内燃機関のEGR流量計測装置
【課題】EGR流路を流れる排気ガスの実流量を、排気圧力変動やインテークマニホールド内圧力の変動に拘わらず正確に測定する。
【解決手段】内燃機関のEGR流路に取り付けられた流量センサ18の出力信号に基づいてEGR流路を流れるガス流量を演算するガス流量演算部101と、エンジン回転数に基づいてEGR流路のガス流れに生じる脈動周波数あるいはそれを代表する値を演算する脈動周波数演算部102と、ガス流量演算部101によって演算されたガス流量を脈動周波数演算部102よって演算された脈動周波数に相関する補正値をもって補正するガス流量補正部103とを設ける。
【解決手段】内燃機関のEGR流路に取り付けられた流量センサ18の出力信号に基づいてEGR流路を流れるガス流量を演算するガス流量演算部101と、エンジン回転数に基づいてEGR流路のガス流れに生じる脈動周波数あるいはそれを代表する値を演算する脈動周波数演算部102と、ガス流量演算部101によって演算されたガス流量を脈動周波数演算部102よって演算された脈動周波数に相関する補正値をもって補正するガス流量補正部103とを設ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のEGR流量計測装置に係り、特に、排気ガス内のNOx低減やエンジン出力制御のためにEGR流量を制御する内燃機関のEGR流量を測定するEGR流量計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関(エンジン)の燃費向上のため、ディーゼルエンジンやリーンバーンエンジンが有望とされている。しかし、ディーゼルエンジンやリーンバーンエンジンは排気ガスにNOxを多く含む傾向がある。排気ガスに含まれるNOxを低減するには、燃焼温度を低減することが有効であり、排気ガスの一部を吸気側に戻して燃焼制御を行う排気ガス再循環(EGR)制御が従来より行われている。
【0003】
EGR制御におけるEGR流量(ガス流量)を測定するEGR流量計測装置として、2つの流量センサを用い、2つの流量センサが出力するセンサ信号の差分を計算してEGR流量を算出するものがある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−316709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
EGR流路(EGR配管)は排気通路と吸気通路とを接続したガス流路であり、当該EGR流路の排気ガスは、排気圧力とインテーク(吸気)マニホールド内圧力との差圧に応じて排気側から吸気側へ流れるので、実際にEGR流路を流れる排気ガスの流量(EGR流量)は、排気圧力変動とインテークマニホールド内圧力の変動の影響を受けて変動する。
【0006】
このため、エンジンの各気筒ごとの爆発に伴う排気圧力脈動変化と、吸気弁が開くことによって生じるインテークマニホールド内圧力脈動変動の時間的な位相変化を考慮しない従来方式では、EGR流量を正確に測定することは困難であった。
【0007】
また、EGR流量センサを用いてEGR流路(EGR配管)のEGR流量を測定する場合、EGR流量センサは、EGR流路内において排気ガスに含まれるPM(煤)などの汚損物質を含む雰囲気に曝されるため、汚損物質の付着による経時変化によって正確な流量測定を行えなくなる。
【0008】
このことに対して、EGR流路をバイパスするバイパス通路内にEGR流量センサを取り付け、EGR流量センサに排気ガス中の汚損物質が付着し難くすることが考えられる。バイパス通路は、EGR流路内の排気ガス流れに対して1次遅れ系のフィルタ効果があり、脈動の影響を低減させる効果がある。しかし、脈動が大きくなると、EGR流路内の排気ガスの逆流を判断することが困難になる。
【0009】
本発明は、前記解決しようとする課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、EGR流路を流れる排気ガスの実流量を、排気圧力変動やインテークマニホールド内圧力の変動に拘わらず正確に測定するEGR流量計測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明によるEGR流量計測装置は、内燃機関のEGR流路に取り付けられた流量検出手段と、前記流量検出手段の出力信号に基づいて前記EGR流路を流れるガス流量を演算するガス流量演算手段と、内燃機関の回転数に基づいて前記EGR流路のガス流れに生じる脈動周波数あるいはそれを代表する値を演算する脈動周波数演算手段と、前記ガス流量演算手段によって演算されたガス流量を前記脈動周波数演算手段によって演算された脈動周波数に相関する補正値をもって補正するガス流量補正手段とを有する。
【0011】
本発明によるEGR流量計測装置は、好ましくは、前記ガス流量演算手段が、前記流量検出手段の出力信号に基づいて前記EGR流路を流れるガス流量の所定時間当たりの平均ガス流量を演算する。
【0012】
本発明によるEGR流量計測装置は、好ましくは、前記ガス流量補正手段が、前記脈動周波数演算手段によって演算された脈動周波数を基本波として複数の周波数成分を分析し、当該複数の周波数成分に基づく補正値をもって前記ガス流量演算手段によって演算されたガス流量の補正を行う。
【0013】
本発明によるEGR流量計測装置は、好ましくは、前記ガス流量補正手段が、前記ガス流量演算手段によるガス流量演算結果と前記脈動周波数演算手段による脈動周波数演算結果に基づいて脈動率を演算し、当該脈動率を一つのパラメータとして補正率を設定し、当該補正率を補正値として前記ガス流量演算手段によって演算されたガス流量の補正演算を行う。
【0014】
本発明によるEGR流量計測装置は、好ましくは、ガス流量補正手段が、前記EGR流路に取り付けられて当該EGR流路のガス流量を制御するEGR制御弁の弁開度あるいはそれを代表する値を一つのパラメータとして補正率を設定し、当該補正率を補正値として前記ガス流量演算手段によって演算されたガス流量の補正演算を行う。
【0015】
本発明によるEGR流量計測装置は、好ましくは、内燃機関の始動時からの所定時間が経過するまで、あるいは排気ガス温度が所定値に達するまでは、EGR流量計測を禁止する。
【0016】
本発明によるEGR流量計測装置は、好ましくは、前記流量検出手段が汚損診断された場合には、前記ガス流量演算手段によって演算されたガス流量を所定の補正量あるいは予め設定した別のフェールセーフ値を算出して前記流量検出手段の出力値に置き換えて使用する。
【0017】
本発明によるEGR流量計測装置は、好ましくは、前記EGR流路を流れるガス流量の計測値を用いて前記EGR流路を流れるガス流量をフィードバック制御している場合にフィードバック制御量がハンチングして制御量の静定時間が所定時間よりも長い場合、あるいはEGR停止時に前記流量検出手段が所定値以上の流量を示す出力信号を出力している場合、あるいはEGR開始後に前記流量検出手段が所定値以上の流量を示す出力信号を出力していないか所定値以上の流量を示す出力信号を出力までの時間が所定時間より場合の場合には、前記流量検出手段が汚損されていると診断する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によるEGR流量計測装置によれば、流量検出手段の出力信号に基づいて演算されたガス流量が脈動周波数に相関する補正値をもって補正される。これにより、EGR流路を流れる排気ガスの実流量を、排気圧力変動やインテークマニホールド内圧力の変動に拘わらず正確に測定することができる。
【0019】
EGR流路を流れる排気ガスの実流量を正確に測定できることにより、ディーゼルエンジンやリーンバーンエンジンのEGR率を従来よりも正確に制御でき、排気ガスレベル低減を図る効果が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明によるEGR流量計測装置を適用されるディーゼルエンジンの全体構成図。
【図2】エンジン制御装置の概略構成図。
【図3】燃料噴射−EGR流量制御装置の概略構成図。
【図4】EGR流量センサの構成図。
【図5】EGR流量センサの電気制御回路図。
【図6】EGR流量センサの取付構造を示す説明図。
【図7】EGR流量センサの取付位置とセンサ出力との関係を示す説明図。
【図8】本実施形態によるEGR流量計測装置の詳細を示すブロック図。
【図9】バイパス通路内センサ部信号振幅とEGR通路信号振幅とり関係を示す説明図。
【図10】EGR流量センサ信号出力のサンプリング説明図。
【図11】本実施形態によるEGR流量計測装置によるEGR流量計算のフロー図。
【図12】低流領域でのEGR量補正のブロック図。
【図13】EGR流量センサによる逆流検出と脈動の周波数成分を示す説明図。
【図14】(a)〜(c)はEGR流量センサの汚損の出力特性を示すグラフ。
【図15】EGR流量センサの汚損診断ルーチンを示すフローチャート。
【図16】EGR流量センサの汚損診断のタイミングチャート。
【図17】EGR流量センサの汚損診断時の補正演算ルーチンを示すフローチャート。
【図18】EGR流量センサの煤焼き切りの手順を示すブロック図。
【図19】EGR流量センサの起動ディレイのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明によるEGR流量計測装置をディーゼルエンジンに適用した一つの実施形態について説明する。
図1に示されているように、ディーゼルエンジン1(以下、エンジン1と云う)が吸入する空気は、エアクリーナ(図示省略)より取り込まれ、エアフローメータ2によって質量流量を測定され、ターボチャージャ3のコンプレッサ3Aによって過給される。過給された空気はインタークーラ4によって冷却され、スロットル弁5によって流量を計量され、インテークマニホールド6によって各気筒毎に分配され、エンジン1の吸気ポート7より燃焼室8内に吸入される。
【0022】
エンジン1には燃焼室8内に燃料を噴射する燃料噴射弁9が取り付けられている。燃料噴射弁9は、吸入空気量に応じた燃料を燃焼室8内に噴射する。燃焼室8に噴射された燃料は、燃焼室8内の吸入空気との混合気を生成し、燃焼室8内で燃焼する。
【0023】
エンジン1が燃焼室8より排出する既燃焼ガス、つまり排気ガスは、排気ポート10より排気管11へ排出され、ターボチャージャ3のタービン3Bを駆動し、de−NOx触媒、SCR触媒等による排気浄化触媒12、DPF(ディーゼル・パテキュレート・フィルタ)13、排気消音器14を経て大気中に放出される。
【0024】
ターボチャージャ3のタービン3Bより排気ポート10側の排気管11の途中には、EGR取入口15が形成されている。排気管11を流れる排気ガスの一部は、EGR取入口15よりEGR管16を通ってEGR制御弁(EGR弁)17へ流れ、EGR弁17によって流量を定量的に制御され、EGR流量センサ18、EGRクーラ19、EGR管20を経てインテークマニホールド6に形成されたEGR取出口21に至り、EGR取出口21よりインテークマニホールド6内に還流する。
【0025】
エンジン1には、エンジン回転数やクランク角度位置を測定するクランク角センサ23、気筒判別を行うためのカム角センサ24、エンジン1の冷却水温度を測定する水温センサ25が取り付けられている(図2参照)。
【0026】
図2は、エンジン制御装置の一つの実施形態を示している。エンジン制御装置は、電子制御式のものであり、エンジン1のイグニッションスイッチ22よりオン・オフ信号を入力するデジタル入力回路31と、クランク角センサ23、カム角センサ24よりセンサ信号(パルス信号)を入力するパルス信号入力回路32と、エアフローセンサ2、水温センサ25、EGR流量センサ18よりセンサ信号(アナログ信号)を入力するアナログ信号入力回路33と、CPU34、ROM35、RAM36を含むマイクロコンピュータユニット37と、EGR弁17、EGRクーラバイパス弁26、ターボチャージャ3のウェストゲート27へ指令信号を出力するデジタル出力回路38と、燃料噴射弁9へ駆動パルスを出力するタイマ設定出力回路39と、ABS50、GPS51、GST52との通信を行う通信回路40とを有する。
【0027】
マイクロコンピュータユニット37は、入力回路31、32、33に入力したセンセ信号に基づいてエンジン1の運転状態を判断し、運転状態に応じた燃料噴射量を演算して出力回路39にデータを転送する。
【0028】
その他、マイクロコンピュータユニット37は、エンジン1の運転状態に応じたEGR流量制御、EGRクーラ制御、ターボチャージャ3の過給制御のための演算処理を行う。
【0029】
図3は、マイクロコンピュータユニット37による燃料噴射−EGR流量制御装置の実施形態を示している。当該制御装置は、クランク角センサ23が出力するクランク角信号よりエンジン回転数を演算するエンジン回転数演算部51を含む。
【0030】
基本燃料噴射量演算部52は、エアフローメータ2が出力する吸入空気量信号とエンジン回転数演算部51が出力するエンジン回転数信号とを入力し、1回の燃焼行程毎の基本燃料噴射量(Tp)を演算する。燃料噴射制御に関しては、エンジン回転数と基本燃料噴射量に基づいて、基本燃料噴射量に対する空燃比補正項(KMR)をマップ検索あるいは算出することが行われる。
【0031】
目標EGR率演算部53は、エンジン回転数と基本燃料噴射量に基づいて目標EGR率ηをマップ検索あるいは演算によって設定する。
目標EGR流量演算部54は、目標EGR率ηと吸入空気量から、EGR管16、20等によるEGR通路を流れるEGR流量の目標値を演算し、目標EGR流量を算出する。
【0032】
EGR弁開度制御部55は、EGR流量センサ18によって測定されガス流量補正手段である出力特性補正部56によって補正されたEGR流量測定値と目標EGR流量とを比較し、制御偏差がゼロになるように、EGR弁17の弁開度(バルブ通路面積)をフィードバック制御する。
【0033】
なお、エンジン回転数と基本燃料噴射量に基づいて、予め設定した制御弁開度情報をマップ化しておいて、制御弁開度情報をEGR弁17のコントローラに送ってもよい。
【0034】
目標EGR流量は、以下のように求めることができる。
エアフローメータ2によって測定される吸入空気量をQnew、EGR流量をQegrとすると、燃焼室8に入る吸入空気量Qinと燃焼後の排気ガス流量Qexとの関係は、次式(1)により表される。
Qnew+Qegr = Qin=Qex …(1)
Qegr = Qex×η
【0035】
よって、定常状態では、Qex=Qnew/(1−η)となり、EGR流量Qegrは、次式(2)により表される。
Qegr = Qnew×η/(1−η) …(2)
【0036】
定常運転でのEGR流量Qegr(制御目標値)と、EGR流量センサ18の出力信号に基づいて演算されたEGR流量とを比較し、両者が一致するように、EGR弁17の弁開度をフィードバック制御することによって、EGR流量を制御することができる。
【0037】
EGR流量センサ18は、熱線式の流量検出手段であり、図4に示されているように、EGRガスが流れるセンサ通路61内に、流量測定用エレメントである発熱抵抗体62aと、発熱抵抗体62aの上流部あるいは下流部に配置されたガス温度測定エレメントである測温抵抗体62の少なくとも2つの抵抗体が露出しており、コネクタ63より流量に相当する電気信号をECU(マイクロコンピュータ37)へ出力する。
【0038】
なお、EGR流量センサ18にマイクロコンピュータ(マイコン)を装着してEGR流量センサ18をインテリジェンス化し、EGR流量センサ内部のマイコンのA/D入力回路でA/D変換してマイコン内部でEGR流量センサ出力をリニアライズするデータ変換処理を行い、マイコンの通信出力、例えばシリアルポート出力やパラレルポート出力、CAN等でデータを出力することも可能である。
【0039】
図5は、EGR流量センサ18の電気回路を示している。EGR流量センサ18は、電源101に接続され、ガス流量に応じたセンサ信号Voutを出力する。EGR流量センサ18は、発熱抵抗体62a、測温抵抗体62b、抵抗素子63、64、65からなるホイーストンブリッジ回路を含み、ブリッジ中点の電位差がゼロになるように差動増幅器66、トランジスタ67によって発熱抵抗体62aに流れる電流を調整するように構成されている。発熱抵抗体62aの加熱温度が低いと、差動増幅器13の出力が大きくなり、更に加熱するように動作する。この構成により、空気流速によらず発熱抵抗体62aと測温抵抗体62bの温度差が常に一定となるよう発熱抵抗体62aに流れる電流が制御される。
【0040】
例えば、ガス温度を測定する測温抵抗体62bをガス温度測定エレメントの温度を基準として、発熱抵抗体62aにはEGRガス温度以上である約400℃に保つように、センサエレメントとして、ガス温度測定エレメントに対して所定の温度差となるように、制御回路からの電流が流れている。制御回路から流れる電流を増幅器68によって増幅することによりEGR流量に対応したセンサ出力(センサ信号Vout)を得ることができる。
【0041】
EGR流量センサ18に流れるガスは、図6に示されているように、EGR通路内に設けたバイパス通路70に流れるガスである。バイパス通路60は、渦巻状の通路を形成しており、流れ上流側の入口71より入ったガスの流れを回転させ、側面に開口した出口72よりガスが抜ける通路構造になっている。バイパス通路60より上流側には、メッシュ部材73とハニカム部材74とが設けられている。これにより、EGRの流れが整流され、偏流が改善される。
【0042】
バイパス通路70を流れるガス流量Ubは、簡易モデルを用いると、比例係数K、脈動周波数f、バイパス通路70外のメイン通路75の流量をUmとすると、Ub=K×Um/f+(メイン通路圧力損失分)−(バイパス通路抵抗分)で表すことができる。
【0043】
バイパス管の通路抵抗分の詳細は、次式(3)によって表される。
(λ×Ub^2)/(2D) …(3)
【0044】
Dはバイパス通路面積、λはバイパスの流路抵抗係数であり、通路抵抗係数λが流量に比例するとすると、バイパス通路70の通路抵抗分は、バイパス通路内流速のおおよそ3乗に比例(=Ub^3)する。
【0045】
よって、バイパス通路70外の流量(メイン通路ガス流量)Umは、次式(4)によって表される。
Um = {Ub−(メイン通路圧力損失分)+Ub^3}×f/K …(4)
【0046】
近似的に、メイン通路圧力損失分をほぼゼロとすると、バイパス通路ガス流量Ubは、メイン通路ガス流の3乗根に比例する。
【0047】
所定の流量以下の環境、または、バイパス通路70が持つ固有の周波数よりも脈動周波数が高い場合には、バイパス通路70内の流れは、バイパス通路70外(EGR管)の流れに対して1次フィルタとして働き、脈動成分を低減する。また、バイパス通路70外の流量の3乗根に比例する。大流量の環境では、バイパス通路70通路を流れる流速が音速に近づき、バイパス通路70内の流量とバイパス通路70外(EGR通路内)の流量が比例しないことになる。
【0048】
よって、EGR流量センサ18は、所定の流量以下で、かつ所定の脈動周波数以下では、バイパス通路70通路に流れる流量からEGR通路内の流れを求めることができる。実験結果から、バイパス通路70外の流量Umの振幅に対して、バイパス通路70内の流量Ubの振幅は、バイパス通路70外流量Umの3乗根を周波数fで割った値に比例することを確認した。
【0049】
図7は、にEGR流量センサ18の配置位置とセンサ出力との関係を示している。EGRガスは、排気管圧力と吸気管圧力の差に応じて、EGRガス管内を流れる。特に、高圧タイプのEGRガス還流の場合には、排気管圧力は排気ガスの脈動の影響を大きく受けるので、EGR通路内のガス流れには、エンジン回転数に応じた脈動が発生する。また、EGR管の太さは長さに比べて小さいので、EGR管の共鳴周波数に近いときには、脈動がさらに助長される。
【0050】
脈動の影響を抑えるには、なるべくインテークマニホールドに近い位置にEGR流量センサ18を設置してEGR流量を測定することが望ましい。また、EGRクーラ19のバイパス通路弁が、クーラ側に開いていることきは、EGRクーラが流れの整流作用を持っているので、EGRクーラ19の出口付近にEGR流量センサ18を設置して測定することも可能である。また、EGR弁19の下流側ではEGR弁19を起点とするガス流の旋回流が発生する。旋回流がEGR流量センサ18のバイパス通路70を設置した位置まで流れるので、偏流となり、均一な流れを測定できない。旋回流や偏流を改善するため、EGR弁17とEGR流量センサ18の間にメッシュ部材73と目の粗いハニカム部材74を設ける。
【0051】
本実施形態によるEGR流量計測装置の詳細を、図8を参照して説明する。EGR流量計測装置は、EGR流量センサ18と、ガス流量演算部101と、脈動周波数演算部102と、ガス流量補正部103とを含む。
【0052】
ガス流量演算部101は、EGR流量センサ18の出力信号よりEGR通路を流れるガス流量、すなわちEGR流量の所定時間当たりの平均流量Qaveを演算する。
【0053】
脈動周波数演算部102は、エンジン1の回転数に基づいてEGR通路のガス流れに生じる脈動周波数fあるいはそれを代表する値を演算する。
【0054】
ガス流量補正部103は、ガス流量演算部101によって演算されたEGR平均流量Qaveを脈動周波数演算部102によって演算された脈動周波数fに相関する補正値、たとえば、脈動周波数fを基本波として複数の周波数成分を分析し、当該複数の周波数成分に基づく補正値をもってEGR平均流量Qaveの補正演算を行い、実EGR流量Qrealを算出する。
【0055】
ガス流量補正部102は、EGR平均流量Qaveと脈動周波数fに基づいて脈動率Rを演算し、脈動率Rを一つのパラメータとして補正率を設定し、当該補正率を補正値としてEGR平均流量Qaveの補正演算を行って良い。また、EGR制御弁17の弁開度あるいはそれを代表する値をもう一つのパラメータとして補正率を設定し、当該補正率を補正値として当該補正率を補正値としてEGR平均流量Qaveの補正演算を行って良い。
【0056】
前述のバイパス通路70内で計ったEGR流量センサ18の出力信号(センサ信号)の脈動振幅Aと、EGR通路内の脈動振幅Bを同時に測定した結果、バイパス通路70内とEGR通路内の脈動振幅比率A/Bは、次式(5)により表されることが分かった。
A/B = K{(Qave)^N)/f} …(5)
指数Nは、実験から、図9に示されているように、0.35程度で表されることがわかった。
【0057】
よって、バイパス通路70内に設置したEGR流量センサ18の出力信号の脈動振幅Aとセンサ部のEGR平均流量Qaveに基づき、EGR通路内の脈動振幅Bは、次式(6)により求めることができる。
B = A/K{(Qave)^0.35/f} …(6)
【0058】
EGR通路内を流れるガス流(EGRの流れ)の脈動率Rは、次式(7)によって表される。
R = B/Qave
= A/{Qave・K(Qave)^0.35/f} …(7)
【0059】
1爆発毎に流れる単位流量Sは、S=Qave/周波数で求めることができる。
予め測定した単位時間流量Sと脈動率Rにより、実流量との差分QErrorを適合値として求めることによって、補正量=マップ(R,S)となり、実EGR量Qrealは、次式(8)によって求められる。
Qreal = Qave(1−QError) …(8)
【0060】
図10に示すように、EGR流量センサ18の出力信号のサンプリングは1ms毎に行うものとする。脈動が25Hzの場合には40回サンプリングすることになるので、クランク角度で4.5℃A毎にサンプリングすることに相当する。脈動が50Hzの場合には、20回サンプリングであり、9℃Aに相当する。脈動が75Hzでは、13.5℃A、100Hzでは、18℃A相当であり、サンプリング定理の上限(2回)以下であることを確認した。
【0061】
所定のクランク角度(たとえばBTDC78℃A)をサンプリング起点とし、次の気筒のBTDC78℃Aまでの180℃A間を1ms毎に、A/D変換を実行する。180℃A毎にサンプリング回数をチェックし、サンプリング回数に合わせたフーリエ変換係数から、サイン波成分とコサイン波成分用のフーリエ変換係数を選択し、A/D変換結果に乗じて合計値を算出する。
【0062】
フーリエ変換は、図11に示されているように、以下の演算フローで行う。
サイン波成分用フーリエ係数をサンプリング毎に乗じる積和演算を行ってサイン波成分を算出する(ステップS1)。
サイン波成分=Σ{サイン波成分用フーリエ係数(i)×A/D値(i)}/サンプリング数
【0063】
また、コサイン波成分用フーリエ係数をサンプリング毎に乗じる積和演算を行ってコサイン波成分を算出する(ステップS2)。
コサイン波成分=Σ{コサイン成分用フーリエ係数(i)×A/D値(i)}/サンプリング数
【0064】
つぎに、コサイン波成分とサイン波成分をそれぞれ自乗して加算し、平方根をとって振幅値を求める(ステップS3)。
振幅値=√(コサイン成分の2乗+サイン成分の2乗)
この場合、演算時間を考慮して平方根算出にはテーブル変換値を用いてもよい。
【0065】
つぎに、180℃A間のA/D変換の積算を行い(ステップS4)、それをサンプリング数で割り、センサ部での平均流量Qaveを算出する(ステップS5)。
Qave = Σ(A/D値(i))/サンプリング数
【0066】
次に、EGR流の脈動率Rを算出する(ステップS6)。
R = A/{Qave・K(Qegr)^0.35/f}
ここで、(Qave)^0.35は、演算時間を考慮してテーブル変換値を用いてもよい。
【0067】
次に、1爆発行程毎に流れる単位流量Sを算出する(ステップS7)。
S = Qave/周波数=Qave×サンプリング数
【0068】
補正率QErrorは、予めEGR管で測定した実流量とEGR流量センサ信号出力との関係をマップ値として用意しておき、補正率QError=MAP(S,R)として求め(ステップS8)、Qreal=Qave×(1−QError)なる演算によって実EGR流量Qrealを算出する(ステップS9)。
【0069】
図12は、単位流量Sが所定値以下の場合の対応を示している。EGR流量はEGR弁17の通路面積にも依存する。この場合、EGR弁開度より分かるバルブ通路面積とエンジン回転数との適合値から補正量を算出あるいは補正量マップ80より検索し、EGR流量センサ部でのEGR流量平均値Qegrに対して、補正することが可能である。EGR弁17のバルブ通路面積は、EGR弁17のリフト量またはEGR弁の回転角度から算出する。
【0070】
また、EGR流量はインテークマニホールド内の負圧にも依存する。このため、インテークマニホールド内の負圧を発生させるスロットル弁5の開度とエンジン回転数との適合値から補正量を算出して、EGR流量センサ部でのEGR流量平均値に対して補正することも可能である。インテークマニホールド内の負圧またはスロットル開度はスロットル開度センサを用いる。
【0071】
図13に示されているように、低流量域では、ガス流れがゼロであっても逆流が存在し、流れの方向を区別できない双方向流検出センサでは、基準周波数の整数倍の成分が発生する。
【0072】
特に、逆流があると、双方向流検出センサ出力信号は折り返し波形となるので、基本周波数に対して高次の周波数が現われる。高次の周波数が現われているときは、逆流があることを示唆している。
【0073】
さらに、低流量域では平均流量に対して脈動幅が比較的大きい。さらに、EGR流量センサ18は脈動による順流と逆流を区別できないため、脈動率に対して補正率Qerrorにばらつきが大きい。こうした領域では、脈動に伴う最小値が脈動の節点となるで、最小値を実EGR流量Qrealとする。
【0074】
EGR流量センサ出力と目標EGR量とを比較して、比較結果が一致するようにEGR弁17を制御するEGR弁開度制御にフィードバックループを用意してEGR弁17を制御すれば、EGRクーラ19やEGR弁17の表面に煤が付着することによるEGR流路抵抗の増加に伴う流量低下の補正を行うことができる。
【0075】
図14(a)〜(c)にEGR流量センサが汚損した場合の出力例を示す。
高圧タイプのEGRガス還流の場合、排気ガスには煤が多く含まれている。煤は炭素成分だけではなく、未燃焼の燃料成分や不完全燃焼した炭化水素成分も含まれている。こうした煤はEGRガス中にも含まれて、EGR流量センサ18のセンサエレメントやその周囲にも付着する。
【0076】
煤がセンサエレメントに付着すると、EGRガスがセンサエレメントに触れることが少なくなるので、図14(a)に示されているように、EGR流量が実際に流れている量よりも少ない値が出力される。
【0077】
一方、煤がガス温度測定エレメントに付着すると、ガス温度測定エレメントが断熱された形になるので、EGRガス温度の影響を受けにくくなる。このため、特にEGR量が大流量の場合、ガス温度測定エレメントとセンサエレメントの温度差が大きくなり、図14(b)に示されているように、センサ出力は実際に流れている量よりも大きな値が出力される。
【0078】
センサエレメントとガス温度測定エレメントの両方に煤が付着すると、両エレメントが断熱された形となり、図14(c)に示されているように、実際に流れる流量よりも少ない値が出力される。
【0079】
また、煤がエレメントにまだらに付着すると、エレメントの温度分布が不均一となって、煤が付着した部分が特に温度上昇することになり、エレメントの耐久性が劣化するおそれがある。
【0080】
図15は、EGR流量センサ18の汚損による出力低下を推定する診断プログラムのフローチャートである。
回転数と、吸入空気量と回転数から求めた1回毎の燃焼あたりの吸入空気量に基づいて求めた目標EGR流量と、EGR流量センサ出力とを比較して、その差が無くなるようにEGR制御弁を制御するフィードバックループを構成している場合、フィードバック制御量がハンチングして制御量の静定時間が所定時間よりも長い時には、EGR流量センサ18が汚損によって応答性が低下していると判定する(ステップS11〜ステップS14)。
【0081】
運転状態が変化して、例えば加速する場合に、EGR制御弁17を閉じても、EGR流量センサ出力が所定値以上の値を出している場合には、EGR流量センサ18が汚損によって出力のゼロ点がずれていると判定する(ステップS15〜ステップS17)。
【0082】
加速後から定常運転状態に移って、EGR制御弁17を開いてEGRガスを流すときに、EGR流量センサ18の出力が目標EGR量に達しないか、達するまでの時間が長くかかり、EGR制御弁開度が所定値以上に開いている時間が、所定時間以上の場合には、EGR流量センサの汚損によってセンサ出力値が実際に流れている値よりも低い値を出力している汚損劣化判定を行う(ステップS18〜ステップS21)。
【0083】
要約すると、EGR流路を流れるガス流量の計測値、つまり、EGR流量センサ18の出力信号を用いてEGR流路を流れるガス流量をフィードバック制御している場合にフィードバック制御量がハンチングして制御量の静定時間が所定時間よりも長い場合、あるいはEGR停止時にEGR流量センサ18が所定値以上の流量を示す出力信号を出力している場合、あるいはEGR開始後にEGR流量センサ18が所定値以上の流量を示す出力信号を出力していないか所定値以上の流量を示す出力信号を出力までの時間が所定時間より場合の場合には、EGR流量センサ18が汚損されていると診断する。
【0084】
また、一定の運転状態でも、EGR制御弁17の弁開度が所定範囲を超えているときには、EGR流量センサ18の出力信号が実際に流れている流量と異なる値を出力している可能性がある。上記の判定しきい値は、エンジンの動作時間の積算値または車両の走行距離の積算値に応じて変更を加えることができる。
【0085】
図16は、汚損による出力低下を推定するタイミングチャートである。
所定の時間間隔毎に吸入空気量と回転数を入力して目標EGR量を算出する。そして、運転状態が所定の範囲内にあるときに定常運転状態と判断し、診断許可フラグを立てる。
【0086】
例えば、エンジン回転数が所定の上下限内、且つ吸入空気量が所定の上下限内、且つ車速が所定の上下限内、且つアクセルペダル要求値が所定の上下限内、且つエンジン回転数、吸入空気量、車速、アクセルペダル等の値の時間的変化割合が所定値以下である時が所定時間以上継続しているときを定常運転状態とする。
定常運転状態時には、常時、EGR流量センサ18の出力値を取り込み、目標EGR量と比較する。
【0087】
診断許可フラグが立っているとき、以下の診断を行う。
EGR流量センサ18の出力値と目標EGR量との差の絶対値がしきい値以上の場合、診断用カウンタをインクリメントし、OKカウンタをリセットする。そして、診断用カウンタがしきい値を上回ったとき、EGR流量センサの汚損の可能性を示すフラグを立てる。
【0088】
EGR流量センサ18の出力値と目標EGR量との差の絶対値がしきい値を下回ったとき、診断用カウンタをリセットする。同時にOKカウンタをインクリメントする。OKカウンタが所定値以上になったとき、EGR流量センサ18の汚損の可能性を示すフラグをリセットする。
【0089】
汚損診断は、EGR流量センサ18の出力値が目標EGR量と常時かけ離れた値にへばりついている状態を診断できるが、EGR流量センサ18の出力に脈動が重畳している場合には、OKとも汚損状態とも判断できないことになる。
【0090】
この場合、EGR流量センサ18の出力値と目標EGR量との差の絶対値が、所定のしきい値より大きい期間が、所定の時間以内にどれだけあるかをカウントし、所定の割合以上にはずれている場合、汚損または脈動が大きい可能性があることを示すフラグを立てる。しきい値である所定の割合は、EGR流量とEGR弁17の開度の関数、または、予め設定したマップ値とする。
【0091】
また、EGR弁17の開度を変化させてEGR流量センサ18の出力をモニタしてEGR制御弁開度とセンサ出力との関係、例えば比率が所定の範囲内かどうかを判断してもよい。
【0092】
図17にセンサ汚損による補正量の算出結果をエンジン制御へ反映する例を示す。
上記に示したEGR流量センサ汚損の診断結果、または脈動の診断結果等に基づき、EGR流量センサ18の出力に汚損や脈動を示す可能性がある場合(ステップS31)、EGR流量センサ18の出力値に基づいて所定の補正量、または予め設定した別のフェールセーフ値を算出してEGR流量センサ18の出力値に置き換えて使用する(ステップS32〜ステップS36)。
【0093】
センサ汚損または脈動の可能性が無い場合、または、可能性が低いと推定される運転領域においては、EGR流量センサ18の出力値そのものを使う(ステップS37、ステップS36)。
【0094】
または、所定の運転状態における吸入空気量と回転数において、EGR弁17を所定の開度として、予め設定したまたは測定した標準状態でのEGR流量と、EGR流量センサ18の出力値とを比較して、標準状態のEGR流量とEGR流量センサ18の出力値との比率または差分を求めて、補正量として学習することで、他の運転領域へ学習値をEGR流量センサ18の出力値に反映することで、補正が可能である。
【0095】
例えば、比率を補正する場合には、EGR流量センサ18の出力値に補正値を乗算する。または、差分を補正する場合はEGR流量センサ18の出力値に補正値を加算する。この場合、加算した結果が負となる場合は、補正後の値をゼロとする。また、排気ブレーキを使ってエンジン出力をゼロとしている場合、EGR制御弁178を全開とすることで、排気ガスが全てエンジンの吸入側に戻るようにして、EGR流量センサ18の出力値を校正することが可能である。この場合、排気ブレーキを使ってかつ燃料噴射量をゼロとしている間は、エンジンの排気量×回転数に比例した値がEGR管を流れるので、還流率ηを1.0として目標EGR量を計算することが可能である。このときのEGR流量センサ18の出力値と目標EGR量との比率または差分を補正量とすることが可能である。
【0096】
電動過給器を使用している場合には、排気ブレーキをかけた状態のままで、エンジン停止中に電動過給器を回すと、EGRガスは還流率η=1.0のままガスが流れるので、エンジン停止中にも補正量を算出可能である。
【0097】
図18は、EGR流量センサ18の汚損回復について説明する。
煤は、EGR流量センサ18だけでなく、EGRクーラ19やEGR弁17、EGR通路内部にも付着し、新品時に比べて通路断面積を狭くする。この場合、標準の運転状態でのEGR流量が低下するので、EGR流量センサ18の出力値が低下することになる。よって、煤を除去してセンサ出力値が回復することが期待される。
【0098】
例えば、EGR流量センサ18の出力値に対する補正値が所定の範囲外であれば(ステップS41)、EGR流量が大きい運転領域で、排気ガス温度をDPFの煤を焼く温度まで上昇させる(ステップS42)。これにより、DPF内の煤だけでなくEGR通路内部の煤も焼くことができる(ステップS43)。また、煤に帯電させて電気的に煤を集塵することも可能である。
【0099】
EGR流量センサ18の上流側に煤フィルタを設けて、超音波で煤をフィルタにぶつけることで煤がEGR流量センサ18に付着することを防止できる。または、EGR通路内に超音波センサを設けて、超音波センサからEGR管の内面に向かって発する超音波の反射波を測定することで、反射率を測ることで堆積した煤の量を測定することが可能である。堆積した煤の量が所定のしきい値を超えていれば、EGR通路内の煤を焼くような運転状態に移行するか、または、EGR管の交換を運転者に知らせるようにフラグを立てて、運転席のエンジン警告灯に表示する。または、所定の走行距離毎に定期的なEGR管の交換を義務づける。
【0100】
EGR通路内部の表面に煤を分解しやすい触媒を塗布することで、比較的、低い温度で煤を分解するようにしてもよい。また、EGR通路内部の表面にコーティング剤を塗布して、煤の付着を防止するようにしてもよい。
【0101】
EGR流量センサ18に用いる測定エレメントに煤が付着しないように、ガス温度よりも高温にしている。600℃以上に設定することで煤の付着が無いことを確認した。エンジン始動時からEGR流量センサ18に通電すると、測定エレメントが600℃に達するまでは、EGR流量センサ出力信号は異なる値を出力する可能性がある。
【0102】
そこで、所定の温度に達するまでの時間を測定開始のディレイとする。たとえば、センサエレメントの温度とガス温度との温度差が所定の温度となるまでの加熱期間は、センサエレメントの初期温度に依存する。
【0103】
そこで、図19に示すように、ガス温度センサが出力する温度TEGRSTがエンジン1の運転状態に対応した温度に達するまでは、EGR流量センサ18による流量測定を禁止するガス温度対応あるいは経過時間対応のディレイを設ける(ステップS51〜ステップS54)。ディレイ値(しきい値)は、始動時ガス温度センサ値に応じて適正値に設定される(ステップS53)。エンジン始動後、ガス温度TEGRがしきい値以上あるいは経過時間がしきい値以上になれば、EGR流量センサ18による流量測定を許可する(ステップS54、ステップS55)。
【0104】
なお、エンジン始動時からの経過時間に応じて、EGR流量センサ18の出力に対する補正量をテーブル値として用意しておき、始動時からEGR流量センサ18の出力を使用したEGR制御も可能である。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明は、内燃機関制御に関連したものであり、自動車だけでなく船舶用エンジンや建設機用エンジン、半固定発電機用エンジンにも適用可能である。
【符号の説明】
【0106】
1 ディーゼルエンジン
8 燃焼室
9 燃料噴射弁
17 EGR制御弁(EGR弁)
18 EGR流量センサ
53 目標EGR率演算部
54 目標EGR流量演算部
55 EGR弁開度制御部
56 出力特性補正部
70 バイパス通路
101 ガス流量演算部
102 脈動周波数演算部
103 ガス流量補正部
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のEGR流量計測装置に係り、特に、排気ガス内のNOx低減やエンジン出力制御のためにEGR流量を制御する内燃機関のEGR流量を測定するEGR流量計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関(エンジン)の燃費向上のため、ディーゼルエンジンやリーンバーンエンジンが有望とされている。しかし、ディーゼルエンジンやリーンバーンエンジンは排気ガスにNOxを多く含む傾向がある。排気ガスに含まれるNOxを低減するには、燃焼温度を低減することが有効であり、排気ガスの一部を吸気側に戻して燃焼制御を行う排気ガス再循環(EGR)制御が従来より行われている。
【0003】
EGR制御におけるEGR流量(ガス流量)を測定するEGR流量計測装置として、2つの流量センサを用い、2つの流量センサが出力するセンサ信号の差分を計算してEGR流量を算出するものがある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−316709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
EGR流路(EGR配管)は排気通路と吸気通路とを接続したガス流路であり、当該EGR流路の排気ガスは、排気圧力とインテーク(吸気)マニホールド内圧力との差圧に応じて排気側から吸気側へ流れるので、実際にEGR流路を流れる排気ガスの流量(EGR流量)は、排気圧力変動とインテークマニホールド内圧力の変動の影響を受けて変動する。
【0006】
このため、エンジンの各気筒ごとの爆発に伴う排気圧力脈動変化と、吸気弁が開くことによって生じるインテークマニホールド内圧力脈動変動の時間的な位相変化を考慮しない従来方式では、EGR流量を正確に測定することは困難であった。
【0007】
また、EGR流量センサを用いてEGR流路(EGR配管)のEGR流量を測定する場合、EGR流量センサは、EGR流路内において排気ガスに含まれるPM(煤)などの汚損物質を含む雰囲気に曝されるため、汚損物質の付着による経時変化によって正確な流量測定を行えなくなる。
【0008】
このことに対して、EGR流路をバイパスするバイパス通路内にEGR流量センサを取り付け、EGR流量センサに排気ガス中の汚損物質が付着し難くすることが考えられる。バイパス通路は、EGR流路内の排気ガス流れに対して1次遅れ系のフィルタ効果があり、脈動の影響を低減させる効果がある。しかし、脈動が大きくなると、EGR流路内の排気ガスの逆流を判断することが困難になる。
【0009】
本発明は、前記解決しようとする課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、EGR流路を流れる排気ガスの実流量を、排気圧力変動やインテークマニホールド内圧力の変動に拘わらず正確に測定するEGR流量計測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明によるEGR流量計測装置は、内燃機関のEGR流路に取り付けられた流量検出手段と、前記流量検出手段の出力信号に基づいて前記EGR流路を流れるガス流量を演算するガス流量演算手段と、内燃機関の回転数に基づいて前記EGR流路のガス流れに生じる脈動周波数あるいはそれを代表する値を演算する脈動周波数演算手段と、前記ガス流量演算手段によって演算されたガス流量を前記脈動周波数演算手段によって演算された脈動周波数に相関する補正値をもって補正するガス流量補正手段とを有する。
【0011】
本発明によるEGR流量計測装置は、好ましくは、前記ガス流量演算手段が、前記流量検出手段の出力信号に基づいて前記EGR流路を流れるガス流量の所定時間当たりの平均ガス流量を演算する。
【0012】
本発明によるEGR流量計測装置は、好ましくは、前記ガス流量補正手段が、前記脈動周波数演算手段によって演算された脈動周波数を基本波として複数の周波数成分を分析し、当該複数の周波数成分に基づく補正値をもって前記ガス流量演算手段によって演算されたガス流量の補正を行う。
【0013】
本発明によるEGR流量計測装置は、好ましくは、前記ガス流量補正手段が、前記ガス流量演算手段によるガス流量演算結果と前記脈動周波数演算手段による脈動周波数演算結果に基づいて脈動率を演算し、当該脈動率を一つのパラメータとして補正率を設定し、当該補正率を補正値として前記ガス流量演算手段によって演算されたガス流量の補正演算を行う。
【0014】
本発明によるEGR流量計測装置は、好ましくは、ガス流量補正手段が、前記EGR流路に取り付けられて当該EGR流路のガス流量を制御するEGR制御弁の弁開度あるいはそれを代表する値を一つのパラメータとして補正率を設定し、当該補正率を補正値として前記ガス流量演算手段によって演算されたガス流量の補正演算を行う。
【0015】
本発明によるEGR流量計測装置は、好ましくは、内燃機関の始動時からの所定時間が経過するまで、あるいは排気ガス温度が所定値に達するまでは、EGR流量計測を禁止する。
【0016】
本発明によるEGR流量計測装置は、好ましくは、前記流量検出手段が汚損診断された場合には、前記ガス流量演算手段によって演算されたガス流量を所定の補正量あるいは予め設定した別のフェールセーフ値を算出して前記流量検出手段の出力値に置き換えて使用する。
【0017】
本発明によるEGR流量計測装置は、好ましくは、前記EGR流路を流れるガス流量の計測値を用いて前記EGR流路を流れるガス流量をフィードバック制御している場合にフィードバック制御量がハンチングして制御量の静定時間が所定時間よりも長い場合、あるいはEGR停止時に前記流量検出手段が所定値以上の流量を示す出力信号を出力している場合、あるいはEGR開始後に前記流量検出手段が所定値以上の流量を示す出力信号を出力していないか所定値以上の流量を示す出力信号を出力までの時間が所定時間より場合の場合には、前記流量検出手段が汚損されていると診断する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によるEGR流量計測装置によれば、流量検出手段の出力信号に基づいて演算されたガス流量が脈動周波数に相関する補正値をもって補正される。これにより、EGR流路を流れる排気ガスの実流量を、排気圧力変動やインテークマニホールド内圧力の変動に拘わらず正確に測定することができる。
【0019】
EGR流路を流れる排気ガスの実流量を正確に測定できることにより、ディーゼルエンジンやリーンバーンエンジンのEGR率を従来よりも正確に制御でき、排気ガスレベル低減を図る効果が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明によるEGR流量計測装置を適用されるディーゼルエンジンの全体構成図。
【図2】エンジン制御装置の概略構成図。
【図3】燃料噴射−EGR流量制御装置の概略構成図。
【図4】EGR流量センサの構成図。
【図5】EGR流量センサの電気制御回路図。
【図6】EGR流量センサの取付構造を示す説明図。
【図7】EGR流量センサの取付位置とセンサ出力との関係を示す説明図。
【図8】本実施形態によるEGR流量計測装置の詳細を示すブロック図。
【図9】バイパス通路内センサ部信号振幅とEGR通路信号振幅とり関係を示す説明図。
【図10】EGR流量センサ信号出力のサンプリング説明図。
【図11】本実施形態によるEGR流量計測装置によるEGR流量計算のフロー図。
【図12】低流領域でのEGR量補正のブロック図。
【図13】EGR流量センサによる逆流検出と脈動の周波数成分を示す説明図。
【図14】(a)〜(c)はEGR流量センサの汚損の出力特性を示すグラフ。
【図15】EGR流量センサの汚損診断ルーチンを示すフローチャート。
【図16】EGR流量センサの汚損診断のタイミングチャート。
【図17】EGR流量センサの汚損診断時の補正演算ルーチンを示すフローチャート。
【図18】EGR流量センサの煤焼き切りの手順を示すブロック図。
【図19】EGR流量センサの起動ディレイのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明によるEGR流量計測装置をディーゼルエンジンに適用した一つの実施形態について説明する。
図1に示されているように、ディーゼルエンジン1(以下、エンジン1と云う)が吸入する空気は、エアクリーナ(図示省略)より取り込まれ、エアフローメータ2によって質量流量を測定され、ターボチャージャ3のコンプレッサ3Aによって過給される。過給された空気はインタークーラ4によって冷却され、スロットル弁5によって流量を計量され、インテークマニホールド6によって各気筒毎に分配され、エンジン1の吸気ポート7より燃焼室8内に吸入される。
【0022】
エンジン1には燃焼室8内に燃料を噴射する燃料噴射弁9が取り付けられている。燃料噴射弁9は、吸入空気量に応じた燃料を燃焼室8内に噴射する。燃焼室8に噴射された燃料は、燃焼室8内の吸入空気との混合気を生成し、燃焼室8内で燃焼する。
【0023】
エンジン1が燃焼室8より排出する既燃焼ガス、つまり排気ガスは、排気ポート10より排気管11へ排出され、ターボチャージャ3のタービン3Bを駆動し、de−NOx触媒、SCR触媒等による排気浄化触媒12、DPF(ディーゼル・パテキュレート・フィルタ)13、排気消音器14を経て大気中に放出される。
【0024】
ターボチャージャ3のタービン3Bより排気ポート10側の排気管11の途中には、EGR取入口15が形成されている。排気管11を流れる排気ガスの一部は、EGR取入口15よりEGR管16を通ってEGR制御弁(EGR弁)17へ流れ、EGR弁17によって流量を定量的に制御され、EGR流量センサ18、EGRクーラ19、EGR管20を経てインテークマニホールド6に形成されたEGR取出口21に至り、EGR取出口21よりインテークマニホールド6内に還流する。
【0025】
エンジン1には、エンジン回転数やクランク角度位置を測定するクランク角センサ23、気筒判別を行うためのカム角センサ24、エンジン1の冷却水温度を測定する水温センサ25が取り付けられている(図2参照)。
【0026】
図2は、エンジン制御装置の一つの実施形態を示している。エンジン制御装置は、電子制御式のものであり、エンジン1のイグニッションスイッチ22よりオン・オフ信号を入力するデジタル入力回路31と、クランク角センサ23、カム角センサ24よりセンサ信号(パルス信号)を入力するパルス信号入力回路32と、エアフローセンサ2、水温センサ25、EGR流量センサ18よりセンサ信号(アナログ信号)を入力するアナログ信号入力回路33と、CPU34、ROM35、RAM36を含むマイクロコンピュータユニット37と、EGR弁17、EGRクーラバイパス弁26、ターボチャージャ3のウェストゲート27へ指令信号を出力するデジタル出力回路38と、燃料噴射弁9へ駆動パルスを出力するタイマ設定出力回路39と、ABS50、GPS51、GST52との通信を行う通信回路40とを有する。
【0027】
マイクロコンピュータユニット37は、入力回路31、32、33に入力したセンセ信号に基づいてエンジン1の運転状態を判断し、運転状態に応じた燃料噴射量を演算して出力回路39にデータを転送する。
【0028】
その他、マイクロコンピュータユニット37は、エンジン1の運転状態に応じたEGR流量制御、EGRクーラ制御、ターボチャージャ3の過給制御のための演算処理を行う。
【0029】
図3は、マイクロコンピュータユニット37による燃料噴射−EGR流量制御装置の実施形態を示している。当該制御装置は、クランク角センサ23が出力するクランク角信号よりエンジン回転数を演算するエンジン回転数演算部51を含む。
【0030】
基本燃料噴射量演算部52は、エアフローメータ2が出力する吸入空気量信号とエンジン回転数演算部51が出力するエンジン回転数信号とを入力し、1回の燃焼行程毎の基本燃料噴射量(Tp)を演算する。燃料噴射制御に関しては、エンジン回転数と基本燃料噴射量に基づいて、基本燃料噴射量に対する空燃比補正項(KMR)をマップ検索あるいは算出することが行われる。
【0031】
目標EGR率演算部53は、エンジン回転数と基本燃料噴射量に基づいて目標EGR率ηをマップ検索あるいは演算によって設定する。
目標EGR流量演算部54は、目標EGR率ηと吸入空気量から、EGR管16、20等によるEGR通路を流れるEGR流量の目標値を演算し、目標EGR流量を算出する。
【0032】
EGR弁開度制御部55は、EGR流量センサ18によって測定されガス流量補正手段である出力特性補正部56によって補正されたEGR流量測定値と目標EGR流量とを比較し、制御偏差がゼロになるように、EGR弁17の弁開度(バルブ通路面積)をフィードバック制御する。
【0033】
なお、エンジン回転数と基本燃料噴射量に基づいて、予め設定した制御弁開度情報をマップ化しておいて、制御弁開度情報をEGR弁17のコントローラに送ってもよい。
【0034】
目標EGR流量は、以下のように求めることができる。
エアフローメータ2によって測定される吸入空気量をQnew、EGR流量をQegrとすると、燃焼室8に入る吸入空気量Qinと燃焼後の排気ガス流量Qexとの関係は、次式(1)により表される。
Qnew+Qegr = Qin=Qex …(1)
Qegr = Qex×η
【0035】
よって、定常状態では、Qex=Qnew/(1−η)となり、EGR流量Qegrは、次式(2)により表される。
Qegr = Qnew×η/(1−η) …(2)
【0036】
定常運転でのEGR流量Qegr(制御目標値)と、EGR流量センサ18の出力信号に基づいて演算されたEGR流量とを比較し、両者が一致するように、EGR弁17の弁開度をフィードバック制御することによって、EGR流量を制御することができる。
【0037】
EGR流量センサ18は、熱線式の流量検出手段であり、図4に示されているように、EGRガスが流れるセンサ通路61内に、流量測定用エレメントである発熱抵抗体62aと、発熱抵抗体62aの上流部あるいは下流部に配置されたガス温度測定エレメントである測温抵抗体62の少なくとも2つの抵抗体が露出しており、コネクタ63より流量に相当する電気信号をECU(マイクロコンピュータ37)へ出力する。
【0038】
なお、EGR流量センサ18にマイクロコンピュータ(マイコン)を装着してEGR流量センサ18をインテリジェンス化し、EGR流量センサ内部のマイコンのA/D入力回路でA/D変換してマイコン内部でEGR流量センサ出力をリニアライズするデータ変換処理を行い、マイコンの通信出力、例えばシリアルポート出力やパラレルポート出力、CAN等でデータを出力することも可能である。
【0039】
図5は、EGR流量センサ18の電気回路を示している。EGR流量センサ18は、電源101に接続され、ガス流量に応じたセンサ信号Voutを出力する。EGR流量センサ18は、発熱抵抗体62a、測温抵抗体62b、抵抗素子63、64、65からなるホイーストンブリッジ回路を含み、ブリッジ中点の電位差がゼロになるように差動増幅器66、トランジスタ67によって発熱抵抗体62aに流れる電流を調整するように構成されている。発熱抵抗体62aの加熱温度が低いと、差動増幅器13の出力が大きくなり、更に加熱するように動作する。この構成により、空気流速によらず発熱抵抗体62aと測温抵抗体62bの温度差が常に一定となるよう発熱抵抗体62aに流れる電流が制御される。
【0040】
例えば、ガス温度を測定する測温抵抗体62bをガス温度測定エレメントの温度を基準として、発熱抵抗体62aにはEGRガス温度以上である約400℃に保つように、センサエレメントとして、ガス温度測定エレメントに対して所定の温度差となるように、制御回路からの電流が流れている。制御回路から流れる電流を増幅器68によって増幅することによりEGR流量に対応したセンサ出力(センサ信号Vout)を得ることができる。
【0041】
EGR流量センサ18に流れるガスは、図6に示されているように、EGR通路内に設けたバイパス通路70に流れるガスである。バイパス通路60は、渦巻状の通路を形成しており、流れ上流側の入口71より入ったガスの流れを回転させ、側面に開口した出口72よりガスが抜ける通路構造になっている。バイパス通路60より上流側には、メッシュ部材73とハニカム部材74とが設けられている。これにより、EGRの流れが整流され、偏流が改善される。
【0042】
バイパス通路70を流れるガス流量Ubは、簡易モデルを用いると、比例係数K、脈動周波数f、バイパス通路70外のメイン通路75の流量をUmとすると、Ub=K×Um/f+(メイン通路圧力損失分)−(バイパス通路抵抗分)で表すことができる。
【0043】
バイパス管の通路抵抗分の詳細は、次式(3)によって表される。
(λ×Ub^2)/(2D) …(3)
【0044】
Dはバイパス通路面積、λはバイパスの流路抵抗係数であり、通路抵抗係数λが流量に比例するとすると、バイパス通路70の通路抵抗分は、バイパス通路内流速のおおよそ3乗に比例(=Ub^3)する。
【0045】
よって、バイパス通路70外の流量(メイン通路ガス流量)Umは、次式(4)によって表される。
Um = {Ub−(メイン通路圧力損失分)+Ub^3}×f/K …(4)
【0046】
近似的に、メイン通路圧力損失分をほぼゼロとすると、バイパス通路ガス流量Ubは、メイン通路ガス流の3乗根に比例する。
【0047】
所定の流量以下の環境、または、バイパス通路70が持つ固有の周波数よりも脈動周波数が高い場合には、バイパス通路70内の流れは、バイパス通路70外(EGR管)の流れに対して1次フィルタとして働き、脈動成分を低減する。また、バイパス通路70外の流量の3乗根に比例する。大流量の環境では、バイパス通路70通路を流れる流速が音速に近づき、バイパス通路70内の流量とバイパス通路70外(EGR通路内)の流量が比例しないことになる。
【0048】
よって、EGR流量センサ18は、所定の流量以下で、かつ所定の脈動周波数以下では、バイパス通路70通路に流れる流量からEGR通路内の流れを求めることができる。実験結果から、バイパス通路70外の流量Umの振幅に対して、バイパス通路70内の流量Ubの振幅は、バイパス通路70外流量Umの3乗根を周波数fで割った値に比例することを確認した。
【0049】
図7は、にEGR流量センサ18の配置位置とセンサ出力との関係を示している。EGRガスは、排気管圧力と吸気管圧力の差に応じて、EGRガス管内を流れる。特に、高圧タイプのEGRガス還流の場合には、排気管圧力は排気ガスの脈動の影響を大きく受けるので、EGR通路内のガス流れには、エンジン回転数に応じた脈動が発生する。また、EGR管の太さは長さに比べて小さいので、EGR管の共鳴周波数に近いときには、脈動がさらに助長される。
【0050】
脈動の影響を抑えるには、なるべくインテークマニホールドに近い位置にEGR流量センサ18を設置してEGR流量を測定することが望ましい。また、EGRクーラ19のバイパス通路弁が、クーラ側に開いていることきは、EGRクーラが流れの整流作用を持っているので、EGRクーラ19の出口付近にEGR流量センサ18を設置して測定することも可能である。また、EGR弁19の下流側ではEGR弁19を起点とするガス流の旋回流が発生する。旋回流がEGR流量センサ18のバイパス通路70を設置した位置まで流れるので、偏流となり、均一な流れを測定できない。旋回流や偏流を改善するため、EGR弁17とEGR流量センサ18の間にメッシュ部材73と目の粗いハニカム部材74を設ける。
【0051】
本実施形態によるEGR流量計測装置の詳細を、図8を参照して説明する。EGR流量計測装置は、EGR流量センサ18と、ガス流量演算部101と、脈動周波数演算部102と、ガス流量補正部103とを含む。
【0052】
ガス流量演算部101は、EGR流量センサ18の出力信号よりEGR通路を流れるガス流量、すなわちEGR流量の所定時間当たりの平均流量Qaveを演算する。
【0053】
脈動周波数演算部102は、エンジン1の回転数に基づいてEGR通路のガス流れに生じる脈動周波数fあるいはそれを代表する値を演算する。
【0054】
ガス流量補正部103は、ガス流量演算部101によって演算されたEGR平均流量Qaveを脈動周波数演算部102によって演算された脈動周波数fに相関する補正値、たとえば、脈動周波数fを基本波として複数の周波数成分を分析し、当該複数の周波数成分に基づく補正値をもってEGR平均流量Qaveの補正演算を行い、実EGR流量Qrealを算出する。
【0055】
ガス流量補正部102は、EGR平均流量Qaveと脈動周波数fに基づいて脈動率Rを演算し、脈動率Rを一つのパラメータとして補正率を設定し、当該補正率を補正値としてEGR平均流量Qaveの補正演算を行って良い。また、EGR制御弁17の弁開度あるいはそれを代表する値をもう一つのパラメータとして補正率を設定し、当該補正率を補正値として当該補正率を補正値としてEGR平均流量Qaveの補正演算を行って良い。
【0056】
前述のバイパス通路70内で計ったEGR流量センサ18の出力信号(センサ信号)の脈動振幅Aと、EGR通路内の脈動振幅Bを同時に測定した結果、バイパス通路70内とEGR通路内の脈動振幅比率A/Bは、次式(5)により表されることが分かった。
A/B = K{(Qave)^N)/f} …(5)
指数Nは、実験から、図9に示されているように、0.35程度で表されることがわかった。
【0057】
よって、バイパス通路70内に設置したEGR流量センサ18の出力信号の脈動振幅Aとセンサ部のEGR平均流量Qaveに基づき、EGR通路内の脈動振幅Bは、次式(6)により求めることができる。
B = A/K{(Qave)^0.35/f} …(6)
【0058】
EGR通路内を流れるガス流(EGRの流れ)の脈動率Rは、次式(7)によって表される。
R = B/Qave
= A/{Qave・K(Qave)^0.35/f} …(7)
【0059】
1爆発毎に流れる単位流量Sは、S=Qave/周波数で求めることができる。
予め測定した単位時間流量Sと脈動率Rにより、実流量との差分QErrorを適合値として求めることによって、補正量=マップ(R,S)となり、実EGR量Qrealは、次式(8)によって求められる。
Qreal = Qave(1−QError) …(8)
【0060】
図10に示すように、EGR流量センサ18の出力信号のサンプリングは1ms毎に行うものとする。脈動が25Hzの場合には40回サンプリングすることになるので、クランク角度で4.5℃A毎にサンプリングすることに相当する。脈動が50Hzの場合には、20回サンプリングであり、9℃Aに相当する。脈動が75Hzでは、13.5℃A、100Hzでは、18℃A相当であり、サンプリング定理の上限(2回)以下であることを確認した。
【0061】
所定のクランク角度(たとえばBTDC78℃A)をサンプリング起点とし、次の気筒のBTDC78℃Aまでの180℃A間を1ms毎に、A/D変換を実行する。180℃A毎にサンプリング回数をチェックし、サンプリング回数に合わせたフーリエ変換係数から、サイン波成分とコサイン波成分用のフーリエ変換係数を選択し、A/D変換結果に乗じて合計値を算出する。
【0062】
フーリエ変換は、図11に示されているように、以下の演算フローで行う。
サイン波成分用フーリエ係数をサンプリング毎に乗じる積和演算を行ってサイン波成分を算出する(ステップS1)。
サイン波成分=Σ{サイン波成分用フーリエ係数(i)×A/D値(i)}/サンプリング数
【0063】
また、コサイン波成分用フーリエ係数をサンプリング毎に乗じる積和演算を行ってコサイン波成分を算出する(ステップS2)。
コサイン波成分=Σ{コサイン成分用フーリエ係数(i)×A/D値(i)}/サンプリング数
【0064】
つぎに、コサイン波成分とサイン波成分をそれぞれ自乗して加算し、平方根をとって振幅値を求める(ステップS3)。
振幅値=√(コサイン成分の2乗+サイン成分の2乗)
この場合、演算時間を考慮して平方根算出にはテーブル変換値を用いてもよい。
【0065】
つぎに、180℃A間のA/D変換の積算を行い(ステップS4)、それをサンプリング数で割り、センサ部での平均流量Qaveを算出する(ステップS5)。
Qave = Σ(A/D値(i))/サンプリング数
【0066】
次に、EGR流の脈動率Rを算出する(ステップS6)。
R = A/{Qave・K(Qegr)^0.35/f}
ここで、(Qave)^0.35は、演算時間を考慮してテーブル変換値を用いてもよい。
【0067】
次に、1爆発行程毎に流れる単位流量Sを算出する(ステップS7)。
S = Qave/周波数=Qave×サンプリング数
【0068】
補正率QErrorは、予めEGR管で測定した実流量とEGR流量センサ信号出力との関係をマップ値として用意しておき、補正率QError=MAP(S,R)として求め(ステップS8)、Qreal=Qave×(1−QError)なる演算によって実EGR流量Qrealを算出する(ステップS9)。
【0069】
図12は、単位流量Sが所定値以下の場合の対応を示している。EGR流量はEGR弁17の通路面積にも依存する。この場合、EGR弁開度より分かるバルブ通路面積とエンジン回転数との適合値から補正量を算出あるいは補正量マップ80より検索し、EGR流量センサ部でのEGR流量平均値Qegrに対して、補正することが可能である。EGR弁17のバルブ通路面積は、EGR弁17のリフト量またはEGR弁の回転角度から算出する。
【0070】
また、EGR流量はインテークマニホールド内の負圧にも依存する。このため、インテークマニホールド内の負圧を発生させるスロットル弁5の開度とエンジン回転数との適合値から補正量を算出して、EGR流量センサ部でのEGR流量平均値に対して補正することも可能である。インテークマニホールド内の負圧またはスロットル開度はスロットル開度センサを用いる。
【0071】
図13に示されているように、低流量域では、ガス流れがゼロであっても逆流が存在し、流れの方向を区別できない双方向流検出センサでは、基準周波数の整数倍の成分が発生する。
【0072】
特に、逆流があると、双方向流検出センサ出力信号は折り返し波形となるので、基本周波数に対して高次の周波数が現われる。高次の周波数が現われているときは、逆流があることを示唆している。
【0073】
さらに、低流量域では平均流量に対して脈動幅が比較的大きい。さらに、EGR流量センサ18は脈動による順流と逆流を区別できないため、脈動率に対して補正率Qerrorにばらつきが大きい。こうした領域では、脈動に伴う最小値が脈動の節点となるで、最小値を実EGR流量Qrealとする。
【0074】
EGR流量センサ出力と目標EGR量とを比較して、比較結果が一致するようにEGR弁17を制御するEGR弁開度制御にフィードバックループを用意してEGR弁17を制御すれば、EGRクーラ19やEGR弁17の表面に煤が付着することによるEGR流路抵抗の増加に伴う流量低下の補正を行うことができる。
【0075】
図14(a)〜(c)にEGR流量センサが汚損した場合の出力例を示す。
高圧タイプのEGRガス還流の場合、排気ガスには煤が多く含まれている。煤は炭素成分だけではなく、未燃焼の燃料成分や不完全燃焼した炭化水素成分も含まれている。こうした煤はEGRガス中にも含まれて、EGR流量センサ18のセンサエレメントやその周囲にも付着する。
【0076】
煤がセンサエレメントに付着すると、EGRガスがセンサエレメントに触れることが少なくなるので、図14(a)に示されているように、EGR流量が実際に流れている量よりも少ない値が出力される。
【0077】
一方、煤がガス温度測定エレメントに付着すると、ガス温度測定エレメントが断熱された形になるので、EGRガス温度の影響を受けにくくなる。このため、特にEGR量が大流量の場合、ガス温度測定エレメントとセンサエレメントの温度差が大きくなり、図14(b)に示されているように、センサ出力は実際に流れている量よりも大きな値が出力される。
【0078】
センサエレメントとガス温度測定エレメントの両方に煤が付着すると、両エレメントが断熱された形となり、図14(c)に示されているように、実際に流れる流量よりも少ない値が出力される。
【0079】
また、煤がエレメントにまだらに付着すると、エレメントの温度分布が不均一となって、煤が付着した部分が特に温度上昇することになり、エレメントの耐久性が劣化するおそれがある。
【0080】
図15は、EGR流量センサ18の汚損による出力低下を推定する診断プログラムのフローチャートである。
回転数と、吸入空気量と回転数から求めた1回毎の燃焼あたりの吸入空気量に基づいて求めた目標EGR流量と、EGR流量センサ出力とを比較して、その差が無くなるようにEGR制御弁を制御するフィードバックループを構成している場合、フィードバック制御量がハンチングして制御量の静定時間が所定時間よりも長い時には、EGR流量センサ18が汚損によって応答性が低下していると判定する(ステップS11〜ステップS14)。
【0081】
運転状態が変化して、例えば加速する場合に、EGR制御弁17を閉じても、EGR流量センサ出力が所定値以上の値を出している場合には、EGR流量センサ18が汚損によって出力のゼロ点がずれていると判定する(ステップS15〜ステップS17)。
【0082】
加速後から定常運転状態に移って、EGR制御弁17を開いてEGRガスを流すときに、EGR流量センサ18の出力が目標EGR量に達しないか、達するまでの時間が長くかかり、EGR制御弁開度が所定値以上に開いている時間が、所定時間以上の場合には、EGR流量センサの汚損によってセンサ出力値が実際に流れている値よりも低い値を出力している汚損劣化判定を行う(ステップS18〜ステップS21)。
【0083】
要約すると、EGR流路を流れるガス流量の計測値、つまり、EGR流量センサ18の出力信号を用いてEGR流路を流れるガス流量をフィードバック制御している場合にフィードバック制御量がハンチングして制御量の静定時間が所定時間よりも長い場合、あるいはEGR停止時にEGR流量センサ18が所定値以上の流量を示す出力信号を出力している場合、あるいはEGR開始後にEGR流量センサ18が所定値以上の流量を示す出力信号を出力していないか所定値以上の流量を示す出力信号を出力までの時間が所定時間より場合の場合には、EGR流量センサ18が汚損されていると診断する。
【0084】
また、一定の運転状態でも、EGR制御弁17の弁開度が所定範囲を超えているときには、EGR流量センサ18の出力信号が実際に流れている流量と異なる値を出力している可能性がある。上記の判定しきい値は、エンジンの動作時間の積算値または車両の走行距離の積算値に応じて変更を加えることができる。
【0085】
図16は、汚損による出力低下を推定するタイミングチャートである。
所定の時間間隔毎に吸入空気量と回転数を入力して目標EGR量を算出する。そして、運転状態が所定の範囲内にあるときに定常運転状態と判断し、診断許可フラグを立てる。
【0086】
例えば、エンジン回転数が所定の上下限内、且つ吸入空気量が所定の上下限内、且つ車速が所定の上下限内、且つアクセルペダル要求値が所定の上下限内、且つエンジン回転数、吸入空気量、車速、アクセルペダル等の値の時間的変化割合が所定値以下である時が所定時間以上継続しているときを定常運転状態とする。
定常運転状態時には、常時、EGR流量センサ18の出力値を取り込み、目標EGR量と比較する。
【0087】
診断許可フラグが立っているとき、以下の診断を行う。
EGR流量センサ18の出力値と目標EGR量との差の絶対値がしきい値以上の場合、診断用カウンタをインクリメントし、OKカウンタをリセットする。そして、診断用カウンタがしきい値を上回ったとき、EGR流量センサの汚損の可能性を示すフラグを立てる。
【0088】
EGR流量センサ18の出力値と目標EGR量との差の絶対値がしきい値を下回ったとき、診断用カウンタをリセットする。同時にOKカウンタをインクリメントする。OKカウンタが所定値以上になったとき、EGR流量センサ18の汚損の可能性を示すフラグをリセットする。
【0089】
汚損診断は、EGR流量センサ18の出力値が目標EGR量と常時かけ離れた値にへばりついている状態を診断できるが、EGR流量センサ18の出力に脈動が重畳している場合には、OKとも汚損状態とも判断できないことになる。
【0090】
この場合、EGR流量センサ18の出力値と目標EGR量との差の絶対値が、所定のしきい値より大きい期間が、所定の時間以内にどれだけあるかをカウントし、所定の割合以上にはずれている場合、汚損または脈動が大きい可能性があることを示すフラグを立てる。しきい値である所定の割合は、EGR流量とEGR弁17の開度の関数、または、予め設定したマップ値とする。
【0091】
また、EGR弁17の開度を変化させてEGR流量センサ18の出力をモニタしてEGR制御弁開度とセンサ出力との関係、例えば比率が所定の範囲内かどうかを判断してもよい。
【0092】
図17にセンサ汚損による補正量の算出結果をエンジン制御へ反映する例を示す。
上記に示したEGR流量センサ汚損の診断結果、または脈動の診断結果等に基づき、EGR流量センサ18の出力に汚損や脈動を示す可能性がある場合(ステップS31)、EGR流量センサ18の出力値に基づいて所定の補正量、または予め設定した別のフェールセーフ値を算出してEGR流量センサ18の出力値に置き換えて使用する(ステップS32〜ステップS36)。
【0093】
センサ汚損または脈動の可能性が無い場合、または、可能性が低いと推定される運転領域においては、EGR流量センサ18の出力値そのものを使う(ステップS37、ステップS36)。
【0094】
または、所定の運転状態における吸入空気量と回転数において、EGR弁17を所定の開度として、予め設定したまたは測定した標準状態でのEGR流量と、EGR流量センサ18の出力値とを比較して、標準状態のEGR流量とEGR流量センサ18の出力値との比率または差分を求めて、補正量として学習することで、他の運転領域へ学習値をEGR流量センサ18の出力値に反映することで、補正が可能である。
【0095】
例えば、比率を補正する場合には、EGR流量センサ18の出力値に補正値を乗算する。または、差分を補正する場合はEGR流量センサ18の出力値に補正値を加算する。この場合、加算した結果が負となる場合は、補正後の値をゼロとする。また、排気ブレーキを使ってエンジン出力をゼロとしている場合、EGR制御弁178を全開とすることで、排気ガスが全てエンジンの吸入側に戻るようにして、EGR流量センサ18の出力値を校正することが可能である。この場合、排気ブレーキを使ってかつ燃料噴射量をゼロとしている間は、エンジンの排気量×回転数に比例した値がEGR管を流れるので、還流率ηを1.0として目標EGR量を計算することが可能である。このときのEGR流量センサ18の出力値と目標EGR量との比率または差分を補正量とすることが可能である。
【0096】
電動過給器を使用している場合には、排気ブレーキをかけた状態のままで、エンジン停止中に電動過給器を回すと、EGRガスは還流率η=1.0のままガスが流れるので、エンジン停止中にも補正量を算出可能である。
【0097】
図18は、EGR流量センサ18の汚損回復について説明する。
煤は、EGR流量センサ18だけでなく、EGRクーラ19やEGR弁17、EGR通路内部にも付着し、新品時に比べて通路断面積を狭くする。この場合、標準の運転状態でのEGR流量が低下するので、EGR流量センサ18の出力値が低下することになる。よって、煤を除去してセンサ出力値が回復することが期待される。
【0098】
例えば、EGR流量センサ18の出力値に対する補正値が所定の範囲外であれば(ステップS41)、EGR流量が大きい運転領域で、排気ガス温度をDPFの煤を焼く温度まで上昇させる(ステップS42)。これにより、DPF内の煤だけでなくEGR通路内部の煤も焼くことができる(ステップS43)。また、煤に帯電させて電気的に煤を集塵することも可能である。
【0099】
EGR流量センサ18の上流側に煤フィルタを設けて、超音波で煤をフィルタにぶつけることで煤がEGR流量センサ18に付着することを防止できる。または、EGR通路内に超音波センサを設けて、超音波センサからEGR管の内面に向かって発する超音波の反射波を測定することで、反射率を測ることで堆積した煤の量を測定することが可能である。堆積した煤の量が所定のしきい値を超えていれば、EGR通路内の煤を焼くような運転状態に移行するか、または、EGR管の交換を運転者に知らせるようにフラグを立てて、運転席のエンジン警告灯に表示する。または、所定の走行距離毎に定期的なEGR管の交換を義務づける。
【0100】
EGR通路内部の表面に煤を分解しやすい触媒を塗布することで、比較的、低い温度で煤を分解するようにしてもよい。また、EGR通路内部の表面にコーティング剤を塗布して、煤の付着を防止するようにしてもよい。
【0101】
EGR流量センサ18に用いる測定エレメントに煤が付着しないように、ガス温度よりも高温にしている。600℃以上に設定することで煤の付着が無いことを確認した。エンジン始動時からEGR流量センサ18に通電すると、測定エレメントが600℃に達するまでは、EGR流量センサ出力信号は異なる値を出力する可能性がある。
【0102】
そこで、所定の温度に達するまでの時間を測定開始のディレイとする。たとえば、センサエレメントの温度とガス温度との温度差が所定の温度となるまでの加熱期間は、センサエレメントの初期温度に依存する。
【0103】
そこで、図19に示すように、ガス温度センサが出力する温度TEGRSTがエンジン1の運転状態に対応した温度に達するまでは、EGR流量センサ18による流量測定を禁止するガス温度対応あるいは経過時間対応のディレイを設ける(ステップS51〜ステップS54)。ディレイ値(しきい値)は、始動時ガス温度センサ値に応じて適正値に設定される(ステップS53)。エンジン始動後、ガス温度TEGRがしきい値以上あるいは経過時間がしきい値以上になれば、EGR流量センサ18による流量測定を許可する(ステップS54、ステップS55)。
【0104】
なお、エンジン始動時からの経過時間に応じて、EGR流量センサ18の出力に対する補正量をテーブル値として用意しておき、始動時からEGR流量センサ18の出力を使用したEGR制御も可能である。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明は、内燃機関制御に関連したものであり、自動車だけでなく船舶用エンジンや建設機用エンジン、半固定発電機用エンジンにも適用可能である。
【符号の説明】
【0106】
1 ディーゼルエンジン
8 燃焼室
9 燃料噴射弁
17 EGR制御弁(EGR弁)
18 EGR流量センサ
53 目標EGR率演算部
54 目標EGR流量演算部
55 EGR弁開度制御部
56 出力特性補正部
70 バイパス通路
101 ガス流量演算部
102 脈動周波数演算部
103 ガス流量補正部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のEGR流路に取り付けられた流量検出手段と、
前記流量検出手段の出力信号に基づいて前記EGR流路を流れるガス流量を演算するガス流量演算手段と、
内燃機関の回転数に基づいて前記EGR流路のガス流れに生じる脈動周波数あるいはそれを代表する値を演算する脈動周波数演算手段と、
前記ガス流量演算手段によって演算されたガス流量を前記脈動周波数演算手段によって演算された脈動周波数に相関する補正値をもって補正するガス流量補正手段と、
を有することを特徴とするEGR流量計測装置。
【請求項2】
前記ガス流量演算手段は、前記流量検出手段の出力信号に基づいて前記EGR流路を流れるガス流量の所定時間当たりの平均ガス流量を演算することを特徴とする請求項1に記載のEGR流量計測装置。
【請求項3】
前記ガス流量補正手段は、前記脈動周波数演算手段によって演算された脈動周波数を基本波として複数の周波数成分を分析し、当該複数の周波数成分に基づく補正値をもって前記ガス流量演算手段によって演算されたガス流量の補正を行う請求項1または2に記載のEGR流量計測装置。
【請求項4】
前記ガス流量補正手段は、前記ガス流量演算手段によるガス流量演算結果と前記脈動周波数演算手段による脈動周波数演算結果に基づいて脈動率を演算し、当該脈動率を一つのパラメータとして補正率を設定し、当該補正率を補正値として前記ガス流量演算手段によって演算されたガス流量の補正演算を行うことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のEGR流量計測装置。
【請求項5】
前記ガス流量補正手段は、前記EGR流路に取り付けられて当該EGR流路のガス流量を制御するEGR制御弁の弁開度あるいはそれを代表する値を一つのパラメータとして補正率を設定し、当該補正率を補正値として前記ガス流量演算手段によって演算されたガス流量の補正演算を行うことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のEGR流量計測装置。
【請求項6】
内燃機関の始動時からの所定時間が経過するまで、あるいは排気ガス温度が所定値に達するまでは、EGR流量計測を禁止することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のEGR流量計測装置。
【請求項7】
前記流量検出手段が汚損診断された場合には、前記ガス流量演算手段によって演算されたガス流量を所定の補正量あるいは予め設定した別のフェールセーフ値を算出して前記流量検出手段の出力値に置き換えて使用することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のEGR流量計測装置。
【請求項8】
前記EGR流路を流れるガス流量の計測値を用いて前記EGR流路を流れるガス流量をフィードバック制御している場合にフィードバック制御量がハンチングして制御量の静定時間が所定時間よりも長い場合、あるいはEGR停止時に前記流量検出手段が所定値以上の流量を示す出力信号を出力している場合、あるいはEGR開始後に前記流量検出手段が所定値以上の流量を示す出力信号を出力していないか所定値以上の流量を示す出力信号を出力までの時間が所定時間より場合の場合には、前記流量検出手段が汚損されていると診断する請求項7に記載のEGR流量計測装置。
【請求項1】
内燃機関のEGR流路に取り付けられた流量検出手段と、
前記流量検出手段の出力信号に基づいて前記EGR流路を流れるガス流量を演算するガス流量演算手段と、
内燃機関の回転数に基づいて前記EGR流路のガス流れに生じる脈動周波数あるいはそれを代表する値を演算する脈動周波数演算手段と、
前記ガス流量演算手段によって演算されたガス流量を前記脈動周波数演算手段によって演算された脈動周波数に相関する補正値をもって補正するガス流量補正手段と、
を有することを特徴とするEGR流量計測装置。
【請求項2】
前記ガス流量演算手段は、前記流量検出手段の出力信号に基づいて前記EGR流路を流れるガス流量の所定時間当たりの平均ガス流量を演算することを特徴とする請求項1に記載のEGR流量計測装置。
【請求項3】
前記ガス流量補正手段は、前記脈動周波数演算手段によって演算された脈動周波数を基本波として複数の周波数成分を分析し、当該複数の周波数成分に基づく補正値をもって前記ガス流量演算手段によって演算されたガス流量の補正を行う請求項1または2に記載のEGR流量計測装置。
【請求項4】
前記ガス流量補正手段は、前記ガス流量演算手段によるガス流量演算結果と前記脈動周波数演算手段による脈動周波数演算結果に基づいて脈動率を演算し、当該脈動率を一つのパラメータとして補正率を設定し、当該補正率を補正値として前記ガス流量演算手段によって演算されたガス流量の補正演算を行うことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のEGR流量計測装置。
【請求項5】
前記ガス流量補正手段は、前記EGR流路に取り付けられて当該EGR流路のガス流量を制御するEGR制御弁の弁開度あるいはそれを代表する値を一つのパラメータとして補正率を設定し、当該補正率を補正値として前記ガス流量演算手段によって演算されたガス流量の補正演算を行うことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のEGR流量計測装置。
【請求項6】
内燃機関の始動時からの所定時間が経過するまで、あるいは排気ガス温度が所定値に達するまでは、EGR流量計測を禁止することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のEGR流量計測装置。
【請求項7】
前記流量検出手段が汚損診断された場合には、前記ガス流量演算手段によって演算されたガス流量を所定の補正量あるいは予め設定した別のフェールセーフ値を算出して前記流量検出手段の出力値に置き換えて使用することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のEGR流量計測装置。
【請求項8】
前記EGR流路を流れるガス流量の計測値を用いて前記EGR流路を流れるガス流量をフィードバック制御している場合にフィードバック制御量がハンチングして制御量の静定時間が所定時間よりも長い場合、あるいはEGR停止時に前記流量検出手段が所定値以上の流量を示す出力信号を出力している場合、あるいはEGR開始後に前記流量検出手段が所定値以上の流量を示す出力信号を出力していないか所定値以上の流量を示す出力信号を出力までの時間が所定時間より場合の場合には、前記流量検出手段が汚損されていると診断する請求項7に記載のEGR流量計測装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
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【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2010−169039(P2010−169039A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−13438(P2009−13438)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
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