説明

内燃機関、内燃機関システムおよび内燃機関の制御方法

【課題】灯油を燃料油として排ガス性状の悪化を防止しつつ燃費向上および騒音低減を改善できるディーゼルエンジンを提供する。
【解決手段】燃料油の全噴射量に占めるパイロット噴射量比を5%以上25%以下、好ましくは5%以上20%以下とする。燃料油の噴射時期を噴霧燃料油の中心線がシリンダー筒内壁に接しない時点から上死点前20°まで、好ましくは上死点前40°から上死点前25°までとする。シリンダー筒内の熱発生率から得られた燃料油の5%が燃焼する時点を、クランク角で上死点前5°から上死点後5°までとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、灯油を燃料油として用いる内燃機関、内燃機関システムおよび内燃機関の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
灯油ヒートポンプは、住宅地域に設置されるので燃料消費率(燃費)向上や騒音低減を図る必要がある。
しかしながら、現状の灯油ヒートポンプは燃料油の一段噴射が行われているために、灯油中の軽質分の急激な燃焼により圧力上昇の増加、引いては騒音の増加になる。
この燃焼を改善し、圧力上昇を抑制して騒音の抑制を図る必要がある。
【0003】
一方、ディーゼルエンジンは、燃焼効率が良く、自動車、船舶、建設機械、発電機などに搭載され、広く社会に普及している。
しかしながら、ディーゼルエンジンの排出ガス中には、窒素酸化物(NOx)、粒子状物質(Particulate Matter:PM)、全炭化水素(Total Hydro Carbon:THC)などの環境汚染物質が多く含まれている。
そこで、環境汚染物質の低減を目的として、各種対策が講じられている(例えば、特許文献1ないし特許文献3参照)。
【0004】
特許文献1に記載のものは、特にセタン価もしくはセタン指数が45以下で、特に90容量%留出温度が270℃〜360℃のディーゼルエンジン用燃料油を用いて、多段噴射機構付ディーゼルエンジンのパイロット噴射量比を30%以下にすると、燃費や排ガスが浄化されることが示されている。
しかしながら、この特許文献1では灯油などの軽質燃料油に対応した最適な運転方法が示されていない。
【0005】
特許文献2に記載のものは、燃焼室の中央に円柱状もしくは円錐上の突起がある燃焼室を設けて主燃料油を噴霧させずに突起先端に当てて、環状溝に燃料油を拡散させることを目的としている。このパイロット噴射の目的は、燃焼室の突起物に燃料油を噴霧させ、液分散による主噴射の着火遅れにより低騒音・低NOxを実現することとしている。
しかしながら、この特許文献2では実施例が記載されていないので不明であるが、通常は燃料油が燃焼壁に接すると燃焼温度が低下し燃焼不良が生じると言われている。
【0006】
特許文献3に記載のものは、パイロット噴射時期を上死点前80°(80°BTDC)から上死点後40°(40°ATDC)が望ましいとしている。従来のパイロット噴射時期が上死点前10°(10°BTDC)から上死点後(10°ATDC)で行われているが、この方法ではメイン噴射の着火が抑制され、急激な筒内圧力上昇が抑えられ、振動騒音が抑制される。しかしながら、この方法ではパイロット噴射による燃焼が生じている時期にメイン噴射を行うので酸素不足によりスモークの増加を招くという欠点がある。そこで、特許文献3では、好ましい噴射条件を提案している。
しかしながら、単一噴射ノズルで、請求範囲の噴射時期範囲で燃料油を噴射するとシリンダー内壁に燃料油が当たり、スカッフィングやラッカリングの原因となる。
また、二つの噴射ノズルを用いて、パイロット噴射とメイン噴射とを区別して行えば可能であるが、機器が複雑となる欠点を有している。
【0007】
【特許文献1】特開2005−290041号公報
【特許文献2】特開平10−252476号公報
【特許文献3】特開2004−176593号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、従来の特許文献1ないし特許文献3に記載のような方法では、軽質燃料油である灯油を用いる場合、排ガス性状を悪化させずに燃費向上と騒音低減とが十分に改善されていないのが現状である。
【0009】
本発明は、このような状況を考慮して、灯油を燃料油として排ガス性状の悪化を防止して燃費向上および騒音低減が得られる内燃機関、内燃機関システムおよび内燃機関の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に記載の内燃機関は、灯油を燃料油として用いる内燃機関であって、メイン噴射前に多段の燃料油噴射を行う直噴式であり、前記燃料油噴射は、1つの多噴口噴射ノズルを用いて多段噴射をするコモンレール方式を有したことを特徴とする。
この発明では、灯油を燃料油としてメイン噴射前に多段の燃料油噴射を行う直噴式で、燃料油噴射として、コモンレール方式で1つの多噴口噴射ノズルを用いて多段噴射をする。
このことにより、軽質燃料油である灯油を内燃機関の燃料油として用いても、排ガス性状の悪化を防止して燃費向上および騒音低減を図ることができる。
【0011】
そして、本発明では、請求項1に記載の内燃機関であって、前記多噴口噴射ノズルが4つ以上の噴口を有すディーゼルエンジンである構成とすることが好ましい。
この発明では、多噴口噴射ノズルとして、4つ以上、好ましくは6つ以上13個以下の噴口を有するディーゼルエンジンに適用する。
このことにより、ディーゼルエンジンとしての燃焼効率が良く広く社会に普及して製造技術の転用が容易である有益な点を維持して、排ガス性状の悪化を防止しつつ燃費向上および騒音低減の改善が得られる。
ここで、噴口が4つより少なくなると噴口数が少なく均一噴霧が得られにくくなるおそれがある。なお、噴口が13個より多くなると構成の煩雑化によりコストが増大するおそれがある。このため、多噴口噴射ノズルとして、4つ以上、好ましくは6つ以上13個以下の噴口を有するディーゼルエンジンに適用することが好ましい。
【0012】
また、本発明では、請求項1または請求項2に記載の内燃機関であって、パイロット噴射機構を備え、前記燃料油の全噴射量に占めるパイロット噴射量比は5%以上25%以下であり、前記燃料油の噴射時期は噴霧される前記燃料油の中心線がシリンダー筒内壁に接しない時点から上死点前20°までに設定された構成とすることが好ましい。
この発明では、パイロット噴射機構における燃料油の全噴射量に占めるパイロット噴射量比を5%以上25%以下、好ましくは5%以上20%以下とし、燃料油の噴射時期を噴霧される燃料油の中心線がシリンダー筒内壁に接しない時点から上死点前20°までとしている。
このことにより、軽質燃料油である灯油を燃料油として用いても、排ガス性状の悪化を防止して燃費向上および騒音低減が得られる。
ここで、燃料油の全噴射量に占めるパイロット噴射量比が5%より少なくなると、パイロット噴射の効果が低減し、メイン一段噴射の効果のみという不都合が生じるおそれがある。一方、パイロット噴射量比が25%より多くなると、高負荷運転時に予混合気の急激な燃焼が生じ、騒音が大きくなるという不都合が生じるおそれがある。このため、パイロット噴射量比を5%以上25%以下、好ましくは5%以上20%以下とする。
また、燃料油の噴射時期が噴霧される燃料油の中心線がシリンダー筒内壁に接しない時点より進角化、すなわち早期化、すなわち燃料油がディーゼルエンジンの燃焼室からはみ出る程に過早噴射を行うと、燃料油がシリンダー筒内壁に当たり、スカッフィングやラッカリングが発生してシリンダーを損傷させるおそれがある。一方、燃料油の噴霧時期が上死点前20°より遅角化、すなわち遅くなると、パイロット噴射による予混合化が十分に行われないおそれがある。このため、燃料油の噴霧時期を、噴霧される燃料油の中心線がシリンダー筒内壁に接しない時点から上死点前20°までとすることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明では、請求項3に記載の内燃機関であって、前記燃料油の噴射時期は、上死点前40°から上死点前25°までに設定された構成とすることが好ましい。
この発明では、燃料油の噴射時期を、上死点前40°から上死点前25°までとしている。
このことにより、軽質燃料油である灯油を燃料油として用いても、排ガス性状の悪化を防止して燃費向上および騒音低減が得られる。
ここで、燃料油の噴射時期が上死点前40°より進角化、すなわち早期化すると、燃料油がシリンダー筒内壁に当たり、スカッフィングやラッカリングが発生してシリンダーを損傷させるおそれがある。一方、燃料油の噴霧時期が上死点前25°より遅角化すると、パイロット噴射による予混合化が十分に行われないおそれがある。このため、燃料油の噴射時期を、上死点前40°から上死点前25°までとすることが好ましい。
【0014】
そしてさらに、本発明では、請求項3または請求項4に記載の内燃機関であって、シリンダー筒内の熱発生率から得られた前記燃料油の5%が燃焼する時点が、クランク角で上死点前5°から上死点後5°までの範囲に設定された構成とすることが好ましい。
この発明では、シリンダー筒内の熱発生率から得られた燃料油の5%が燃焼する時点を、クランク角で上死点前5°から上死点後5°までの範囲としている。
このことにより、軽質燃料油である灯油を燃料油として用いても、排ガス性状の悪化を防止して燃費向上および騒音低減が得られる。
ここで、熱発生率から得られた燃料油の5%が燃焼する時点がクランク角で上死点前5°より進角化、また上死点後5°より遅角化すると、燃料消費率が悪化するおそれがある。このため、熱発生率から得られた燃料油の5%が燃焼する時点を、クランク角で上死点前5°から上死点後5°までとすることが好ましい。
【0015】
また、本発明では、請求項3ないし請求項5のいずれかに記載の内燃機関であって、前記パイロット噴射機構は、前記パイロット噴射量比が以下の式(1)にて算出される条件に設定された構成とすることが好ましい。
パイロット噴射量比
=(パイロット噴射の噴口開口時間)/
((パイロット噴射とメイン噴射との全噴口開口時間)×100)……(1)
この発明では、上記式(1)で算出される条件にパイロット噴射量比を設定する。
このことにより、軽質燃料油である灯油を燃料油として用いても、排ガス性状の悪化を防止して燃費向上および騒音低減が得られる。
【0016】
そして、本発明では、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の内燃機関であって、前記灯油は、JIS K 2203に準拠するものである構成とすることが好ましい。
この発明では、JIS K 2203に準拠する灯油を燃料油として用いる。
このことにより、軽質燃料油である灯油でも、上記構成により、排ガス性状の悪化を防止して燃費向上および騒音低減が得られる。
【0017】
本発明に記載の内燃機関システムは、請求項3ないし請求項7のいずれかに記載の内燃機関と、前記内燃機関の出力軸の回転速度を検出する回転速度検出手段と、前記出力軸の回転負荷を検出する回転負荷検出手段と、前記内燃機関のメイン噴射およびパイロット噴射の各噴射時期に関する噴射時期データとメイン噴射およびパイロット噴射の各噴射量に関する噴射量データとを1つの制御データとして関連付けて複数記憶する記憶手段と、前記出力軸の回転速度および回転負荷に応じて前記噴射時期および噴射量を設定する制御手段と、を具備したことを特徴とする。
この発明では、記憶手段に、請求項3ないし請求項7のいずれかに記載の内燃機関のメイン噴射およびパイロット噴射の各噴射時期に関する噴射時期データとメイン噴射およびパイロット噴射の各噴射量に関する噴射量データとを1つの制御データとして関連付けて複数記憶しておく。回転速度検出手段にて内燃機関の出力軸の回転速度を検出し、回転負荷検出手段にて内燃機関の出力軸の回転負荷を検出する。そして、制御手段により、記憶手段に記憶された制御データに基づいて、検出した回転速度および回転負荷に応じて内燃機関の噴射時期および噴射量を設定し、内燃機関の動作制御をする。
このことにより、軽質燃料油である灯油でも、排ガス性状の悪化を防止して、内燃機関の運転状態に応じてより効率的な燃費向上および騒音低減が得られる。
【0018】
本発明に記載の内燃機関の制御方法は、灯油を燃料油として用い一つの多噴口噴射ノズルにより多段噴射するコモンレール方式を有する内燃機関の制御方法であって、前記燃料油の全噴射量に占めるパイロット噴射量比が5%以上25%で、前記燃料油の噴射時期は噴霧される前記燃料油の中心線がシリンダー筒内壁に接しない時点から上死点前20°までであることを特徴とする。
この発明では、燃料油の全噴射量に占めるパイロット噴射量比を5%以上25%以下とし、燃料油の噴射時期を噴霧される燃料油の中心線がシリンダー筒内壁に接しない時点から上死点前20°までとしている。
このため、軽質燃料油である灯油でも、排ガス性状の悪化を防止して、内燃機関の運転状態に応じてより効率的な燃費向上および騒音低減が得られる。
【0019】
そして、本発明では、プログラマブル・ロジック・デバイス(Programmable Logic Device:PLD)、プログラマブル・ロジック・アレイ(Programmable Logic Array:PLA)および専用制御デバイスから選ばれる少なくともいずれか一つ以上の集積回路による制御により、前記燃料油を供給する構成とすることが好ましい。
このことにより、内燃機関内における燃料油組成物の供給を上述した方法により制御しているため、内燃機関への負荷が急に変動した場合であっても、内燃機関内の燃焼を常に最適な状態に保って運転することが可能となる。このため、燃料消費率がより向上するとともに、騒音、排出ガス中のNOxやPMなどが低減して環境への悪影響をより抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について詳述する。
なお、本実施形態において、灯油を燃料油として用いる内燃機関として、多段噴射機構を有するディーゼルエンジン、すなわちコモンレール方式の燃料噴射システムを備えたディーゼルエンジンのシステム構成を例示するが、この構成に限られない。また、本発明では、2段に限らず、複数段にも適用できる。
【0021】
〔ディーゼルエンジンシステム〕
本実施形態における内燃機関システムとしてのディーゼルエンジンシステムは、例えば、灯油を用いたヒートポンプエアコン、発電機、自動車(スウェーデンの様な所謂シティ軽油を用いる場合)、建設機械などのオフロード車などに用いられるものである。
そして、ディーゼルエンジンシステムは、内燃機関としてのディーゼルエンジンと、燃料噴射システムを構成する制御手段としての運転制御ユニットと、を備えている。
【0022】
ディーゼルエンジンは、多段噴射機構を有するもので、例えばパイロット噴射機構付きのエンジンである。このディーゼルエンジンは、燃料油として灯油を用いるものである。灯油は、例えばJIS K 2203に準拠するものが用いられる。なお、燃料油としては、灯油のみならず、本発明の目的および効果が妨げられない範囲において、必要に応じて各種の添加剤を適宜配合することができる。
また、ディーゼルエンジンには、燃料噴射システムを構成する、複数の燃料インジェクターと、コモンレールと、燃料ポンプと、が設けられている。
【0023】
燃料インジェクターは、図示しないディーゼルエンジン本体のシリンダー筒に接続され、シリンダー筒内へ燃料を供給する。
コモンレールは、燃料ポンプに接続され、燃料ポンプから供給される燃料油を規定の圧力に保持する。そして、コモンレールは、複数の燃料インジェクターに接続され、規定の高い圧力の燃料油を燃料インジェクターへ供給する。
【0024】
運転制御ユニットは、プログラマブル・ロジック・デバイス(Programmable Logic Device:PLD)、プログラマブル・ロジック・アレイ(Programmable Logic Array:PLA)および専用制御デバイスから選ばれる少なくともいずれか一つ以上の集積回路を備えている。
この運転制御ユニットは、ディーゼルエンジンへの燃料油の供給制御をする。
具体的には、燃料油の全噴射量に占めるパイロット噴射量比を5%以上25%以下、好ましくは5%以上20%以下としている。すなわち、パイロット噴射量比は、以下の式(1)にて算出される条件に設定されている。
パイロット噴射量比
=(パイロット噴射の噴口開口時間)/
((パイロット噴射とメイン噴射との全噴口開口時間)×100)……(1)
ここで、燃料油の全噴射量に占めるパイロット噴射量比が5%より少なくなると、パイロット噴射の効果が低減し、メイン一段噴射の効果のみという不都合が生じるおそれがある。一方、パイロット噴射量比が25%より多くなると、高負荷運転時に予混合気の急激な燃焼が生じ、騒音が大きくなるという不都合が生じるおそれがある。このため、パイロット噴射量比を5%以上25%以下、好ましくは5%以上20%以下とする。
【0025】
また、運転制御ユニットは、燃料油の噴射時期を噴霧される燃料油の中心線がシリンダー筒内壁に接しない時点から上死点前20°まで、好ましくは上死点前40°から上死点前25°までとしている。
ここで、燃料油の噴射時期が噴霧される燃料油の中心線がシリンダー筒内壁に接しない時点より進角化、すなわち燃料油がディーゼルエンジンのシリンダー内に区画される燃焼室からはみ出る程に過早噴射を行うと、燃料油がシリンダー筒内壁に当たり、スカッフィングやラッカリングが発生してシリンダーを損傷させるおそれがある。一方、燃料油の噴霧時期が上死点前20°より遅角化、すなわち遅くなると、パイロット噴射による予混合化が十分に行われないおそれがある。このため、燃料油の噴霧時期を、噴霧される燃料油の中心線がシリンダー筒内壁に接しない時点から上死点前20°まで、好ましくは上死点前40°から上死点前25°までとする。
【0026】
さらに、運転制御ユニットは、シリンダー筒内の熱発生率から得られた燃料油の5%が燃焼する時点を、クランク角で上死点前5°から上死点後5°までの範囲に設定している。
熱発生率から得られた燃料油の5%が燃焼する時点がクランク角で上死点前5°より進角化、また上死点後5°より遅角化すると、燃料消費率が悪化するおそれがある。このため、熱発生率から得られた燃料油の5%が燃焼する時点を、クランク角で上死点前5°から上死点後5°までとすることが好ましい。
【0027】
また、運転制御ユニットは、ディーゼルエンジンの運転状況、すなわちディーゼルエンジンの図示しない出力軸の回転速度および回転負荷に応じて燃料油の供給を制御する。
具体的には、運転制御ユニットは、ディーゼルエンジンの出力軸の回転速度を検出する回転速度検出手段としての例えば回転速度センサと、出力軸の回転負荷を検出する回転負荷検出手段としての例えば回転負荷センサとから、それぞれ出力される検出信号に基づいて、出力軸の回転速度および回転負荷を認識する。
また、運転制御ユニットは、ディーゼルエンジンのメイン噴射およびパイロット噴射の各噴射時期に関する噴射時期データとメイン噴射およびパイロット噴射の各噴射量に関する噴射量データとを1つの制御データとして関連付けて複数記憶するテーブル構造の図示しない記憶手段を備えている。
そして、運転制御ユニットは、記憶手段に記憶された複数の制御データに基づいて、検出信号から認識した出力軸の回転速度および回転負荷に応じて、噴射時期および噴射量を設定する。
【0028】
〔ディーゼルエンジンの運転制御〕
次に、運転制御ユニットにおけるディーゼルエンジンの運転制御を実施するための、制御プログラムの設定動作について、図面を参照して説明する。
図1は、運転制御プログラムの設定動作を示すフローチャートである。
【0029】
まず、燃料油を指定する(ステップS1)。すなわち、JIS K 2203に準拠する灯油であるJIS1号灯油を設定する。
そして、噴射ノズルであるコモンレールの噴口からの噴射量を定める推算プログラムを作成する(ステップS2)。例えば、利用用途やディーゼルエンジンの特性などに応じて、噴射圧や噴射時間などに基づいて、噴射量を算出する演算プログラムを設定する。
【0030】
この後、ディーゼルエンジンの運転方法のマップを作成する(ステップS3)。すなわち、運転制御内容を設定する対象のディーゼルエンジンの出力軸の回転速度と回転負荷とを適宜変更し、最適運転条件を設定する処理をする。
具体的には、ディーゼルエンジンの出力軸の回転速度と回転負荷とを、特定の運転状態に設定する(ステップS31)。そして、一段噴射で好適なメイン噴射条件である噴射量および噴射時間を設定する(ステップS32)。
この後、ステップS32で設定された好適なメイン噴射条件に基づいて、好適なパイロット噴射条件を設定する(ステップS33)。なお、このパイロット噴射条件の設定の際、メイン噴射量およびパイロット噴射量の実測値と推算値とが合致しない場合、噴射時間比で噴射量比を代替する。
そして、ステップS33で設定された好適なパイロット噴射条件から、好適なメイン噴射条件近傍を探索する(ステップS34)。
これらステップS32〜S34を繰り返すことで、特定の回転速度および回転負荷における最適のメイン噴射条件およびパイロット噴射条件が設定される(ステップS35)。このように、回転速度および回転負荷を適宜設定して同様に最適のメイン噴射条件およびパイロット噴射条件を設定することで、ディーゼルエンジンの運転条件に応じた、最適な燃料油の噴射条件がマップ状に設定される。この設定されたマップを運転制御ユニットの記憶手段に記憶させる。
【0031】
〔実施形態の作用効果〕
上記実施の形態によれば、上述したように、灯油を燃料油として、メイン噴射前に多段の燃料油噴射を行う直噴式で、燃料油噴射として、コモンレール方式で1つの多噴口噴射ノズルを用いて多段噴射をする構成としている。
このため、軽質燃料油である灯油を燃料油として用いても、排ガス性状の悪化を防止して燃費向上および騒音低減を図ることができる。
特に、多噴口噴射ノズルとして、4つ以上、好ましくは6つ以上13個以下の噴口を有するディーゼルエンジンに適用することが好適である。
そして、上述した所定のパイロット噴射条件に設定することで、灯油を燃料油としても、確実に排ガス性状の悪化を防止しつつ燃費向上および騒音低減が得られる。
特に、プログラマブル・ロジック・デバイス(Programmable Logic Device:PLD)、プログラマブル・ロジック・アレイ(Programmable Logic Array:PLA)および専用制御デバイスから選ばれる少なくともいずれか一つ以上の集積回路を備えた運転制御ユニットを用い、燃料油の噴射条件を制御する構成としている。
【0032】
〔実施の形態の変形例〕
なお、以上に説明した態様は、本発明の一態様を示したものであって、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的および効果を達成できる範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。また、本発明を実施する際における具体的な構造および形状などは、本発明の目的および効果を達成できる範囲内において、他の構造や形状などとしても問題はない。
【実施例】
【0033】
次に、実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明する。
なお、本発明は、これらの実施例などの記載内容に何ら制限されるものではない。
【0034】
〔実施例1〜7、比較例1〜7〕
以下、灯油を燃料油に用いたディーゼルエンジン200の燃料噴射条件を確認する実験について図面を参照して説明する。
【0035】
(ディーゼルエンジン)
実験用のエンジンとして、コモンレール方式の多段噴射式機構を備えたAVL社単気筒エンジンを用いた。燃料油としては、JIS1号灯油を用いた。
(エンジンの仕様)
シリンダ直径×ピストン工程:105mm×115mm
排気容積 :996cm3
圧縮比 :18.6
最大燃料噴射圧力 :135MPa
そして、このエンジンのコモンレール式燃料噴射装置の噴射ノズルは、孔径0.12mmの噴孔を6個設けている。また、燃料室は、図2に示すように、中央に略円錐状の突起201を有している。そして、図2は、上死点前40°での噴射ノズルからの燃料噴射方向を合わせて示す。上死点前40°までは、噴孔から噴霧される燃料油の中心線Lが燃焼室内に収まっていることを示す。
【0036】
(実験)
シリンダー筒内圧を圧力センサ(AVL LIST GMBH社製 商品:QC33C)で計測し、燃焼圧解析を行った。
また、燃料油流量は、流量計(小野測器社製 商品名:DF-2410)で計測するとともに、重量秤(AND社製 商品名:GP-12KR)にて供給重量を確認した。
排ガスは、分析計(堀場製作所製 商品名:MEXA-9100DEGR)で計測した。
騒音は、騒音計(日本科学工業株式会社昭和63年製造、普通騒音計型式承認第S-15-1号)で計測した。
【0037】
そして、上述した実施形態におけるディーゼルエンジンの運転条件を設定する動作に従って、燃料油の噴射条件を設定した。なお、パイロット噴射量比は、噴射ノズルの時間割合から設定した。
ここで、電子制御を行う際には、上記の様な方法を用いてエンジンの回転速度と回転負荷とに応じて定めたパイロット噴射およびメイン噴射の噴射時期と、各々の噴射量を定めた表を組み込んだプログラムから、所望の回転速度と回転負荷に応じた好適な噴射時期や噴射量を内挿か外挿により定めて運転する。プログラム自体は、汎用品のINCAソフトウェアを用いて制御した。
【0038】
そして、運転条件として、以下の2つの条件とした。
運転条件1
・回転速度:1500rpm
・噴射圧:600bar
・IMEP(図示平均有効圧力):8bar
運転条件2
・回転速度:2000rpm
・噴射圧:600bar
・IMEP(図示平均有効圧力):6bar
【0039】
(結果:運転条件1)
運転条件1による結果を表1および表2に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
なお、表1および表2において、燃料消費率比は、比較例1の燃料消費率を基準に、以下の式(2)にて定義した。
燃焼消費率比
=(実験で得られた燃料消費率−比較例1で得られた燃料消費率)×100
/(比較例1で得られた燃料消費率)……(2)
このように、燃料消費率比が小さい程、燃料消費が小さく、好ましい状態である。
また、換算NOx濃度は、排ガス中の酸素が13%になるように補正して得たNOx濃度である。
【0043】
さらに、改善効果を明確にする為に、比較例1の評価項目を基準に以下の式で改善率を示す。なお、パイロット噴射時期と改善率との関係を図3に示す。
改善率
=(実験で得られた評価項目値−比較例1で得られた評価項目値)×100
/(比較例1で得られた評価項目値)……(3)
【0044】
そして、表1に示すように、比較例1に対して、比較例2,3は各々メイン噴射時期を早期化と遅延した場合である。試験結果から、比較例1が最も図示燃焼消費率が小さく、NOx、騒音も低い。
そこで、このメイン噴射時期を基準に、パイロット噴射量比を20%とし、パイロット噴射時期を−36°ATDC〜−20°ATDC(上死点前−36°から−20°)まで変えた結果を実施例1〜3に示す(表1参照)。
その結果、概ね比較例1よりも換算NOx濃度以外は改善の方向にある。特に、図3に示すように、パイロット噴射時期が−36°ATDC〜−29°ATDCの範囲で改善効果が見られた。
【0045】
また、パイロット噴射時期を−30°ATDCとして、パイロット噴射量比を5〜30%で変化させた結果を、実施例2と4〜6に示す。
その結果、概ね、比較例1よりも改善効果が見られるが、特にパイロット噴射量比が5〜16%の範囲では、何れの評価項目も比較例1よりも改善されていることが見出された。
なお、パイロット噴射量比と改善率との関係を図4に示す。
【0046】
そして、回転速度1500rpmにおける熱発生率とクランク角との関係を図5に示す。
この図5に示すように、比較例1は一段噴射で、軽質分の予混合燃焼により急激な圧力上昇が生じている。
一方、実施例5は、パイロット噴射量が少ないために、燃料濃度が希薄で着火遅れ時間が長くなり、急激な熱発生が抑制されている。そのため、表2にも示すように、最大圧力上昇率や騒音が抑制されていることがわかる。
なお、比較例4では、パイロット噴射量が多いために着火遅れ時間が短く予混合化による希薄燃焼にならずに急激な熱発生率を生じている。そのため、表2にも示すように、最大圧力上昇率や騒音が大きくなっている。さらに、比較例4では、燃料消費率および換算NOx濃度が、実施例4,5に比して高くなっている。これらように、パイロット噴射量比とともに、熱発生率を計測した場合には、少なくともパイロット噴射に伴う熱発生率ピーク値を、メイン噴射の熱発生率ピーク値よりも低く抑える必要があることがわかる。
【0047】
(結果:運転条件2)
運転条件2による結果を表3に示す。また、回転速度2000rpmにおける熱発生率とクランク角との関係を図6に示す。
【0048】
【表3】

【0049】
表3に示すように、回転速度2000rpmの条件でも、一段噴射に比べて、パイロット噴射時期を−30°ATDC、パイロット噴射量比を10〜20%にした条件では、燃費向上、排ガス浄化、騒音低減が見込まれる。
なお、実施例7において、燃焼で生じる最大筒内圧力上昇率は、比較例5よりも大きくなっているが、エンジン全体の騒音は低い状態であった。
さらに、エンジン筒内圧を計測している場合には、パイロット噴射による熱発生時期が上死点近傍にあることが、好適なパイロット運転条件になる。
【0050】
そして、図5,6における好適条件である実施例5と実施例6とから、熱発生率から得られた燃料油が5%燃焼時点におけるクランク角は、各々−2.89°ATDCと+0.54°ATDCであることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、灯油を用いたヒートポンプエアコン、発電機、自動車、建設機械などのオフロード車両など、灯油を燃料油に用いるいずれの内燃機関に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係るディーゼルエンジンシステムにおける燃料噴射条件を設定する動作を示すフローチャートである。
【図2】本発明に係る燃料噴射条件を確認する実験におけるシリンダー筒内壁と燃料噴射方向との関係を示す説明図である。
【図3】本発明に係る燃料噴射条件を確認する実験におけるパイロット噴射時期と改善率との関係を示すグラフである。
【図4】本発明に係る燃料噴射条件を確認する実験におけるパイロット噴射量比と改善率との関係を示すグラフである。
【図5】本発明に係る燃料噴射条件を確認する実験における回転速度1500rpmにおける熱発生率とクランク角との関係を示すグラフである。
【図6】本発明に係る燃料噴射条件を確認する実験における回転速度2000rpmにおける熱発生率とクランク角との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
灯油を燃料油として用いる内燃機関であって、
メイン噴射前に多段の燃料油噴射を行う直噴式であり、
前記燃料油噴射は、1つの多噴口噴射ノズルを用いて多段噴射をするコモンレール方式を有した
ことを特徴とした内燃機関。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関であって、
前記多噴口噴射ノズルが4つ以上の噴口を有すディーゼルエンジンである
ことを特徴とした内燃機関。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の内燃機関であって、
パイロット噴射機構を備え、
前記燃料油の全噴射量に占めるパイロット噴射量比は5%以上25%以下であり、
前記燃料油の噴射時期は噴霧される前記燃料油の中心線がシリンダー筒内壁に接しない時点から上死点前20°までに設定された
ことを特徴とした内燃機関。
【請求項4】
請求項3に記載の内燃機関であって、
前記燃料油の噴射時期は、上死点前40°から上死点前25°までに設定された
ことを特徴とした内燃機関。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の内燃機関であって、
シリンダー筒内の熱発生率から得られた前記燃料油の5%が燃焼する時点が、クランク角で上死点前5°から上死点後5°までの範囲に設定された
ことを特徴とした内燃機関。
【請求項6】
請求項3ないし請求項5のいずれかに記載の内燃機関であって、
前記パイロット噴射機構は、前記パイロット噴射量比が以下の式(1)にて算出される条件に設定された
パイロット噴射量比
=(パイロット噴射の噴口開口時間)/
((パイロット噴射とメイン噴射との全噴口開口時間)×100)……(1)
ことを特徴とした内燃機関。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の内燃機関であって、
前記灯油は、JIS K 2203に準拠するものである
ことを特徴とした内燃機関。
【請求項8】
請求項3ないし請求項7のいずれかに記載の内燃機関と、
前記内燃機関の出力軸の回転速度を検出する回転速度検出手段と、
前記出力軸の回転負荷を検出する回転負荷検出手段と、
前記内燃機関のメイン噴射およびパイロット噴射の各噴射時期に関する噴射時期データとメイン噴射およびパイロット噴射の各噴射量に関する噴射量データとを1つの制御データとして関連付けて複数記憶する記憶手段と、
前記出力軸の回転速度および回転負荷に応じて前記噴射時期および噴射量を設定する制御手段と、
を具備したことを特徴とした内燃機関システム。
【請求項9】
灯油を燃料油として用い一つの多噴口噴射ノズルにより多段噴射するコモンレール方式を有する内燃機関の制御方法であって、
前記燃料油の全噴射量に占めるパイロット噴射量比が5%以上25%以下で、
前記燃料油の噴射時期は噴霧される前記燃料油の中心線がシリンダー筒内壁に接しない時点から上死点前20°までである
ことを特徴とする内燃機関の制御方法。
【請求項10】
請求項9に記載の内燃機関の制御方法であって、
プログラマブル・ロジック・デバイス(Programmable Logic Device:PLD)、プログラマブル・ロジック・アレイ(Programmable Logic Array:PLA)および専用制御デバイスから選ばれる少なくともいずれか一つ以上の集積回路による制御により、前記燃料油を供給する
ことを特徴とする内燃機関の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−41474(P2009−41474A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−208148(P2007−208148)
【出願日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】