説明

内燃機関のEGRパラメータ推定装置

【課題】内燃機関の定常運転状態および過渡運転状態の双方において、EGR量およびEGR率の一方を表すEGRパラメータを、比較的簡易な手法によって精度良く推定することができる内燃機関のEGRパラメータ推定装置を提供する。
【解決手段】エアフローセンサ10で検出された吸入空気量GAIRを用いて、第1EGRパラメータEGRR_SDを算出し、EGR弁用開度関数KLEGRと、EGR弁用開度関数KLEGRおよびスロットル弁用開度関数KTHの和との比を用いて、第2EGRパラメータEGRR_Kを算出する。そして、内燃機関3の回転数変化量ΔNEが大きいほど、第1EGRパラメータEGRR_SDに対する第1重み係数LPFが小さくなり、かつ、第2EGRパラメータEGRR_Kに対する第2重み係数HPFが大きくなるように、第1および第2EGRパラメータを重み付け演算することにより、EGRパラメータEGRR_FINALを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気系に排出された排ガスの一部をEGRガスとして吸気系に還流させる内燃機関において、EGR量およびEGR率の一方を表すEGRパラメータを推定する内燃機関のEGRパラメータ推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、EGR装置を備えた内燃機関において、EGR量またはEGR率を推定する推定装置として、例えば特許文献1および2に開示されたものが知られている。特許文献1の内燃機関の吸気管には、上流側から順にエアフローセンサおよび吸気圧センサが設けられるとともに、両センサの間にEGRガスを還流させるためのEGR管が接続されている。エアフローセンサにより、気筒に吸入される吸入空気(新気)量が検出される一方、吸気圧センサの検出値に基づいて、吸入空気量とEGR量との和である全ガス量が算出される。そして、全ガス量から吸入空気量を減算することによって、EGR量を推定する。なお、上記のEGR量を全ガス量で除算することにより、EGR率を推定することも可能である。
【0003】
一方、特許文献2では、内燃機関の吸気通路にスロットル弁が設けられ、吸気通路と排気通路を連通するEGR通路にEGR弁が設けられている。そして、上記のスロットル弁およびEGR弁の開度をそれぞれ検出し、それらの開度を用い、所定のマップや計算式から、EGR率を推定する。具体的には、排気通路内の圧力である排気圧を大気圧と同等とみなし、スロットル弁およびEGR弁の開度をパラメータとする計算式により、EGR率を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭57−148048号公報
【特許文献2】特許第3998784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述したようにして算出されるEGR量またはEGR率(以下、両者を特に区別しない場合には「EGRパラメータ」という)は、内燃機関の制御、具体的には点火時期や燃料噴射の制御などに用いられる。したがって、これらの制御を適切に実行するために、EGRパラメータを精度良く推定することが求められる。
【0006】
前述した特許文献1のEGRパラメータの推定手法では、内燃機関が定常運転状態の場合には、EGRパラメータを精度良く推定することが可能である。しかし、内燃機関の加速時などの過渡運転状態では、スロットル弁の開度の変化などにより吸入空気量が変化した後、この吸入空気量にエアフローセンサの設置位置での空気流量が一致するようになるまでの吸入空気の応答遅れや、エアフローセンサ自身の検出遅れにより、エアフローセンサの検出値が、気筒に吸入される実際の吸入空気量に対してずれてしまう。このため、過渡運転状態において、エアフローセンサの検出値を用いてEGRパラメータを算出すると、その推定精度が低下してしまい、そのようなEGRパラメータを用いて内燃機関を制御すると、点火時期の過進角や過遅角によるノッキングや失火などの不具合が生じるおそれがある。
【0007】
一方、特許文献2のEGRパラメータの推定手法では、特許文献1のそれと異なり、EGR率を算出する際に、エアフローセンサの検出値を用いないため、過渡運転状態において、EGR率を特許文献1の推定手法よりも精度良く算出(推定)することが可能である。しかし、この推定手法では、排気圧を大気圧と同等とみなした上で、EGR率を算出するため、排気圧が大気圧と大きく異なる場合、内燃機関が定常運転状態のときに、EGR率を精度良く推定することができないことがある。
【0008】
以上のように、上記の特許文献1および2のいずれの推定手法によっても、内燃機関の定常運転状態および過渡運転状態の双方において、点火時期などを良好に制御するための高い精度を有するEGRパラメータを推定することは困難である。
【0009】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、内燃機関の定常運転状態および過渡運転状態の双方において、EGR量およびEGR率の一方を表すEGRパラメータを、比較的簡易な手法によって精度良く推定することができる内燃機関のEGRパラメータ推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、排気系(実施形態における(以下、本項において同じ)排気管5)に排出された排ガスの一部をEGRガスとして吸気系(吸気マニホールド4a)に還流させる内燃機関3において、EGRガスの量であるEGR量、および気筒3aに吸入される総ガス量に対するEGR量の割合であるEGR率の一方を表すEGRパラメータを推定する内燃機関のEGRパラメータ推定装置1であって、EGRガスを還流させるためのEGR通路(EGR管22)と、このEGR通路に設けられ、EGR量を調整するためのEGR弁23と、このEGR弁の開度(EGR弁開度LEGR)を検出するEGR弁開度検出手段(EGR弁開度センサ23b)と、吸気系(吸気管4)に設けられ、吸入空気量を調整するためのスロットル弁11と、このスロットル弁の開度(スロットル弁開度TH)を検出するスロットル弁開度検出手段(スロットル弁開度センサ11b)と、吸気系(吸気管4)に設けられ、吸入空気量GAIRを検出するエアフローセンサ10と、検出された吸入空気量を用いて、第1EGRパラメータ(第1EGR率EGRR_SD)を算出する第1EGRパラメータ算出手段(ECU2、ステップ1)と、検出されたEGR弁の開度(EGR弁開度LEGR)に応じて、EGR弁を通過するEGRガスの流量特性を表すEGR弁用開度関数(EGR弁の開度関数KLEGR)を算出するEGR弁用開度関数算出手段(ECU2、ステップ22)と、検出されたスロットル弁の開度(スロットル弁開度TH)に応じて、スロットル弁を通過する吸入空気の流量特性を表すスロットル弁用開度関数(スロットル弁の開度関数KTH)を算出するスロットル弁用開度関数算出手段(ECU2、ステップ21)と、算出されたEGR弁用開度関数と、EGR弁用開度関数および算出されたスロットル弁用開度関数の和との比(KLEGR/(KLEGR+KTH))を用いて、第2EGRパラメータ(第2EGR率EGRR_K)を算出する第2EGRパラメータ算出手段(ECU2、ステップ2)と、内燃機関の運転状態の変化度合(回転数変化量ΔNE)を取得する変化度合取得手段(ECU2)と、算出された第1および第2EGRパラメータを、取得された内燃機関の運転状態の変化度合が大きいほど、第1EGRパラメータに対する重み付け(第1重み係数LPF)が小さくなり、かつ、第2EGRパラメータに対する重み付け(第2重み係数HPF)が大きくなるように、重み付け演算することにより、EGRパラメータ(EGR率EGRR_FINAL)を算出するEGRパラメータ算出手段(ECU2、ステップ5)と、を備えていることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、第1EGRパラメータ算出手段により、エアフローセンサで検出された吸入空気量を用いて、第1EGRパラメータを算出する。また、検出されたEGR弁の開度に応じて、EGR弁を通過するEGRガスの流量特性を表すEGR弁用開度関数を算出するとともに、検出されたスロットル弁の開度に応じて、スロットル弁を通過する吸入空気の流量特性を表すスロットル弁用開度関数を算出する。そして、第2EGRパラメータ算出手段により、EGR弁用開度関数と、EGR弁用開度関数およびスロットル弁用開度関数の和との比を用いて、第2EGRパラメータを算出する。また、EGRパラメータ算出手段により、変化度合取得手段で取得された内燃機関の運転状態の変化度合に応じ、第1および第2EGRパラメータを重み付け演算することによって、最終的なEGRパラメータ(以下、本項において「最終EGRパラメータ」という)を算出する。具体的には、検出された内燃機関の運転状態の変化度合が大きいほど、第1EGRパラメータに対する重み付けを小さくし、かつ、第2EGRパラメータに対する重み付けを大きくする。また、上記とは逆に、内燃機関の運転状態の変化度合が小さいほど、第1EGRパラメータに対する重み付けを大きくし、かつ、第2EGRパラメータに対する重み付けを小さくする。
【0012】
前述したように、エアフローセンサで検出された吸入空気量を用いて、EGRパラメータを算出する場合(以下、本項において「第1算出手法」という)、内燃機関が定常運転状態のときには、EGRパラメータを精度良く算出することが可能であるものの、内燃機関が過渡運転状態のときには、エアフローセンサの検出値が、気筒に吸入される実際の吸入空気量に対してずれるため、検出値を用いて算出されるEGRパラメータの精度が低下する。一方、EGR弁用開度関数と、EGR弁用開度関数およびスロットル弁用開度関数の和との比を用いて、EGRパラメータを算出する場合(以下、本項において「第2算出手法」という)、内燃機関が過渡運転状態のときには、上記の第1算出手法と異なり、エアフローセンサの検出値を用いないので、EGRパラメータを比較的精度良く算出できるものの、内燃機関が定常運転状態のときには、精度良く算出することができないことがある。
【0013】
以上のような観点から、本発明によれば、前述したように、内燃機関の運転状態の変化度合が大きいほど、第1算出手法で算出された第1EGRパラメータに対する重み付けを小さくし、かつ、第2算出手法で算出された第2EGRパラメータに対する重み付けを大きくする。これにより、過渡運転状態では、最終EGRパラメータに対する第2EGRパラメータの反映度合をより高くすることができるとともに、定常運転状態では、最終EGRパラメータに対する第1EGRパラメータの反映度合をより高くすることができる。以上により、本発明によれば、内燃機関の定常運転状態および過渡運転状態の双方において、EGR量およびEGR率の一方を表すEGRパラメータを、比較的簡易な手法によって精度良く推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態によるEGRパラメータ推定装置を適用した内燃機関を概略的に示す図である。
【図2】EGRパラメータ推定装置の概略構成を示すブロック図である。
【図3】EGR率の推定処理を示すフローチャートである。
【図4】スピードデンシティ法による第1EGR率の算出処理を示すフローチャートである。
【図5】開度関数法による第2EGR率の算出処理を示すフローチャートである。
【図6】スロットル弁開度と開度関数との関係を示すマップである。
【図7】EGR弁開度と開度関数との関係を示すマップである。
【図8】エンジン回転数の増減量と重み係数との関係を示すマップである。
【図9】EGR率の推定精度をその算出法の間で比較した結果を一覧で示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態によるEGRパラメータ推定装置1を適用した内燃機関(以下「エンジン」という)3を概略的に示しており、図2は、EGRパラメータ推定装置1の概略構成を示している。
【0016】
エンジン3は、例えば車両用の4気筒タイプのガソリンエンジンであり、4組の気筒3aおよびピストン3b(1組のみ図示)と、クランクシャフト3cを備えている。各気筒3aのピストン3bとシリンダヘッド3dとの間には、燃焼室3eが形成されている。シリンダヘッド3dには、吸気管4および排気管5が接続され、気筒3aごとに、吸気弁6および排気弁7が設けられるとともに、点火プラグ8が、燃焼室3eに臨むように、シリンダヘッド3dに取り付けられている。
【0017】
吸気管4には、上流側から順に、エアフローセンサ10、スロットル弁11、吸気圧センサ12およびインジェクタ13が設けられている。エアフローセンサ10は、例えば熱線式のものであり、エアフローセンサ10を通過する空気(新気)の量を吸入空気量GAIRとして検出し、その検出信号をECU2に出力する。
【0018】
スロットル弁11は、バタフライ弁から成り、このスロットル弁11には、例えば直流モータで構成されたTHアクチュエータ11aが接続されている。スロットル弁11の開度(以下「スロットル弁開度」という)THは、THアクチュエータ11aに供給される電流のデューティ比をECU2で制御することによって、制御される。また、ECU2には、スロットル弁開度センサ11bから、スロットル弁開度THを表す検出信号が出力される。
【0019】
吸気圧センサ12は、吸気管4の下流側に設けられた吸気マニホールド4aに取り付けられており、吸気管4内のスロットル弁11よりも下流側の圧力(以下「吸気圧」という)PBを、絶対圧として検出し、その検出信号をECU2に出力する。また、インジェクタ13を、ECU2からの駆動信号で駆動することによって、燃料の噴射量および噴射時期が制御される。
【0020】
排気管5には、燃焼室3eから排出された排ガスを浄化するための三元触媒(図示せず)などから成る触媒装置15が設けられている。三元触媒は、酸化還元作用により、排ガス中のCO、HCおよびNOxを浄化する。
【0021】
また、エンジン3には、EGR装置21が設けられている。このEGR装置21は、排気管5に排出された排ガスの一部を、EGRガスとして吸気管4に還流させるものである。EGR装置21は、排気管5の触媒装置15よりも下流側と、吸気管4のスロットル弁11よりも下流側の吸気マニホールド4aとの間に接続されたEGR管22と、このEGR管22の途中に設けられ、EGR量GEGRを調整するためのEGR弁23と、EGR管22のEGR弁23よりも上流側(排気管5側)に設けられ、EGRガスを冷却するためのEGRクーラ24とを備えている。
【0022】
EGR弁23は、ポペット弁から成り、このEGR弁23には、例えばソレノイドで構成されたEGRアクチュエータ23aが接続されている。EGR弁23のリフト量(以下「EGR弁開度」という)LEGRは、EGRアクチュエータ23aに供給される電流のデューティ比をECU2で制御することによって、制御される。また、ECU2には、EGR弁開度センサ23bから、EGR弁開度LEGRを表す検出信号が出力される。
【0023】
また、エンジン3には、クランク角センサ26が設けられている。このクランク角センサ26は、クランクシャフト3cの回転に伴い、パルス信号であるCRK信号をECU2に出力する。CRK信号は、所定のクランク角(例えば30゜)ごとに出力され、ECU2は、このCRK信号に基づき、エンジン3の回転数(以下「エンジン回転数」という)NEを算出する。
【0024】
ECU2は、CPU、RAM、ROMおよびI/Oインターフェース(いずれも図示せず)などから成るマイクロコンピュータで構成されている。このECU2は、前述した各種のセンサからの検出信号に応じて、気筒3aに吸入される総ガス量(=吸入空気量+EGR量)に対するEGR量の割合であるEGR率を算出(推定)する。なお、本実施形態では、ECU2が、第1EGRパラメータ算出手段、第2EGRパラメータ算出手段、変化度合取得手段、およびEGRパラメータ算出手段に相当する。
【0025】
次に、図3〜図8を参照しながら、ECU2で実行されるEGR率の推定処理について説明する。本処理は、所定時間ごとに繰り返し実行される。
【0026】
本処理ではまず、ステップ1(「S1」と図示。以下同じ)において、いわゆるスピードデンシティ法(以下「SD法」という)により、第1EGR率EGRR_SDを算出する。また、ステップ2において、スロットル弁11およびEGR弁23の後述する開度関数Kに基づく算出法(以下「開度関数法」という)により、第2EGR率EGRR_Kを算出する。
【0027】
図4に示すように、第1EGR率EGRR_SDの算出処理ではまず、検出された吸気圧PBおよびエンジン回転数NEに応じて、所定のGCYLマップ(図示せず)から、気筒3aに吸入される総ガス量GCYLを検索する(ステップ11)。このGCYLマップは、実験結果などに基づいて作成されており、総ガス量GCYLは、吸気圧PBが大きいほど、より大きな値に設定されている。
【0028】
次いで、ステップ11で求めた総ガス量GCYL、およびエアフローセンサ10で検出された吸入空気量GAIRを用い、次式(1)により、第1EGR率EGRR_SDを算出する(ステップ12)。
【数1】

【0029】
一方、図5に示すように、第2EGR率EGRR_Kの算出処理ではまず、検出されたスロットル弁開度THに応じて、図6に示すKTHマップから、スロットル弁11の開度関数KTHを検索する(ステップ21)。また、検出されたEGR弁開度LEGRに応じて、図7に示すKLEGRマップから、EGR弁23の開度関数KLEGRを検索する(ステップ22)。
【0030】
これらの開度関数KTHおよびKLEGRはそれぞれ、スロットル弁11およびEGR弁23の有効開口面積をパラメータとする関数であり、スロットル弁11を通過する吸入空気およびEGR弁23を通過するEGRガスの流量特性を表す。図6に示すように、スロットル弁11の開度関数KTHは、スロットル弁開度THが大きいほど、より大きな値に、かつその傾きもより大きくなるように設定されている。一方、図7に示すように、EGR弁23の開度関数KLEGRは、EGR弁開度LEGRが大きいほど、より大きな値に、かつその傾きはより小さくなるように設定されている。このような開度関数KTHおよびKLEGRの特性の相違は、前述したように、スロットル弁11がバタフライ弁であるのに対し、EGR弁23はポペット弁であるという弁の形式の相違による。
【0031】
そして、スロットル弁11およびEGR弁23をそれぞれ通過する空気量GAIRTHおよびEGR量GEGRは、上記の開度関数KTHおよびKLEGRを用いて、下記のノズル式により算出される。
【0032】
このノズル式は、ノズルを通過する流体を圧縮性流体とみなし、ノズルの上下流の圧力とノズルを通過する流体の流量との関係をモデル化したものであり、その一般式は、次式(2)で表される。
【数2】

【0033】
ここで、左辺のGは流体の流量である。右辺のKは、ノズルの構成および開度に応じて定まる開度関数、P1はノズルの上流側圧力、Rは流体の気体定数、Tは流体の温度である。また、Ψは、次式(3)によって定義される圧力関数である。
【数3】

【0034】
ここで、P2はノズルの下流側圧力、κは流体の比熱比である。式(3)から明らかなように、圧力関数Ψは、ノズルの構成や開度にかかわらず、その下流側圧力P2と上流側圧力P1との圧力比P2/P1のみによって一義的に定まる。
【0035】
以上のノズル式をスロットル弁11に適用する場合には、式(2)および(3)中の流体流量Gをスロットル弁11を通過する空気量(以下「スロットル弁通過空気量」という)GAIRTHに、開度関数Kをスロットル弁11の開度関数KTHに、上流側圧力P1を大気圧PAに、下流側圧力P2を吸気圧PBに、流体温度Tを吸気温度TAに、圧力関数Ψをスロットル弁11用の圧力関数ΨTHに、それぞれ置き換える。これにより、式(2)および(3)は、次の式(4)および(5)にそれぞれ書き換えられる。
【数4】

【数5】

【0036】
また、ノズル式をEGR弁23に適用する場合には、式(2)および(3)中の流体流量GをEGR量GEGRに、開度関数KをEGR弁23の開度関数KLEGRに、上流側圧力P1をEGR弁23のすぐ上流側の圧力(以下「EGRガス圧」という)PEGRに、下流側圧力P2を吸気圧PBに、流体温度TをEGRクーラ24で冷却されたEGRガスの温度(以下「EGRガス温度」という)TEGRに、圧力関数ΨをEGR弁23用の圧力関数ΨLEGRに、それぞれ置き換える。これにより、式(2)および(3)は、次の式(6)および(7)にそれぞれ書き換えられる。
【数6】

【数7】

【0037】
式(4)および(5)で算出されるスロットル弁通過空気量GAIRTHと、式(6)および(7)で算出されるEGR量GEGRを用いて、吸気マニホールド4a内のEGR率(以下「インマニEGR率」という)EGRR_IMを表すと、次式(8)のようになる。
【数8】

【0038】
また、式(5)中の大気圧PAと式(7)中のEGRガス圧PEGRがほぼ等しい(PA≒PEGR)とみなすと、スロットル弁11用の圧力ΨTHとEGR弁23用の圧力関数ΨLEGRがほぼ等しい(ΨTH≒ΨLEGR)という関係が成立する。さらに、式(4)中の吸気温度TAと式(6)中のEGRガス温度TEGRがほぼ等しい(TA≒TEGR)とみなし、以上の関係を式(4)および(6)に代入し、式(8)を書き換えると、次式(9)が導かれる。
【数9】

【0039】
この式(9)から分かるように、インマニEGR率EGRR_IMは、スロットル弁11の開度関数KTHおよびEGR弁23の開度関数KLEGRのみで表される。
【0040】
図5に戻り、前記ステップ22に続くステップ23では、上記の式(9)により、インマニEGR率EGRR_IMを算出する。そして、吸気マニホールド4a内の空気およびEGRガスが気筒3aに到達するまでの吸気遅れを補償するために、次式(10)により、インマニEGR率EGRR_IMに一次遅れ処理を施すことによって、第2EGR率EGRR_Kを算出し(ステップ24)、本処理を終了する。
【数10】

ここで、τは所定の時定数、EGRR_Kzは第2EGR率EGRR_Kの前回値である。
【0041】
図3に戻り、前記ステップ2に続くステップ3では、次式(11)によって、回転数変化量ΔNEを算出する。この回転数変化量ΔNEは、エンジン3の運転状態の変化度合を表すものであり、式(11)中のNE(n)、NE(n−1)はそれぞれ、エンジン回転数NEの今回値および前回値である。
【数11】

【0042】
次に、算出した回転数変化量ΔNEに応じて、図8に示すマップから、第1EGR率EGRR_SD用の第1重み係数LPFと、第2EGR率EGRR_K用の第2重み係数HPFを検索する。このマップでは、第1重み係数LPFは、0〜1の値をとり、回転数変化量ΔNEが大きいほど、より小さな値に設定され、ΔNE値が0のときに値1に、ΔNE値が所定値ΔNEREF(例えば、1秒間当たり1000回転)以上のときに値0に、それぞれ設定されている。一方、第2重み係数HPFは、0〜1の値をとり、回転数変化量ΔNEが大きいほど、より大きな値に設定され、ΔNE値が0のときに値0に、ΔNE値が所定値ΔNEREF以上のときに値1に、それぞれ設定されている。また、両重み係数LPF、HPFの和は、常に値1に設定されている。
【0043】
次いで、ステップ5において、次式(12)により、最終的にEGR率EGRR_FINALを算出し、本処理を終了する。
【数12】

【0044】
この式(12)から明らかなように、EGR率EGRR_FINALは、SD法による第1EGR率EGRR_SD、および開度関数法による第2EGR率EGRR_Kを、第1および第2重み係数LPF、HPFを用いて重み付け演算することによって、算出される。これにより、回転数変化量ΔNEが小さく、エンジン3が定常運転状態に近くなるほど、EGR率EGRR_FINALに対する第1EGR率EGRR_SDの反映度合が高くなる。逆に、回転数変化量ΔNEが大きく、エンジン3が過渡運転状態に近くなるほど、EGR率EGRR_FINALに対する第2EGR率EGRR_Kの反映度合が高くなる。
【0045】
図9は、(1)SD法、(2)開度関数法、および(3)両法の組合せによる本実施形態によって算出されるEGR率の推定精度を評価した結果を示している。
【0046】
同図に示すように、(1)SD法では、エンジン3の定常運転状態におけるすべての運転領域、すなわちエンジン3の低回転領域、高回転領域、および高負荷領域のいずれにおいても、第1EGR率EGRR_SDの推定精度が高い。一方、過渡運転状態では、エンジン3の低回転領域、高回転領域および高負荷領域のいずれにおいても、第1EGR率EGRR_SDの推定精度が低い。これは、第1EGR率EGRR_SDを算出する式(1)の吸入空気量GAIRとして、過渡運転状態において応答遅れが生じやすいエアフローセンサ10の検出値を用いているからである。
【0047】
一方、(2)開度関数法では、エンジン3の定常運転状態および過渡運転状態における低回転領域において、第2EGR率EGRR_Kの推定精度が高い。また、エンジン3の定常運転状態および過渡運転状態における高回転領域および高負荷領域では、SD法による過渡運転状態よりは推定精度が高いものの、第2EGR率EGRR_Kの推定精度は、低回転領域のそれよりも低い。これは、インマニEGR率EGRR_IMを算出する式(8)から式(9)を導く際に、大気圧PA≒EGRガス圧PEGRとみなすとともに、吸気温度TA≒EGRガス温度TEGRとみなしているからである。
【0048】
以上のSD法および開度関数法に対し、(3)両法を組み合わせた本実施形態では、定常運転状態においては、図8に示すように、SD法用の第1重み係数LPFおよび開度関数法用の第2重み係数HPFが、それぞれより大きな値およびより小さな値に設定され、回転数変化量ΔNEが値0のときには、それぞれ値1および0に設定される。これにより、EGR率EGRR_FINALに対する第1EGR率EGRR_SDの反映度合がより高くなる。したがって、定常運転状態では、SD法による場合と同様、低回転領域、高回転領域および高負荷領域のいずれにおいても、EGR率EGRR_FINALを高い精度で推定することができる。
【0049】
一方、過渡運転状態においては、上記の定常運転状態とは逆に、第1重み係数LPFおよび第2重み係数HPFが、それぞれより小さな値およびより大きな値に設定され、回転数変化量ΔNEが所定値ΔNEREF以上のときには、それぞれ値0および1に設定される。これにより、EGR率EGRR_FINALに対する第2EGR率EGRR_Kの反映度合がより高くなる。したがって、過渡運転状態では、開度関数法による場合と同様、低回転領域において、EGR率EGRR_FINALを高い精度で推定できるとともに、高回転領域および高負荷領域において、SD法による場合に比べて、EGR率EGRR_FINALをより精度良く推定することができる。
【0050】
以上のように、本実施形態によれば、SD法による第1EGR率EGRR_SD、および開度関数法による第2EGR率EGRR_Kを算出し、エンジン3の運転状態の変化度合としての回転数変化量ΔNEが大きいほど、第1EGR率EGRR_SDに対する重み付けを小さくし、かつ、第2EGR率EGRR_Kに対する重み付けを大きくするよう、重み付け演算を行うことによって、最終的なEGR率EGRR_FINALを算出する。これにより、SD法および開度関数法の一方のみによってEGR率を推定する場合に比べて、定常運転状態および過渡運転状態の双方において、EGR率EGRR_FINALを精度良く推定することができる。その結果として、推定された精度の高いEGR率EGRR_FINALを用いて、例えばエンジン3の点火時期や燃料噴射の制御を適切に実行することができる。
【0051】
なお、本発明は、説明した上記実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、第1および第2重み係数LPFおよびHPFを算出するための、エンジン3の運転状態の変化度合を表すパラメータとして、エンジン回転数NEの回転数変化量ΔNEを採用したが、運転状態の変化度合を表すものであれば、種々のパラメータ(例えば要求トルクやスロットル弁開度の変化量など)を採用することが可能である。
【0052】
また、実施形態では、スロットル弁11の開度関数KTHおよびEGR弁23の開度関数KLEGRを算出するために、図6に示すKTHマップおよび図7に示すKLEGRマップをそれぞれ用いたが、両開度関数KTHおよびKLEGRをそれぞれ、所定の計算式を用いて算出することも可能である。
【0053】
また、実施形態では、EGRパラメータとして、EGR率EGRR_FINALを推定する場合を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、EGRパラメータとして、EGR量を推定することも可能である。この場合、例えば、気筒3aに吸入される総ガス量GCYLに、実施形態で算出したEGR率EGRR_FINALを乗算することにより、EGR量を容易に推定することができる。これにより、EGRパラメータとしてのEGR量を、前述したEGR率EGRR_FINALと同様、定常運転状態および過渡運転状態の双方において、精度良く推定することができる。
【0054】
また、実施形態は、本発明を車両用のガソリンエンジンに適用した例であるが、EGR装置を備えたディーゼルエンジンにも適用可能であり、また、他の用途のエンジン、例えばクランク軸を鉛直方向に延びるように配置した船外機のような船舶推進機用エンジンなどにも適用可能である。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 EGRパラメータ推定装置
2 ECU(第1EGRパラメータ算出手段、第2EGRパラメータ算出手段、
変化度合算出手段、EGRパラメータ算出手段)
3 内燃機関
3a 気筒
4 吸気管(吸気系)
4a 吸気マニホールド(吸気系)
5 排気管(排気系)
10 エアフローセンサ
11 スロットル弁
11b スロットル弁開度センサ
12 吸気圧センサ
22 EGR管(EGR通路)
23 EGR弁
23b EGR弁開度センサ
PB 吸気圧
GCYL 総ガス量
GAIR 吸入空気量
GEGR EGR量
NE エンジン回転数
ΔNE 回転数変化量(運転状態の変化度合)
EGRR_SD 第1EGR率(第1EGRパラメータ)
EGRR_K 第2EGR率(第2EGRパラメータ)
TH スロットル弁開度(スロットルの開度)
LEGR EGR弁開度(EGR弁の開度)
KTH スロットル弁の開度関数(スロットル弁用開度関数)
KLCMD EGR弁の開度関数(EGR弁用開度関数)
LPF 第1重み係数
HPF 第2重み係数
EGRR_FINAL EGR率(EGRパラメータ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気系に排出された排ガスの一部をEGRガスとして吸気系に還流させる内燃機関において、前記EGRガスの量であるEGR量、および気筒に吸入される総ガス量に対する前記EGR量の割合であるEGR率の一方を表すEGRパラメータを推定する内燃機関のEGRパラメータ推定装置であって、
前記EGRガスを還流させるためのEGR通路と、
このEGR通路に設けられ、前記EGR量を調整するためのEGR弁と、
このEGR弁の開度を検出するEGR弁開度検出手段と、
前記吸気系に設けられ、吸入空気量を調整するためのスロットル弁と、
このスロットル弁の開度を検出するスロットル弁開度検出手段と、
前記吸気系に設けられ、吸入空気量を検出するエアフローセンサと、
当該検出された吸入空気量を用いて、第1EGRパラメータを算出する第1EGRパラメータ算出手段と、
前記検出されたEGR弁の開度に応じて、当該EGR弁を通過するEGRガスの流量特性を表すEGR弁用開度関数を算出するEGR弁用開度関数算出手段と、
前記検出されたスロットル弁の開度に応じて、当該スロットル弁を通過する吸入空気の流量特性を表すスロットル弁用開度関数を算出するスロットル弁用開度関数算出手段と、
前記算出されたEGR弁用開度関数と、当該EGR弁用開度関数および前記算出されたスロットル弁用開度関数の和との比を用いて、第2EGRパラメータを算出する第2EGRパラメータ算出手段と、
前記内燃機関の運転状態の変化度合を取得する変化度合取得手段と、
前記算出された第1および第2EGRパラメータを、前記取得された内燃機関の運転状態の変化度合が大きいほど、前記第1EGRパラメータに対する重み付けが小さくなり、かつ、前記第2EGRパラメータに対する重み付けが大きくなるように、重み付け演算することにより、前記EGRパラメータを算出するEGRパラメータ算出手段と、
を備えていることを特徴とする内燃機関のEGRパラメータ推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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