説明

内部に空間を有する構造体のHIP法による製造法

【課題】 ろう付法、電子ビーム溶接法のように異材を用いず、全体加熱後においても金属組織および機械特性の回復が容易に可能で、内部に空間を有する冷却または加熱プレートのような構造体を安定的に得る。
【解決手段】内部に空間を有する構造体を内包する容器を構成する外管2Aは加圧力Pで変形しないように通常の外管厚さよりも肉厚のあるものとし、接合界面に対して加圧力Pが作用するふた3Aは逆に通常より薄くし、ふた3Aの内部には、加圧板5が移動できる隙間6を外管2Aの間に設ける構造とする。 加圧力Pが作用すると、ふた3Aは加圧により内部に圧下変形して加圧板5を押し下げて、隙間6の分だけ加圧板5が移動して構成材1Aと1Bを加圧変形させ、拡散接合を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却プレートや加熱プレート等のように、冷却や加熱機能を付与する外部への開口を持つ内部空間を有する構造体のHIP法による製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体や液晶製造装置には、冷却や加熱など熱作用によりプロセス処理を行う精密部品が数多く使用されており、冷却プレートや加熱プレートなどはその代表的なものである。
【0003】
例えば、冷却プレートは静電チャックと呼ばれる処理品を着脱固定する部品と組み合わせて用いられることが多く、処理品への過大な熱負荷による品質劣化を防止するために、温度調整を行う機能を有する。そのため、冷却プレートの内部には冷媒流体を流すための複雑な空間が設けられ、不活性ガスや純水などの冷媒流体がこの空間内を循環する機構となっている。また、加熱プレートは、空間内にシーズヒーターなどの加熱体を内包した構造であり、処理品に適度な温度分布を与える機能をもつ構造体である。
【0004】
このように、冷却プレートおよび加熱プレートは、処理品に対して熱作用を付与する部品であるため、熱伝導ロスをできるだけ小さくする目的で、高熱伝導材であるアルミや銅などを主体とした金属や合金を素材とするのが一般的である。特に、純アルミおよびアルミ合金は、比重が小さく、水に対する耐食性もあるため、冷却プレートにはよく用いられる素材である。
【0005】
従来、係る冷却プレートのようなアルミ合金素材を用いて内部に冷却水路を有した構造体を製作するには、下記特許文献に開示されているように、ろう付法や電子ビーム溶接法が一般的に用いられてきた。
【0006】
ろう付法は、処理品に対して変形をほとんど与えることなく、例えばアルミニウム合金のろう付の場合、真空または不活性ガス雰囲気中においてAl−Si系のろう材とフラックスのみを溶融させて接合するという処理品全体を加熱処理する接合方法である。しかしながら、ろう付法はろう材とフラックスのみを選択的に溶融させる必要があるため温度管理が複雑であり、それに適用できるろう材およびフラックスは十分に開発されていないのが現状である。また、ろう材の溶融量が過多になると構造体の内部空間に流失したり、開口を閉塞することもあり、その場合の除去に、余分な酸洗工程が必要となる。そして、ろう付法は全体加熱となってしまうため、A6061−T6のような熱処理型アルミ合金においては、処理品は焼鈍処理と同等の効果をろう付によって受けるため、金属組織および機械特性は焼鈍材相当になってしまう。
【0007】
また、電子ビーム溶接は、高エネルギー密度の電子ビームを狭い開先に絞ることができるため処理品のほとんどは加熱されることがないという部分加熱による接合方法であるが、構造や寸法によっては、適用するには制限もかなり多い。そのため、複雑な構造の場合にはビームが照射できない入り組んだ開先形状を採用することもあり、構造設計を元から変更せざるを得ないことになってしまう。また、開先同士が近い場合には溶接部が再溶融されるような過剰な熱負荷を受ける結果となり、溶接部が劣化することもある。
【0008】
さらに、例えば、A6061−T6のような熱処理型アルミ合金において、溶融溶接を行う場合には、MgやSiの成分組成によっては割れ感受性が高くなるため、割れ防止のため溶接助材としてAl−Si系やTiの添加が必要になることから、やはり電子ビーム溶接法においても異材となる溶接助材を用いらざるを得ないのが現実である。
【特許文献1】特許第3288922号
【特許文献2】特開平9−1384
【特許文献3】特開平10−001734
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、冷却プレートや加熱プレートのように、内部に空間を有する構造体を製造する場合において、異材であるろう材を用い全体加熱を前提とするろう付法、および構造設計において制限の多い電子ビーム溶接法のような従来方法における上記欠点を解消するものである。
【0010】
具体的には、ろう付法、電子ビーム溶接法のように異材を用いず、全体加熱後においても金属組織および機械特性の回復が容易に可能で、内部に空間を有する構造体を安定的に得ようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
図1は本発明に係る内部に空間4を有する構造体1の製造方法を示す。同図(a)は平面から見た図を示し、(b)は(a)のX−X線から見た断面を示す。従来のろう付法および電子ビーム溶接法においては、構造体1の構成材である1Aおよび1Bの接合界面に異材を介在させることが必須であり、製品特性にも制限が加わってくることは自明であり、このことから、構造設計において自由度が高く、異材を用いずに構成材を一体化接合できるHIP(熱間等方加圧)法が適しているという認識に基づく。
【0012】
ところが、図1に示す構造体1は、内部にある空間4はかなり単純化した形状として示しているが、実際の冷却プレートでは熱分布の均一化のため水路配置は複雑で、水路面積もかなりの割合を占める。また、構造体1の内部にある空間4は外部に通じる開口部も有しており、一体化した場合でも、空間4の閉塞による内部圧力が発生しない構造となっている。
【0013】
すなわち、図1に示す構造体1を、図2に示すように、通常のHIP法における処理容器となる外管2およびふた3で形成される容器内に内包して接合処理を行うと、処理容器は加圧力Pを受けて変形し、さらに処理容器に内包された構造体1の内部にある空間4も加圧力Pが作用し続けると変形し続け、ついには閉塞することになる。このような構造を有する冷却プレートに熱処理型アルミ合金であるA6061−T6を用いた場合、ろう付法においてはもちろん、通常のHIP法においても全体加熱となってしまい、金属組織は粗大化し、機械特性が低下する焼鈍効果を受けてしまう。さらには、冷却プレートとしては必須の特性である熱伝導性も劣化することさえある。
【0014】
本発明は、この通常のHIP法に対して、加圧媒体として雰囲気ガスを用いて行うことによって高温での熱伝達性がさらに良好となるHIP法による拡散接合法を適用することによって、上記課題を達成したものである。
【0015】
そして、構造体の加圧変形量として加圧板の移動量を予め設定することによって、構造体を形成する複数素材の界面に単一素材による一体化した拡散接合を形成する。
【0016】
このHIP法による拡散接合法を適用することによって得られた内部に空間を有する構造体は、接合のための異材を用いることなく界面接合によって直接一体化されるため、接合界面における反応層の形成も抑止することができ、接合後において構造体を単一の構成材とすることが可能となる。
【0017】
本発明のHIP処理後においても、従来法であるろう付法と同様に、全体加熱であるため内部に空隙を有する構造体は焼鈍状態となり、組織の粗大化および機械特性の低下が起こっている。そこで、ろう付法や電子ビーム溶接法のように異材を介在させることなく界面接合が達成できる点に本発明の特長が発揮されることになる。つまり、HIP処理後において通常の熱処理が容易に行えて、金属組織および機械特性の回復が十分に可能となる。本発明では、構造体を接合した後に追加で熱処理を行うことによって構造体の劣化した特性を回復するという、改質処理が通常の熱処理を行うことで実現できる。
【発明の効果】
【0018】
内部に空間を有した構造体の製作にHIP法による拡散接合法を適用したことによって、ろう付法や電子ビーム溶接法にくらべて、異材を介在させることなく安定した品質で信頼性の高い界面特性が得られ、寸法形状の自由度は高くなり、しかも工程数が省略できる。さらに異材を介在させないため接合処理によって劣化した製品特性も追加の熱処理によって、容易にかつ十分に回復できる。
【0019】
冷却プレートの製造において、同一の管理方法、製造条件が採用でき、寸法および形状に関係なく制限容量内で同バッチ処理することも可能であるため、コストおよび納期的にも有利となる。
【0020】
本発明に係るHIP法は界面接合に異材を介在させない方法であるため、大気酸化や熱サイクルによる熱応力が接合界面の劣化を引き起こすことはほとんど無視でき、接合界面は良好な拡散接合により一体化しているため劣化しない。
【0021】
また、異材が接合界面に存在しないため、接合界面において金属間化合物の形成やカーケンダルボイドの生成などの望ましくない界面反応も防止でき、接合界面の性能を良好に維持または改善できることは製品品質の確保には優位である。
【0022】
さらに、本発明においては、HIP処理後に溶接したふたを切削除去すれば、内包した構造体は容易に取り出すことができ、また、処理容器を構成する外管および加圧板は繰り返して使用することが可能であるため、製造コストの面からも有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の実施においては、容器および構造体の内部にある空間の過大な変形の発生を抑えるために、通常のHIP法における処理容器の形状および寸法を一部改良することが特に重要になる。
【0024】
本発明による内部に空間を有する構造体への適用例を示す図3の(a)、(b)において、内部に空間を有する構造体を内包する処理容器を構成する外管2Aは加圧力Pで変形しないように通常の外管厚さよりも肉厚のあるものとし、接合界面に対して加圧力Pが作用するふた3Aは逆に通常より薄くし、ふた3Aの内部には、加圧板5が移動できる隙間6を外管2Aの間に設ける構造とすることが特に有効である。
【0025】
この構造によって接合処理を行う場合、加圧力Pが作用すると、ふた3Aは加圧により内部に圧下変形して加圧板5を押し下げて、隙間6の分だけ加圧板5が移動して構成材1Aと1Bを所定量だけ加圧変形させることになる。もちろん、加圧変形量を適正に付与するためには、加圧板5も圧下変形しないことが必要である。
【0026】
図3(a)の部分拡大図を示す図4を参照して説明すると、ふた3Aは、その周囲の溶接部7において、外管2Aと予め溶接されて、構造体1が内包された処理容器内部は真空または不活性雰囲気下とし、構造体1の内部にある空間4は開口部を通して処理容器内と同じ雰囲気となる。加圧板5は、隙間6の大きさを超えて移動できないようにするため、隙間6の大きさが加圧板5の移動量である構成材1の変形量をほぼ決定することになる。しかし、現実のHIP処理においては、加圧と同時に加熱も行うため、構成材1Aおよび1Bだけではなく、容器を構成する外管2A、ふた3A、および加圧板5も熱膨張するため、それらの熱膨張変形も複合した結果で変形量は決まることになるが、構造材1の接合界面に対してもっとも有効に作用する加圧力は加圧板5の移動量であり、この移動量を最大に決定する要因は隙間6の寸法である。
【0027】
因みに、一つの処理容器において、この隙間6は0.1〜1.0mmで設定されるのが望ましいが、複数の冷却プレートを1容器で処理する場合、隙間6の等分割合は、冷却プレート1式当たりで0.1〜0.5mmが好ましく、さらに好ましくは、0.2〜0.4mmの範囲である。
【0028】
このようにして、隙間6を適正に設定することで構造体1にわずかであるが適度の変形量を与えることと、また、処理容器を通して容器外部からの圧媒ガスからの熱を伝達して所定の温度に保持することも可能となり、構成材1Aと構成材1Bの接合界面において良好な拡散接合が達成できる。
【0029】
そして、例えば構成材がアルミ合金である場合、処理容器の材質は加圧力で変形しない程度の構造強度を有することが必要である。機械加工性および溶接性を考慮すると、軟鋼、炭素鋼、ステンレス鋼、および合金鋼などが処理容器の材質として用いることができる。構成材自体の熱膨張量も一部変形量に寄与することを考えると、アルミ合金の方が熱膨張率が大きいためいずれの容器材質の場合にも好ましい。
【0030】
また、処理容器で拘束した状態で構造材のみの熱膨張のみで加圧力を付加することも可能ではあるが、処理容器内に構造材を配置するための加工寸法として、加圧によって構成材1を変形させる変形量、処理容器構成材の熱膨張量、構造材と容器内面との間隔、および処理容器と構造材1の剥離を容易にするために配置される剥離材の寸法、枚数などを考慮しなければならない。
【0031】
ところで、この剥離材としては、金属箔や塗布膜が候補材として考えられるが、セラミックスなど耐熱性粉体のスプレー塗布膜は処理容器内部の雰囲気を汚染したりして、最悪の場合構造体の接合界面に侵入して良好な界面接合を阻害することがあるため望ましくない。むしろ、金属箔のほうが接合界面への侵入の可能性がなく、耐熱性金属箔であれば複数枚重ねることで、HIP処理後における取り出し時には処理容器と構造材および構造材同士の分離に十分に寄与する。
【0032】
もちろん、一つの処理容器内に内包される構造体の数量は単数であるよりも複数のほうが製造コストの点からは有利であり、その点、本発明の場合、構造体の間に仕切板を配置することによって十分に適用できる。
【0033】
ところで、本発明を冷却プレートに適用した場合、熱処理型アルミ合金であるA6061−T6が構成材として好適に採用されるが、これに限らず、界面反応において有害な反応を起こさない限り、各種機能を有した複数の構成材間の組み合わせとなっても構わない。拡散接合できる材質であれば構成材に制限はない。例えば、高熱伝導体としてはCuを主体とした銅合金などもその構成材となりうる。他にも、機械加工性や耐熱性のなどの点から、ステンレス鋼、ニッケル合金、チタンおよびチタン合金を材質として仕様に合わせて選定すればよく、本発明はそのほとんどの材質に適用可能である。
【0034】
もちろん、冷却プレートの場合、2層構造となるのが最も簡素な構造であるが、3層構造となることもあり、構成材が同一材種となるばかりではなく、異なる機能の組み合わせによる複合効果を目的として複数の種類の構成材の組み合わせとなることも可能である。
【0035】
例えば、表面層を熱伝導性の高いアルミ合金A6061やA5052とし、裏側を耐熱性のあるステンレス鋼SUS304やSUS316Lの2層構造とすることも可能であり、その点でも、接合のための異材を介在させずに、拡散接合することで異種構成材間の界面接合が実現できるHIP法は好適である。
【0036】
本発明で使用するHIP装置としては、加熱と加圧が同時または個別に行える装置であればよく、処理品は容器に真空封入してアルゴンまたは窒素ガスによって所定の等方圧を負荷できる機能を備えていればよい。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例として、本発明を、図5に示す静電チャック用冷却プレートの製造に適用した。同図において、(a)は内部空間としての冷却水路8の平面の形態を示し、(b)と、(a)図のX−X線による断面構造を、それぞれの部位の寸法とともに示す。この冷却水路8は使用時には純水を循環するものである。
【0038】
処理容器の材質として軟鋼と炭素鋼を選定し、内部の冷却水路を熱処理型アルミ合金A6061−T6の単一構成材とした。
【0039】
この冷却プレートは外径がφ312で、上板10および溝ふた11のそれぞれの厚さは14mmと18mmで、合計厚さは32mmである。また、水路は幅8mmで深さ8mmの角型断面を有している。そして、上板11の上面側中央部には純水の開口部となる穴が2ケ所加工されている。
【0040】
HIP処理前において、上板10と溝ふた11は位置決めピン9で3ヶ所を仮固定している。
【0041】
上板10および溝ふた11のそれぞれの接合界面は機械加工で、▽▽▽仕上げ程度となっており、洗浄した上で接合界面に何も介在させることなく組み立てた。
【0042】
厚肉円筒形状をした外管2Aは炭素鋼管STKM13A製で、上下2枚の炭素鋼S25製加圧板5で形成された処理容器内に、上板10と溝ふた11の2枚で構成する1式の冷却プレート計2式を配置して組み立て、真空雰囲気の電子ビーム溶接装置内で軟鋼STHC製の上下2式のふた3Aの開先を全周シール溶接した。
【0043】
因みに、処理容器となる外管2Aの外径は約φ400mm、高さは約200mmで、上下2枚の加圧板5の厚さは約60mmで、溶接固定する上下2枚のふたの厚さは約3mmであった。また、処理容器の内周全面、加圧板5の構造体側の面2面、および冷却プレート間のそれぞれには剥離材として厚さ0.1mmのSUS304ステンレス鋼箔が複数枚装入されている。
【0044】
そして、冷却プレート2式をHIP処理装置内に容器ごとに配置して所定のHIP処理を行った。
【0045】
HIP処理のパターンは、最高保持温度は500℃で、保持圧力は160kg/cmで、保持時間2hrとした。加圧力Pはふた3Aを内部に圧下変形させて、加圧板5を移動させて隙間6をなくす程度の低い加圧力とした。因みに、HIP処理後における冷却プレート2式の加圧変形量はで0.18〜0.41mmで、平均で0.30mmであった。
【0046】
このように、加圧力としては、処理容器も変形させるような過大な大きさは必要がないのが本発明によるHIP法の特徴でもある。
【0047】
また、加圧および冷却パターンには特別な配慮は必要がなく、一般的な機能を有したHIP装置であれば十分に適用できる。
【0048】
HIP処理後にふた3Aを溶接部で切削除去したところ、処理容器内に内包されて一体化された冷却プレート2式は容易に取り出すことができた。
【0049】
HIP処置直後において2式の冷却プレートのうちの1式から破壊試験用として各種試験片を採取して金属組織観察、断面硬さ測定、剥離試験を実施した。
【0050】
光学顕微鏡による倍率100倍での組織観察の結果、接合界面には何ら界面欠陥はなく、接合界面がエッチングしても識別できないほど一体化されていた。
【0051】
断面硬さ測定の結果、中心部、中間部、および周辺部ともにビッカース硬さHv(1)=約40となり、A6061−0(焼鈍)の標準値であるブリネル硬さHB=30に近い値が得られた。つまり、原料素材であるA6061−T6はHIP処理によって全体加熱されたため、A6061−Oに軟化したことが確認された。
【0052】
接合界面の接合強度として剥離強さを調べたところ、中心部、中間部、および周辺部ともに剥離強さとして、約13kgf/mmという値が得られたが、これはA6061−0(焼鈍)の標準値である引張強さ12.7kgf/mmに匹敵するものであり、接合界面の接合強度も6061−0(焼鈍)母材強度に相当することが確認できた。
【0053】
そして、冷却プレート1式については追加の熱処理としてT6処理相当の熱処理を行い、十分に金属組織および機械特性が回復することを確認するために、焼入れおよび人工時効を通常のアルミ合金の熱処理で用いられる大気雰囲気の電気炉で行った。溶体化処理は520℃保持とし、焼入れは水中投下とし水温と同一温度になるまで水中に保持した。人工時効は170℃で9時間保持として、同様に、大気雰囲気の電気炉を用いて処理した。
【0054】
水焼き入れによる熱応力および大気雰囲気における高温酸化にも耐えて剥離することなく、冷却プレートは熱処理を完了することができ、HIP直後と同様に破壊試験のための各種試験片を採取できた。
【0055】
光学顕微鏡による倍率100倍での組織観察の結果、熱処理後においても接合界面には何ら界面欠陥はなく、接合界面がエッチングしても識別できないほど一体化されていた。
【0056】
さらに、焼き入れおよび人工時効の結果、HIP処理で粗大化した金属組織も微細化されて、良好な熱処理組織となっていた。
【0057】
断面硬さ測定の結果、中心部、中間部、および周辺部ともにビッカース硬さHv(1)は約100となり、A6061−T6の標準値であるブリネル硬さHB92に近い値が得られた。つまり、原料素材であるA6061−T6がHIP処理後に全体加熱されてA6061−O相当材になったが、追加熱処理の結果A6061−T6に回復したことが確認された。
【0058】
追加の熱処理後における接合界面の接合強度として剥離強さを調べたところ、中心部、中間部、および周辺部ともに剥離強さとして、約33kgf/mmという値が得られたが、これはA6061−T6の標準値である引張強さ31.6kgf/mmに匹敵するものであり、接合界面の接合強度が6061−T6母材強度に相当することが確認できた。
【0059】
つまり、HIP処理後にはA6061−O(焼鈍)相当の金属組織および機械特性となっていたが、HIP法のよる内部に空間を有した構造体である冷却プレートは、追加で熱処理を行うことによって、原料素材であるA6061−T6に相当する金属組織および機械特性に十分に回復させることができることが確認された。
【0060】
また、HIP処理後および追加熱処理後において、冷却プレートについて全面超音波探傷検査およびヘリウムリーク試験を行った結果、超音波探傷検査ではHIP処理後および追加熱処理後ともに合格し、界面接合が良好に行われたことが非破壊検査でも証明された。また、ヘリウムリーク試験では、リークレートが3×10exp(−11)Pa・m/secレベルの良好な値が得られ、気密性も優れていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明が適用できる内部に空間を有した構造体の代表的な形態を示す。同図(a)は平面から見た図を示し、(b)は(a)のX−X線から見た断面を示す。
【図2】本発明が適用できない通常のHIP法による処理方法を示す。
【図3】本発明による内部に空間を有する構造体への適用例を示す。
【図4】実施例で用いた静電チャック用冷却プレートの代表的な形態および断面形状を示す。
【図5】本発明を適用した静電チャック用冷却プレートの形態を示す。
【符号の説明】
【0062】
1 内部に空間を有した構造体
1A、1B 構成材
2 通常の外管
2A 本発明における外管
3 通常のふた
3A 本発明におけるふた
4 空間
5 加圧板
6 隙間
7 溶接部
8 水路
9 位置決めピン
10 冷却プレートの上板
11 冷却プレートの溝ふた
P 加圧力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理容器内に配置された外部への開口部をもつ空間を内部に有する構造体をHIP法によって拡散接合する構造体の製造法であって、構造体への変形量を付与する加圧板の移動量を予め設定する内部に空間を有する構造体のHIP法による製造法。
【請求項2】
構造体への変形量を付与する加圧板の移動量が、加圧板と容器との間の移動隙間によって設定された請求項1に記載の内部に空間を有する構造体のHIP法による製造法。
【請求項3】
構造体をHIP法により接合処理した後に熱処理を行うことによって構造体を改質する請求項1に記載の内部に空間を有する構造体のHIP法による製造法。
【請求項4】
構造体の少なくとも一部を純アルミまたはアルミ合金とした請求項1に記載の内部に空間を有する構造体のHIP法による製造法。
【請求項5】
アルミ合金が熱処理型アルミ合金A6061である請求項1に記載の内部に空間を有する構造体のHIP法による製造法。
【請求項6】
構造体が静電チャック用冷却プレートである請求項1に記載の内部に空間を有する構造体のHIP法による製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−255131(P2009−255131A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−107550(P2008−107550)
【出願日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(000143628)株式会社黒木工業所 (17)
【Fターム(参考)】