説明

内燃機関の冷却構造、シリンダブロック及びシリンダブロックの製造方法

【課題】含浸加工が施された鋳造部品を本体に含む内燃機関において、鋳造部品に冷却液ジャケットから分岐した枝路として形成された冷却液通路の周辺の冷却効果を高めることができる内燃機関の冷却構造、シリンダブロック及びシリンダブロックの製造方法を提供する。
【解決手段】シリンダブロック11のシリンダボア間領域21にはボア間冷却水路22が形成されている。シリンダブロック11は鋳造された後に樹脂含浸加工が施されている。このため、鋳巣27に含浸して硬化した樹脂により鋳巣27によるリーク経路が封止されている。ボア間冷却水路22の内周面からは、樹脂含浸加工で形成された樹脂膜50が除去され、その内周面にはシリンダブロック11の金属材料が露出している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダブロック等の内燃機関の本体を構成する鋳造部品に、冷却液ジャケットから分岐する冷却液通路が形成された内燃機関の冷却構造、シリンダブロック及びシリンダブロックの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1、2には、内燃機関のバンクに直列に配列された気筒のシリンダボア間にウォータジャケット(冷却液ジャケット)から分岐するボア間冷却水路(冷却液通路)を形成し、これらボア間冷却水路に冷却液(冷却水)を流すことで、内燃機関の冷却性能を高めている内燃機関の冷却構造が開示されている。特許文献1では、気筒間での燃焼時期に応じてシリンダボア間に流す冷却液量を調節している。また、特許文献2では、特にシリンダボアの真円度を確保するために全てのシリンダボア間に流す冷却液の流速を高くして全てのシリンダボア間領域の冷却効果を高めている。
【0003】
また、内燃機関の本体を構成するシリンダブロック等の本体部品は、通常、ダイカスト鋳造(例えばアルミダイカスト鋳造)で製造されている。この種のダイカスト鋳造部品には、ある確率で鋳巣(微小な気泡群)が発生することは避けられない。例えばシリンダブロックにおいてシリンダボア間に鋳巣があると、ボア間冷却水路からシリンダライナ界面(シリンダブロックとシリンダライナとの界面)に繋がる鋳巣によるリーク経路が形成される虞がある。そして、このリーク経路からシリンダライナ界面を経て燃焼室やクランクケース内へ冷却液がリークし、これが原因でエンジンの機能障害が発生する虞があった。
【0004】
このため、シリンダブロック等のダイカスト鋳造部品には、鋳巣によるリーク経路を封止するために樹脂含浸加工が施される(例えば特許文献3〜5)。樹脂含浸加工では、シリンダブロック等のダイカスト鋳造部品を減圧下で樹脂液に浸漬して鋳巣に樹脂液を含浸させる含浸処理と、液切り・洗浄の後、鋳巣に含浸した樹脂液を硬化(例えば熱硬化)させる硬化処理とを行い、鋳巣によるリーク経路を封止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−247523号公報(第5,6頁、図2,3,5)
【特許文献2】特開2005−325712号公報(第4,5頁、図3,4)
【特許文献3】特開平7−216411号公報
【特許文献4】特開平5−237726号公報
【特許文献5】特開2002−011563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、過給機を装備したエンジンなどでは、相対的にエンジン運転中の燃焼室温度が高くなる傾向がある。このため、シリンダボア間領域を通るボア間冷却水路が冷却効果を高めるうえで有効に機能する。しかし、従来、ボア間冷却水路の内周面には、樹脂含浸加工で残った樹脂膜が形成されている。この樹脂膜は、シリンダブロックの形成材料である例えばアルミニウムやシリンダライナの形成材料である例えば鉄(鋳鉄)などの金属に比べ、熱伝導率が低い。このため、比較的薄い樹脂膜であっても、シリンダボア間領域の熱が冷却水へ伝達されにくく、シリンダボア間領域の冷却効果を低下させる原因になる。特にシリンダボア間領域はかなり狭くボア間冷却水路もかなり細い(例えば0.5〜3mm径)ので、ボア間冷却水路を流れる冷却液の流量が相対的に少なく、ボア間冷却水路を流れる冷却液による冷却効果を少しでも高めたいという要請がある。なお、ボア間冷却水路に限らず、内燃機関本体の所定箇所の冷却性能を高めるため、ウォータジャケットから分岐して形成された他の冷却液通路でも同様の要請がある。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、含浸加工が施された鋳造部品を本体に含む内燃機関において、鋳造部品に冷却液ジャケットから分岐した枝路として形成された冷却液通路の周辺の冷却効果を高めることができる内燃機関の冷却構造、シリンダブロック及びシリンダブロックの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について説明する。
請求項1に記載の発明は、複数の気筒を直列に配列した少なくとも一つのバンクを有する液冷式の内燃機関において、前記複数の気筒を形成する複数のシリンダボアを囲むように設けられた冷却液ジャケットを有する内燃機関の冷却構造であって、前記内燃機関の本体は、前記冷却液ジャケットの少なくとも一部が形成された鋳造部品を備え、前記鋳造部品には前記冷却液ジャケットの枝路となる冷却液通路が設けられるとともに、有機材料又は無機材料からなる含浸液を含浸させる含浸処理と、前記含浸液を硬化させる硬化処理とが施されており、前記冷却液通路の内周面の少なくとも一部は、前記含浸液の硬化により形成された含浸材が除去されて前記鋳造部品の形成材料が露出していることを要旨とする。
【0009】
同構成によれば、内燃機関の本体を構成し、冷却液ジャケットの少なくとも一部が形成された鋳造部品には、冷却液ジャケットの枝路となる冷却液通路が設けられている。さらに、冷却液通路を有する鋳造部品は、有機材料又は無機材料からなる含浸液を含浸させる含浸処理と、含浸処理後に含浸液を硬化させる硬化処理とが施されているので、鋳造時にある確率で発生する鋳巣によるリーク経路が含浸材(含浸液が硬化したもの)により封止されている。さらに、鋳造部品の冷却液通路の内周面の少なくとも一部は、含浸材が除去されて鋳造部品の形成材料(金属材料)が露出している。つまり、冷却液通路の内周面の少なくとも一部には、熱伝導を妨げる含浸材(例えば有機材料膜又は無機材料膜)が存在しない。このため、内燃機関の運転中に気筒(燃焼室)から鋳造部品に伝わった熱は、冷却液通路の内周面の少なくとも一部では速やかに伝導し、冷却液通路内の冷却液へ効率よく伝達される。よって、含浸加工が施された鋳造部品を含む内燃機関において冷却液ジャケットの枝路として形成された冷却液通路の周辺の冷却効果を高めることができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の冷却構造において、前記冷却液通路は、前記各シリンダボア間に形成されたボア間冷却液通路である。
同構成によれば、各シリンダボア間の部分の熱は、ボア間冷却液通路(冷却液通路)の内周面のうち少なくとも含浸材が除去された箇所に速やかに伝導し、ボア間冷却液通路内の冷却液への熱伝達が効率よく行われる。このため、各シリンダボア間の部分を効率よく冷却することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の内燃機関の冷却構造において、前記冷却液通路は、直線状の孔である。
同構成によれば、冷却液通路は直線状の孔であるので、冷却液通路内に除去用工具を挿入してその内周面から含浸材を除去する加工がしやすい。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のうちいずれか一項に記載の内燃機関の冷却構造において、前記冷却液通路の内周面の少なくとも一部は、研磨されている。
同構成によれば、冷却液通路の内周面の少なくとも一部は研磨されているので、切削に比べると、鋳造部品の形成材料(金属材料)をほとんど除去せずに目的とする含浸材を選択的に除去できる。
【0013】
請求項5に記載の発明は、内燃機関の本体を構成するシリンダブロックであって、当該シリンダブロックは、請求項1乃至4のうちいずれか一項に記載の内燃機関の冷却構造における鋳造部品を構成している。
【0014】
同構成によれば、シリンダブロックの鋳造に伴い発生した鋳巣によるリーク経路を封止しつつ、冷却液通路を流れる冷却液による冷却効率を高めることができる。
請求項6に記載の発明は、複数の気筒を直列に配列した少なくとも一つのバンクを有する液冷式の内燃機関の本体を構成し、前記複数の気筒を形成する複数のシリンダボアを囲むように設けられた冷却液ジャケットを有するシリンダブロックの製造方法であって、前記冷却液ジャケットを有するシリンダブロックを鋳造するとともに当該シリンダブロックを前記冷却液ジャケットの枝路となる冷却液通路が設けられた形態で製造する製造工程と、前記シリンダブロックに有機材料又は無機材料からなる含浸液を含浸させる含浸工程と、前記シリンダブロックに含浸された含浸液を硬化させる硬化工程と、前記冷却液通路の内周面のうち少なくとも一部から前記含浸液の硬化により形成された含浸材を除去して当該少なくとも一部に前記シリンダブロックの形成材料を露出させる除去工程と、を備えたことを要旨とする。
【0015】
同方法によれば、製造工程では、シリンダブロックは、冷却液ジャケットを有する形態での鋳造を伴って、冷却液ジャケットの枝路となる冷却液通路が設けられた形態で製造される。このとき、冷却液通路は、例えば中子を用いた鋳造により形成されてもよいし、鋳造後のシリンダブロックに加工(例えばドリル加工)を施して形成されてもよい。含浸工程では、シリンダブロックに有機材料又は無機材料からなる含浸液が含浸される。この結果、シリンダブロック内の鋳巣などに含浸液が含浸する。硬化工程では、シリンダブロックに含浸した含浸液を硬化させる。このとき、鋳巣に含浸した含浸液が硬化することにより、鋳巣によるリーク経路が封止される。また、冷却液通路の内周面や冷却液ジャケットの内周面を含むシリンダブロックの表面全体が、含浸液が硬化してできた含浸材(例えば膜)で覆われる。除去工程では、冷却液通路の内周面のうち少なくとも一部から含浸材が除去され、当該少なくとも一部にシリンダブロックの形成材料(金属材料)を露出させる。このため、シリンダブロックの鋳造に伴い発生した鋳巣によるリーク経路を封止しつつ、冷却液ジャケットの枝路として設けられた冷却液通路の周辺部分の冷却効果を高めることができる。
【0016】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載のシリンダブロックの製造方法であって、前記製造工程は、前記シリンダブロックを鋳造する鋳造工程と、前記シリンダブロックにおけるシリンダボア間の領域に前記冷却液通路としてのボア間冷却液通路をドリル加工により形成する通路形成工程と、を備える。
【0017】
同方法によれば、製造工程では、冷却液ジャケットを有するシリンダブロックは鋳造される。そして、通路形成工程で、シリンダブロックにおけるシリンダボア間の領域に冷却液通路としてのボア間冷却液通路がドリル加工により形成される。ボア間冷却液通路はドリル加工されるので、中子を用いて冷却液通路を鋳造により形成する場合に比べ、金型装置を簡単な構造とすることができる。また、ドリル加工されたボア間冷却液通路は直線状の孔となるので、除去工程でボア間冷却液通路内に除去用工具を挿入した際に内周面に対する除去用工具の片当たりや偏った押圧をほとんど伴わずに含浸材の除去を行うことができる。そして、内燃機関の運転中においては、シリンダボア間領域の熱はボア間冷却液通路の内周面のうち少なくとも含浸材の除去された箇所に効率よく伝導し、ボア間冷却液通路内の冷却液に伝達されるので、各シリンダボア間の部分を効率よく冷却できる。
【0018】
請求項8に記載の発明は、請求項6又は7に記載のシリンダブロックの製造方法において、前記除去工程では、前記冷却液通路の内周面を研磨する。
同方法によれば、除去工程では、冷却液通路の内周面に形成された含浸材は、研磨により除去される。研磨なので、含浸材が表面側から少しずつ削り取られる。このため、切削に比べ、シリンダブロックの形成材料の除去量を零もしくは極力少なく抑えつつ、目的とする含浸材を選択的に除去できる。
【0019】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載のシリンダブロックの製造方法において、前記除去工程では、回転軸に設けられた円筒状の繊維状部に砥粒が付着されてなる研磨用工具を用いて、前記研磨用工具の回転軸を回転させつつ冷却液通路の内径と略同じ大きさの外径を有する前記繊維状部を前記冷却液通路内に挿入させて、前記冷却液通路内を研磨する。
【0020】
同方法によれば、除去工程では、回転軸に設けられた円筒状の繊維状部に砥粒が付されてなる研磨用工具を用いて、回転軸を回転させつつ前記冷却液通路の内径と略同じ大きさの外径を有する繊維状部を冷却液通路内に挿入させることにより、冷却液通路内が研磨され含浸材が除去される。冷却液通路がドリル孔のような比較的小径の孔であっても、比較的簡単かつシリンダブロックの形成材料の除去量を零もしくは極力少なく抑えつつ、冷却液通路内の含浸材を除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】一実施形態における内燃機関冷却構造が適用されたエンジンの斜視図。
【図2】シリンダブロックの平面図。
【図3】図2におけるA−A線でのエンジンの断面図。
【図4】シリンダブロックの製造方法を示すフローチャート。
【図5】(a)〜(c)ボア間冷却水路の形成方法を示す模式断面図。
【図6】(a)〜(f)シリンダブロックの製造方法を示す模式図。
【図7】ボア間冷却水路の研磨工程を示す断面図。
【図8】(a)研磨工程におけるボア間冷却水路、(b)研磨後のボア間冷却水路をそれぞれ示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を具体化した一実施形態を図1〜図8を参照して説明する。
図1に示すように、内燃機関としてのエンジン10は、シリンダブロック11とシリンダヘッド12とを備えている。本実施形態のエンジン10は、複数(N個)の気筒#1〜#N(図1の例では4つの気筒#1〜#4)が直列に配列されたバンクを有する多気筒エンジンである。シリンダブロック11のバンクには、各気筒#1〜#4を形成する複数(例えば4つ)のシリンダボア13が直列に配列された状態で設けられている。
【0023】
図1及び図2に示すように、シリンダブロック11の内部には、複数のシリンダボア13の周囲を囲繞する形状の冷却液ジャケットとしてのウォータジャケット14のうちシリンダブロック11側の部分であるブロック側ウォータジャケット15が形成されている。さらに、シリンダブロック11には、その外部からブロック側ウォータジャケット15の内部に冷却水を導入するための導入口16が設けられている。本実施形態では、シリンダブロック11として、そのシリンダヘッド12側に位置するデッキ面17においてブロック側ウォータジャケット15が開口するオープンデッキ型のものが採用されている。なお、シリンダヘッド12には、ブロック側ウォータジャケット15と連通しブロック側ウォータジャケット15と共にウォータジャケット14を構成するヘッド側ウォータジャケット28(図3参照)が形成されている。
【0024】
シリンダブロック11はアルミニウム製又はアルミ合金製であり、ダイカスト鋳造で製造されている。シリンダブロック11のボア内周部には例えば鋳鉄からなる円筒状のシリンダライナ18が鋳ぐるみされており、シリンダライナ18の内側がシリンダボア13となっている。なお、本実施形態では、シリンダブロック11が、内燃機関の本体を構成する鋳造部品に相当する。
【0025】
図1に示すように、シリンダブロック11において気筒#1側に設けられた導入口16からブロック側ウォータジャケット15内に導入された冷却液(ここでは冷却水)は、その一部がブロック側ウォータジャケット15をシリンダボア13の配列に沿って気筒#4まで流れる。また、ブロック側ウォータジャケット15から気筒♯1の上流側位置で矢印Sで示すようにシリンダヘッド12側に上昇した一部の冷却液がシリンダヘッド12内を下流方向(図1における右方向)へ流れる。ブロック側ウォータジャケット15から気筒♯4の下流側位置で矢印Tで示すようにシリンダヘッド12側に上昇した冷却液と、シリンダヘッド12内を下流方向へ流れた冷却液とは合流し、ラジエータ側へ排出される。このような冷却液の流れは冷却液ポンプ(ここではウォータポンプ)(図示せず)の駆動により生じる。
【0026】
直列に配列されたN個(本例では4個)のシリンダボア13のうち隣合う2つのシリンダボア13,13間には、合計(N−1)個(例えば3個)のシリンダボア間領域21が存在する。このシリンダボア間領域21は、隣合う2つのシリンダボア13,13に挟まれた領域であり、高温化し易いことから、各シリンダボア間領域21にはそれぞれボア間冷却液通路としてのボア間冷却水路22が設けられている。なお、本実施形態におけるシリンダボア間領域21とは、シリンダボア13間のうちの鋳造部分を指す。このため、シリンダライナ18を有する本例のシリンダブロック11の場合、シリンダボア間領域21とは、隣合うシリンダライナ18の外周面間の領域を指す。
【0027】
各シリンダボア13は、ピストンを往復動可能に収容するためのものである。各シリンダボア13においてピストンよりも上側の空間は、燃料及び空気の混合気を燃焼するための燃焼室の一部を構成する。隣合うシリンダボア13,13は互いに接近しており、その間隔は例えば4〜8mm程度となっている。
【0028】
エンジン10の運転時には燃焼室で混合気が爆発・燃焼し、それにともない熱が発生する。この熱によって燃焼室の周囲が高温となる。シリンダライナ18のうちピストンよりも上側の空間が燃焼室を構成するので、同シリンダライナ18の特に上部が高温となる。
【0029】
シリンダボア間領域21には、デッキ面17からブロック側ウォータジャケット15に連通する孔を、ドリル等の工具によって開け、このドリル孔(通常「ドリルパス」と呼ばれる。)によってボア間冷却水路22が構成されている。ボア間冷却水路22は、シリンダボア間領域21において、ボア軸方向(図2の紙面直する方向)に対して傾斜しつつ、気筒配列方向と直交する方向に延びる斜めの経路で形成されている。本実施形態では、複数のボア間冷却水路22は全て同じ直径Dに形成されている。もちろん、ボア間冷却水路22は複数種の異なる直径Dのものあってもよい。また、ボア間冷却水路22は、シリンダブロック11の高さ方向においてシリンダライナ18の特に高温となる上部に対応する位置に設けられている。
【0030】
次にボア間冷却水路22及びその周辺の構造を説明する。図3は、図2におけるA−A線で切断した断面図、つまりシリンダボア間領域を気筒配列方向と直交する方向に切った断面図を示す。ここで、各ボア間冷却水路22は、基本的に同じ構造を有するので、以下では気筒♯2,♯3間のシリンダボア間領域21に形成されたボア間冷却水路22について説明する。
【0031】
図3に示す断面ではブロック側ウォータジャケット15は、シリンダボア13(図2参照)の配列方向両側(図3では左右両側)に一対位置する。図3において、一対のブロック側ウォータジャケット15の間を内側とすると、ボア間冷却水路22の一端部(図3における左端部)は、シリンダブロック11のデッキ面17において一方(図3における左側)のブロック側ウォータジャケット15の開口部の内側近傍位置で開口する。そして、ボア間冷却水路22は、ボア軸方向(図3における下方向)と、気筒配列方向と直交する方向(図3における左右方向)との両方向に変位する斜めの方向にほぼ直線状に延びている。そして、ボア間冷却水路22の反対側端部(図3における右端)は他方(図3における右側)のブロック側ウォータジャケット15に連通している。本実施形態のボア間冷却水路22は、ドリル孔であるため、直線状に延びている。
【0032】
図3に示すように、エンジン10は、シリンダブロック11とシリンダヘッド12とが、シリンダブロック11のデッキ面17に配置されたガスケット25を間に挟んだ状態で、ボルト29の締結により接合されることにより構成されている。ガスケット25には、ボア間冷却水路22のヘッド側(図3における左側)の開口と対応する位置に貫通孔25aが形成されている。また、シリンダヘッド12には、貫通孔25aと対応する位置で開口する連通孔12a及び連通孔12aと連通するヘッド側ウォータジャケット28が形成されている。連通孔12aは、ボア間冷却水路22の直径D(図2参照)と同一の直径、あるいは、より大きい直径あるいは僅かに小さい直径にて形成されている。このため、図1における矢印S及び矢線T以外でも、各シリンダボア間領域21の各ボア間冷却水路22を通ってブロック側ウォータジャケット15からヘッド側ウォータジャケット28(図3)へ冷却液が流れるようになっている。
【0033】
そして、図3において右側のブロック側ウォータジャケット15からボア間冷却水路22を通って貫通孔25a及び連通孔12aを通じてヘッド側ウォータジャケット28に冷却液が流れることにより、シリンダボア間領域21が冷却される。このため、エンジン10の運転中における気筒♯1〜♯4周辺温度が想定する基準温度以下に抑えられる。
【0034】
図5に示すように、ダイカスト鋳造されたシリンダブロック11には、金型に溶湯(アルミ合金融液)を圧入する過程で、空気の泡を巻き込むなどして生成される複数の微小な気泡の集まりである鋳巣27が存在する可能性がある。この種の鋳巣27は冷却液のリーク経路の原因となる虞がある。
【0035】
図5に示すように、ボア間冷却水路22は、シリンダボア間領域21の幅中心を通るように形成されるが、加工公差の範囲内で気筒配列方向(図5における左右方向)にずれることは避けられない。例えば、ボア間冷却水路22の形成位置が、シリンダボア間領域21の幅中心に対して気筒配列方向に加工公差内の距離だけずれると、そのずれた側でシリンダブロック11のシリンダボア13側の内周面、つまりシリンダブロック11とシリンダライナ18との界面(以下、「ライナ界面26」と称す)と、ボア間冷却水路22とが接近する。
【0036】
この場合、接近した側でボア間冷却水路22とライナ界面26との間に鋳巣27が存在すると、ボア間冷却水路22とライナ界面26とに鋳巣27によるリーク経路が形成される虞がある。このため、このような鋳巣27に合成樹脂を含浸してリーク経路を封止すべく、ダイカスト鋳造後のシリンダブロック11には樹脂含浸加工(有機含浸加工)が施される。
【0037】
本実施形態のシリンダボア間領域21は、最も狭い部分の幅が例えば2〜6mmの範囲内の値である。ボア間冷却水路22の直径Dは、その加工公差が最大ずれた場合も、ボア間冷却水路22とライナ界面26との間の距離(肉厚)が、その強度上必要な最低距離(例えば0.2〜0.5mmの範囲内の値)以上確保されるように設定されている。本例では、ボア間冷却水路22は、例えば0.5〜3mmの範囲内の直径Dを有する。本例のボア間冷却水路22は、シリンダボア間領域21の最も狭い部分の幅の半分以下の直径Dを有している。もちろん、必要な強度が確保されるのであれば、最も狭い部分の幅の半分を超える直径Dの採用も可能である。
【0038】
この種の樹脂含浸加工を施すと、図5(b)に示すように、鋳巣27が樹脂で埋まるため鋳巣27によるリーク経路は封止されるが、シリンダブロック11におけるボア間冷却水路22の内周面やブロック側ウォータジャケット15の内周面を含む表面全体が例えば樹脂膜50でコートされる。この樹脂膜50は、含浸処理後に液切れ処理や後洗浄を行った後にシリンダブロック11上に残った樹脂液が硬化したものであるので、その膜厚は不均一なものとなっている。
【0039】
このため、気筒♯1〜♯4の燃焼室で発生した熱がライナ界面26からシリンダボア間領域21を通ってボア間冷却水路22の内周面(冷却液界面)に至るまでの熱伝導経路において、ボア間冷却水路22の内周面上に形成された樹脂(樹脂膜50)が熱伝導率を大きく低下させる原因になる。例えば熱硬化性樹脂(含浸材)の熱伝導率は約0.15(W/m・K)、アルミ合金(例えばADT4)の熱伝導率は約96(W/m・K)である。このため、本実施形態では、この種の樹脂膜50がボア間冷却水路22の内周面から除去されている。
【0040】
<製造方法>
次に、シリンダブロック11の製造方法を説明する。図4は、シリンダブロック11を製造する際の各工程を示すフローチャートである。以下、図4に従って必要に応じて図5〜図8を参照しつつ、シリンダブロック11の製造方法を説明する。
【0041】
まず工程S1において、シリンダブロック11のダイカスト鋳造を行う(鋳造工程)。シリンダブロック11はシリンダライナ18を鋳ぐるんだ構造を有する。ダイカスト鋳造では、一対の型(固定型と可動型)の一方に設けたライナホルダにシリンダライナ18を圧入保持し、型締めした状態でライナホルダとシリンダライナ18との間に隙間を形成しておき、この状態でシリンダライナ外周キャビティに注湯し、凝固後型開きしてシリンダブロック11を型から取外す。
【0042】
次の工程S2では、シリンダブロック11のデッキ面17においてシリンダボア間領域21に相当する箇所にブロック側ウォータジャケット15に連通する孔を、ドリル装置を用いたドリル加工により開け、この孔によってドリルパスからなるボア間冷却水路22を形成する(通路形成工程)。なお、本実施形態では、工程S1及びS2により製造工程が構成される。
【0043】
図5(a)はダイカスト鋳造後にドリルパスよりなるボア間冷却水路22が形成されたシリンダボア間領域21の断面を示す。図5(a)に示すように、シリンダライナ18の外周面には括れた形状(キノコ形状)の多数の突起18aがほぼ全域に亘り形成されており、鋳ぐるみされたシリンダライナ18は、突起18aが噛み合うことによりシリンダブロック11と強固に結合されている。図5(a)に示す例では、シリンダボア間領域21においてボア間冷却水路22とライナ界面26との間に鋳巣27が形成されており、この鋳巣27が冷却液のリーク経路となる虞がある。
【0044】
図4に戻って次の工程S3では、前洗浄を行う。すなわち、図6(a)に示すように、複数のシリンダブロック11をバスケット31に収納し、このバスケット31を液槽32中の洗浄液33に浸漬させることにより、複数のシリンダブロック11を前洗浄する。
【0045】
次の工程S4では、減圧を行う。すなわち、図6(b)に示すように、複数のシリンダブロック11を収納したバスケット31を、減圧槽35に収容して蓋で密閉し、この密閉状態で減圧槽35内を減圧する。
【0046】
次の工程S5では、樹脂含浸を行う。すなわち、図6(c)に示すように、減圧状態の減圧槽35内にシリンダブロック11が全て浸漬する量の樹脂液36(含浸液)を流し込む。本例の樹脂液36は、硬化前の熱硬化性樹脂液からなる。減圧下で樹脂液36が流し込まれるため、樹脂液36はシリンダブロック11のボア間冷却水路22などの細孔や鋳巣27にまで含浸する。なお、必要に応じて、樹脂液36を流し込んだ後、さらに減圧を行ってもよい。
【0047】
樹脂含浸が終わると、次の工程S6において、減圧槽35から取り出したバスケット31を遠心分離機37に収容し、遠心分離作用により液切りを行う(図6(d))。この結果、シリンダブロック11の表面(凹部や孔の内周面を含む)に付着した余分な樹脂液36が除去される。
【0048】
次の工程S7では、後洗浄を行う。すなわち、図6(e)に示すように、樹脂含浸及び液切り後の複数のシリンダブロック11を収納したバスケット31を、液槽38中の洗浄液39に浸漬させることにより、複数のシリンダブロック11を洗浄する。なお、本実施形態では、工程S3〜S7の処理が、含浸工程に相当する。
【0049】
そして次の工程S8では、加熱処理を施す。すなわち、図6(f)に示すように、バスケット31に収納した複数のシリンダブロック11を、加熱槽40の熱水41に浸漬させ、シリンダブロック11に含浸した樹脂液を熱硬化させる(硬化工程)。加熱槽40は、熱水41が樹脂液の熱硬化温度以上の設定温度に温度制御されている。樹脂含浸処理と加熱処理(熱硬化処理)とを含む樹脂含浸加工が終わった状態では、図5(b)に示すように、鋳巣27内に含浸した樹脂液が硬化し、ボア間冷却水路22とライナ界面26間の鋳巣27によるリーク経路が封止される。このとき、ボア間冷却水路22の内周面を含むシリンダブロック11の表面全域に、硬化樹脂よりなる樹脂膜50(含浸材)が形成される。樹脂膜50は、例えば20〜200μmの範囲内の厚さを有する。樹脂膜50は比較的薄く、樹脂膜50が残っていてもボア間冷却水路22の必要な流路径は確保される。このため、従来は、ここまでの工程でシリンダブロック11の製造が終わっていた。なお、図5(b),(c)では、図示を省略しているが、樹脂膜50はデッキ面17にも形成されている。
【0050】
本実施形態では、さらに工程S9において、ボア間冷却水路22内の樹脂を除去する(除去工程)。本実施形態では、除去用工具として図7及び図8(a)に示す研磨用工具51を使用し、ボア間冷却水路22の内周面を研磨することで樹脂膜50を取り除く。ここで、研磨を採用するのは、樹脂膜50を表面側から少しずつ削り取ることができ、シリンダブロック11の形成材料である金属(例えばアルミ合金)の除去量を零もしくは極力少なく抑えつつ、樹脂膜50を選択的に除去することができるからである。
【0051】
本実施形態で使用する研磨用工具51は、図7及び図8(a)に示すように、回転軸52の先端側の所定領域に多数本の糸状部53が回転軸52から放射状に延出するとともに各糸状部53の先端に球状の研磨体54が設けられてなる円筒状の繊維状部55を有する。そして、研磨用工具51は、この繊維状部55の表面(つまり研磨体54の表面)に所定サイズの砥粒がほぼ一面に付着されてなる。研磨用工具51としては、ボア間冷却水路22の内径と略同じ大きさの外径の繊維状部55を有するものを使用する。研磨作業時には、ドリル装置(図示せず)のチャック部に研磨用工具51の回転軸52の基部を装着し、ドリル装置を駆動させて、図7に示すように回転軸52を回転させつつ、繊維状部55をボア間冷却水路22内に挿入した状態で軸方向へ往復移動させる。この結果、図8(b)に示すように、ボア間冷却水路22内の樹脂膜50が研磨により取り除かれる。このため、ボア間冷却水路22の内周面は、シリンダブロック11の形成材料である金属(本例ではアルミ合金)が露出した状態にある。本実施形態では、ボア間冷却水路22の長手方向全域で樹脂膜50は除去されている。
【0052】
ここで、研磨用工具51の繊維状部55の砥粒は、シリンダブロック11の形成材料である金属(アルミ合金)よりも樹脂膜50の形成材料である樹脂の方が研削し易い。このため、研磨工程の終期で金属(アルミ合金)が局所的に露出しても、ボア間冷却水路22の内周面全域の研磨を仕上げるまでに、研削される金属の除去量は最大でも数μm以下に抑えられる。
【0053】
上記の製造方法により製造されたシリンダブロック11には、そのクランクケースにクランクシャフトが支持された状態で組み付けられるとともに、クランクシャフトにコネクティングロッドが連結された複数のピストンが各シリンダボア13内に収容される。シリンダブロック11のデッキ面17にガスケット25を介してシリンダヘッド12が組み付けられるなどして、エンジン10が製造される。このエンジン10では、ブロック側ウォータジャケット15とヘッド側ウォータジャケット28が、各シリンダボア間領域21を通るボア間冷却水路22、貫通孔25a及び連通孔12aを介して連通している。
【0054】
<作用>
次に、上記シリンダブロック11を備えたエンジン10の作用を説明する。
エンジン10の運転中は、冷却液ポンプ(ウォータポンプ)が駆動され、図1に示す導入口16から冷却液が導入される。導入口16から導入された冷却液は、その一部が図1における矢印Sに示すようにブロック側ウォータジャケット15からシリンダヘッド12側へ上昇してヘッド側ウォータジャケット28内を下流方向(図1における右方向)へ流れる。その他の冷却液はブロック側ウォータジャケット15内を下流側へ流れるとともに、その下流側位置から矢印Tで示すようにシリンダヘッド12側に上昇して、ヘッド側ウォータジャケット28内を下流方向(図1における右方向)へ流れてきた冷却水と合流し、ラジエータ側へ排出される。
【0055】
例えば過給機(図示せず)を搭載したエンジン10では、各気筒♯1〜♯4の燃焼室が相対的に高温になりやすい。しかし、本実施形態のエンジン10は、各シリンダボア間領域21に形成されたボア間冷却水路22を冷却液が流れることにより、各シリンダボア間領域21が冷却される。各ボア間冷却水路22は樹脂膜50が除去されていてその内周面にはシリンダブロック11の金属材料(本例ではアルミニウム又はアルミ合金)が露出している。このため、燃焼室からシリンダライナ18を介してシリンダボア間領域21に伝わった熱は、ボア間冷却水路22の内周面に速やかに伝導し、その内周面からボア間冷却水路22内を流れる冷却液に効率よく伝達される。この結果、ボア間冷却水路22を流れる冷却液によるシリンダボア間領域21の冷却効果が高まり、シリンダボア間領域21は基準温度以下に抑えられる。
【0056】
以上詳述したように本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)シリンダボア間領域21にブロック側ウォータジャケット15と連通する状態に形成されたボア間冷却水路22の内周面に、樹脂含浸加工の結果として形成された樹脂膜50を除去する。この結果、シリンダブロック11においてボア間冷却水路22とライナ界面26間における鋳巣27によるリーク経路を封止しつつ、ボア間冷却水路22の内周面から低熱伝導性材料の樹脂膜50を無くすことができる。このため、シリンダブロック11からボア間冷却水路22内の冷却液へ熱が伝達されやすくなり、シリンダボア間領域21の冷却性能を高めることができる。よって、ボア間冷却水路22を流れる冷却液により、シリンダボア間領域21を効果的に冷却することができる。例えば、エンジン10の運転中における気筒♯1〜♯4周辺温度が想定する基準温度以下に抑えられる。
【0057】
(2)樹脂膜50を除去するために研磨を採用したので、ボア間冷却水路22の内径をほぼ設計どおりの値を保ちつつ不要な樹脂膜50を除去することができる。また、研磨なので、樹脂膜50が表面側から少しずつ削り取られる。これに対して、樹脂膜50をドリルなどの刃具を用いて除去する切削を採用した場合は、樹脂膜50の下地であるシリンダブロック11の形成材料(例えばアルミ合金)を削り過ぎる虞がある。このため、研磨とすることにより、切削に比べ、シリンダブロック11の形成材料の除去量を零もしくは極力少なく抑えつつ、除去の対象とする樹脂膜50のみを選択的に除去することができる。
【0058】
(3)研磨用工具51として、回転軸52に設けられた円筒状の繊維状部55の表面に砥粒を付着した構造のものを用いた。特に本例では、回転軸52から放射状に延びる糸状部53の先端部に球状の研磨体54が固定されてなる円筒状の繊維状部55の表面に砥粒を付着した構造のものを用いた。そして、ボア間冷却水路22の直径Dと繊維状部55がほぼ同径のサイズの研磨用工具51を用いて、回転軸52を回転させつつ、ボア間冷却水路22内へ挿入した繊維状部55を軸方向(つまり水路軸線方向)に往復移動させることによりボア間冷却水路22の内周面を研磨して樹脂膜50を除去する。このような回転式の研磨用工具51なので、ボア間冷却水路22内を周方向に均一に研磨でき、かつ研磨用工具51を軸方向に往復移動させることにより、ボア間冷却水路22の内周面を軸方向にも均一に研磨できる。この結果、ボア間冷却水路22内の長手方向の所望領域(本例では全域)において樹脂膜50をほぼ均一に除去することができる。例えば、片面のみに研磨部を有する研磨用工具であると、ボア間冷却水路22の内周面に研磨部が片当たりし、その片当たり箇所が優先的に研磨される。この場合、樹脂膜50が不均一に除去されてその一部が残ったり、ボア間冷却水路22の内周面を削り過ぎてシリンダブロック11の形成材料であるアルミ合金が不要に削り取られたりする不都合が心配される。しかし、本実施形態では、球状の研磨体54がボア間冷却水路22の内周面に対しその周方向に均等に当たりやすく、樹脂膜50の均一な研磨を実現しやすい。このため、樹脂膜50の取り残しや、シリンダブロック11の形成材料の過剰な削り取りを回避しやすい。よって、ボア間冷却水路22の内径を適切に保ちつつ、低熱伝導率の樹脂膜50をきれいに取り除くことができる。
【0059】
(4)ボア間冷却水路22の内周面から樹脂膜50が無くなり金属材料が露出するため、燃焼室側からの熱がシリンダボア間領域21を伝導してボア間冷却水路22の内周面(冷却液界面)に至るまでの熱伝導率が向上する。このため、シリンダボア間領域21の冷却効果が高まり、高出力タイプのエンジン10においてもシリンダボア間領域21を基準温度以下に保持できる。この結果、例えばガスケット25の下層のゴムの熱劣化を抑えたり、シリンダボア13の熱変形(真円度の外れ)の発生を防止できたりする。
【0060】
(5)ボア間冷却水路22はドリル孔であるので、直線状に延びている。このため、円筒状の繊維状部55を挿入する回転式の研磨用工具51を使用できる。例えば研磨対象のボア間冷却水路が屈曲した形状であると、研磨用工具51を用いても、片当たり箇所あるいは偏って押圧される箇所が発生し、これが原因で樹脂膜50を均一に除去できなくなる。しかし、本実施形態によれば、ボア間冷却水路22が直線状の孔なので、研磨用工具51の繊維状部55を挿入したときに内周面に対し片当たりや偏った押圧が発生しにくく、樹脂膜50を偏りなくほぼ均一に除去できる。
【0061】
(6)ブロック側ウォータジャケット15を有するシリンダブロック11をダイカスト鋳造により製造し(鋳造工程(S1))、ボア間冷却水路22はその後の通路形成工程(S2)でドリル加工により形成する。このため、ボア間冷却水路22を鋳造で形成する場合に比べ、中子(例えば中子ピン)が不要になる分、ダイカスト鋳造用の金型装置を構造及び動作の比較的簡単なもので済ますことができる。
【0062】
(7)ボア間冷却水路22のみ樹脂膜50を除去するので、シリンダブロック11のボア間冷却水路22以外の表面に形成された樹脂膜の少なくとも一部を合わせて除去する場合に比べ、必要な冷却効果を確保しつつ樹脂膜の除去面積をなるべく小さく抑えることにより除去工程を比較的簡単に済ませられる。
【0063】
なお、上記実施の形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・複数のシリンダボア間領域21の全部にボア間冷却水路22を設けなくてもよく、例えばN気筒♯1〜♯Nの構成において(N−1)個のシリンダボア間領域21のうち1つのみ又は2つのみ、あるいは(N−2)個のみにボア間冷却水路22が設けられた構成でもよい。
【0064】
・冷却液通路内の研磨は、研磨用工具51を用いる方法に限定されない。冷却液通路内に比較的微小粒のサンドを流して樹脂膜を研磨で除去するサンドブラストを採用してもよい。
【0065】
・冷却液通路内の樹脂膜(含浸材)の除去は、研磨に限定されず切削でもよい。例えば冷却液通路形成時に使用したドリルと同径のドリルを冷却液通路内に挿入して、樹脂膜50を除去してもよい。この場合、樹脂膜50に対する切削抵抗よりも、シリンダブロック11の形成材料(例えばアルミ合金)に対する切削抵抗の方が大きくなる条件で切削加工を行うことが好ましい。また、樹脂を溶解し金属を溶解しないエッチング液を用いたエッチングにより樹脂膜50を除去してもよい。
【0066】
・内燃機関の本体を構成する鋳造部品は、シリンダブロック11に限定されず、シリンダヘッド12でもよい。この場合、シリンダヘッド12のシリンダボア間領域に冷却液通路(ボア間冷却水路)を設け、同様の加工(含浸加工及び冷却液通路内研磨加工)を施してもよい。
【0067】
・冷却液通路は、ボア間冷却水路22に限定されない。シリンダブロック11やシリンダヘッド12においてシリンダボア間領域以外の部位に、ウォータジャケット14の枝路として形成された冷却液通路であってもよい。また、シリンダブロックに形成された枝路としての冷却液通路は、ブロック側ウォータジャケット15に連通していることは必須ではなく、例えばエンジン10として組み立てられた状態でヘッド側ウォータジャケット28に連通する構成でもよい。
【0068】
・ボア間冷却水路22の長さ方向全域で樹脂膜50を除去する構成に替え、ボア間冷却水路22の長さ方向全域のうち少なくとも一部の樹脂膜のみを除去する構成としてもよい。例えばボア間冷却水路22のうち熱伝導の向上に寄与しやすい一部のみ樹脂膜を除去する構成でもよい。例えばボア間冷却水路22の両端部の少なくとも一方の端部が研磨(除去)されてない構成でもよい。これは、ボア間冷却水路22の両端部近傍領域はブロック側ウォータジャケット15や連通孔12aが近くに位置し、比較的高い冷却効果が得られるからである。
【0069】
・ボア間冷却水路22の内周面以外の部分に形成された樹脂膜50を合わせて除去してもよい。例えばボア間冷却水路22以外の部分として、他の枝路や、ブロック側ウォータジャケット15の内周面の一部又は全部を挙げることができ、これらの樹脂膜50を合わせて除去してもよい。
【0070】
・ボア間冷却水路22は、1本の孔からなることに限定されず、2本の孔をクロスさせた構成でもよい。例えば図3において、ボア間冷却水路22と同図において左右対称(つまり傾きが反対)の孔をボア間冷却水路22にクロスさせるように追加する。
【0071】
・除去工程(研磨工程)で使用する研磨用工具51は、例えば回転軸52の先端部に巻き付けた螺旋状ブラシ(繊維状部)の表面に砥粒を付着させた構成のものでもよい。
・シリンダライナ18は、鋳ぐるみでなく、シリンダブロックに圧入してもよい。また、ライナーレスのエンジンに本発明を適用してもよい。
【0072】
・冷却液通路は、シリンダブロック11等の鋳造部品に形成された孔に限定されない。例えばシリンダブロック11のデッキ面17において隣合うシリンダボア13間にスリット状の溝を形成し、この溝によってボア間冷却水路を構成してもよい。
【0073】
・含浸加工は、樹脂液などの有機材料を用いた有機含浸加工に限定されず、無機材料を用いた無機含浸加工を採用してもよい。無機含浸加工で使用される材料として、例えば水ガラスを挙げることができる。この場合、除去工程では、ボア間冷却水路22の内周面に形成された硬化後の水ガラス膜を、例えば研磨用工具を用いて研磨により除去すればよい。シリンダブロック11の形成材料(金属)に比べ、熱伝導率の低い水ガラス膜が除去されることにより、シリンダボア間領域21の冷却効果を高めることができる。もちろん、水ガラス膜の除去に、サンドブラスト、エッチング、切削等を採用してもよい。
【0074】
・内燃機関のバンクは1つに限定されない。少なくとも1つのバンクを備えたエンジンであればよい。例えば2つのバンクを備えたV型多気筒エンジンに採用してもよい。さらに3つ以上のバンクを備えたエンジンに採用することもできる。シリンダボア間領域21に冷却液通路を設ける場合は、1つのバンクに2気筒以上備えるエンジンであることが好ましい。
【符号の説明】
【0075】
10…内燃機関としてのエンジン、11…内燃機関の本体を構成する鋳造部品としてのシリンダブロック、12…シリンダヘッド、13…シリンダボア、14…冷却液ジャケットとしてのウォータジャケット、15…ブロック側ウォータジャケット、16…導入口、17…デッキ面、18…シリンダライナ、21…シリンダボア間領域、22…冷却液通路及びボア間冷却液通路としてのボア間冷却水路、25…ガスケット、26…ライナ界面、27…鋳巣、28…ヘッド側ウォータジャケット、36…含浸液としての樹脂液、50…含浸材としての樹脂膜、51…除去用工具としての研磨用工具、52…回転軸、53…糸状部、54…研磨体、55…繊維状部、♯1〜♯4…気筒、S1…製造工程を構成する鋳造工程、S2…製造工程を構成する通路形成工程、S3〜S7…含浸工程、S8…硬化工程、S9…除去工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒を直列に配列した少なくとも一つのバンクを有する液冷式の内燃機関において、前記複数の気筒を形成する複数のシリンダボアを囲むように設けられた冷却液ジャケットを有する内燃機関の冷却構造であって、
前記内燃機関の本体は、前記冷却液ジャケットの少なくとも一部が形成された鋳造部品を備え、前記鋳造部品には前記冷却液ジャケットの枝路となる冷却液通路が設けられるとともに、有機材料又は無機材料からなる含浸液を含浸させる含浸処理と、前記含浸液を硬化させる硬化処理とが施されており、前記冷却液通路の内周面の少なくとも一部は、前記含浸液の硬化により形成された含浸材が除去されて前記鋳造部品の形成材料が露出していることを特徴とする内燃機関の冷却構造。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の冷却構造において、
前記冷却液通路は、前記各シリンダボア間に形成されたボア間冷却液通路であることを特徴とする内燃機関の冷却構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の内燃機関の冷却構造において、
前記冷却液通路は、直線状の孔であることを特徴とする内燃機関の冷却構造。
【請求項4】
請求項1乃至3のうちいずれか一項に記載の内燃機関の冷却構造において、
前記冷却液通路の内周面の少なくとも一部は、研磨されていることを特徴とする内燃機関の冷却構造。
【請求項5】
内燃機関の本体を構成するシリンダブロックであって、
請求項1乃至4のうちいずれか一項に記載の内燃機関の冷却構造における前記鋳造部品を構成することを特徴とするシリンダブロック。
【請求項6】
複数の気筒を直列に配列した少なくとも一つのバンクを有する液冷式の内燃機関の本体を構成し、前記複数の気筒を形成する複数のシリンダボアを囲むように設けられたブロック側の冷却液ジャケットを有するシリンダブロックの製造方法であって、
前記冷却液ジャケットを有するシリンダブロックを鋳造するとともに当該シリンダブロックを前記冷却液ジャケットの枝路となる冷却液通路が設けられた形態で製造する製造工程と、
前記シリンダブロックに有機材料又は無機材料からなる含浸液を含浸させる含浸工程と、
前記シリンダブロックに含浸された含浸液を硬化させる硬化工程と、
前記冷却液通路の内周面のうち少なくとも一部から前記含浸液の硬化により形成された含浸材を除去して当該少なくとも一部に前記シリンダブロックの形成材料を露出させる除去工程と、
を備えたことを特徴とするシリンダブロックの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載のシリンダブロックの製造方法であって、
前記製造工程は、
前記シリンダブロックを鋳造する鋳造工程と、
前記シリンダブロックにおけるシリンダボア間の領域に前記冷却液通路としてのボア間冷却液通路をドリル加工により形成する通路形成工程と、
を備えることを特徴とするシリンダブロックの製造方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のシリンダブロックの製造方法において、
前記除去工程では、前記冷却液通路の内周面を研磨することを特徴とするシリンダブロックの製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載のシリンダブロックの製造方法において、
前記除去工程では、回転軸に設けられた円筒状の繊維状部に砥粒が付着されてなる研磨用工具を用いて、前記研磨用工具の回転軸を回転させつつ前記冷却液通路の内径と略同じ大きさの外径を有する前記繊維状部を前記冷却液通路内に挿入させて、前記冷却液通路の内周面に形成された含浸材を研磨により除去することを特徴とするシリンダブロックの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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