説明

円環状ゴム部材の製造方法及びその製造装置

【課題】押し出した帯状ゴムを残留応力が少ない状態で湾曲させることができ、しかもその曲率を自由に変更することができる円環状ゴム部材の製造方法及びその製造装置を提供すること。
【解決手段】押出機20,30により口金15を介してゴムを帯状に押し出し、その帯状ゴムの端部同士を貼り合わせて円環状に成形する工程を備える円環状ゴム部材の製造方法において、帯状ゴム1bの断面形状に対応した形状の開口11と、開口11の外周部11oにゴムを送り込むための外周側流路12oと、開口11の内周部11iにゴムを送り込むための内周側流路12iと、を有する口金15を用いて、外周側流路12oでのゴム流量を内周側流路12iでのゴム流量よりも大きくすることで、押し出した帯状ゴム1bを湾曲させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ構成部材としてのビードフィラーなどに代表される円環状ゴム部材の製造方法及びその製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図4に示すように、タイヤは、サイドウォールゴム2やトレッドゴム3、カーカスプライ4、インナーライナーゴム5など種々のゴム部材を組み合わせて構成される。ビード部材10は、一対のビード部1の各々に配設され、これを挟み込むようにしてカーカスプライ4の幅方向端部が巻き返される。ビード部材10は、図5に示すように、断面三角形状の硬質ゴムからなる円環状のビードフィラー1bと、ゴム被覆された鋼線等の収束体からなるビードコア1aとを有する。
【0003】
ビード部材10は、例えば図6に示すように、押出機81により口金82を介して帯状に押し出したビードフィラー1bを、予め円環状に形成したビードコア1aに供給し、ビードフィラー1bの内周にビードコア1aを貼り合わせることにより製造される(下記特許文献1参照)。ビードコア1aは、r方向に回転自在に支持されており、その回転速度はビードフィラー1bの押出速度に対応するように制御される。ビードフィラー1bは、所定の長さで切断された後、その端部同士が貼り合わされて円環状に成形される。
【0004】
ところが、帯状のビードフィラー1bを上記のように円環状に成形すると、その内外周差に起因して、ビードフィラー1bの外周部分に周方向の引張応力が作用するため、ビードフィラー1bがビードコア1aとは逆方向(X方向)に変形し、端部同士の貼り合わせに支障を来たすことがあった。特にビードフィラー1bの場合には、外周部分が薄肉であることから、口金82内部のゴム流路において外周部のゴムの流れが内周部よりも悪くなる傾向にあり、前述した不具合が顕著であった。
【0005】
下記特許文献2には、ビードフィラーの曲率に合致した曲率を有するダイスを使用し、このダイスに沿わせてゴムを円環状に成形する方法が記載されている。しかし、この方法では、ビードフィラーに引っ張り或いは圧縮の応力が残留するため、成形後に変形を引き起こすおそれがある。また、ビードフィラーのサイズを変更する場合には、そのサイズに対応した曲率を有する別のダイスを使用しなければならない。
【特許文献1】特開平6−297603号公報
【特許文献2】特開2004−17400号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、押し出した帯状ゴムを残留応力が少ない状態で湾曲させることができ、しかもその曲率を自由に変更することができる円環状ゴム部材の製造方法及びその製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、下記の如き本発明により達成することができる。即ち、本発明に係る円環状ゴム部材の製造方法は、押出機により口金を介してゴムを帯状に押し出し、その帯状ゴムの端部同士を貼り合わせて円環状に成形する工程を備える円環状ゴム部材の製造方法において、前記帯状ゴムの断面形状に対応した形状の開口と、前記開口の外周部にゴムを送り込むための外周側流路と、前記開口の内周部にゴムを送り込むための内周側流路と、を有する口金を用いて、前記外周側流路でのゴム流量を前記内周側流路でのゴム流量よりも大きくすることで、押し出した帯状ゴムを湾曲させるものである。
【0008】
本発明に係る円環状ゴム部材の製造方法によれば、口金の外周側流路でのゴム流量を内周側流路でのゴム流量よりも大きくすることで、開口の外周部に対してより多くのゴムを送り込み、押し出した帯状ゴムを残留応力が少ない状態で湾曲させることができる。これにより、帯状ゴムの変形を抑制でき、端部同士を適切に貼り合わせて円環状に精度良く成形することができる。また、外周側流路と内周側流路とのゴム流量のバランスを調整することで、帯状ゴムの曲率を自由に変更できるため、種々のサイズの円環状ゴム部材を容易且つ確実に製造することができる。
【0009】
本発明は、外周部分が先細りした断面三角形状のビードフィラーの製造に特に有用である。その理由は、断面三角形状をなすビードフィラーにおいては、口金の外周部におけるゴムの流れが特に悪くなる傾向にあり、端部同士の貼り合わせに支障を来たし易いところ、上述した作用効果を奏する本発明によれば、そのような不具合を解消できるためである。
【0010】
また、本発明に係る円環状ゴム部材の製造装置は、口金を介してゴムを帯状に押し出す押出機を備える円環状ゴム部材の製造装置において、前記口金が、帯状ゴムの断面形状に対応した形状の開口と、前記開口の外周部にゴムを送り込むための外周側流路と、前記開口の内周部にゴムを送り込むための内周側流路とを有し、前記外周側流路でのゴム流量を前記内周側流路でのゴム流量よりも大きくすることで、押し出した帯状ゴムを湾曲可能に構成したことを特徴とするものである。
【0011】
本発明に係る円環状ゴム部材の製造装置によれば、口金の外周側流路でのゴム流量を内周側流路でのゴム流量よりも大きくすることで、開口の外周部に対してより多くのゴムを送り込み、押し出した帯状ゴムを残留応力が少ない状態で湾曲させることができる。そのため、帯状ゴムの変形を抑制でき、端部同士を適切に貼り合わせて円環状に精度良く成形することができる。また、外周側流路と内周側流路とのゴム流量のバランスを調整することで、帯状ゴムの曲率を自由に変更できるため、種々のサイズの円環状ゴム部材を容易且つ確実に製造することができる。
【0012】
本発明に係る円環状ゴム部材の製造装置の実施形態として、前記外周側流路にゴムを供給する押出機と前記内周側流路にゴムを供給する押出機とが別個に構成されているものが挙げられる。かかる構成によれば、各押出機の作動を適宜に制御することにより、外周側流路と内周側流路とのゴム流量のバランスを容易且つ適切に調整できるとともに、帯状ゴムの曲率を簡易に変更することができる。
【0013】
本発明に係る円環状ゴム部材の製造装置の実施形態として、前記外周側流路及び前記内周側流路に対して同じ押出機からゴムが供給され、前記外周側流路の断面積が前記内周側流路の断面積よりも大きくなるように、前記外周側流路及び前記内周側流路の少なくとも一方の断面積を可変に構成したものが挙げられる。かかる構成によれば、外周側流路と内周側流路とで押出機を共用しながらも、外周側流路及び内周側流路の少なくとも一方の断面積を変えて、外周側流路の断面積を内周側流路の断面積よりも大きくすることにより、外周側流路でのゴム流量を内周側流路でのゴム流量よりも大きくすることができる
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。本実施形態では、円環状ゴム部材が、図4,5に示すように外周部分が先細りした断面三角形状のビードフィラー1bである例を示す。図1は、本発明に係る円環状ゴム部材の製造装置の一例を示す概略構成図である。図2は、口金に形成された開口の正面図である。
【0015】
この装置は、口金15と、口金15を介してゴムを帯状に押し出す押出機(本実施形態では2台の押出機20,30)と、制御装置40とを備える。押出機20は、ゴム材料が投入されるホッパー21と、ゴム材料に熱を与えながら前方に送り出すスクリュー22と、スクリュー22を内蔵する円筒状のバレル23と、スクリュー22を駆動する駆動装置24とを備える。押出機30は、押出機20と同様に構成され、ホッパー31、スクリュー32、バレル33及び駆動装置34を備える。制御装置40は、スクリュー22,32の駆制動及び回転量を制御する。
【0016】
口金15は、押出機20,30のバレル23,33の先端側に連結され、その前面に形成された開口11から帯状ゴムとしてのビードフィラー1bが押し出される。押し出されたビードフィラー1bは、後述するように矢印Rの方向に向かって湾曲する。開口11は、図2に示すようにビードフィラー1bの断面形状に対応した形状を有し、先細りとなる上部が開口11の外周部11o、下部が開口11の内周部11iとなる。
【0017】
口金15の内部には、押出機20,30から供給されたゴムが通るゴム流路が設けられており、その下流側に開口11が形成されている。ゴム流路は、バレル23,33の内部に連通する分岐部12と、開口11に連通する合流部13とを備える。分岐部12は、外周側流路12oと内周側流路12iとを有し、それらが合流部13にて合流する。外周側流路12oは、合流部13の外周側に連通し、押出機20により供給されたゴムを開口11の外周部11oに送り込む。また、内周側流路12iは、合流部13の内周側に連通し、押出機30により供給されたゴムを開口11の内周部11iに送り込む。本実施形態では、外周側流路12oと内周側流路12iとが同等の断面積を有する。
【0018】
円環状ゴム部材としてのビードフィラー1bを製造する際には、まず、ゴム材料をホッパー21,31に投入し、それらをスクリュー22、32によって混練しながら前方に送り出して口金15に供給する。口金15に供給されたゴムは、外周側流路12o及び内周側流路12iを通って合流部13で合流し、開口11から断面三角形状をなす帯状のビードフィラー1bとして一体的に押し出される。このとき、開口11の外周部11oには、主として外周側流路12oを経由したゴムが送り込まれ、開口11の内周部11iには、主として内周側流路12iを経由したゴムが送り込まれる。
【0019】
そして、本発明では、帯状のビードフィラー1bを押し出す際に、外周側流路12oでのゴム流量を内周側流路12iでのゴム流量よりも大きくする。これにより、開口11の外周部11oに対してより多くのゴムを送り込み、図1に示すように押し出したビードフィラー1bを湾曲させることができる。このビードフィラー1bは、引っ張りにより湾曲させたものではないため、残留応力の発生が抑制された状態となる。
【0020】
外周側流路12oでのゴム流量を内周側流路12iでのゴム流量よりも大きくする具体的手法としては、スクリュー22の回転量をスクリュー32よりも大きくすることや、バレル23の容量をバレル33よりも大きくすることが挙げられる。また、これら以外にも、単位時間に流れる各流路のゴム量に差を設けうる手段を適宜に採用できる。更に、外周側流路12oを通るゴムの粘度を、内周側流路12iを通るゴムよりも低くして流動性を高めると効果的である。
【0021】
押し出されたビードフィラー1bは、所定の長さで切断された後、その端部同士が貼り合わされて円環状に成形される。ビードフィラー1bの曲率は、外周側流路12oと内周側流路12iとのゴム流量のバランスにより定まるため、該ゴム流量のバランスを適切に制御することで、所望の曲率を有した歪みの少ない円環状のビードフィラー1bを製造できる。また、ゴム流量のバランスを調整して曲率を変更することで、種々のサイズのビードフィラー1bを容易に製造することができる。
【0022】
本実施形態では、外周側流路12oにゴムを供給する押出機20と内周側流路12iにゴムを供給する押出機30とが別個に構成されているため、各押出機20,30の作動を適宜に制御することで、ゴム流量のバランスを簡易に調整することができる。
【0023】
本実施形態のように、円環状ゴム部材として、外周部分が先細りした断面三角形状のビードフィラー1bを製造する場合には、その形状に起因して、開口11の外周部11oにおけるゴムの流れが悪くなり易い。しかし、本発明によれば、上述のようにして、開口11の外周部11oに対してより多くのゴムを送り込めるため、外周部11oにおけるゴムの流れの悪さを解消して、ビードフィラー1bの外周部分での残留応力を抑制できる。
【0024】
図1では図示を省略しているが、口金15の前方(図1右側)には、予め円環状に形成したビードコアが配置される。押し出されたビードフィラー1bは、該ビードコアに供給され、そのビードフィラー1bの内周にビードコアが貼り合わされてビード部材が成形される。かかる場合には、図6に示した構造と類似の構造が採用できる。また、ビードフィラー1bを1周以上押し出して螺旋状の帯状ゴムとし、それを所定の長さで切断して円環状に成形することも可能である。
【0025】
図3は、本発明に係る円環状ゴム部材の製造装置の別例を示す概略構成図である。この装置は、1台の押出機50を使用する点と口金60の形状に関する点以外は、図1に示した装置と略同様の構成である。押出機50は、前述した押出機20と同様に構成され、ホッパー51、スクリュー52、バレル53及び駆動装置54を備える。制御装置40は、スクリュー52の駆制動及び回転量を制御する。
【0026】
図1の装置では、口金15の両流路12o,12iにゴムを供給する押出機が別個に構成されていたが、図3の装置では、外周側流路62o及び内周側流路62iに対して同じ押出機50からゴムが供給される。そして、この装置では、内周側流路62iの断面積が可変に構成されており、それによって、外周側流路62oでのゴム流量を内周側流路62iでのゴム流量よりも大きくできるように構成されている。
【0027】
具体的には、内周側流路62iの下流部に、その断面積を小さくするためのチョーク部70が設けられている。チョーク部70は、軸方向に変位可能に取り付けられたチョークボルト71と、内周側流路62iに面する位置に配され、チョークボルト71の先端に取り付けられたチョークバー72とを備える。かかる構成によれば、チョークボルト71を操作してチョークバー72を内周側流路62i側に進出させることにより、内周側流路62iの断面積を減らして、外周側流路62oの断面積を内周側流路62iの断面積よりも大きくできる。
【0028】
外周側流路62oを通るゴムは、開口61の外周部61oに送り込まれ、断面積が減少した状態の内周側流路62iを通るゴムは、開口61の内周部61iに送り込まれる。これにより、外周側流路62oでのゴム流量を内周側流路62iでのゴム流量よりも大きくして、開口61の外周部61oにより多くのゴムを送り込むことができ、その結果、図3に示すように押し出したビードフィラー1bを湾曲させることができる。
【0029】
本実施形態では、内周側流路62iの断面積を小さくすることにより、外周側流路62oでのゴム流量を内周側流路62iでのゴム流量よりも大きくするものであるが、これに代えて又は加えて、外周側流路62oの断面積を拡げることによっても、同様の作用効果を奏することができる。
【0030】
[別実施形態]
前述の実施形態では、円環状ゴム部材としてビードフィラーを製造する例について説明したが、本発明はこれに限られず、例えばサイドウォールゴムなど他の円環状ゴム部材にも適用可能である。また、押出機の先端側にギアポンプを連設し、該ギアポンプの機能に基づいて口金にゴムを定量供給するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る円環状ゴム部材の製造装置の一例を示す概略構成図
【図2】口金に形成された開口の正面図
【図3】本発明に係る円環状ゴム部材の製造装置の別例を示す概略構成図
【図4】空気入りタイヤの一例を示す断面図
【図5】ビード部材を一部破断させて示した斜視図
【図6】従来の方法により円環状ゴム部材を製造する様子を示す図
【符号の説明】
【0032】
1a ビードコア
1b ビードフィラー
10 ビード部材
11 開口
11i 内周部
11o 外周部
12 分岐部
12i 内周側流路
12o 外周側流路
13 合流部
15 口金
20 押出機
30 押出機
60 口金
61 開口
61i 内周部
61o 外周部
62i 内周側流路
62o 外周側流路
70 チョーク部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出機により口金を介してゴムを帯状に押し出し、その帯状ゴムの端部同士を貼り合わせて円環状に成形する工程を備える円環状ゴム部材の製造方法において、
前記帯状ゴムの断面形状に対応した形状の開口と、前記開口の外周部にゴムを送り込むための外周側流路と、前記開口の内周部にゴムを送り込むための内周側流路と、を有する口金を用いて、
前記外周側流路でのゴム流量を前記内周側流路でのゴム流量よりも大きくすることで、押し出した帯状ゴムを湾曲させることを特徴とする円環状ゴム部材の製造方法。
【請求項2】
前記円環状ゴム部材が、外周部分が先細りした断面三角形状のビードフィラーである請求項1に記載の円環状ゴム部材の製造方法。
【請求項3】
口金を介してゴムを帯状に押し出す押出機を備える円環状ゴム部材の製造装置において、
前記口金が、帯状ゴムの断面形状に対応した形状の開口と、前記開口の外周部にゴムを送り込むための外周側流路と、前記開口の内周部にゴムを送り込むための内周側流路とを有し、
前記外周側流路でのゴム流量を前記内周側流路でのゴム流量よりも大きくすることで、押し出した帯状ゴムを湾曲可能に構成したことを特徴とする円環状ゴム部材の製造装置。
【請求項4】
前記外周側流路にゴムを供給する押出機と前記内周側流路にゴムを供給する押出機とが別個に構成されている請求項3に記載の円環状ゴム部材の製造装置。
【請求項5】
前記外周側流路及び前記内周側流路に対して同じ押出機からゴムが供給され、前記外周側流路の断面積が前記内周側流路の断面積よりも大きくなるように、前記外周側流路及び前記内周側流路の少なくとも一方の断面積を可変に構成した請求項3に記載の円環状ゴム部材の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−61691(P2009−61691A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−231783(P2007−231783)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】