内燃機関の潤滑装置
【課題】クランク室やオイルタンクなど内燃機関においてオイルが貯留される箇所に導入する排気の量を適切に調整し、オイルの劣化を抑制するとともにオイルスラッジの発生を抑制可能な内燃機関の潤滑装置を提供する。
【解決手段】機関本体2と別体に設けられるオイルタンク11と、クランク室5の底部に設けられるオイル回収部12とオイルタンク11とを連通するオイル排出通路15とを備えたドライサンプ式の潤滑装置10Aにおいて、排気通路4とオイル排出通路15とを連通する排気導入通路16と、排気通路4から排気導入通路16を介してオイルタンク11内に排気を導入するスカベンジポンプ13と、排気導入通路16に設けられ、オイルタンク11内への排気の導入を許可する第1状態と排気の導入を阻止する第2状態とに切替可能な排気導入弁17とを備え、ECU20は、内燃機関1の運転状態に基づいて排気導入弁17の動作を制御する。
【解決手段】機関本体2と別体に設けられるオイルタンク11と、クランク室5の底部に設けられるオイル回収部12とオイルタンク11とを連通するオイル排出通路15とを備えたドライサンプ式の潤滑装置10Aにおいて、排気通路4とオイル排出通路15とを連通する排気導入通路16と、排気通路4から排気導入通路16を介してオイルタンク11内に排気を導入するスカベンジポンプ13と、排気導入通路16に設けられ、オイルタンク11内への排気の導入を許可する第1状態と排気の導入を阻止する第2状態とに切替可能な排気導入弁17とを備え、ECU20は、内燃機関1の運転状態に基づいて排気導入弁17の動作を制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライサンプ式の内燃機関の潤滑装置に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒内を通過した排気の一部を冷却して内燃機関のクランクケース内に導入し、この排気によりクランクケース内の雰囲気中に含まれる酸素(O2)及び窒素酸化物(NOx)の量を従来よりも少なくしてO2及びNOxによるオイル劣化を抑制するエンジンオイルの劣化防止方法が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特許第3350305号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の内燃機関にはクランクケース内(以下、クランク室と称することもある。)に導入する排気の量を調整する手段が設けられていないので、内燃機関の運転状態に応じてクランク室に導入される排ガス量が変化する。そのため、例えばオイルの劣化を抑制するためには不十分な量の排気しか導入されなかったり、クランク室に無駄に排気が導入されるおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、クランク室やオイルタンクなど内燃機関においてオイルが貯留される箇所に導入する排気の量を適切に調整し、オイルの劣化を抑制するとともにオイルスラッジの発生を抑制可能な内燃機関の潤滑装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の内燃機関の潤滑装置は、内燃機関の機関本体と別体に設けられるオイルタンクと、前記内燃機関のクランク室の底部に設けられるオイル回収部と前記オイルタンクとを連通するオイル排出通路と、を備えたドライサンプ式の内燃機関の潤滑装置において、前記内燃機関の排気通路と前記クランク室又は前記オイル排出通路とを連通する排気導入通路と、前記排気通路から前記排気導入通路を介して前記クランク室及び前記オイルタンク内の少なくともいずれか一方に排気を導入するガス導入手段と、前記排気導入通路に設けられ、前記ガス導入手段によって排気が導入される導入先への排気の導入を許可する第1状態と前記導入先への排気の導入を阻止する第2状態とに切替可能な弁手段と、前記内燃機関の運転状態に基づいて前記弁手段の動作を制御する動作制御手段と、を備えることにより、上述した課題を解決する(請求項1)。
【0007】
本発明の潤滑装置によれば、排気導入通路に設けた弁手段の状態を切り替えることによってクランク室又はオイルタンク内に導入される排気の量を調整できる。そのため、クランク室又はオイルタンク内の雰囲気中に含まれるO2及びNOxを十分に低減させることができる適切な量の排気をこれら導入先に導入することができる。従って、オイルの劣化を抑制しつつオイルスラッジの発生を抑制することができる。
【0008】
本発明の潤滑装置の一形態において、前記動作制御手段は、前記内燃機関の運転状態として前記内燃機関の回転数、前記内燃機関のスロットル開度、前記内燃機関のオイルの温度、及び前記内燃機関の冷却水の温度の少なくともいずれか一つに基づいて前記弁手段の動作を制御してもよい(請求項2)。オイルの劣化及びオイルスラッジの発生をそれぞれ進行させるNOxはブローバイガスに多く含まれている。そのため、オイル劣化及びオイルスラッジの発生は、クランク室又はオイルタンク内の雰囲気中に含まれるブローバイガスの量が多いほど進行する。また、オイル劣化及びオイルスラッジの発生はクランク室又はオイルタンク内における凝縮水の量が多いほど進行する。ブローバイガスの発生量は内燃機関の負荷と相関しており、内燃機関の負荷は内燃機関の回転数及びスロットル開度と相関しているため、内燃機関の回転数又はスロットル開度に基づいてブローバイガスの発生量を推定できる。凝縮水は内燃機関の温度が低いほど発生し易いため、凝縮水の発生量は内燃機関のオイルの温度及び冷却水の温度と相関を有している。この形態では、内燃機関の回転数、スロットル開度、オイルの温度及び冷却水の温度の少なくともいずれか一つに基づいて弁手段の動作を制御するので、オイルが劣化し易く、またオイルスラッジが発生し易い運転状態のときにクランク室又はオイルタンク内に排気を導入することができる。そのため、オイル劣化を抑制しつつオイルスラッジの発生を抑制できる。
【0009】
本発明の潤滑装置の一形態において、前記動作制御手段は、前記内燃機関の運転状態に基づいて前記内燃機関がオイルスラッジの発生が進行する運転状態で運転されているか否か推定する推定手段を備えるとともに、前記推定手段の推定結果に基づいて前記弁手段の動作を制御してもよい(請求項3)。このように推定手段の推定結果に基づいて弁手段の動作を制御することにより、クランク室又はオイルタンク内に適切なときに排気を導入することができる。
【0010】
この形態において、前記動作制御手段は、前記推定手段が前記内燃機関がオイルスラッジの発生が進行する運転状態で運転されていると推定した場合に前記弁手段を前記第1状態に切り替えてもよい(請求項4)。このように弁手段の動作を制御することにより、オイルスラッジの発生が進行する運転状態のときにクランク室又はオイルタンク内に排気を導入できる。
【0011】
本発明の潤滑装置の一形態において、前記ガス導入手段は、前記オイル排出通路に設けられて前記オイル回収部から前記オイルタンクにオイルを戻すスカベンジポンプであり、前記排気導入通路は、前記排気通路と前記スカベンジポンプよりも上流側のオイル排出通路とを連通してもよい(請求項5)。このように排気導入通路を設けることにより、スカベンジポンプによって排ガスをオイルタンク内に導入することができる。そのため、オイルタンク内に排気を導入するためのポンプを新規に設ける必要がないので、コストを低減できる。
【0012】
本発明の潤滑装置の一形態において、前記排気導入通路は、前記排気通路と前記クランク室とを連通し、前記ガス導入手段として前記排気導入通路に電動ポンプが設けられてもよい(請求項6)。この場合、内燃機関の運転状態に拘わりなくクランク室に導入する排気の量を調整できるので、オイル劣化及びオイルスラッジの発生をそれぞれ抑制できる適切な量の排気をクランク室に確実に導入できる。そのため、オイル劣化及びオイルスラッジの発生をそれぞれ確実に抑制できる。
【0013】
本発明の潤滑装置の一形態においては、前記ガス導入手段が前記排気導入通路に設けられ、前記弁手段は、前記排気導入通路のうち前記排気通路との接続部と前記ガス導入手段との間に配置されてもよい(請求項7)。この場合、弁手段がブローバイガスに曝されたり、弁手段にオイルが付着することを防止できる。
【0014】
本発明の潤滑装置の一形態においては、前記排気導入通路が前記排気通路と前記クランク室とを連通するとともに前記ガス導入手段が前記排気導入通路に設けられ、前記内燃機関の吸気通路と前記ポンプ手段よりも上流側の排気導入通路とを連通する新気導入通路をさらに備え、前記弁手段として前記第1状態において前記導入先への排気の導入を許可するとともに前記吸気通路から前記導入先への新気の導入を阻止し、かつ前記第2状態において前記導入先への排気の導入を阻止するとともに前記吸気通路から前記導入先への新気の導入を許可する導入ガス切替弁手段が設けられてもよい(請求項8)。この形態においては、クランク室に排気又は新気(外部から内燃機関へ吸入される燃焼前の空気)を選択的に導入することができる。そのため、例えばオイルスラッジの発生を進行させる運転状態のときのみクランク室に排気を導入し、それ以外の運転状態のときはクランク室に新気を導入することができる。この場合、新気によってもクランク室の雰囲気中に含まれるNOxを低減することができるので、オイルの劣化及びオイルスラッジの発生をそれぞれさらに抑制することができる。
【0015】
本発明の潤滑装置の一形態においては、前記排気通路に排気浄化触媒が設けられ、前記排気導入通路は、前記排気浄化触媒より下流の排気通路と前記クランク室又は前記オイル排出通路とを連通していてもよい(請求項9)。この場合クランク室又はオイルタンク内に排気浄化触媒によって浄化された排気を導入できる。
【発明の効果】
【0016】
以上に説明したように、本発明の潤滑装置によれば、内燃機関の運転状態に応じてクランク室又はオイルタンク内に導入される排気の量を適切に調整できるので、クランク室又はオイルタンク内の雰囲気中に含まれるO2及びNOxを低減させることができる。そのため、オイルの劣化を抑制するとともにオイルスラッジの発生を抑制できる。また、オイルスラッジの発生を進行させる運転状態のときにクランク室又はオイルタンク内に排気を導入することのよって、オイルスラッジの発生をより確実に抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(第1の形態)
図1は、本発明の第1の形態に係る潤滑装置が組み込まれた内燃機関を示している。図1の内燃機関(以下、エンジンと称することもある。)1は、車両に走行用動力源として搭載されるもので、機関本体2と吸気通路3と排気通路4と潤滑装置10Aとを備えている。機関本体2の内部にはクランク室5が形成される。吸気通路3には吸気量を調整するためのスロットルバルブ6が設けられ、排気通路4には排気を浄化するための排気浄化触媒7が設けられる。なお、排気浄化触媒7には、酸化触媒、還元触媒、三元触媒など周知の触媒が設けられる。また、エンジン1は、機関本体2内で発生したブローバイガスを吸気通路3に送るためのブローバイガス還元通路8と、機関本体2内へのブローバイガスの逆流を防止するPCVバルブ9とを備えている。
【0018】
潤滑装置10Aは、ドライサンプ式の潤滑装置であり、機関本体2と別体に設けられるオイルタンク11と、クランク室5の底部に設けられたオイル回収部12とオイルタンク11とを連通するオイル排出通路15に設けられてオイル回収部12からオイルタンク11にオイルを戻すスカベンジポンプ13と、オイルタンク11内のオイルを機関本体2の複数のオイル供給部に供給するフィードポンプ14とを備えている。なお、スカベンジポンプ13及びフィードポンプ14は、エンジン1のクランク軸の回転によって駆動される周知のポンプでよいため詳細な説明は省略する。
【0019】
また、潤滑装置10Aは、排気浄化触媒7よりも下流側の排気通路4とスカベンジポンプ13よりも上流側のオイル排出通路15とを連通する排気導入通路16と、排気導入通路16を開閉する弁手段としての排気導入弁17とを備えている。排気導入弁17が開けられた場合に排気がオイルタンク11内に導入され、閉じられた場合にオイルタンク11内への排気の導入が阻止されるので、排気導入弁17の開状態が本発明の第1状態に相当し、閉状態が本発明の第2状態に相当する。
【0020】
排気導入弁17の動作は、エンジンコントロールユニット(ECU)20にて制御される。ECU20は、マイクロプロセッサ及びその動作に必要なRAM、ROM等の周辺機器を含んだコンピュータとして構成され、各種センサから入力される信号に基づいてエンジン1の運転状態を制御する周知のコンピュータユニットである。ECU20には、例えばエンジン1のクランク角度に対応した信号を出力するクランク角センサ21、エンジン1のオイルの温度に対応した信号を出力する油温センサ22、エンジン1の冷却水の温度(以下、冷却水温と略称することもある。)に対応した信号を出力する冷却水温センサ23、スロットルバルブ6の開度に対応した信号を出力するスロットルバルブ開度センサ24などが接続される。
【0021】
図2は、ECU20が排気導入弁17の動作を制御するべくエンジン1の運転中に所定の周期で繰り返し実行する排気導入弁制御ルーチンを示している。なお、図2の制御ルーチンを実行して排気導入弁17の動作を制御することにより、ECU20が本発明の動作制御手段として機能する。
【0022】
図2の制御ルーチンにおいてECU20は、まずステップS11でエンジン1の運転状態を取得する。エンジン1の運転状態としては、例えばクランク角センサ21、スロットルバルブ開度センサ24、及び冷却水温センサ23の出力信号をそれぞれ参照して、エンジン1の回転数、スロットルバルブ6の開度、冷却水温が取得される。次のステップS12においてECU20は、冷却水温が所定の判定温度未満か否か判断する。エンジン1の温度が低いとクランク室5及びオイルタンク11内において凝縮水が発生し、この凝縮水とNOxとが反応して硝酸(HNO3)が生成される。硝酸はオイルスラッジ生成の触媒として作用するため、硝酸が多く生成されるとオイルスラッジの発生が進行するおそれがある。エンジン1の温度は冷却水温と相関しているため、所定の判定温度としてはクランク室5及びオイルタンク11内において凝縮水が発生し易い冷却水温が設定される。
【0023】
冷却水温が判定温度未満と判断した場合はステップS13に進み、ECU20はエンジン1の回転数が所定回転数域内か否か判断する。所定回転数域には、オイルスラッジの発生が進行する回転数域、言い換えるとオイルスラッジが発生し易い回転数域が設定される。車両走行時に使用される回転数域においては、使用頻度が高い回転数域とそれよりも使用頻度が低い回転数域とがある。エンジン1は使用頻度が高い回転数域にて長時間運転されると予想されるので、この使用頻度が高い回転数域においてオイルスラッジが発生し易いと推定できる。そこで、所定回転数域には、エンジン1において使用頻度が高い回転数域を設定する。
【0024】
エンジン1の回転数が所定回転数域内と判断した場合はステップS14に進み、ECU20は、スロットルバルブ6の開度(以下、スロットル開度と略称することもある。)が所定の閾値より大きいか否か判断する。エンジン1の負荷が大きい場合、負荷が小さい場合よりも筒内圧力が高くなるため、ブローバイガスの発生量が増加する。一般にスロットル開度が大きい場合はエンジン1の負荷が大きいため、ブローバイガスが発生し易くなると推定される。そこで、所定の閾値としては、筒内圧力が高くなり、ブローバイガスが発生し易くなるスロットル開度が設定される。スロットル開度が所定の閾値より大きいと判断した場合はステップS15に進み、ECU20は排気導入弁17を開ける。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0025】
ステップS12、S13又はS14が否定判断された場合はステップS16に進み、ECU20は排気導入弁17を閉じる。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0026】
第1の形態においては、冷却水温が低く、エンジン1の回転数が使用頻度の高い回転数域であり、かつエンジン1の負荷が高い場合、すなわちエンジン1がオイルスラッジの発生を進行させる運転状態で運転されている場合に排気導入弁17を開けてオイルタンク11内に排気を導入する。このような運転状態の場合にオイルタンク11内に排気を導入することにより、この排気によってオイルタンク11内の雰囲気中に含まれるO2及びNOxを低減できる。そのため、オイルの劣化を抑制するとともにオイルスラッジの発生を抑制できる。一方、それ以外の運転状態の場合は排気導入弁17が閉じられるので、オイルタンク11内への無駄な排気の導入を防止してスカベンジポンプ13の無駄な仕事を削減できる。なお、オイルタンク11内に導入された排気は、フィードポンプ14によってオイルと共に機関本体2の各オイル供給部に送られて機関本体2の内部にも導入される。そのため、オイルタンク11内に導入した排気によってクランク室5の雰囲気中に含まれるO2及びNOxも低減できる。
【0027】
図2の制御ルーチンのステップS12、S13及びS14を実行し、エンジン1がオイルスラッジの発生を進行させる運転状態で運転されているか否か判断することにより、ECU20が本発明の推定手段として機能する。また、第1の形態ではスカベンジポンプ13によって排気をオイルタンク11内に導入するため、スカベンジポンプ11が本発明のガス導入手段として機能する。
【0028】
(第2の形態)
次に図3及び図4を参照して本発明の第2の形態について説明する。図3は、本発明の第2の形態に係る潤滑装置10Bが組み込まれたエンジン1を示している。なお、図3において図1と共通の部分には同一の符号を付して説明を省略する。この形態においては排気導入通路16が排気浄化触媒7よりも下流側の排気通路4とクランク室5とを連通し、その排気導入通路16にガス導入手段としての電動ポンプ40が設けられる。また、潤滑装置10Bは、電動ポンプ40より上流側で、かつ排気導入弁17より下流側の排気導入通路16とスロットルバルブ6より上流側の吸気通路3とを連通する新気導入通路41と、その新気導入通路41を開閉する新気導入弁42とを備えている。
【0029】
電動ポンプ40、排気導入弁17、及び新気導入弁42の動作は、ECU20によってそれぞれ制御される。図4は、ECU20が電動ポンプ40、排気導入弁17及び新気導入弁42をそれぞれ制御するためにエンジン1が運転中か否かに拘わりなく所定の周期で繰り返し実行する導入ガス制御ルーチンを示している。なお、図4において図2と同一の処理には同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0030】
図4の制御ルーチンにおいて、ECU20はまずステップS21でエンジン1が運転中か否か判断する。エンジン1が停止中と判断した場合はステップS22に進み、ECU20は電動ポンプ40を停止させる。その後、今回の制御ルーチンを終了する。一方、エンジン1が運転中と判断した場合はステップS23に進み、ECU20は電動ポンプ40を起動する。なお、すでに電動ポンプ40が動作していた場合はその動作を継続させる。
【0031】
次のステップS11においてECU20はエンジン1の運転状態を取得する。その後、ステップS12〜S14まで図2の制御ルーチンと同様に処理を進める。ステップS12、S13及びS14が全て肯定判断された場合はステップS24に進み、ECU20は排気導入弁17を開けるとともに新気導入弁42を閉じる。その後、今回の制御ルーチンを終了する。一方、ステップS12、S13又はS14が否定判断された場合はステップS25に進み、ECU20は排気導入弁17を閉じるとともに新気導入弁42を開ける。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0032】
第2の形態では、エンジン1がオイルスラッジの発生を進行させる運転状態で運転されている場合にクランク室5に排気が導入されるので、クランク室5の雰囲気中に含まれるO2及びNOxを低減してオイル劣化及びオイルスラッジの発生をそれぞれ抑制できる。クランク室5のガスはスカベンジポンプ13によってオイルとともにオイルタンク11内に送られるので、クランク室5に排気を導入することによってオイルタンク11内の雰囲気中に含まれるO2及びNOxも低減できる。そのため、オイルタンク11内においてもオイルの劣化及びオイルスラッジの発生をそれぞれ抑制できる。
【0033】
一方、エンジン1がオイルスラッジの発生を進行させる運転状態以外の運転状態で運転されている場合にはクランク室5に新気が導入されるので、この新気によってクランク室5の雰囲気中に含まれるNOxを低減できる。そのため、NOxによるオイルの劣化及びスラッジの発生をそれぞれ抑制することができる。
【0034】
また、第2の形態では、電動ポンプ40によってクランク室5に排気又は新気を強制的に導入できるので、エンジン1の運転状態に拘わらずオイルの劣化及びオイルスラッジの発生を抑制することが可能な適正量の排気又は新気をクランク室5に導入することができる。そのため、オイルの劣化及びオイルスラッジの発生をより確実に抑制することができる。
【0035】
なお、図4のステップS24及びS25の処理が実行され、排気導入弁17及び新気導入弁42によってクランク室5に導入されるガスが切り替えられるため、排気導入弁17及び新気導入弁42が本発明の導入ガス切替弁手段として機能する。
【0036】
図5は、本発明の第2の形態に係る潤滑装置の変形例を示している。図5に示した潤滑装置10Cでは、排気導入弁17及び新気導入弁42の代わりに排気導入通路16に三方弁50が設けられ、新気導入通路41がその三方弁50に接続される。図5に示したように三方弁50は、排気通路4とクランク室5とを連通させて図5の矢印Aのようにクランク室5に排気を導入する第1状態と、吸気通路3とクランク室5とを連通させて図5の矢印Bのようにクランク室5に新気を導入する第2状態とに切り替えることができる。そのため、この変形例では三方弁50が本発明の導入ガス切替弁手段として機能する。
【0037】
この変形例では、エンジン1がオイルスラッジの発生を進行させる運転状態で運転されている場合に三方弁50が第1状態に切り替えられ、それ以外の運転状態の場合は三方弁50が第2状態に切り替えられる。このようにエンジン1の運転状態の応じて三方弁50の動作を制御することにより、エンジン1がオイルスラッジの発生を進行させる運転状態で運転されている場合はクランク室5に排気を導入できる。そのため、オイルの劣化及びオイルスラッジの発生を抑制できる。一方、それ以外の運転状態の場合はクランク室5に新気が導入されるので、クランク室5を換気してNOxによるオイルの劣化及びオイルスラッジの発生を抑制できる。
【0038】
本発明は、上述した各形態に限定されることなく、種々の形態にて実施することができる。例えば、上述した各形態では、冷却水温が所定温度未満であり、かつエンジン1の回転数が所定回転数域内であり、さらにスロットルバルブ開度が閾値より大きい場合にクランク室又はオイルタンク内に排気が導入されるが、これらの条件のうち少なくともいずれか一つの条件が成立した場合にクランク室又はオイルタンク内に排気を導入してもよい。この場合、クランク室又はオイルタンク内に排気を導入する回数を増加させることができるので、オイルスラッジの発生をさらに抑制することができる。エンジンの温度はエンジンのオイルの温度とも相関を有しているので、冷却水温の代わりにエンジンのオイルの温度に基づいて排気の導入を判断してもよい。
【0039】
クランク室及びオイルタンク内において発生する凝縮水の量は、ブローバイガスに含まれる水分量と相関している。そこで、例えば外気の湿度やエンジンの運転状態などに基づいてブローバイガスに含まれる水分量を推定し、その推定した水分量が予め設定した許容値よりも多い場合にクランク室及びオイルタンク内に排気を導入してもよい。これにより、オイルの劣化及びオイルスラッジの発生をそれぞれ抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1の形態に係る潤滑装置が組み込まれた内燃機関を示す図。
【図2】図1のECUが実行する排気導入弁制御ルーチンを示すフローチャート。
【図3】本発明の第2の形態に係る潤滑装置が組み込まれた内燃機関を示す図。
【図4】図3のECUが実行する導入ガス制御ルーチンを示すフローチャート。
【図5】本発明の第2の形態に係る潤滑装置の変形例を示す図。
【符号の説明】
【0041】
1 内燃機関
2 機関本体
3 吸気通路
4 排気通路
5 クランク室
7 排気浄化触媒
10A、10B、10C 潤滑装置
11 オイルタンク
12 オイル回収部
13 スカベンジポンプ(ガス導入手段)
15 オイル排出通路
16 排気導入通路
17 排気導入弁(弁手段、導入ガス切替弁手段)
20 エンジンコントロールユニット(動作制御手段、推定手段)
40 電動ポンプ(ガス導入手段)
41 新気導入通路
42 新気導入弁(導入ガス切替弁手段)
50 三方弁(導入ガス切替弁手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライサンプ式の内燃機関の潤滑装置に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒内を通過した排気の一部を冷却して内燃機関のクランクケース内に導入し、この排気によりクランクケース内の雰囲気中に含まれる酸素(O2)及び窒素酸化物(NOx)の量を従来よりも少なくしてO2及びNOxによるオイル劣化を抑制するエンジンオイルの劣化防止方法が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特許第3350305号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の内燃機関にはクランクケース内(以下、クランク室と称することもある。)に導入する排気の量を調整する手段が設けられていないので、内燃機関の運転状態に応じてクランク室に導入される排ガス量が変化する。そのため、例えばオイルの劣化を抑制するためには不十分な量の排気しか導入されなかったり、クランク室に無駄に排気が導入されるおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、クランク室やオイルタンクなど内燃機関においてオイルが貯留される箇所に導入する排気の量を適切に調整し、オイルの劣化を抑制するとともにオイルスラッジの発生を抑制可能な内燃機関の潤滑装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の内燃機関の潤滑装置は、内燃機関の機関本体と別体に設けられるオイルタンクと、前記内燃機関のクランク室の底部に設けられるオイル回収部と前記オイルタンクとを連通するオイル排出通路と、を備えたドライサンプ式の内燃機関の潤滑装置において、前記内燃機関の排気通路と前記クランク室又は前記オイル排出通路とを連通する排気導入通路と、前記排気通路から前記排気導入通路を介して前記クランク室及び前記オイルタンク内の少なくともいずれか一方に排気を導入するガス導入手段と、前記排気導入通路に設けられ、前記ガス導入手段によって排気が導入される導入先への排気の導入を許可する第1状態と前記導入先への排気の導入を阻止する第2状態とに切替可能な弁手段と、前記内燃機関の運転状態に基づいて前記弁手段の動作を制御する動作制御手段と、を備えることにより、上述した課題を解決する(請求項1)。
【0007】
本発明の潤滑装置によれば、排気導入通路に設けた弁手段の状態を切り替えることによってクランク室又はオイルタンク内に導入される排気の量を調整できる。そのため、クランク室又はオイルタンク内の雰囲気中に含まれるO2及びNOxを十分に低減させることができる適切な量の排気をこれら導入先に導入することができる。従って、オイルの劣化を抑制しつつオイルスラッジの発生を抑制することができる。
【0008】
本発明の潤滑装置の一形態において、前記動作制御手段は、前記内燃機関の運転状態として前記内燃機関の回転数、前記内燃機関のスロットル開度、前記内燃機関のオイルの温度、及び前記内燃機関の冷却水の温度の少なくともいずれか一つに基づいて前記弁手段の動作を制御してもよい(請求項2)。オイルの劣化及びオイルスラッジの発生をそれぞれ進行させるNOxはブローバイガスに多く含まれている。そのため、オイル劣化及びオイルスラッジの発生は、クランク室又はオイルタンク内の雰囲気中に含まれるブローバイガスの量が多いほど進行する。また、オイル劣化及びオイルスラッジの発生はクランク室又はオイルタンク内における凝縮水の量が多いほど進行する。ブローバイガスの発生量は内燃機関の負荷と相関しており、内燃機関の負荷は内燃機関の回転数及びスロットル開度と相関しているため、内燃機関の回転数又はスロットル開度に基づいてブローバイガスの発生量を推定できる。凝縮水は内燃機関の温度が低いほど発生し易いため、凝縮水の発生量は内燃機関のオイルの温度及び冷却水の温度と相関を有している。この形態では、内燃機関の回転数、スロットル開度、オイルの温度及び冷却水の温度の少なくともいずれか一つに基づいて弁手段の動作を制御するので、オイルが劣化し易く、またオイルスラッジが発生し易い運転状態のときにクランク室又はオイルタンク内に排気を導入することができる。そのため、オイル劣化を抑制しつつオイルスラッジの発生を抑制できる。
【0009】
本発明の潤滑装置の一形態において、前記動作制御手段は、前記内燃機関の運転状態に基づいて前記内燃機関がオイルスラッジの発生が進行する運転状態で運転されているか否か推定する推定手段を備えるとともに、前記推定手段の推定結果に基づいて前記弁手段の動作を制御してもよい(請求項3)。このように推定手段の推定結果に基づいて弁手段の動作を制御することにより、クランク室又はオイルタンク内に適切なときに排気を導入することができる。
【0010】
この形態において、前記動作制御手段は、前記推定手段が前記内燃機関がオイルスラッジの発生が進行する運転状態で運転されていると推定した場合に前記弁手段を前記第1状態に切り替えてもよい(請求項4)。このように弁手段の動作を制御することにより、オイルスラッジの発生が進行する運転状態のときにクランク室又はオイルタンク内に排気を導入できる。
【0011】
本発明の潤滑装置の一形態において、前記ガス導入手段は、前記オイル排出通路に設けられて前記オイル回収部から前記オイルタンクにオイルを戻すスカベンジポンプであり、前記排気導入通路は、前記排気通路と前記スカベンジポンプよりも上流側のオイル排出通路とを連通してもよい(請求項5)。このように排気導入通路を設けることにより、スカベンジポンプによって排ガスをオイルタンク内に導入することができる。そのため、オイルタンク内に排気を導入するためのポンプを新規に設ける必要がないので、コストを低減できる。
【0012】
本発明の潤滑装置の一形態において、前記排気導入通路は、前記排気通路と前記クランク室とを連通し、前記ガス導入手段として前記排気導入通路に電動ポンプが設けられてもよい(請求項6)。この場合、内燃機関の運転状態に拘わりなくクランク室に導入する排気の量を調整できるので、オイル劣化及びオイルスラッジの発生をそれぞれ抑制できる適切な量の排気をクランク室に確実に導入できる。そのため、オイル劣化及びオイルスラッジの発生をそれぞれ確実に抑制できる。
【0013】
本発明の潤滑装置の一形態においては、前記ガス導入手段が前記排気導入通路に設けられ、前記弁手段は、前記排気導入通路のうち前記排気通路との接続部と前記ガス導入手段との間に配置されてもよい(請求項7)。この場合、弁手段がブローバイガスに曝されたり、弁手段にオイルが付着することを防止できる。
【0014】
本発明の潤滑装置の一形態においては、前記排気導入通路が前記排気通路と前記クランク室とを連通するとともに前記ガス導入手段が前記排気導入通路に設けられ、前記内燃機関の吸気通路と前記ポンプ手段よりも上流側の排気導入通路とを連通する新気導入通路をさらに備え、前記弁手段として前記第1状態において前記導入先への排気の導入を許可するとともに前記吸気通路から前記導入先への新気の導入を阻止し、かつ前記第2状態において前記導入先への排気の導入を阻止するとともに前記吸気通路から前記導入先への新気の導入を許可する導入ガス切替弁手段が設けられてもよい(請求項8)。この形態においては、クランク室に排気又は新気(外部から内燃機関へ吸入される燃焼前の空気)を選択的に導入することができる。そのため、例えばオイルスラッジの発生を進行させる運転状態のときのみクランク室に排気を導入し、それ以外の運転状態のときはクランク室に新気を導入することができる。この場合、新気によってもクランク室の雰囲気中に含まれるNOxを低減することができるので、オイルの劣化及びオイルスラッジの発生をそれぞれさらに抑制することができる。
【0015】
本発明の潤滑装置の一形態においては、前記排気通路に排気浄化触媒が設けられ、前記排気導入通路は、前記排気浄化触媒より下流の排気通路と前記クランク室又は前記オイル排出通路とを連通していてもよい(請求項9)。この場合クランク室又はオイルタンク内に排気浄化触媒によって浄化された排気を導入できる。
【発明の効果】
【0016】
以上に説明したように、本発明の潤滑装置によれば、内燃機関の運転状態に応じてクランク室又はオイルタンク内に導入される排気の量を適切に調整できるので、クランク室又はオイルタンク内の雰囲気中に含まれるO2及びNOxを低減させることができる。そのため、オイルの劣化を抑制するとともにオイルスラッジの発生を抑制できる。また、オイルスラッジの発生を進行させる運転状態のときにクランク室又はオイルタンク内に排気を導入することのよって、オイルスラッジの発生をより確実に抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(第1の形態)
図1は、本発明の第1の形態に係る潤滑装置が組み込まれた内燃機関を示している。図1の内燃機関(以下、エンジンと称することもある。)1は、車両に走行用動力源として搭載されるもので、機関本体2と吸気通路3と排気通路4と潤滑装置10Aとを備えている。機関本体2の内部にはクランク室5が形成される。吸気通路3には吸気量を調整するためのスロットルバルブ6が設けられ、排気通路4には排気を浄化するための排気浄化触媒7が設けられる。なお、排気浄化触媒7には、酸化触媒、還元触媒、三元触媒など周知の触媒が設けられる。また、エンジン1は、機関本体2内で発生したブローバイガスを吸気通路3に送るためのブローバイガス還元通路8と、機関本体2内へのブローバイガスの逆流を防止するPCVバルブ9とを備えている。
【0018】
潤滑装置10Aは、ドライサンプ式の潤滑装置であり、機関本体2と別体に設けられるオイルタンク11と、クランク室5の底部に設けられたオイル回収部12とオイルタンク11とを連通するオイル排出通路15に設けられてオイル回収部12からオイルタンク11にオイルを戻すスカベンジポンプ13と、オイルタンク11内のオイルを機関本体2の複数のオイル供給部に供給するフィードポンプ14とを備えている。なお、スカベンジポンプ13及びフィードポンプ14は、エンジン1のクランク軸の回転によって駆動される周知のポンプでよいため詳細な説明は省略する。
【0019】
また、潤滑装置10Aは、排気浄化触媒7よりも下流側の排気通路4とスカベンジポンプ13よりも上流側のオイル排出通路15とを連通する排気導入通路16と、排気導入通路16を開閉する弁手段としての排気導入弁17とを備えている。排気導入弁17が開けられた場合に排気がオイルタンク11内に導入され、閉じられた場合にオイルタンク11内への排気の導入が阻止されるので、排気導入弁17の開状態が本発明の第1状態に相当し、閉状態が本発明の第2状態に相当する。
【0020】
排気導入弁17の動作は、エンジンコントロールユニット(ECU)20にて制御される。ECU20は、マイクロプロセッサ及びその動作に必要なRAM、ROM等の周辺機器を含んだコンピュータとして構成され、各種センサから入力される信号に基づいてエンジン1の運転状態を制御する周知のコンピュータユニットである。ECU20には、例えばエンジン1のクランク角度に対応した信号を出力するクランク角センサ21、エンジン1のオイルの温度に対応した信号を出力する油温センサ22、エンジン1の冷却水の温度(以下、冷却水温と略称することもある。)に対応した信号を出力する冷却水温センサ23、スロットルバルブ6の開度に対応した信号を出力するスロットルバルブ開度センサ24などが接続される。
【0021】
図2は、ECU20が排気導入弁17の動作を制御するべくエンジン1の運転中に所定の周期で繰り返し実行する排気導入弁制御ルーチンを示している。なお、図2の制御ルーチンを実行して排気導入弁17の動作を制御することにより、ECU20が本発明の動作制御手段として機能する。
【0022】
図2の制御ルーチンにおいてECU20は、まずステップS11でエンジン1の運転状態を取得する。エンジン1の運転状態としては、例えばクランク角センサ21、スロットルバルブ開度センサ24、及び冷却水温センサ23の出力信号をそれぞれ参照して、エンジン1の回転数、スロットルバルブ6の開度、冷却水温が取得される。次のステップS12においてECU20は、冷却水温が所定の判定温度未満か否か判断する。エンジン1の温度が低いとクランク室5及びオイルタンク11内において凝縮水が発生し、この凝縮水とNOxとが反応して硝酸(HNO3)が生成される。硝酸はオイルスラッジ生成の触媒として作用するため、硝酸が多く生成されるとオイルスラッジの発生が進行するおそれがある。エンジン1の温度は冷却水温と相関しているため、所定の判定温度としてはクランク室5及びオイルタンク11内において凝縮水が発生し易い冷却水温が設定される。
【0023】
冷却水温が判定温度未満と判断した場合はステップS13に進み、ECU20はエンジン1の回転数が所定回転数域内か否か判断する。所定回転数域には、オイルスラッジの発生が進行する回転数域、言い換えるとオイルスラッジが発生し易い回転数域が設定される。車両走行時に使用される回転数域においては、使用頻度が高い回転数域とそれよりも使用頻度が低い回転数域とがある。エンジン1は使用頻度が高い回転数域にて長時間運転されると予想されるので、この使用頻度が高い回転数域においてオイルスラッジが発生し易いと推定できる。そこで、所定回転数域には、エンジン1において使用頻度が高い回転数域を設定する。
【0024】
エンジン1の回転数が所定回転数域内と判断した場合はステップS14に進み、ECU20は、スロットルバルブ6の開度(以下、スロットル開度と略称することもある。)が所定の閾値より大きいか否か判断する。エンジン1の負荷が大きい場合、負荷が小さい場合よりも筒内圧力が高くなるため、ブローバイガスの発生量が増加する。一般にスロットル開度が大きい場合はエンジン1の負荷が大きいため、ブローバイガスが発生し易くなると推定される。そこで、所定の閾値としては、筒内圧力が高くなり、ブローバイガスが発生し易くなるスロットル開度が設定される。スロットル開度が所定の閾値より大きいと判断した場合はステップS15に進み、ECU20は排気導入弁17を開ける。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0025】
ステップS12、S13又はS14が否定判断された場合はステップS16に進み、ECU20は排気導入弁17を閉じる。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0026】
第1の形態においては、冷却水温が低く、エンジン1の回転数が使用頻度の高い回転数域であり、かつエンジン1の負荷が高い場合、すなわちエンジン1がオイルスラッジの発生を進行させる運転状態で運転されている場合に排気導入弁17を開けてオイルタンク11内に排気を導入する。このような運転状態の場合にオイルタンク11内に排気を導入することにより、この排気によってオイルタンク11内の雰囲気中に含まれるO2及びNOxを低減できる。そのため、オイルの劣化を抑制するとともにオイルスラッジの発生を抑制できる。一方、それ以外の運転状態の場合は排気導入弁17が閉じられるので、オイルタンク11内への無駄な排気の導入を防止してスカベンジポンプ13の無駄な仕事を削減できる。なお、オイルタンク11内に導入された排気は、フィードポンプ14によってオイルと共に機関本体2の各オイル供給部に送られて機関本体2の内部にも導入される。そのため、オイルタンク11内に導入した排気によってクランク室5の雰囲気中に含まれるO2及びNOxも低減できる。
【0027】
図2の制御ルーチンのステップS12、S13及びS14を実行し、エンジン1がオイルスラッジの発生を進行させる運転状態で運転されているか否か判断することにより、ECU20が本発明の推定手段として機能する。また、第1の形態ではスカベンジポンプ13によって排気をオイルタンク11内に導入するため、スカベンジポンプ11が本発明のガス導入手段として機能する。
【0028】
(第2の形態)
次に図3及び図4を参照して本発明の第2の形態について説明する。図3は、本発明の第2の形態に係る潤滑装置10Bが組み込まれたエンジン1を示している。なお、図3において図1と共通の部分には同一の符号を付して説明を省略する。この形態においては排気導入通路16が排気浄化触媒7よりも下流側の排気通路4とクランク室5とを連通し、その排気導入通路16にガス導入手段としての電動ポンプ40が設けられる。また、潤滑装置10Bは、電動ポンプ40より上流側で、かつ排気導入弁17より下流側の排気導入通路16とスロットルバルブ6より上流側の吸気通路3とを連通する新気導入通路41と、その新気導入通路41を開閉する新気導入弁42とを備えている。
【0029】
電動ポンプ40、排気導入弁17、及び新気導入弁42の動作は、ECU20によってそれぞれ制御される。図4は、ECU20が電動ポンプ40、排気導入弁17及び新気導入弁42をそれぞれ制御するためにエンジン1が運転中か否かに拘わりなく所定の周期で繰り返し実行する導入ガス制御ルーチンを示している。なお、図4において図2と同一の処理には同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0030】
図4の制御ルーチンにおいて、ECU20はまずステップS21でエンジン1が運転中か否か判断する。エンジン1が停止中と判断した場合はステップS22に進み、ECU20は電動ポンプ40を停止させる。その後、今回の制御ルーチンを終了する。一方、エンジン1が運転中と判断した場合はステップS23に進み、ECU20は電動ポンプ40を起動する。なお、すでに電動ポンプ40が動作していた場合はその動作を継続させる。
【0031】
次のステップS11においてECU20はエンジン1の運転状態を取得する。その後、ステップS12〜S14まで図2の制御ルーチンと同様に処理を進める。ステップS12、S13及びS14が全て肯定判断された場合はステップS24に進み、ECU20は排気導入弁17を開けるとともに新気導入弁42を閉じる。その後、今回の制御ルーチンを終了する。一方、ステップS12、S13又はS14が否定判断された場合はステップS25に進み、ECU20は排気導入弁17を閉じるとともに新気導入弁42を開ける。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0032】
第2の形態では、エンジン1がオイルスラッジの発生を進行させる運転状態で運転されている場合にクランク室5に排気が導入されるので、クランク室5の雰囲気中に含まれるO2及びNOxを低減してオイル劣化及びオイルスラッジの発生をそれぞれ抑制できる。クランク室5のガスはスカベンジポンプ13によってオイルとともにオイルタンク11内に送られるので、クランク室5に排気を導入することによってオイルタンク11内の雰囲気中に含まれるO2及びNOxも低減できる。そのため、オイルタンク11内においてもオイルの劣化及びオイルスラッジの発生をそれぞれ抑制できる。
【0033】
一方、エンジン1がオイルスラッジの発生を進行させる運転状態以外の運転状態で運転されている場合にはクランク室5に新気が導入されるので、この新気によってクランク室5の雰囲気中に含まれるNOxを低減できる。そのため、NOxによるオイルの劣化及びスラッジの発生をそれぞれ抑制することができる。
【0034】
また、第2の形態では、電動ポンプ40によってクランク室5に排気又は新気を強制的に導入できるので、エンジン1の運転状態に拘わらずオイルの劣化及びオイルスラッジの発生を抑制することが可能な適正量の排気又は新気をクランク室5に導入することができる。そのため、オイルの劣化及びオイルスラッジの発生をより確実に抑制することができる。
【0035】
なお、図4のステップS24及びS25の処理が実行され、排気導入弁17及び新気導入弁42によってクランク室5に導入されるガスが切り替えられるため、排気導入弁17及び新気導入弁42が本発明の導入ガス切替弁手段として機能する。
【0036】
図5は、本発明の第2の形態に係る潤滑装置の変形例を示している。図5に示した潤滑装置10Cでは、排気導入弁17及び新気導入弁42の代わりに排気導入通路16に三方弁50が設けられ、新気導入通路41がその三方弁50に接続される。図5に示したように三方弁50は、排気通路4とクランク室5とを連通させて図5の矢印Aのようにクランク室5に排気を導入する第1状態と、吸気通路3とクランク室5とを連通させて図5の矢印Bのようにクランク室5に新気を導入する第2状態とに切り替えることができる。そのため、この変形例では三方弁50が本発明の導入ガス切替弁手段として機能する。
【0037】
この変形例では、エンジン1がオイルスラッジの発生を進行させる運転状態で運転されている場合に三方弁50が第1状態に切り替えられ、それ以外の運転状態の場合は三方弁50が第2状態に切り替えられる。このようにエンジン1の運転状態の応じて三方弁50の動作を制御することにより、エンジン1がオイルスラッジの発生を進行させる運転状態で運転されている場合はクランク室5に排気を導入できる。そのため、オイルの劣化及びオイルスラッジの発生を抑制できる。一方、それ以外の運転状態の場合はクランク室5に新気が導入されるので、クランク室5を換気してNOxによるオイルの劣化及びオイルスラッジの発生を抑制できる。
【0038】
本発明は、上述した各形態に限定されることなく、種々の形態にて実施することができる。例えば、上述した各形態では、冷却水温が所定温度未満であり、かつエンジン1の回転数が所定回転数域内であり、さらにスロットルバルブ開度が閾値より大きい場合にクランク室又はオイルタンク内に排気が導入されるが、これらの条件のうち少なくともいずれか一つの条件が成立した場合にクランク室又はオイルタンク内に排気を導入してもよい。この場合、クランク室又はオイルタンク内に排気を導入する回数を増加させることができるので、オイルスラッジの発生をさらに抑制することができる。エンジンの温度はエンジンのオイルの温度とも相関を有しているので、冷却水温の代わりにエンジンのオイルの温度に基づいて排気の導入を判断してもよい。
【0039】
クランク室及びオイルタンク内において発生する凝縮水の量は、ブローバイガスに含まれる水分量と相関している。そこで、例えば外気の湿度やエンジンの運転状態などに基づいてブローバイガスに含まれる水分量を推定し、その推定した水分量が予め設定した許容値よりも多い場合にクランク室及びオイルタンク内に排気を導入してもよい。これにより、オイルの劣化及びオイルスラッジの発生をそれぞれ抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1の形態に係る潤滑装置が組み込まれた内燃機関を示す図。
【図2】図1のECUが実行する排気導入弁制御ルーチンを示すフローチャート。
【図3】本発明の第2の形態に係る潤滑装置が組み込まれた内燃機関を示す図。
【図4】図3のECUが実行する導入ガス制御ルーチンを示すフローチャート。
【図5】本発明の第2の形態に係る潤滑装置の変形例を示す図。
【符号の説明】
【0041】
1 内燃機関
2 機関本体
3 吸気通路
4 排気通路
5 クランク室
7 排気浄化触媒
10A、10B、10C 潤滑装置
11 オイルタンク
12 オイル回収部
13 スカベンジポンプ(ガス導入手段)
15 オイル排出通路
16 排気導入通路
17 排気導入弁(弁手段、導入ガス切替弁手段)
20 エンジンコントロールユニット(動作制御手段、推定手段)
40 電動ポンプ(ガス導入手段)
41 新気導入通路
42 新気導入弁(導入ガス切替弁手段)
50 三方弁(導入ガス切替弁手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の機関本体と別体に設けられるオイルタンクと、前記内燃機関のクランク室の底部に設けられるオイル回収部と前記オイルタンクとを連通するオイル排出通路と、を備えたドライサンプ式の内燃機関の潤滑装置において、
前記内燃機関の排気通路と前記クランク室又は前記オイル排出通路とを連通する排気導入通路と、前記排気通路から前記排気導入通路を介して前記クランク室及び前記オイルタンク内の少なくともいずれか一方に排気を導入するガス導入手段と、前記排気導入通路に設けられ、前記ガス導入手段によって排気が導入される導入先への排気の導入を許可する第1状態と前記導入先への排気の導入を阻止する第2状態とに切替可能な弁手段と、前記内燃機関の運転状態に基づいて前記弁手段の動作を制御する動作制御手段と、を備えることを特徴とする内燃機関の潤滑装置。
【請求項2】
前記動作制御手段は、前記内燃機関の運転状態として前記内燃機関の回転数、前記内燃機関のスロットル開度、前記内燃機関のオイルの温度、及び前記内燃機関の冷却水の温度の少なくともいずれか一つに基づいて前記弁手段の動作を制御することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の潤滑装置。
【請求項3】
前記動作制御手段は、前記内燃機関の運転状態に基づいて前記内燃機関がオイルスラッジの発生が進行する運転状態で運転されているか否か推定する推定手段を備えるとともに、前記推定手段の推定結果に基づいて前記弁手段の動作を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の潤滑装置。
【請求項4】
前記動作制御手段は、前記推定手段が前記内燃機関がオイルスラッジの発生が進行する運転状態で運転されていると推定した場合に前記弁手段を前記第1状態に切り替えることを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の潤滑装置。
【請求項5】
前記ガス導入手段は、前記オイル排出通路に設けられて前記オイル回収部から前記オイルタンクにオイルを戻すスカベンジポンプであり、
前記排気導入通路は、前記排気通路と前記スカベンジポンプよりも上流側のオイル排出通路とを連通することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の内燃機関の潤滑装置。
【請求項6】
前記排気導入通路は、前記排気通路と前記クランク室とを連通し、
前記ガス導入手段として前記排気導入通路に電動ポンプが設けられることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の内燃機関の潤滑装置。
【請求項7】
前記ガス導入手段が前記排気導入通路に設けられ、
前記弁手段は、前記排気導入通路のうち前記排気通路との接続部と前記ガス導入手段との間に配置されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の内燃機関の潤滑装置。
【請求項8】
前記排気導入通路が前記排気通路と前記クランク室とを連通するとともに前記ガス導入手段が前記排気導入通路に設けられ、
前記内燃機関の吸気通路と前記ポンプ手段よりも上流側の排気導入通路とを連通する新気導入通路をさらに備え、
前記弁手段として前記第1状態において前記導入先への排気の導入を許可するとともに前記吸気通路から前記導入先への新気の導入を阻止し、かつ前記第2状態において前記導入先への排気の導入を阻止するとともに前記吸気通路から前記導入先への新気の導入を許可する導入ガス切替弁手段が設けられることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の内燃機関の潤滑装置。
【請求項9】
前記排気通路に排気浄化触媒が設けられ、
前記排気導入通路は、前記排気浄化触媒より下流の排気通路と前記クランク室又は前記オイル排出通路とを連通していることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の内燃機関の潤滑装置。
【請求項1】
内燃機関の機関本体と別体に設けられるオイルタンクと、前記内燃機関のクランク室の底部に設けられるオイル回収部と前記オイルタンクとを連通するオイル排出通路と、を備えたドライサンプ式の内燃機関の潤滑装置において、
前記内燃機関の排気通路と前記クランク室又は前記オイル排出通路とを連通する排気導入通路と、前記排気通路から前記排気導入通路を介して前記クランク室及び前記オイルタンク内の少なくともいずれか一方に排気を導入するガス導入手段と、前記排気導入通路に設けられ、前記ガス導入手段によって排気が導入される導入先への排気の導入を許可する第1状態と前記導入先への排気の導入を阻止する第2状態とに切替可能な弁手段と、前記内燃機関の運転状態に基づいて前記弁手段の動作を制御する動作制御手段と、を備えることを特徴とする内燃機関の潤滑装置。
【請求項2】
前記動作制御手段は、前記内燃機関の運転状態として前記内燃機関の回転数、前記内燃機関のスロットル開度、前記内燃機関のオイルの温度、及び前記内燃機関の冷却水の温度の少なくともいずれか一つに基づいて前記弁手段の動作を制御することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の潤滑装置。
【請求項3】
前記動作制御手段は、前記内燃機関の運転状態に基づいて前記内燃機関がオイルスラッジの発生が進行する運転状態で運転されているか否か推定する推定手段を備えるとともに、前記推定手段の推定結果に基づいて前記弁手段の動作を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の潤滑装置。
【請求項4】
前記動作制御手段は、前記推定手段が前記内燃機関がオイルスラッジの発生が進行する運転状態で運転されていると推定した場合に前記弁手段を前記第1状態に切り替えることを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の潤滑装置。
【請求項5】
前記ガス導入手段は、前記オイル排出通路に設けられて前記オイル回収部から前記オイルタンクにオイルを戻すスカベンジポンプであり、
前記排気導入通路は、前記排気通路と前記スカベンジポンプよりも上流側のオイル排出通路とを連通することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の内燃機関の潤滑装置。
【請求項6】
前記排気導入通路は、前記排気通路と前記クランク室とを連通し、
前記ガス導入手段として前記排気導入通路に電動ポンプが設けられることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の内燃機関の潤滑装置。
【請求項7】
前記ガス導入手段が前記排気導入通路に設けられ、
前記弁手段は、前記排気導入通路のうち前記排気通路との接続部と前記ガス導入手段との間に配置されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の内燃機関の潤滑装置。
【請求項8】
前記排気導入通路が前記排気通路と前記クランク室とを連通するとともに前記ガス導入手段が前記排気導入通路に設けられ、
前記内燃機関の吸気通路と前記ポンプ手段よりも上流側の排気導入通路とを連通する新気導入通路をさらに備え、
前記弁手段として前記第1状態において前記導入先への排気の導入を許可するとともに前記吸気通路から前記導入先への新気の導入を阻止し、かつ前記第2状態において前記導入先への排気の導入を阻止するとともに前記吸気通路から前記導入先への新気の導入を許可する導入ガス切替弁手段が設けられることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の内燃機関の潤滑装置。
【請求項9】
前記排気通路に排気浄化触媒が設けられ、
前記排気導入通路は、前記排気浄化触媒より下流の排気通路と前記クランク室又は前記オイル排出通路とを連通していることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の内燃機関の潤滑装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2008−25348(P2008−25348A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−195214(P2006−195214)
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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