において凝固遅れ度Cg[%]を測定した。そして、本図の横軸に、凝固遅れ度Cg[%]ごとに分類し、各凝固遅れ度Cg[%]に属するチャージのうち湯漏れの痕跡があったチャージの回数の割合を縦軸に対応させて描いた。本図によれば、凝固遅れ度Cg[%]が40未満となるように操業すれば、鋳型直下B.O.の発生を防止できることが判る。
【0068】
(偏流度と凝固遅れ度との対応関係)
次に、図13を参照されたい。図13は、偏流度の評価閾値の根拠を示す第三説明図(偏流度と凝固遅れ度との対応関係)である。即ち、ある形状の浸漬ノズルをアクリルで作成し、水モデル試験にて、この浸漬ノズルの上述した偏流度TW[m/s]を求めた。次に、この浸漬ノズルと同じ形状の浸漬ノズルを耐火物で作成し、作成した浸漬ノズルを用いて、実機試験にて概ね100チャージ分、操業した。その際の鋳造条件は、鋳型幅D[mm]:800〜2100、鋳型厚みD[mm]:230〜280、鋳造速度Vc[m/min]:1.0〜2.2とした。そして、各チャージに対応する鋳片をボトム側から25mの地点で切断し、上記の凝固遅れ度Cg[%]を夫々測定した。これで、ある形状の浸漬ノズルの偏流度TW[m/s]と、この浸漬ノズルに対応する凝固遅れ度Cg[%]の100サンプルと、を取得したこととなる。上記の試験を、形状が異なる3つの浸漬ノズルを用いて同様に実施した。そして、図13に示されるように、浸漬ノズルの偏流度TW[m/s]を横軸にとり、凝固遅れ度Cg[%]の平均値に3σを加えた値を縦軸にとって、グラフ化した。本図によれば、凝固遅れ度Cg[%]を40未満とするには、水モデル試験における偏流度TW[m/s]を0.35以下とする必要があることが判る。
【0069】
<第二評価試験の閾値の根拠>
例えば特開2003−80353号公報に記載されているように、メニスカス流速が0.6m/sを超えるとパウダー巻き込みが発生する可能性が高くなる。
【符号の説明】
【0070】
1 浸漬ノズル
2 吐出孔
3 内側底面
5 整流突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンディッシュ内に保持される溶鋼を鋳型内へ注湯するのに供される有底円筒状の浸漬ノズルであって、
前記浸漬ノズルの周壁には、一対の対向する吐出孔が、前記浸漬ノズルの内側底面から上方へ離れた位置に、形成され、
前記浸漬ノズルの内周面における前記吐出孔の縁の下端である吐出孔下端と前記内側底面との間の垂直方向における距離である吐出孔下端距離hd[mm]が20〜40であり、
前記浸漬ノズルの内周面における前記吐出孔の縁の上端である吐出孔上端と前記内側底面との間の垂直方向における距離である吐出孔上端距離hu[mm]が50〜120であり、
前記浸漬ノズルの内径φ[mm]が60〜100である、
浸漬ノズルにおいて、
前記浸漬ノズルの内周面であって、平面視で前記一対の吐出孔の間に挟まれる位置に、整流突起が夫々設けられ、
各整流突起の下端部は、立面視で鋳型幅方向に対して略平行であり、
・各整流突起の、平面視で前記吐出孔の形成方向に対して垂直な方向において特定する突起水平厚みA[mm]と、
・各整流突起の、平面視で前記吐出孔の形成方向に対して平行な方向において特定する突起水平長さB[mm]と、
・各整流突起の下端である整流突起下端と前記内側底面との間の垂直方向における距離である整流突起下端距離d1[mm]と、
・各整流突起の上端である整流突起上端と上記の整流突起下端との間の垂直方向における距離である突起垂直厚みd2[mm]と、
は、下記式(1)〜(5)の条件を満足する、
ことを特徴とする浸漬ノズル。
【数1】

【数2】

【数3】

【数4】

【数5】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−188376(P2010−188376A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35028(P2009−35028)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】