説明

内燃機関用点火装置およびIGBT

【課題】ワイヤボンディング時の応力IGBTチップの素子破壊を防止し、生産性が及び信頼性を向上したIGBT点火装置を提供することにある。
【解決手段】IGBTのゲートワイヤボンディングエリアとエミッタワイヤボンディングエリア直下にはスイッチング制御を構成する素子を持たせないアクティブエリアなし又はIGBTとして動作させるチャンネルなし構造とする。
【効果】IGBTチップのボンディングによる素子破壊要因を削減できるため生産性が向上し、且つ信頼性の高いIGBT点火装置が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】内燃機関用点火装置のスイッチング素子の構造、または、内燃機関用点火装置用IGBTの構造に関する。
【0002】
【従来の技術】IGBTを自動車内燃機関用点火装置に用いた従来の技術には特開平7−77149号がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】前記従来の技術は、IGBTゲートワイヤボンディングエリア及びエミッタワイヤボンディングエリア直下にはトランジスタを構成するアクティブエリア又はIGBTとして動作するチャンネルが存在しているため、IGBTと外部回路,端子又はそれらに相当するものを接続するワイヤボンディング工程でボンディングエリア下部の素子に応力がかかりがちで、従来はワイヤボンディング装置のボンディングパワーをワイヤが剥がれない程度にさげて接続していた。しかし、最近の自動車部品に要求される長寿命化をはかるためにはボンディング時のパワーを上げてワイヤを接続する必要があり、これによってIGBTボンディングエリア下の素子破壊を起こす可能性のある構造となっており必ずしも信頼性の高いものではなかった。
【0004】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、IGBTゲートワイヤボンディングエリアとエミッタワイヤボンディングエリア下部にスイッチング制御を構成する素子を持たせないアクティブエリアなし又は、IGBTとして動作させるチャンネルなし構造とすることでワイヤボンディング時の応力が構成する素子にかからないようにする。
【0005】
【発明の実施の形態】上記のように、IGBTゲートワイヤボンディングエリアとエミッタワイヤボンディングエリア下部にスイッチング制御を構成する素子を持たせないアクティブエリアなし又はIGBTとして動作させるチャンネルなし構造としてワイヤボンディング時の応力が素子に影響を与えないようにすることでボンディングによるIGBTチップの素子破壊を防止することが出来るため生産性が向上し、且つ信頼性の高いIGBT点火装置が可能となる。
【0006】図1に、点火システムの構成例を示す。1はECU、2は点火装置、3は点火コイル、4は点火プラグを示す。ECU1の出力段は、PNPトランジスタ9,NPNトランジスタ10,抵抗11より構成され、CPU8により算出された適正な点火タイミングでトランジスタ9,10をON,OFFし、点火装置にHIGH,LOWのパルスを出力する。点火装置2はIGBT5,とハイブリッドIC13に実装された電流検出用負荷6,電流制限回路7、および入力抵抗12より構成され、ECU1の出力信号がLOW→HIGHでパワートランジスタ5は通電を開始し、HIGH→LOWで遮断することによりパワートランジスタ5のコレクタ部に300〜700Vの高電圧を発生する。
【0007】図2に、パワースイッチング素子であるIGBTの等価回路を示す。14はコレクタ端子、15はゲート端子、16はエミッタ端子である。ゲート信号入力部はエンハスメント型N−MOSトランジスタで構成され、電流が流れる部分はPNPNの構造となっている。
【0008】図3に、IGBTの基本構造を示す。実際の部品は本構造のセルが数万個チップ上に形成されているものも1セルを書き出したものである。17はコレクタ部、18はゲート配線、19はエミッタ配線であり、20はゲートボンディングエリア、21はエミッタボンディングエリアである。22,39はP+ ベース層、23はN- 層、24はP層、25はN+ 層、26は酸化膜である。ゲートの入力電圧がN−MOSトランジスタのスレッシュホールド以上になるとPベース層にNチャンネル27が形成され、P+ コレクタ,N- ,Nチャンネル,N+ エミッタのルートで通電し、スレッシュホールド以下ではNチャンネルは消滅し遮断状態となる。本構造において、ゲートボンディングエリア20及びエミッタボンディングエリア21の下にはトランジスタを構成する素子が存在しており、ワイヤボンディング時の応力により素子にダメージを与え素子破壊に到る可能性がある。
【0009】図4に本発明の一実施例を示す。IGBT基本構造は従来の構造と同一であるが、ボンディングエリア直下にトランジスタを構成するアクティブエリア(又はIGBTとして動作させるチャンネル)を持たせない構造としている。エミッタボンディングエリア28の下は上から順にアルミ配線層29,ポリシリコン層30,酸化膜層31,P層32,N- 層33,N+ 層39,P+ 層34となっており前記P層はエミッタ電極と接続されエミッタの電位と同等としている。またゲートボンディングエリア35の下も同様に上から順にアルミ層36,ポリシリコン配線層37,酸化膜層38としている。本構造とすることでボンディングエリアの下にはトランジスタを構成するアクティブエリア又はIGBTとして動作させるチャンネルを持たせなくする事が出来、これによってワイヤボンディング時の応力により素子にダメージを与えることがなく生産性及び信頼性を向上することができる。ここで、図3,図4の21,28,20,35はエリアを示すものであって特別な層を設けているわけではないが、ダメージを減らすための層を設けても良い。
【0010】
【発明の効果】IGBTゲートワイヤボンディングエリア及びエミッタワイヤボンディングエリア下部にスイッチング制御を構成するアクティブエリア、又はIGBTとして動作させるチャンネルを持たせない構造とすることでボンディングによるIGBTチップの素子破壊を防止することが出来るため生産性が向上し、且つ信頼性の高いIGBT点火装置が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】点火システムの構成例。
【図2】IGBTの等価回路。
【図3】IGBTの基本構造。
【図4】本発明の一実施例。
【符号の説明】
1…ECU、2…点火装置、3…点火コイル、4…点火プラグ、5…IGBT、6…電流検出用負荷、7…電流制限回路、8…CPU、9…PNPトランジスタ、10…NPNトランジスタ、11,12…抵抗、13…ハイブリッドIC、14…コレクタ端子、15…ゲート端子、16…エミッタ端子、17…コレクタ部、18…エミッタ配線、19…ゲート配線、20,35…ゲートボンディングエリア、21,28…エミッタボンディングエリア、22,34…P+ 層、23,33…N- 層、24,32…P層、25,39…N+ 層、26,31,38…酸化膜層、7…Nチャンネル、30,37…ポリシリコン層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】内燃機関用電子制御装置(以下ECU)から出力される点火制御信号に応じて点火コイルに流れる1次電流を通電,遮断制御するスイッチング素子をIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)で構成し、前記IGBTチップ表面にゲートとエミッタのワイヤ接続用ボンディングパッドを設け、そのボンディングするエリアの下部にはスイッチング制御を構成するアクティブエリアを持たない構造とした内燃機関用点火装置。
【請求項2】内燃機関用電子制御装置(以下ECU)から出力される点火制御信号に応じて点火コイルに流れる1次電流を通電,遮断制御するスイッチング素子をIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)で構成し、前記IGBTチップ表面にゲートとエミッタのワイヤ接続用ボンディングパッドを設け、そのボンディングするエリアの下部には前記IGBTとして動作するチャンネルを持たない構造とした内燃機関用点火装置。
【請求項3】請求項1または2において、ゲート信号線をポリシリコンで配線し、ゲートボンディングエリアとエミッタボンディングエリアのいずれか一方または両方の下部をP層とし、前記P層をエミッタ電極と接続してエミッタ電位とした内燃機関用点火装置。
【請求項4】請求項1から3のいずれかにおいて、保護素子として、IGBTチップ上にポリシリコンによるPN接合を複数個接続して400V以上に設定したツェナーダイオードの一部または全領域をN- 層の上部に酸化膜を介して形成した内燃機関用点火装置。
【請求項5】請求項1または2において、ゲートボンディングエリアとエミッタボンディングエリアいずれか一方または両方の下部をN- 層とした内燃機関用点火装置。
【請求項6】内燃機関用点火装置に用いられ、内燃機関用電子制御装置(以下ECU)から出力される点火制御信号に応じて点火コイルに流れる1次電流を通電,遮断制御するIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)において、チップ表面にゲートとエミッタのワイヤ接続用ボンディングパッドを設け、そのボンディングするエリアの下部にはスイッチング制御を構成するアクティブエリアを持たない構造としたことを特徴とする内燃機関用点火装置用IGBT。
【請求項7】内燃機関用点火装置に用いられ、内燃機関用電子制御装置(以下ECU)から出力される点火制御信号に応じて点火コイルに流れる1次電流を通電,遮断制御するスイッチング素子をIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)において、チップ表面にゲートとエミッタのワイヤ接続用ボンディングパッドを設け、そのボンディングするエリアの下部にはIGBTとして動作するチャンネルを持たない構造としたことを特徴とする内燃機関用点火装置用IGBT。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開平11−8385
【公開日】平成11年(1999)1月12日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−160878
【出願日】平成9年(1997)6月18日
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000232999)株式会社日立カーエンジニアリング (141)