説明

内視鏡用フード

【課題】観察窓を覆う治療光カットフィルタを備えるフードを内視鏡先端部に装着したとしても、その治療光カットフィルタの表面を洗浄できるようにする。
【解決手段】フード50は電子内視鏡の先端部16aに装着される。フード50には、観察窓42を覆う部分に、体腔内で反射した光のうち特定波長の光をカットまたは減光する特定波長カットフィルタ51が設けられている。フード50には、照明窓40、送気・送水ノズル43、及び鉗子出口45を体腔内に露呈させる開口部53が形成されている。送気・送水ノズル43から出たエアや水は、開口部53を介して、特定波長カットフィルタ51の表面にまで流れる。これらエアや水により、特定波長カットフィルタ51の表面に付着した体液や生体組織の一部などが除去される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡の先端部に対して装着される内視鏡用フードに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の医療分野では、電子内視鏡を用いた診断や治療が数多く行なわれている。電子内視鏡による診断等は、細長の挿入部を被検者の体腔内に挿入することにより行なわれる。この挿入部の先端部には、照明窓から体腔内に向けて照明光が照射される照明窓と、この照明窓からの照明により体腔内で反射した光を受光する観察窓が設けられている。観察窓で受光した光は、挿入部の先端部に設けられたCCDなどの撮像素子によって撮像される。撮像により得られた画像は、電子内視鏡に接続されたプロセッサ装置で各種処理が施された後、モニタに表示される。
【0003】
体腔内に照射する照明光としては、一般的には、白色光などの広帯域光が使用される。しかしながら、白色光を照明したときの画像は、体腔内全体の状況を把握するのには適しているものの、患者の体腔内壁にできた腫瘍患部などを把握しにくい場合がある。そこで、近年では、薬剤投与によって腫瘍患部にフォトフィリンなどの光感受性物質を蓄積させた上で、その腫瘍患部に対して特定波長の励起光を照射することによって、腫瘍患部から蛍光を発生させることが行なわれている。これによって、腫瘍患部の位置、大きさ、範囲を容易に把握できるようになる。この薬剤蛍光による診断方法は、PDD(Photo Dynamic Diagnosis:光線力学的診断)と呼ばれている。
【0004】
また、光感受性物質が蓄積された腫瘍患部に対しては、励起光とは波長が異なる特定波長の治療光を照射することで、その腫瘍患部を死滅させることができる。この治療光を用いた治療方法は、PDT(Photo Dynamic Therapy:光線力学的治療)と呼ばれている。PDTでは、治療光の照射によって光感受性物質から発生する活性酸素の殺細胞作用を利用することによって、腫瘍患部を死滅させている。
【0005】
したがって、光感受性物質から活性酸素を発生させるためには、治療光のエネルギーを非常に高くしておく必要がある。しかしながら、このようにエネルギーが非常に高い治療光が撮像素子に入射すると、撮像素子における蓄積電荷が飽和しまうことがある。この蓄積電荷の飽和によって、モニタ上の画面が真っ白になるハレーションと呼ばれる現象が起きる。このハレーションによって、画面上に写し出される腫瘍患部や内視鏡の先端の視認性は非常に低下する。
【0006】
このハレーションの問題を解決するために、特許文献1では、治療光をカットするカットフィルタを備えたフードを内視鏡先端部に装着している。このようなフードを装着することで、体腔内で反射した治療光が内視鏡先端部の観察窓に入らないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−20759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
体腔内は、胃液などの体液で覆われているため、内視鏡先端部を挿入または引き抜いたりしたときだけでなく、内視鏡先端部を動かさずに一定の位置に静止させたときでもあっても、内視鏡先端部には体液が付着することがある。また、腫瘍患部の切除を行なったりしたときには、体液だけでなく、生体組織の一部が内視鏡先端部に付着することがある。このような体液などが内視鏡先端部にある観察窓や照明窓に付着しまうと、体腔内の観察を妨げることになる。したがって、観察窓などに体液が付着したときのために、内視鏡先端部には、観察窓や照明窓に向けて洗浄用のエアや水を吹き付ける送気・送水ノズルが設けられている。
【0009】
ここで、上述したような、特許文献1の治療光カットフィルタ付きのフードを内視鏡先端部に装着した場合には、体腔内に露出されるのは観察窓ではなく治療光カットフィルタであるため、その治療光カットフィルタに体液などが付着するようになる。しかしながら、特許文献1のフードは送気・送水ノズルも覆ってしまうことから、そのフィルタに体液などが付着しても、そのフィルタにエアや水を吹き付けることができない。
【0010】
本発明は、治療光をカットするフィルタなど各種フィルタを備えるフードを内視鏡の先端部に装着した場合であっても、そのフィルタを洗浄することができる内視鏡用フードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、体腔内に向けて光を照射する照明窓、体腔内で反射した反射光を受光する観察窓、及び異物除去用の流体を供給するための流体吹付ノズルが設けられた内視鏡の先端部に対して、着脱自在な内視鏡用フードにおいて、観察窓を覆い、反射光のうち特定波長の光をカットまたは減光する特定波長カットフィルタと、流体吹付ノズルからの流体を特定波長カットフィルタの表面にまで流すための開口部を備えることを特徴とする。
【0012】
前記開口部によって、照明窓及び流体吹付ノズルが体腔内に露呈されることが好ましい。前記開口部によって、照明窓及び流体吹付ノズルが体腔内に露呈するとともに、先端部の先端から一定範囲の部分を体腔内に露呈することが好ましい。前記開口部とは別に設けられ、前記照明窓のみを体腔内に露呈させる照明窓用開口を備えることが好ましい。前記流体吹付ノズルと対向する部分に設けられ、特定波長カットフィルタの表面に向かって高さが徐々に高くなるように傾斜している傾斜部を備えることが好ましい。
【0013】
前記特定波長カットフィルタは、PDTで使用する治療光をカットまたは減光することが好ましい。前記特定波長カットフィルタは、PDDで使用する蛍光励起用の励起光をカットまたは減光することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の内視鏡用フードには、流体吹付ノズルからの流体が特定波長カットフィルタの表面にまで流れるように開口された開口部が設けられていることから、このフードを内視鏡の先端部に装着した場合であっても、そのフィルタを洗浄することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】電子内視鏡システムの概略図である。
【図2】本発明のフードと電子内視鏡の先端部との対応関係を示す斜視図である。
【図3】図2のフードが電子内視鏡の先端部に装着された状態を示す斜視図である。
【図4】電子内視鏡の先端部に装着したときの本発明のフードを示す平面図である。
【図5】図4のA―A断面図である。
【図6】「フォトフィリン」使用時における特定波長カットフィルタの透過スペクトルを示すグラフである。
【図7】「レザフィリン」使用時における特定波長カットフィルタの透過スペクトルを示すグラフである。
【図8】「5−ALAプロトポルフィリンIX」使用時における特定波長カットフィルタの透過スペクトルを示すグラフである。
【図9】本発明の別実施形態で使用するフードを示す斜視図である。
【図10】本発明の別実施形態で使用するフードと電子内視鏡の先端部との対応関係を示す斜視図である。
【図11】図10のフードが電子内視鏡の先端部に装着された状態を示す斜視図である。
【図12】図11のB−B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に示すように、電子内視鏡システム10は、被検者の体腔内をCCDなどの撮像素子で撮像する電子内視鏡11と、撮像により得られた信号に基づいて体腔内の被写体組織の画像を生成するプロセッサ装置12と、体腔内の画像を表示するモニタ13と、体腔内を照明する光を発する光源装置14と、洗浄用のエア・水を供給する送気・送水装置15とを備えている。
【0017】
電子内視鏡11は、体腔内に挿入される可撓性の挿入部16と、挿入部16の先端部分に設けられた先端部16aと、挿入部16の基端部分に設けられた操作部17と、操作部17とプロセッサ装置12及び光源装置14との間を連結するユニバーサルコード18とを備えている。先端部16aにおいては、照明窓40(図2参照)から体腔内に光を照射するとともに、体腔内で反射した光を観察窓42で受光する。また、先端部16aからは、操作部17の鉗子口20から挿入された各種処置具が鉗子出口45(図2参照)から突出される。
【0018】
ユニバーサルコード18には、プロセッサ装置12および光源装置14側にコネクタ24が取り付けられている。コネクタ24は、通信用コネクタと光源用コネクタからなる複合タイプのコネクタであり、電子内視鏡11は、このコネクタ24を介して、プロセッサ装置12および光源装置14に着脱自在に接続される。
【0019】
光源装置14内には、白色光光源26と、励起光光源27と、治療光光源28とが設けられており、各光源から発せられた光は、ユニバーサルコード18及び挿入部16内のライトガイド30を介して、体腔内に照射される。白色光光源26は、波長帯域が青色波長域から赤色波長域にまでおよぶ白色光を発する。励起光光源27は、体腔内で蛍光を励起するための励起光を発する。治療光光源28は、光感受性物質が蓄積した腫瘍患部を死滅させるための治療光を発する。
【0020】
送気・送水装置15は、光源装置14内に設けられた送気用ポンプ32と、光源装置14外に設けられた洗浄水タンク33とを備えている。送気用ポンプ32や洗浄水タンク33から供給されるエアや水は、ユニバーサルコード18及び挿入部16内の送気・送水チャンネル35を介して、観察窓42に吹き付けられる。エアや水の供給またはその停止は、操作部17の送気・送水ボタン37を操作することによって行われる。
【0021】
図2に示すように、先端部16aには、光源装置14内の各光源から発せられた光を体腔内に向けて照明する照明窓40と、体腔内で反射した光を受光する観察窓42と、観察窓42にエアや水を吹き付ける送気・送水ノズル43と、各種処置具を体腔内に向けて突出させる鉗子出口45とが設けられている。
【0022】
この先端部16aには、励起光や治療光を照射したときに生じるハレーション防止用のフード50が装着される。フード50は、観察窓42を覆い、体腔内で反射した光のうち励起光や治療光が観察窓に入ることを阻止する特定波長カットフィルタ51と、照明窓40、送気・送水ノズル43、及び鉗子出口45を体腔内に露呈させる開口部53とを備えている。なお、本実施形態の特定波長カットフィルタは、励起光及び治療光の両方をカットするが、これに限らず、少なくともいずれか一方だけをカット又は減光してもよい。
【0023】
したがって、図3に示すように、照明窓40、送気・送水ノズル43、及び鉗子出口45が開口部53から体腔内に露呈しているため、フード50を先端部16aに装着したことによって、各種光や各種処置具を用いた内視鏡診断や治療に影響を与えることはない。即ち、フード50の装着によって、照明窓40から照射される光の光量は低下することがなく、また、鉗子出口45から出る各種処置具の操作性を低下させることもない。
【0024】
また、図4に示すように、フード50が先端部16aに装着された状態においては、送気・送水ノズル43から供給されるエアや水は、特定波長カットフィルタ51の表面に吹き付けられる。このエアや水の吹き付けによって、特定波長カットフィルタ51に付着した体液や生体組織の一部などの異物は除去される。ここで、図5に示すように、フード50には、送気・送水ノズル43に対向する部分において、特定波長カットフィルタ51の表面に向かって高さが徐々に高くなるように傾斜する傾斜部55が設けられている。このような傾斜部55を設けることで、送気・送水ノズル43から出たエアや水は特定波長カットフィルタ51の表面にまでスムーズに流れるため、エアや水の吹き付けを確実に行なうことができる。
【0025】
なお、患者に投与する薬剤によって、体腔内に照射する励起光や治療光の波長は異なることから、これに合わせて、特定波長カットフィルタ51で遮断する波長帯域を設定する必要がある。例えば、薬剤として「フォトフィリン」を使用した場合には、励起光の波長は「405nm」であり、治療光の波長は「630nm」である。そして、波長「405nm」の励起光によって励起される蛍光の波長は、治療光の波長と大きく異なる「660nm」である。したがって、薬剤が「フォトフィリン」である場合には、図6に示すように、体腔内で反射した光のうち、「405nm」の励起光と「630nm」の治療光を遮断する特定波長カットフィルタを用いる。なお、薬剤として「ビスダイン」を使用した場合も、蛍光の波長(660nm)と治療光の波長(689nm)とは大きく異なっているので、「405nm」の励起光と「689nm」の治療光を遮断する特定波長カットフィルタを用いる。
【0026】
これに対して、薬剤が「レザフィリン」である場合には、治療光の波長は664nmであり、蛍光の波長は660nmであることから、両者はわずか「4nm」しか違わない。したがって、「レザフィリン」使用時の特定波長カットフィルタは、図7に示すように、体腔内で反射した光のうち、「405nm」の励起光は遮断する一方で、蛍光波長に近い「664nm」の治療光は完全に遮断するのではなく、一部減光することが好ましい。
【0027】
さらに、薬剤が「5−ALAプロトポルフィリンIX」である場合には、蛍光は「635nm」と「670nm」とに2つのピークを有する。一方、この薬剤を使用したときの治療光の波長は「630nm」である。したがって、蛍光の一方のピーク波長(670nm)は治療光の波長と大きく異なる一方で、その他方のピーク波長(635nm)と治療光の波長とはわずか「5nm」しか違わない。したがって、「5−ALA プロトポルフィリンIX」使用時の特定波長カットフィルタは、図8に示すように、体腔内で反射した光のうち、「405nm」の励起光と蛍光の一方のピーク波長「670nm」を遮断する一方で、蛍光の他方のピーク波長に近い「630nm」の治療光は完全に遮断するのではなく、一部減光することが好ましい。
【0028】
なお、上記実施形態では、照明窓、送気・送水ノズル、及び鉗子出口の3つを体腔内に露呈させたが、図9に示すように、これら以外に、フード100の開口部101から、先端部16aの一部も露呈させてもよい。なお、フード100は、開口部101以外は、本実施形態のフード50と同じ構成を有している。
【0029】
また、上記実施形態では、照明窓、送気・送水ノズル、及び鉗子出口を1つの開口で露呈させたが、図10及び図11に示すように、フード110に、照明窓40のみを体腔内に露呈させる照明窓用開口111と、鉗子出口45のみを体腔内に露呈させる鉗子出口用開口112を別々に設けるとともに、照明窓用開口111及び鉗子出口用開口112とは別に、送気・送水ノズル43から出るエアや水を特定波長カットフィルタ51に向けて吹き付けるための送気・送水用開口115を設けてもよい。なお、フード110は、照明窓用開口111、鉗子出口用開口112、及び送気・送水用開口115以外は、本実施形態のフード50と同じ構成を有している。
【0030】
この場合、図12に示すように、フード110は、送気・送水ノズル43の吹出口43aと送気・送水用開口115との間に隙間116が形成されるように、送気・送水ノズル43の上部を覆う。したがって、送気・送水ノズル43から出たエアや水は、隙間116、傾斜部55、及び送気・送水用開口115を介して、特定波長カットフィルタ51の表面にまで流れる。これにより、特定波長カットフィルタ51の表面から異物を除去することができる。
【0031】
なお、本実施形態では、CCDなどの撮像素子によって画像を得る電子内視鏡に本発明を適用した例を説明したが、その他、撮像素子を用いない内視鏡、例えば、体腔内で反射した光をイメージガイドで導光し、その導光された光を接眼部で観察する内視鏡にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0032】
11 電子内視鏡
16a 先端部
40 照明窓
42 観察窓
43 送気・送水ノズル
50,100,110 フード
51 特定波長カットフィルタ
53,101 開口部
55 傾斜部
111 照明窓用開口
112 鉗子出口用開口
115 送気・送水用開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体腔内に向けて光を照射する照明窓、体腔内で反射した反射光を受光する観察窓、及び異物除去用の流体を供給するための流体吹付ノズルが設けられた内視鏡の先端部に対して、着脱自在な内視鏡用フードにおいて、
観察窓を覆い、反射光のうち特定波長の光をカットまたは減光する特定波長カットフィルタと、
流体吹付ノズルからの流体を特定波長カットフィルタの表面にまで流すための開口部を備えることを特徴とする内視鏡用フード。
【請求項2】
前記開口部によって、照明窓及び流体吹付ノズルが体腔内に露呈されることを特徴とする請求項1記載の内視鏡用フード。
【請求項3】
前記開口部によって、照明窓及び流体吹付ノズルが体腔内に露呈するとともに、先端部の先端から一定範囲の部分を体腔内に露呈する請求項1記載の内視鏡用フード。
【請求項4】
前記開口部とは別に設けられ、前記照明窓のみを体腔内に露呈させる照明窓用開口を備えることを特徴とする請求項1記載の内視鏡用フード。
【請求項5】
前記流体吹付ノズルと対向する部分に設けられ、特定波長カットフィルタの表面に向かって高さが徐々に高くなるように傾斜している傾斜部を備えることを特徴とする請求項1ないし4いずれか1項記載の内視鏡用フード。
【請求項6】
前記特定波長カットフィルタは、PDTで使用する治療光をカットまたは減光することを特徴とする請求項1ないし5いずれか1項記載の内視鏡用フード。
【請求項7】
前記特定波長カットフィルタは、PDDで使用する蛍光励起用の励起光をカットまたは減光することを特徴とする請求項1ないし6いずれか1項記載の内視鏡用フード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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