説明

内燃機関の吸排気弁ステムの給油装置

【課題】 故障の発生が少なく信頼性が高いと共に、製造及び整備コストを大幅に削減できるものとする。
【解決手段】 吸排気を行なう主弁(11)と、吸排気路(3,4)を切り替える副弁(21)と、主弁の動作の復旧動作を行なわせる主弁空気ピストン(14)と、副弁の切り替え動作の復旧動作を行なわせる副弁空気ピストン(24)と、主弁空気ピストン及び副弁空気ピストンの作動空気を収容する空気ばね室(26)と、主弁ステム(12)と副弁ステム(22)との間に介装されたシール(30)と、潤滑油を空気ばね室内へ強制給油する給油部とを備え、給油部は、油圧管制機構(10)から供給される潤滑油の油圧が所定圧(P0 )を超えたときに開弁する逆止弁(34)と、外筒部(36)とこの外筒部に微小隙間を設けて内嵌する内嵌部(37)とを有すると共に潤滑油をこの微小隙間を通して空気ばね室内へ供給するノズル(35)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の吸排気弁ステムの給油装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の一例としての低速ディーゼル機関では、図7に示すように、吸排気弁の開弁動作は、高圧の油圧によって作動する油圧シリンダ101が弁ステム102を図示下方に押動することにより行なわれる。また、その閉弁動作は、弁ステム102に取り付けられた空気ピストン103が弁ステム102を図示上方に引き上げることにより行われる。すなわち、この低速ディーゼル機関では、空気ピストン103の下方に形成された空気ばね室104内の空気が、主弁の閉弁動作の作動源となっている。
【0003】
また、弁ステム102は、ケーシング105に固定されている円管状のステム支持部106の中を摺動自在に内嵌する。また、弁ステム102とステム支持部106との間には特殊シールリング107が介装され、このシールリング107によって空気ばね室104内の空気が、弁ステム102とステム支持部106との間から漏れしないようにしている。
【0004】
弁ステム102とステム支持部106との間には、吸排気弁側から機関ガスが進入しやすい。このため、弁ステム102には硬質クロムメッキ等の摩耗防止対策が施されてはいる。しかし、それでもなお、弁ステム102のシールリング107が慴動する部分に、慴動による異常摩耗が発生するという問題がある。
【0005】
このため、従来の内燃機関の吸排気弁ステムの給油装置においては、主弁の油圧管制機構から供給される高圧の潤滑油を図示上部に設けた制御弁110に導き、この制御弁110が、高圧の潤滑油をシールリング近傍の弁ステム102とステム支持部106との間に供給することにより、このシールリングの潤滑を行っている。
【0006】
図8及び図9に示すように、制御弁110では、主弁の油圧管制機構から高圧の機関潤滑油が供給されると、その油圧によって、図9の給油ピストン111がばね112の付勢力に抗して作動する。これにより、切替部113の溝114の連通位置が、図8の押出しシリンダ115の側へ連通するように切り換えられる。これにより、高圧の潤滑油が、図8のばね116の付勢力に抗して押出しシリンダ115の内部に進入し、これを充填させる。
【0007】
主弁の開弁動作の終了により、主弁の油圧管制機構から供給されていた高圧の油圧が途切れると、図9の切替部113の溝114の連通位置が、ばね112の付勢力によってシールリングへ通じる油路側へ切り換えられる。これと共に、図8の押出しシリンダ115の内部に充填されていた高圧の潤滑油が、ばね116の付勢力によって、このシールリングへ通じる油路へ供給される。シールリングへの潤滑油の供給は、主弁の1開弁動作について1回だけ瞬時に、かつ微量なものが行われる。
【0008】
この一方、内燃機関の一例としての中速ディーゼル機関では、特公平8−16443号(特許第2117087号)公報に開示されているように、シリンダへの燃料の供給及びシリンダからのガスの排気を行なう主弁と、この主弁に通じる吸気路と排気路とをそれぞれ給気時及び排気時に切り替える副弁とを備え、これによって、一つの主弁によって吸排気の双方を可能としたものがある。
【0009】
このように副弁を有している機関では、高圧の油圧によって作動する油圧シリンダが主弁ステム及び副弁ステムをそれぞれ押動することにより、その主たる動作を行なうと共に、主弁及び副弁の戻り動作は、主弁ステム及び副弁ステムにそれぞれ取り付けられた2つの空気ピストンによって行われる。そして、この主弁空気ピストンと副弁空気ピストンが共働して一つの空気ばね室を形成し、主弁及び副弁の戻り動作の作動源を形成している。
【0010】
また、上述の主弁ステムは、中空に形成された副弁ステムの内部を気密に、かつ摺動自在に内嵌し、この主弁ステムと副弁ステムとの間には、上述の低速ディーゼル機関の場合と同様に特殊シールリングが介装され、このシールリングによって空気ばね室中の空気が主弁ステムと副弁ステムとの間から漏れないようにしている。
【0011】
ただし、このシールリングは、往復相対運動する主弁ステムと副弁ステムとの間に介装されており、上述の低速ディーゼル機関の場合のように、ケーシング等に固定されているわけではない。したがって、シールリングへの直接潤滑が構造的に難しく、従来の中速ディーゼル機関では特別な潤滑装置は設けられておらず、主弁空気ピストンの周りから空気ばね室内に進入してくるわずかな潤滑油を利用し、この潤滑油が主弁ステムに付着することにより、シールリングへの潤滑が行われている。
【特許文献1】特公平8−16443号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述のように、従来の低速ディーゼル機関の吸排気弁ステムの給油装置は、主弁の油圧管制機構から供給される高圧の機関潤滑油を、給油ピストン111、切替部113、押出しシリンダ115等からなる制御弁110によって、弁ステム102とステム支持部106との間に介装されたシールリング107へ供給し、その潤滑を行っている。
【0013】
しかしながら、この制御弁110は、給油ピストン111や押出しシリンダ115等の可動部のほか、ばね112,116、ピストンストッパ等の多数の部品で構成されている。このため、作動不良等の故障が発生しやすいと共に、製作及び整備コストが極めて高くなるという問題がある。
【0014】
この一方、従来の主弁と副弁とを有する中速ディーゼル機関の吸排気弁ステムの給油装置においては、上述のように、往復相対運動する主弁ステムと副弁ステムとの間に介装されたシールリングへの直接潤滑が構造的に難しく、特別な潤滑装置は設けられていない。このため、主弁空気ピストンの周りから空気ばね室内に進入してくるわずかな潤滑油を利用し、この潤滑油によって潤滑が行われているにすぎない。
【0015】
しかしながら、空気ばね室内に進入してくる潤滑油はもともと微量にも拘わらず、その潤滑油は空気ばね室内に溜まることなく、そのまま副弁空気ピストンの周囲から漏れだしてしまい、シールリングの部分は潤滑油不足の状態になりやすい。このため、主弁ステムには硬質クロムメッキ等の摩耗防止対策が実施されてはいるが、今後の機関の出力増大等を考慮すると異常摩耗の発生が懸念されるという問題がある。
【0016】
したがって、このような主弁と副弁とを有する内燃機関についても、故障の発生が少なく信頼性が高いと共に、製造及び整備コストが安価な潤滑装置の導入が不可欠である。
【0017】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、装置の構成が簡素で部品数が少なく、よって、故障の発生が少なく信頼性が高いと共に、製造及び整備コストを大幅に削減することができる、内燃機関の吸排気弁ステムの給油装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の課題を解決するために、本発明が採用する手段は、油圧管制機構により動作して内燃機関の機関シリンダの吸排気を行なう主弁と、機関シリンダへ通ずる吸排気路を主弁の動作に応じて切り替える副弁と、主弁のステムに固定されて主弁の動作の復旧動作を行なわせる主弁空気ピストンと、副弁のステムに固定されて副弁の切り替え動作の復旧動作を行なわせる副弁空気ピストンと、主弁空気ピストンと副弁空気ピストンとケーシングの空気シリンダとにより形成されて主弁空気ピストン及び副弁空気ピストンの作動空気を収容する空気ばね室と、主弁ステムと副弁ステムとの間に介装されて空気ばね室からの空気漏れを防止するためのシールとを備えた内燃機関の吸排気弁ステムの給油装置において、油圧管制機構から供給される潤滑油を空気ばね室内へ強制給油するための給油部をさらに備え、この給油部は、油圧管制機構から供給される潤滑油の油圧が所定圧を超えたときに開弁して潤滑油をシールへ供給する逆止弁と、外筒部とこの外筒部に微小隙間を設けて内嵌する内嵌部とを有すると共に逆止弁から供給された潤滑油をこの微小隙間を通して上記油路へ供給するノズルとを備えたことにある。
【0019】
又は、本発明が採用する手段は、油圧管制機構により動作して内燃機関の機関シリンダの吸排気を行なう吸排気弁と、吸排気弁のステムに固定されて吸排気弁の動作の復旧動作を行わせる空気ピストンと、空気ピストンとケーシングの空気シリンダとにより形成されて空気ピストンの作動空気を収容する空気ばね室と、吸排気弁ステムとケーシングとの間に介装されて空気ばね室からの空気漏れを防止するためのシールと、ケーシング内に配設されてシール近傍の吸排気弁ステム上へ潤滑油を供給する油路と、油圧管制機構から供給される潤滑油を油路へ給油するための給油部とを備えた内燃機関の吸排気弁ステムの給油装置において、給油部は、油圧管制機構から供給される潤滑油の油圧が所定圧を超えたときに開弁して潤滑油をシールへ供給する逆止弁と、外筒部とこの外筒部に微小隙間を設けて内嵌する内嵌部とを有すると共に逆止弁から供給された潤滑油をこの微小隙間を通して空気ばね室内へ供給するノズルとを備えたことにある。
【0020】
本発明の内燃機関の吸排気弁ステムの給油装置において、給油部は、逆止弁と、外筒部及び内嵌部を有するノズルとを備えて成るから、上述の従来の低速ディーゼル機関の吸排気弁ステムの給油装置と比べて、装置の構成が簡素化されると共に、部品数を大幅に減少させることができる。
【0021】
特に、慴動ないし可動部品の数が極めて少なくなる。また、逆止弁として汎用のものを利用することもできる。したがって、故障の発生が少なく信頼性が高いと共に、製造及び整備コストが極めて安価になる。
【0022】
上述の主弁と副弁とを有する内燃機関の場合には、空気ばね室内に供給された潤滑油は、空気ピストンの往復動作等によって空気ばね室内で霧状になり、主弁ステム又は吸排気弁ステムに付着する。これにより、主弁ステムと副弁ステムとの間、又は、吸排気弁ステムとケーシングとの間に介装されたシールへ充分な量の潤滑油が供給され、吸排気弁ステムの異常摩耗が良好に防止される。
【0023】
上記給油部へ潤滑油を供給する油圧管制機構は、主弁又は吸排気弁を動作させる油圧管制機構であることが望ましい。これにより、主弁又は吸排気弁を動作させる油圧管制機構と、給油部へ潤滑油を供給する油圧管制機構とを統合することができ、油圧管制機構の簡素化を図ることができる。
【0024】
上記給油部は、油圧管制機構による主弁又は吸排気弁の動作時に潤滑油を空気ばね室内へ供給することが望ましい。これにより、給油部へ潤滑油を供給するための新たな油圧制
御が不要になる。また、給油部へ潤滑油を供給する油圧管制機構が、上述の主弁又は吸排気弁を動作させる油圧管制機構である場合には、主弁又は吸排気弁の動作時の油圧管制機構が発生する高い油圧をそのまま利用することができる。
【0025】
上記給油部は、ノズルの上流側にフィルタを備えることが望ましい。ノズルは、外筒部と内嵌部との間の微小隙間を通して、潤滑油を空気ばね室内へ供給する。この微小隙間に異物混入による詰まりが発生しないように、ノズルの上流側にフィルタを備える必要がある。このフィルタを備えることによって、ノズルの詰まりを未然に防止することができる。
【0026】
上記外筒部は、内形がシリンダ状に形成され、内嵌部は、外形が円柱状に形成される事が望ましい。断面形状が単純なもの同士の組み合わせにすることにより、製作及び隙間幅の調節が容易になる。
【0027】
上述の主弁と副弁とを有する内燃機関の場合には、空気ばね室内に収容されている潤滑油の余剰分を外部へ排出させるための安全弁を備えることが望ましい。空気ばね室内に余剰の潤滑油が滞っていると、油漏れや給気への混入の可能性がある。安全弁を備えることにより、このような問題の発生を未然に防止することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の内燃機関の吸排気弁ステムの給油装置は、油圧管制機構により動作して内燃機関の機関シリンダの吸排気を行なう主弁と、機関シリンダへ通ずる吸排気路を主弁の動作に応じて切り替える副弁と、主弁のステムに固定されて主弁の動作の復旧動作を行なわせる主弁空気ピストンと、副弁のステムに固定されて副弁の切り替え動作の復旧動作を行なわせる副弁空気ピストンと、主弁空気ピストンと副弁空気ピストンとケーシングの空気シリンダとにより形成されて主弁空気ピストン及び副弁空気ピストンの作動空気を収容する空気ばね室と、主弁ステムと副弁ステムとの間に介装されて空気ばね室からの空気漏れを防止するためのシールとを備えた内燃機関の吸排気弁ステムの給油装置において、油圧管制機構から供給される潤滑油を空気ばね室内へ強制給油するための給油部をさらに備え、この給油部は、油圧管制機構から供給される潤滑油の油圧が所定圧を超えたときに開弁して潤滑油をシールへ供給する逆止弁と、内筒部とこの内筒部に微小隙間を設けて内嵌する内嵌部とを有すると共に逆止弁から供給された潤滑油をこの微小隙間を通して空気ばね室内へ供給するノズルとを備える。
【0029】
又は、本発明の内燃機関の吸排気弁ステムの給油装置は、油圧管制機構により動作して内燃機関の機関シリンダの吸排気を行なう吸排気弁と、吸排気弁のステムに固定されて吸排気弁の動作の復旧動作を行わせる空気ピストンと、空気ピストンとケーシングの空気シリンダとにより形成されて空気ピストンの作動空気を収容する空気ばね室と、吸排気弁ステムとケーシングとの間に介装されて空気ばね室からの空気漏れを防止するためのシールと、ケーシング内に配設されてシール近傍の吸排気弁ステム上へ潤滑油を供給する油路と、油圧管制機構から供給される潤滑油を油路へ給油するための給油部とを備えた内燃機関の吸排気弁ステムの給油装置において、給油部は、油圧管制機構から供給される潤滑油の油圧が所定圧を超えたときに開弁して潤滑油をシールへ供給する逆止弁と、外筒部とこの外筒部に微小隙間を設けて内嵌する内嵌部とを有すると共に逆止弁から供給された潤滑油をこの微小隙間を通して空気ばね室内へ供給するノズルとを備える。
【0030】
したがって、本発明の内燃機関の吸排気弁ステムの給油装置は、装置の構成が簡素で部品数が少なく、よって、故障の発生が少なく信頼性が高いと共に、製造及び整備コストを大幅に削減することができる、という優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明に係る内燃機関の吸排気弁ステムの給油装置を実施するための最良の形態を、図1ないし図5を参照して詳細に説明する。図1は、第1の実施の形態を示す簡略図、図2は、給油装置の詳細を示す正面断面図、図3は、逆止弁を示す正面断面図、図4は、ノズルを示す正面断面図、図5は、給油装置の動作を示すグラフ、図6は、第2の実施の形態を示す正面断面図である。
【0032】
第1の実施の形態として、内燃機関の一例としての主弁と副弁を有する中速ディーゼル機関の吸排気弁ステムの給油装置について説明する。
【0033】
図1に示すように、中速ディーゼル機関1の機関シリンダ2の吸排気を行なう主弁11が配設される。この主弁11は油圧管制機構10により動作する。別の油圧管制機構20により動作して、機関シリンダ2へ通ずる吸気路3及び排気路4を主弁11の動作に応じて切り替えるための副弁21を配設する。
【0034】
副弁21は、主弁11とは別の油圧管制機構20により動作する。主弁11は、主弁油圧シリンダ13により主弁ステム12を介して開弁し、副弁21は、副弁油圧シリンダ23により副弁ステム22を介して、吸排気路3,4の切り替えを行なう。
【0035】
主弁ステム12に主弁空気ピストン14が固定される。主弁空気ピストン14は主弁11の復旧動作を行なうものである。副弁21のステム22に副弁空気ピストン24が固定される。副弁空気ピストン24は副弁21の復旧動作を行なうものである。
【0036】
主弁空気ピストン14と、副弁空気ピストン24と、ケーシングに固定された空気シリンダ27とにより、一つの空気ばね室26が形成される。空気ばね室26は、主弁空気ピストン14と副弁空気ピストン24の作動空気を収容し、この作動空気が主弁11の上記復旧動作と、副弁21の上記復旧動作とを行わせる。
【0037】
図2に示すように、主弁ステム12と副弁ステム22との間に、特殊シールリング(シール)30が介装される。シールリング30は、リテイナ31によって副弁ステム22に固定されている。このため、シールリング30のシール面は、主弁ステム12と副弁ステム22との往復相対運動に対応して、主弁ステム12上を摺動する。このシールリング30が空気ばね室26からの空気漏れを防止する。
【0038】
機関1の潤滑油が、図1の油圧管制機構10からケーシング40のほぼ中央部に配設された潤滑油入口32に供給される。潤滑油入口32に供給された潤滑油は、ケーシング40内の油路33を通って主弁油圧シリンダ13に供給され、主弁11を開弁させる。
【0039】
油路33は途中で分岐し、分岐路に逆止弁(給油部)34が配設される。後述するように、逆止弁34は、主弁11の油圧管制機構10からの油圧が所定圧P0 を超えたときに開弁する。
【0040】
逆止弁34の一例を、図3に示す。この逆止弁34は、ボディ45と、コイルばね47と、このコイルばね47に付勢されてボディ45のシート46にシートするボベット48と、コイルばね47を固定するリテイナ48とからなる。したがって、摺動ないし可動部品はボベット48のみであり、構成が単純で部品数も少ない。このため、故障が少なく信頼性も高い。
【0041】
ノズル(給油部)35がケーシング40に取り付けられる。このノズル35は、空気ばね室26内へ潤滑油を供給するためのものであり、図4に示すように、内形がシリンダ状
の外筒部36と、この外筒部36に内嵌する外形が円柱状の内嵌部37とを有する。このように、外筒部36と内嵌部37の断面形状を単純なものにすることにより、その製作と隙間幅の調節が容易になる。ただし、外筒部と内嵌部の断面形状は、必ずしも円形に限定されるものではない。
【0042】
外筒部36と内嵌部37との間には、2μ程度の微小隙間が形成される。ノズル35の上流側に、フィルタ38が配設される。空気ばね室26の底部に安全弁39が配設され、ケーシング40に固定される。
【0043】
上述の中速ディーゼル機関1の吸排気弁ステムの給油装置の作動について説明する。図2において、副弁21は、空気ばね室26内の作動空気によって、機関シリンダ2と排気路4とを連通させる位置にある。
【0044】
図5の実線で示すように、主弁11の油圧管制機構10が高圧の油圧を発生させると、主弁油圧シリンダ13内の油圧が急上昇する。この高い油圧によって主弁油圧シリンダ13が作動して、主弁11が開弁する。主弁11が開弁している間、油圧は当初圧力よりも低くなるが、所定圧P0 を超えるほぼ一定圧で推移する。
【0045】
この主弁11の動作に対応して、図5の二点鎖線で示すように、副弁21が副弁21の油圧管制機構20からの油圧により動作して、機関シリンダ2と吸気路3とを連通させる。これにより、機関1では機関シリンダ2への給気が行われる。
【0046】
この一方、主弁11の油圧管制機構10からの油圧が所定圧P0 を超えている間、図2の逆止弁34が開弁する。これにより、高圧の潤滑油が図4のフィルタ38を通ってノズル35へ供給される。ノズル35へ供給された潤滑油は、外筒部36と内嵌部37との間の微小隙間を通して、図2の空気ばね室26内へ滴下(供給)される。
【0047】
空気ばね室26内へ滴下された潤滑油は、主弁空気ピストン14及び副弁空気ピストン24の往復動作によって空気ばね室26内で霧状になり、主弁ステム12上に付着する。主弁ステム12の往復動作によって、主弁ステム12と副弁ステム22との間に介装されたシールリング30への潤滑が行われる。
【0048】
空気ばね室26内へ滴下される潤滑油は、外筒部36と内嵌部37との間の隙間が2μ程度と微小であるから、主弁11の油圧管制機構10からの油圧が高圧にも拘わらず、極く微量である。しかしながら、このように空気ばね室26内へ潤滑油を強制給油することにより、従来に比べて充分な量の潤滑油がシールリング30へ供給され、主弁ステム12の異常摩耗が良好に防止される。
【0049】
図4のフィルタ38が潤滑油中の異物を濾過し、ノズル35の外筒部36と内嵌部37との間の微小隙間に詰まりが生じないようにしている。安全弁39が空気ばね室26内に収容されている潤滑油の余剰分を外部へ排出させる。これにより、空気ばね室26からの油漏れや給気への潤滑油の混入を未然に防止することができる。
【0050】
図5に示すように、主弁11の油圧管制機構10からの油圧が、主弁11の動作に対応して所定圧P0 以下になると、図2の逆止弁34が閉弁する。これにより、ノズル35から空気ばね室26内への潤滑油の供給が停止される。
【0051】
これと共に、副弁21の油圧管制機構20からの油圧の供給が断たれて、副弁21は、副弁空気ピストン24の作動によって再び機関シリンダ2と排気路4とを連通させる位置に戻る。
【0052】
このように、1回の主弁11の開弁動作によって空気ばね室26内への供給される潤滑油の量は、主としてノズル35の外筒部36と内嵌部37との間の隙間幅によって調節されるが、主弁11の油圧管制機構10から供給される油圧値や、所定圧P0 の設定方法などによっても変動する。
【0053】
上述の中速ディーゼル機関1の吸排気弁ステムの給油装置によれば、主弁11の油圧管制機構10から供給される潤滑油を空気ばね室26内へ強制給油するための給油部を備え、この給油部は逆止弁34と、外筒部36及び内嵌部37を有するノズル35とを備えて成るから、装置の構成が極めて簡素なものとなり、部品数も少ない。
【0054】
特に、摺動ないし可動部品の数が極めて少ない。また、逆止弁として汎用のものを利用することもできる。したがって、故障の発生が少なく信頼性が高いと共に、製造及び整備コストが極めて安価になる。さらに、ノズル35へ潤滑油を供給するための油圧管制機構は、主弁11を動作させる油圧管制機構10であるから、別に油圧管制機構を設ける場合と比べて、装置の一層の簡素化を図ることができる。
【0055】
また、主弁11の油圧管制機構10による油圧の供給時に潤滑油をノズル35へ供給するから、主弁11を動作させるための極めて高い油圧をそのまま利用することができると共に、ノズル35へ潤滑油を供給するための油圧管制機構10に対する新たな油圧制御が不要になる。これにより、装置の簡素化と部品数の削減とをさらに推し進めることができる。
【0056】
第2の実施の形態として、内燃機関の一例としての、吸排気弁のみによって吸排気を行なう低速ディーゼル機関の吸排気弁ステムの給油装置について説明する。
【0057】
低速ディーゼル機関50は、油圧管制機構51により動作する図示しない吸排気弁を有する。また、吸排気弁の油圧管制機構による上記動作の復旧動作を行わせるための空気ピストン53を有し、空気ピストン53は吸排気弁のステム52に固定されている。したがって、この低速ディーゼル機関50は、上述の中速ディーゼル機関1の場合と異なり、図2の副弁21、副弁ステム22、副弁油圧シリンダ23、副弁空気ピストン24に相当するものはない。
【0058】
空気ばね室54が、空気ピストン53と、ケーシング55の空気シリンダ56とにより形成され、上記空気ピストン53の作動空気を収容する。特殊シールリング(シール)57が、吸排気弁ステム52と、ケーシング55,65に固定されたステム支持部58との間に介装され、空気ばね室54からの空気漏れを防止している。このシールリング57はリテイナ66によってステム支持部58に、すなわち、ケーシング55,65側に取り付けられている。
【0059】
油路64が、ケーシング55の内部を横切るように配設される。油路64は、ステム支持部58を貫通してシールリング57の近傍の吸排気弁ステム52まで延び、潤滑油を吸排気弁ステム52上へ供給することができる。
【0060】
上部に逆止弁(給油部)59が配設される。後述するように、逆止弁59は、吸排気弁の油圧管制機構51からの油圧が所定圧P0 を超えたときに開弁する。ノズル(給油部)60が逆止弁(給油部)59と油路64との間に介装される。
【0061】
ノズル60は、上述の図4に示すノズル35と同様に、内形がシリンダ状の外筒部61と、この外筒部61に内嵌する外形が円柱状の内嵌部62とを有する。外筒部61と内嵌
部62との間には、2μ程度の微小隙間が形成されている。ノズル60の上流側には、フィルタ63が配設される。
【0062】
この低速ディーゼル機関50の吸排気弁ステムの給油装置の作動について、上述の中速ディーゼル機関1の吸排気弁ステムの給油装置との相違を中心に説明する。
【0063】
吸排気弁の油圧管制機構51が高圧の油圧を発生させると、この油圧管制機構51からの油圧が所定圧P0 を超えている間だけ、逆止弁59が開弁する。これにより、高圧の潤滑油がフィルタ63を通ってノズル60へ供給される。ノズル60へ供給された潤滑油は、外筒部61と内嵌部62との間の微小隙間を通してその流量が調節されたのち、油路64へ供給される。
【0064】
油路64の断面積は、ノズル60の外筒部61と内嵌部62との間の微小隙間の断面積よりも大きく形成されているから、ノズル60を通過した潤滑油が、下流側の油路64によってさらに流量の制限を受けることはない。
【0065】
油路64からシール57近傍の吸排気弁ステム52上へ押し出された潤滑油は、この吸排気弁ステム52の表面に付着する。この吸排気弁ステム52の表面に付着した潤滑油によって、吸排気弁ステム52の往復動作時に、シールリング57と吸排気弁ステム52の間の潤滑が行われる。
【0066】
このように、上述の低速ディーゼル機関の吸排気弁ステムの給油装置によれば、給油部が、逆止弁59と、外筒部61及び内嵌部62を有するノズル60とを備えて成るから、従来の低速ディーゼル機関の吸排気弁ステムの給油装置に比べて、装置の構成が簡素で部品数も少ない。
【0067】
特に、摺動ないし可動部品数は極めて少ない。また、逆止弁として汎用のものを利用することもできる。したがって、故障の発生が少なく信頼性が高いと共に、製造及び整備コストを大幅に削減することができる。その他は、上述の中速ディーゼル機関1の吸排気弁ステムの給油装置の場合と同様であるから、その説明を省略する。
【0068】
なお、本発明は上述の一実施の形態に制約されるものではなく、種々の変形が可能であり、本発明の範囲から除外されるものではないことは勿論である。例えば、内燃機関は、必ずしも上述の中速ディーゼル機関や低速ディーゼル機関に限定されるものではなく、様々な内燃機関に対して実施することができる。また、この給油装置へ油圧を供給するための油圧管制機構は、必ずしも主弁や吸排気弁の油圧管制機構に限定されるものではなく、独立の又はその他の油圧管制機構を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明に係る内燃機関の吸排気弁ステムの給油装置の第1の実施の形態を示す簡略図である。
【図2】給油装置の詳細を示す正面断面図である。
【図3】逆止弁を示す正面断面図である。
【図4】ノズルを示す正面断面図である。
【図5】給油装置の動作を示すグラフである。
【図6】第2の実施の形態を示す正面断面図である。
【図7】従来の内燃機関の吸排気弁ステムの給油装置を示す正面断面図である。
【図8】図6の制御部を示す断面図である。
【図9】図7の矢線A−Aから見た制御部を示す断面図である。
【符号の説明】
【0070】
1 中速ディーゼル機関(内燃機関)
2 機関シリンダ
3 吸気路
4 排気路
10 油圧管制機構
11 主弁
12 主弁ステム
13 主弁油圧シリンダ
14 主弁空気ピストン
20 油圧管制機構
21 副弁
22 副弁ステム
23 副弁油圧シリンダ
24 副弁空気ピストン
26 空気ばね室
27 空気シリンダ
30 シールリング(シール)
31 リテイナ
32 潤滑油入口
33 内部油路
34 逆止弁(給油部)
35 ノズル(給油部)
36 外筒部
37 内嵌部
38 フィルタ
39 安全弁
40 ケーシング
50 低速ディーゼル機関(内燃機関)
51 油圧管制機構
52 吸排気弁ステム
53 空気ピストン
54 空気ばね室
55 ケーシング
56 空気シリンダ
57 シールリング(シール)
58 ステム支持部
59 逆止弁(給油部)
60 ノズル(給油部)
61 外筒部
62 内嵌部
63 フィルタ
64 油路
65 ケーシング
66 リテイナ
101 油圧シリンダ
102 弁ステム
103 空気ピストン
104 空気ばね室
105 ケーシング
106 ステム支持部
107 シールリング
110 制御弁
111 給油ピストン
112 ばね
113 切替部
114 溝
115 押出しシリンダ
116 ばね
0 所定圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧管制機構(10)により動作して内燃機関(1)の機関シリンダ(2)の吸排気を行なう主弁(11)と、前記機関シリンダへ通ずる吸排気路(3,4)を前記主弁の動作に応じて切り替える副弁(21)と、前記主弁のステム(12)に固定されて前記主弁の前記動作の復旧動作を行なわせる主弁空気ピストン(14)と、前記副弁のステム(22)に固定されて前記副弁の前記切り替え動作の復旧動作を行なわせる副弁空気ピストン(24)と、前記主弁空気ピストンと前記副弁空気ピストンとケーシング(40)の空気シリンダ(27)とにより形成されて前記主弁空気ピストン及び前記副弁空気ピストンの作動空気を収容する空気ばね室(26)と、前記主弁ステムと前記副弁ステムとの間に介装されて前記空気ばね室からの空気漏れを防止するためのシール(30)とを備えた内燃機関の吸排気弁ステムの給油装置において、油圧管制機構から供給される潤滑油を前記空気ばね室内へ強制給油するための給油部をさらに備え、前記給油部は、前記油圧管制機構から供給される前記潤滑油の油圧が所定圧(P0 )を超えたときに開弁して前記潤滑油を前記シールへ供給する逆止弁(34)と、外筒部(36)と前記外筒部に微小隙間を設けて内嵌する内嵌部(37)とを有すると共に前記逆止弁から供給された前記潤滑油を前記微小隙間を通して前記空気ばね室内へ供給するノズル(35)とを備えたことを特徴とする内燃機関の吸排気弁ステムの給油装置。
【請求項2】
前記給油部へ前記潤滑油を供給する前記油圧管制機構は、前記主弁(11)を動作させる前記油圧管制機構(10)であることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の吸排気弁ステムの給油装置。
【請求項3】
前記給油部は、前記油圧管制機構(10)による前記主弁の前記動作時に前記潤滑油を前記空気ばね室(26)内へ供給することを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の吸排気弁ステムの給油装置。
【請求項4】
油圧管制機構(51)により動作して内燃機関(50)の機関シリンダの吸排気を行なう吸排気弁と、前記吸排気弁のステム(52)に固定されて前記吸排気弁の前記動作の復旧動作を行わせる空気ピストン(53)と、前記空気ピストンとケーシング(55)の空気シリンダ(56)とにより形成されて前記空気ピストンの作動空気を収容する空気ばね室(54)と、前記吸排気弁ステムと前記ケーシングとの間に介装されて前記空気ばね室からの空気漏れを防止するためのシール(57)と、前記ケーシング内に配設されて前記シール近傍の前記吸排気弁ステム上へ潤滑油を供給する油路(64)と、油圧管制機構から供給される潤滑油を前記油路へ給油するための給油部とを備えた内燃機関の吸排気弁ステムの給油装置において、前記給油部は、前記油圧管制機構から供給される前記潤滑油の油圧が所定圧(P0 )を超えたときに開弁して前記潤滑油を前記シールへ供給する逆止弁(59)と、外筒部(61)と前記外筒部に微小隙間を設けて内嵌する内嵌部(62)とを有すると共に前記逆止弁から供給された前記潤滑油を前記微小隙間を通して前記油路へ供給するノズル(60)とを備えたことを特徴とする内燃機関の吸排気弁ステムの給油装置。
【請求項5】
前記給油部へ前記潤滑油を供給する前記油圧管制機構は、前記吸排気を動作させる前記油圧管制機構(51)であることを特徴とする請求項4に記載の内燃機関の吸排気弁ステムの給油装置。
【請求項6】
前記給油部は、前記油圧管制機構(51)による前記吸排気弁の前記動作時に前記潤滑油を前記空気ばね室(54)内へ供給することを特徴とする請求項4又は5に記載の内燃機関の吸排気弁ステムの給油装置。
【請求項7】
前記給油部は、前記ノズル(35,60)の上流側にフィルタ(38,63)を備えたことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の内燃機関の吸排気弁ステムの給油装置。
【請求項8】
前記外筒部(36,61)は、内形がシリンダ状に形成され、前記内嵌部(37,62)は、外形が円柱状に形成されることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の内燃機関の吸排気弁ステムの給油装置。
【請求項9】
前記空気ばね室(26)内に収容されている前記潤滑油の余剰分を外部へ
排出させるための安全弁(39)を備えたことを特徴とする請求項1,2,3,7,8のいずれかに記載の内燃機関の吸排気弁ステムの給油装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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