説明

内用液剤

【課題】本発明の課題は、ニザチジンの苦味を十分にマスキングでき、長期間安定で、服用性に優れた内用液剤を提供することにある。
【解決手段】(A)ニザチジン0.15〜1.5%(w/v);(B)クエン酸、リンゴ酸、酒石酸及びそれらの塩から選ばれる1種又は2種以上の有機酸又はその塩;及び(C)スクラロース及びエリスリトールを含有する甘味剤を含有し、pHが5.5〜7.0である内用液剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、苦味が改善され服用感に優れたニザチジン含有内用液剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ニザチジン(N−[2−[[[2−[(ジメチルアミノ)メチル]−4−チアゾリル]メチル]チオ]エチル]−N’−メチル−2−ニトロ−1,1−エテンジアミン)は、ヒスタミンH2受容体の拮抗薬であり、抗潰瘍薬として広く用いられている(非特許文献1)。当該ニザチジンを含有する医薬品としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤等が広く使用されているが、服用のしやすさの観点から内用液剤の開発が望まれている。
【0003】
しかし、ニザチジンには特有の苦味があり、内用液剤にした場合には特に苦味が強く感じられるという問題がある。ヒスタミンH2受容体拮抗薬の苦味改善手段としては、溶解熱が−60kJ/kg以下の糖アルコールを添加する方法(特許文献1)、甘味剤と香りから苦味、酸味または渋味を連想させる香料を添加する方法(特許文献2)、生薬系香料と甘味剤とを添加する方法(特許文献3)がある。また、フルスルチアミン等の苦み成分にクエン酸及びそのアルカリ金属塩を添加し、pHを2.5〜5.5にする方法(特許文献4)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08−99904号公報
【特許文献2】特開平10−273435号公報
【特許文献3】特開2003−95945号公報
【特許文献4】特公平04−58452号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】三好秋馬等、薬理と治療、17巻、369−392頁(1989)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術は、糖アルコールの溶解熱を利用するものであり、糖アルコールは液剤中ではすでに溶解した状態であるから、冷涼感は得られず、内用液剤には適用不可能である。特許文献2の技術は、苦味等を連想させる香料を採用するという心理的な効果を期待するものであり、実際の苦味マスキング効果は十分とはいえない。特許文献3も生薬系香料を用いるものであり、そのマスキング効果は十分とはいえない。また、特許文献4においては、クエン酸及びそのアルカリ金属塩の濃度が高く、酸味が強すぎ、実用的な服用感の改善に至っていない。また、特許文献2や3のような香料を採用した場合、香気成分の経時的な安定性が損なわれ、マスキング効果が減退するという問題もある。
従って、本発明の課題は、ニザチジンの苦味を十分にマスキングでき、服用感に優れ、長期間安定な内用液剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、ニザチジン含有内用液剤の苦味のマスキング、服用感及び保存安定性について検討した結果、一定濃度のニザチジンは、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸及びそれらの塩から選ばれる有機酸又はその塩と、スクラロース及びエリスリトールとを配合し、かつpHを5.5〜7.0に調整することにより、ニザチジン特有の苦味がマスキングされ、服用感が良好であり、かつ安定性も良好なニザチジン含有内用液剤が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、(A)ニザチジン0.15〜1.5%(w/v)(重量/容量%、以下同じ);(B)クエン酸、リンゴ酸、酒石酸及びそれらの塩から選ばれる1種又は2種以上の有機酸又はその塩;及び(C)スクラロース及びエリスリトールを含有する甘味剤を含有し、pHが5.5〜7.0である内用液剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の内用液剤は、有効量のニザチジンを含有し、液剤でありながら、ニザチジン特有の苦味がマスキングされ、服用感に優れ、かつ保存安定性も良好である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の内用液剤の有効成分である(A)ニザチジンは、前記のようにヒスタミンH2受容体拮抗薬であり、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、逆流性食道炎、胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)の改善、急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期などに有効である。また、ニザチジンは、一般用医薬品で胃の痛み、むねやけ、むかつき、もたれを改善する目的で使用されている。本発明のニザチジンは、通常の医薬品に使用されるものであればよく、例えば日本薬局方収載品を使用することができる。また、内用液剤中のニザチジンの含有量は、有効性及び苦味マスキング効果の点から0.15〜1.5%(w/v)が好ましく、さらに0.25〜1.0%(w/v)が好ましく、特に0.25〜0.75%(w/v)が好ましい。
【0011】
本発明の内用液剤には、(B)クエン酸、リンゴ酸、酒石酸及びそれらの塩から選ばれる1種又は2種以上の有機酸又はその塩が含まれる。数多くの有機酸の中でもこれらの成分を配合した場合に、ニザチジンの苦味マスキング効果が特に優れている。これらの有機酸のうちクエン酸がさらに好ましく、クエン酸単独、又はクエン酸にリンゴ酸及び/又は酒石酸を組み合せて配合するのが特に好ましい。また、これらの有機酸又はその塩としては、通常の医薬品に使用されるものであればよく、例えば日本薬局方収載品、医薬品添加物規格品及び食品添加物規格品等を使用することができる。なお、有機酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が挙げられる。
【0012】
本発明の内用液剤中の(B)有機酸の含有量は、ニザチジンの苦味マスキング効果、酸味及び安定性の点から、0.5〜2.0%(w/v)が好ましく、さらに0.9〜1.9%(w/v)が好ましく、特に1.3〜1.5%(w/v)が好ましい。
【0013】
本発明の内用液剤には、(C)スクラロース及びエリスリトールを含有する甘味剤が配合される。多くの甘味剤の中でも、スクラロースとエリスリトールを配合した場合に、ニザチジンの苦味マスキング効果、服用感が良いだけでなく、ニザチジンの安定性が優れている内用液剤が得られる。一方、これらの甘味剤の代わりに、ショ糖、果糖、ブドウ糖、麦芽糖等を使用した場合は、ニザチジンの安定性を確保できない。また、サッカリンもそれ自体の苦味があり、服用感の点で十分満足できない。なお、スクラロース及びエリスリトールは、通常の医薬品に使用されるものであればよく、例えば医薬品添加物規格品及び食品添加物規格品等を使用することができる。
【0014】
これらの(C)甘味剤は、ニザチジンの苦味マスキング効果、服用感及び安定性の点から、合計量で本発明内用液剤中にショ糖甘味換算量で12〜42%(w/v)が好ましく、さらに15〜36%(w/v)が好ましく、特に18〜24%(w/v)が好ましい。これらの甘味剤全体のうち、スクラロース及びエリスリトールが占める割合は、ショ糖甘味換算量で65%(w/w)以上、さらに68〜72%(w/w)であるのが好ましい。またスクラロース含有重量1に対するエリスリトールの含有重量比は200〜600、特に240〜350であるのが好ましい。
【0015】
さらに好ましい(C)甘味剤の組み合せは、スクラロース及びエリスリトールを必須構成とし、さらにアセスルファムカリウム、トレハロース、マルチトール及びソルビトールから選ばれる1種以上を加えたものであり、最も好ましくは、スクラロース、エリスリトール、アセスルファムカリウム、トレハロース及びマルチトールを含有するものであり、ニザチジンの苦味マスキング効果に優れた内用液剤が得られる。なお、これらの甘味剤は、通常の医薬品に使用されるものであればよく、例えば日本薬局方収載品、医薬品添加物規格品及び食品添加物規格品等を使用することができる。
【0016】
本発明における「ショ糖甘味換算量」とは、甘味度からショ糖の量に換算した甘味剤の量を示す。なお、本発明における「甘味度」とは、各甘味剤の甘味をショ糖の甘味に換算した値であり、ショ糖の甘味1に対する甘味剤の甘味の相対比を示したもので以下の表の通りである。
【0017】
【表1】

──────────────────────────────
甘味剤 甘味度
──────────────────────────────
砂糖(ショ糖) 1
エリスリトール 0.7〜0.8
還元麦芽糖水アメ 0.7〜0.8
マルチトール 0.8〜0.9
ソルビトール 0.6〜0.7
トレハロース 0.45
アセスルファムカリウム 200
スクラロース 600
──────────────────────────────
【0018】
本発明の内用液剤は、服用感(酸味及び苦味を含む)及び安定性の点からpHが5.5〜7.0であり、さらに5.7〜7.0、特に5.7〜6.7が好ましい。これらのpHの調整は、前記(B)有機酸又はその塩で行ってもよく、さらに他の酸又は塩基を配合することにより行ってもよい。pH調整剤としては、塩酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム等が用いられる。
【0019】
本発明の内用液剤には、上記成分のほか、保存剤、緩衝剤、増粘剤、清涼化剤、界面活性剤、香料等の内用液剤に通常用いられる添加剤を加えてもよい。保存剤としては、パラオキシ安息香酸エステル類(パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル等)、ソルビン酸又はその塩が挙げられる。増粘剤としては、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースが挙げられる。清涼化剤としては、メントールを挙げることができる。界面活性剤としては、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸エステル類等の非イオン性界面活性剤を挙げることができる。香料としては、フルーツ系フレーバー、ハーブ系フレーバー、コーヒー系フレーバーを挙げることができる。
【0020】
本発明の内用液剤は、(A)ニザチジン、(B)有機酸、及び(C)甘味剤、及び水を混合し、pHを5.5〜7.0に調整することにより製造できる。
【0021】
本発明の内用液剤の1本当りの容量は10〜100mL、特に20〜50mLとするのが服用感及び有効性の点で好ましい。
【実施例】
【0022】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0023】
1.服用感試験
(実施例1〜19及び比較例1〜8)
パラオキシ安息香酸ブチル0.021gおよびエリスリトール15gを加熱した精製水に溶解させた。40℃まで冷却し、クエン酸0.9gおよびクエン酸ナトリウム3.6gを溶解させた。これに、トレハロース10g、スクラロース0.05g、アセスルファムカリウム0.05gおよびニザチジン0.75gを溶解させた。これに、還元麦芽糖水アメ5.0gを添加して良く混和し、水酸化ナトリウムを適量加えてpHを6.2に調整し、精製水を加えて全量を300mLとした。これを容量30mLの褐色ガラス瓶に充填した後、80℃で15分間加熱殺菌して、実施例1のニザチジン含有内用液剤を得た。
実施例1と同様の方法で、表2記載の成分の10倍量を精製水に混合溶解し、pHをそれぞれ調整した後、精製水を加えて全量を300mLとした。これを容量30mLの褐色ガラス瓶に充填した後、加熱殺菌して、実施例2〜19及び比較例1〜8のニザチジン含有内用液剤を得た。
【0024】
これらの各内用液剤につき、服用感試験を10人で行った。ニザチジン特有の苦味については、服用してすぐに感じる苦味と服用後に感じる苦味に分けて評価した。また、苦味と苦味以外の別の不快な味(渋味,、過剰な甘味、塩味)も含めて服用しやすさを評価した。結果を表3に示す。
【0025】
なお、評価基準は次の(1)、(2)および(3)のとおりである。
(1)服用してすぐに感じる苦みについて
0:極めて強い苦味を感じる
1:強い苦味を感じる
2:やや強い苦みを感じる
3:やや苦味を感じる
4:わずかに苦味を感じる
5:苦味を感じない
【0026】
(2)服用後に感じる苦みについて
0:極めて強い苦味を感じる
1:強い苦味を感じる
2:やや強い苦みを感じる
3:やや苦味を感じる
4:わずかに苦味を感じる
5:苦味を感じない
【0027】
(3)服用しやすさ
◎:非常に服用しやすい
○:服用しやすい
△:やや服用しにくい
×:服用しにくい
【0028】
【表2】

【0029】
【表3】

【0030】
2.安定性試験
表4に記載の成分の10倍量をそれぞれ精製水に混合溶解し、水酸化ナトリウムを適量加えてそれぞれのpHに調整した後、精製水を加えて全量を300mLとした。これを容量30mLの褐色ガラス瓶に充填した後、80℃で15分間殺菌して、実施例20〜25及び比較例9〜12のニザチジン含有内用液剤を得た。 これらの液剤を60℃の恒温器に3週間保管し、安定性試験を行った。
安定性試験の項目は、1)外観評価(沈殿、浮遊物の有無)、2)色調変化の観察、3)ニザチジンの定量値とした。なお、ニザチジンの定量は逆相分配高速液体クロマトグラフ法により成分含量を測定した後、以下の式より残存率を算出した。試験結果を表5に示した。
【0031】
(数1)
ニザチジンの残存率%=
試験後のニザチジンの含量/試験前のニザチジンの含量×100
【0032】
なお、評価基準は次の(1)および(2)のとおりである。
(1)外観評価
+:沈殿、浮遊物がある
±:沈殿、浮遊物がほとんどない
−:沈殿、浮遊物がない
【0033】
(2)色調変化
+:着色を認める
±:わずかに着色を認める
−:着色しない
【0034】
【表4】

【0035】
【表5】

【0036】
表2〜表5の結果から、本発明の内用液剤はニザチジン特有の苦味がマスキングされ、服用感が良好で、かつ安定性も良好であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ニザチジン0.15〜1.5%(w/v);(B)クエン酸、リンゴ酸、酒石酸及びそれらの塩から選ばれる1種又は2種以上の有機酸又はその塩;及び(C)スクラロース及びエリスリトールを含有する甘味剤を含有し、pHが5.5〜7.0である内用液剤。
【請求項2】
成分(B)の含有量が0.5〜2.0%(w/v)である請求項1記載の内用液剤。
【請求項3】
成分(C)の含有量が、ショ糖甘味換算量で12〜42%(w/v)である請求項1又は2記載の内用液剤。
【請求項4】
成分(C)の甘味剤として、さらにアセスルファムカリウム、トレハロース及びマルチトール及びソルビトールから選択される1種又は2種以上を含有する請求項1〜3のいずれか1項記載の内用液剤。

【公開番号】特開2010−280631(P2010−280631A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−136558(P2009−136558)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(000108339)ゼリア新薬工業株式会社 (30)
【Fターム(参考)】