説明

円形加速器

【課題】簡単な構成と制御で非正弦波の加速電圧を発生させ、荷電粒子ビームを加速する円形加速器を得る。
【解決手段】円形加速器において、偏向電磁石13に通電する電磁石電源22は、通電電流値の時間変化波形I(t)データと、これに対応して偏向電磁石13で発生する偏向磁場強度Bの時間変化波形B(t)データとの間の、予め求められたI(t)/B(t)相関データに対応し、クロック信号と同期して前記I(t)データに対応する電流の時間変化波形I(t)を出力し、高周波加速装置15に入力する高周波電圧を出力する高周波加速電源20は、前記B(t)データに対して荷電粒子ビームを所定の軌道に維持できるエネルギーEの時間変化波形E(t)データで定められるエネルギーに対応した加速に必要な非正弦波電圧の時間変化波形V(t)を前記クロック信号と同期して出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、非正弦波の高周波電圧を高周波加速装置に発生させ荷電粒子ビームを加速する円形加速器に関する。なお、この明細書で荷電粒子とはイオンを示すものとする。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子ビームを高エネルギーまで加速する装置としてシンクロトロンのような円形加速器がある。シンクロトロンは、荷電粒子ビームを導入する入射装置と、入射された荷電粒子ビームが内部を周回する真空ダクトと、荷電粒子ビームの周回軌道と荷電粒子ビームサイズを制御する偏向磁場と収束磁場を発生する偏向電磁石と、周回周期に同期した高周波電圧(加速電圧)を発生させ荷電粒子ビームを加速する高周波加速装置(例えば高周波加速空洞)と、加速された荷電粒子ビームをシンクロトロン外に出射する出射装置等で構成される。
【0003】
シンクロトロンでは、荷電粒子ビームの周回軌道を一定にするため、高周波加速装置に印加する高周波電圧は偏向電磁石による偏向磁場強度にあわせて加速電圧や周波数を制御する必要がある。ところで、シンクロトロンの加速電流値の上限は、荷電粒子間のクーロン反発(空間電荷効果)力によりビームが不安定になることで決まる。空間電荷効果によるビーム損失を抑制する方法として、加速電圧に基本周波数の高周波(基本波)とその整数次高調波を併用する手法が提案されている(特許文献1)。高調波を加えることで安定加速領域を拡大させ、空間電荷効果を緩和することができる。安定に加速するためには、基本波成分と高調波成分との間の位相及び振幅の関係を常に安定に所定の関係にすることが要求されるので、複雑な電子回路と、煩雑な制御が必要であり、且つ周回荷電粒子ビームの位置ズレをフィードバック制御する必要がある。
【0004】
図7は従来の円形加速器の構成を概念的に説明する図である。特徴はBクロック信号発生装置34からのBクロック信号とビーム位置モニタ24からのビーム位置モニタ信号(ビーム位置情報)とを使い、高周波加速電源20の出力電圧に対してフィードバック制御を行うことによりビーム位置を所定の設計値の範囲内に抑えるものである。ここでBクロック信号とは偏向電磁石13の磁場強度がBモニタ33の測定により所定値以上増減するごとに発生するクロック信号である。今、このBクロック信号が発生したとする。更にビーム位置モニタ24でビーム位置情報がFB制御回路36に送られる。今非正弦波電圧を高周波加速装置15に入力することを考えると、FB制御回路36は基本波用と高調波用の複数が必要になる。この例では第3次高調波までを考慮した。
【0005】
このFB制御回路36ではビーム位置情報からビーム位置の誤差を把握し、その誤差を解消するために必要なフィードバック情報として周波数、位相のFB量を基本波、高調波ごとに算定する。このFB量は高周波波形修正回路37に入力される。この高周波波形修正回路37も基本波と各高調波成分ごとに必要となる。高周波波形修正回路37からは各成分の修正後の波形情報が高調波加速電圧波形生成回路32に出力される。この高調波加速電圧波形生成回路32では前記波形情報を受けて非正弦波を生成し、この波形を高周波加速電源20に入力すると、高周波加速電源20は上記算定した非正弦波形状の加速電圧の時間変化波形を出力する。なお、高周波加速電源20からはBクロックと同期して加速電圧が出力される。
【0006】
なお、FB系を除く通常の運転は出射E設定値30に基づく出射エネルギーEが制御装置35に入力されると、制御装置35は所定の時間変化率で偏向電磁石電源22からの電磁石コイル電流を徐々に増やしていくと共に、高周波加速電圧波形生成回路32に対してあらかじめ設定されている電圧波形情報を入力する。この情報により高周波加速電圧波形生成回路32では電圧波形が生成される。先のFB系は、この量を修正するものである。従来の円形加速器では、時間クロック信号を使っておらず、偏向電磁石13のコイル電流、換言すれば磁場強度の時間変化と高周波加速装置15の高周波加速電圧の時間変化との同期が取れていないと言う点である。そのためFB系が必要となり、FB量算定の基礎となる量としてビーム位置の誤差を使用している。このため特に非正弦波電圧を加速電圧とする場合には、基本波に加えて各高調波のそれぞれに対してFB制御を含めた複雑な制御が必要となり全体系が複雑になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−75698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、円形加速器で、高周波加速装置に非正弦波形電圧を印加する際には、非正弦波形を形成する基本波成分と高調波成分との間における位相及び振幅の関係を常に所定の値にする必要があり、さらに先に述べた理由により、従来は、周回荷電粒子ビームの位置ズレをフィードバック制御する必要があるため複雑な電子回路と煩雑な制御が必要であるという問題点があった。
この発明は、上記のような問題点を解消するためになされたもので、簡単な構成と制御で非正弦波の加速電圧を発生させ、荷電粒子ビームを加速する円形加速器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係わる円形加速器は、荷電粒子ビームを導入する入射装置と、入射された前記荷電粒子ビームが内部を周回する真空ダクトと、前記荷電粒子ビームの周回軌道と前記荷電粒子ビームサイズを制御する偏向磁場と収束磁場を発生する偏向電磁石と、前記偏向電磁石を構成するコイルに通電するための電磁石電源と、高周波電圧を出力する高周波加速電源と、前記高周波加速電源から出力された高周波電圧を入力し、入力された前記高周波電圧により、周回する前記荷電粒子ビームを加速する高周波加速装置と、前記高周波加速装置により加速された前記荷電粒子ビームを出射する出射装置とを備える円形加速器において、
前記電磁石電源は、前記コイルへの通電電流値の時間変化波形I(t)データと、これに対応して前記偏向電磁石で発生する偏向磁場強度Bの時間変化波形B(t)データとの間の、予め求められたI(t)/B(t)相関データに対応し、クロック信号と同期して前記I(t)データに対応する電流の時間変化波形I(t)を出力し、前記高周波加速電源は、前記B(t)データに対して前記荷電粒子ビームを所定の軌道に維持できるエネルギーEの時間変化波形E(t)データで定められるエネルギーに対応した加速に必要な非正弦波電圧の時間変化波形V(t)を前記クロック信号と同期して出力するようにしたものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明の円形加速器によれば、あらかじめ求められたコイル電流I(t)と偏向電磁石
で発生する偏向磁場強度B(t)の相関データから、B(t)に対応して荷電粒子の周回エネルギーE(t)を決定し、このE(t)への加速に必要な加速電圧の時間変化波形V(t)を算定し、前記I(t)とV(t)を同一の時間クロック信号で同期を取ってそれぞれ偏向電磁石と高周波加速装置に入力することにより、荷電粒子ビームの位置ズレに対するフィードバック制御が不要となり、高周波の加速電圧波形を時間の関数として与えることができるようになるので、デジタル信号発生器などの簡便な高周波電圧波形生成回路で簡単に波形を生成し、これを高周波加速電源に入力することで加速電圧の時間変化波形を容易に生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施の形態1である円形加速器を示す構成図である。
【図2】偏向電磁石のコイルに流す電流と磁場強度の関係を示す図である。
【図3】高周波加速装置に発生させる加速電圧と加速できるビーム電流の時間変化波形を示す波形図である。
【図4】実施の形態1における偏向電磁石に印加するコイル電流の印加方法を示す説明図である。
【図5】実施の形態1における円形加速器の構成を説明する図である。
【図6】偏向電磁石のコイルに流す電流により発生する磁場とBクロック(偏向磁場クロック)制御のオンオフの関係を示す波形図である。
【図7】従来の円形加速器の構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1である円形加速器を示す構成図である。図において、円形加速器は、荷電粒子ビームが前段加速器19からビーム輸送系11を介して入射装置12から入射され、入射された荷電粒子ビームが平衡軌道14周辺を周回しながら加速された後、荷電粒子ビームが出射装置17から出射用ビーム輸送系18を介して照射室(図示せず)へ供給される。図ではビーム軌道のみを描いているが、実際にはビーム軌道の周囲にはパイプ状の真空ダクトが配置されている。
【0013】
実施の形態1の円形加速器は、前段加速器19から輸送された荷電粒子ビームを入射する入射装置12と、荷電粒子ビームにエネルギーを与え加速する高周波加速装置(例えば、加速空洞)15と、周回軌道であるビーム軌道を曲げ、荷電粒子ビームサイズを制御する偏向磁場と収束磁場を発生する偏向電磁石13と、出射時の共鳴を励起するための6極電磁石16と、ベータトロン振動振幅が増加した荷電粒子ビームを出射用ビーム輸送系18に出射するための出射装置17と、ビーム位置を測定するビーム位置モニタ24を有する。前記収束磁場はエッジフォーカスタイプの偏向電磁石を採用することにより偏向電磁石13の両端部で発生し荷電粒子ビームサイズを制御する。
【0014】
高周波電圧の時間変化波形を作成する高周波電圧波形生成装置(例えばデジタル信号発生器)21と、作成した高周波電圧の時間変化波形を高周波加速電源に入力し、同一の波形の電圧出力を生成し、高周波加速装置15に印加する高周波加速電源20とを備える。また、偏向電磁石13のコイルに通電する電磁石電源22と、電磁石電源22に加える電流の時間変化波形を作成するコイル電流波形生成装置23を有する。電磁石電源22とコイル電流波形生成装置23とは一体に構成してもよい。
【0015】
図2は偏向電磁石13のコイルに流す電流と偏向電磁石13の作り出す磁場強度の関係を示す図である。横軸は時間で、入射時にはコイル電流を一定にし、加速時にこれを加速と共に増加していき、所定のエネルギーに達したら再度一定にし、荷電粒子の出射の終了後に、コイル電流を下げる。これを繰り返すことで円形加速器を用いた入射、加速、出射を行うことができる。電流と磁場強度は完全に線形ではなく、渦電流の影響等でコイル電流より磁場が遅れる時間変化波形となる。
【0016】
図3は高周波加速装置に発生させる加速電圧と加速できるビーム電流の時間変化波形を示す波形図である。図では2周期弱しか記載していないが、実際にはこの時間変化波形が連続している。図3(a)の波形は高周波電圧波形生成装置21を用いて作成した電圧波形を高周波加速電源に入力し、そのとき得られる高周波加速電源20からの出力を高周波加速装置15に印加し、高周波加速装置15内に発生させた加速電圧波形を示す。点線が高周波加速装置15に正弦波を印加した時、実線が高周波加速装置15に非正弦波を印加した時である。
【0017】
図3(b)の波形は円形加速器で加速するビーム電流の時間変化波形を示す。点線が正弦波を印加したとき、実線が非正弦波を印加したときである。非正弦波を印加すると荷電粒子ビームの時間幅を長くすることができるので、すなわち荷電粒子の周方向の分布長を長くすることができるため、その分空間電荷密度が低減され、空間電荷の影響を抑制することができ、大電流を加速することができる。この関係は従来例の高周波加速装置でも同様である。実施の形態1のポイントは偏向電磁石の磁場強度の時間依存性を考慮した形で非正弦波の加速電圧を時間の関数として求め、高周波加速装置15に印加することにより簡便な回路、制御でフィードバック制御無しで安定に運転することができる円形加速器を提供するというものである。
【0018】
図4は実施の形態1における偏向電磁石に印加するコイル電流の印加方法を示す説明図である。コイル電流波形生成装置23で、時間tとコイル電流Iの関係I(t)を作成し、電磁石電源22にその時間変化波形を送り、電磁石電源22で発生した電流を偏向電磁石13のコイルに流す。そうすると偏向電磁石13に磁場が励振され、偏向磁場25が発生する。偏向磁場Bも時間tの関数B(t)となるが、前述したようにコイル電流Iとは比例していない。そのため、両者の関係を踏まえたアプローチがなされていなかった。
【0019】
円形加速器では荷電粒子ビームのエネルギーと関係する運動量は偏向磁場と偏向半径の積に比例する。シンクロトロンでは偏向半径は一定であるので、偏向磁場をエネルギー増加とともにあげていく必要がある。すなわち、偏向電磁石のコイル電流をエネルギー増加と共にあげていく。粒子線治療装置に用いるシンクロトロンでは数100msで最高エネルギーまで上げるような制御を行うので、コイル励磁もそれに合わせた制御を行う。高周波加速装置15にかける周波数は、エネルギーが異なると周回周波数が変化するので、周回周波数かその整数倍に合わせる。加速電圧波形は入射した荷電粒子ビームをどのようにバンチング(周回方向に塊にすること)するかを制御する為にも用いられており、偏向電磁石の波形とは直接は関係がない。
【0020】
所定の加速を行うには、次の流れで制御を行うことが必要である。
偏向電磁石のコイル電流値は時間の関数として与えられる。偏向電磁石のコイル電流が決まれば時間の関数として偏向磁場が決まる。偏向磁場が決まれば、偏向電磁石の偏向半径に従った軌道を維持できる荷電粒子線のエネルギーが時間の関数で決まる。荷電粒子線のエネルギーが決まると、そのエネルギーに対応した加速に必要な条件である高周波電圧、周波数、位相が計算できる。電圧をエネルギーと共に変えるのは加速中のバンチングの過程で荷電粒子を安定化させるために電圧を制御する必要があるからである。周波数をエネルギーと共に変えるのはエネルギーに依存して、荷電粒子線がリングを1周する時間が変化するため、所定の位相で荷電粒子線を加速するためには周波数をエネルギーに応じて変える必要があるためである。位相をエネルギーと共に変えるのは、加速に最適な位相にする必要があるからである。
【0021】
図5は実施の形態1における円形加速器の構成を説明する図である。高周波電圧波形生成装置21では、高周波加速装置15に発生させる加速電圧(高周波電圧)の時間変化波形を作成する。図5では例えば基本波から3次の高調波までを考慮して非正弦波の加速電圧波形を生成する例を示した。即ち、波形生成のために基本波の周波数f1(t),電圧Vm1(t),位相φ1(t)、2次高調波の周波数f2(t),電圧Vm2(t),位相φ2(t)、3次高調波の周波数f3(t),電圧Vm3(t),位相φ3(t)成分を高周波電圧波形生成装置21に、基本波,2次高調波,及び3次高調波の合成波形情報であるV(t)波形情報として入力する。
【0022】
実施の形態1では電磁石電源22の出力I(t)と高周波加速電源20の出力V(t)との間で時間軸も含め対応関係が成立するように各機器を構成している。この対応関係をここでは相関関係と呼んでいる。まず最初に必要なのはI(t)/B(t)相関データの取得である。このデータは偏向電磁石コイルに通電する電流の時間変化波形I(t)データに対して偏向電磁石13で発生する偏向磁場強度B(t)を相関データとしたもので、実測、計算で求めることが可能となっており、あらかじめこのデータは得られているものとしている。
【0023】
コイル電流波形生成装置23では、I(t)/B(t)相関データ27からのI(t)データが入力され、このI(t)データに対応する時間変化波形であるI(t)波形を生成し出力する。出射E設定値30に基づく出射エネルギーEを入力しこれに必要なI(t)を求めることとなる。Eが決まれば軌道を一定に保つための、対応するBが決まり、これからI(t)の最大値が求められる。
【0024】
電磁石電源22は上記I(t)波形が入力され、電流の時間変化波形I(t)を出力する。この出力は偏向電磁石13のコイルに通電され偏向電磁石13では偏向磁場B(t)が発生する。なお、この電磁石電源22はtクロック信号発生装置31からの時間クロック信号(tクロック信号)と同期して出力される。
【0025】
B(t)/E(t)相関データ算定装置28は、上記I(t)/B(t)相関データ27からのB(t)データの磁場強度に対して周回軌道を一定に保つための荷電粒子ビームのエネルギーE(t)を算定する装置である。ここで求められたエネルギー値はE(t)データと呼ぶ。
【0026】
V(t)算定装置29では、上記E(t)に対して、そのエネルギーに対応した加速に必要な条件である加速電圧の時間変化波形V(t)を求め、これを構成する基本波,各高調波成分の電圧、周波数、位相を計算し時間の関数として求める。これを一括合成してV(t)波形情報と呼ぶ。V(t)としては非正弦波を採用するので、基本波のみではなく高調波成分も存在することになる。なお、I(t)/B(t)相関データ27,B(t)/E(t)相関データ算定装置28,及びV(t)算定装置29で高周波電圧の時間依存波形情報生成部を構成する。
【0027】
高周波電圧波形生成装置21は、上記V(t)波形情報が入力され、V(t)波形を出力するもので、デジタル信号発生器がその一例であり、デジタルシンセサイザ(任意波形装置)を用いている。デジタルシンセサイザを用いることで、各高調波の位相調整が簡便になる。出射エネルギーEを入力しこれに必要なV(t)を求めることとなる。なお、V(t)波形はE(t)の加速に必要な条件として求めたV(t)とその最大値は必ずしも同じものではない。
【0028】
高周波加速電源20は上記V(t)波形が入力され、最終的に必要とされる加速電圧波形V(t)を出力する。この出力は高周波加速装置15に入力され、それにより高周波加速装置15中で荷電粒子ビームの加速電界が形成される。なお、この高周波加速電源20は上記tクロック信号発生装置31からの時間クロック信号(tクロック信号)と同期して出力される。従って、B(t)とV(t)とはtクロック信号を介して同期が取れた状態になっている。そのため、Bクロック信号を使った従来の円形加速器と異なり、ビーム位置のフィードバック制御が不要となり、簡便な構成であり、簡単な制御で運転できる円形加速器となる。
【0029】
実施の形態1では、偏向電磁石のコイル電流が決まれば時間の関数として偏向磁場が決まることに基づいて、I(t)/B(t)相関データを測定又は計算で導出し、それを用いて時間クロック信号で電磁石電源と加速電源との間の同期をとって運転している。そのため、フィードバック制御なしで、所定の加速を行うことができるようになったものである。
【0030】
従来例は、偏向電磁石のコイル電流値と偏向磁場との関係を十分な精度で求めることはできないと考えられていたため、偏向磁場強度を測定し、所定の値増減したらフィードバック制御を行うという形で、すなわちBクロック信号で電磁石電源と加速電源との間の同期をとって運転していた。しかし、非正弦波で荷電粒子ビームを加速する場合には特に基本波と高調波相互の位相を精度良く合わせておく必要があり、3次の高調波までの場合には、2〜3度程度の精度で調整する必要がある。そのため、従来例では全体システムが非常に複雑な制御回路となる。従来例では、基本波と2倍高調波、3倍高調波をそれぞれ別の制御回路としている。これは基本波と高調波の信号伝達特性が異なるので波形生成器で所定の波形を発生させてもケーブルを伝送するうちに基本波と高調波の位相がずれてしまい、高周波加速装置の加速電圧は所定のものと異なってしまうことを、それぞれ補正する制御回路が必要であるからである。
【0031】
実施の形態1の特徴を従来例と比較して記載する。
(A)実施の形態1では、荷電粒子ビームの位置ズレに対するフィードバック制御が不要である。
ビーム軌道の中心軌道からのずれ(位置ずれ)をビーム位置モニタで検出し、その信号を、高周波加速装置に投入する高周波電圧の加速周波数にフィードバックすることが不要になる。
従来例では、ビーム位置モニタ24で測定した荷電粒子ビームのビーム軌道の中心軌道からの位置ズレ(ΔR)を小さくするために、高周波の加速電圧の周波数(f1, f2, f3)を調整するといったフィードバック制御をしないと安定にビームを加速することができなかった。つまり、従来例は、変数がB(偏向磁場)となっている。偏向磁場の増分がある値となるとBクロックが1つ出て加速電圧と周波数、位相、振幅がある値に変化する。一方、実施の形態1では変数が時間となっている。変数が時間の波形は予めデジタルシンセサイザで作成可能であるが、Bが変数の場合には予め作成しておくことは難しく従来例のような複雑な制御回路となる。
【0032】
従来例では、コイル電流から若干遅れて偏向磁場が変化することも考慮して偏向磁場の変化分がある値になるごとにBクロックを出し、Bクロックが出るごとに、ΔRが正(すなわち中心軌道より外側に軌道がシフトしているとき)になると、加速位相を変えて加速電圧を低減し、ΔRが負(すなわち中心軌道より内側に軌道がシフトしているとき)になると加速位相を変えて加速電圧を大きくしてビーム軌道を調整する。ビームは真空ダクトの中や所定の磁場が発生している領域(有効磁界領域)を周回させる必要がある。上記領域は中心軌道からある範囲内となっておりその領域をはずれるとビームは安定に周回しなくなるからである。
【0033】
実施の形態1では、フィードバック制御はせずに、最初に作成し発生させた高周波の加速電圧波形に基づいて運転を行うことが可能である。それを実現する為に、偏向電磁石のコイル電流と偏向磁場の関係を詳細に測定又は計算し、そのデータに基づきB(t)を予め計算しておき、そのデータに基づき高周波の加速電圧波形を生成する。磁場の時間依存性がわかれば、エネルギーの時間依存性が計算でき、高周波加速装置に印加する加速電圧のスペックが決定できる。従来は磁場の時間依存性がわからなかったのでフィードバック制御が必要となる。
【0034】
(B)実施の形態1では、高周波の加速電圧波形を時間の関数で与える。
従来例では、コイル電流とB磁場との関連が把握されていなかったから、高周波加速電圧波形、すなわち周波数、加速電圧の最大振幅、位相は、偏向磁場のBクロック信号に応じて変化させていくという制御を実施している。つまり、Bの強度変化に応じて、高周波加速電圧の周波数、加速電圧の最大振幅、位相を決めていた。なお、Bクロックとは偏向磁場の磁場変化ΔB毎に出すクロックのことで、一定の磁場増減があれば一定周期で出されるクロックである。
それに対して、実施の形態1では、磁場の時間依存性がわかれば、エネルギーの時間依存性が計算でき、高周波加速装置に印加する加速電圧のスペックが決定できる。従来は磁場の時間依存性がわからなかったのでフィードバック制御が必要となる。
【0035】
実施の形態1では、時間を関数にした高周波加速電圧波形(3次の高調波まで考慮し、
高周波加速電圧の基本波と各高調波の周波数、加速電圧、位相)を最初に作成し、これらの合成で形成される時間の関数である非正弦波形をした加速電圧で運転を行う。この時間の関数である非正弦波形を実現する為に、偏向電磁石のコイル電流と偏向磁場の関係を詳細に測定又は計算し、そのデータに基づきB(t)を予め決め、既に説明したとおりそのBに基づき高周波加速電圧の周波数、加速電圧、位相を決定する。
より詳しく説明すると、Bから高周波加速電圧の周波数f、加速電圧V、位相φを決定するプロセスは以下のとおりである。
(1)偏向電磁石のコイル電流と偏向磁場の関係を測定、又は、計算する。
(2)コイル電流I(t)を決めると、(1)より偏向磁場B(t)を決定する。
(3)偏向磁場Bが決まると、その偏向磁場条件下で、一定の軌道を周回する荷電粒子のエネルギーEが決まり、Eから荷電粒子の速度vが決まる。vが決まると、荷電粒子が1周する為の時間t0が決まり、その逆数がfである。よってf(t)が決まる。
(4)加速電圧Vは、荷電粒子をバンチングし安定に加速する加速シミュレーションにより各エネルギー毎のV(E)が決まる。よってV(t)が決まる。
(5)位相φは、Vと同様に荷電粒子をバンチングし安定に加速する加速シミュレーションにより各エネルギー毎のφ(E)が決まる。よってφ(t)が決まる。
【0036】
以上説明した手順により高調波を含めて加速電圧波形を時間の関数として把握することができるため、同じく時間の関数として把握したコイル電流波形を偏向電磁石に入力し、上記加速電圧の時間依存波形を高周波加速装置に印加することにより実施の形態1では、下記の効果を奏することができる。
(1)ビーム軌道の中心軌道からのずれ(位置ずれ)をビーム位置モニタで検出し、その信号を、高周波加速装置に投入する高周波電圧の加速周波数にフィードバックすることが不要になり、単純な回路で制御できる。
(2)高周波の加速電圧波形が時間の関数なので、デジタル信号発生器(例えば、デジタルシンセサイザ)で周波数、位相を含め加速電圧の時間変化波形を簡単に作成可能である。
(3)非正弦波形印加による空間電荷効果低減を簡単な回路で、煩雑な制御やフィードバック制御なしで実現できる。
【0037】
実施の形態2.
実施の形態1では高周波加速装置15に3次高調波までを考慮して非正弦波の加速電圧波形を生成したが、高調波を考慮しない正弦波の加速電圧のときでも同様な制御が可能である。
そのため、実施の形態2では、
(1)ΔRに対するフィードバック制御がないので単純な回路で制御できる。
(2)高周波加速電圧波形が時間の関数なのでデジタル信号発生器で簡単に波形を作成可能である。
【0038】
実施の形態3.
図6は偏向電磁石のコイルに流す電流により発生する偏向磁場強度の時間変化、すなわちB(t)とBクロック(偏向磁場クロック)制御のオンオフの関係を示す波形図である。空間電荷の影響により荷電粒子ビームが不安定となるのは主として低エネルギーの時であり、低エネルギーの時は実施の形態1のように時間による制御(すなわちtクロックによる制御)を行い、加速中のあるタイミングTB1で従来例のBクロック制御(偏向磁場クロックによる制御)に切り替えても良い。なお、T1はtクロック制御開始、TB2はBクロック制御からtクロック制御に切換えるタイミング、T4はtクロック制御終了を示す。TB2からT4をBクロック制御で行ってもよい。このオンオフ切り替えは図示を省略した例えば円形加速器の運転を制御する運転制御装置において行うことができる。なお、Bクロック制御とは、偏向電磁石の磁場変化量がある値になる毎にクロックを出し、それに応じた電圧波形や電流波形を出す制御である。これに対して、tクロック制御とは、一定時間毎にクロックを出し、それに応じた電圧波形や電流波形を出す制御であり、tクロック制御が、日常的に行われているのに対し、Bクロック制御は荷電粒子加速器に特有の制御である。
【0039】
磁場の時間波形、及び加速電圧の時間波形がすべて決まっていると、同じタイミングで出射することしかできない。加速、加速終了後の出射用のビーム周回時間などはあらかじめ決まった時間変化パターンで運転されることになるということで時間波形があらかじめ決まっていると言うことになる。粒子線治療装置に適用する場合には、たとえば患部の動きにあわせて任意のタイミングで荷電粒子ビームを照射する必要があり、あらかじめ決められた時間波形では制御が難しい。すなわち出射のための状態をその都度臨機応変に持続させる必要がある。このような要請に応えるために、実施の形態3のように、加速中のあるタイミングで、従来例のBクロック制御(偏向磁場クロックによる制御)に切り替えると、患部の動きにあわせて任意のタイミングで荷電粒子ビームを照射することができる。
【0040】
ビーム出射は、共鳴出射を行う。共鳴出射はいろいろな出射方法があるが、出射を行っている時間は、患部形状により異なるので、予め決められた時間波形パターンで運転することは難しく患者毎に変更する必要がある。この部分の制御は従来の粒子線治療装置で実現できている部分であり、従来と同じ制御系で実施するのが装置の信頼性を高める上で望ましい。よってあるタイミングで実施の形態1の制御から従来例の制御へと切り替えるのが望ましい。なお、減速過程の制御はBクロック制御でも、tクロック制御でも良い。
【0041】
実施の形態3に係る発明に拠れば、下記のような効果を奏することができる。
(1)ΔRに対するフィードバック制御がないので単純な回路で制御できる。
(2)高周波加速電圧波形が時間の関数なのでデジタル信号発生器で簡単に波形を作成可能である。
(3)出射時にはスキャニング照射や呼吸同期等で頻繁に荷電粒子ビームのオン/オフを行ったり、出射時間を変更したりする必要が生じる。出射時は従来例の制御方法をとり、入射から加速初期又は加速途中のみ時間制御をすることにより、従来例の円形加速器からの変更が容易となる。
【符号の説明】
【0042】
11 ビーム輸送系 12 入射装置
13 偏向電磁石 14 平衡軌道
15 高周波加速装置 16 6極電磁石
17 出射装置 18 出射用ビーム輸送系
19 前段加速器 20 高周波加速電源
21 高周波電圧波形生成装置 22 電磁石電源
23 コイル電流波形生成装置 24 ビーム位置モニタ
27 I(t)/B(t)相関データ 28 B(t)/E(t)相関データ算定装置
29 V(t)算定装置 30 出射E設定値
31 tクロック信号発生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを導入する入射装置と、前記荷電粒子ビームが内部を周回する真空ダクトと、前記荷電粒子ビームの周回軌道と前記荷電粒子ビームサイズを制御する偏向磁場と収束磁場を発生する偏向電磁石と、前記偏向電磁石を構成するコイルに通電するための電磁石電源と、高周波電圧を出力する高周波加速電源と、前記高周波加速電源から出力された高周波電圧を入力し、入力された前記高周波電圧により、周回する前記荷電粒子ビームを加速する高周波加速装置と、前記高周波加速装置により加速された前記荷電粒子ビームを出射する出射装置とを備えた円形加速器において、
前記電磁石電源は、前記コイルへの通電電流値の時間変化波形I(t)データと、これに対応して前記偏向電磁石で発生する偏向磁場強度Bの時間変化波形B(t)データとの間の、予め求められたI(t)/B(t)相関データに対応し、クロック信号と同期して前記I(t)データに対応する電流の時間変化波形I(t)を出力し、前記高周波加速電源は、前記B(t)データに対して荷電粒子ビームを所定の軌道に維持できるエネルギーEの時間変化波形E(t)データで定められるエネルギーに対応した加速に必要な非正弦波電圧の時間変化波形V(t)を前記クロック信号と同期して出力するものであることを特徴とする円形加速器。
【請求項2】
コイル電流波形生成装置と、B(t)/E(t)相関データ算定装置と、V(t)算定装置と、高周波電圧波形生成装置とをさらに備え、
前記コイル電流波形生成装置は、前記I(t)データが入力されることにより時間変化波形であるI(t)波形を生成し、当該I(t)波形を前記電磁石電源に出力するものであり、前記電磁石電源は前記I(t)波形に基づき、電流の時間変化波形I(t)を出力するものであり、
前記B(t)/E(t)相関データ算定装置は、前記B(t)データが入力され、入力された前記B(t)データに対して荷電粒子ビームを所定の軌道に維持できるエネルギーE(t)データを算定し、前記V(t)算定装置に出力するものであり、
前記V(t)算定装置は、前記E(t)データが入力され、入力された前記E(t)データから加速に必要な非正弦波電圧V(t)を構成する基本波成分と基本波の整数次高調波成分について、各々の電圧、周波数、及び位相の時間変化波形情報をV(t)波形情報として算定し、前記高周波電圧波形生成装置に出力するものであり、
前記高周波電圧波形生成装置は、前記V(t)波形情報が入力され、入力された前記V(t)波形情報から前記非正弦波電圧V(t)波形を生成し、前記高周波加速電源に出力するものであり、前記高周波加速電源は前記V(t)波形が入力され、入力された前記V(t)波形に基づき、前記非正弦波電圧の時間変化波形V(t)を出力するものであることを特徴とする請求項1記載の円形加速器。
【請求項3】
前記高周波電圧波形生成装置はデジタルシンセサイザで構成された請求項2記載の円形加速器。
【請求項4】
前記円形加速器は、さらに運転制御装置を備え、当該運転制御装置は、前記入射装置による荷電粒子の略入射時から、前記出射装置で出射を開始する前までの運転を制御することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の円形加速器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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