説明

内燃機関の制御装置

【課題】この発明は、プレイグニッションやノックを利用してデポジットの付着状態を検出することを目的とする。
【解決手段】ECU50は、筒内に付着したデポジットの付着状態を判定する必要が生じた場合に、エンジン10の運転領域をプレイグニッション好発領域に移行させる。そして、一定の期間内に発生したプレイグニッションの発生回数N2を検出し、この発生回数N2がデポジット付着判定回数(N1+X)よりも大きい場合には、許容限度を超える量のデポジットが付着したと判定する。デポジット付着判定回数(N1+X)は、デポジットの付着量が許容限度よりも少ない状態においてプレイグニッション好発領域で発生すると予測されるプレイグニッションの予測発生回数N1と、誤判定を回避するためのマージンXとに基いて設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に係り、特に、筒内圧センサの感度を判定する機能を備えた内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、例えば特許文献1(特開2010−174744号公報)に開示されているように、筒内圧センサの感度を判定する機能を備えた内燃機関の制御装置が知られている。従来技術では、圧縮行程中の2点において筒内圧をそれぞれ検出し、これらの検出値の差分と吸入空気量との比率が閾値を超えるか否かに基いて、筒内圧センサの感度を判定する構成としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−174744号公報
【特許文献2】特開2005−273498号公報
【特許文献3】特開2002−364446号公報
【特許文献4】特開2009−258092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した従来技術では、圧縮行程中の2点における筒内圧の差分と吸入空気量との比率に基いて筒内圧センサの感度を判定する構成としている。しかし、前記判定に用いられる比率は、筒内圧センサにデポジットが付着した場合にも、センサの感度が低下した場合と同様の傾向をもって変化する。このため、従来技術では、筒内圧センサの感度が正常な場合でも、デポジットが付着しているためにセンサの感度が低下したと誤判定する虞れがあり、判定精度が低下するという問題がある。
【0005】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、本発明の目的は、プレイグニッションやノックを利用してデポジットの付着状態を検出することが可能な内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、内燃機関の筒内圧を検出する筒内圧センサと、
筒内に付着したデポジットの付着状態を判定する必要が生じた場合に、内燃機関の運転領域をプレイグニッションが発生し易い領域であるプレイグニッション好発領域に移行させる運転領域移行手段と、
前記プレイグニッション好発領域に移行した状態において、一定の期間内に発生したプレイグニッションの発生回数を検出し、前記発生回数が所定のデポジット付着判定回数よりも大きい場合に、許容限度を超える量のデポジットが付着したと判定するデポジット付着判定手段と、
を備えることを特徴とする。
【0007】
第2の発明によると、前記デポジット付着判定手段は、デポジットの付着量が許容限度よりも少ない状態において前記プレイグニッション好発領域での運転を前記一定の期間にわたり行った場合に発生すると予測されるプレイグニッションの予測発生回数を有し、当該プレイグニッションの予測発生回数に基いて前記デポジット付着判定回数を設定する構成としている。
【0008】
第3の発明は、筒内圧センサの感度低下を検出するセンサ感度低下検出手段を備え、
前記センサ感度低下検出手段により前記筒内圧センサの感度低下を検出した場合に、前記運転領域移行手段及び前記デポジット付着判定手段を作動させる構成としている。
【0009】
第4の発明は、内燃機関の筒内圧を検出する筒内圧センサと、
筒内に付着したデポジットの付着状態を判定する必要が生じた場合に、目標発生回数のノックを強制的に発生させるノック発生制御を実行するノック強制発生手段と、
前記ノック発生制御を実行することにより実際に発生したノック及びプレイグニッションの発生回数の合計値である総発生回数を検出し、前記総発生回数が前記目標発生回数に対応する所定のデポジット付着判定回数よりも大きい場合に、許容限度を超える量のデポジットが付着したと判定するデポジット付着判定手段と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
第5の発明によると、前記ノック強制発生手段は、内燃機関に用いられる燃料の種類、オイルの種類及び走行距離のうち、少なくとも1つのパラメータに基いて前記目標発生回数を可変に設定する構成としている。
【0011】
第6の発明は、筒内圧センサの感度低下を検出するセンサ感度低下検出手段を備え、
前記センサ感度低下検出手段により前記筒内圧センサの感度低下を検出した場合に、前記ノック強制発生手段及び前記デポジット付着判定手段を作動させる構成としている。
【0012】
第7の発明は、前記デポジット付着判定手段によりデポジットが付着したと判定された場合に、デポジットを剥離させる制御を実行するデポジット剥離手段を備える。
【発明の効果】
【0013】
第1の発明によれば、デポジットの付着状態を判定する必要が生じた場合には、プレイグニッション好発領域で必要最小限の期間にわたり運転を実行し、意図的に発生させたプレイグニッションの発生回数とデポジット付着判定回数とを比較することによってデポジットの付着状態を検出することができる。これにより、デポジットの付着量が許容限度を超えている場合には、筒内圧センサの感度が低下したと誤検出されるのを防止し、デポジットの除去を行うことができる。従って、デポジットの影響を受けずに筒内圧センサの感度検出等を正確に実行することができる。
【0014】
第2の発明によれば、デポジットの付着量が許容限度よりも少ない状態におけるプレイグニッションの予測発生回数に基いて、デポジット付着判定回数を適切に設定することができる。
【0015】
第3の発明によれば、筒内圧センサの感度低下を検出した場合には、運転領域移行手段及びデポジット付着判定手段を作動させてデポジットの付着状態を判定し、その判定結果も加味してセンサ感度の低下の有無を最終的に判断することができる。これにより、筒内圧センサの感度が低下したと誤検出されるのを防止し、感度低下の検出精度を向上させることができる。
【0016】
第4の発明によれば、必要最小限の最適な目標発生回数だけノックを強制的に発生させ、ノック及びプレイグニッションの総発生回数とデポジット付着判定回数とを比較することによってデポジットの付着状態を検出することができる。これにより、第1の発明と同様の効果を得ることができ、デポジットの付着により筒内圧センサの感度が低下したと誤検出されるのを防止することができる。しかも、第4の発明によれば、デポジットの付着状態を判定する必要が生じた場合には、必要な回数のノックを発生させるだけで判定を速やかに行うことができ、第1の発明と比較して判定に必要な時間を短縮することができる。また、発生させるノックの強さや発生回数に応じて内燃機関への影響を適切に制御することができる。
【0017】
第5の発明によれば、燃料の種類、オイルの種類及び走行距離のうち、少なくとも1つのパラメータに基いてノックの目標発生回数を変化させることができる。これにより、デポジットを剥離させることが可能であって、かつ、内燃機関を保護することができるように、目標発生回数を必要最小限で適切な回数に設定することができる。
【0018】
第6の発明によれば、筒内圧センサの感度低下を検出した場合には、ノック強制発生手段及びデポジット付着判定手段を作動させてデポジットの付着状態を判定し、その判定結果も加味してセンサ感度の低下の有無を最終的に判断することができる。これにより、筒内圧センサの感度が低下したと誤検出されるのを防止し、感度低下の検出精度を向上させることができる。
【0019】
第7の発明によれば、デポジットの付着量が許容限度を超えた場合に、これを即座に検出することができるので、デポジットを剥離させる制御を的確なタイミングで実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための構成図である。
【図2】本発明の実施の形態1において、ECUにより実行される制御のフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態2において、燃料の種類、オイルの種類及び走行距離に基いてデポジットの硬さを推定するための特性線図である。
【図4】本発明の実施の形態2において、ECUにより実行される制御のフローチャートである。
【図5】筒内圧センサの出力波形が正常な場合とセンサ感度の低下が生じた場合とを比較して示す特性線図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
以下、図1及び図2を参照しつつ、本発明の実施の形態1について説明する。図1は、本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための構成図である。本実施の形態のシステムは、多気筒型の内燃機関としてのエンジン10を備えている。なお、図1では、エンジン10の1気筒のみを例示している。エンジン10の各気筒には、ピストン12により燃焼室14が画成されており、ピストン12はエンジンのクランク軸16に連結されている。また、エンジン10は、各気筒の燃焼室14内(筒内)に吸入空気を吸込む吸気通路18と、各気筒から排気ガスが排出される排気通路20とを備えている。
【0022】
吸気通路18には、アクセル開度等に基いて吸入空気量を調整する電子制御式のスロットルバルブ22が設けられている。一方、排気通路20には、排気ガスを浄化する触媒24が設けられている。また、各気筒には、吸気ポート及び筒内にそれぞれ燃料を噴射する例えば2つの燃料噴射弁26,28と、筒内の混合気に点火する点火プラグ30と、吸気ポートを筒内に対して開,閉する吸気バルブ32と、排気ポートを筒内に対して開,閉する排気バルブ34とが設けられている。燃料噴射弁26,28は、公知の電磁式ニードル弁等により構成され、弁体が弁座に対して離着座することにより開,閉する。なお、本実施の形態では、2つの燃料噴射弁26,28を搭載したシステムを例示したが、本発明はこれに限らず、燃料噴射弁26,28の何れか一方のみを搭載したシステムにも適用することができる。
【0023】
また、本実施の形態のシステムは、クランク角センサ40、エアフローセンサ42、筒内圧センサ44等を含むセンサ系統と、エンジン10の運転状態を制御するECU(Electronic Control Unit)50とを備えている。クランク角センサ40は、クランク軸16の回転に同期した信号を出力するもので、エアフローセンサ42は吸入空気量を検出する。また、筒内圧センサ44は、各気筒の筒内圧を個別に検出するもので、個々の気筒に設けられている。筒内圧センサ44は、圧電素子等を有する検出部を備えており、この検出部は、燃焼室14内に面した状態で配置されている。一方、センサ系統には、この他にも、エンジン制御に必要な各種のセンサ(例えばエンジン冷却水の温度を検出する水温センサ、排気空燃比を検出する空燃比センサ等)が含まれており、各センサはECU50の入力側に接続されている。また、ECU50の出力側には、スロットルバルブ22、燃料噴射弁26,28、点火プラグ30等を含む各種のアクチュエータが接続されている。
【0024】
ECU50は、例えばROM、RAM、不揮発性メモリ等を含む記憶回路を備えた演算処理装置により構成されている。そして、ECU50は、エンジンの運転情報をセンサ系統により検出しつつ、各アクチュエータを駆動し、運転制御を実行する。具体的には、クランク角センサ40の出力に基いてエンジン回転数(機関回転数)とクランク角とを検出し、エアフローセンサ42の出力に基いて吸入空気量を算出する。また、吸入空気量、エンジン回転数等に基いてエンジンの負荷(負荷率)を算出する。そして、クランク角に基いて燃料噴射時期や点火時期を決定し、これらの時期が到来したときには、燃料噴射弁26,28や点火プラグ30を駆動する。これにより、筒内で混合気を燃焼させ、エンジンを運転することができる。
【0025】
また、ECU50は、例えば筒内圧センサ44の出力に基いて、筒内で発生するノック及びプレイグニッションを検出する公知の機能を備えている。ノックの発生時には、筒内圧が特定のタイミングで上昇したり、筒内圧の振動波形に含まれる特定の振動周波数が増加するので、これらの現象をノックの発生として検出することができる。また、プレイグニッションの発生時には、筒内圧が点火前に上昇したり、ノックの発生時に特定の振動周波数が増加するので、これらの現象をプレイグニッションの発生として検出することができる。なお、プレイグニッションの検出には、点火プラグ30の電極間に流れるイオン電流等を用いてもよい。また、ノックの検出には、シリンダブロックの振動を検出する振動センサ等を用いてもよい。
【0026】
ECU50には、例えばエンジン回転数と負荷率とに基いて定められる運転領域のうち、プレイグニッションが発生し易い領域(以下、プレイグニッション好発領域と称す)がデータマップ等として予め記憶されている。プレイグニッション好発領域は、過去のプレイグニッションの発生履歴等に基いて設定されるもので、一例を挙げれば、高回転低負荷領域などである。
【0027】
また、ECU50は、筒内圧センサ44の出力感度の低下を検出する公知の制御(以下、センサ感度低下検出制御と称す)を実行する。この制御は、例えば特開2010−174744号公報に記載されている。具体的に述べると、センサ感度低下検出制御では、圧縮行程中の2点において筒内圧をそれぞれ検出し、これらの検出値の差分と吸入空気量との比率が閾値を超えるか否かに基いて、筒内圧センサ44の出力感度の低下(以下、単にセンサ感度の低下と称す)が許容範囲内であるか否かを判定する。なお、このセンサ感度低下検出制御は、本実施の形態に適用可能な一例を示すものであり、本発明では、他の制御によりセンサ感度の低下を検出する構成としてもよい。
【0028】
[実施の形態1の特徴]
まず、本実施の形態の参考図面である図5を参照して、センサ感度の低下を検出する場合の課題について説明する。図5は、筒内圧センサの出力波形が正常な場合とセンサ感度の低下が生じた場合とを比較して示す特性線図である。図5中に点線で示すように、センサ感度の低下が生じた場合には、筒内圧センサの出力波形が正常時と比較して小さくなるので、出力波形の変化が反映されるパラメータに基いてセンサ感度の低下を検出することができる。しかし、センサの出力波形は、センサ感度が低下した場合だけでなく、筒内圧センサの検出部にデポジットが付着した場合にも減少する。従って、センサ感度の低下を検出した場合には、その検出結果がデポジットの付着に起因するものではないことを確認する必要がある。
【0029】
このため、本実施の形態では、センサ感度の低下を検出した場合に、以下に述べる運転領域移行制御とデポジット付着判定制御とを実行し、その判定結果も加味してセンサ感度の低下の有無を最終的に判断する構成としている。なお、本実施の形態では、デポジットの付着状態を判定する必要が生じた場合の一例として、センサ感度の低下を検出した場合を例に挙げて説明するが、本発明は、センサ感度の低下以外の理由によりデポジットの付着状態を判定する場合にも、適用することができる。
【0030】
(運転領域移行制御)
この制御は、筒内圧センサ44を含む筒内に付着したデポジットの付着状態を判定する必要が生じた場合に、エンジンの運転状態をプレイグニッション好発領域に移行させ、エンジンに影響を与えない程度の回数のプレイグニッションを意図的に発生させるものである。デポジットが付着している場合には、プレイグニッション発生時の衝撃により剥離したデポジットが着火源となってプレイグニッションが連鎖的に発生するので、プレイグニッションの発生回数に基いてデポジットの付着状態を確認することができる。
【0031】
また、プレイグニッション好発領域での運転を継続する期間は、デポジット付着判定制御によりデポジットの付着状態が判定可能となり、かつ、エンジンがプレイグニッションの発生により影響を受けない一定の期間として予め設定されている。これにより、エンジンを保護しつつ、デポジットの付着状態が判定することができる。また、プレイグニッション好発領域での運転中において、下記のデポジット付着判定制御によりデポジットの付着を確認した場合には、プレイグニッション好発領域から即座に離脱して通常の運転領域に復帰し、エンジンに与える影響を最小限に抑えるのが好ましい。
【0032】
(デポジット付着判定制御)
この制御は、プレイグニッション好発領域において、前記一定の期間内に発生したプレイグニッションの発生回数N2を検出し、この発生回数N2に基いて筒内(筒内圧センサ44の検出部)に付着したデポジットの付着状態を判定するものである。具体的に述べると、ECU50には、デポジットの付着量が許容限度よりも少ない状態においてプレイグニッション好発領域での運転を前記一定の期間にわたり行った場合に発生すると予測されるプレイグニッションの回数(予測発生回数N1)が予め記憶されている。なお、許容限度とは、例えばセンサ感度の低下を正確に検出することが可能なデポジット付着量の上限値に対応している。
【0033】
そして、デポジット付着判定制御では、下記(1)式に示すように、予測発生回数N1に余裕代Xを加算して得られる所定のデポジット付着判定回数(N1+X)を基準として、プレイグニッションの実際の発生回数N2がデポジット付着判定回数(N1+X)よりも大きいか否かを判定する。ここで、余裕代Xは、発生回数N2のばらつき等により下記(1)式が成立して誤判定が生じるのを回避するためのマージンであり、零以上の所定値として設定されている。
【0034】
N2>N1+X ・・・(1)
【0035】
デポジットの付着量が許容限度よりも少ない場合には、プレイグニッションが一旦発生しても、剥離するデポジットが存在しないか、または剥離したデポジットにより余分なプレイグニッションが誘発されない。この結果、プレイグニッションの発生回数N2は、予測発生回数N1とほぼ等しくなり、上記(1)式は不成立となる。即ち、プレイグニッションの発生回数N2がデポジット付着判定回数(N1+X)以下の場合には、デポジットの付着量が許容限度まで増加していないので、センサ感度低下検出制御の検出結果を正確なものと判断することができる。従って、この場合には、センサ感度低下検出制御の検出結果に基いて筒内圧センサ44を故障(感度低下)と判定する。
【0036】
一方、デポジットの付着量が増加すると、筒内壁面から剥離して着火源となるデポジットが多くなるので、プレイグニッションの発生回数N2も増加する。そして、デポジットの付着量が許容限度を超えた場合には、上記(1)式が成立する。即ち、前記一定の期間内におけるプレイグニッションの発生回数N2がデポジット付着判定回数(N1+X)よりも大きい場合には、筒内圧センサ44の検出部(及び筒内)に付着したデポジットの付着量が許容限度を超えているので、センサ感度低下検出制御により誤検出が行われた可能性があると判断し、筒内圧センサ44を故障とみなす判定を実行しない。そして、この場合には、デポジットの付着が生じたと判定し、デポジット剥離制御を実行する。デポジット剥離制御としては、例えば燃焼温度を上昇させてデポジットを焼失させる制御や、プレイグニッションやノックを意図的に発生させてデポジットを衝撃により剥離させる制御が用いられる。また、デポジット剥離制御には、デポジットが付着したことを車両のユーザやメンテナンス作業者に報知し、デポジットクリーナー等の使用を促す制御も含まれる。
【0037】
[実施の形態1を実現するための具体的な処理]
次に、図2を参照して、上述した制御を実現するための具体的な処理について説明する。図2は、本発明の実施の形態1において、ECUにより実行される制御のフローチャートである。この図に示すルーチンは、エンジンの運転中に繰返し実行されるものとする。図2に示すルーチンにおいて、まず、ステップ100では、前述のセンサ感度低下検出制御を実行する。そして、筒内圧センサ44の感度低下を検出した場合には、ステップ102以降の処理を実行する。一方、ステップ100において、センサ感度の低下が検出されない場合には、本ルーチンの制御を終了する。なお、本発明では、ステップ100においてセンサ感度の低下が検出されない場合にも、デポジットの付着判定及び剥離を目的として、ステップ102以降の処理を実行してもよい。
【0038】
次に、ステップ102では、運転領域移行制御を実行し、高回転低負荷運転領域等のプレイグニッション好発領域において一定の期間にわたり運転を実行する。そして、ステップ104では、前記一定の期間内に発生したプレイグニッションの発生回数N2を計測する。次に、ステップ106では、プレイグニッションの発生回数N2と、デポジット付着判定回数(N1+X)とに基いて、前記(1)式が成立するか否かを判定する。この判定が成立した場合には、ステップ108において、「デポジットの付着あり(付着量が許容限度を超えている)」と判定し、ステップ110において、デポジット剥離制御を実行する。一方、ステップ106の判定が不成立の場合には、ステップ112において、前記ステップ100の検出結果に基いて筒内圧センサ44を故障と判定する。
【0039】
以上詳述した通り、本実施の形態によれば、プレイグニッション好発領域で必要最小限の期間にわたり運転を実行し、意図的に発生させたプレイグニッションの発生回数N2と予測発生回数N1との差異に基いてデポジットの付着状態を検出することができる。これにより、デポジットの付着量が許容限度を超えている場合には、センサ感度低下検出制御により筒内圧センサ44の感度が低下したと誤検出されるのを防止し、デポジット剥離制御によりデポジットを除去することができる。
【0040】
従って、デポジットの影響を受けずに筒内圧センサ44の感度を正確に検出することができ、感度低下の検出精度を向上させることができる。また、デポジットの付着量が許容限度を超えた場合に、これを即座に検出することができるので、デポジット剥離制御を的確なタイミングで実行することができる。一例を挙げると、デポジットの付着が進行する前の早い段階で、例えばエンジンに対するダメージが小さいデポジットクリーナー等の使用を促すことができる。
【0041】
なお、前記実施の形態1では、図2中のステップ102が請求項1における運転領域移行手段の具体例を示し、ステップ106が請求項1,2におけるデポジット付着判定手段の具体例を示している。また、ステップ100は、請求項3におけるセンサ感度低下検出手段の具体例を示し、ステップ110は、請求項7におけるデポジット剥離手段の具体例を示している。
【0042】
また、前記実施の形態1では、デポジット付着判定回数(N1+X)を一定値として設定する場合を例示した。しかし、本発明はこれに限らず、デポジット付着判定回数をエンジンの運転状態(例えばエンジン回転数、負荷率、エンジン水温)や燃料の種類等に基いて可変に設定する構成としてもよい。
【0043】
実施の形態2.
次に、図3及び図4を参照して、本発明の実施の形態2について説明する。本実施の形態は、前記実施の形態1とほぼ同様の構成(図1)において、デポジットの付着状態を判定するために、必要最低限のノックを強制的に発生させることを特徴としている。なお、本実施の形態では、実施の形態1と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0044】
[実施の形態2の特徴]
前記実施の形態1では、プレイグニッション好発領域において、プレイグニッションの発生回数を計測するものとした。しかし、この場合には、プレイグニッション好発領域での運転を一定の期間にわたって保持しつつ、自然に(不規則に)発生するプレイグニッションを計測する必要があるので、エンジンへの影響を制御するのが難しく、また、ある程度の判定時間が要求される。そこで、本実施の形態では、デポジットの付着状態を判定する必要が生じた場合に、ノック発生制御によりノックを強制的に発生させ、ノックの衝撃により剥離したデポジットに起因するプレイグニッションが発生するか否かを確認する。この制御によれば、ノックの強さや発生回数は、プレイグニッションと比較して容易に制御することができるので、エンジンへの影響を最小限に抑制することができる。
【0045】
(ノック発生制御)
この制御では、エンジン10に用いられる燃料の種類、オイルの種類及び走行距離のうち、少なくとも1つのパラメータに基いてデポジットの硬さを推定し、この推定結果に基いてノックを強制的に発生させる回数(目標発生回数N3)を可変に設定する。図3は、燃料の種類、オイルの種類及び走行距離に基いてデポジットの硬さを推定するための特性線図である。この図に示すデータは、データマップ等としてECU50に予め記憶されている。図3に示すように、筒内に付着するデポジットの硬さは、燃料の種類(オクタン価、重質度等)やオイルの種類(成分等)によって異なる傾向があり、また、走行距離が大きくなるほど増加する傾向がある。なお、図3中の「A」、「B」は、それぞれ種類の一例を示している。
【0046】
ECU50には、例えばエンジン10が搭載される車両の種類や仕向け地等に応じて燃料及びオイルの種類を設定する設定装置(図示せず)が付設されている。この設定装置には、例えばエンジンの出荷時に行われる設定作業またはユーザの入力により燃料及びオイルの種類が設定される。ECU50は、前記設定装置の設定内容に基いて燃料及びオイルの種類を検出すると共に、クランク角センサ40の出力に基いて走行距離を検出し、これらの検出内容に基いてデポジットの硬さを推定する。そして、デポジットが硬いと推定される場合には、エンジンへの影響が許容される範囲内で、ノックの目標発生回数N3及び強さを増加させる。一方、デポジットが柔らかいと推定される場合には、ノックの目標発生回数N3及び強さを減少させる。また、ノックの強さは、点火時期の進角量(ΔSA)が大きいほど増加するので、点火時期の進角量に基いて制御される。
【0047】
なお、ノックの目標発生回数N3と強さのバランスは、エンジン回転数に基いて調整する構成としてもよい。具体的に述べると、例えば高回転領域では、点火時期の進角量を大きくするのが難しいため、進角量を抑えて目標発生回数N3を増加させる。一方、低回転領域では、点火時期の進角量を大きくすることができるので、進角量を増加させて目標発生回数N3を減少させる。これにより、ノックの目標発生回数N3及び強さは、デポジットの付着量が許容限度を超えた場合に当該デポジットを剥離させることが可能であって、かつ、エンジンを保護することができる必要最低限の最適なレベルに設定される。そして、ノック発生制御では、例えば目標発生回数N3に対応するサイクル数にわたって点火時期を進角させ、目標発生回数N3と等しい回数のノックを強制的に発生させる。
【0048】
(デポジット付着判定制御)
上記ノック発生制御によりノックを発生させたときに、筒内にデポジットが付着していると、このデポジットは、ノックの衝撃により剥離してプレイグニッションを発生させる。そこで、デポジット付着判定制御では、ノック発生制御を実行することにより実際に発生したノック及びプレイグニッションの発生回数の合計値である総発生回数N4を検出する。この検出処理は、例えば筒内圧センサ44の出力波形に基いてノック及びプレイグニッションの異常燃焼を検出することにより実現される。そして、下記(2)式に示すように、目標発生回数N3に余裕代Xを加算して得られる所定のデポジット付着判定回数(N3+X)を基準として、総発生回数N4がデポジット付着判定回数(N3+X)よりも大きいか否かを判定する。なお、余裕代Xは、実施の形態1と同様のマージンである。
【0049】
N4>N3+X ・・・(2)
【0050】
デポジットの付着量が許容限度よりも少ない場合には、ノックが発生しても、剥離するデポジットが存在しないか、または剥離したデポジットによりプレイグニッションが誘発されない。この結果、ノック及びプレイグニッションの総発生回数N4は、ノックの目標発生回数N3とほぼ等しくなり、上記(2)式は不成立となる。即ち、総発生回数N4がデポジット付着判定回数(N3+X)以下の場合には、デポジットの付着量が許容限度まで増加していないので、センサ感度低下検出制御の検出結果を正確なものと判断することができる。従って、この場合には、センサ感度低下検出制御の検出結果に基いて筒内圧センサ44を故障(感度低下)と判定する。
【0051】
一方、デポジットの付着量が増加すると、筒内壁面から剥離して着火源となるデポジットが多くなるので、ノック及びプレイグニッションの総発生回数N4も増加する。そして、デポジットの付着量が許容限度を超えた場合には、上記(2)式が成立する。即ち、総発生回数N4がデポジット付着判定回数(N3+X)よりも大きい場合には、筒内圧センサ44の検出部(及び筒内)に付着したデポジットの付着量が許容限度を超えているので、センサ感度低下検出制御により誤検出が行われた可能性があると判断し、筒内圧センサ44を故障とみなす判定を実行しない。そして、この場合には、デポジットの付着が生じたと判定し、前記実施の形態1と同様のデポジット剥離制御を実行する。
【0052】
[実施の形態2を実現するための具体的な処理]
次に、図4を参照して、上述した制御を実現するための具体的な処理について説明する。図4は、本発明の実施の形態2において、ECUにより実行される制御のフローチャートである。この図に示すルーチンは、エンジンの運転中に繰返し実行されるものとする。図2に示すルーチンにおいて、まず、ステップ200では、実施の形態1と同様のセンサ感度低下検出制御を実行する。そして、筒内圧センサ44の感度低下を検出した場合には、ステップ202以降の処理を実行する。一方、ステップ200において、センサ感度の低下が検出されない場合には、本ルーチンの制御を終了する。なお、本発明では、ステップ200においてセンサ感度の低下が検出されない場合にも、デポジットの付着判定及び剥離を目的として、ステップ202以降の処理を実行してもよい。
【0053】
次に、ステップ202では、燃料の種類、オイルの種類及び走行距離に基いてデポジットの硬さを推定し、ステップ204では、硬さの推定結果に基いてノックレベル(ノックの強さ及び目標発生回数N3)を設定する。そして、ステップ206では、前述のノック発生制御を実行し、ステップ208では、ノック及びプレイグニッションの総発生回数N4を計測する。次に、ステップ210では、総発生回数N4と、デポジット付着判定回数(N3+X)とに基いて、前記(2)式が成立するか否かを判定する。この判定が成立した場合には、ステップ212において、「デポジットの付着あり」と判定し、ステップ214において、デポジット剥離制御を実行する。一方、ステップ210の判定が不成立の場合には、ステップ216において、前記ステップ200の検出結果に基いて筒内圧センサ44を故障と判定する。
【0054】
以上詳述した通り、本実施の形態によれば、必要最小限の最適な目標発生回数N3回だけノックを強制的に発生させることにより、ノック及びプレイグニッションの総発生回数N4とノック及びプレイグニッションの総発生回数N4との差異に基いてデポジットの付着状態を検出することができる。これにより、実施の形態1と同様の効果を得ることができ、デポジットの付着により筒内圧センサ44の感度が低下したと誤検出されるのを防止することができる。しかも、本実施の形態によれば、デポジットの付着状態を判定する必要が生じた場合には、必要な回数のノックを発生させるだけで判定を速やかに行うことができる。即ち、プレイグニッション好発領域のような特定の運転領域(運転状態)において一定期間の運転を実行する必要がないので、実施の形態1と比較して判定に必要な時間を短縮することができる。また、発生させるノックの強さや発生回数に応じてエンジンへの影響を適切に制御することができる。
【0055】
さらに、本実施の形態では、燃料の種類、オイルの種類及び走行距離のうち、少なくとも1つのパラメータに基いてデポジットの硬さを推定し、この推定結果に基いてノックの目標発生回数N3を変化させることができる。これにより、デポジットを剥離させることが可能であって、かつ、エンジンを保護することができるように、目標発生回数N3を必要最小限で適切な回数に設定することができる。
【0056】
なお、前記実施の形態2では、図4中のステップ204,206が請求項4,5におけるノック強制発生手段の具体例を示し、ステップ210が請求項4におけるデポジット付着判定手段の具体例を示している。また、ステップ200は、請求項6におけるセンサ感度低下検出手段の具体例を示し、ステップ214は、請求項7におけるデポジット剥離手段の具体例を示している。
【0057】
また、実施の形態1,2では、デポジットの付着量が許容限度を超えているか否かを判定するものとした。しかし、本発明はこれに限らず、付着量の判定基準を適切に調整することにより、デポジットの付着の有無を判定する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0058】
10 エンジン(内燃機関)
12 ピストン
14 燃焼室
16 クランク軸
18 吸気通路
20 排気通路
22 スロットルバルブ
24 触媒
26,28 燃料噴射弁
30 点火プラグ
32 吸気バルブ
34 排気バルブ
40 クランク角センサ
42 エアフローセンサ
44 筒内圧センサ
50 ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の筒内圧を検出する筒内圧センサと、
筒内に付着したデポジットの付着状態を判定する必要が生じた場合に、内燃機関の運転領域をプレイグニッションが発生し易い領域であるプレイグニッション好発領域に移行させる運転領域移行手段と、
前記プレイグニッション好発領域に移行した状態において、一定の期間内に発生したプレイグニッションの発生回数を検出し、前記発生回数が所定のデポジット付着判定回数よりも大きい場合に、許容限度を超える量のデポジットが付着したと判定するデポジット付着判定手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記デポジット付着判定手段は、デポジットの付着量が許容限度よりも少ない状態において前記プレイグニッション好発領域での運転を前記一定の期間にわたり行った場合に発生すると予測されるプレイグニッションの予測発生回数を有し、当該プレイグニッションの予測発生回数に基いて前記デポジット付着判定回数を設定する構成としてなる請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記筒内圧センサの感度低下を検出するセンサ感度低下検出手段を備え、
前記センサ感度低下検出手段により前記筒内圧センサの感度低下を検出した場合に、前記運転領域移行手段及び前記デポジット付着判定手段を作動させる構成としてなる請求項1または2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
内燃機関の筒内圧を検出する筒内圧センサと、
筒内に付着したデポジットの付着状態を判定する必要が生じた場合に、目標発生回数のノックを強制的に発生させるノック発生制御を実行するノック強制発生手段と、
前記ノック発生制御を実行することにより実際に発生したノック及びプレイグニッションの発生回数の合計値である総発生回数を検出し、前記総発生回数が前記目標発生回数に対応する所定のデポジット付着判定回数よりも大きい場合に、許容限度を超える量のデポジットが付着したと判定するデポジット付着判定手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記ノック強制発生手段は、内燃機関に用いられる燃料の種類、オイルの種類及び走行距離のうち、少なくとも1つのパラメータに基いて前記目標発生回数を可変に設定する構成としてなる請求項4に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記筒内圧センサの感度低下を検出するセンサ感度低下検出手段を備え、
前記センサ感度低下検出手段により前記筒内圧センサの感度低下を検出した場合に、前記ノック強制発生手段及び前記デポジット付着判定手段を作動させる構成としてなる請求項4または5に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記デポジット付着判定手段によりデポジットが付着したと判定された場合に、デポジットを剥離させる制御を実行するデポジット剥離手段を備えてなる請求項1乃至6のうち何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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