説明

内燃機関

【課題】シリンダボア側面に積極的にオイルを当て、潤滑状態を向上させると共に下死点付近でピストンが焼き付くことがないボアジェット付きピストンオイルジェットを提供する。
【解決手段】オイルジェット2に、シリンダボア11下部であって、クランク軸20の回転に伴なってピストン14からのスラスト荷重が作用する領域に向かってオイルを噴射する補助噴射ノズル42を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に関するもので、特にディーゼルエンジン等の内燃機関のピストン及びシリンダボアを冷却するボアジェット付きピストンオイルジェットを備えた内燃機関に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5に示すように、従来からエンジン1内部には、ピストン14の背面側に向けてシリンダボア11底部側方からオイルジェット2aでオイルを噴射することで、ピストン14の冷却および潤滑を行うようにしたものが知られている(例えば、特許文献1,2参照)。このオイルジェット2aは、シリンダブロック10に取り付けられ、オイルギャラリ13からのオイルを上方に向けた主噴射ノズル4aよりピストン14の背面に向けて噴射しており、ピストン14の背面を冷却したり、クーリングチャンネル16にオイルを流して冷却するには有効である。
【0003】
しかしながら、シリンダボア11とピストン14との当りが強くて、その部分の潤滑が十分でないと油膜切れを起こして、シリンダボア11とピストン14との間で焼き付きが生じる。この場合、焼き付きが生じる箇所がシリンダボア11の上側の場合はピストン14の熱膨張によるが、シリンダボア11の中程から下側の場合はその部分の潤滑が足りなくて起こる。またシリンダボア11内の潤滑は、上方へ噴出したオイルが下方へ落ちていってその飛沫がかかることで行っているが、十分でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−202418号公報
【特許文献2】特開2007−182819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで図5に示すように、ピストン14はピストンピン15に軸支され、コンロッド18、クランクピン19によって下から支持されており、エンジン1の燃焼室(図示せず)での爆発力を受けてピストン14はクランク軸20の回転方向に強く圧接されながら摺動する。エンジン1の高出力化に伴ない、ピストン14とシリンダボア11壁面の冷却・潤滑が追いつかず、上記したように油膜切れを起こして焼き付きが発生する場合がある。
【0006】
特に、燃焼室での爆発力によりピストン14が片側に寄せられるスラスト側におけるシリンダボア11壁面は、ピストン14下降時に面圧が高くなるため、シリンダボア11の下部であって、クランク軸20の回転に伴ってピストン14からのスラスト荷重が作用する領域であるA部(図5に太線で示した部分)にオイル切れが生じることになる。オイル切れが生じることによって、ピストン14とシリンダボア11間の潤滑が不十分となって、摩擦抵抗が増加し、下死点付近でピストン14が焼き付くことになる。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、シリンダボア側面に積極的にオイルを当て、潤滑状態を向上させると共に下死点付近でピストンが焼き付くことがない内燃機関を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明の内燃機関は、オイルギャラリを有するシリンダブロックに形成されたシリンダボアと、前記シリンダボア内に摺動自在に設けられたピストンと、前記ピストンの往復運動によりコンロッドを介して回転されるクランク軸と、前記シリンダブロック内に設けられ、前記オイルギャラリからのオイルをピストン背面に向けて噴射する主噴射ノズルを有するオイルジェットとを備えた内燃機関において、前記オイルジェットに、前記シリンダボア下部であって、前記クランク軸の回転に伴なって前記ピストンからのスラスト荷重が作用する領域に向かってオイルを噴射する補助噴射ノズルを設けたことを特徴とする。
【0009】
また前記補助噴射ノズルは、前記主噴射ノズルの途中に分岐して設けられてもよい。
【0010】
また前記オイルジェットは、前記オイルギャラリと連通するオイル導入通路を有し、該オイル導入通路に所定の圧力で開弁するチェックバルブを備えたものであってもよい。
【0011】
上記構成によれば、オイルギャラリ内のオイルを主噴射ノズルによりピストン背面及びクーリングチャンネルに噴射するのに加えて、補助噴射ノズルによりシリンダボア下部に噴射することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる内燃機関によれば、シリンダボア側面に積極的にオイルを当て、潤滑状態を向上させると共に下死点付近でピストンが焼き付くことがない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るボアジェット付きピストンオイルジェットを取り付けたエンジンの要部を示す概略図である。
【図2】図2は、図1に示すボアジェット付きピストンオイルジェットの断面図である。
【図3】図3は、ボデイとノズル部の平面図である。
【図4】図4は、別の形態のボアジェット付きピストンオイルジェットを示す断面図である。
【図5】図5は、従来のオイルジェットを取り付けたエンジンの要部を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0015】
なお、図1〜図4の本実施形態において、図5の従来例で示した部材と同等の機能を有する部材については同一の符号を付して説明する。
【0016】
図1に示すように、エンジン(内燃機関)1は、シリンダブロック10と、シリンダブロック10に形成されたシリンダボア11内に摺動自在に設けられたピストン14とを有する。ピストン14は、ピストンピン15、コンロッド18及びクランクピン19を介してクランク軸20に連結されている。ピストン14が往復運動することで、この往復運動がコンロッド18により回転運動に変換され、クランク軸20が回転する。図1に示す上死点では、ピストン14はクランク軸20から最も離れた位置に存在し、コンロッド18がピストン14の往復運動方向に対して平行に配置される。
【0017】
ピストン14には、ピストン14を内部から積極的に冷却するため、オイルが循環される環状のクーリングチャンネル16が形成されている。図示していないが、ピストン14の垂直方向にクーリングチャンネル16にオイルを流入するオイル流入穴及びオイルを流出するオイル流出穴が形成されている。
【0018】
シリンダブロック10には、オイルギャラリ(メインオイル通路)13が形成されており、このオイルギャラリ13は図示しないオイルポンプに接続され、高圧のオイルを流通させるようになっている。シリンダボア11の下端部近傍位置において、シリンダブロック10にはボアジェット付きピストンオイルジェット2(以下、オイルジェット2という)が設けられている。オイルジェット2は、オイルギャラリ13から供給される高圧のオイル(潤滑油)を、クーリングチャンネル16、ピストン14の背面及びシリンダボア11下部に噴射するようになっている。
【0019】
以下、オイルジェット2について詳細に説明する。
【0020】
図2に示すようにオイルジェット2は、シリンダブロック10に固定されるボデイ21と、このボデイ21に取り付けられるノズル部4とからなる。ボデイ21は、略中央に貫通孔22が形成され、上面(シリンダブロック10側)に位置決めピン23が取り付けられている。位置決めピン23は、ノズル部4を所定箇所に位置決めするためのもので、シリンダブロック10に圧入するなどして固定される。
【0021】
ボデイ21の下面から貫通孔22にボルト3を挿入し、シリンダブロック10のねじ穴10aにねじ込んでボデイ21をシリンダブロック10に固定する。ボルト3には、図2に示すようにその軸線方向に沿って第1のオイル導入通路31が形成され、第1のオイル導入通路31は、ボルト3がシリンダブロック10のねじ穴10aに締結された際、その一端部がオイルギャラリ13と連通する。また、第1のオイル導入通路31の中間部には、これと直交する第2のオイル導入通路32が形成されている。さらに、ボルト3の外周面の一部とボデイ21の貫通孔22の内壁との間には、環状の間隙によって形成されるオイル溜まり部33が設けられ、第2のオイル導入通路32からのオイルが一時的に貯留される。
【0022】
本実施形態では、図2に示すように、オイルジェット2内にオイルの圧力(油圧)に応じて開閉するチェックバルブ5が設けられている。このようなチェックバルブ5は、例えば第1のオイル導入通路31内に配置された球形の弁体52と、弁体52を着座させる座面51と、弁体52を座面51に向かって付勢するスプリング53とを備えている。オイルギャラリ13からのオイルの圧力がスプリング53のばね力に打ち勝つことにより、弁体52が座面51から離間してオイルギャラリ13からのオイルが、第1のオイル導入通路31、第2のオイル導入通路32を介してオイル溜まり部33に供給される。オイルの圧力が減少した場合は、スプリング53のばね力により弁体52を座面51に着座させてオイルの供給を遮断する。
【0023】
上述したオイル溜まり部33は、ノズル部4と連通している。したがって、シリンダブロック10のオイルギャラリ13から導出されたオイルは、第1のオイル導入通路31、チェックバルブ5、第2のオイル導入通路32、オイル溜まり部33を介してノズル部4へ供給される。
【0024】
ノズル部4は、主噴射ノズル41と補助噴射ノズル42とからなる。
【0025】
主噴射ノズル41は、ボデイ21に取り付けられ、クーリングチャンネル16、ピストン14背面に向けてシリンダボア11内を上方に突出して形成されており、図1及び図2で示す矢印aのごとくオイルを噴射する。また主噴射ノズル41は、図2及び図3に示すように、その基部にオイル溜まり部33に通じる管路43が形成されている。
【0026】
補助噴射ノズル42は、その軸方向を主噴射ノズル41の軸と略平行してボデイ21に取り付けられ、シリンダボア11の下部であって、クランク軸20の回転に伴ってピストン14からのスラスト荷重が作用する領域であるA部(図1に太線で示した部分)に向けて図1及び図2で示す矢印bのごとくオイルを噴射する。補助噴射ノズル42は、主噴射ノズル41より短く形成され、スカート部17に干渉しない程度でシリンダボア11下部のA部に向けられている。また補助噴射ノズル42も、図2及び図3に示すように、その基部にオイル溜まり部33に通じる管路44が形成されている。
【0027】
主噴射ノズル41から図1及び図2の矢印aで示す方向に噴射されたオイルは、クーリングチャンネル16に流入したり、ピストン14背面に衝突する。補助噴射ノズル42から矢印bで示す方向に噴射されたオイルは、シリンダボア11下部のA部に衝突する。
【0028】
このように構成された内燃機関は、エンジン1が運転されることによって図示しないオイルポンプよりオイルがオイルギャラリ13に供給され、オイルジェット2の第1のオイル導入通路31、チェックバルブ5、第2のオイル導入通路32、オイル溜まり部33を介してノズル部4へ供給される。
【0029】
ノズル部4へ供給されたオイルは、主噴射ノズル41の管路43及び補助噴射ノズル42の管路44を通って、それぞれ主噴射ノズル41、補助噴射ノズル42の先端から図1及び図2の矢印a,bで示す方向にオイルが噴射される。矢印aで示す方向に噴射されたオイルは、クーリングチャンネル16に流入してクーリングチャンネル16内を循環してピストン14を内部から冷却したり、ピストン14の背面と衝突し、ピストン14の熱を奪う。熱を奪ったオイルは下部方向に落下し、図示しないオイルパンへ集められ、その後、図示しないオイルポンプを介して再度潤滑のために用いられる。
【0030】
矢印bで示す方向に噴射されたオイルは、シリンダボア11下部のA部に衝突してシリンダボア11とピストン14との摩擦を低減させる。すなわち、矢印bで示す方向に噴射されたオイルは、シリンダボア11表面に油膜を形成し、この油膜がピストン14と接触することでピストン14とシリンダボア11との直接的な接触を防止し、摩擦抵抗を低減させることが可能である。
【0031】
なお、これまでオイルジェット2にチェックバルブ5を有する場合について説明したが、チェックバルブ5を省略してもよい。チェックバルブ5を省略することで、エンジンのスピードが低速のときからオイルジェット2でオイルを供給することができる。
【0032】
次に、図4により他の実施形態について述べる。
【0033】
本実施形態は、補助噴射ノズル42を主噴射ノズル41の途中に分岐して設けたものである。すなわち、補助噴射ノズル42は、シリンダボア11の下部であって、クランク軸20の回転に伴ってピストン14からのスラスト荷重が作用する領域であるA部に向けてオイルを噴射するように、主噴射ノズル41の途中に小径の孔45を形成して構成される。図示してないが、ボデイ21の貫通孔22よりボルト3がシリンダブロック10のねじ穴10aにねじ込まれてボデイ21をシリンダブロック10に固定しており、またボルト3には、第1のオイル導入通路31、第2のオイル導入通路32が形成され、さらにオイル溜まり部33が設けられ、オイル溜まり部33に主噴射ノズル41の管路43が連通している。
【0034】
本実施形態もエンジン1が運転されることによって図示しないオイルポンプよりオイルがオイルギャラリ13に供給され、第1のオイル導入通路31、第2のオイル導入通路32、オイル溜まり部33を介して主噴射ノズル41へ供給される。主噴射ノズル41へ供給されたオイルは矢印a,bで示す方向に噴射される。矢印aで示す方向に供給されたオイルは、クーリングチャンネル16に流入してクーリングチャンネル16内を循環してピストン14を内部から冷却したり、ピストン14の背面と衝突し、ピストン14の熱を奪う。矢印bで示す方向に噴射されたオイルはシリンダボア11下部のA部に衝突してシリンダボア11とピストン14との摩擦を低減させる。
【0035】
エンジン1のピストン14は、シリンダボア11内を高速で往復動するため、焼き付かないようにシリンダボア11とピストン14との間には潤滑用のオイルを供給し、またピストン14を冷却する必要があるが、本発明によれば、オイルギャラリ13からのオイルを主噴射ノズル41よりピストン14背面及びクーリングチャンネル16に噴射してピストン14を冷却し、補助噴射ノズル42よりシリンダボア11下部のA部に噴射してシリンダボア11とピストン14との間を潤滑しているので、下死点付近のシリンダボア11に対するオイル不足により発生するピストン14の焼き付きを防止することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 エンジン(内燃機関)
2 オイルジェット
5 チェックバルブ
10 シリンダブロック
11 シリンダボア
13 オイルギャラリ
14 ピストン
18 コンロッド
20 クランク軸
31,32 オイル導入通路
41 主噴射ノズル
42 補助噴射ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルギャラリを有するシリンダブロックに形成されたシリンダボアと、前記シリンダボア内に摺動自在に設けられたピストンと、前記ピストンの往復運動によりコンロッドを介して回転されるクランク軸と、前記シリンダブロック内に設けられ、前記オイルギャラリからのオイルをピストン背面に向けて噴射する主噴射ノズルを有するオイルジェットとを備えた内燃機関において、
前記オイルジェットに、前記シリンダボア下部であって、前記クランク軸の回転に伴なって前記ピストンからのスラスト荷重が作用する領域に向かってオイルを噴射する補助噴射ノズルを設けたことを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
前記補助噴射ノズルは、前記主噴射ノズルの途中に分岐して設けられる請求項1記載の内燃機関。
【請求項3】
前記オイルジェットは、前記オイルギャラリと連通するオイル導入通路を有し、該オイル導入通路に所定の圧力で開弁するチェックバルブを備えた請求項1又は2記載の内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−247186(P2011−247186A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121648(P2010−121648)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】