説明

内服液剤

【課題】ビタミンB2類を配合した液剤においてチオクト酸類の光安定性が改善された内服液剤を提供すること。
【解決手段】チオクト酸類及びビタミンB2類及びポリフェノール類を配合してなる内服液剤のポリフェノール類を、プロアントシアニジン、フラバノール、フラボノール、フラボン、没食子酸、クロロゲン酸、アントシアニン、及びこれらの誘導体から選ばれる少なくとも一種を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チオクト酸類とビタミンB2類を配合してなる内服液剤に関する。さらに詳しくは、チオクト酸類とビタミンB2類を配合した内服液剤に、ポリフェノール類を同時に配合することによって、チオクト酸類の光安定性を改善させた内服液剤に関し、医薬、食品の分野に応用できるものである。
【背景技術】
【0002】
チオクト酸(別名:α−リポ酸)は、ミトコンドリア内においてグルコースを出発物質とする一連のエネルギー産生経路において、補酵素として働く。チオクト酸の生理作用としては、代謝系において糖のエネルギー消費を促進する作用を有する。また、チオクト酸は抗酸化能を有していることから、酸化されたビタミンC、E等を再生する作用や、白内障、糖尿病の改善にもある程度の効果を発揮することが報告されている。
【0003】
近年ではチオクト酸を含有した化粧品や医薬品等が検討されている(特許文献1,2参照)。例えば特許文献1には、チオクト酸、ジヒドロリポ酸、その代謝物並びにチオクト酸の光学異性体、及び少なくとも一種の塩を、所定量含有させた医薬品が開示されている。これによって、鎮痛作用、抗炎症作用、抗糖尿病作用、免疫刺激作用等を改善させることが可能となる。
【0004】
また、特許文献2には、チオクト酸、生理学的に許容されるその誘導体又は塩、及び式(I):HC−(CHn1−(CH=CH)n3−(CHn2−COOH(式中、n1、n2は互いに独立して3〜9の整数の値を有し、n3は2〜6の整数の値を有し、炭素原子数は18、20又は22である)で表される化合物を単一又は組み合わせて糖尿病治療のために使用する方法が開示されている。これによって糖尿病の進行を改善することが可能である。
【特許文献1】特開平6−135832号公報
【特許文献2】特表2004−508399号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、チオクト酸は水溶液中において不安定であり、酸化分解や光分解が起こりやすいことが知られている。また、ビタミンB2類を同時に配合した際には、曝光時にビタミンB2類から生じるラジカルとチオクト酸類が反応することがChemPhys Chem.,vol5 Issue1,(2004)に報告されている。
【0006】
特許文献1に開示されている医薬品や食品添加剤は、カプセルや錠剤であり、気軽に摂取することができる飲料や食品ではない。
【0007】
以上の課題に鑑み、本発明では、ビタミンB2類を配合した際の、チオクト酸類の光安定性を改善し、安定化したチオクト酸が添加された内服液剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、チオクト酸及びビタミンB2類を配合した液剤に、ポリフェノール類を配合することにより、チオクト酸の光安定性が改善されることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち本発明は、チオクト酸類及びビタミンB2類及びポリフェノール類を配合してなる内服液剤を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ポリフェノール類を配合したことにより、ビタミンB2類配合時におけるチオクト酸類の光安定性が改善された内服液剤を提供することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明に使用する「チオクト酸類」には、チオクト酸及びその誘導体、それらの薬理学的に許容できる塩が含まれる。なお、本発明に使用するチオクト酸類の配合量は、適宜選択して使用でき、チオクト酸に換算して、1日当たり0.5mgから300mgが好ましく、1mgから200mgであることが更に好ましく、5mgから100mgであることが最も好ましい。例えば100mLに換算すると0.0005質量%から0.3質量%(W/V%)であり、0.001質量%から0.2質量%であることがより好ましく、0.05質量%から0.1質量%であることが最も好ましい。
【0013】
本発明に使用する「ポリフェノール類」とは、分子内に複数のフェノール性水酸基を持つ成分のことをいう。ポリフェノール類は、構造の違いからフラボン、フラボノール、フラバノン、イソフラボン、フラバノール、カルコン、アントシアニン等に分類される。その他に没食子酸、クロロゲン酸、アントシアニン等もポリフェノール類に含まれ、更には比較的分子量が大きく分子内水酸基の多いタンニン等や、フラバノール(カテキン)が重合したプロアントシアニジンも含まれる。
【0014】
このようなポリフェノール類の中でも特に、没食子酸、プロアントシアニジン、フラバノール、フラボノール、フラボン、クロロゲン酸、アントシアニン、及びそれらの誘導体を用いることが好ましい。なお、これらのポリフェノール類としては、合成品だけでなく、果実や種子等の抽出物、及びこれらをすり潰した果汁等も使用することができる。
【0015】
このような抽出物及び果汁としては、バラ科、アカバナ科、ツバキ科、スグリ科、シソ科、アカネ科、アオギリ科、タデ科に属する植物の抽出物及び/又は果汁が好ましい。ここで、バラ科の主な代表例としては、リンゴ、ナシ、モモ、イチゴ等が、ツバキ科としては茶が、アカバナ科としては月見草、マツヨイグサ等が、スグリ科としてはアカスグリ、シロスグリ、カシス、グーズベリーが、シソ科としてはシソ、ハッカ、マンネロウ、メボウキ等が、アカネ科としてはコーヒー、クチナシ等が、アオギリ科としてはカカオ、コーラ等が、タデ科としてはソバ、ダイオウ等が挙げられる。
【0016】
このような植物の抽出物及び/又は果汁由来のポリフェノール類の主な代表例としては、リンゴポリフェノール類、月見草ポリフェノール類、カシスポリフェノール類、茶ポリフェノール類、シソポリフェノール類、カカオポリフェノール類、ソバポリフェノール類、コーヒーポリフェノール類等が挙げられる。
【0017】
本発明に使用するビタミンB2類とは、通常可食性のものをいう。具体的にはリボフラビン、リン酸リボフラビン、酪酸リボフラビン、及びそれらの塩等が挙げられる。本発明において、配合することができるビタミンB2類の配合量は、栄養摂取量の面からリボフラビンに換算して、1日当たり0.1mgから100mgであり、0.5mgから50mgであることが更に好ましく、1mgから30mgであることが最も好ましい。また、この配合量は、例えば100mlに換算すると、内服液剤全体の0.0001質量%(W/V%)から0.1質量%(W/V%)であり0.0005質量%から0.05質量%であることがより好ましく、0.001質量%から0.03質量%が最も好ましい。
【0018】
本発明に係る内服液剤において、チオクト酸類とポリフェノール類の配合比は、チオクト酸類1重量部に対して通常0.0002質量部から10000質量部であり、好ましくは0.001質量部から5000質量部であり、より好ましくは0.01質量部から1000質量部である。
【0019】
本発明に係る内服液剤のpHは、2.5から7.0であり、好ましくは2.5から5.5である。pH2.5未満の酸性域では酸味が強すぎて服用性の点で好ましくなく、pHが7.0を越える塩基性域では、チオクト酸の酸化安定性が著しく低下してしまうためである。したがって、本発明の内服液剤のpHを上記範囲に保つために、必要に応じてpH調整剤を配合してもよい。pH調整剤としては、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸、酒石酸、乳酸、コハク酸等の有機酸及びそれらの塩類、塩酸等の無機酸、水酸化ナトリウム等の無機塩基等が挙げられる。
【0020】
本発明の内服液剤にはその他の成分として、ビタミン類、他のミネラル類、アミノ酸及びその塩類、生薬、生薬抽出物、カフェイン、ローヤルゼリー等を本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合することができる。
【0021】
さらに必要に応じて、抗酸化剤、着色剤、香料、矯味剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、甘味料等の添加物を本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合することができる。
【0022】
なお、飲料中で、上記のチオクト酸類が十分な効果を奏するために酸化防止剤、香料、各種エステル類、有機酸類、有機酸塩類、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、色素類、乳化剤、保存料、調味料、甘味料、酸味料、果汁エキス類、野菜エキス類、花蜜エキス類、pH調整剤、品質安定剤等の添加剤を単独、あるいは併用して配合しても良い。
【0023】
例えば甘味料としては、砂糖、ぶどう糖、果糖、異性化液糖、グリチルリチン、ステビア、アスパルテーム、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖等が挙げられる。酸味料としては、天然成分から抽出した果汁類のほか、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸、フマル酸、リン酸が挙げられる。クエン酸もしくはリンゴ酸を飲料中に0.1g/Lから5g/L含有することが好ましい。また、酸化防止剤としては、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、が挙げられる。
【0024】
本発明に係る内服液剤は、常法により調製することができ、その方法は特に限定されるものではない。通常、各成分を採り、適量の精製水で溶解した後、pHを調整し、残りの精製水を加えて容量調製し、必要に応じてろ過、滅菌処理することにより得られる。
【0025】
本発明に係る内服液剤は、例えばシロップ剤、ドリンク剤等の医薬品や医薬部外品等の各種製剤、健康飲料等の各種飲料に適用することができる。
【0026】
飲料に使用する容器は、医薬品や医薬部外品等の各種製剤、健康飲料等の各種飲料に使用される小瓶や、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(いわゆるPETボトル)、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと複合された紙容器、瓶等の通常の形態で提供することができる。
【0027】
また、上記の内服液剤は例えば、瓶に充填後、加熱殺菌できる場合にあっては食品衛生法に定められた所定の殺菌条件で製造される。PETボトル、紙容器のようにレトルト殺菌できないものについては、あらかじめ上記と同等の殺菌条件、例えばプレート式熱交換器等で高温短時間殺菌後、一定の温度まで冷却して、容器に充填する等の方法が採用される。また無菌下で、充填された容器に別の成分を配合して充填してもよい。さらに、酸性下で加熱殺菌後、無菌下でpHを中性に戻すことや、中性下で加熱殺菌後、無菌下でpHを酸性に戻す等の操作も可能である。
【実施例】
【0028】
[実施例1〜8、比較例1〜3]
チオクト酸の光安定性試験の検討を行なった。まず、下記の表1に記載の配合割合でチオクト酸飲料(実施例1から実施例8、比較例1から3)を製造した。なお、これらの試料は、茶褐色ガラス瓶に充填後キャップを施した。
ここで、表1に記載の「抽出物」とは、各植物から公知の方法で抽出したものをいう。本実施例では、市販品の抽出物を用いた。以下に各抽出物のポリフェノール含量を示す。
緑茶抽出物:約90%
リンゴ抽出物:約50%
大豆抽出物:約10%
ソバ抽出物:約80%
シソ抽出物:約30%
カカオ抽出物:約20%
カシス抽出物:約10%
大豆抽出物:約10%
ブドウ種子抽出物:約30%
【表1】

【0029】
これらの試料の光安定性は、以下の試験方法に従い実施した。
【0030】
実施例及び比較例の各試料を、D65光安定性試験機にて30万ルクスで曝光させた。これらの試料中のチオクト酸含有量を、液体クロマトグラフ法(カラム:ODS-80TS(東ソー)、移動相:水:メタノール:酢酸=50:50:1、流速:1mL/min、検出波長:333nm)により定量し、比較例1を100としたときのチオクト酸分解率を算出した。
【0031】
調製直後のチオクト酸含有量に対する、30万ルクスで曝光後のチオクト酸分解率(%)を表2及び表3に示す。これらの表から明らかなように、実施例1から8は、比較例1から3と比べ、チオクト酸の光安定性が改善されていた。なお、実施例1及び比較例1については2回試験を行った。この結果からポリフェノール類を配合することによりビタミンB2類同時配合時のチオクト酸類の光安定性を改善できることが明らかとなった。
【表2】

【表3】

【0032】
[実施例9]
下記の表4に記載の成分を、精製水に溶解させた後、pHを3.0に調整して、精製水を加えて全量を100mLとした。この液をろ紙でろ過し、滅菌装置を用いて、ろ液を80℃で25分間加熱滅菌した後、ガラス瓶に充填しキャップを施して内服液剤を得た。
【表4】

【0033】
[実施例10]
下記の表5に記載の成分を、精製水に溶解した後、pHを4.0に調整し、精製水を加えて全量を100mLとした。この液をろ紙でろ過し、滅菌装置を用いて、ろ液を80℃で25分間加熱滅菌した後、ガラス瓶に充填しキャップを施して内服液剤を得た。
【表5】

【0034】
[実施例11]
下記の表6に記載の成分を、精製水に溶解した後、pHを3.0に調整し、精製水を加えて全量を100mLとした。この液をろ紙でろ過し、滅菌装置を用いて、ろ液を80℃で25分間加熱滅菌した後、ガラス瓶に充填しキャップを施して内服液剤を得た。
【表6】

【0035】
実施例1から8と同様の方法で、上記の実施例9から11に係る内服液剤の光安定性を検討したところ、チオクト酸の光安定性が改善されていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオクト酸類、ビタミンB2類、及びポリフェノール類を含む内服液剤であって、
前記ポリフェノール類は、プロアントシアニジン、フラバノール、フラボノール、フラボン、没食子酸、クロロゲン酸、アントシアニン、及びこれらの誘導体から選ばれる少なくとも一種を含む内服液剤。
【請求項2】
前記チオクト酸類は、チオクト酸又はその誘導体の少なくともどちらか一種を含む請求項1に記載の内服液剤。
【請求項3】
前記ビタミンB2類は、リボフラビン又はその誘導体の少なくともどちらか一種を含む請求項1に記載の内服液剤。
【請求項4】
前記ポリフェノール類は、バラ科、アカバナ科、ツバキ科、スグリ科、シソ科、アカネ科、アオギリ科、タデ科に属する植物から選ばれる少なくとも一種の植物の抽出物及び/又は果汁を含む請求項1に記載の内服液剤。
【請求項5】
前記ポリフェノール類は、リンゴポリフェノール類、月見草ポリフェノール類、カシスポリフェノール類、茶ポリフェノール類、シソポリフェノール類、ソバポリフェノール類、カカオポリフェノール類、コーヒーポリフェノール類から選ばれる少なくとも一種を含む請求項1に記載の内服液剤。
【請求項6】
pHが2.5から7.0である請求項1から5のいずれかに記載の内服液剤。

【公開番号】特開2007−262054(P2007−262054A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−45635(P2007−45635)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【復代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
【Fターム(参考)】