説明

内面螺旋溝付管の製造方法および製造装置

【課題】寸法精度が高く、且つフィン高さの高い内面螺旋溝付管が得られるとともに、細管に対応でき、生産性に優れる内面螺旋溝付管の製造方法および製造装置を提供する。
【解決手段】内面に長さ方向に沿う複数の直線溝11aが周方向に間隔をおいて形成された管材11を、巻取りロール21によりコイル状に巻取る巻取り工程と、その巻取りロール21を巻取り方向と逆方向に回転させることによりコイル状の管材11を巻取りロール21上を滑らせて巻取りロール21の軸線26の延長線に沿って少なくとも1巻分のコイル状の管材11を送り出す送り出し工程と、巻取りロール21上から送り出されたコイル状の管材11を、巻取りロール21の軸線26の延長線に沿って一定の張力を負荷しながら直管状に抜き取ることにより、該管材に捻りを加える抜取り工程とを有する内面螺旋溝付管の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器の伝熱管に用いられる内面螺旋溝付管を連続的に製造する方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エアコン用熱交換器などでは、アルミニウムフィン材に冷媒を通すために伝熱管を挿入し、熱交換を行っている。近年の空調機等の開発においては、省エネに伴うユニット性能の向上、あるいは作動媒体であるHCFC22の代替化などの要請により、その構成要素の一つである伝熱管も更なる高性能化が求められている。現在は内面に連続した螺旋溝を設けた内面溝付管が主流となっており、熱交換効率の向上が図られている。
内面溝付管の製法として、製造ライン上で巻取り方向を軸に、その管の円周方向に回転ダイスを用いて捻りを加えながら引き抜く方法(特許文献1及び特許文献2)や、高速回転するボールベアリングで管を管内溝付きプラグに押付け、管の内面に捻れ溝を転造しながら引抜く溝転造法(特許文献3)が採用されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−240108号公報
【特許文献2】特許第3489359号公報
【特許文献3】特開平6−190476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2では、捻り管自体が巻取りライン上で常に回転していることから、供給側または巻取り側のコイル状の管を、その捻れ方向と同じ方向に、捻れ速度と同調して回転させる必要があり、設備の大型化が必要であるとともに、製造速度に限界があった。また、回転ダイスの部分で、ダイスと試料との間で試料が滑ってしまい、回転を制御しても一定の捻れ角を生じさせることが難しく、長手方向での捻れ角のバラツキが大きい。
また、特許文献3では、管の内側に溝付きプラグを入れて、その内壁に転造を行うが、捻れ角を大きくした場合に、プラグと内壁との摩擦により変形抵抗が増加し、試料引抜き時に試料が破断しやすく、高さの高いフィンの転造も困難である等の問題がある。さらに、径の細い管への対応が難しくなっている。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、寸法精度が高く、且つフィン高さの高い内面螺旋溝付管が得られるとともに、細管に対応でき、生産性に優れる内面螺旋溝付管の製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の内面螺旋溝付管の製造方法は、内面に長さ方向に沿う複数の直線溝が周方向に間隔をおいて形成された管材を、巻取りロールによりコイル状に巻取る巻取り工程と、前記巻取りロールを巻取り方向と逆方向に回転させることによりコイル状の管材を該巻取りロール上を滑らせて前記巻取りロールの軸線の延長線に沿って少なくとも1巻分の前記コイル状の管材を送り出す送り出し工程と、該巻取りロール上から送り出された前記コイル状の管材を、該巻取りロールの軸線の延長線に沿って一定の張力を負荷しながら直管状に抜き取ることにより、該管材に捻りを加える抜取り工程とを有することを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、巻取りロールに巻き取られた管材を、その巻取りロールの軸線の延長線に沿って張力を加えながら抜き取ることで、管材に一定の捻りを生じさせることが可能である。管材が1周分捻れた時の長手方向の長さを、ここでは捻り周期と記すが、捻り周期の制御は、管材を巻き取る巻取りロールの径とその巻取りピッチに依存する。すなわち、一定の巻取りピッチで巻取りを行った場合には、巻取りに使用する巻取りロールの径が小さくなるにつれて、抜き取り時に形成されるスパイラル状に流動した管材の径が小さくなり、その結果、捻り周期が短くなる。管材の捻れ角は、捻り周期が短くなるとともに大きくなる。本発明による製造方法では、管材を巻取りロール表面の螺旋状の溝に沿って一定の間隔を保持して巻取りを行うことができるので、一定の捻れ角を有する内面螺旋溝付管を製造することができる。
また、本発明による製造方法では、管材の捻れ形成のため、主流である溝転造法のように、特に内部にプラグ等を入れて機械的に加工を行う必要がないため、予め、捻り前の押出時に管材の内壁に深い溝を形成しておくことで、そのまま寸法精度の高い内面溝が形成された細い内面螺旋状溝付管を得ることができる。
また、従来のように、回転する巻取りロールに管材を巻取りながら送り出す場合、巻取りロールの回転に応じて管材自体も回転してしまうため、抜取り側の装置を回転させる必要があり、大掛かりな装置を構成する必要があるが、本発明においては、巻取りロールを巻取り方向と逆方向に回転させることにより、巻取りロール上に巻き取られた管材が、その巻取りロール上を滑って送り出される。このように、巻取りと送り出しとを間欠的に繰り返すことで、巻取りロールの端部からコイル状の管材を開放することができ、管材自体を回転させることなく送り出すことができる。
【0008】
本発明の内面螺旋溝付管の製造方法は、前記巻取り工程と、前記送り出し工程と、前記抜取り工程とを、複数回繰り返して行われる。
巻取り工程、送り出し工程、抜き取り工程を繰り返すだけなので、製造方法が比較的シンプルであり、それらの巻き取り速度および抜取り速度に応じて製造速度を速くすることが可能となり、生産性に優れている。
【0009】
本発明の内面螺旋溝付管の製造方法において、前記抜取り工程は、前記巻取りロール上から該巻取りロールの軸線の延長線に沿って送り出された少なくとも1巻分の前記コイル状の管材をチャッキングし、該軸線の延長線に沿って引き延ばすチャッキング工程の後に張力を負荷して直管状に形成するとよい。
コイル状の管材を予めある程度引き延ばしておくことで、スムーズに張力を負荷することができる。
【0010】
本発明の内面螺旋溝付管の製造方法において、前記巻取りロールの表面には、一定のピッチの螺旋状の溝が形成されており、前記巻取り工程では、前記巻取りロールとの間に前記管材を挟持するように回転自在に軸支された押さえロールと、前記巻取りロールとの間に前記管材を挟持し、前記巻き取りロールの螺旋状の溝に沿って前記管材の巻き取りを行うとよい。
巻取りロール上で管材が滑ることを防止でき、管材を巻取りロール表面の螺旋状の溝に沿って一定の間隔を保持して巻取りを行うことができるので、一定の捻れ角を有する内面螺旋溝付管を製造することができる。
【0011】
本発明の内面螺旋溝付管の製造方法において、前記抜取り工程後に、管材の断面形状を矯正する中空孔を有する引抜きダイスによる少なくとも1回の引抜き工程と、矯正後の管材を加熱する熱処理工程とを有するとよい。
巻取り工程と抜取り工程とを繰り返すことで、管材の捻れ角は加算され大きくなっていくが、これら工程を複数回繰り返すと、巻取りロールに管材が巻き取られる際に、巻取りロール表面に管材が押し当てられることから、その管材の断面形状が徐々に扁平に潰される。断面形状の扁平率が大きくなった管材は、巻取りの際に、一部に応力が集中しやすく、その結果、座屈を生じやすくなる傾向にある。一端、座屈を生じると、その後の抜取りによる捻り加工の際、その部分にネッキングを生じ、管材の長手方向に均一に捻りを加えられなくなる。なお、ここで言う、ネッキングとは局部的に屈曲したようによじれが発生してしまうことを示す。そのため、工程を一定回数繰り返す毎に引抜き工程を行うことで、扁平した管材の真円度を回復させ、座屈が生じることを防止することができる。また、真円度の矯正後の管材を加熱することで、ひずみを除去することができ、繰り返し抜取り加工ができる。
【0012】
本発明の内面螺旋溝付管の製造方法において、前記巻取り工程では、前記巻取りロールを加熱しておき、前記巻取りロールの熱により前記管材を巻取りながら加熱するとよい。
また、本発明の内面螺旋溝付管の製造方法において、前記抜取り工程では、前記管材を加熱しながら抜き取るとよい。
巻取り工程と抜取り工程とを繰り返すことで、加工硬化により管材が捻れ難くなるが、管材を加熱することで、ひずみを除去することができる。例えば、巻取り工程においては、巻取りロールの表層に、その巻取りロールの円周方向に対し垂直にシーズヒーターを配置することで、加熱することができるし、巻取りロール自体を、高温槽の中に入れておくことも可能である。後者の場合、管材の通板は、高温槽に設けた孔を用いて行われる。また、抜取り工程において管材を加熱する場合には、高速加熱が可能な高周波加熱炉またはハロゲンランプなどによる輻射熱を利用した赤外線加熱炉を使用することができる。
【0013】
本発明の内面螺旋溝付管の製造装置は、内面に長さ方向に沿う複数の直進溝が周方向に間隔をおいて形成された管材を巻取りロールにコイル状に巻き取る巻取り手段と、その巻取りロールの軸線の延長線に沿って一定の張力を負荷しながら該コイル状の管材を直管状に抜き取る抜き取り手段とを備えており、前記巻取り手段は、表面に一定のピッチの螺旋状の溝が形成され、正逆転駆動可能な巻取りロールと、該巻取りロールとの間に前記管材を挟持するように回転自在に軸支された押さえロールとを備えていることを特徴とする。
本発明の内面螺旋溝付管の製造装置において、前記管材の断面形状を矯正する引抜き手段と、矯正後の管材を加熱する熱処理手段とを有しているとよい。
本発明の内面螺旋溝付管の製造装置において、前記抜取り手段は、前記巻取りロールの軸線の延長線に沿って間隔をおいて配置された少なくとも二対のピンチロールにより前記管材を挟持し、一定の張力を負荷しながら直管状に抜き取る構成とされているとよい。
本発明の内面螺旋溝付管の製造装置において、前記抜取り手段には、前記巻取りロール上から該巻取りロールの軸線の延長線に沿って送り出された少なくとも1巻分の前記コイル状の管材をチャッキングし、該軸線の延長線に沿って引き延ばすストレッチャーが設けられているとよい。
本発明の内面螺旋溝付管の製造装置において、巻取り手段又は抜取り手段の少なくとも一方に、前記管材を加熱する加熱手段が設けられているとよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、寸法精度が高く、且つフィン高さの高い内面螺旋溝付管が得られるととともに、細管(細径化)に対応でき、生産性に優れる内面螺旋溝付管を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る内面螺旋溝付管の製造装置の一実施形態を示す模式図である。
【図2】内面に直線溝が形成された管材を説明する図であり、(a)が正面図、(b)が側断面図である。
【図3】内面螺旋溝付管を示す側断面図である。
【図4】内面螺旋溝付管の製造工程を説明する模式図である。
【図5】巻取り手段を説明する図であり、(a)が管材の巻取り工程、(b)が巻取り後の管材の送り出し工程を示す。
【図6】内面螺旋溝付管の製造工程を説明するフローチャートである。
【図7】扁平率を説明する図である。
【図8】捻り周期を説明する図である。
【図9】捻れ角の算出方法を説明する図である。
【図10】巻取りロール直径と捻れ角との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る内面螺旋溝付管の製造装置を用いた内面螺旋溝付管の製造方法の実施形態を図面を参照しながら説明する。
本実施形態の内面螺旋溝付管の製造装置100は、内面に長さ方向に沿う複数の直線溝11aが周方向に間隔をおいて形成された管材11(図2参照)に、一定の捻りを生じさせ、内面に螺旋溝を有する内面螺旋溝付管11R(図3)を製造する装置である。
製造装置100は、図1及び図4に示すように、内面に直線溝11aによりフィン11bが形成された管材11をコイル状に巻き取る巻取り手段20と、その巻取りロール21の軸線26の延長線に沿って一定の張力を負荷しながらコイル状に形成された管材11を直管状に抜き取る抜取り手段30と、管材11の断面形状を矯正する引抜き手段40と、矯正後の管材11を加熱する熱処理手段50とを有している。
【0017】
巻取り手段20は、図1及び図5に示すように、管材11をコイル状に巻き取るモーター駆動の巻取りロール21と、その巻取りロール21との間に管材11を挟持するように回転自在に軸支された押さえロール24とを備えている。なお、巻取りロール21には、駆動源である正逆転駆動可能なモーター25が接続されている。また、回転する巻取りロール21に対して、管材11を軸線26に沿ってトラバースさせるためにトラバースロール(図示略)が設けられる。
巻取りロール21の表面には、管材11の巻取りを案内する一定のピッチの螺旋状の溝22が形成されている。巻取りロール21の螺旋状の溝22と、押さえロール24との間に管材11を通すことにより、巻取りロール21上で管材11が滑ることが防止でき、管材11を巻取りロール21表面の螺旋状の溝22に沿って一定の間隔を保持して巻取りを行うことができる。また、巻取りロール21を一定速度で回転させながら、図5(a)に示すように、その軸線26に沿って管材11をトラバースさせることによりコイル状に巻き取ることができるとともに、管材11を少なくとも1巻分巻取った後に、巻取り方向と逆方向に回転させることにより、図5(b)に示すように、巻取られた管材11を巻取りロール21の端部から螺旋状の溝22の延長方向に送り出すことができる。
また、巻取りロール21および押さえロール24の表層には、それらロール円周方向に対し垂直にシーズヒーターが配置されている。ロール表面温度を高温にしておき、管材11が巻取りロール21の表面に巻き取られ、送り出されている間に、管材11を高温に加熱することができる。これらロール21,24の表面温度は、RT(室温)〜300℃が好ましい。
【0018】
抜取り手段30には、巻取りロール21上から、巻取りロール21の軸線26の延長線に沿って送り出されたコイル状の管材11をチャッキングし、その軸線26の延長線に沿って引き延ばすストレッチャー31が設けられている。また、巻取りロール21の軸線26の延長線に沿って間隔をおいて配置された二対のピンチロール32が設けられており、ストレッチャー31で引き延ばされた管材11を、これらピンチロール32の間で挟持し、一定の張力を負荷しながら直管状に抜き取る。また、抜取り手段30には、高速加熱が可能な高周波加熱炉または輻射熱を利用した加熱炉33が設けられており、管材11を加熱しながら引き延ばすことができる。
なお、巻取りロール21の軸線26の延長線に沿うとは、巻取りロール21の軸線26の延長線上に一致することのみをいうのではなく、多少のズレは許容される。もっとも、コイル状の管材の抜取りは、巻取りロール21の軸線26の延長線に一致して行われることが好ましい。
また、引抜き手段40は、中空孔を有する引抜きダイスに管材を通して引抜くことにより、管材の断面形状を矯正する構成とされている。熱処理手段50は、真円度の矯正後の管材の中間焼鈍を行う。
なお、本発明の加熱手段としては、巻取りロール21および押さえロール24の表面を加熱するシーズヒーターや、抜取り途中の管材11を加熱する加熱炉33が相当する。
【0019】
次に、このように構成した製造装置100を用いて、内面螺旋溝付管を製造する方法について説明する。
一定速度で回転する巻取りロール21aにより、内面に直線溝が形成された管材11を巻取りロール21aの表面に、同一径のコイル状となるように管材11をトラバースさせながら複数巻分巻取る。このとき、管材11は、巻取りロール21aの回転によって巻取りロール21aの表面と、押さえロール24との間で案内され、巻取りロール21a表面の螺旋状の溝22に沿って巻き取られていく(巻取り工程)。
巻取りロール21aの一端側から他端側に向けて管材11を複数巻分巻き取った後、巻取りロール21aを管材11の巻取り方向と逆方向に回転させることによりコイル状に巻き取った管材11を巻取りロール21a上を滑らせて、巻取りロール21aの軸線26の延長線に沿って複数巻分送り出す(送り出し工程)。この巻取りロール21aを回転させる間は、管材11の巻取りロール21aへの供給は停止され、巻取りロール21aの手前でたるませておく。なお、巻取りロール21aの他端側(図1では上側)から解放された管材11は、コイル状に形成されている。このように、巻取り工程と送り出し工程とを交互に繰り返すことで、管材11をコイル状に形成することができる。
【0020】
次に、巻取りロール21a上から解放されたコイル状の管材11の複数巻分の一部を、ストレッチャー31でチャッキングし、巻取りロール21aの軸線26の延長線に沿って予備的な矯正を加える。直管状に近い状態まで矯正された管材は、二対のピンチロール32間を通過し、これらピンチロール32間で0.3kN以上の張力を負荷されながら、直管状に形成される。
ストレッチャー31はコイル状の管材11に予備矯正を加えた後、図1に二点鎖線で示すように元の位置に移動し、順次送り出されてくるコイル状の管材の端部をチャッキングし、予備矯正を繰り返し行う。ピンチロール32で直管状に矯正された管材11は、巻取りロール21bにコイル状に巻き取られる。
【0021】
このようにして巻き取られた管材11は、巻取りロール21aの径と、この巻取りロール21aにより巻き取られる管材の巻取りピッチにより定まる捻れ角を有する螺旋溝が形成される。この捻れ角は、巻取りロールの径(巻取り径)を小さくする程大きくなり、また巻取りピッチを小さくする程大きくなる。捻れ角は、巻取りロールの径の大きさに依存するため、径の小さい巻取りロールに巻き取れば、一度に大きな捻れ角を生じさせることが可能であるが、管材の材質によっては、小径に巻き取ることが難しい。この場合、径の大きい巻取りロールに巻取り、巻取り工程と抜取り工程とを複数回繰り返すことにより管材への捻れを加算して、大きい捻れ角を有する管材を得ることができる。しかしながら、管材の材質によっては、捻れ角を大きくするために巻取り工程と抜取り工程とを繰り返すことで、加工硬化により管材が捻れにくくなる。そのため、本実施形態の加熱炉33および巻取りロール21のように、インラインで加熱する手段を設け、加熱された状態の管材に捻り加工を施すことや、各工程の途中で熱処理をすることにより、ひずみ除去を行うことが好ましい。なお、工程の途中で行われる熱処理は、例えば、管材に200〜350℃で0.5〜4時間の中間焼鈍を行う。
【0022】
また、より捻れ角の大きい内面螺旋溝付管を製造する際には、例えば、図6のフローチャートに示すように、巻取り工程および抜取り工程を一定回数繰り返す毎に、引抜き工程および熱処理工程を行う。
図6のフローチャートでは、S101〜S103に示すように、巻取り工程と抜取り工程との組合せからなる工程を3回繰り返した後、引抜き工程(S104)と熱処理工程(S105)を挟み、合計8回の巻取り工程と抜取り工程とが行われる(S101〜S112)。そして、巻取り工程と抜取り工程とを繰り返す毎に、管材11には一定の捻りが加算され、捻れ角を徐々に大きくしていくことができる。
【0023】
巻取り工程と抜取り工程とを複数回繰り返すと、巻取りロール21aに管材が巻き取られる際に、巻取りロール21の表面に押し当てられることから、図7に示すように、その管材の断面形状が徐々に扁平に潰される。断面形状の扁平率が大きくなった管材は、巻取りの際に座屈を生じることがあり、その座屈を生じた管材に抜取り工程を行うと、座屈した部分で局所的に折れ曲がり(ネッキング)、管材全体に均一な捻れ角が形成された管材を得ることができない。そのため、巻取り工程と抜取り工程とを繰り返す中で、少なくとも1回の引抜き工程と、矯正後の管材を加熱する熱処理工程とを行うことが好ましい。
引抜き工程は、引抜き手段40により引抜きダイスの中空孔に管材を通して引抜くことにより行われ、1回の引抜き工程は、管材の扁平率が120%以内のうちに、もとの管材の径に対し5%以上の縮小が図れるように行う。そして、熱処理工程により、真円度の矯正後の管材を加熱し、ひずみを除去する。熱処理工程は、例えば前述と同様の熱処理が行われ、矯正された管材に200〜350℃で0.5〜4時間の中間焼鈍を行う。
このように、巻取り工程と抜取り工程とを繰り返して、管材の扁平率が大きくなった場合には、引抜き工程により真円度を回復させ、座屈が生じることを防止することができる。抜取り工程後に、管材の断面形状を矯正する少なくとも1回の引抜き工程を設けることで、管材の潰れを抑制し、巻取り工程と抜取り工程とを複数回工程を繰り返すことが可能となり、管材の捻れ角を大きくすることができる。
なお、扁平率とは、管材の最小径Yに対する最大径Xの比率をいう。
【0024】
本実施形態の内面螺旋溝付管の製造方法によれば、巻取りロールに巻き取られた管材を、その巻取りロールの軸線の延長線に沿って張力を加えながら抜き取ることで、管材に一定の捻りを生じさせることができる。管材の捻れ形成のため、特に内部にプラグ等を入れて機械的に加工を行う必要がないため、予め、捻り前の押出時に管材の内壁に深い溝を形成しておくことで、そのまま寸法精度の高い内面溝が形成された細い内面螺旋状溝付管を得ることができる。
また、回転する巻取りロールに管材を巻取りながら送り出す場合、巻取りロールの回転に応じて管材自体も回転してしまうため、抜取り側の装置も回転させる必要があり、大掛かりな装置を構成する必要があるが、本発明においては、巻取りロールを巻取り方向と逆方向に回転させることにより、巻取りロール上に巻き取られた管材が、その巻取りロール上を滑って送り出される。このように、巻取りと送り出しとを間欠的に繰り返すことで、巻取りロールの端部からコイル状の管材を解放することができ、管材自体を回転させることなく送り出すことができる。
【実施例】
【0025】
(実施例1)
外径10mm、内径8.5mm、内面に直線溝が形成された3003アルミニウム合金管材を用いて内面螺旋溝付管の製造を行った。
管材は、内面の直線溝の数は45個(8°/1山)で、これら直線溝により形成されるフィンの高さが0.28mmに形成されたものを用いた。この管材を用いて、巻取りロールの径を直径20〜760mmの範囲で変量し、それぞれの巻取りロールで、巻取りピッチ15mmで巻き取った後に、巻取りロールの軸線の延長線に沿って抜取りを行った。また、抜取りは、巻取りロールから3巻分送り出されたコイル状の管材の下側端部を250℃に加熱された加熱炉内でストレッチャーにより矯正を加えた後、ある程度、直管状に伸ばした後に、常温まで温度の下がった管材を二対のピンチロール間で1〜2kNの張力を負荷しながら直管状に矯正した。また、管材の外周面には、予め、その長手方向に沿って直線状のマーキングを行い、図8に示すように、マーキングラインLが1周分捻れた時の長手方向の長さ(捻り周期B)を計測した。捻れ角θは、図9に示すように、管材の内周の長さAと捻り周期Bとにより算出した。図10に、以上のように実施して得られた巻取りロール直径(巻取り径)と捻れ角との関係を示す。
図10に示すように、例えば、φ160mmの巻取り径では、1回に約3°の捻れ角を生じさせることができる。巻取り径が小さくなるにつれて捻れ角は増加し、巻取り径に応じた捻れ角を有する内面螺旋溝付管の製造が可能である。また、製造された各内面螺旋溝付管について、管の長手方向に切り開いて内面に形成された螺旋溝の周期を確認したところ、内面の螺旋溝の周期と、マーキングラインの捻り周期Bとは一致していた。
【0026】
次に、上記の管材と160mmの巻取りロールを用いて、巻取り工程と抜取り工程とを7回繰り返すことにより内面螺旋溝付管の製造を行った。
先ず、巻取りロール上に巻取りピッチ15mmで巻取りを行った後に抜取りを行い、これら巻取り工程と抜取り工程とを3回ずつ繰り返した後に、φ8mmの中空孔を有する引抜きダイスで引抜きし、扁平率118%まで潰れた管材を再び扁平率103%の真円に回復させた(引抜き工程)。その後、350℃で4時間の中間焼鈍を行い(熱処理工程)、再度、φ160mmの巻取りロールにより巻取りピッチ12mmで巻取りを実施した。巻取り工程と抜取り工程とを3回ずつ行った後、φ7.5mmの中空孔を有する引抜きダイスで引抜きを行い、350℃で4時間の熱処理を行った。次いで、φ160mmの巻取りロールにて巻取りピッチ11.25mmで巻取りを実施し、巻取り工程と抜取り工程とを1回ずつ行った。最後にφ7mmの中空孔の引抜きダイスで引抜きを行い、最終的に捻れ角21°の内面螺旋溝付管を製造した。
巻取り速度および抜取り速度は30m/minとした。また、抜取り工程は、巻取りロール上から送り出された3巻分のコイル状の管材の下側端部をストレッチャーにより矯正を加え、ある程度、直管状に伸ばした後、二対のピンチロール間で1〜2kNの張力を負荷しながら直管状に矯正した。
【0027】
巻取り工程と抜取り工程とを3回ずつ繰り返す毎に、引抜き工程を行うことで、扁平した管材の真円度を回復させ、また、真円度の矯正後の管材を加熱することで、ひずみを除去することができる。これにより、さらに繰り返して巻取り工程と抜取り工程とを実施することができ、最終的に捻れ角21°の内面螺旋溝付管を製造することができた。
【0028】
(実施例2)
次に、外径3.5mm、内径3.0mm、内面に直線溝が形成された1100アルミニウム合金管材を用いて、巻取り工程と抜取り工程とを複数回繰り返すことにより内面螺旋溝付管の製造を行った。
管材は、内面に直線溝が40個(9°/1山)形成されており、これら直線溝により形成されるフィンの高さが0.28mmに形成されたものを用いた。巻取り工程は、直径75mmの巻取りロールに巻取りピッチ5.5mmで行った。巻取りロールの表面は、シーズヒーターで200℃に加熱した状態で、巻取りを行った。抜取り工程では、ストレッチャーにより、ある程度の直管にまで矯正した管材を、ハロゲンランプによる赤外線の輻射熱を利用したインライン加熱装置で250℃に加熱し、その後、二対のピンチロール間で0.5kNの張力を負荷しながら直管状に矯正し、捻れ角7°とした。同様の工程を3回繰り返した後に、φ3mmの中空孔を有する引抜きダイスで引抜きを行い、最終的にφ3mm、捻れ角20°の内面螺旋溝付管を製造した。図6のフローチャートで言えば、S101〜S104までの工程を実施した。
【0029】
巻取り工程と抜取り工程とを3回ずつ繰り返すことにより、捻れ角21.5°の内面螺旋溝付管を製造することができ、最後の引抜き工程により、扁平率は120%から100%に回復し、引抜き時に捻れ角がわずかに小さくなることから、最終的に捻れ角20°の内面螺旋溝付管を製造することができた。
【0030】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態においては、複数巻分巻き取られたコイル状の管材に対して各工程を複数回繰り返すことにより内面螺旋溝付管を製造したが、これに限定されるものではない。コイル状の管材を少なくとも1巻分ごと形成して各工程を繰り返すことによっても、同様に内面螺旋溝付管を製造することが可能である。
【符号の説明】
【0031】
100 内面螺旋溝付管の製造装置
11 管材
11a 直線溝
11b フィン
11R 内面螺旋溝付管
20 巻取り手段
21,21a,21b,21c 巻取りロール
22 螺旋状の溝
24 押さえロール
25 モーター
26 軸線
30 抜取り手段
31 ストレッチャー
32 ピンチロール
33 加熱炉(加熱手段)
40 引抜き手段
50 熱処理手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面に長さ方向に沿う複数の直線溝が周方向に間隔をおいて形成された管材を、巻取りロールによりコイル状に巻取る巻取り工程と、前記巻取りロールを巻取り方向と逆方向に回転させることによりコイル状の管材を該巻取りロール上を滑らせて前記巻取りロールの軸線の延長線に沿って少なくとも1巻分の前記コイル状の管材を送り出す送り出し工程と、該巻取りロール上から送り出された前記コイル状の管材を、該巻取りロールの軸線の延長線に沿って一定の張力を負荷しながら直管状に抜き取ることにより、該管材に捻りを加える抜取り工程とを有することを特徴とする内面螺旋溝付管の製造方法。
【請求項2】
前記巻取り工程と、前記送り出し工程と、前記抜取り工程とを、複数回繰り返して行われることを特徴とする請求項1記載の内面螺旋溝付管の製造方法。
【請求項3】
前記抜取り工程は、前記巻取りロール上から該巻取りロールの軸線の延長線に沿って送り出された少なくとも1巻分の前記コイル状の管材をチャッキングし、該軸線の延長線に沿って引き延ばすチャッキング工程の後に張力を負荷して直管状に形成することを特徴とする請求項1又は2に記載の内面螺旋溝付管の製造方法。
【請求項4】
前記巻取りロールの表面には、一定のピッチの螺旋状の溝が形成されており、前記巻取り工程では、前記巻取りロールとの間に前記管材を挟持するように回転自在に軸支された押さえロールと、前記巻取りロールとの間に前記管材を挟持し、前記巻き取りロールの螺旋状の溝に沿って前記管材の巻き取りを行うことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の内面螺旋溝付管の製造方法。
【請求項5】
前記抜取り工程後に、管材の断面形状を矯正する中空孔を有する引抜きダイスによる少なくとも1回の引抜き工程と、矯正後の管材を加熱する熱処理工程とを有することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の内面螺旋溝付管の製造方法。
【請求項6】
前記巻取り工程では、前記巻取りロールを加熱しておき、前記巻取りロールの熱により前記管材を巻取りながら加熱することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の内面螺旋溝付管の製造方法。
【請求項7】
前記抜取り工程では、前記管材を加熱しながら抜き取ることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の内面螺旋溝付管の製造方法。
【請求項8】
内面に長さ方向に沿う複数の直進溝が周方向に間隔をおいて形成された管材を巻取りロールにコイル状に巻き取る巻取り手段と、その巻取りロールの軸線の延長線に沿って一定の張力を負荷しながら該コイル状の管材を直管状に抜き取る抜き取り手段とを備えており、前記巻取り手段は、表面に一定のピッチの螺旋状の溝が形成され、正逆転駆動可能な巻取りロールと、該巻取りロールとの間に前記管材を挟持するように回転自在に軸支された押さえロールとを備えていることを特徴とする内面螺旋溝付管の製造装置。
【請求項9】
前記管材の断面形状を矯正する引抜き手段と、矯正後の管材を加熱する熱処理手段とを有していることを特徴とする請求項8記載の内面螺旋溝付管の製造装置。
【請求項10】
前記抜取り手段は、前記巻取りロールの軸線の延長線に沿って間隔をおいて配置された少なくとも二対のピンチロールにより前記管材を挟持し、一定の張力を負荷しながら直管状に抜き取る構成とされていることを特徴とする請求項8又は9に記載の内面螺旋溝付管の製造装置。
【請求項11】
前記抜取り手段には、前記巻取りロール上から該巻取りロールの軸線の延長線に沿って送り出された少なくとも1巻分の前記コイル状の管材をチャッキングし、該軸線の延長線に沿って引き延ばすストレッチャーが設けられていることを特徴とする請求項8から10のいずれか一項に記載の内面螺旋溝付管の製造装置。
【請求項12】
前記巻取り手段又は前記抜取り手段の少なくとも一方に、前記管材を加熱する加熱手段が設けられていることを特徴とする請求項8から11のいずれか一項に記載の内面螺旋溝付管の製造装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−56356(P2013−56356A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196466(P2011−196466)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000176707)三菱アルミニウム株式会社 (446)
【Fターム(参考)】