説明

内部電極型太陽電池

【課題】内部電極型太陽電池において、漏洩電流を低減しながら埋め込む電極の本数を増加して、より光電変換効率を向上した太陽電池を得る。
【解決手段】本発明の内部電極型太陽電池は、受光面を有する半導体基板(1)と、半導体基板(1)内部に埋め込まれた複数の第1の電極(2)と、半導体基板(1)内部に埋め込まれ第1の電極(2)とは極性の異なる複数の第2の電極(4)と、を備え、第1の電極(2)を受光面(1a)から第1の距離(t1)に形成し、第2の電極(4)を受光面(1a)から第2の距離(t2)に形成し、このとき、第1および第2の距離(t1、t2)を異ならせている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換効率を高めた内部電極型太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
PN接合タイプの太陽電池では、半導体基板の受光面および裏面にそれぞれ電極を設けた表裏面電極型と、基板裏面(受光面とは反対側の面)のみに正および負の両方の電極を設けた裏面電極型の太陽電池が知られている。表裏面電極型の太陽電池では、例えば、受光面に正電極を、裏面に負電極を設ける構造であるが、受光面に設ける表面電極によって入射光が遮られるため受光ロスの発生が避けられず、光電変換効率の向上が難しいという欠点を有している。一方、裏面電極型の太陽電池では、受光面に電極を設けないので受光ロスの発生は回避できるが、半導体基板内部で受光により発生した正、負のキャリアが裏面電極に達するまで、長い距離を移動距離する必要があり、その間に両者が再結合して消滅する確率が高くなる。このようなキャリアの再結合によって光電変換効率が低下する。再結合損失を低下させるために半導体基板を薄くすると、光吸収量が低下するという問題がある。
【0003】
表裏面電極型および裏面電極型太陽電池の上記のような欠点を解決するために、半導体基板内部に正、負の電極を埋め込んだ、内部電極型太陽電池が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
図1に、特許文献1において提案された内部電極型太陽電池の断面構造を示す。図において、100は、例えばSiなどのp型あるいはn型半導体基板、102は断面がひし形の負電極であり、その周囲に電子収集層として働くn+層103が設けられている。104は断面がひし形の正電極であり、その周囲に正孔収集層として働くp+層105が設けられている。この構造の太陽電池では、基板内部に正、負の電極102、104が埋め込まれているので、電極によって受光面が遮蔽されることはなく、従って受光ロスは低減される。また、半導体基板100の内部で発生したキャリアが電極まで達する距離が短くなるので、半導体基板100の厚さtを裏面電極型太陽電池に比べて厚くして光吸収効率を上げることができる。
【0005】
さらに、電極断面をひし形とすることによって、受光面に垂直方向から入射した光は、入射方向とは異なる方向に反射される。その結果、入射方向へ反射される場合より光路が長くなる効果(光閉じ込め効果)が生じ、光の吸収確率が向上するので、より光電変換効率が改善する。また、半導体基板の表面および裏面を共に受光面とする、両面入射型太陽電池を容易に形成することもできる。なお、両面受光型太陽電池に関しては、特許文献2にその記載がある。
【0006】
【特許文献1】特開2002−280586
【特許文献2】特開平11−354822
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、内部電極型太陽電池は種々の利点を有しているが、このような太陽電池においてさらに光閉じ込め効果を向上させて光電変換効率を上げるために、半導体基板内部に形成する電極の本数を増加することが考えられる。電極本数の増加によって、より多くの入射光が電極によって反射され、光路長が長くなるので、光閉じ込め効果がより顕著になる。ところが、図1の構造では、電極本数の増加によって隣接する正負の電極間距離が短くなり、その結果として漏れ電流の増加を招く。そのため、電極本数の増加に見合う光電変換効率の向上は見込めない。
【0008】
このように、従来の内部電極型太陽電池では、電極本数を増加させることによる光閉じ込め効果の向上と漏れ電流の低減を両立させて、より高い光電変換効率を実現することは困難であった。
【0009】
本発明は、従来の内部電極型太陽電池の、上記のような欠点を解決する目的でなされたもので、より高い光電変換効率を実現することが可能な、内部電極型太陽電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の内部電極型太陽電池は、受光面を有する半導体基板と、前記半導体基板内部に埋め込まれた複数の第1の電極と、前記半導体基板内部に埋め込まれ前記第1の電極とは極性の異なる複数の第2の電極と、を備え、前記第1の電極を前記受光面から第1の距離に形成し、前記第2の電極を前記受光面から第2の距離に形成し、さらに前記第1および第2の距離を異ならせた構成を有する。
【0011】
上記内部電極型太陽電池において、前記第1の電極および前記第2の電極の断面はひし形としても良い。さらに、前記第1の電極および第2の電極の断面形状を異ならせても良い。第1、第2の電極の断面構造が異なる場合は、前記第1の電極が前記受光面に近い距離にある場合、その断面形状が受光面側において90°よりも小さい頂角を有する多角形とし、前記第2の電極が前記第1の電極よりも前記受光面に対して遠い距離にある場合は、その断面形状が受光面側において90°よりも大きい頂角を有する多角形としても良い。
【0012】
また、上記各内部電極型太陽電池において、前記第1の電極を前記受光面から前記半導体基板の厚みの半分より小さい距離に形成し、前記第2の電極を受光面から前記半導体基板の厚みの半分より大きい距離に形成しても良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明の内部電極型太陽電池では、第1の電極を半導体基板の受光面から第1の距離に形成し、第2の電極を受光面から第1の距離とは異なる第2の距離に形成している。そのため、第1の電極と第2の電極間を、両者の間で漏れ電流が大きくならないある一定以上の距離を保った場合であっても、第1の電極と第2の電極とを受光面から同じ距離に配置する場合に比べて、より多くの電極を半導体基板内部に形成することができる。これによって、漏れ電流の低減と光閉じ込め効果による光吸収量の増大とを両立させ、光電変換効率の高い太陽電池を実現することが可能となる。
【0014】
また、電極断面をひし形などの多角形とすることによって、受光面に垂直方向から入射した光を受光面方向とは異なる方向に反射して光路長を大きくし、より光電変換効率を上げることができる。また、第1の電極を受光面から半導体基板の厚みの半分より小さい距離に形成し、第2の電極を受光面から半導体基板の厚みの半分より大きい距離に形成することによって、第1、第2の電極間距離を一定に保ったまま、より効率的に半導体基板内の電極本数を増加させることができる。この場合、受光面から近いほうの電極の多角形における頂点を90°より小さくし、受光面から遠いほうの電極の多角形の頂点を90°より大きくすることによって、さらに効果的に反射光の光路長を大きくし、光電変換効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
[実施形態1]
図2に、本発明の実施形態1にかかる内部電極型太陽電池の断面図を示す。図において、1は例えばSiなどのp型あるいはn型半導体基板、2は断面がひし形の負電極であり、その周囲に電子収集層として働くn+層3が設けられている。4は断面がひし形の正電極であり、その周囲に正孔収集層として働くp+層5が設けられている。図示するように、本実施形態の太陽電池では、負電極2と正電極4とが半導体基板1の受光面1aから異なる深さt1、t2に形成されている。負電極2の形成される深さt1は半導体基板1の厚さtの半分以下であり、正電極4の形成される深さt2は厚さtの半分以上である。なお、正電極4を半導体基板の上方に配置し、負電極2を下方に配置しても良いことは勿論である。
【0016】
図3は、図2に示す内部電極型太陽電池の受光面1aに平行な断面を示す図であり、特に図(a)は図2のA−A線上断面図、(b)はB−B線上断面図である。図(a)および(b)に示すように、本太陽電池では、半導体基板1の対向する二つの側面にそれぞれ露出して出力端子10、12が設けられており、半導体基板1の外周は絶縁層14で被覆されている。負電極2は、絶縁層14を貫通する接続部21によってマイナス側出力端子10と電気的に接続し、正電極4は絶縁層14を貫通する接続部41によってプラス側出力端子12と電気的に接続している。
【0017】
図4は、本発明の効果を説明するための図であるが、比較のために図(a)に図1の従来例における電極配置を示す。従って、図(b)が本実施形態における電極配置に関する図である。図(a)、(b)において、aは隣接する正負の電極間距離を示し、b、b’は隣接する同じ極性の電極間距離を示す。隣接する正負の電極間距離aは、漏洩電流を低下させるためにもある程度の距離が必要であり、図(a)に示す従来構造であっても、図(b)に示す本実施形態の構造であっても、最適距離aを保つ必要が有る。
【0018】
しかしながら、本発明の構造では、図(b)に示すように、正または負の電極が半導体基板1の深さ方向において異なる距離に形成されているため、正および負の電極2、4間を距離aに保っても、同じ極性の電極間距離b’を距離bより小さくすることができる。即ち、本発明の構造では、半導体基板1内に形成する電極の本数を、正負の電極間距離を低下させることなく増加させることができる。これによって、漏洩電流を低減させながら光閉じ込め効果を向上させて、高出力の太陽電池を得ることができる。
【0019】
以下に、本実施形態における一実施例を示す。なお、Cはキャリア濃度を示す。
【0020】
半導体基板1(光吸収部):p型Si基板(単結晶)、C=1×1015cm−3、厚さ200μm
負電極2:Al、電極高さ20μm、受光面からの深さ50μm
電子収集部3:n+型Si層、C=1×1019cm−3、拡散深さ1μm
正電極4:Al、電極高さ20μm、受光面からの深さ100μm
正孔収集部5:p+型Si層、C=1×1019cm−3、拡散深さ1μm
【0021】
なお、上記実施例では基板材料としてSiを挙げているが、これ以外の半導体材料、例えばGe、GaAs、InPなどを用いても同様の効果がある。また、負電極2を受光面に近い位置に、正電極4を受光面から遠い(深い)位置に配置しているが、この逆であっても同様の効果を得ることができる。また、図2の実施例では、正、負の電極の断面はひし形とされているが、円形であっても、あるいはその他の多角形であっても良い。
【0022】
[実施形態2]
図5に、本発明の実施形態2にかかる内部電極型太陽電池の断面構造を示し、図6にその効果を示す。なお、図5および6において図2と同じ符号は同一または類似の構成要素を示すので、重複した説明は行わない。
【0023】
図5および図6から明らかなように、本実施形態では、受光面1aから浅い位置に形成する負電極2およびその周囲のn+層3のひし形形状において、ひし形の頂角θ1(図6(a)参照)を90°より小さい角度に設定し、一方、受光面1aから深い位置に形成される正電極4’およびその周囲のp+層5’のひし形形状において、ひし形の頂角θ2(図6(b)参照)を90°より大きな角度に設定したことを特徴としている。図6(a)に示すように、受光面1aに近い位置に形成した負電極2のひし形の頂角θ1を90°より小さくした場合は、受光面1aに垂直に入射する光は半導体基板1の裏面側に反射される。そのため、反射光が受光面側に向かう場合よりも長い光路長が得られる。
【0024】
反対に、図6(b)に示すように、受光面1aから深い位置に形成した正電極4’のひし形の頂角θ2を90°より大きくした場合は、受光面1aに垂直に入射する光は半導体基板1の表面側に反射される。そのため、反射光が裏面方向に向かう場合よりも長い光路長が得られる。その結果、本実施形態の太陽電池では、図2に示す実施形態の場合よりも大きな光閉じ込め効果を得ることができる。なお、正および負電極2、4’において、裏面側の頂角は必ずしも受光面側の頂角と同じ角度でなくとも良い。
【0025】
以下に、実施形態2の一実施例を示す。なお、Cはキャリア濃度を示す。
【0026】
半導体基板1(光吸収部):p型Ge基板(単結晶)、C=1×1016cm−3、厚さ200μm
負電極2:Al、電極高さ20μm、受光面からの深さ50μm
受光面側の頂角θ1=60°
電子収集部3:n+型Ge層、C=1×1019cm−3、拡散深さ1μm
正電極4:Al、電極高さ20μm、受光面からの深さ130μm
受光面側の頂角θ2=120°
正孔収集部5:p+型Ge層、C=1×1019cm−3、拡散深さ1μm
【0027】
なお、上記実施例では、基板材料としてGeを挙げているが、これ以外の材料、例えば、Si、GaAs、InPなどを用いても同様の効果がある。また、負電極2を受光面に近い位置に、正電極4’を受光面から遠い(深い)位置に配置しているが、この逆であっても同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】従来の内部電極型太陽電池の構造を示す断面図。
【図2】本発明の実施形態1にかかる内部電極型太陽電池の構造を示す断面図。
【図3】図2に示す内部電極型太陽電池の受光面に平行な断面を示す図であり、(a)は図2のA−A線上断面図、(b)は図2のB−B線上断面図。
【図4】本発明の内部電極型太陽電池の効果を説明するための図。
【図5】本発明の実施形態2にかかる内部電極型太陽電池の構造を示す断面図。
【図6】図5に示す内部電極型太陽電池の効果を説明するための図。
【符号の説明】
【0029】
1 半導体基板
1a 受光面
2 負電極
3 n+層
4 正電極
5 p+層
10、12 出力端子
14 絶縁層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受光面を有する半導体基板と、
前記半導体基板内部に埋め込まれた複数の第1の電極と、
前記半導体基板内部に埋め込まれ前記第1の電極とは極性の異なる複数の第2の電極と、を備え、
前記第1の電極は前記受光面から第1の距離にあり、前記第2の電極は前記受光面から第2の距離にあり、前記第1および第2の距離は異なっていることを特徴とする、内部電極型太陽電池。
【請求項2】
請求項1に記載の内部電極型太陽電池において、
前記第1の電極および前記第2の電極の断面はひし形であることを特徴とする、内部電極型太陽電池。
【請求項3】
請求項1に記載の内部電極型太陽電池において、
前記第1の電極および第2の電極の断面形状は異なっていることを特徴とする、内部電極型太陽電池。
【請求項4】
請求項3に記載の内部電極型太陽電池において、前記いずれかの電極が、前記受光面から前記半導体基板の厚みの半分より小さい距離にある場合、当該電極はその断面形状が受光面側において90°より小さい頂角を有する多角形であり、前記受光面から前記半導体基板の厚みの半分より大きい距離にある場合、当該電極はその断面形状が受光面側において90°より大きい頂角を有する多角形であることを特徴とする、内部電極型太陽電池。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の内部電極型太陽電池において、
前記第1の電極は前記受光面から前記半導体基板の厚みの半分より小さい距離にあり、かつその断面形状が受光面側において90°より小さい頂角を有する多角形であり、前記第2の電極は受光面から前記半導体基板の厚みの半分より大きい距離にあり、かつその断面形状が受光面側において90°より大きい頂角を有する多角形であることを特徴とする、内部電極型太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−305927(P2007−305927A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−135434(P2006−135434)
【出願日】平成18年5月15日(2006.5.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】