説明

内外二重筒体の製造方法および製造装置

【課題】例えば自動車用エンジンの排気系におけるフィニッシャーパイプや排気管あるいは各種の断熱性管体等として用いられる内外二重筒体を容易・安価に製造することのできる製造方法および製造装置を提供する。
【解決手段】少なくとも一端側に縦断面U字状の折り返し部を有する横断面円形または長円形の内外二重筒体を製造するに当たり、筒状芯金20の内周面側に素材筒体11を配置し、その素材筒体11の一端側を上記筒状芯金20の一端側から外周面側に沿って順次移動させることによって上記素材筒体11の少なくとも一部を表裏反転させて内外二重筒体を製造することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車用エンジンの排気系におけるフィニッシャーパイプや排気管あるいは各種の断熱性管体等として用いられる内外二重筒体の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車用エンジンの排気系においては、一般に車体の後下部にマフラを配置し、そのマフラからの排気を車体後方の大気中に放出するためのテールパイプにフィニッシャーパイプを装着することによって、車体後方からの見栄えや外管体裁を良くすることが知られている。
【0003】
そのフィニッシャーパイプとしては、従来種々のものが提案されており、最近は例えば横断面円形または長円形の金属筒体を用い、その少なくとも後端側が縦断面U字状に折り返した形状となるように内外二重に形成したものが多く用いられている。
【0004】
この場合、従来は内側の筒体と外側の筒体とを各々別々に成形加工して一方の端部をU字状に折り返し、その折り返し端に他方の筒体の端部を溶接して連結固定するようにしているが、部品点数および組立工数が多く、製作が面倒でコストが増大すると共に、往々にして上記溶接部が外部に露出して外管体裁を損ねる等の問題があった。
【0005】
そこで、下記特許文献1においては、素材となる板材を、その厚さ方向一方に絞り加工を施して有底筒状に形成した後、その底部を上記と反対方向に絞り加工して内外二重の筒体よりなるフィニッシャーパイプを製造することが提案されているが、上記のような絞り加工においては絞り深さに限度があり、軸線方向に長い内外二重の筒体を製造することは難しい。また往々にして加工時に板厚のバラツキや歪みが生じて剛性や耐久性が低下する等のおそれがある。
【0006】
【特許文献1】特開2003−166424号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の問題点に鑑みて提案されたもので、上記のような内外二重の筒体を容易・安価に製造することのできる製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために本発明による内外二重筒体の製造方法および製造装置は、以下の構成としたものである。すなわち、本発明による内外二重筒体の製造方法は、少なくとも一端側に縦断面U字状の折り返し部を有する横断面円形または長円形の内外二重筒体を製造するに当たり、筒状芯金の内周面側に素材筒体を配置し、その素材筒体の一端側を上記筒状芯金の一端側から外周面側に沿って順次移動させることによって上記素材筒体の少なくとも一部を表裏反転させて内外二重筒体を製造することを特徴とする。
【0009】
また本発明による内外二重筒体の製造装置は、少なくとも一端側に縦断面U字状の折り返し部を有する横断面円形または長円形の内外二重筒体を製造するための装置であって、素材筒体を表裏反転させるための筒状芯金と、上記素材筒体の一端部を把持する一対のブランクホルダとを備え、上記筒状芯金を固定台座上に配置固定すると共に、上記筒状芯金の内周面側に上記素材筒体を配置し、その素材筒体の一端側に形成した外向きのフランジ部を上記筒状芯金の一端側から径方向外方に突出させると共に、その突出させたフランジ部を上記一対のブランクホルダで把持した状態で上記筒状芯金の一端側から外周面側に沿って順次移動させることによって上記素材筒体の少なくとも一部を表裏反転させて内外二重筒体を製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上記のように本発明による内外二重筒体の製造方法は、筒状芯金の内周面側に配置した素材筒体の一端側を、筒状芯金の一端側から外周面に沿って順次移動させることによって上記素材筒体の少なくとも一部を表裏反転させて内外二重筒体を製造するようにしたから、横断面円形または長円形の内外二重筒体を容易・安価に製造することが可能となる。
【0011】
また本発明による内外二重筒体の製造装置は、前記の構成であるから素材筒体を表裏反転するための筒状芯金と、その筒状芯金を配置固定するための固定台座とを備え、上記素材筒体の一端側に外向きのフランジ部を形成すると共に、そのフランジ部を把持する一対のブランクホルダを設け、そのブランクホルダで上記素材筒体のフランジ部を把持した状態で上記筒状芯金の一端側から外周面側に沿って順次移動させるだけの簡単な構成により上記のような内外二重筒体を容易に製造することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、自動車用エンジンの排気系に用いるフィニッシャーパイプを製造する場合を例にして本発明による内外二重筒体の製造方法および製造装置を具体的に説明する。
【0013】
図1(a)は本発明による内外二重筒体の製造方法および製造装置を適用した内外二重筒体としてのフィニッシャーパイプの一例を示す縦断側面図、同図(b)はその背面図である。
【0014】
図示例のフィニッシャーパイプ1は、内筒部1aと外筒部1bとよりなり、それらは同材質の金属、本実施形態においてはステンレス鋼板により一体に形成されている。また本実施形態は外筒部1bよりも内筒部1aの方が短く形成されているが、略同長もしくは外筒部1bよりも内筒部1aの方が長く形成することもできる。
【0015】
さらに上記フィニッシャーパイプ1は後端折り返し部(図1(a)で右端部)1cをパイプ1の軸線方向と直角方向の面αに対して所定の角度θ(図の場合は約20度)傾斜させた構成であるが、上記の直角方向の面αと平行に形成することもできる。図中、2はテールパイプで、その後端部に上記フィニッシャーパイプ1の内筒部1aを嵌合すると共に、図に省略した取付バンド等で上記フィニッシャーパイプ1をテールパイプ2に抜け止め保持させる構成である。
【0016】
上記のようなフィニッシャーパイプ1等の内外二重筒体を製造するに当たっては、例えば以下の要領で製造すればよく、その一例を図2〜図4のプロセス説明図に従って順を追って説明する。先ず、図に省略したステンレス鋼材等の素材板(本実施形態においてはSUS304が用いられている)を所定の形状に打抜き加工(ブランク加工)して図2(a)に示すような打ち抜き素材板10を形成する。
【0017】
次いで、上記素材板10を、図2(b)のように円筒状にロール巻きして、その両端部10a・10aを突き合せ、シーム溶接等で接合して素材筒体11を形成する。その際、図示例のように上記端部10a・10aの両側にそれぞれ延長突部10bを形成し、その延長突部10bを含めて溶接したのち上記突部10bを図2(c)のように切除すると、端部に溶接不良等が生じることなく上記の突き合せ溶接部を全長に亘って良好に接合することができる。
【0018】
上記のようにして円筒状に形成した素材筒体11は、引き続き図2(c)のように横断面長円形(楕円形)にフォーム加工するもので、そのフォーム加工後の筒体11の一端11Aは、本実施形態においては図2(c)のA−A断面図である図3(a)に示すように、筒体11の軸線方向と直角方向の面αに対して前記折り返し部1cと略同等の角度θだけ傾斜した状態に形成されている。また上記と反対側の端部11Bは後述する表裏反転加工(以下、単に反転加工ともいう)を施したときに筒体11の軸線方向と直角方向にほぼ平らになるように僅かに傾斜状態に形成されている。
【0019】
次に、上記素材筒体11を反転加工して該筒体11の少なくとも一部を内外二重に形成するもので、それに先だって図3(b)および(c)に示すように上記筒体11の一端に予めフランジ部11Fを形成しておくと、上記の反転加工を容易に実行することができる。そのフランジ部11Fは、本実施形態においては上記の傾斜した端部11Aを外方に所定の角度δ、図の場合は約90度、すなわちほぼ直角に折り曲げて形成するようにしたもので、その際、先ず図3(b)のように筒体周面の延長線Lに対して約45度の角度に折り曲げてから更に同図(c)のように筒体周面に対してほぼ直角に折り曲げると上記フランジ部11Fを容易に形成することができる。
【0020】
上記のようにして素材筒体11の一端にフランジ部11Fを形成したところで、その筒体11を、筒状芯金等を用いて表裏を反転する表裏反転加工を施して、その少なくとも一部が内外二重に形成された内外二重筒体を形成する。図4はそのプロセスの一例を示すもので、先ず同図(a)に示すように筒状芯金20の内周面側に素材筒体11を配置し、その素材筒体11の一端側の例えば上記フランジ部11Fを図に省略したホルダ等で把持して同図(b)〜(c)のように上記筒状芯金20の一端側(図の場合は上端側)から筒状芯金20の外周面に沿って順次U字状に折り返しながら表裏を反転させて内外二重筒体を形成すればよい。
【0021】
図5は上記のようなプロセスに従って内外二重筒体を製造する装置の一例を示す概略構成図であり、図示例の装置は同図(a)に示すように複数本の支持脚21上に配置固定した固定台座22上に、芯金支持台23が一体的に設けられ、その芯金支持台23上に筒状芯金20が配置固定されている。その筒状芯金20内の芯金支持台23上にはワーク送り込み用の可動台25が可動ロッド24を介して上下動可能に設けられ、その可動台25上にワークとしての前記素材筒体11が前記フランジ部11Fを上にして載置される。
【0022】
また前記固定台座21の上方には、上記素材筒体11のフランジ部11Fを把持する上下一対のリング状のブランクホルダ26・27がそれぞれ可動ロッド28,29を介して上下動可能に設けられ、その両ブランクホルダ26・27の対向面は、上記フランジ部11Fの傾斜部に合わせて図5(a)のように図で左右方向中央部が傾斜した状態に形成されている。
【0023】
さらに上記リング状のブランクホルダ26・27内には、センタリング芯金30が可動ロッド31を介して上下動可能に設けられ、そのセンタリング芯金30の下部細径部30aを上記素材筒体11の上部内面に嵌合することによって、上記素材筒体11および筒状芯金24が所定の中心位置に位置決め保持される構成である。
【0024】
上記の構成において、素材筒体11の反転加工を行うに当たっては、先ず上記一対のブランクホルダ26・27のうちの下側のブランクホルダ27を、図5(a)のようにその上面が筒状芯金20の上端位置とほぼ同じ高さ位置になるように配置し、上側のブランクホルダ26とセンタリング芯金30とは上方に退避移動させた状態で筒状芯金20内に素材筒体11をフランジ部11Fを上にして挿入嵌合する。
【0025】
その状態で、センタリング芯金30を下降移動させて図5(b)のように素材筒体11の上部に挿入嵌合すると、そのセンタリング芯金30と筒状芯金20との間に素材筒体11の上部が狭持されると同時に、筒状芯金20と素材筒体11の上部が所定の位置に位置決め固定される。また上記筒体11のフランジ部11Fは、筒状芯金20の上方において該筒状芯金20よりも半径方向外方に突出した状態で下側のブランクホルダ27上に位置し、その状態で上側のブランクホルダ26を下降移動させると、両ブランクホルダ26・27間にフランジ部11Fが狭持される。
【0026】
次いで、図6(a)に示すように素材筒体11を載置した可動台25を上昇させながら上記フランジ部11Fを狭持した両ブランクホルダ26・27を下降移動させると、素材筒体11の上部が、筒状芯金23の上端部で順次U字状に折り返されながら表裏が反転した後、筒状芯金2の外周面に沿って下降移動する。それによって、上記素材筒体11は、筒状芯金2の内周面側に位置する内筒部11aと、筒状芯金2の外周面側に位置する外筒部11bとで内外二重に形成されていく。
【0027】
そして、それらの内外筒部11a・11bが図6(b)のように所定の長さ形成されたところで、上記可動台25の上昇動作と、ブランクホルダ26・27の下降動作を停止すれは、図6(b)のような所望長さの内外二重筒体が形成され、それを装置から取り出せば図7に示すような内外二重筒体11’が製造される。そして、その内外二重筒体11’を図の鎖線位置Cで切断してフランジ部11F’側の端部を切除し、必要に応じて所望の加工を施せば前記図1に示すようなフィニッシャーパイプ1が得られるものである。
【0028】
上記のように本発明においてはフィニッシャーパイプ等の内外二重筒体を製造するに当たり、筒状芯金20の内周面側に素材筒体11を配置し、その素材筒体11を上記筒状芯金20の一端側から外周面側に沿って順次表裏反転させて内外二重筒体を製造するようにしたから上記のような内外二重筒体を容易・安価に製造することができる。
【0029】
特に、横断面円形の内外二重筒体はもとより、図示例のような横断面長円形(楕円形を含む)の内外二重筒体にあっても容易に製造可能であり、さらに内外二重筒体の一端折り返し部を該筒体の軸線方向と直角方向の面αに対して所定の角度θ傾斜させた内外二重筒体にあっても容易に製造できるものである。
【0030】
なお上記実施形態は、自動車用エンジンの排気系に用いるフィニッシャーパイプを例にして説明したが、これに限らず、例えばマフラや排気管等に用いる内外二重筒体にも適用可能であり、さらにはエンジンの排気系に限らす吸気系用の内外二重筒体や、その他たとえば魔法瓶やソーラー用集熱管あるいは燃料電池用改質器等の断熱性や保温性もしくは耐久性等を意図した各種の内外二重筒体にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
以上のように本発明による内外二重筒体の製造方法および製造装置は、上記の構成であるから内外二重の筒体を容易・安価に製造することが可能となるもので、内外二重筒体を製造する場合の製法の選択の自由度を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】(a)は本発明を適用した内外二重筒体としてのフィニッシャーパイプの一例を示す縦断側面図、(b)はその背面図。
【図2】(a)〜(c)は内外二重筒体を製造する際の前工程の一例を示す説明図。
【図3】(a)〜(c)はフランジ部の形成工程の一例を示す説明図。
【図4】(a)〜(c)は表裏反転加工プロセスの一例を示す説明図。
【図5】(a)は内外二重筒体の製造装置の一例を示す一部縦断正面図、(b)は素材筒体のフランジ部をブランクホルダで把持した状態の同上図。
【図6】(a)は上記ブランクホルダを下降移動した状態の上記製造装置の一部縦断正面図、(b)は加工終了状態の同上図。
【図7】上記製造装置で製造した内外二重筒体の縦断面図。
【符号の説明】
【0033】
1 内外二重筒体(フィニッシャーパイプ)
1a 内筒部
1b 外筒部
10 素材板
11 素材筒体
11A、11B 端部
11F フランジ部
11a 内筒部
12b 外筒部
2 テールパイプ
20 筒状芯金
21 支持脚
22 固定台座
23 固定台
24 可動ガイドロッド
25 可動台
26、27 ブランクホルダ
28、29 可動ロッド
30 センタリング芯金
31 可動ロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一端側に縦断面U字状の折り返し部を有する横断面円形または長円形の内外二重筒体を製造するに当たり、筒状芯金の内周面側に素材筒体を配置し、その素材筒体の一端側を上記筒状芯金の一端側から外周面側に沿って順次移動させることによって上記素材筒体の少なくとも一部を表裏反転させて内外二重筒体を製造することを特徴とする内外二重筒体の製造方法。
【請求項2】
少なくとも一端側に縦断面U字状の折り返し部を有する横断面円形または長円形の内外二重筒体を製造するための装置であって、素材筒体を表裏反転させるための筒状芯金と、上記素材筒体の一端部を把持する一対のブランクホルダとを備え、上記筒状芯金を固定台座上に配置固定すると共に、上記筒状芯金の内周面側に上記素材筒体を配置し、その素材筒体の一端側に形成した外向きのフランジ部を上記筒状芯金の一端側から径方向外方に突出させると共に、その突出させたフランジ部を上記一対のブランクホルダで把持した状態で上記筒状芯金の一端側から外周面側に沿って順次移動させることによって上記素材筒体の少なくとも一部を表裏反転させて内外二重筒体を製造することを特徴とする内外二重筒体の製造装置。
【請求項3】
上記筒状芯金と素材筒体の端部内方に挿入嵌合して上記筒状芯金と素材筒体とをほぼ同心状に保持するセンタリング芯金を備えてなる上記請求項2に記載の内外二重筒体の製造装置。
【請求項4】
前記の突出させたフランジ部を一対のブランクホルダで把持した状態で筒状芯金の一端側から外周面側に沿って移動させる際に、前記素材筒体を前記筒状芯金の一端側に移動付勢する可動台を備えてなる上記請求項2または3に記載の内外二重筒体の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−77873(P2007−77873A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−266654(P2005−266654)
【出願日】平成17年9月14日(2005.9.14)
【出願人】(000175766)三恵技研工業株式会社 (50)
【Fターム(参考)】