説明

内面溝付管の製造方法及びその製造装置

【課題】高速度で加工しても破断しにくく生産性を向上できる内面溝付管の製造方法及びその製造装置を提供する。
【解決手段】外周面に溝4が設けられた溝付プラグ5と、溝付プラグ5の設置位置で金属管1を外方から押圧する押圧手段6と、内面に溝形状が転写された金属管1を所定の外径寸法に縮径する引抜ダイス8を有し、押圧手段6と引抜ダイス8との間に、更に、金属管1を冷却する冷却装置12を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内面溝付管の製造方法及びその製造装置に関し、特に、高速度で加工しても破断しにくく生産性を向上できる内面溝付管の製造方法及びその製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、ルームエアコンなどの熱交換器の伝熱管には、管内での冷媒の蒸発や凝縮による熱伝導を促進するために、螺旋状の溝が管内面に連続的に形成された内面溝付管が用いられている。
【0003】
このような内面溝付管は、得ようとする管外径に比べて大径の中空管を用意し、管の内側に溝付プラグ、溝加工プラグ、フローティングプラグ等を配置する一方、管の外側に所定間隔にダイス、加工球、引き抜き部等を配置し、中空管を一定速度で搬送して、中空管の段階的な縮管を行うことにより得られる(例えば、特許文献1,2,3参照。)。
【0004】
図4は、従来の内面溝付管の製造装置の構成を示すものである。この製造装置は、フローティングプラグ2と、タイロッド(連結棒)3と、溝4を有する溝付プラグ(加工プラグ)5と、押圧手段6と、引抜ダイス(中間ダイス)7と、引抜ダイス(上がりダイス)8と、引抜ダイス(保持ダイス)9とを備えて構成されている。
【0005】
溝付プラグ5は、タイロッド3を介してフローティングプラグ2に接続され、この状態で金属管1内に回転自在に配置されている。押圧手段6には、複数のボール又はロールが用いられ、金属管1を挟んで溝付プラグ5に対向配置され、金属管1の外周面を押圧する。引抜ダイス7,8は、溝付プラグ5の後段に順次配置され、金属管1を段階的に縮管加工する。なお、原管としての金属管1(平滑金属管)には伝熱性に優れる内面が平滑な銅管等が用いられる。
【0006】
金属管1内にフローティングプラグ2及び溝付プラグ5を挿入した状態で、図4の矢印で示す引抜き方向に金属管1を引き抜くと、引抜ダイス9によって金属管1が縮管されるため、フローティングプラグ2は引抜ダイス9の内側位置で係止する。同時に、溝付プラグ5も引抜き方向における位置が固定され、押圧手段6の内側に配置された状態になる。この状態で、押圧手段6が金属管1の周りを公転することにより、押圧手段6による押圧力によって金属管1の内面には溝付プラグ5の溝4に応じた溝(又はフィン)10が形成される。その後、所定の外径に仕上げる引抜ダイス7,8を順次通過させることにより、段階的に縮管加工され、内面に溝10が形成された内面溝付管11が製造される。
【特許文献1】特開平5−007920号公報
【特許文献2】特開平5−329529号公報
【特許文献3】特開平6−015345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記製造装置において、生産効率を向上させるために高速度で内面溝の加工を行おうとすると、溝の形成により発生する加工熱が増加し、材料の温度が高温に上昇してしまう。
【0008】
例えば、金属管1として用いる銅系材料の一例としてのC1020−H(無酸素銅で冷間加工を行い加工硬化させたもの)の温度と引張強さの関係を表1に示す。
【0009】
【表1】

【0010】
このように、金属管1として用いる銅系材料は、高温になると著しく強度が低下してしまう。このため、従来の内面溝付管製造装置で、生産効率を向上させるために高速度で加工を行おうとすると、高温による強度低下により金属管1が破断してしまい、生産性を十分に向上できないという課題があった。
【0011】
従って、本発明の目的は、高速度で加工しても破断しにくく生産性を向上できる内面溝付管の製造方法及びその製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の内面溝付管の製造方法は、外周面に溝形状が設けられた溝付プラグを金属管に内挿し、前記金属管を引き抜きつつ、前記溝付プラグの設置位置で前記金属管の外方から前記金属管を押圧手段により押圧することにより、前記金属管の内面に前記溝付プラグの外周面に設けられている溝形状を前記金属管内面に転写する溝転写工程と、内面に溝形状が転写された金属管を引抜ダイスにより引き抜き、所定の外径寸法に縮径する縮径工程と、を有する内面溝付管の製造方法において、前記溝転写工程と前記縮径工程との間に、前記金属管を冷却する冷却工程を設けたことを特徴とする。
【0013】
また、上記目的を達成するため、本発明の内面溝付管の製造装置は、外周面に溝形状が設けられ、金属管の内面に内挿される溝付プラグと、前記金属管の外方に設けられ、該溝付プラグの設置位置で前記金属管を外方から押圧する押圧手段と、前記溝付プラグ及び前記押圧手段により、前記金属管の内面に溝形状が転写された前記金属管を所定の外径寸法に縮径する引抜ダイスと、を有する内面溝付管の製造装置において、前記押圧手段と前記引抜ダイスとの間に、更に、前記金属管を冷却する冷却装置を設けたことを特徴とする。
【0014】
前記引抜ダイスは、所定の中間寸法に縮径する第1の引抜ダイスと、所定の最終寸法に縮径する第2の引抜ダイスを有し、第1及び第2の引抜ダイスの間に、前記冷却装置を設けることもできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の内面溝付管の製造方法によれば、溝転写工程と縮径工程との間に、金属管を冷却する冷却工程を設けているので、溝の形成により発生した加工熱による金属管の温度上昇を抑え、金属管材料の強度低下を抑制できる。このため、高速度で加工しても破断しにくく、生産性を向上させることができる。
【0016】
また、本発明の内面溝付管の製造装置によれば、内面溝を形成するための溝付プラグ及び押圧手段と、所定の外径寸法に縮径する引抜ダイスとの間に冷却手段を設けているので、溝の形成により発生した加工熱による金属管の温度上昇を抑え、金属管の強度低下を抑制できる。このため、高速度で加工しても破断しにくく、生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しつつ説明する。
図1に、本発明に係る内面溝付管の製造装置の一実施形態を示す。この図において、図4と同一の構成部分には同一の引用数字、符号を付したので、重複する説明は省略する。
図1に示す内面溝付管の製造装置では、図4に示す内面溝付管の製造装置の引抜ダイス(中間ダイス)7と引抜ダイス(上がりダイス)8との間に、新たに、金属管1を冷却する冷却装置12を設けている。
【0018】
この内面溝付管の製造装置では、押圧手段6が金属管1の周りを公転することにより、押圧手段6による押圧力によって金属管1の内面に溝付プラグ5の溝4に応じた溝(又はフィン)が形成されるが、この際に、加工熱で金属管1の温度が上昇する。しかし、中間寸法に縮径する引抜ダイス7と最終寸法に縮径する引抜ダイス8の間に設けられた冷却装置12により、金属管1は冷却され、温度が下がった状態で引抜ダイス8を通過することができる。このため、金属管1にかかる引抜き力が最大となる引抜ダイス8の通過時においても金属管1の強度が低下せず、高い加工速度で引抜ダイス8を通過させても破断しにくいものとなる。
【0019】
従って、この内面溝付管の製造装置によれば、金属管1の内面に溝を高速度で加工しても金属管1が破断しにくく、内面溝付管の生産性を向上させることができる。
【0020】
次に、図2を参照しつつ、この製造装置を用いて内面溝付管を製造する方法について更に説明する。
【0021】
金属管1内にフローティングプラグ2及び溝付プラグ5を挿入した状態で、図1の矢印で示す引抜き方向に金属管1を引き抜くと、まず、引抜ダイス9によって金属管1が縮管される(工程a)。
【0022】
この時、フローティングプラグ2は引抜ダイス9の内側位置で係止すると同時に、溝付プラグ5も引抜き方向における位置が固定され、押圧手段6の内側に配置された状態になる。この状態で、押圧手段6が金属管1の周りを公転することにより、押圧手段6による押圧力によって金属管1の内面には溝付プラグ5の溝4に応じた溝(又はフィン)が形成される(工程b)。
【0023】
次に、金属管1を、所定の外径に仕上げる引抜ダイス(中間ダイス)7に通過させて、縮管する(工程c)。
【0024】
引抜ダイス7を通過後、金属管1を冷却装置12により冷却する(工程d)。
【0025】
最後に、金属管1を所定の外径に仕上げる引抜ダイス(上がりダイス)8に通過させて、最終寸法に縮管する(工程e)。このようにして、段階的に縮管加工された内面溝付管11が製造される。
【0026】
本製造方法では、溝を形成する工程bの後であって、引抜ダイス(中間ダイス)7を通過させて縮径する工程cと引抜ダイス(上がりダイス)8を通過させて最終寸法に縮管する工程eとの間に、冷却装置12により金属管1を冷却する工程dを設けている。
【0027】
このように、引抜ダイス(中間ダイス)7による縮径工程cと引抜ダイス(上がりダイス)8による縮径工程eとの間に、冷却装置12により金属管1を冷却する冷却工程dを設けたのは、以下の理由による。
まず、最終工程である引抜ダイス8による縮径工程eの後に冷却工程を設けて金属管1を冷却しようとしても、引抜ダイス8を出た直後に金属管1にかかる引抜き力が最大となるので、金属管1が冷却される前に破断してしまう。従って、少なくとも最終工程である引抜ダイス8による縮径工程eより前の工程で冷却する必要がある。一方、溝を形成する工程bより前の工程で冷却すると、金属管1の強度が上がると同時に変形抵抗も大きくなるので、溝形成のための加工力が大きくなる。このため、引抜き力を大きくすることが必要となり、金属管1の破断が生じやすくなる。よって、溝を形成する工程bの後であって、引抜ダイス8を通過させて最終寸法に縮管する工程eの前である、引抜ダイス7による縮径工程cと引抜ダイス8による縮径工程eとの間に、冷却工程dを設けた。
【0028】
このように、この内面溝付管の製造方法によれば、縮径工程cと縮径工程eとの間に、冷却工程dを設けているので、金属管1の内面に溝を高速度で加工しても金属管1が破断しにくく、内面溝付管の生産性を向上させることができる。
【0029】
図3に、本発明に係る内面溝付管の製造装置の他の実施形態を示す。
図3に示す内面溝付管の製造装置では、冷却装置12を、押圧手段6と引抜ダイス(中間ダイス)7との間に設けた点が、図1に示す内面溝付管の製造装置と異なっている。
【0030】
この内面溝付管の製造装置においても、押圧手段6による押圧力によって金属管1の内面に溝付プラグ5の溝4に応じた溝(又はフィン)が形成される際に生じる加工熱で金属管1の温度が上昇するが、押圧手段6と引抜ダイス7との間に設けられた冷却装置12により、金属管1は冷却され、温度が下がった状態で引抜ダイス8を通過することができる。このため、金属管1の強度が低下せず、高い加工速度で引抜ダイス8を通過させても破断しにくいものとなる。
【0031】
従って、この内面溝付管の製造装置においても、金属管1の内面に溝を高速度で加工しても金属管1が破断しにくく、内面溝付管の生産性を向上させることができる。
【0032】
なお、上記2つの実施形態においては、いずれも引抜ダイス7及び引抜ダイス8の双方を設けたが、どちらか一方だけでも良い。
【0033】
また、冷却装置12は、押圧手段6と引抜ダイス8との間の所定位置に固定して設けるだけでなく、上記間で移動するものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る内面溝付管の製造装置の一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明に係る内面溝付管の製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【図3】本発明に係る内面溝付管の製造装置の他の実施形態を示す断面図である。
【図4】従来の内面溝付管の製造装置を示す断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 金属管
2 フローティングプラグ
3 タイロッド
4,10 溝
5 溝付プラグ
6 押圧手段
7,8,9 引抜ダイス
11 内面溝付管
12 冷却装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に溝形状が設けられた溝付プラグを金属管に内挿し、前記金属管を引き抜きつつ、前記溝付プラグの設置位置で前記金属管の外方から前記金属管を押圧手段により押圧することにより、前記金属管の内面に前記溝付プラグの外周面に設けられている溝形状を前記金属管内面に転写する溝転写工程と、
内面に溝形状が転写された金属管を引抜ダイスにより引き抜き、所定の外径寸法に縮径する縮径工程と、を有する内面溝付管の製造方法において、
前記溝転写工程と前記縮径工程との間に、前記金属管を冷却する冷却工程を設けたことを特徴とする内面溝付管の製造方法。
【請求項2】
外周面に溝形状が設けられ、金属管の内面に内挿される溝付プラグと、
前記金属管の外方に設けられ、該溝付プラグの設置位置で前記金属管を外方から押圧する押圧手段と、
前記溝付プラグ及び前記押圧手段により、前記金属管の内面に溝形状が転写された前記金属管を所定の外径寸法に縮径する引抜ダイスと、
を有する内面溝付管の製造装置において、
前記押圧手段と前記引抜ダイスとの間に、更に、前記金属管を冷却する冷却装置を設けたことを特徴とする内面溝付管の製造装置。
【請求項3】
前記引抜ダイスは、所定の中間寸法に縮径する第1の引抜ダイスと、所定の最終寸法に縮径する第2の引抜ダイスを有し、第1及び第2の引抜ダイスの間に、前記冷却装置を設けたことを特徴とする請求項2記載の内面溝付管の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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