説明

円筒ころ軸受

【課題】軸及びハウジング間のミスアライメントで円筒ころのチルトに追随した保持器の案内面と、軌道輪のつばの保持器案内面とのエッジ当たりを防止する。
【解決手段】保持器20の案内面22の初期形状を、軌道輪30の軌道面32の幅中央を通るラジアル平面上かつ軸受中心軸上に中心Oをもった球面S状とし、つば31の保持器案内面33の初期形状も相似形の球面状とし、ミスアライメントで許容傾き角θ=0.5°になり、円筒ころ10のチルトに追随して保持器20が傾いても、案内面22の球面S状によるラジアル方向の寸法変化で保持器20の案内すきまを正に保てるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、円筒ころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸又はハウジングの傾きを許容する転がり軸受として、自動調心ころ軸受が使用されてきた。自動調心ころ軸受は、複列のころを組み込むため、軸受幅が広くなる傾向があり、また、高速回転にも適さない(例えば、特許文献1)。
【0003】
一方、円筒ころ軸受として、単列の円筒ころを複数のポケットで保持する保持器と、つばが形成された軌道輪とを備えたものがある。円筒ころ軸受は、単列であっても、同じ軸受外径の自動調心ころ軸受に比して負荷容量も大きくすることができ、高速回転への適用性にも優れている。
【0004】
一般に、転動面が円筒面の円筒ころを採用した円筒ころ軸受では、円筒ころのチルト時にエッジロードの問題があるため、ミスアライメントの許容傾き角が0.001rad〜0.005radに設定されている。現在では、円筒ころの転動面に特殊なクラウニングを施す等により、普通荷重における許容傾き角は、自動調心ころ軸受の許容調心角と同等の0.5°(0.009rad)程度に設定することが可能になっている(例えば、特許文献2、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−175818号公報
【特許文献2】特開2008−121769号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】NTN TECHNICAL REVIEW No. 75(2007)の第140頁〜第148頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、軸又はハウジングの傾きの影響で、これらの間にミスアライメントが生じることがあり、軸受運転中、ミスアライメントで傾く軌道面に追随して円筒ころがチルトを生じ、その円筒ころを受ける保持器もチルトに追随して傾くことがある。図8に示すように、軌道輪100のつば101に円筒面状の保持器案内面102が形成され、保持器110が、保持器案内面102によりラジアル方向に案内される円筒面状の案内面111をもった円筒ころ軸受では、正規の保持器110の案内すきまが小さく設定されている。前記のように自動調心ころ軸受と同等の許容傾き角に設定すると、ミスアライメントに追随する円筒ころ120のチルトに追随して保持器110が傾く挙動で保持器110の案内すきまが0以下に減少し、案内面111の反ポケット側の端(エッジ)が保持器案内面102に強く当って摩耗粉などが発生し得る。このような保持器の傾き挙動は、チルトし易いクラウニングころで顕著だが、ころ中心軸に平行な直線を転動面の母線にもった円筒ころでも起り得る。
【0008】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、ミスアライメントで円筒ころのチルトに追随した保持器の案内面と、つばの保持器案内面とのエッジ当たりを防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を達成するため、この発明は、単列の円筒ころを複数のポケットで保持する保持器と、つばが形成された軌道輪とを備え、前記保持器が、前記つばの保持器案内面によりラジアル方向に案内される案内面を有し、軸とハウジング間のミスアライメントによる前記円筒ころのチルトに追随して、前記保持器が傾く円筒ころ軸受において、前記案内面が、前記円筒ころのチルトに追随した前記保持器の案内すきまを正に保てるラジアル方向の寸法変化をもった初期形状に形成されている構成を採用したものである。ここで、「初期形状」とは、円筒ころ軸受を軸及びハウジング間に最初に組み込んで使用を開始する時点での形状を意味する。円筒ころは、外径面の母線が直線であって、ころ中心軸に平行であるころ、及びクラウニングころのいずれでもよい。
【0010】
案内面の反ポケット側におけるラジアル方向のドロップ量の分布により、円筒ころのチルトに追随した保持器の傾きに伴う案内すきまの減少を相殺することができる。この分布の決定に際し、保持器の案内すきまを正に保てるラジアル方向の寸法変化をもった案内面の初期形状にしておけば、軸受使用開始当初から、ミスアライメントで保持器案内面と強く当り得るエッジが案内面に存在しない。したがって、保持器案内面と案内面のエッジ当たりが防止される。
【0011】
前記案内面の具体的な初期形状として、例えば、任意のアキシアル平面の断面で、案内面のポケット側の端からアキシアル方向に反ポケット側の方へ進むに連れて次第に反保持器案内面側に曲がる形状が挙げられる。この形状では、案内面のポケット側の端において、正規の保持器の案内すきまを円筒面状の案内面と同等に設定することができる。
【0012】
より好ましい初期形状として、前記保持器に存在する全ての前記案内面が、前記軌道輪の軌道面幅中央を通るラジアル平面上かつ軸受中心軸上に中心をもった同一球面に含まれる形状が挙げられる。当該中心回りでどちらに保持器が傾いても、正規の保持器の案内すきまを保つことができる。
【0013】
さらに好ましくは、前記保持器案内面が、前記案内面と同一の中心をもった球面状の初期形状に形成されているとよい。当該中心回りでどちらに保持器が傾いても、案内面と保持器案内面との案内接触幅の減少を防止することができる。
【0014】
外輪の内径面の両側に前記つばが形成された外輪案内方式の円筒ころ軸受で、上述のように保持器案内面と案内面を相似の球面状にすると、保持器案内面の最小内径が案内面の最大外径よりも小さくなるので、軸受組立て時、保持器を外輪と同軸のまま外輪の内方に挿入することが困難になる。外輪や保持器を分割構造、例えば1か所割り軌道輪、2つ割り軌道輪にすることで対応可能だが、外輪に保持器用の入れ溝を形成して割り構造を避けることも可能である。
【0015】
すなわち、前記両側のつばの片側に切欠き状の入れ溝部が形成されており、前記保持器を、前記軌道輪と直角な向きで前記入れ溝部からアキシアル方向に前記つばの奥まで通し、当該軌道輪とラジアル方向に重なるように回転させることができるようにするとよい。前記のラジアル平面上に保持器中心軸が位置するまで保持器を通したところで、保持器を軌道輪とラジアル方向に重なるように回転させ、ポケットを軌道面に臨ませることができる。
【0016】
この発明では、前記保持器案内面が円筒面状の初期形状に形成されているものであってもよい。上述のようにラジアル方向の寸法変化をもった案内面で案内すきまの確保を図るので、円筒面状の保持器案内面が形成された一般的なつば付き軌道輪をそのまま採用することができる。
【0017】
前記案内面は球面状以外にも、複数の面を組み合わせた様々な初期形状に形成することができる。
【0018】
例えば、前記案内面が、任意のアキシアル平面の断面で、アキシアル方向の直線と、当該直線からアキシアル方向に反ポケット側の方へ進むに連れて次第に反保持器案内面側に曲がる曲線とからなる初期形状を採用することができる。加工の難しいラジアル方向に曲がった曲線を直線で減らしつつ、円筒面域の反ポケット側に連なる曲面域により、保持器傾き時も案内すきまを保つことができる。
【0019】
別例として、前記案内面が、任意のアキシアル平面の断面で、アキシアル方向に反ポケット側の方へ向って反保持器案内面側に傾いた複数の直線からなる初期形状を採用することができる。ラジアル方向に曲がった曲線を含めずに案内面を形成することができる。
【0020】
前記円筒ころの許容傾き角を大きくする場合、前記保持器が円筒ころに追随して傾くので、アキシアル方向のポケットすきまを定める保持器のポケット幅面部と円筒ころの端面との接触による摩耗を防止することが好ましい。
【0021】
具体的には、前記円筒ころの端面を案内するポケット幅面部が、任意のアキシアル平面の断面で、ラジアル方向中央でアキシアル方向に最も高く、かつ当該中央からラジアル方向に離れるに連れて次第に低くなる中高形状に形成されているとよい。円筒ころのチルト時、保持器のポケット幅面部の中高形状により、正規のアキシアル方向のポケットすきまからの減少が相殺されるので、チルトした円筒ころの端面のエッジ当たりによるポケット幅面部の摩耗を防止することができる。
【0022】
この発明は、自動調心ころ軸受と同等のミスアライメントを許容する用途の円筒ころ軸受に採用することができる。例えば、前記ラジアル方向の寸法変化が、前記ミスアライメントがアキシアル方向に対して0.5°のとき、前記案内すきまを正に保てるように設定されていると、普通荷重で自動調心ころ軸受に代用可能な円筒ころ軸受を得ることができる。
【0023】
前記円筒ころの直径に対する長さ比を問わない。例えば、前記円筒ころが針状ころ又は棒状ころからなるものを採用することもできる。なお、「針状ころ」は、直径に対する長さの比が大きく、直径が小さい円筒ころであって、直径が5mmを超えず、長さがその3〜10倍であるものをいう。「棒状ころ」は、直径に対する長さの比が大きく、直径が比較的大きい円筒ころであって、直径が5mmを超え15mm以下で、長さが直径の3〜10倍であるものをいう。
【発明の効果】
【0024】
上述のように、この発明は、上記構成の採用により、ミスアライメントで円筒ころのチルトに追随した保持器の案内面と、つばの保持器案内面との案内すきまを正に保てるので、これら案内面と保持器案内面のエッジ当たりを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1実施形態のアキシアル平面の要部断面図
【図2】第1実施形態の保持器挿入工程を示す分解斜視図
【図3】第2実施形態のアキシアル平面の要部断面図
【図4】第3実施形態のアキシアル平面の要部断面図
【図5】第4実施形態のアキシアル平面の要部断面図
【図6】第5実施形態のアキシアル平面の要部断面図
【図7】第6実施形態のアキシアル平面の要部断面図
【図8】従来例のアキシアル平面の要部断面図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、この発明の実施形態を添付図面に基いて説明する。図1に示すように、第1実施形態は、単列の円筒ころ10を複数のポケット21で保持する保持器20と、軌道輪30とを備えた円筒ころ軸受になっている。軌道輪30は、内径面の両側につば31が形成された外輪からなる。
【0027】
円筒ころ10は、転動面11にクラウニングを施されている。図示では、クラウニングを模式的に描いたが、実際にはラジアル負荷による円筒ころ10の弾性変形により、転動面11は軌道面32の略全幅で線接触することになる。なお、この発明での「ラジアル」、「アキシアル」の概念は、特に言及しない限り、軸受中心軸に基く。
【0028】
図中、軸及びハウジング(これらの図示を省略)間のミスアライメントが0、保持器20及び軌道輪30が軸受中心軸に同軸、かつ円筒ころ10の長さ中央が軌道輪の軌道面32の幅中央を通るラジアル平面上に位置した状態を実線で描いている。また、実線の状態から内方の軌道面41をもった部材が許容傾き角θになり、円筒ころ10のチルトに追随して保持器20が中心O回りで傾いた状態の主な外形線を二点鎖線で描いている。中心Oは、前記ラジアル平面上かつ軸受中心軸上に位置している。軸とハウジング間のミスアライメントが生じると、内外の軌道面41、32の一方の中心軸が他方の中心軸に対して傾くことに伴って、円筒ころ10がチルトする。チルトする円筒ころ10をポケット21の内面で受ける保持器20は、円筒ころ10に捻られるので、円筒ころ10のチルトに追随して傾く。この円筒ころ軸受の許容傾き角θは、自動調心ころ軸受の許容調心角と同等にするため、普通荷重で0.5°に設定されている。普通荷重は、基本動ラジアル荷重Crの0.09倍相当荷重のことをいう。なお、二点鎖線の図示は、各部材の傾きを許容傾き角θよりも誇張して描いている。
【0029】
つば31に保持器案内面33が形成されている。保持器20は、つば31の保持器案内面33によりラジアル方向に案内される案内面22を有している。案内面22は、保持器20の両側の環状部にそれぞれ形成されている。案内面22の幅及び保持器案内面33の幅は、軸受運転中に保持器20のラジアル方向の位置決めに寄与し得る摺接範囲の全幅で決まる。環状部の幅全体、つば31の幅全体が案内面22等になっている必要はない。許容傾き角θになって保持器20が最大限に傾いても、保持器20のラジアル方向の位置決めに寄与しない環状部の表面部分は案内面22を構成しない。例えば、案内面22の反ポケット側の端22bは、保持器幅面側の面取りのR形状とのつなぎ目になっており、当該面取りは保持器20が最大限に傾いてもラジアル方向の位置決めに寄与しない。なお、クラウニング設計において、普通荷重かつ許容傾き角θのときの円筒ころ10のチルト角度が決まる。許容傾き角θでの保持器20の最大限の傾きの角度は、そのチルト角度の円筒ころ10と保持器20との接触部分の幾何的関係に基いて計算で求めることができる。
【0030】
案内面22のアキシアル平面の断面での初期形状は、案内面22のポケット21側の端22aからアキシアル方向に反ポケット21側の方へ進むに連れて次第に反保持器案内面33側に曲がる形状になっている。案内面22は、任意のアキシアル平面の断面で、図中と同じ初期形状に形成されている。保持器20は、成型、削り出し等の適宜の加工方法、材料で初期形状に形成すればよい。
【0031】
保持器20及び軌道輪30はアキシアル方向に対称形になっている。保持器20に存在する全ての案内面22、22は、前記のラジアル平面上かつ軸受中心軸上に中心Oをもった同一球面S(図中に一点鎖線で描く)に含まれる初期形状になっている。一方、保持器案内面33は、案内面22と同一の中心Oをもった球面状の初期形状に形成されている。保持器案内面33は、球面滑り軸受と同様な加工法で加工することが可能である。
【0032】
保持器20の案内すきまは、幾何的に考えて、軸受中心軸回りの円周方向(以下、単に「円周方向」と呼ぶ)の一箇所で保持器20と軌道輪30とが軸受中心軸に直角な向きに接する位置から、円周方向に180°反対箇所で同向きに接するまで保持器20が自由にラジアル方向に動き得る量に相当する。正規の保持器20の案内すきまは、図中の実線の保持器案内面33及び案内面22の位置関係で設定される。すなわち、保持器案内面33と案内面22とのラジアル方向に対向する任意の二点間において、最小のラジアル方向すきまを2倍した値が正規の保持器の案内すきまに相当する。保持器案内面33及び案内面22が前記のラジアル平面上かつ軸受中心軸上の同一中心Oをもった相似の球面状なので、当該任意の二点間におけるラジアル方向すきまは、どの二点間でも同じ正の値になっている。
【0033】
図中の二点鎖線で例示したように保持器20が円筒ころ10のチルトに追随する傾きは、円周方向の半周域において案内面22の反ポケット21側の端22bをラジアル方向に軌道輪30の方へ変位させる姿勢変化、すなわち本来、保持器20の案内すきまを減少させる姿勢変化である。案内面22の球面曲率に伴うラジアル方向の寸法変化は、案内面22の端22aから端22bに向って進む程にラジアル方向ドロップ量を大きくするので、その端22bのラジアル方向変位を相殺する。ポケットすきま、及び円筒ころ10とつば31との間に設定されたころ案内すきまがあるため、保持器20のアキシアル振れが発生し得る。前記案内面22のラジアル方向の寸法変化は、保持器20が最大限にアキシアル振れを生じた位置で円筒ころ10のチルトに追随して最大限に傾いても、保持器20の案内すきまを正に保てる、つまり円周方向一箇所で保持器20と軌道輪30とが摺接する案内接触域以外の円周方向領域で案内面22と保持器案内面33間にラジアル方向のすきまが残るように設定されている。したがって、保持器20が円筒ころ10のチルトに追随してどのように傾いても、案内面22の端22bが円周方向二等配箇所で同時に保持器案内面33へ強く当たる摺接状態は生じ得ず、ミスアライメントによる保持器案内面33と案内面22とのエッジ当たりを防止することができる。ひいては、軸受として円滑に回転することができる。
【0034】
ここで、二点鎖線で例示する如く、保持器20がアキシアル振れ0、かつ軸受中心軸と同軸の状態から中心O回りで傾く場合を見れば分かるように、案内面22の球面性により、案内面22が球面Sに沿って変位するだけなので、前記任意の二点間でラジアル方向すきまが減少する箇所は発生しない。このため、前記最小のラジアル方向すきまは正規の値のままであり、保持器20の案内すきまが変化しない。
【0035】
この円筒ころ軸受の組立てを説明する。図1、図2に示すように、軌道輪30は、両側のつば31、31の片側に切欠き状の入れ溝部34が形成されている。入れ溝部34は、保持器20の幅より大きい幅をもち、円周方向等配の二箇所に形成されている。保持器20は、軌道輪30と直角な向きで入れ溝部34、34からアキシアル方向につば31の奥まで通される。保持器20の案内面22以外の部分に球面Sから食み出るような肉付けは必要ないので、保持器20は、前記のラジアル平面上に保持器中心軸が位置するまで保持器を通したところで(図2中に二点鎖線で描いた位置)、保持器中心軸及び軸受中心軸に直角な直線回りで回転自在に設けることが可能である。これにより、保持器20を軌道輪30とラジアル方向に重なるように回転させ、図1に示すようにポケット21を軌道面32に臨ませることができる。その後、各ポケット21に内径側からころ入れすれば、軌道輪アセンブリに組み立てることができる。
【0036】
入れ溝部34を円周方向二等配に形成しているので、各入れ溝部34の深さを浅くすることができる。これにより、図1に示すように、入れ溝部34側のつば31のつば面と、反入れ溝部34側のつば31のつば面とは、実質的に同じラジアル方向長さで円周方向に亘って連なるように形成されているので、円筒ころ10の案内性に支障はない。両側のつば31のいずれに入れ溝部34を形成するかは、円筒ころ軸受のアキシアル負荷用途を考慮して決定すればよい。例えば、アキシアル方向に負荷しない用途のNU形円筒ころ軸受では、どちら側のつば31に入れ溝部34を形成してもよい。NJ形なら、負荷時のころ案内に影響し難い正面側のつば31に形成することが好ましい。上述のように両側のつば31のつば面を円周方向に亘って同様に確保できるならば、NUP形に適用する場合であってもころ案内に支障はない。
【0037】
第2実施形態を図3に基いて説明する。以下、第1実施形態との相違点を中心に述べ、同一に考えられる構成の説明を省略する。第2実施形態では、軌道輪50のつば51に形成されている保持器案内面52の初期形状が、軸受中心軸を中心軸にもった円筒面状になっている。保持器60の最大外径は、保持器案内面52の径寸よりも小さく、つば51の入れ溝部が省略されている。正規の保持器60の案内すきまは、案内面22のポケット21側の端22aと、保持器案内面52との間のラジアル方向すきまに相当する。球面Sに含まれた案内面22なので、中心O回りに保持器60が傾いても端22aと保持器案内面52との間のラジアル方向すきまの大きさが変化せず、正規の保持器の案内すきまを保つことができる。第2実施形態は、第1実施形態に比して、案内面22と保持器案内面52とが摺接する案内接触幅は少なくなるが、円筒面状の保持器案内面が形成された一般的なつば付き軌道輪をそのまま採用することができる。
【0038】
第3実施形態を図4に基いて説明する。以下、第2実施形態からさらに相違する点を述べる。第3実施形態の保持器70は、片側ごとに案内面71の曲率中心を定めたものになっている。任意のアキシアル平面の断面で考えると、案内面71の初期形状は、単一の円弧状になっている。この円弧状は、保持器70の傾きによって保持器70の案内すきまは正規の値から変化するが、正には保てる曲率中心の位置及び曲率半径に設定されている。このような形状でも、正規の保持器70の案内すきまは、案内面71のポケット側の端71aと、保持器案内面52との間のラジアル方向すきまとして、図8のような円筒面状の案内面と同等に設定することができる。
【0039】
第4実施形態を図5に基いて説明する。以下、第3実施形態からさらに相違する点を述べる。第4実施形態の保持器80の案内面81は、任意のアキシアル平面の断面で、アキシアル方向に反ポケット側の方へ向って反保持器案内面52側に傾いた複数の直線82、83、84、85からなる初期形状に形成されている。したがって、第4実施形態は、前記の断面でラジアル方向に曲がった曲線を含めずに案内面81を形成することができる。例えば、軸受中心軸を中心線にもった複数の円すい面を、各円すい面の小端部が軸方向反ポケット側に向くように連ねて加工すれば、案内面81を形成することができる。直線82〜85間の各つなぎ目は、図4の案内面71と同じ円弧状に位置し、図4と図5の対比から明らかなように、図5の案内面81を図4の案内面71の円弧状に近似させることにより、保持器案内面52に案内接触する際のつなぎ目の摩耗が防止されている。
【0040】
第5実施形態を図6に基いて説明する。以下、第3実施形態からさらに相違する点を述べる。第5実施形態の保持器90の案内面91は、任意のアキシアル平面の断面で、アキシアル方向の直線92と、直線92からアキシアル方向に反ポケット側の方へ進むに連れて次第に反保持器案内面52側に曲がる曲線93とからなる初期形状に形成されている。曲線93は、図4の案内面71の円弧状に一致しており、円筒ころ10のチルトに追随した保持器90の傾き時も案内すきまを正に保つことができる。図6の案内面91と図5の案内面81とを対比すれば明らかなように、直線92を含む案内面91の採用により、加工の難しいラジアル方向に曲がった曲線を減らすことができる。直線92は、例えば、軸受中心軸を中心線にもった円筒面の加工によって形成することができる。直線92と曲線93のつなぎ目は、滑らかに連なることが好ましい。
【0041】
第6実施形態を図7に基いて説明する。以下、第2実施形態からさらに相違する点を述べる。第6実施形態の保持器60’は、円筒ころ10の端面12を案内するポケット幅面部23の形状のみを変更したものである。任意のアキシアル平面の断面で、ポケット幅面部23は、ラジアル方向中央でアキシアル方向に最も高く、かつ当該中央からラジアル方向に離れるに連れて次第に低くなる中高形状に形成されている。正規のアキシアル方向のポケットすきまは、両側のポケット幅面部23のうち、中高形状のラジアル方向中央間で設定されている。図示のように、円筒ころ10のチルト時、本来、追随する保持器60’が遅れて傾くので、円筒ころ10の端面12のエッジがポケット幅面部23に接近し、ポケットすきまがアキシアル方向に減少する挙動になる。ポケット幅面部23の中高形状によるアキシアル方向の高低差により、その減少が相殺される。したがって、チルトした円筒ころ10の端面12のエッジ当たりによるポケット幅面部23の摩耗を防止することができる。ひいては、端面12とポケット幅面部23のかじりを防止し、一層の円滑な案内が可能となる。また、ポケット21内で円筒ころ10がチルトすることができるため、保持器60’が過度に傾いて軸受幅面から突出しないようにするのにも有効である。中高形状の高低差は、許容傾き角になってもアキシアル方向のポケットすきまを正に保てる限り、適宜に設定すればよく、円筒ころ10の端面12に接触しないポケット21のアキシアル方向端部を中高形状に含める必要はない。
【0042】
この発明の技術的範囲は、上述の実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載に基く技術的思想の範囲内での全ての変更を含むものである。例えば、各実施形態の円筒ころを針状ころ又は棒状ころにすることもできる。針状ころにする場合、軸又はハウジングに一方の軌道面を形成し、保持器案内面をもった軌道輪のみを備えた円筒ころ軸受にすることもできる。また、各実施形態を外輪案内方式の軌道輪案内保持器の例で説明したが、内輪案内方式に適用することができる。また、第1実施形態の入れ溝部に代えて、二つ割り外輪を採用し、外輪をプランマブロックで固定する組立てを採用することもできる。
【符号の説明】
【0043】
10 円筒ころ
11 転動面
12 端面
20、60、60’、70、80、90 保持器
21 ポケット
22、71、81、91 案内面
22a、71a ポケット側の端
22b 反ポケット側の端
23 ポケット幅面部
30、50 軌道輪
31、51 つば
32 軌道面
33、52 保持器案内面
34 入れ溝部
82、83、84、85、92 直線
93 曲線
S 球面
O 中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単列の円筒ころを複数のポケットで保持する保持器と、つばが形成された軌道輪とを備え、
前記保持器が、前記つばの保持器案内面によりラジアル方向に案内される案内面を有し、
軸とハウジング間のミスアライメントによる前記円筒ころのチルトに追随して、前記保持器が傾く円筒ころ軸受において、
前記案内面が、前記円筒ころのチルトに追随した前記保持器の案内すきまを正に保てるラジアル方向の寸法変化をもった初期形状に形成されていることを特徴とする円筒ころ軸受。
【請求項2】
前記案内面が、任意のアキシアル平面の断面で、前記案内面のポケット側の端からアキシアル方向に反ポケット側の方へ進むに連れて次第に反保持器案内面側に曲がる初期形状に形成されている請求項1に記載の円筒ころ軸受。
【請求項3】
前記保持器に存在する全ての前記案内面が、前記軌道輪の軌道面幅中央を通るラジアル平面上かつ軸受中心軸上に中心をもった同一球面に含まれる初期形状に形成されている請求項2に記載の円筒ころ軸受。
【請求項4】
前記保持器案内面が、前記案内面と同一の中心をもった球面状の初期形状に形成されている請求項3に記載の円筒ころ軸受。
【請求項5】
前記軌道輪が、内径面の両側に前記つばをもった外輪からなり、
前記両側のつばの片側に切欠き状の入れ溝部が形成されており、
前記保持器を、前記軌道輪と直角な向きで前記入れ溝部からアキシアル方向に前記つばの奥まで通し、当該軌道輪とラジアル方向に重なるように回転させることができる請求項4に記載の円筒ころ軸受。
【請求項6】
前記保持器案内面が円筒面状の初期形状に形成されている請求項3に記載の円筒ころ軸受。
【請求項7】
前記案内面が、任意のアキシアル平面の断面で、アキシアル方向の直線と、当該直線からアキシアル方向に反ポケット側の方へ進むに連れて次第に反保持器案内面側に曲がる曲線とからなる初期形状に形成されている請求項1に記載の円筒ころ軸受。
【請求項8】
前記案内面が、任意のアキシアル平面の断面で、アキシアル方向に反ポケット側の方へ向って反保持器案内面側に傾いた複数の直線からなる初期形状に形成されている請求項1に記載の円筒ころ軸受。
【請求項9】
前記円筒ころの端面を案内するポケット幅面部が、任意のアキシアル平面の断面で、ラジアル方向中央でアキシアル方向に最も高く、かつ当該中央からラジアル方向に離れるに連れて次第に低くなる中高形状に形成されている請求項1から8のいずれか1項に記載の円筒ころ軸受。
【請求項10】
前記ラジアル方向の寸法変化が、前記ミスアライメントがアキシアル方向に対して0.5°のとき、前記案内すきまを正に保てるように設定されている請求項1から9のいずれか1項に記載の円筒ころ軸受。
【請求項11】
前記円筒ころが、針状ころ又は棒状ころからなる請求項1から10のいずれか1項に記載の円筒ころ軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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