説明

内燃機関のピストン構造

【課題】シリンダボアの内壁のオイルをピストンの全周面に亘って掻き落とすようにして、周溝を通してオイルをオイル戻し穴に循環させることができ、オイル消費量が増大してしまうのを防止することができる内燃機関のピストン構造を提供すること。
【解決手段】内燃機関のピストン構造は、クランクシャフト21の回転に伴ってオイルリング15がシリンダボア2に対してクランクシャフト21の軸線方向の一方側と他方側とに交互に偏るように、ピストン3をシリンダボア2の軸線方向と略直交する方向に移動させるピストン移動手段を構成し、このピストン移動手段を、ピストンピン5に形成されたピン溝5aと、コネクティングロッド18の小端部19に設けられ、ピン溝5aに嵌合する位置決めピン23から構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のピストン構造に関し、特に、シリンダボアの内壁に付着するオイルを掻き落とすピストンリングを有する内燃機関のピストン構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、内燃機関に用いるピストンは、ピストンの外周に複数の周溝を有し、上方の周溝に燃焼室を密閉するためのコンプレッションリングが装着され、最下部の周溝にシリンダボアの内壁に付着しているオイルを掻き落とすピストンリングとしてのオイルリングが装着されている。
このピストンにあっては、オイルリングでシリンダボアの内壁から掻き落としたオイルの一部を、オイルリング装着用の周溝の底部に設けてあるオイル戻し穴からピストンの内周面を通してオイルパンに落とすことにより、燃焼室にオイルが送られる、所謂、オイル上がり等の発生を抑制してオイルの消費量が悪化するのを防止するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ここで、ピストンは、ピストンピンを介してコネクティングロッドの小端部が連結されており、このコネクティングロッドの大端部は、クランクシャフトに連結されているため、ピストンは、クランクシャフトの回転に伴ってコネクティングロッドを介してシリンダボア内を上下方向に移動するようになっている。
【0004】
このため、ピストンは、シリンダボア内を下降する工程において、クランクシャフトの回転力によってクランクシャフトの軸線方向と直交する方向にスラスト力が、シリンダボア内を上昇する工程において前記スラスト力と反対方向のスラスト力がシリンダボアの内壁に掛かる。
【0005】
このため、このスラスト力を利用して、シリンダボアの内壁から掻き落としたオイルをオイル戻し穴に導くために、オイル戻し穴は、ピストンの下降行程においてスラスト力が掛かるピストンのスラスト側とピストンの上昇行程においてスラスト力が掛かるピストンの反スラスト側の周溝の底部に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−90244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような従来のピストンにあっては、スラスト力が加わるピストンのスラスト側および反スラスト側と略直交するクランクシャフトの軸線方向の両面、例えば、車両の前後方向のピストン面のオイルリングがシリンダボアの内壁に強く押し付けられないため、シリンダボアの内壁のオイルを掻き落とし難い。このため、周溝を通してオイル戻し穴にオイルを戻し難く、オイルの循環性が悪化してしまう可能性がある。その結果、オイル消費量が増大してしまう。
【0008】
本発明は、上述のような従来の問題を解決するためになされたもので、シリンダボアの内壁のオイルをピストンの全周面に亘って掻き落とすようにして、周溝を通してオイルをオイル戻し穴に循環させることができ、オイル消費量が増大してしまうのを防止することができる内燃機関のピストン構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る内燃機関のピストン構造は、上記目的を達成するため、内燃機関のシリンダボアの軸線方向と同方向に往復動するように前記シリンダボア内に収納され、外周部に形成された周溝に前記シリンダボアの内壁に摺接するピストンリングが装着されたピストンと、前記ピストンに取付けられたピストンピンと、前記ピストンピンに連結される小端部およびクランクシャフトに連結された大端部を有するコネクティングロッドとを備え、前記周溝に前記ピストンの内周面に連通するオイル戻し穴が形成された内燃機関のピストン構造であって、前記ピストン、前記および前記コネクティングロッドにピストン移動手段を設け、前記ピストン移動手段が、前記クランクシャフトの回転に伴って前記ピストンリングが前記シリンダボアに対して前記クランクシャフトの軸線方向の一方側と他方側とに交互に偏るように、前記ピストンを前記シリンダボアの軸線方向と略直交する方向に往復動させるものから構成されている。
【0010】
この内燃機関のピストン構造は、クランクシャフトの回転に伴ってピストンリングがシリンダボアに対してクランクシャフトの軸線方向の一方側と他方側とに交互に偏るように、ピストンをシリンダボアの軸線方向と略直交する方向に往復動させるピストン移動手段を有するので、ピストンのスラスト側および反スラスト側に加え、このスラスト側および反スラスト側と直交するクランクシャフトの軸線方向の一方側と他方側のオイルリングをシリンダボアの内壁に強く押し付けることができる。
【0011】
このため、オイルリングをピストンの周方向に亘ってシリンダボアの内壁に押し付けることができ、シリンダボアの内壁に付着するオイルを掻き落とすことができる。そして、シリンダボアの内壁から掻き落とされたオイルが周溝を通してオイル戻し穴に循環され、オイルを戻すことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、シリンダボアの内壁のオイルをピストンの全周面に亘って掻き落とすようにして、周溝を通してオイルをオイル戻し穴に循環させることができ、オイル消費量が増大してしまうのを防止することができる内燃機関のピストン構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る内燃機関のピストン構造の第1の実施の形態を示す図であり、ピストン構造の断面図を示し、ピストンに関しては図2のA−A矢視断面図に相当する。
【図2】本発明に係る内燃機関のピストン構造の第1の実施の形態を示す図であり、ピストンの正面図である。
【図3】本発明に係る内燃機関のピストン構造の第1の実施の形態を示す図であり、図2のB−B方向矢視断面図である。
【図4】本発明に係る内燃機関のピストン構造の第1の実施の形態を示す図であり、ピストンが車両の前方側に偏った状態を示すピストン構造の断面図である。
【図5】本発明に係る内燃機関のピストン構造の第1の実施の形態を示す図であり、スロットルバルブの全開時および全閉時のエンジン回転数とピストンピンの回転数の関係を示す図である。
【図6】本発明に係る内燃機関のピストン構造の第1の実施の形態を示す図であり、ピストンを車両の前方側(Fr)と後方側(Rr)に片寄せたときのオイルの入替り時間を示す図である。
【図7】本発明に係る内燃機関のピストン構造の第2の実施の形態を示す図であり、内燃機関のピストン構造の断面図である。
【図8】本発明に係る内燃機関のピストン構造の第3の実施の形態を示す図であり、内燃機関のピストン構造の断面図である。
【図9】本発明に係る内燃機関のピストン構造の第4の実施の形態を示す図であり、内燃機関のピストン構造の断面図である。
【図10】本発明に係る内燃機関のピストン構造の第5の実施の形態を示す図であり、内燃機関のピストン構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る内燃機関のピストン構造の実施の形態について、図面を用いて説明する。
(第1の実施の形態)
図1〜図6は、本発明に係る内燃機関のピストン構造の第1の実施の形態を示す図である。
【0015】
まず、構成を説明する。
図1において、シリンダブロック1のシリンダボア2内にはピストン3が収納されており、ピストン3は、全体がアルミニウムをベースとする合金等によって構成されている。
【0016】
なお、シリンダボア2は、気筒数に応じて内燃機関に設けられており、シリンダボア2は、4気筒であれば、内燃機関に4つ設けられている。本実施の形態では、シリンダボアにピストンが収納された内燃機関であれば、どのような形態の内燃機関でもよい。
【0017】
図1、図2に示すように、ピストン3は、ピストンヘッド4と、ピストンピン5を回転自在かつ、軸線方向に移動自在に支持するピンボス部6が形成され、かつピストンピン装着穴7がそれぞれ開口する一対のサイドウォール部8と、ピンボス部6を挟んで対向し、かつ周方向端部が一対のサイドウォール部8に連続し、ピストン3の首振り挙動を抑制するためのスカート部9とを含んで構成されている。
【0018】
ピストンヘッド4の外周部には第1コンプレッションリング溝10、第2コンプレッションリング溝11および周溝としてのオイルリング溝12が形成されており、第1コンプレッションリング溝10および第2コンプレッションリング溝11には環状の第1コンプレッションリング13および第2コンプレッションリング14がそれぞれ嵌合されているとともに、オイルリング溝12にはピストンリングとしての環状のオイルリング15が嵌合されている。
【0019】
第1コンプレッションリング13および第2コンプレッションリング14は、シリンダボア2の内壁2aに摺接することにより、ピストン3の上方のシリンダボア2に画成された燃焼室16を密閉する機能を有し、オイルリング15は、ピストン3の上下動に伴ってシリンダボア2の内壁2aに摺接することにより、シリンダボア2の内壁2aに付着しているオイルを掻き落とす機能を有している。
【0020】
また、ピンボス部6にはそれぞれスナップリング17a、17bが嵌合されており、このスナップリング17a、17bによってピストンピン5がピンボス部6に抜け止めされている。なお、ピストンピン5とスナップリング17a、17bの間にはピストンピン5が軸線方向に移動できるための隙間Δ3が形成されている。
【0021】
また、ピストンピン5は、コネクティングロッド18の小端部19の貫通孔19aに挿通されることにより、小端部19に連結されており、コネクティングロッド18の大端部20は、クランクシャフト21のクランクピン21aに連結されている。このクランクピン21aは、クランクアーム21b、21cを介してクランクジャーナル21d、21eに連結されており、大端部20とクランクアーム21b、21cとの間にはコネクティングロッド18がクランクシャフト21の軸線方向に移動できるための一定の隙間Δ4が形成されている。
【0022】
また、図2、図3に示すように、オイルリング溝12の底部にはオイル戻し穴22が形成されており、このオイル戻し穴22は、オイルリング溝12の底部からピストン3のピストンヘッド4の内周面4aに向かって開口している。
【0023】
また、オイル戻し穴22は、ピストンヘッド4のスラスト側と反スラスト側のオイルリング溝12に形成されている。
【0024】
なお、スラスト側とは、ピストン3がシリンダボア2内を下降する工程において、クランクシャフト21の回転力によってクランクシャフト21の軸線方向と直交する方向のスラスト力がシリンダボア2の内壁2aに掛かるピストン3の面であり、反スラスト側とは、ピストン3がシリンダボア2内を上昇する工程において前記スラスト力と反対方向のスラスト力がシリンダボア2の内壁2aに掛かるピストン3の面である。
【0025】
また、図1において、左方が車両の前方を示し、右方が車両の後方を示しており、オイル戻し穴22は、ピストンヘッド4のオイルリング溝12に対して車両の幅方向の両側に開口している。
【0026】
また、ピストン3の下方にはピストン3に向かってオイルを噴射する図示しない噴射ノズル等の潤滑・冷却手段が設けられており、噴射ノズルからピストン3に向かって噴射されるオイルによってピストン3が冷却されるとともに、ピストン3の外周部とシリンダボア2の内壁2aとの間が潤滑される。
【0027】
また、シリンダブロック1の下方には図示しないクランクケースを介して図示しないオイルパンが装着されており、シリンダボア2はオイルパンに連通している。このため、ピストン3がシリンダボア2内をシリンダボア2の軸線方向に沿って上下方向に往復動するのに伴って、オイルリング15がシリンダボア2の内壁2aに付着したオイルを掻き落とすと、このオイルは、オイルリング溝12からオイル戻し穴22を介してピストンヘッド4の内周面4aに還流された後、オイルパンに滴下される。
【0028】
また、コネクティングロッド18の小端部19とピストンヘッド4の内周面4aとの間にはピストンピン5の軸線方向に一定の隙間Δ2が形成されている。
【0029】
一方、図1、図4に示すように、ピストンピン5には周方向に亘って1周するピン溝5aが形成されており、このピン溝5aは、Δ0の傾斜幅で傾斜している。このピン溝5aには位置決めピン23が嵌合しており、この位置決めピン23は、コネクティングロッド18の小端部19の外部からピン溝5aに挿通されるように小端部19に取付けられている。
【0030】
このため、ピストンピン5が回転するのに伴ってコネクティングロッド18は、ピストンピン5に対してピストンピン5の軸線方向に往復移動することができる。
【0031】
ここで、図4に示すように、ピン溝5aは、ピストンピン5の軸線方向の一端部Aから左上方に直線状に延在するとともに、左上方から左下方に向かって直線状に延在し、ピストンピン5の軸線方向の他端部Bから右下方に折り返された後に右上方に向かって他端部Bまで直線状に延在する形状に形成されている。
【0032】
なお、ピストンピン5の軸線方向の一端部Aおよび他端部Bの部位のピン溝5aを、それぞれ頂点A、Bと言う。
【0033】
図1は、ピストン3の中心軸がシリンダボア2の中心軸と一致した状態を示しており、図4は、図1の状態からピストンピン5が上方に90度回転した状態を示している。
【0034】
本実施の形態では、クランクシャフト21の回転がコネクティングロッド18を介してピストンピン5に伝達されると、ピストンピン5の回転に伴って位置決めピン23がピン溝5aに沿って移動することにより、コネクティングロッド18とピストンピン5が図1中、左右方向に相対的に移動し、ピストンピン5がコネクティングロッド18を支点としてピストン3を左右方向に押し付けるようになっている。
【0035】
そして、ピストンピン5がピストン3を左右方向に押し付けることにより、オイルリング15がシリンダボア2に対してクランクシャフト21の軸線方向の一方側と他方側、すなわち、車両の前方と後方とに交互に偏るようにピストン3が移動されるようになっている。
【0036】
本実施の形態では、ピン溝5aおよび位置決めピン23は、クランクシャフト21の回転に伴ってオイルリング15がシリンダボア2に対してクランクシャフト21の軸線方向の一方側と他方側とに交互に偏るように、ピストン3をシリンダボア2の軸線方向と略直交する方向に移動させるピストン移動手段を構成している。
【0037】
次に、作用を説明する。
クランクシャフト21の回転運動がコネクティングロッド18を介してピストンピン5に伝達されると、ピストンピン5を介してピストン3がシリンダボア2内を上下方向に往復動する。
【0038】
ピストン3は、シリンダボア2内を下降する工程において、クランクシャフト21の回転力によってクランクシャフト21の軸線方向と直交する方向にスラスト力が、シリンダボア2内を上昇する工程において前記スラスト力と反対方向のスラスト力がシリンダボア2の内壁2aに掛かるため、このスラスト力を利用して、シリンダボア2の内壁2aにオイルリング15を強く摺接させ、シリンダボア2の内壁2aからオイルを掻き落とすことができる。
【0039】
一方、本実施の形態のピストンピン5は、ピストンピン装着穴7に回転自在、かつ軸線方向に移動自在に装着されており、ピストンピン5の両端部とスナップリング17a、17bとの間には一定の隙間Δ3が画成されている。
【0040】
図5において、スロットルバルブの全開時(WOT)および全閉時のエンジン回転数とピストンピン5の回転数の関係を示すように、クランクシャフト21の回転運動がコネクティングロッド18からピストンピン5に伝達されるときに、ピストンピン5は、常時回転することが分かる。
【0041】
本実施の形態では、このピストンピン5の回転を利用してピストン3をシリンダボア2の内壁2aに対してスラスト力が作用しない車両の前方側と後方側とに交互に片寄せるように車両の前後方向に往復動させるようにしている。
【0042】
以下、具体的にピストン3の動きを説明する。
図1に示すように、ピストン3の中心軸がシリンダボア2の中心軸と一致した中立位置からピストンピン5が下側(図1のピストンピン5を左方から見て時計回転方向)に回転して図4に示す位置まで回転すると、ピストンピン5の回転に伴って位置決めピン23がピン溝5aに沿って移動することにより、ピストンピン5がコネクティングロッド18に対して相対的に左側に移動する。
【0043】
このとき、図4に示すように、位置決めピン23がピン溝5aの頂点5Aに位置すると、ピストンピン5がコネクティングロッド18に対して隙間Δ3+隙間Δ4だけ左方に移動し、コネクティングロッド18の大端部20がクランクアーム21cに当接する。
【0044】
このため、ピストンピン5がコネクティングロッド18を支点としてスナップリング17aを介してピストン3を左方(車両の前方側)に押圧し、ピストンヘッド4とシリンダボア2の内壁2aの隙間Δ1が小さくなるようにシリンダボア2の内壁2aに近づく。このため、オイルリング15が車両の前方側のシリンダボア2の内壁2aに強く摺接する。
【0045】
一方、図4の状態からピストンピン5が時計回転方向に回転すると、ピストンピン5の回転に伴って位置決めピン23がピン溝5aに沿って移動することにより、ピストンピン5がコネクティングロッド18に対して相対的に右側に移動する。
【0046】
このとき、位置決めピン23がピン溝5aの頂点5cに位置すると、ピストンピン5がコネクティングロッド18に対して隙間Δ3+隙間Δ4をだけ左方に移動し、コネクティングロッド18の大端部20がクランクアーム21bに当接する。
【0047】
このため、ピストンピン5がコネクティングロッド18を支点としてスナップリング17aを介してピストン3を右方(車両の後方側)に押圧し、ピストンヘッド4とシリンダボア2の内壁2aの隙間Δ1が小さくなるようにシリンダボア2の内壁2aに近づく。このため、オイルリング15が車両の前方側のシリンダボア2の内壁2aに強く摺接する。
【0048】
このため、オイルリング15をピストン3の周方向に亘ってシリンダボア2の内壁2aに強く押し付けることができ、シリンダボア2の内壁2aに付着するオイルを掻き落とすことができる。そして、シリンダボア2の内壁2aから掻き落とされたオイルは、オイルリング溝12からオイル戻し穴22およびピストンヘッド4の内周面4aを介してオイルパンに循環され、オイルを戻すことができる。この結果、オイル消費量が増大するのを防止することができる。
【0049】
図6は、ピストンを車両の前方側(Fr)と後方側(Rr)側に片寄せたときのオイルの入替り時間(同一のオイル量をオイル戻し穴22に循環させる時間)を比較した図である。
【0050】
図6に示すように、ピストン3を車両の前方側に寄せたときには前方側が後方側に比べてオイルの入替り時間が早くなり、ピストン3を車両の後方側に寄せたときには後方側が前方側に比べてオイルの入替り時間が早くなった。このように、ピストン3を車両の前方または後方の寄せた側がオイルの循環性が改善していることが分かった。
【0051】
なお、本実施の形態では、ピストンピン5にピン溝5aを設け、コネクティングロッド18にピン溝5aに嵌合する位置決めピン23を設けているが、ピストンピン5に位置決めピンを設け、小端部19の貫通孔19aに貫通孔19aの内周面に亘って1周するピン溝を形成してもよい。
【0052】
(第2の実施の形態)
図7は、本発明に係る内燃機関のピストン構造の第2の実施の形態を示す図であり、第1の実施の形態と同一の構成には同一番号を付して説明を省略する。
図7において、ピンボス部6にはそれぞれスナップリング31、32が嵌合されており、このスナップリング31、32によってピストンピン33がピンボス部6に抜け止めされている。
【0053】
ピストンピン33の軸線方向両端部には同一方向に傾斜するテーパ部33a、33bが形成されており、ピストンピン33の軸線方向中央部にはピストンピン33の周方向に1周して延在するピン溝33cが形成されている。
【0054】
スナップリング31、32のテーパ部33a、33bに対向する面にはテーパ部31a、32aが設けられており、このテーパ部31a、32aは、テーパ部33a、33bと同一の角度で傾斜している。
【0055】
また、テーパ部33aは、右上方から左下方に向かって傾斜しているとともに、テーパ部33bは、左上方から右下方に向かって傾斜しており、テーパ部33a、33bは、紙面方向の手前から見てハの字になるように対向している。
【0056】
したがって、ピストンピン33が異なる回転位置に回転すると、テーパ部31aとテーパ部33aの傾斜面か合致されるとともに、テーパ部32aとテーパ部33bの傾斜面か合致されることになる。
【0057】
また、ピン溝33cには位置決めピン34が嵌合しており、この位置決めピン34は、コネクティングロッド18の小端部19の外部からピン溝33cに挿通されるように小端部19に取付けられている。
【0058】
ピストンピン33のテーパ部33a、33bは、テーパ部33a、33bの傾斜面の中でピストンピン33a、33bの軸線方向外方に最も突出する突出端33d、33eを有しており、ピストンピン33が回転すると、突出端33dがスナップリング31のテーパ部31aに沿って摺動することにより、ピストンピン33が右方に移動してピストン3を車両の後方側のシリンダボア2の内壁2aにオイルリング15を押し付ける。
【0059】
また、ピストンピン33が回転すると、突出端33eがスナップリング32のテーパ部32aに沿って摺動することにより、ピストンピン33が左方に移動してピストン3を車両の前方側のシリンダボア2の内壁2aにオイルリング15を押し付けるようになっている。
このとき、位置決めピン34がピストンピン33のピン溝33cに嵌合しているので、コネクティングロッド18がピストンピン33と共にピストンピン33の軸線方向に移動してピストンピン33がクランクシャフト21の軸線方向に往復動するのを許容している。
【0060】
本実施の形態では、スナップリング31、32のテーパ部31a、32a、ピストンピン33のテーパ部33a、33b、ピストンピン33のピン溝33cおよび位置決めピン34が、オイルリング15がシリンダボア2に対してクランクシャフト21の軸線方向の一方側と他方側とに交互に偏るように、ピストン3をシリンダボア2の軸線方向と略直交する方向に移動させるピストン移動手段を構成している。
【0061】
次に、作用を説明する。
ピストンピン33が下側(図6のピストンピン33を左方から見て時計回転方向)に回転すると、ピストンピン33のテーパ部33bの突出端33eがスナップリング32のテーパ部32bに沿って摺動することにより、ピストンピン33が左方に移動する。
【0062】
このとき、位置決めピン34がピストンピン33のピン溝33cに嵌合しているので、コネクティングロッド18がピストンピン33と共にピストンピン33の軸線方向に対して左方に移動する。
【0063】
ピストンピン33が左方に移動すると、ピストンピン33がスナップリング31を介してピストン3を左方(車両の前方側)に押圧し、ピストンヘッド4とシリンダボア2の内壁2aの隙間が小さくなるようにシリンダボア2の内壁2aに近づく。このため、オイルリング15が車両の前方側のシリンダボア2の内壁2aに強く摺接する。この状態が図6で示す状態である。
【0064】
一方、ピストンピン33が時計回転方向にさらに回転すると、ピストンピン33のテーパ部33aの突出端33dがスナップリング32のテーパ部32bに沿って摺動することにより、ピストンピン33が右方に移動する。
【0065】
このとき、位置決めピン34がピストンピン33のピン溝33cに嵌合しているので、コネクティングロッド18がピストンピン33と共にピストンピン33の軸線方向に対して右方に移動する。
【0066】
ピストンピン33が右方に移動すると、ピストンピン33がスナップリング32を介してピストン3を右方(車両の後方側)に押圧し、ピストンヘッド4とシリンダボア2の内壁2aの隙間が小さくなるようにシリンダボア2の内壁2aに近づく。このため、オイルリング15が車両の前方側のシリンダボア2の内壁2aに強く摺接する。
【0067】
このため、オイルリング15をピストン3の周方向に亘ってシリンダボア2の内壁2aに強く押し付けることができ、シリンダボア2の内壁2aに付着するオイルを掻き落とすことができる。この結果、第1の実施の形態と同様に、オイルの消費量が増大してしまうのを防止することができる。
【0068】
(第3の実施の形態)
図8は、本発明に係る内燃機関のピストン構造の第3の実施の形態を示す図であり、第1の実施の形態と同一の構成には同一番号を付して説明を省略する。
【0069】
図8において、ピンボス部6にはそれぞれスナップリング41、42が嵌合されており、このスナップリング41、42によってピストンピン43がピンボス部6に抜け止めされている。ピストンピン43の軸線方向の一端部にはテーパ部43aが形成されており、ピストンピン43の軸線方向中央部にはピストンピン43の周方向に1周して延在するピン溝43bが形成されている。
【0070】
スナップリング41のテーパ部43aに対向する面にはテーパ部41aが設けられており、このテーパ部41aは、テーパ部43aと同一の角度で傾斜している。また、ピストンピン43の軸線方向他端部とスナップリング42の間にはスプリング44が介装されており、このスプリング44は、ピストンピン43をスナップリング41に向かって付勢している。
【0071】
また、ピン溝43bには位置決めピン45が嵌合しており、この位置決めピン45は、コネクティングロッド18の小端部19の外部からピン溝43bに挿通されるように小端部19に取付けられている。
【0072】
ピストンピン43のテーパ部43aは、テーパ部43aの傾斜面の中でピストンピン43の軸線方向外方に最も突出する突出端43cを有しているとともに、スナップリング41のテーパ部41aは、テーパ部41aの傾斜面の中でスナップリング41の軸線方向外方に最も突出する突出端41bを有している。
【0073】
このため、ピストンピン43の突出端43cがスナップリング41の突出端41bに近づく方向にピストンピン43が回転すると、ピストンピン43がスプリング44の付勢力に抗して右方に移動し、スナップリング41を介してピストン3を車両の後方側のシリンダボア2の内壁2aにオイルリング15を押し付ける。
【0074】
また、ピストンピン43の突出端43cがスナップリング41の突出端41bを乗り越え、ピストンピン43の突出端43cがスナップリング41の突出端41bから離れる方向にピストンピン43が回転すると、ピストンピン43がスプリング44に付勢されて左方に移動し、スナップリング42を介してピストン3を車両の前方側のシリンダボア2の内壁2aにオイルリング15を押し付ける。
このとき、位置決めピン45がピストンピン43のピン溝43bに嵌合しているので、コネクティングロッド18がピストンピン43と共にピストンピン43の軸線方向に移動してピストンピン43がクランクシャフト21の軸線方向に往復動するのを許容している。
【0075】
本実施の形態では、スナップリング41のテーパ部41a、ピストンピン43のテーパ部43a、ピストンピン43のピン溝43b、スプリング44および位置決めピン45が、オイルリング15がシリンダボア2に対してクランクシャフト21の軸線方向の一方側と他方側とに交互に偏るように、ピストン3をシリンダボア2の軸線方向と略直交する方向に移動させるピストン移動手段を構成している。
【0076】
次に、作用を説明する。
ピストンピン33が図7の状態から下側(図7のピストンピン43を左方から見て時計回転方向)に回転すると、ピストンピン43のテーパ部43aの突出端43cがスナップリング41のテーパ部41aに沿って摺動する。
【0077】
このとき、ピストンピン43の突出端43cがスナップリング41の突出端41bに近づく方向にピストンピン43が回転するため、ピストンピン43がスプリング44の付勢力に抗して右方に移動する。
【0078】
このとき、位置決めピン45がピストンピン43のピン溝43bに嵌合しているので、コネクティングロッド18がピストンピン43と共にピストンピン43の軸線方向に対して左方に移動する。
【0079】
ピストンピン43が右方に移動すると、ピストンピン43がスナップリング42を介してピストン3を右方(車両の後方側)に押圧し、ピストンヘッド4とシリンダボア2の内壁2aの隙間が小さくなるようにシリンダボア2の内壁2aに近づく。
【0080】
このため、オイルリング15が車両の後方側のシリンダボア2の内壁2aに強く摺接する。このとき、ピストンピン43の突出端43cがスナップリング41の突出端41bに乗り上げた時点でピストンピン43が右方に移動するための限界点となり、ピストンピン43がピストン3をシリンダボア2の内壁2aに押し付けるための押し付け力が最大となる。
【0081】
一方、ピストンピン43が時計回転方向にさらに回転してピストンピン43の突出端43cがスナップリング41の突出端41bを乗り越え、ピストンピン43の突出端43cがスナップリング41の突出端41bから離れる方向にピストンピン43が回転すると、ピストンピン43がスプリング44に付勢されて左方に移動する。
【0082】
このとき、ピストンピン43がスナップリング42を介してピストン3を左方(車両の前方側)に押圧し、ピストンヘッド4とシリンダボア2の内壁2aの隙間が小さくなるようにシリンダボア2の内壁2aに近づく。このため、オイルリング15が車両の前方側のシリンダボア2の内壁2aに強く摺接する。
【0083】
このため、オイルリング15をピストン3の周方向に亘ってシリンダボア2の内壁2aに強く押し付けることができ、シリンダボア2の内壁2aに付着するオイルを掻き落とすことができる。このため、第1の実施の形態と同様に、オイルの消費量が増大してしまうのを防止することができる。
【0084】
(第4の実施の形態)
図9は、本発明に係る内燃機関のピストン構造の第4の実施の形態を示す図であり、第1の実施の形態と同一の構成には同一番号を付して説明を省略する。
【0085】
図9において、ピンボス部6のそれぞれには別体のピストンピン51、52が回転自在、かつ軸線方向に移動自在に取付けられており、ピンボス部6にはスナップリング53、54が嵌合され、このスナップリング53、54によってピストンピン51、52がピンボス部6に抜け止めされている。
【0086】
また、ピストンピン51、52は、コネクティングロッド55の小端部56の貫通孔56aに挿通されることにより小端部56に連結されており、コネクティングロッド55の大端部57は、クランクシャフト21のクランクピン21aに連結されている。
【0087】
また、小端部56の貫通孔56a内にはコネクティングロッド55の軸線方向に沿って延在する仕切部56bが形成されており、この仕切部56bにピストンピン51、52の軸線方向の一端部51a、52aがそれぞれ対向している。
【0088】
また、仕切部56bとピストンピン51、52の軸線方向の一端部51a、52aとの間にはそれぞれ油圧室58、59が画成されており、油圧室58、59の距離、すなわち、ピストンピン51、52の一端部51a、52aの離隔距離は、Δ5に設定されている。
【0089】
また、コネクティングロッド55には一端部が油圧室58、59に連通する油路55A、55Bが形成されており、この油路55A、55Bの他端部はクランクシャフト21のクランクピン21a、クランクアーム21bおよびクランクジャーナル21dに形成された油路21A、21Bに連通している。
【0090】
なお、図9では、ピストン3を1つしか図示しないが、複数のピストンにオイルを供給するために、各ピストンに連結されたコネクティングロッドに形成された油路にオイルを供給する油路がクランクシャフト21に形成されている。
【0091】
油路21A、21Bは、クランクシャフト21の端部に設けられた図示しないオイル供給手段に連通しており、このオイル供給手段は、油路21A、21Bに選択的にオイルを供給するようになっている。
【0092】
オイル供給手段から油路21A、55Aを介して油圧室58にオイルが供給されると、ピストンピン51の一端部51aにオイルの圧力が加わることによってピストンピン51が左方に移動し、ピストンピン51がスナップリング53を介してピストン3を車両の前方側のシリンダボア2の内壁2aにオイルリング15を押し付ける。
【0093】
また、オイル供給手段から油路21B、55Bを介して油圧室59にオイルが供給されると、ピストンピン52の一端部52aにオイルの圧力が加わることによってピストンピン52が右方に移動し、ピストンピン52がスナップリング54を介してピストン3を車両の後方側のシリンダボア2の内壁2aにオイルリング15を押し付ける。
【0094】
本実施の形態では、ピストンピン51、52、スナップリング53、54、コネクティングロッド55の油路55A、55B、コネクティングロッド55の仕切部56b、クランクシャフト21の油路21A、21Bが、オイルリング15がシリンダボア2に対してクランクシャフト21の軸線方向の一方側と他方側とに交互に偏るように、ピストン3をシリンダボア2の軸線方向と略直交する方向に移動させるピストン移動手段を構成している。
【0095】
次に、作用を説明する。
オイル供給手段が油路21A、55Aを介して油圧室58にオイルを供給すると、ピストンピン51の一端部51aにオイルの圧力が加わることによってピストンピン51が左方に移動する。
【0096】
ピストンピン51が左方に移動してピストンピン51がスナップリング53とピストンピン51との間の隙間Δ3だけ動くと、油圧室58の油圧によってピストンピン51に対して仕切部56bが左方に移動する。
【0097】
そして、コネクティングロッド55が大端部57とクランクアーム21cの間の隙間Δ4だけ動くと、油圧室58の油圧によってピストンピン51がコネクティングロッド55を支点としてスナップリング53を介してピストン3を左方(車両の前方側)に押圧する。このため、ピストンヘッド4とシリンダボア2の内壁2aの隙間が小さくなるようにピストン3がシリンダボア2の内壁2aに近づく。このため、オイルリング15が車両の前方側のシリンダボア2の内壁2aに強く摺接する。
【0098】
次いで、オイル供給手段がオイル通路を切換えて油路21B、55Bを介して油圧室59にオイルを供給すると、ピストンピン52の一端部52aにオイルの圧力が加わることによってピストンピン52が右方に移動する。
【0099】
ピストンピン52が右方に移動してピストンピン52がスナップリング54とピストンピン52との間の隙間Δ3だけ動くと、油圧室59の油圧によってピストンピン52に対して仕切部56bが左方に移動する。
【0100】
そして、コネクティングロッド55が大端部57とクランクアーム21bの間の隙間Δ4だけ動くと、油圧室59の油圧によってピストンピン52がコネクティングロッド55を支点としてスナップリング54を介してピストン3を右方(車両の後方側)に押圧する。
【0101】
このため、ピストンヘッド4とシリンダボア2の内壁2aの隙間が小さくなるようにピストン3がシリンダボア2の内壁2aに近づく。このため、オイルリング15が車両の後方側のシリンダボア2の内壁2aに強く摺接する。
【0102】
このようにオイル供給手段が、油圧室58、59にオイルを供給する油路を切換えることにより、ピストン3の移動方向を切換えることにより、オイルリング15をピストン3の周方向に亘ってシリンダボア2の内壁2aに強く押し付けることができ、シリンダボア2の内壁2aに付着するオイルを掻き落とすことができる。このため、第1の実施の形態と同様に、オイルの消費量が増大してしまうのを防止することができる。
【0103】
なお、オイル供給手段に代えてクランクシャフト21の端部にエアー供給手段を設け、油路(この場合には通路)21A、21B、55A、55Bを介して油圧室(この場合には圧力室)58、59にエアーを選択的に供給してもよい。
【0104】
(第5の実施の形態)
図10は、本発明に係る内燃機関のピストン構造の第5の実施の形態を示す図であり、第1の実施の形態と同一の構成には同一番号を付して説明を省略する。
【0105】
図10において、ピンボス部6にはピストンピン61が取付けられており、ピンボス部6には蓋62a、62bが嵌合され、この蓋62a、62bによってピストンピン61がピンボス部6に抜け止めされている。
【0106】
また、ピストンピン61は、コネクティングロッド63の小端部64の貫通孔64aに挿通されることにより、小端部64に連結されており、コネクティングロッド63の大端部65は、クランクシャフト21のクランクピン21aに連結されている。
【0107】
また、ピストンピン61の一端部61aと蓋62aとの間には油圧室66が画成されているとともに、ピストンピン61の他端部61bと蓋62bとの間には油圧室67が画成されており、油圧室66、67の幅はΔ6に設定されている。したがって、蓋62a、62bは、油圧室66、67を密閉する機能も有している。
【0108】
また、ピストンピン61にはそれぞれ油圧室66、67に連通する油路61c、61dが形成されており、この油路61c、61dは、コネクティングロッド63に形成された油路63A、63Bの一端部に連通している。この油路63A、63Bの他端部は、クランクシャフト21のクランクピン21a、クランクアーム21bおよびクランクジャーナル21dに形成された油路21A、21Bに連通している。
【0109】
油路21A、21Bは、クランクシャフト21の端部に設けられた図示しないオイル供給手段に連通しており、このオイル供給手段は、油路21A、21Bに選択的にオイルを供給するようになっている。
【0110】
また、ピストンピン61には位置決めピン68が嵌合しており、この位置決めピン68は、コネクティングロッド63の小端部64の外部からピストンピン61に嵌合されるように小端部64に取付けられている。
【0111】
このため、ピストンピン61は、コネクティングロッド63に対して軸線方向および回転方向に移動不能となっており、ピストンピン61およびコネクティングロッド63は、一体的に軸線方向に移動自在となっている。このため、油路61、61dと油路63A、63Bとの連通が遮断されることがない。
【0112】
なお、各隙間Δの関係は、Δ1<Δ4<Δ2でかつ、Δ4<Δ6<Δ1+Δ4<Δ2となっている。
【0113】
このため、オイル供給手段から油圧室66、67のいずれか一方にオイルを供給することにより、ピストンピン61をクランクシャフト21の軸線方向である車両の前方側または後方側に移動させることにより、ピストンピン61に加わる油圧により蓋62aまたは蓋62bを介してピストン3が車両の前方側または後方側のシリンダボア2の内壁2aにオイルリング15を押し付けることになる。
【0114】
本実施の形態では、ピストンピン61に形成された油路61c、61d、蓋62a、62b、コネクティングロッド63の油路63A、63B、クランクシャフト21の油路21A、21Bが、オイルリング15がシリンダボア2に対してクランクシャフト21の軸線方向の一方側と他方側とに交互に偏るように、ピストン3をシリンダボア2の軸線方向と略直交する方向に移動させるピストン移動手段を構成している。
【0115】
次に、作用を説明する。
オイル供給手段が油路21A、63A、61cを介して油圧室66にオイルを供給すると、ピストンピン61の一端部61aにオイルの圧力が加わることによってピストンピン61が右方に移動する。
【0116】
隙間Δ4<Δ6となっているため、コネクティングロッド63がクランクアーム21cに当接すると、ピストンピン61の右方への移動が停止し、油圧室66の油圧が蓋62aに加わり、蓋62aを介してピストン3を左方(車両の前方側)に押圧する。
【0117】
このため、ピストンヘッド4とシリンダボア2の内壁2aの隙間が小さくなるようにピストン3がシリンダボア2の内壁2aに近づく。このため、オイルリング15が車両の前方側のシリンダボア2の内壁2aに強く摺接する。
【0118】
次いで、オイル供給手段がオイル通路を切換えて油路21B、63B、61dを介して油圧室67にオイルを供給すると、ピストンピン61の他端部61bにオイルの圧力が加わることによってピストンピン61が左方に移動する。
【0119】
隙間Δ4<Δ6となっているため、コネクティングロッド63がクランクアーム21bに当接すると、ピストンピン61の左方への移動が停止し、油圧室67の油圧が蓋62bに加わり、蓋62bを介してピストン3を右方(車両の後方側)に押圧する。
【0120】
このため、ピストンヘッド4とシリンダボア2の内壁2aの隙間が小さくなるようにピストン3がシリンダボア2の内壁2aに近づく。このため、オイルリング15が車両の後方側のシリンダボア2の内壁2aに強く摺接する。
【0121】
このようにオイル供給手段が、油圧室66、67にオイルを供給する油路を切換えることにより、ピストン3の移動方向を切換えることにより、オイルリング15をピストン3の周方向に亘ってシリンダボア2の内壁2aに強く押し付けることができ、シリンダボア2の内壁2aに付着するオイルを掻き落とすことができる。このため、第1の実施の形態と同様に、オイルの消費量が増大してしまうのを防止することができる。
【0122】
なお、オイル供給手段に代えてクランクシャフト21の端部にエアー供給手段を設け、油路(この場合には通路)21A、21B、63A、63B、61c、61dを介して油圧室(この場合には圧力室)66、67にエアーを選択的に供給してもよい。
【0123】
また、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であってこの実施の形態に制限されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施の形態のみの説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0124】
以上のように、本発明に係る内燃機関のピストン構造は、シリンダボアの内壁のオイルをピストンの全周面に亘って掻き落とすようにして、周溝を通してオイルをオイル戻し穴に循環させることができ、オイル消費量が増大してしまうのを防止することができるという効果を有し、シリンダボアの内壁に付着するオイルを掻き落とすピストンリングを有する内燃機関のピストン構造等として有用である。
【符号の説明】
【0125】
1 シリンダブロック
2 シリンダボア
2a 内壁
3 ピストン
4a 内周面
5 ピストンピン
5a ピン溝(ピストン移動手段)
12 オイルリング溝(周溝)
15 オイルリング(ピストンリング)
18 コネクティングロッド
19 小端部
20 大端部
21 クランクシャフト
21A、21B、55A、55B 油路(ピストン移動手段)
23 位置決めピン(ピストン移動手段)
31a、31b、33a、33b テーパ部(ピストン移動手段)
33c ピン溝(ピストン移動手段)
34 位置決めピン(ピストン移動手段)
41a、43a テーパ部(ピストン移動手段)
43b ピン溝(ピストン移動手段)
44 スプリング(ピストン移動手段)
45 位置決めピン(ピストン移動手段)
51、52 ピストンピン(ピストン移動手段)
53、54 スナップリング(ピストン移動手段)
56b 仕切部(ピストン移動手段)
61c、61d、63A、63B 油路(ピストン移動手段)
62a、62b 蓋(ピストン移動手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のシリンダボアの軸線方向と同方向に往復動するように前記シリンダボア内に収納され、外周部に形成された周溝に前記シリンダボアの内壁に摺接するピストンリングが装着されたピストンと、前記ピストンに取付けられたピストンピンと、前記ピストンピンに連結される小端部およびクランクシャフトに連結された大端部を有するコネクティングロッドとを備え、
前記周溝に前記ピストンの内周面に連通するオイル戻し穴が形成された内燃機関のピストン構造であって、
前記ピストン、前記および前記コネクティングロッドにピストン移動手段を設け、
前記ピストン移動手段が、前記クランクシャフトの回転に伴って前記ピストンリングが前記シリンダボアに対して前記クランクシャフトの軸線方向の一方側と他方側とに交互に偏るように、前記ピストンを前記シリンダボアの軸線方向と略直交する方向に往復動させることを特徴とする内燃機関のピストン構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−67820(P2012−67820A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212057(P2010−212057)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】