説明

内燃機関点火装置

【課題】点火コイル二次巻線に発生する重畳放電エネルギ波形の乱れを抑え、重ね放電型点火装置に期待される本来の性能を発揮させんとする。
【解決手段】容量放電式点火回路4の放電エネルギにより点火コイル7の二次巻線7bに高電圧が生じたときに、点火コイル7に設けられている帰還巻線7cに生じる電圧により自励サイリスタ直列インバータ式点火回路3のトリガ信号生成用コンデンサ3iを充電し、帰還巻線7cの電圧が立ち下がる過程における当該トリガ信号生成用コンデンサ3iからの放電電流により、サイリスタ3cをトリガし、自励サイリスタ直列インバータ式点火回路3を起動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車両に搭載される内燃機関の点火装置に関し、特に容量放電式点火回路の発生する容量放電エネルギに自励サイリスタ直列インバータ式点火回路が時間的に連続して複数発生する容量放電エネルギを重畳する重ね放電型内燃機関点火装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両搭載の内燃機関として、空燃比を極めて薄く設定した、いわゆる希薄燃焼エンジン(リーンバーンエンジン)が採用されている。この種のエンジンは着火効率が余り良くないため、点火装置には高エネルギ型のものが必要になる。そこで従来からも、下記特許文献1に開示されているように、古典的な電流遮断原理により発生する点火コイル二次側出力にDC-DCコンバータの高圧出力を重畳する重ね放電型点火装置が提案されていた。
【0003】
すなわち、点火コイルの一次電流を遮断することでその二次側に発生する数KVの高圧電圧により、点火プラグの放電間隙に放電破壊を起こし、点火コイル二次側から放電電流を流し始めた後に、当該放電状態を維持し得る放電維持電圧値以上の直流電圧(通常は500V程度以上)をDC-DCコンバータによって保ちながら、当該DC-DCコンバータからの出力電流を点火コイル放電電流に加算的に重畳する。事実、このような方式によると、点火プラグに比較的長い時間に亘り大きな放電エネルギを得ることができるため、燃料への着火性が向上し、ひいては燃費も向上する。
【0004】
しかし、内燃機関の各気筒燃焼室内での燃焼は、点火プラグに放電火花が飛んだときから初期燃焼、中期燃焼、主燃焼へと順次移行するが、中期燃焼に移行すると火炎伝播により燃焼室内で急激な気流の変化が起こり、DC-DCコンバータによって重ね放電電流を供給しているにもかかわらず、点火プラグの放電電極の間隙間にて生じていた放電火花が吹き消される、いわゆる“吹き消え現象”が生ずることがある。このような吹き消え現象が生ずると、放電は予定の持続時間まで延長されることなく、中断され、所期の燃焼エネルギが得られない。
【0005】
そこで、これを解決するために、本出願人の手になる下記特許文献2に開示のように、まずは電流遮断回路よりも初期着火性能に優れる容量放電式点火回路を用い、その容量放電エネルギに対し、さらに重畳するエネルギとして、高速繰り返し放電(複数放電火花の生成)が可能であり、万一“吹き消え現象”が生じたとしても、その後も放電を繰り返すことにより、再放電を可能とする自励サイリスタ直列インバータ式点火回路の発生する容量放電エネルギを用いる提案がなされている。
【0006】
図2には、当該特許文献2に開示の技術に従い構築された内燃機関点火装置の一構成例が示されている。説明すると、まず容量放電式点火回路4においては、車両搭載のバッテリである電源1にて稼働するDC-DCコンバータ2の高圧出力端子2aからダイオード4a、抵抗4bを介して容量放電用のエネルギ蓄積コンデンサ4cが充電される。一方で、抵抗4d、トリガ素子4e、抵抗4fを介する線路がサイリスタ4gのゲートに接続されており、点火時期を報知する適当な回路装置、昨今ではエンジン・コントロール・コンピュータ(ECU)から点火タイミングで発生される点火信号5iに応じてトリガ信号発生部5から出力されるトリガ信号PC2を受けたトリガ素子4eがターンオンすることで、サイリスタ4gにトリガ電流が流される。
【0007】
これによってサイリスタ4gがターンオンすると、エネルギ蓄積コンデンサ4cに充電されていた電荷は、当該サイリスタ4gを介し、点火コイル7の一次巻線7aに対して図示の極性(+),(-)で放電され、もって点火コイル7の二次巻線7bに高電圧が発生し、これに接続された点火プラグの放電間隙Gpに放電火花が生じて、内燃機関内燃料に点火する。
【0008】
一方で、自励サイリスタ直列インバータ式点火回路3は、点火信号5iの発せられる前の段階で、DC-DCコンバータ2の高圧出力端子2bから抵抗3a、抵抗6aを介して起動時専用のトリガ信号生成用のコンデンサ6bを充電している。このコンデンサ6bはトリガ素子6c、抵抗3bを介し、サイリスタ3cのゲートに接続されており、ECUからの点火信号5iに応じてトリガ信号発生部5から出力されたトリガ信号PC1をトリガ素子6cが受けることで、サイリスタ3cに起動時トリガ信号生成用のコンデンサ6bからの放電電流を起動時トリガ信号として流し、当該サイリスタ3cをターンオンさせる。
【0009】
つまり、この従来例の回路構成では、抵抗6a、起動時トリガ信号生成用コンデンサ6b、そしてトリガ素子6cが専用の起動回路6を構成しており、放電開始はこの起動回路6に与えられるトリガ信号PC1により任意の時期に決定できるようになっている。もちろん、自励サイリスタ直列インバータ式点火回路3は自励発振動作をするため、トリガ信号PC1は放電開始時に必要なだけで、後の放電継続には不必要であり、サイリスタ3cをターンオンさせるに必要かつ十分な短時間のパルス状とし、ターンオン以降はオフ状態とする。
【0010】
サイリスタ3cがターンオンし、自励サイリスタ直列インバータ式点火回路3が起動すると、共振インダクタ3d、共振コンデンサ3eの共振により振動電流が生じ、共振コンデンサ充電電流が反転するときにサイリスタ3cの電流が逆方向となることで当該サイリスタ3cがターンオフする。すると、エネルギ蓄積コンデンサでもある共振コンデン3eの充電電荷は点火コイル7のもう一つの一次巻線7dを介して放電され、二次巻線7bに高電圧を発生させて、放電間隙Gpに先の容量放電式点火回路4による放電エネルギに対して重畳的に複数火花となる放電エネルギを与える。
【0011】
このとき、点火コイル7に設けられている帰還巻線7cにも、図示されている極性(+),(-)とは逆の極性の電圧が発生するが、これは抵抗3gを介し、この電圧極性では順方向となるツェナダイオード3fで短絡されることとなるため、サイリスタ3cのゲートには影響が及ばない。
【0012】
次いで、共振コンデンサ(エネルギ蓄積コンデンサ)3eと一次巻線7dとの共振により、共振電流が反転すると、このときにも二次巻線7bには高電圧が発生し、点火プラグの放電間隙Gpに火花放電が起きる。そして、これと同時に、点火コイル7に巻回されている帰還巻線7cにも図示の極性(+),(-)で電圧が発生するため、ダイオード3h、コンデンサ3i、抵抗3gの経路で電流が流れてコンデンサ3iが充電され、やがて帰還巻線7cの電圧が低下して行くと、それまでに蓄積されたコンデンサ3iの充電電荷が抵抗3bを介しサイリスタ3cのゲートに流入し、これをターンオンさせる。すなわち、起動後は、このコンデンサ3iがサイリスタ3cの発振動作継続用トリガ信号生成用コンデンサとなる。以下、上記の共振動作が繰り返され、時系列的に連続する複数火花が放電間隙Gpに得られる。
【0013】
ただし、車両搭載のバッテリによる電源1はもちろん直流なので、何もしなければ自励サイリスタ直列インバータ式点火回路3の発振動作は止まらず、それによる放電は継続する。そこで、これを所定のタイミングで終了させるため、ツェナダイオード3fと並列に停止用スイッチング素子3jが設けられていて、ECUからの停止信号5sを受けたトリガ信号発生部5から発せられる停止信号PC3に応じてこの停止用スイッチング素子3jがターンオンすることにより、帰還巻線7cに発生する電圧をキャンセルし、帰還巻線7cの動作を無効化することで、サイリスタ3cを再ターンオンさせるためのコンデンサ3iの充電が行われないようにし、放電を停止させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平8-68372号公報
【特許文献2】特開2010-151069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述のような容量放電式点火回路4と自励サイリスタ直列インバータ式点火回路3とを用いての重ね放電型点火装置の場合、自励サイリスタ直列インバータ式点火回路3の起動は容量放電式点火回路4による放電開始時と同時であることが原理上は最適である。しかし、ECUからの点火信号5iでこれを厳密に制御するのは極めて困難である。
【0016】
そこで、現状ではECUからの点火信号5iにより容量放電式点火回路4を起動すると同時に、トリガ信号PC1により自励サイリスタ直列インバータ式点火回路3の起動回路6を稼働させ、当該自励サイリスタ直列インバータ式点火回路3を起動しているが、これらの回路3,4間では互いに回路定数(コンデンサ容量,一次巻数インダクタンス等)が異なり、起動時からの波形立ち上がりや振動周波数に相違があるため、各回路3,4から各一次巻線7a,7dに印加される電圧波形は位相整合せず、それらが重なって合成された波形が二次側高電圧波形として二次巻線7bに現れた時、当該二次側高電圧波形には歪が生じ易く、重なり方によっては二次側高圧電圧の立ち上がりが鈍くなる場合や、寧ろ低くなる領域が発生する場合すらあり、放電開始遅れや放電の途切れが発生する可能性が生じることがあった。
【0017】
本発明はこの点に鑑みてなされたもので、点火コイル二次巻線に発生する重畳放電エネルギ波形の乱れを抑え、重ね放電型点火装置に期待される本来の性能を発揮させんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は上記目的を達成するため、新たな発想を得た。それは、図2に示したような従来回路において必要であった自励サイリスタ直列インバータ式点火回路3の起動回路6、すなわち、容量放電式点火回路の稼働タイミングと自励サイリスタ直列インバータ式点火回路の起動タイミングを同時とするための起動回路6を用いずに、容量放電式点火回路の容量放電エネルギに基づいて発生した放電火花がエネルギのピークを越え、ある意味では用を足したタイミングで、自励サイリスタ直列インバータ式点火回路の発生する放電エネルギに基づく放電火花が後を受け継ぐように発生するように図れば、放電火花を生ずる点火コイル二次側高圧電圧波形に乱れを生じさせることが無く、容量放電式点火回路の持つ放電火花の立ち上がりの早さという特徴と、自励サイリスタ直列インバータ式点火回路の持つ、時間的に連続する複数火花により吹き消え現象を克服し、実質的に長い放電時間を得ることができるという特徴を共に十分に発揮させることができる、ということである。
【0019】
このような発想に基づき、本発明は、
点火信号に基づきエネルギ蓄積コンデンサに蓄積されたエネルギを点火コイル一次側に放電する容量放電式点火回路の放電エネルギにより点火コイル二次巻線に点火プラグの放電間隙における放電火花発生用の高電圧を得、さらにサイリスタが一旦トリガされると、停止信号を受けるまで、点火コイルの上記一次側に繰り返し複数火花放電エネルギを発生する自励サイリスタ直列インバータ式点火回路からの当該複数火花放電エネルギによっても、点火コイル二次巻線に点火プラグの放電間隙における複数火花放電用の高電圧を得る重ね放電型の内燃機関点火装置であって;
容量放電式点火回路の放電エネルギにより点火コイルの二次巻線に高電圧が生じたときに、点火コイルに設けられている帰還巻線に生じる電圧により、自励サイリスタ直列インバータ式点火回路のトリガ信号生成用コンデンサを充電し、帰還巻線の電圧が立ち下がる過程における当該トリガ信号生成用コンデンサからの放電電流により、上記のサイリスタをトリガし、自励サイリスタ直列インバータ式点火回路を起動すること;
を特徴とする内燃機関点火装置を提案する。
【0020】
本発明では、以上の構成による結果、容量放電式点火回路の動作に基づいて得られる点火コイル二次巻線の高電圧のピークと、自励サイリスタ直列インバータ式点火回路の動作に基づいて得られる点火コイル二次巻線の高電圧のピークとは重ならず、容量放電式点火回路の動作に基づいて発生した点火コイル二次側高電圧がピークから低下して行くタイミングで自励サイリスタ直列インバータ式点火回路の動作に基づく点火コイル二次側高電圧が起ち上がり、以降、複数火花の発生を継続して行くため、点火コイル一次側において容量放電式点火回路が放電エネルギを与えるための一次巻線の少なくともその一部または全てが、自励サイリスタ直列インバータ式点火回路が複数火花放電エネルギを与えるための一次巻線ともなっているようにし、一次巻線の共用化を図ることもできる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、容量放電式点火回路による点火コイル二次側放電火花の立ち上がりが早く、かつ放電時間が長い着火性の良い点火装置をより安定した性能で提供する事ができる。
【0022】
また、自励サイリスタ直列インバータ式点火回路において従来必須とされていた起動回路、例えば図2中の起動回路6は不要となるので、装置製造上、コスト、スペースの削減ができる。
【0023】
さらに、本発明の特定の態様に依れば、点火コイル一次巻線も容量放電式点火回路と自励サイリスタ直列インバータ式点火回路とで共用化できるので、このことも点火装置周りの小型化、低廉化に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明による内燃機関点火装置の望ましい一実施形態の構成図である。
【図2】従来における容量放電式点火回路と自励サイリスタ直列インバータ式点火回路とを用いた重ね放電型の内燃機関点火装置の代表的一例における構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1には本発明の望ましい一実施形態における内燃機関点火装置が示されている。本発明は、実質的には、図2に示して説明したような従来の内燃機関点火装置の改良であるので、本実施形態でも、当該図2に示した従来例の回路構成の改変構成として示している。従って、既に当該従来例に関し説明した所は本発明による改良部分を除き、略々そのままに適用できる。また、図2中におけると同じ符号は同じ構成要素ないし同様の構成要素を示し、それに関する説明も、既に説明した所を同様に適用できる。
【0026】
繰り返しの説明も含むが、本実施形態に就き説明するに、まず。容量放電式点火回路4においては、図2に示した従来例におけると同じ動作となる。すなわち、車両搭載のバッテリである電源1にて稼働するDC-DCコンバータ2の高圧出力端子2aからダイオード4a、抵抗4bを介して容量放電用のエネルギ蓄積コンデンサ4cが充電され、一方で、抵抗4d、トリガ素子4e、抵抗4fを介する線路がサイリスタ4gのゲートに接続されていて、点火時期を報知する適当な回路装置、例えばエンジン・コントロール・コンピュータ(ECU)から点火タイミングで発生される点火信号5iに応じてトリガ信号発生部5から出力されるトリガ信号PC2を受けたトリガ素子4eがターンオンすることで、サイリスタ4gにトリガ電流が流される。
【0027】
これによってサイリスタ4gがターンオンすると、エネルギ蓄積コンデンサ4cに充電されていた電荷は、当該サイリスタ4gを介し、点火コイル7の一次巻線7aに対して図示の極性(+),(-)で放電され、点火コイル7の二次巻線7bに高電圧が発生し、これに接続された点火プラグの放電間隙Gpに放電火花が生じて、内燃機関の燃料に点火する。
【0028】
なお、後述するが、本発明に従って構成される内燃機関点火装置の場合、上述の点火コイル一次巻線7aの少なくともその一部または全てを、後述の自励サイリスタ直列インバータ式点火回路3の放電エネルギが印加される点火コイル一次巻線7dとして共用化も図れるが、本実施形態では、原理的構成として、それぞれの回路3,4に専用の一次巻線7a,7dが備えられている場合を示している。
【0029】
従来においては、上述のように容量放電式点火回路4の動作に呼応し、点火信号5iを受けると同時にトリガ信号PC1(図2)にて自励サイリスタ直列インバータ式点火回路3を起動していたが、本発明では図2中に示されているような、従来構成における起動回路6は備えていない。本発明に従う自励サイリスタ直列インバータ式点火回路3は、起動時からして下記のような動作をするように組まれている。
【0030】
すなわち、容量放電式点火回路4においてエネルギ蓄積コンデンサ4cに充電されていた電荷がサイリスタ4gを介し点火コイル7の一次巻線7aに図示の極性(+),(-)で放電され、これによって点火コイル7の二次巻線7bに高電圧が発生したときには、点火コイル7に巻回されている帰還巻線7cにも図示の極性(+),(-)で電圧が発生する。そのため、このときに、ダイオード3h、コンデンサ3i、抵抗3gの経路で電流が流れて、本発明では起動時からトリガ信号生成用として用いられるコンデンサ3iが充電され、やがて帰還巻線7cの電圧がそのピークを越えて低下して行くタイミングで、それまでに蓄積された当該コンデンサ3iの充電電荷は抵抗3bを介してサイリスタ3cのゲートに流入するようになる。
【0031】
これにより、サイリスタ3cがターンオンし、自励サイリスタ直列インバータ式点火回路3が起動すると、共振インダクタ3d、共振コンデンサ3eの共振により振動電流が生じ、共振コンデンサ充電電流が反転するときにサイリスタ3cの電流が逆方向となることで当該サイリスタ3cがターンオフする。これにより、エネルギ蓄積コンデンサでもある共振コンデン3eの充電電荷は点火コイル7の図示の場合は自励サイリスタ直列インバータ式点火回路3に図示実施形態では専用となっている一次巻線7dを介して放電され、二次巻線7bに高電圧を発生させ、放電間隙Gpに先の容量放電式点火回路4による放電エネルギに対して連続し、かつ重畳的に、複数火花となる放電エネルギを与える。
【0032】
つまり、本発明によると、容量放電式点火回路4の容量放電エネルギに基づいて発生した放電火花がエネルギのピークを越え、ある意味では立ち上がりの早い初期着火という重要な役目を果たした後のタイミングで、自励サイリスタ直列インバータ式点火回路3の発生する放電エネルギに基づく放電火花が後を受け継ぐように発生するため、放電火花を生ずる点火コイル二次側高圧電圧波形に乱れを生じさせることが無く、容量放電式点火回路4の持つ放電火花の立ち上がりの早さという特徴と、自励サイリスタ直列インバータ式点火回路3の持つ、時間的に連続する複数火花により吹き消え現象を克服し、実質的に長い放電時間を得ることができるという特徴を共に十分に発揮させることができる。
【0033】
なお、放電間隙Gpに自励サイリスタ直列インバータ式点火回路3の動作による高電圧が印加されるときには、点火コイル7に設けられている帰還巻線7cにも図示されている極性(+),(-)とは逆の極性の電圧が発生するが、これは抵抗3gを介し、この電圧極性では順方向となるツェナダイオード3fで短絡されることとなるため、サイリスタ3cのゲートには影響が及ばない。
【0034】
そして、やがて、共振コンデンサないしエネルギ蓄積コンデンサ3eと一次巻線7dとの共振により、共振電流が反転すると、このときにも二次巻線7bには高電圧が発生し、点火プラグの放電間隙Gpに火花放電が起きる。そして、これと同時に、点火コイル7に巻回されている帰還巻線7cにも図示の極性(+),(-)で電圧が発生するため、ダイオード3h、コンデンサ3i、抵抗3gの経路で電流が流れて、再度、トリガ信号生成用のコンデンサ3iが充電され、やがて帰還巻線7cの電圧が低下して行くと、それまでに蓄積された当該コンデンサ3iの充電電荷が抵抗3bを介してサイリスタ3cのゲートに流入し、これをターンオンさせる。以降、この共振動作の繰り返しにより、放電間隙Gpには時間的に連続する複数の放電火花が得られる。従って、図示実施形態におけるコンデンサ3iは、回路起動のためにも、また起動後の発振動作継続時にも、トリガ信号生成用コンデンサとして働く。
【0035】
自励サイリスタ直列インバータ式点火回路3の自励発振は、ECUからの停止信号5sを受けたトリガ信号発生部5から発せられる停止信号PC3に応じ、ツェナダイオード3fと相対する位置に設けられている停止用スイッチング素子3jがターンオンすることにより、帰還巻線7cに発生する電圧をキャンセルし、帰還巻線7cの動作を無効化することで、サイリスタ3cを再ターンオンさせるためのトリガ信号生成用コンデンサ3iの充電が行われないようにして停止させる。
【0036】
してみるに、本発明に従う内燃機関点火装置では、容量放電式点火回路4の動作に基づいて得られる点火コイル二次巻線7bの高電圧のピークと、自励サイリスタ直列インバータ式点火回路3の動作に基づいて得られる点火コイル二次巻線7bの高電圧のピークとは重ならず、容量放電式点火回路4の動作に基づいて発生した点火コイル二次側高電圧がピークから低下して行くタイミングで自励サイリスタ直列インバータ式点火回路3の動作に基づく点火コイル二次側高電圧が起ち上がり、以降、複数火花の発生を継続して行く。
【0037】
すなわち、図示されている二つの一次巻線7a,7dの関係で見ると、それらに同時に多大な放電エネルギが与えられていることはなく、時間差があるため、点火コイル一側において容量放電式点火回路4が放電エネルギを与えるための一次巻線7aの少なくともその一部または全てを、自励サイリスタ直列インバータ式点火回路3が複数火花放電エネルギを与えるための一次巻線7dとして共用化を図ることもできる。位相波形の不適切な合成もないため、動作に問題は生じない。
【0038】
以上、本発明装置の望ましい実施形態例につき説明したが、本発明の要旨構成に即する限り、任意の改変は自由である。
【符号の説明】
【0039】
1 電源(自動車両搭載バッテリ)
2 DC-DCコンバータ
3 自励サイリスタ直列インバータ式点火回路
4 容量放電式点火回路
5 トリガ信号発生部
6 自励サイリスタ直列インバータ式点火回路の起動回路
7 点火コイル
3c サイリスタ
3i トリガ信号生成用コンデンサ
3e 共振コンデンサ(エネルギ蓄積コンデンサ)
4c エネルギ蓄積コンデンサ
4g サイリスタ
5i 点火信号
7a 点火コイル一次巻線
7b 点火コイル二次巻線
7c 点火コイル帰還巻線
7d 点火コイル一次巻線
PC2 トリガ信号
PC3 停止信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
点火信号に基づきエネルギ蓄積コンデンサに蓄積されたエネルギを該点火コイルの一次側に放電する容量放電式点火回路の該放電エネルギにより該点火コイル二次巻線に点火プラグの放電間隙における放電火花発生用の高電圧を得、さらにサイリスタが一旦トリガされると、停止信号を受けるまで、該点火コイルの上記一次側に繰り返し複数火花放電エネルギを発生する自励サイリスタ直列インバータ式点火回路からの該複数火花放電エネルギによっても、該点火コイル二次巻線に上記点火プラグの上記放電間隙における複数火花放電用の高電圧を得る重ね放電型の内燃機関点火装置であって;
上記容量放電式点火回路の上記放電エネルギにより上記点火コイルの上記二次巻線に上記高電圧が生じたときに、上記点火コイルに設けられている帰還巻線に生じる電圧により、上記自励サイリスタ直列インバータ式点火回路のトリガ信号生成用コンデンサを充電し、上記帰還巻線の電圧が立ち下がる過程における該トリガ信号生成用コンデンサからの放電電流により、上記サイリスタをトリガし、該自励サイリスタ直列インバータ式点火回路を起動すること;
を特徴とする内燃機関点火装置。
【請求項2】
請求項1記載の内点火装置であって;
上記点火コイル一次側において上記容量放電式点火回路が上記放電エネルギを与えるための一次巻線の少なくともその一部または全てが、上記自励サイリスタ直列インバータ式点火回路が上記複数火花放電エネルギを上記点火コイルの上記一次側に与えるための一次巻線ともなっていること;
を特徴とする内燃機関点火装置。

【図1】
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【図2】
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