説明

内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞の検出方法

【課題】内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞のマーカー分子を同定し、それを利用した内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞を検出する方法及び内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞分離する方法を提供する。
【解決手段】崩壊促進因子(DAF,CD55)遺伝子、Tmem184a遺伝子、Akr1c19遺伝子、3300001A09Rik遺伝子、Aebp2遺伝子、AI464131遺伝子、Foxp4遺伝子、Hipk2遺伝子、Lass4遺伝子、Pbxip1遺伝子、Pcbd1遺伝子、及びPcdh1遺伝子から選択される少なくとも1種の遺伝子の発現を検出することを含む、内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞を検出、及び分離方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞の検出及び分離方法に関する。より詳細に
は、本発明は、内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞の新規マーカー分子の発現を指標とした
内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞の検出及び分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生命維持に不可欠である膵臓、肝臓、胃、腸、そして肺といった消化器や呼吸器は、胚
性内胚葉を起源として発生する。予定運命追跡実験では、胚性内胚葉(Definitive endod
erm:DE)の運命はマウス胚において、胎生6-6.5日目に決定し始めることが分かっている。
現在マウスで知られている最も初期の膵臓マーカー遺伝子Pdx1 (Pancreatic and duoden
al homeobox gene 1) は、胎生8.5日目に腸の腹側内胚葉において発現し始める(非特許
文献1)。しかし、Pdx1ノックアウトマウスでは、成長や分化をしない未発達な膵芽だけ
が形成される。前腸内胚葉の特定の領域での膵芽の誘導シグナルは、膵臓発生を理解する
上で重要であるにもかかわらず、多くの分子メカニズムは解明されていない。
【0003】
ES細胞から特定の細胞を分化誘導するためには、他の領域には発現せず、目的の領域
のみに発現するマーカー遺伝子の同定が非常に重要である。しかし、現実的には複数の
マーカー遺伝子を組み合わせて分化細胞を評価することが多い。内胚葉に関しては、E-
cadherinとケモカインレセプターであるCxcr4の2つを用いることで胚性内胚葉を同定す
る方法が報告された(非特許文献2)。しかし、本発明者らは、膵臓においては発生が
進むにつれ、Cxcr4の発現が低下することを確認しており、内胚葉の領域化を研究するた
めには分化後期まで発現するマーカー遺伝子が必要となっている。また、前腸内胚葉の
予定膵臓領域においてPdx1 よりも早い時期に働く遺伝子に関する報告はない。さらに、
内胚葉の領域化が起こる時期において膵臓領域特異的に発現する細胞表面マーカーは見
つかっておらず、膵臓分化研究においてフローサイトメーターを用いた解析の障害とな
っている。一方、発生初期の膵芽で発現する遺伝子は多く知られておらず、新規な遺伝
子を同定することは大変有用である。
【0004】
本発明者らは、既にin vitroでマウス胎仔中腎由来の支持細胞上で、ES細胞からPdx1
陽性細胞を分化誘導することに成功している(非特許文献3)。さらに、液性因子や分
化条件を変えることにより内胚葉だけでなく、外胚葉や中胚葉を効率的に分化誘導させ
ることにも成功している(非特許文献4)。また、網羅的遺伝子発現解析としてマイク
ロアレイを用いた研究も行っている(非特許文献5及び6)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Offield MF, Jetton TL, Labosky PA, et al. PDX-1 is required for pancreatic outgrowth and differentiation of the rostral duodenum. Development. 1996;122:983-995.
【非特許文献2】Yasunaga M, Tada S, Torikai-Nishikawa S, et al. Induction and monitoring of definitive and visceral endoderm differentiation of mouse ES cells. Nat Biotechnol. 2005;23:1542-1550.
【非特許文献3】Shiraki N, Yoshida T, Araki K, et al. Guided differentiationof embryonic stem cells into Pdx1-expressing regional-specific definitive endoderm. Stem Cells. 2008;26:874-885.
【非特許文献4】Shiraki N, Higuchi Y, Harada S, et al. Differentiation and characterization of embryonic stem cells into three germ layers. Biochem BiophysRes Commun. 2009;381:694-699.
【非特許文献5】Yoshida T, Murata K, Shiraki N, et al. Analysis of gene expressions of embryonic stem-derived Pdx1-expressing cells: Implications of genes involved in pancreas differentiation. Dev Growth Differ. 2009;51:463-472.
【非特許文献6】Yoshida T, Shiraki N, Baba H, et al. Expression patterns of epiplakin1 in pancreas, pancreatic cancer and regenerating pancreas. Genes Cells. 2008;13:667-678.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の内胚葉、腸管のマーカー遺伝子としてCxcr4が使われているが、発生が進むと、
腸管におけるCxcr4遺伝子発現が低下し、Cxcr4陰性の細胞の分画の中では、胎生9.5日目
のPdx1陽性細胞が存在することが観察された。従って、より発生後期の内胚葉、腸管の
分子マーカーの同定が望まれている。本発明は、内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞のマ
ーカー分子を同定し、それを利用した内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞を検出する方法
及び内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞分離する方法を提供することを解決すべき課題と
した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、in vitroでES細胞からPdx1陽性細胞を分化誘導することに成功している
。本発明においては、ES細胞由来の胚性内胚葉や膵臓の分化細胞についてマイクロアレイ
解析を行い、胚性内胚葉や膵臓に特異的に発現する候補遺伝子の検索を行った。マイクロ
アレイ解析の結果より、新たな胚性内胚葉、腸管および膵の表層マーカーとして崩壊促進
因子(decay accelerating factor;DAF又はCD55とも称する)を同定することに成功した
。さらに、同じ方法により、いくつかの発生初期の膵芽において発現する遺伝子を見いだ
した。これらの遺伝子は膵臓前駆細胞の同定において、非常に有用なマーカーとして使用
できる。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0008】
即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1) 崩壊促進因子 (DAF, CD55)遺伝子、Tmem184a遺伝子、Akr1c19遺伝子、3300001A
09Rik遺伝子、Aebp2遺伝子、AI464131遺伝子、Foxp4遺伝子、Hipk2遺伝子、Lass4遺伝子
、Pbxip1遺伝子、Pcbd1遺伝子、及びPcdh1遺伝子から選択される少なくとも1種の遺伝子
の発現を検出することを含む、内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞を検出する方法。
(2) 対象細胞における崩壊促進因子 (DAF, CD55)遺伝子、Tmem184a遺伝子、Akr1c19
遺伝子、3300001A09Rik遺伝子、Aebp2遺伝子、AI464131遺伝子、Foxp4遺伝子、Hipk2遺伝
子、Lass4遺伝子、Pbxip1遺伝子、Pcbd1遺伝子、及びPcdh1遺伝子から選択される少なく
とも1種の遺伝子の発現を検出し、上記少なくとも1種の遺伝子を発現している細胞を内
胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞として同定することを特徴とする、(1)に記載の方法。
(3) 少なくとも崩壊促進因子 (DAF, CD55)遺伝子の発現を検出することを含む、(1
)又は(2)に記載の内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞を検出する方法。
(4) 崩壊促進因子 (DAF, CD55)に対する抗体を用いて崩壊促進因子 (DAF, CD55)遺伝
子の発現を検出する、(3)に記載の方法。
(5) E-cadherin遺伝子の発現を検出することを更に含む、(3)又は(4)に記載の
方法。
【0009】
(6) 崩壊促進因子 (DAF, CD55)遺伝子を発現する細胞を選択することを含む、内胚葉
細胞、腸管細胞又は膵細胞を分離する方法。
(7) (a)内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞を含む細胞試料を調製する工程、(b)
該細胞試料に崩壊促進因子 (DAF, CD55)に対する抗体を添加する工程、及び(c)該抗体
が結合した細胞を分離する工程を含む、(6)に記載の内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞
を分離する方法。
(8) 崩壊促進因子 (DAF, CD55)遺伝子に加えてE-cadherin遺伝子を発現する細胞を選
択する、(6)又は(7)に記載の内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞を分離する方法。
(9) 崩壊促進因子 (DAF, CD55)に対する抗体を含む、内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細
胞を検出又は分離するための試薬。
【発明の効果】
【0010】
崩壊促進因子(Decay accelerating factor)(DAF, CD55) はマウス正常胚では胚性内
胚葉と中胚葉領域に発現している。フローサイトメーターによる解析から、CD55はCxcr
4に比べてより狭い範囲で発現していること、ES細胞を用いた分化誘導実験では培養後期
まで発現レベルが低下しないことが分かった。さらにPdx1/GFPマウス胚を用いたフロー
サイトメーターによる解析から、E-cadherin(+)/Cxcr4(-)の分画にはPdx1陽性細胞が存
在するが、CD55はすべてのPdx1陽性膵前駆細胞で発現しており、膵臓内胚葉マーカーと
しても有用であることがわかった。これらの結果より、CD55は胚性内胚葉、腸管と膵を
同定するためのマーカーとして、E-cadherinと組み合わせて使用することで非常に有用
である。CD55は、Cxcr4よりも後期まで発現が検出されるので、後期の腸管マーカーとし
て使用できる。また、CD55は、膵臓の前駆細胞でも発現されるので、ES細胞を遺伝子
改変せずに、表層マーカーの発現により、膵臓ヘ分化した細胞を純化出来ると言う点で
優れている。このCD55を認識する抗体は、腸管及び膵臓の細胞の研究用の試薬として有
用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は分化誘導方法を示す。Aは、分化誘導条件を示す。ES細胞から三胚葉への分化誘導条件について示している。すべての分化誘導は、マウス中腎由来の支持細胞M15細胞を用いて行った。中内胚葉(Mesendoderm)、内胚葉(Endoderm)の分化誘導にはアクチビンとbFGFを添加した。外胚葉(Ectoderm)の分化誘導にはSB203580を添加し、5日間培養した。中胚葉(Mesoderm)の分化誘導にはBMP7を添加し、5日間培養した。Bは、マイクロアレイ解析に使用したサンプルの模式図を示す。模式図中のdは分化誘導開始からの日数を示している。図1Aに示した液性因子を加え各胚葉に誘導したサンプルを、フローサイトメーターを用いて分取した。左下に分取をする際に使用したマーカーについて示した。
【図2】図2はCD55の発現パターンを示す。Aは、CD55のマイクロアレイ解析での発現量を示す。マイクロアレイ解析によって得られたCD55の各胚葉での発現パターンを示している。赤線で示されているのがCD55に対するものであり、線の本数はアレイにセットされているプローブの数に一致している。このグラフより、CD55が内胚葉領域で高発現し、また分化誘導開始後8日目まで一定の発現量を保っていることがわかる。Bは、CD55のリアルタイムPCRを示す。リアルタイムPCR解析によって得られたCD55の各胚葉での発現パターンを示している。マイクロアレイ解析で用いたサンプルと同様のものを使用した。この結果より、内胚葉領域で高発現している遺伝子であることが再確認された。
【図3】図3は、in situ hybridization法による解析を示す。Aは、胎生8.5日目マウス胚での発現パターン(Whole-mount)を示す。CD55に対するRNAプローブを作成し、正常胚での発現パターンをWhole-mount in situ hybridization法を用いて調べた。A-1,3, 4) 前腸門(AIP)に特異的なシグナルが得られた写真を示した。これまでの本発明者らのDiIを用いた細胞運命追跡の検討から、腹側膵臓前駆細胞は前腸門の領域に由来していることが強く示唆されており、CD55が膵臓の非常に初期のマーカーになりうる可能性が示唆された。A-2) 後腸にもシグナルを確認した。Bは、胎生9.5日目マウス胚での発現パターン(Whole-mount)を示す。図3Aと同様に解析を行った。B-1) 矢頭で示すように、腸管でシグナルが確認できた。B-2,3,4) B-1の胚を切片化し、観察することにより、腸管でのシグナルの発現を確認することができた。Cは、胎生8.5日目マウス胚での発現パターン(切片)を示す。さらに詳細な発現位置解析のために、切片上でのin situ hybridization法を行った。C-a,b,c,dの写真は同一胚のものである。C-a,bの写真より、後腸領域に加え羊膜でも発現を確認した。C-c,dの写真から、前腸領域での発現が確認された。Dは、胎生9.5日目マウス胚での発現パターン(切片)を示す。D-a,b,c,d,eの写真は同一胚のものである。D-bより、肺原基に発現を確認した。またD-eの写真より、後腸付近の間充織での発現を確認した。
【図4】図4は、フローサイトメーターによる解析を示す。Aは、ES細胞でのCD55の発現解析を示す。A-1) 分化誘導開始後5日目の細胞を用いた解析図を示す。上段は、E−カドヘリンとCxcr4で展開した後、CD55で再展開した図、下段はE-cadherinとCD55で展開した後、Cxcr4で再展開した図である。A-2) 縦軸にE-cadherinを横軸にそれぞれCxcr4とCD55をとった場合の、分化誘導期間によって変化する二重陽性細胞の推移を示したものである。A-3) E-cadherinとCD55二重陽性分画をフローサイトメーターを用いて分取し、M15細胞上で再培養を行った。再培養開始4日目よりGFPの蛍光を確認し、5日目には更に強いGFPの蛍光を観察した。Bは、正常胚でのCD55の発現解析を示す。胎生9.5日目のPdx1/GFPマウスの全胚を用いて解析を行った。E-cadherinとGFPで展開した後、二重陽性分画をそれぞれCxcr4とCD55で再展開した。上段のCxcr4で再展開した分画にはCxcr4陰性細胞が含まれるのに対し、下段のCD55ではそのような陰性分画は観察されなかった。
【図5】図5は、E-cadherinとCD55二重陽性細胞を用いたマイクロアレイ解析を示す。Aは、Scattered plotを示す。E-cadherin/CD55とE-cadherin/Cxcr4二重陽性分画で上昇している遺伝子を調べるためにマイクロアレイ解析を行い、図に示した。この図から、E-cadherin/CD55とE-cadherin/Cxcr4二重陽性細胞が非常に似た発現プロファイルを示すことがわかった。Bは、Clusteringを示す。図にはAで示した二つの分画以外に、未分化なES細胞(ES)、中内胚葉(Mes)、外胚葉(Ect)、沿軸中胚葉(PAM)のデータを追加して、クラスタリング解析を行った結果を示した。この結果からも、他の胚葉と比較してE-cadherin/CD55とE-cadherin/Cxcr4二重陽性細胞は、発現プロファイルが非常に似ていることがわかった。
【図6】図6は、マイクロアレイ解析のまとめを示す。図4で示したマイクロアレイ解析の結果をベン図で模式的に表した。遺伝子の抽出条件は、胚性内胚葉細胞でのシグナル強度が50以上で、ノーマライズ値が5以上のものとした。二つの分画で共通して発現上昇している遺伝子は207個あった。百分率にすると、E-cadherin/CD55二重陽性分画全体で約70%、E-cadherin/Cxcr4二重陽性分画全体で約80%に上った。また、207遺伝子の中で、既に内胚葉で発現上昇することが報告されている遺伝子を水色の四角内に示した。
【図7】図7は、胚日数(E) 8.5及びE9.5のマウス胚における候補遺伝子の発現パターンを示す。Tmem184aの発現を、E8.5(A,B)及びE9.5(C)の胚において全マウントin situハイブリダイゼーションにより調べた。Tmem184aは、前腸門(anterior intestinal portal (AIP) (A,B, 矢頭)及び腸管上皮(C,矢頭)で検出された。
【図8】図8は、胚日数(E) 9.5及びE12.5のマウス胚における候補遺伝子の発現パターンを示す。Tmem184aの発現を、E 9.5(A,B及びC)及びE12.5(D, E) において切片in situハイブリダイゼーションにより調べた。Tmem184aは腸管上皮(A,B,C)及びE12.5膵芽(D, E)において検出された。
【図9】図9は、胚日数(E) 8.5及びE9.5のマウス胚における候補遺伝子の発現パターンを示す。Akr1c19の発現を、E8.5(A,B 及び C) 及びE9.5(D)の胚において全マウントin situハイブリダイゼーションにより調べた。Akr1c19 は、前腸門(anterior intestinal portal (AIP) (A 矢頭)で検出された。
【図10】図10は、胚日数(E) 9.5、12.5及びE14.5のマウス胚における候補遺伝子の発現パターンを示す。Akr1c19の発現を、E 9.5(A,B,C及びD)、E12.5(E)及びE14.5(F) において切片in situハイブリダイゼーションにより調べた。Akr1c19は腸管上皮(A,B,C,D)及びE12.5及びE14.5の膵(E,F)において検出された。
【図11】図11は、E14.5マウス膵における候補遺伝子の発現パターンを示す。これらの遺伝子の発現は、切片in situハイブリダイゼーションにより調べた。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
(略語一覧)
Pdx1:Pancreas duodenum homeobox 1
Cxcr4:Chemokine (C-X-C motif) receptor 4
ES cell:Embryonic stem cell
Ect:Ectoderm
LPM:Lateral plate mesoderm
PAM:Paraxial mesoderm
MES:Mesendoderm
DE:Definitive endoderm
MEF:Mouse enbryonic fibroblasts
FGF:Fibroblast growth factor
LIF:Leukemia inhibitory factor
AIP:Anterior intestinal portal
【0013】
本発明では、ES細胞分化誘導系とマイクロアレイにより同定した内胚葉に特異的に発
現するCD55遺伝子について、初期胚および分化ES細胞における発現パターンについて詳
細に解析した。CD55遺伝子は内胚葉での発現は分かっていなかったが、細胞表面マーカ
ーとして報告され、抗体も市販されている。そこで、ES細胞分化誘導系と胎生9.5日目の
Pdx1/GFPマウス胚を用いて、フローサイトメーターでの解析を行った。また、CD55陽性
細胞においてどのような遺伝子の発現が上昇しているかを見るために、従来のE-cadher
in(+)/Cxcr4(+)によって定義される内胚葉分画と本遺伝子によって定義される内胚葉分
画E-cadherin(+)/CD55(+)分画をそれぞれ分取し、マイクロアレイ解析を行ない、比較解
析した。その結果、胚性内胚葉を同定するための新規マーカー遺伝子としてCD55遺伝子
を単離することができた。しかし、発現解析の結果から、内胚葉での発現に加え、中胚
葉での発現を確認したため、既存の方法と同様に複数のマーカーを組み合わせて、胚性
内胚葉を同定する必要があることが明らかになった。ただし、既存のマーカーであるCx
cr4と同様に胚性内胚葉分画を濃縮することができること、更により内胚葉発生の後期ま
で発現していることを示すことができた。さらに、ES細胞由来のPdx1陽性細胞で発現す
る遺伝子の中で、発生初期の膵芽で発現しているかどうかについて、切片上およびwhol
e mount in situ hybridization 法で検索したところ、いくつか新規な遺伝子を同定し
た。
【0014】
本発明による内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞を検出する方法においては、崩壊促進因
子 (DAF, CD55)遺伝子、Tmem184a遺伝子、Akr1c19遺伝子、3300001A09Rik遺伝子、Aebp2
遺伝子、AI464131遺伝子、Foxp4遺伝子、Hipk2遺伝子、Lass4遺伝子、Pbxip1遺伝子、Pc
bd1遺伝子、及びPcdh1遺伝子から選択される少なくとも1種の遺伝子の発現を指標とする
。崩壊促進因子 (DAF, CD55)は、それが存在している細胞上のC3/C5転換酵素のみに作用
し、C3/C5転換酵素を阻害することにより、補体の活性化を抑制する補体調節蛋白質であ
る。
【0015】
本発明における崩壊促進因子 (DAF, CD55)は、特にその由来を記載しない限り、脊椎動
物由来であり、好ましくは哺乳動物由来である。例えばヒト崩壊促進因子 (DAF, CD55)遺
伝子の塩基配列およびアミノ酸配列は、NCBI GenBank (NM_000574.3)に示されており、ラット崩壊促進因子 (DAF, CD55)遺伝子の塩基配列およびアミノ酸配列は、NCBI GenBank (NM_0022269.2)に示されており、マウス崩壊促進因子 (DAF, CD55)遺伝子の塩基配列およびアミノ酸配列は、NCBI GenBank (NM_010016.2)に示されている。
【0016】
本発明におけるヒト崩壊促進因子 (DAF, CD55)遺伝子としては、例えば(a)上記に示
したヒト崩壊促進因子 (DAF, CD55)蛋白質をコードする塩基配列を含む核酸、(b)ヒト
崩壊促進因子 (DAF, CD55)蛋白質において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、および
/または付加したアミノ酸配列をコードする核酸、(c)ヒト崩壊促進因子 (DAF, CD55
)蛋白質をコードする塩基配列と60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは8
0%以上、より好ましくは90%以上の相同性を有する塩基配列を含む核酸、(d)ヒト
崩壊促進因子 (DAF, CD55)蛋白質のアミノ酸配列と60%以上、好ましくは70%以上、
より好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を
コードする核酸、または(e)ヒト崩壊促進因子 (DAF, CD55)蛋白質をコードする核酸と
ストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸などが含まれる。上記(b)において
、改変されるアミノ酸数は、通常1から15個、好ましくは1から10個、より好ましく
は1から7個、より好ましくは1から5個である。また、上記の(e)の核酸は、ヒトな
どのヒト崩壊促進因子 (DAF, CD55)遺伝子の蛋白質コード配列を含む核酸、または対象と
する核酸のどちらかからプローブを調製し、それが他方の核酸にハイブリダイズするかを
検出することにより同定することができる。例えば、ヒトなどのヒト崩壊促進因子 (DAF
, CD55)遺伝子の蛋白質コード配列中の任意の連続する部分配列または全長からなる核酸
(DNAまたはRNA)とストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸を含むもの
でもよい。あるいはヒトなどのヒト崩壊促進因子 (DAF, CD55)遺伝子の蛋白質コード配列
からなる核酸とストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸を含むものであっても
よい。ストリンジェントなハイブリダイゼーションの条件としては、例えば例えば5×S
SC、7%(W/V)SDS、100μg/ml変性サケ精子DNA、5×デンハルト液
を含む溶液中、48℃から52℃程度の温度でハイブリダイゼーションを行い、その後、
48℃から68℃で2×SSC(又は1×SSC中、又は0.5×SSC中、又は0.1
×SSC)中で、1時間洗浄する条件などを挙げることができる。なお、Tmem184a遺伝子
、Akr1c19遺伝子、3300001A09Rik遺伝子、Aebp2遺伝子、AI464131遺伝子、Foxp4遺伝子、
Hipk2遺伝子、Lass4遺伝子、Pbxip1遺伝子、Pcbd1遺伝子、及びPcdh1遺伝子についても、
ヒト崩壊促進因子 (DAF, CD55)遺伝子の場合と同様である。
【0017】
「内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞の検出」としては、例えば、細胞画分に内胚葉細胞
、腸管細胞又は膵細胞が含まれているかを検出したり、その割合を定量することなどが含
まれる。また内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞の検出には、該細胞の「同定」も含まれる
。また、内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞を「分離する」とは、細胞集団中を、該細胞ま
たは該細胞を含む細胞集団とそれ以外の細胞集団とに分離することを言う。本発明におい
て内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞の分離は、細胞集団中の該細胞の割合を高めることで
あってよい。
【0018】
内胚葉細胞とは、外胚葉または中胚葉から産生される組織に分化するのではなく、膵臓
、肝臓、肺、胃、腸および甲状腺などの内胚葉由来組織に分化できる細胞、又は内胚葉由
来組織に分化した細胞である。
腸管細胞とは、小腸および大腸などの腸管上皮細胞に分化できる細胞、又は腸管上皮細
胞に分化した細胞である。
膵細胞とは、内分泌細胞、外分泌細胞および膵管細胞などの成熟膵細胞に分化できる細
胞、又は成熟膵細胞に分化した細胞である。
【0019】
本発明は、ヒト崩壊促進因子 (DAF, CD55)遺伝子、Tmem184a遺伝子、Akr1c19遺伝子、
3300001A09Rik遺伝子、Aebp2遺伝子、AI464131遺伝子、Foxp4遺伝子、Hipk2遺伝子、Las
s4遺伝子、Pbxip1遺伝子、Pcbd1遺伝子、及びPcdh1遺伝子から選択される少なくとも1種
の遺伝子の発現を指標とする、内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞の検出方法および分離方
法を提供する。本発明者らは、崩壊促進因子 (DAF, CD55)遺伝子、Tmem184a遺伝子、Akr
1c19遺伝子、3300001A09Rik遺伝子、Aebp2遺伝子、AI464131遺伝子、Foxp4遺伝子、Hipk
2遺伝子、Lass4遺伝子、Pbxip1遺伝子、Pcbd1遺伝子、及びPcdh1遺伝子から選択される少
なくとも1種の遺伝子が内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞のマーカーであることを見出し
た。崩壊促進因子 (DAF, CD55)遺伝子を発現する細胞(崩壊促進因子 (DAF, CD55)陽性細
胞)を検出または選択することにより、内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞を検出・同定し
たり、内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞を特異的に分離することができる。本発明におい
て崩壊促進因子 (DAF, CD55)遺伝子の発現は、崩壊促進因子 (DAF, CD55)mRNAの産生
および/または崩壊促進因子 (DAF, CD55)蛋白質の産生であってよい。すなわち、崩壊促
進因子 (DAF, CD55) mRNAまたは崩壊促進因子 (DAF, CD55)蛋白質を検出することに
より、崩壊促進因子 (DAF, CD55)遺伝子の発現を検出することができる。例えば、崩壊促
進因子 (DAF, CD55)mRNAの検出は、崩壊促進因子 (DAF, CD55)cDNA断片またはオ
リゴヌクレオチドを用いたノーザンハイブリダイゼーション、RNAプロテクションアッ
セイ、またはRT−PCRなどの公知の方法により実施することが可能である。崩壊促進
因子 (DAF, CD55)蛋白質の検出は、抗崩壊促進因子 (DAF, CD55)抗体等を用いたウェスタ
ンブロッティング、免疫沈降、ELISA、免疫組織化学、FACS(fluoresc
ence activated cell sorting;蛍光活性化細胞分離)を用い
る方法等の公知の方法により検出することができる。Tmem184a遺伝子、Akr1c19遺伝子、
3300001A09Rik遺伝子、Aebp2遺伝子、AI464131遺伝子、Foxp4遺伝子、Hipk2遺伝子、Las
s4遺伝子、Pbxip1遺伝子、Pcbd1遺伝子、及びPcdh1遺伝子についてもヒト崩壊促進因子
(DAF, CD55)遺伝子の場合と同様である。
【0020】
本発明の検出方法および分離方法においては、崩壊促進因子 (DAF, CD55)蛋白質を検出
することにより崩壊促進因子 (DAF, CD55)遺伝子の発現を検出することが好ましい。また
、FACS等のセルソーターを用いることで、効率的に細胞を検出または分画することも
できる。
【0021】
本発明の検出または分離に用いる細胞としては特に制限はなく、内胚葉細胞、腸管細胞
又は膵細胞が含まれると予想される組織または細胞などを用いることができる。細胞は脊
椎動物由来の細胞であり、好ましくは哺乳動物細胞(例えば、マウス、ラットなどのげっ
歯類、サル、ヒトなどの霊長類等の細胞)である。ヒトへの応用を考えた場合には、ヒト
細胞が好ましい。
【0022】
細胞試料の調製は公知の方法に従って行うことができる。例えば組織から内胚葉細胞、
腸管細胞又は膵細胞を含む試料を調製するには、組織などを回収してリンス後、コラゲナ
ーゼ、ディスパーゼを含む酵素溶液で処理し細胞を分散させる。このようにして調製した
細胞から内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞を検出・分離することができる。
【0023】
また、本発明の方法は株化細胞に適用することもできる。哺乳動物胎児もしくは新生児
の腸管又は膵臓から調製した細胞を不死化し、本発明の方法により例えば内胚葉細胞、腸
管細胞又は膵細胞を選択することもできる。ES細胞由来の細胞を用いて崩壊促進因子
(DAF, CD55)陽性細胞を単離することも可能である。
【0024】
内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞を検出する本発明の方法は、具体的には、(a)細胞
における崩壊促進因子 (DAF, CD55)遺伝子の発現を検出する工程、および(b)崩壊促進
因子 (DAF, CD55) 遺伝子を発現する細胞を内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞であると同
定する工程により実施することができる。例えば、崩壊促進因子 (DAF, CD55)陽性細胞の
存在または割合を測定する工程により、それぞれ内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞の存在
または割合を知ることができる。崩壊促進因子 (DAF, CD55)陽性細胞を高い割合で含む細
胞集団には、内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞が高い割合で含まれていると判断される。
従って、崩壊促進因子 (DAF, CD55)遺伝子を発現する細胞を選択する工程により、内胚葉
細胞、腸管細胞又は膵細胞を選択することができる。例えば、(a)細胞における崩壊促
進因子 (DAF, CD55)遺伝子の発現を検出する工程、および(b)崩壊促進因子 (DAF, CD
55)遺伝子を発現する細胞を分離する工程、により内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞を分
離することができる。あるいは予め細胞を分画しておき、分画された細胞において崩壊促
進因子 (DAF, CD55)遺伝子の発現を検出し、崩壊促進因子 (DAF, CD55)遺伝子を発現する
細胞を選択することにより内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞を分離・選択することができ
る。Tmem184a遺伝子、Akr1c19遺伝子、3300001A09Rik遺伝子、Aebp2遺伝子、AI464131遺
伝子、Foxp4遺伝子、Hipk2遺伝子、Lass4遺伝子、Pbxip1遺伝子、Pcbd1遺伝子、及びPcd
h1遺伝子についてもヒト崩壊促進因子 (DAF, CD55)遺伝子の場合と同様である。
【0025】
内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞の分離は、好ましくは細胞表面に発現する崩壊促進因
子 (DAF, CD55)蛋白質に結合する抗体を用いて、(a)内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞
を含む細胞試料を調製する工程、(b)該細胞試料に崩壊促進因子 (DAF, CD55)に対する
抗体を添加する工程、及び(c)該抗体が結合した細胞を分離する工程により行うことが
できる。
【0026】
分離した細胞を回収することにより、内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞を回収すること
ができる。例えば、ビーズやマトリックス等の水不溶性担体に抗崩壊促進因子 (DAF, CD
55)抗体または崩壊促進因子 (DAF, CD55)蛋白質に結合するリガンドを固定化し、これに
細胞を直接的または間接的に結合させる方法、免疫吸着カラムによる分離、蛍光抗体標識
細胞分離法、免疫磁気ビーズによる分離法などがある。また、上記の工程(c)は、FA
CSなどのセルソーターを用いて行うことができる。セルソーターを用いた細胞の分離は
公知の方法により行うことができる。
【0027】
本発明において調製された細胞は、適当な培地を用いて培養したり保存したりすること
ができる。培地は、血清や増殖・分化因子などを補うことができる。培地としては、例え
ば、約10%ウシ胎仔血清(FCS)またはこれと同等の補剤を含むDMEMなどが挙げ
られるがこれに限定されない。例えば、アクチビン20ng/mlとbFGF 50 ng/ml(in 10%FB
S/DMEM,又は15%KSR/DMEM)の存在下で培養でき、あるいは下記の培地で培養できる。
【0028】
細胞の培養としては、細胞の維持、インキュベート、増殖、または保存などであってよ
く、例えばin vitroであれば、適当な培地中、37℃、5%CO2、湿環境下でイ
ンキュベートすることが挙げられる。
【0029】
また、崩壊促進因子 (DAF, CD55)が、内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞のマーカーとな
ることから、崩壊促進因子 (DAF, CD55)遺伝子の発現を指標として内胚葉細胞、腸管細胞
又は膵細胞をモニターすることが可能である。これを基に、例えば様々な薬剤や遺伝子の
発現、その他の刺激などが細胞の分化誘導に及ぼす影響を評価することができる。例えば
、被検試料が崩壊促進因子 (DAF, CD55)の発現に及ぼす効果を検出することにより、内胚
葉細胞、腸管細胞又は膵細胞に作用する様々な薬剤をアッセイすることも可能である。
【0030】
本発明はさらに、崩壊促進因子 (DAF, CD55)に対する抗体を含む、内胚葉細胞、腸管細
胞又は膵細胞を検出又は分離するための試薬に関する。崩壊促進因子 (DAF, CD55)に対す
る抗体は、崩壊促進因子 (DAF, CD55)蛋白質またはその部分ペプチドを免疫原として用い
たり、あるいは崩壊促進因子 (DAF, CD55)蛋白質を発現する細胞を免疫原として用いるこ
とによって製造することができる。
【0031】
免疫原としての崩壊促進因子 (DAF, CD55)蛋白質が由来する動物の種類に特に制限はな
く、ヒト、サル、マウス、ラット、ウシ、ウサギ、その他の脊椎動物由来の崩壊促進因子
(DAF, CD55)蛋白質を用いることができる。抗体は、公知の方法に従って作製することが
可能である。例えば、モノクローナル抗体であれば、公知の細胞融合法により製造するこ
とができる。
【0032】
上記抗体は、適宜生理食塩水、緩衝液、塩、安定剤などと組み合わせて内胚葉細胞、腸
管細胞又は膵細胞の検出用試薬または分離用試薬とすることができる。例えばこの抗体を
用いて組織中の内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞の分布や量を検査したり、細胞試料中の
内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞の濃度を測定したりすることができる。抗体は蛍光標識
されていてもよい。
【0033】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定
されるものではない。
【実施例】
【0034】
(1)方法
(細胞培養)
(1)ES細胞の培養
Pdx1/GFP ES細胞(SK7 ES細胞)は、Pdx1プロモーター下にGFPを導入した組み換え遺
伝子をホモでもつ遺伝子組み換えマウスの胚盤胞から樹立した。ES細胞は、マウス線維
芽細胞(mouse embryonic fibroblast ; MEF)依存性で、ES細胞維持培地を用いて培養
した。
【0035】
(ES細胞維持培地 SK7 ES細胞用)
Glasgow minimum essential medium (GMEM) (Invitrogen)
15 % Knock-out Serum Replacement(KSR) (Invitrogen)
1 % FBS (Hyclone)
100 μM nonessential amino acids (Invitrogen)
2 mM L-glutamine (Nacalai tesque)
1 mM sodium pyruvate (Invitrogen)
50 units/ml penicillin and 50 μg/ml streptomycin (Nacalai tesque)
100 μM β-mercaptoethanol (Sigma)
1000 units/ml LIF (Chemicon)
【0036】
(2)支持細胞の培養
M15細胞は野瀬俊明先生(三菱化学生命科学研究所)およびDr. M. Rassoulzadegan (
University of Nice-Sophia Antipolis) より供与された(Larsson SH, Charlieu JP, M
iyagawa K, et al. Subnuclear localization of WT1 in splicing or transcription
factor domains is regulated by alternative splicing. Cell. 1995;81:391-401)。細
胞は下記の培地で培養した。M15細胞はコンフルエントになるまで培養し、マイトマイシ
ンC(Sigma)処理(200μg/ml 37℃ 2.5時間)したものを分化誘導実験に用いた。分化誘導
前日に4 x 105cells/mlの濃度でゼラチンコートした24 well plateに0.5 ml、6 well pl
ateに2 ml量で播いた。
【0037】
(M15用培地)
DMEM (Invitrogen)
10 % FBS (Hyclone)
2 mM L-glutamine (Nacalai tesque)
50 units/ml penicillin and 50 μg/ml streptomycin (Nacalai tesque)
100 μM β-mercaptoethanol (Sigma)
【0038】
(3)分化誘導方法
支持細胞との共培養
分化誘導を行う際には、MEFの持ち込みを減らすために一度ゼラチンコートしたdish上
で培養したES細胞を用いた。この際にはES細胞維持培地を使用した。ES細胞を0.25 %ト
リプシン・EDTA液で剥離後、4℃ 1000 rpmで遠心して細胞を回収した。細胞は分化誘導
培地で10000 cells/mlの濃度になるように再溶解した。あらかじめ支持細胞がコンフル
エントになるまで培養しておいた24 wellおよび6 well plateに、用意したES細胞溶解液
を24 well plateには0.5 ml、6 well plateには2 ml量で播いた。分化誘導培地は2日毎
に交換した。分化誘導培地の組成を下に示す。
【0039】
(分化誘導培地)
DMEM (Invitrogen)
10 % FBS (Hyclone)
100 μM nonessential amino acids (Invitrogen)
2 mM L-glutamine (Nacalai tesque)
50 units/ml penicillin and 50 μg/ml streptomycin (Nacalai tesque)
100 μM β-mercaptoethanol (Sigma)
【0040】
(4)液性因子および阻害因子
各種液性因子および阻害因子は、下記の濃度で使用した。
Recombinant human Activin A(R&D) 20 ng/ml
human bFGF (PEPROTECH) 50 ng/ml
Recombinant human BMP 7 (R&D) 25 ng/ml
SB203580(CALBIOCHEM) 1μM;
【0041】
(フローサイトメーターを用いた解析)
細胞はCell Dissociation Buffer(Invitrogen)で37℃ 20分間インキュベートし、プレ
ートから剥がし、1x106cells/サンプル(50μl)の濃度に調製し、下記抗体を用いて染色
した。染色した細胞は、1% FBSおよびpropidium iodideを含むHank's buffered salt
solution (Sigma)に再溶解した後、 40μmメッシュを用いて濾過し、解析用のサンプル
とした。サンプルはFACS Canto(Becton Dickinson)を用いて解析し、データはBD FACS
Diva Software(Becton Dickinson)を用いて取得した。胎生9.5日目のマウス正常胚にお
いても、上記と同様の手順で解析を行った。得られたデータの解析にはFlowjo program
(Tree Star)を使用した。また、マイクロアレイ解析用には、FACS AriaまたはAriaII(
Becton Dickinson)を用いて、細胞を分取した。
【0042】
使用した抗体を以下に挙げる。
biotin-conjugated anti-E-cadherin monoclonal antibody (mAb) ECCD2, phycoeryt
hrin (PE)-conjugated anti-Cxcr4 mAb 2B11 (BD Biosciences Pharmingen), PE-conju
gated anti-FLK1 mAb AVAS12 (BD Biosciences Pharmingen), biotin-conjugated anti
-PDGFRα mAb APA5. Streptavidin-Allophycocyanin (BD Biosciences Pharmingen).
【0043】
(再培養)
M15細胞上で5日間分化誘導した細胞から、E-cadherinとCD55二重陽性分画をFACS Ar
iaを用いて分取した。分取した細胞は、あらかじめM15細胞を播いておいた24 well pla
teに2.0x105cells/wellの密度で播種した。再培養は、4500 mg/l グルコース、10%FBS,A
ctivin,bFGF(細胞培養4の項参照)nicotineamideを添加した条件で行った。また、培
地の交換は再培養開始より毎日行った。
【0044】
(マイクロアレイ解析)
フローサイトメーターを用いて回収した細胞からtotal RNAを抽出し、Affymetrix社の
プロトコルに従って、解析用サンプルを調製した。最終的に得られたサンプルの品質を
Bioanalyzer 2100(Agilent)で確認した後に、Affymetrix MOE430 2.0 へサンプルを注入
して45℃で16時間ハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーション後はFlud
ics Station 450を用いて、洗いおよび抗体反応を行い、その後GeneChip scanner 3000
を用いてアレイのスキャンを行った。得られたデータは、GeneSpring GX(Agilent)を用
いて解析した。
【0045】
(細胞からのRNA抽出とcDNAの合成)
分化誘導後の細胞集団からFACSを用いて支持細胞を除去したものをサンプルとして、
RNeasy mini kit(Qiagen)を用いて、total RNA抽出をした。RNA 3 μgからoligo dT pr
imers(Toyobo) 10 pmolを用いて、20μlの系でcDNAを合成した。得られたcDNAを5倍希釈
後、その1μlをテンプレートとしてリアルタイムPCRに用いた。
【0046】
(リアルタイムPCR)
プライマーの設計については、Perfect Real Time Primerサポートシステム(タカラ
バイオ株式会社、http://www.takara-bio.co.jp/prt/intro.htm)とPrimer3 (http://f
rodo.wi.mit.edu/cgi-bin /primer3/primer3.cgi)を参考にして行った。目的の遺伝子
のプライマーセットの他、サンプル間のRNA量を補正するための内部標準マーカーとして
、β-actinを使用した。手順としては、まずプライマーごとに検量線用のcDNA希釈液を
作成した。検量線用のサンプルには、分化誘導開始後8日目のPdx1陽性胚性内胚葉細胞
(D8 DE GFP(+))から抽出したRNAが合成したcDNA 5倍希釈液を、さらに 3, 10, 30, 100
倍に希釈して用いた。ネガティブコントロールとしては、滅菌水を用いた。サンプルに
は、ES細胞、外胚葉、中胚葉(側板および沿軸中胚葉の混合)、中内胚葉、分化誘導開
始後5日目の胚性内胚葉、分化誘導開始後7日目の胚性内胚葉、分化誘導開始後8日目
のPdx1陽性および陰性胚性内胚葉細胞より抽出したRNAから合成したcDNAの5倍希釈液を
用いた。試薬はFast SYBR Green Master Mix、装置は7500 Fast Real-time PCR system
(いずれもABI社)を用いて行った。いずれのサンプルもN=2で行った。解析終了後のデ
ータを、エクセルにて解析し、D8 DE GFP(+)を100としたときの相対値を補正し算出した

【0047】
相対値の補正方法
検量線より、相対量(Qty)が算出されているので、N=2以上の場合、Mean Qtyの値を使
用した。
Mean Qty(相対量)/各胚葉でのβ-actinの値×100 (1)
(1)で算出された値/D8 DE GFP(+)分画での値 補正値
【0048】
(Whole-mount in situ hybridization)
サンプルには胎生9.5日目、胎生8.5日目のマウス正常胚を用いた。サンプルを4%パラホ
ルムアルデヒドで4℃一晩固定し、メタノールにより脱水した。10μg/mlのProteinase K
(nacalai tesque,#29442-85)で10分間処理した後、0.2%グルタルアルデヒド/4%パラホ
ルムアルデヒドで30分程度固定した。PBST(1xPBS(-), 0.1%Tween20) で洗浄した後、70℃
ないし60℃でプレハイブリダイゼーションを約6時間行い、Digoxigenin (DIG) ラベルし
たアンチセンスRNAプローブ(Roche,#11-277-073-910)1μg/mlを70℃ないし60℃で一晩
ハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーションバッファーは50%ホルムアミド(nacalai
tesque,#16345-65) , 0.5M NaCl, 1xPE, 50μg/ml Yeast torula RNA(Roche,#109-495)
, 500μg/ml heparin(Sigma,#H-3393-250KU), 2.5% 3 -〔(3-Cholamidopropyl) dimethy
lammonio〕-1-propanesulfonate (CHAPS), 0.1% Tween20を使用した。その後、Wash1(0.
3M NaCl, 1xPE(10 mM Piperazine- 1, 4-bis(2-ethanesulfonic Acid) (PIPES) (pH 6.8
), 1 mM EDTA), 0.1%Tween20), Wash2(0.05M NaCl, 1xPE, 0.1%Tween20), Wash3(50%ホル
ムアミド, 0.3M NaCl, 1xPE, 0.1%Tween20), Wash4(50%ホルムアミド, 0.15M NaCl, 1xP
E, 0.1%Tween20), Wash5(0.5M NaCl, 1xPE, 0.1% Tween20) で70℃30分ずつ洗浄後、室温
のMABT(1xMAB (100 mM maleic acid, 150 mM NaCl (pH 7.5)), 0.1%Tween20) で洗浄した
。2%Blocking溶液(Roche,#1-096-176, sheep serum (Sigma,#S-2263), MABT中に溶解) で
約6時間ブロッキングを行い、4℃で一晩抗DIG抗体(Anti Digoxigenin-AP Fab fragments
, Roche,#11-093-274-910) を反応させた。再度、MABTで洗浄し、NTMT(0.1M NaCl, 0.1
M Tris-HCl(pH9.5), 0.05M MgCl2, 0.1% Tween20) で1時間震盪後、4-ニトロブルーテト
ラゾリウムクロライド(NBT)(Roche,#1-383-213) 、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル
-リン酸(BCIP) (Roche,#1-383-221)で発色した。RNAプローブ作成に使用したプラスミド
は、Open Biosystems社と独立行政法人理化学研究所筑波研究所バイオリソースセンターより購入した。
【0049】
(パラフィン切片作成)
Whole-mount in situ hybridization法によって特異的なシグナルが得られたマウス胚
に対し、パラフィン切片作成を行った。置換、包埋操作の間、マウス胚はユニ・カセッ
トバイオプシーシックス(サクラファインテックジャパン)内で処理を行った。Whole-
mount in situ hybridization後、100%メタノール置換したサンプルを、50%エタノー
ル/PBS、70%エタノール/PBS、90%エタノール/PBSに一回ずつ30分ごと、100%エタノー
ル、100%キシレン槽に二回ずつ二時間〜一晩置換し、その後キシレン/パラフィン(2:1
)に一回、一晩、パラフィン槽に二回、一晩ずつ置換し、包埋を行った。包埋を行ったサ
ンプルは、シグナルの強さにより10-20μmの厚さで切片の作成を行った。作成したパラ
フィン切片については、37℃一晩乾燥させた後、100%キシレン槽に二回、100%エタノ
ール槽に二回5分、90%エタノール、70%エタノール、50%エタノール槽、ミリQ水に一
回ずつ5分通し、その後50%エタノール、70%エタノール、90%エタノール槽に一回ず
つ5分、100%エタノール槽に二回ずつ5分通した後、100%キシレン槽に二回通した後、
封入を行った。
【0050】
(凍結切片作成)
サンプルを4%パラホルムアルデヒドで4℃一晩固定し、15%スクロース、30%スクロー
ス内でそれぞれ4℃一晩振とうした。その後、O.C.T コンパウンド(Tissue-Tec) で包埋
、10μmの厚さで切片を作成し、37℃一晩乾燥させた。
【0051】
(切片上でのin situ hybridization(凍結切片))
スライドグラスをPBSTに浸し、O.C.Tコンパウンドを水和し、1μg/mlのProteinase Kで
5分間処理した後、0.2%グルタルアルデヒド/ 4%パラホルムアルデヒドで30分程度固定し
た。PBSTで洗浄した後、70℃ないし60℃で5-6時間プレハイブリダイゼーションを行い、
DIGラベルしたアンチセンスRNAプローブ1μg/mlを70℃ないし60℃で一晩ハイブリダイズ
させた。ハイブリダイゼーションバッファーは50%ホルムアミド, 5xSSC(クエン酸緩衝液
pH7.0), 1% ラウリル硫酸ナトリウム (SDS), 50μg/ml Yeast torula RNA, 50μg/ml h
eparinを使用した。50%ホルムアミド 5xSSC(pH7.0),1%SDS,50%ホルムアミド,2xSSCで70℃
ないし60℃で30分ずつ洗浄し、室温のMABTで洗浄した。Blocking溶液で約6時間ブロッキ
ングを行い、4℃で一晩抗DIG抗体を反応させた。再度、MABTで洗浄し、NTMTで30分間震盪
後、NBT, BCIPで発色した。
【0052】
(2)結果
(2−1)マイクロアレイ解析および候補遺伝子の抽出
本発明者らは、これまで支持細胞の使用と液性因子添加とを組み合わせることでES細
胞から効率的に内胚葉細胞を分化誘導できる方法を報告している(Shiraki N, Yoshida
T, Araki K, et al. Guided differentiation of embryonic stem cells into Pdx1-e
xpressing regional-specific definitive endoderm. Stem Cells. 2008;26:874-885;
及びShiraki N, Umeda K, Sakashita N, et al. Differentiation of mouse and human
embryonic stem cells into hepatic lineages. Genes Cells. 2008;13:731-746)。ま
た、上記分化誘導方法を構築する過程で、ES細胞の分化には様々なシグナルが関与する
ことを見いだしてきた。これらの知見を参考にして、図1Aに示すように添加する液性
因子の組み合わせを換えることにより、内胚葉のみならず中胚葉および外胚葉を効率よ
く分化誘導することに成功している(Shiraki N, Higuchi Y, Harada S, et al. Diffe
rentiation and characterization of embryonic stem cells into three germ layers
. Biochem Biophys Res Commun. 2009;381:694-699)。
【0053】
本発明では、図1Aの分化誘導方法を用いて、図1Bに示すような各種分化細胞の発
現プロファイルを作成して、それを比較することにより新規内胚葉マーカーの探索を行
った。まず、それぞれの系譜へ分化させた細胞から特定の細胞集団をフローサイトメー
ターで回収した。分取するために使用した抗体の組み合わせについては、図1Bに記載
した。それぞれの細胞集団について、約1.0x106個の細胞を分取して、マイクロアレイ解
析用のサンプル作成を行った。解析には、マウスのすべての遺伝子セットが集積されて
いるAfflymetrix社のGeneChip MOE430 2.0を用いた。
【0054】
分化誘導開始から5日目の初期の胚性内胚葉細胞(D5 DE)において、シグナル強度>5
0、Flag=Presenceのもので、ES、初期の未分化な外胚葉、側板中胚葉、沿軸中胚葉、中
内胚葉における発現と比較して、D5 DEで発現量が5倍以上の既知遺伝子を中心に、解析
を行った。
【0055】
これら遺伝子の中で、特に転写因子やドメイン構造を持つもの27遺伝子について、内
胚葉での発現を解析するために、マウス正常胚での発現解析を行う候補遺伝子とした。
【0056】
(2−2)Whole-mount in situ hybridizationによる解析結果
(2−1)で選んだ候補遺伝子の正常胚での発現を調べる為に、マウス胎生8.5および
9.5日目の胚を用いて、Whole-mount in situ hybridizationを行った。
胎生9.5日目と胎生8.5日目の両ステージで内胚葉において特異的な発現を確認した新
規の候補CD55遺伝子(以下の文献を参照)を見出した。
【0057】
Lublin DM, Atkinson JP. Decay-accelerating factor: biochemistry, molecular biol
ogy, andfunction. Annu Rev Immunol. 1989;7:35-58.
Miwa T, Song WC. Membrane complement regulatory proteins: insight from animal s
tudies and relevance to human diseases. Int Immunopharmacol. 2001;1:445-459.
Miwa T, Sun X, Ohta R, et al. Characterization of glycosylphosphatidylinositol-
anchored decay accelerating factor (GPI-DAF) and transmembrane DAF gene express
ion in wild-type and GPI-DAF gene knockout mice using polyclonal and monoclonal
antibodies with dual or single specificity. Immunology. 2001;104:207-214.
Song WC, Deng C, Raszmann K, et al. Mouse decay-accelerating factor: selective
and tissue-specific induction by estrogen of the gene encoding the glycosylphos
phatidylinositol-anchored form. J Immunol. 1996;157:4166-4172.
Spicer AP, Seldin MF, Gendler SJ. Molecular cloning and chromosomal localizati
on of the mouse decay-accelerating factor genes. Duplicated genes encode glyco
sylphosphatidylinositol-anchored and transmembrane forms. J Immunol. 1995;155:
3079-3091
【0058】
以下の実験では、このCD55について詳細な解析を進めた。マイクロアレイ解析の結果
より、CD55は分化誘導5日目以降の胚性内胚葉分画で高い発現量を示していることが確
認された(図2A)。また、発現量を確認するために行ったリアルタイムPCR解析においても
同様の結果を示した(図2B)。これらの結果から、CD55は、分化誘導開始後5日目の胚
性内胚葉分画より発現が上昇し、以降分化誘導開始後8日目まで、一定の発現量が保た
れていることを確認した。さらに、Whole-mount in situ hybridizationによる解析によ
り、胎生8.5日目のマウス正常胚では前腸門領域に、胎生9.5日目のマウス正常胚では腸
管領域に特異的な発現を確認することができた(図3A及びB)。続いて、上記のサンプル
に対し、パラフィン切片を作成し、CD55が発現する領域を確認した。シグナルは、胎生
8.5日目のマウス正常胚では前腸内胚葉領域に、胎生9.5日目のマウス正常胚では後腸内
胚葉領域に確認することができた(図3A及びB)。さらに詳しい解析を行うために、凍結
切片を作成し、切片でのin situ hybridizationによる解析を行った。その結果、胎生8
.5日目のマウス正常胚では前腸、後腸内胚葉領域に加え、羊膜領域でも発現を確認し、
胎生9.5日目では肺原基と間充織にシグナルを確認した(図3C及びD)。以上の結果から
、CD55は初期内胚葉領域で発現するが、中胚葉でも発現するというということが明らか
になった。
【0059】
(2−3)フローサイトメトリー解析(培養細胞)
CD55は既知遺伝子であり、細胞表面で発現することが報告されている。さらに、抗体
が市販されているため、次にフローサイトメーターによる解析を行った。胚性内胚葉と
して同定する方法としては、E-cadherinとケモカインレセプターCxcr4の二つのマーカー
遺伝子を用い、二重陽性部分を胚性内胚葉分画と規定するという報告がなされ、本発明
者らも現在その方法を用いている。当初の目的としては胚性内胚葉を同定するための単
一マーカーの探索であったが、Whole-mount in situ hybridizationと切片でのin situ
hybridizationでの解析結果より、CD55は内胚葉のみではなく中胚葉でも発現する事が
分かったため、中胚葉分画を除く目的でE-cadherinをCD55と併用してフローサイトメト
リー解析を行った。解析には、図1Aに示した分化誘導方法で内胚葉へ分化誘導した細胞
(D5 DE)を用いた。まずFSCとSSCで展開し支持細胞M15細胞を除き、次にPI陰性分画を
同定し、さらにその分画をE-cadherinとCxcr4およびCD55陽性分画で展開した。まず、現
行のマーカー遺伝子であるE-cadherinとCxcr4で展開した後、二重陽性分画をCD55で再展
開した。もう一方は、E-cadherinとCD55で展開した後、二重陽性分画をCxcr4で再展開し
た(図4A)。この結果より、E-cadherinとCxcr4で展開した後、CD55で再展開した分画に
はCD55陰性細胞が含まれている事が分かった。一方、E-cadherinとCD55で展開した後Cx
cr4で再展開した分画には、Cxcr4陰性細胞が含まれていない事が分かった。以上の結果
から、E-cadherinとCD55の両陽性細胞は、E-cadherinおよびCxcr4両陽性の胚性内胚葉よ
りも狭い範囲を規定する細胞集団であることが示唆された(図4A)。
【0060】
また、M15細胞上で5日間分化誘導した細胞からE-cadherinとCD55の二重陽性分画につ
いてフローサイトメーターを用いて分取し、M15細胞上で再培養を行った。再培養開始4
日目(分化誘導開始9日目)に、GFPの蛍光が観察され始め、5日目(分化誘導開始10
日目)には更に強いGFPの蛍光を確認した。この結果からも、E-cadherinとCD55の二重陽
性分画は胚性内胚葉を規定していることが強く示唆された。
【0061】
さらに、本発明者らは以前の実験により、内胚葉分化が進むにつれてCxcr4の発現量が
低下することを確認していたため、次に分化誘導開始後8日目、10日目、12日目に
おける、E-cadherinとCxcr4二重陽性分画とE-cadherinとCD55二重陽性分画の時間経過に
おける推移を調べた(図4A)。分化誘導開始後8日目の胚性内胚葉分画においては、いず
れのマーカー遺伝子でも高い発現が見られた。しかし、10日目においてはE-cadherin
とCD55二重陽性分画の細胞数には変化が見られないのに対し、E-cadherinとCxcr4二重陽
性分画の細胞数が減少していることを確認した。さらに、12日目にはE-cadherinとCD
55二重陽性分画の細胞数には依然として変化が見られないのに対し、E-cadherinとCxcr
4二重陽性分画の細胞数は非常に減少していることを確認した。このことから、CD55は分
化が進んだ内胚葉のマーカーとしても利用可能であることが示唆された。
【0062】
(2−4)フローサイトメトリー解析(正常胚)
次に胎生9.5日目のPdx1/GFPマウス胚を用い、正常胚でのCD55の発現についてフローサ
イトメーターによる解析を行った(図4B)。解析方法としては、E-cadherinとGFPで展開
し、二重陽性分画をCxcr4またはCD55で再展開した。この解析より、Pdx1陽性細胞ではC
xcr4で展開した場合にCxcr4陽性、陰性の両細胞を含むが、CD55で展開した場合には、マ
ーカーCD55に対して完全に陰性である細胞を含まないことが分かった。このことから、
胎生9.5日目のPdx1陽性膵前駆細胞は、CD55陽性であることがわかった。
【0063】
(2−5)マイクロアレイ解析
以上の実験の結果を踏まえ、E-cadherinとCxcr4二重陽性分画またはE-cadherinとCD5
5二重陽性分画において、どのような遺伝子について発現が上昇しているかを調べるため
に、それぞれの分画を分取し、マイクロアレイ解析を行った(図5)。図5Aに示すように
、E-cadherinとCxcr4二重陽性細胞とE-cadherinとCD55二重陽性細胞は非常に似た発現プ
ロファイルを示すことが明らかになった。また、他の胚葉と比較したクラスタリング解
析でも同様の結果が得られた(図5B)。さらに、それぞれの分画で発現上昇している遺
伝子についても、詳細に解析した(図6)。E-cadherinとCxcr4二重陽性分画とE-cadheri
nとCD55二重陽性分画の両方において、他の胚葉に比べて発現が上昇している遺伝子は2
07個存在していたが、その中には内胚葉で上昇することが既に報告されている遺伝子が
多く含まれ、さらに中には内胚葉特異的または膵臓特異的な発現をする候補遺伝子とし
て、マウス正常胚での発現解析を行ったもののうち、14遺伝子が含まれていた。207遺伝
子のなかの一例を図6に示す。これらの遺伝子には、Foxa2, Sox17など内胚葉マーカー
はすべて含まれており、CD55が内胚葉マーカーとして利用可能であることが示された。
また、重複していない部分にもLefty1やSfrp1といった既報の内胚葉マーカーが含まれて
いた。
【0064】
(2−6)発生初期の膵芽で発現する新規遺伝子の同定
さらに、ES細胞由来のPdx1陽性細胞で発現する遺伝子の中で、発生初期の膵芽で発現し
ているかどうかについて、マウスの胎仔を用いて、切片上およびwhole mount in situ h
ybridization 法で検索したところ、いくつか新規な遺伝子を同定した(図7、8、9及
び10)。
【0065】
図7は、 Tmem184a遺伝子のWhole mount in situ hybridization解析を示す。E8.5マウ
ス胎仔において、前腸門(anterior intestinal portal (AIP) のところで発現が見られ
た(A,B, 矢頭)。そしてE9.5では膵芽をふくむ腸管上皮で発現が見られた(C,矢頭)。
図8は、Tmem184a遺伝子の腸管上皮での発現パターンを示す。E9.5では腸管上皮におい
て、発現が見られた。E12.5においては、膵芽で発現が見られた。
【0066】
図9は、Akr1c19遺伝子のWhole mount in situ hybridization 解析を示す。E8.5マウ
ス胎仔において、前腸門(anterior intestinal portal (AIP) で発現が見られた(A 矢
頭)。そしてE9.5では膵芽(D,矢頭)をふくむ腸管上皮で発現が見られた。
図10は、Akr1c19遺伝子のE9.5の 腸管上皮、およびE12.5, E14.5胎仔膵上皮での発現パ
ターンを示す。E9.5, においては、Akr1c19遺伝子は腸管上皮で発現がみられた。E12.5,
E14.5 において、Akr1c19遺伝子は膵上皮で発現が見られた。その発現パターンはPdx1遺
伝子とよく似ている。
【0067】
表1は、上記以外にE14.5の膵臓で発現が見られた遺伝子のリストを示す。これらの遺
伝子について、膵臓での発現がまったく知られていなかったものは、3300001A09Rik、Ae
bp2、AI464131、Akr1c19、Foxp4、Lass4、及びPbxip1の7つであり、また、膵臓で発現に
ついてGene Paintにのみ載っている遺伝子はPcbd1、及びPcdh1の2つである。
【0068】
【表1】

【0069】
図11は、E14.5の膵臓で発現が見られた遺伝子の膵上皮における発現パターンを示す
。切片でのin situ hybridization の像を示す。
【0070】
(3)考察
今までに胚性内胚葉特異的な新規マーカー遺伝子の探索に関する報告が成されてきた
(Hou J, Charters AM, Lee SC, et al. A systematic screen for genes expressed i
n definitive endoderm by Serial Analysis of Gene Expression (SAGE). BMC Dev Bi
ol. 2007;7:92.;及びSherwood RI, Jitianu C, Cleaver O, et al. Prospective isol
ation and global gene expression analysis of definitive and visceral endoderm.
Dev Biol. 2007;304:541-555)。しかし、いずれの論文においても、胚性内胚葉特異的
に発現する新規遺伝子は示されなかった。上記の報告を踏まえて、本発明は、胚性内胚
葉特異的または膵臓特異的な新規のマーカー遺伝子を単離することを目的として行った
。本発明では、胚性内胚葉特異的または膵臓特異的な新規候補遺伝子として、CD55に注
目した。上記の結果より、マウス正常胚においてCD55は胚性内胚葉と中胚葉領域に発現
していることが分かった(図3)。これより、CD55は胚性内胚葉を同定するための単一
マーカーとして使用するよりも、中胚葉以外の細胞を認識するE-cadherinと組み合わせ
て使用することにより、胚性内胚葉を同定できることが明らかとなった。E-cadherinと
Cxcr4またはCD55を組み合わせ、フローサイトメーターによる解析を行った結果より、C
D55はCxcr4に比べてより狭い範囲で発現していること、そして培養後期まで高い発現を
保っていることが示唆された(図4A)。また、E-cadherinとCD55二重陽性分画を分取し、
再培養することによりGFPの蛍光が観察された。
【0071】
さらに胎生9.5日目のPdx1/GFPマウス正常胚を用いたフローサイトメーターによる解析
結果からは、胎生9.5日目のPdx1陽性細胞にはCxcr4陰性細胞が存在するため、E-cadher
inとCxcr4で抽出した場合取りこぼしがあるが、E-cadherinとCD55で抽出した場合は取り
こぼし無くPdx1陽性細胞を同定できることが分かった(図4B)。最後にE-cadherinとCx
cr4、E-cadherinとCD55二重陽性細胞をそれぞれ分取し、マイクロアレイ解析を行った結
果より、CD55は胚性内胚葉を同定するマーカーとして、有用であることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
崩壊促進因子 (DAF, CD55)遺伝子、Tmem184a遺伝子、Akr1c19遺伝子、33
00001A09Rik遺伝子、Aebp2遺伝子、AI464131遺伝子、Foxp4遺伝子、Hipk2遺伝子、Lass4
遺伝子、Pbxip1遺伝子、Pcbd1遺伝子、及びPcdh1遺伝子から選択される少なくとも1種の
遺伝子の発現を検出することを含む、内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞を検出する方法。
【請求項2】
対象細胞における崩壊促進因子 (DAF, CD55)遺伝子、Tmem184a遺伝子、A
kr1c19遺伝子、3300001A09Rik遺伝子、Aebp2遺伝子、AI464131遺伝子、Foxp4遺伝子、Hi
pk2遺伝子、Lass4遺伝子、Pbxip1遺伝子、Pcbd1遺伝子、及びPcdh1遺伝子から選択される
少なくとも1種の遺伝子の発現を検出し、上記少なくとも1種の遺伝子を発現している細
胞を内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞として同定することを特徴とする、請求項1に記載
の方法。
【請求項3】
少なくとも崩壊促進因子 (DAF, CD55)遺伝子の発現を検出することを含む
、請求項1又は2に記載の内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞を検出する方法。
【請求項4】
崩壊促進因子 (DAF, CD55)に対する抗体を用いて崩壊促進因子 (DAF, CD
55)遺伝子の発現を検出する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
E-cadherin遺伝子の発現を検出することを更に含む、請求項3又は4に記
載の方法。
【請求項6】
崩壊促進因子 (DAF, CD55)遺伝子を発現する細胞を選択することを含む、
内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞を分離する方法。
【請求項7】
(a)内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞を含む細胞試料を調製する工程、
(b)該細胞試料に崩壊促進因子 (DAF, CD55)に対する抗体を添加する工程、及び(c)
該抗体が結合した細胞を分離する工程を含む、請求項6に記載の内胚葉細胞、腸管細胞又
は膵細胞を分離する方法。
【請求項8】
崩壊促進因子 (DAF, CD55)遺伝子に加えてE-cadherin遺伝子を発現する細
胞を選択する、請求項6又は7に記載の内胚葉細胞、腸管細胞又は膵細胞を分離する方法

【請求項9】
崩壊促進因子 (DAF, CD55)に対する抗体を含む、内胚葉細胞、腸管細胞又
は膵細胞を検出又は分離するための試薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−72231(P2011−72231A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225758(P2009−225758)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】