説明

再剥離性水性感圧接着剤組成物

【課題】
転写塗工法が適用できる感圧接着剤組成物であって、基材との密着性、初期接着性に優れ、ダンボール等の粗い表面に対して低温でも軽圧着で接着でき、且つ再剥離性のよい水性感圧接着剤組成物を提供すること。
【解決手段】弾性率の異なる微球粒子および、乳化重合により得られる重合体微粒子を含む水性感圧接着剤組成物において、特定の重合体微粒子を選択し、感圧接着剤組成物の架橋度適当な範囲とすることにより本課題を解決した。
【参考図】なし

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着性微球粒子を含有する水性感圧接着剤組成物に関するものであり、表面が平滑面又は粗面の何れの被着体に対しても良好な接着性を有し、特にダンボール等の粗面に対して低温でも良好に接着でき、かつ再剥離した時の剥離面に糊残りやべた付きのない再剥離性水性感圧接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
感圧接着シートは、商品ラベル、物流管理ラベルなどの粘着ラベルとして、各種商標、価格、注意事項などの情報、あるいはデザイン等を印字、印刷し、被着体である各種商品等に貼付されて用いられることがしばしばである。この場合、ラベルの貼付目的は、情報、デザイン等の表示であり、感圧接着剤組成物への要求品質は、ラベル貼付時に容易に被着体と接着し、その後の保管、輸送などの工程でもラベルが脱落しないための十分な接着性であり、その用途(例えば、低温での接着力に優れる冷食用感圧接着剤、ダンボールやコンクリートなどの粗面やポリオレフィンなど感圧接着シートが接着しにくい非極性被着体などに強固な接着性を持つ強粘着性感圧接着剤など)に応じて使い分けており、一度貼付されたラベルは永久もしくは半永久的に接着している。
【0003】
ここでいう被着体への粘着ラベルの貼付は、該ラベルの貼付枚数や作業工程によって様々であるが、手作業やオートラベラーなどの装置を用いて行われる。この時、ラベル貼付にかかる被着体との接触圧は、JIS Z 0237の粘着力測定法に準じた圧着ローラーの重量に換算すると100g重〜2kg重と幅広いものであり、JIS Z 0237の粘着力測定法に準じた2kg重の圧着ローラーではラベルの感圧接着剤層表面と被着体との接触面積が十分に得られるが、100g重の接触圧では、十分に接触面積が得られないため、貼付時にラベルが脱落しやすい。一般に、殆どの粘着ラベルは平坦な粘着面を有しているため、ラベルが貼付される被着体が粗面であったり、またラベル貼付にかかる被着体との接触圧が小さすぎたりするときには、ラベルの粘着面と被着体との接触面積が十分に確保できずに接着力が低くなり、ラベルが脱落しやすくなる。
【0004】
商品などの包装、梱包に使用される容器、包装紙などを再利用する目的や、流通管理などの用途で、一度貼付された粘着ラベルを被着体から剥がしたり、また、一旦剥がしたラベルを再度貼付したりする用途がある。これらのラベルの感圧接着剤組成物への要求品質は、前記接着性に加え、再剥離性、再貼着性が必要である。
【0005】
この様な、接着性、再剥離性、再貼着性を備えた再剥離型感圧接着剤組成物としては、従来から幾多のアクリル系共重合体やゴム系共重合体の有機溶媒溶液又は水性乳化分散液に基づいた感圧接着剤が提案されているが、これらから得られる再剥離型感圧接着シートは、その感圧接着剤層が平坦なものとなるため、平滑性の良好な被着体に対しては接触面積が得られやすく感圧接着シートの脱落などの不具合がないものの、貼付後の経過時間により接着力が増大し、感圧接着シートの基材破壊、糊残りなどが起こりやすくなり、再剥離が困難になる。逆に、ダンボール、コンクリートなどの粗面の被着体に対しては、感圧接着剤層表面との接触面積が十分に得られないため接着力が低く、オートラベラーなどの軽圧着の貼着条件では感圧接着シートが脱落しやすい。このため、再剥離性を得るには被着体の種類、貼付期間を限定しなければならないという不具合があった。
【0006】
このような問題点を改善するために、感圧接着剤層中に粘着性微球粒子を含ませて感圧接着剤層の表面に予め凹凸を持たせる試みも行われている。例えば特許文献1には、結合剤とその中に埋設された「エラストマー状共重合体微球体」からなる感圧接着剤層を有する感圧接着シートが提案されている。ここで「エラストマー状共重合体微球体」とは、具体的には、アニオン系界面活性剤の存在下に、水中で過酸化ベンゾイルなどの油溶性重合開始剤を用いて、イソオクチルアクリレートなどを主体とする粘着性共重合体形成性単量体を共重合して得られる、約10〜150μm程度の粘着性微球粒子であり、「結合剤」とは、それ自体感圧接着剤として使用できる共重合体水性分散液又はこれより硬い皮膜を形成する共重合体水性分散液に由来する皮膜を始め、エポキシ樹脂皮膜、セルロース系樹脂皮膜、ウレタン系樹脂皮膜などからなるものである。粘着性微球粒子埋設の方法も、基材上に結合剤の皮膜を形成した後、粘着性微球粒子を含む分散液を塗工する方法、結合剤の溶液又は分散液と粘着性微球粒子を含む分散液との混合液を基材上に塗工する方法などが挙げられている。
【0007】
また特許文献2には、色々な被着体、中でも紙又は布帛等の繊維製品に対する再剥離性を得るため、基材上に直接又は下塗層を介して「粘着性微小粒子」の層が設けられた感圧接着シートが提案されている。ここで用いられる「粘着性微小粒子」は、2-エチルヘキシルアクリレート、ブチルアクリレートなどを主体とする単量体を有機溶媒中で油溶性重合開始剤を用いて共重合した後、この溶液にアニオン系又は油溶性ノニオン系などの界面活性剤を含む水溶液を添加・攪拌して水性懸濁液とすることにより得られたもので、その粒子径は10〜100μm程度であることが好ましいとされている。下塗層は、アクリル樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ポリブチラール樹脂、エポキシ樹脂などにより形成される。
【0008】
上記の特許文献1及び特許文献2に記載の方法では、粘着性微球粒子が感圧接着剤層の表面に突出することで感圧接着剤層表面に凹凸が形成されているため、接着しやすい平滑な被着体と感圧接着剤の接触(接着)面積を減少させることができる。一方、接着しにくい粗面の被着体に対しては、感圧接着剤層表面の凹凸が、かえって接触(接着)面積を増大させているものと推測される。従って、得られる再剥離型感圧接着シートは、被着体の粗さに関わらず一定の接触面積が得られやすく、再剥離、再貼着可能な接着力を維持できるものと推測できる。しかし該粘着性微球粒子は、その形状が圧力に対して必ずしも安定であるとはいえず、例えば、感圧接着シートを巻き取った状態で保管する場合、その巻締圧により粘着性微球粒子が扁平化(半球状もしくは球状の粘着性微球粒子が圧により平坦な形状へ塑性変形すること)して感圧接着剤層表面の凹凸が小さくなり、ダンボールなどの粗面に対する軽圧着時の接着力が低くなるという問題があった。
【0009】
このため、粘着性微球粒子の外圧による扁平化を防ぐ手段として、粘着性微球粒子を架橋する方法が提案されており、例えば、特許文献3では、特許文献2と同様の方法で作製された粘着性微球粒子をカルシウムなどの金属イオンで架橋する方法;特許文献4では、粘着性共重合体を形成するアクリル系単量体と共にテトラアリルオキシエタンなどの多官能性単量体を用いて水性媒体中で懸濁重合し、内部架橋した「粘着性微細球」を作製する方法;特許文献5では、特許文献2と同様の方法で作製された粘着性共重合体の粘着性微球粒子又は水性媒体中で懸濁重合して得られた粘着性微細球を、水性懸濁液中でエポキシ樹脂やブチルかメラミン樹脂などの油溶性架橋剤を用いて架橋して粘着性「架橋重合体微小球」を作製する方法;などが提案されている。
【0010】
しかし、これらは何れも粒子自体を架橋することで粘着性微球粒子の硬度を上げているため、外圧による扁平化を防ぐ効果はあるが、粘着性微球粒子の粘着性が低下し、特にポリエチレン等の非極性被着体への接着性が低下する。従って、感圧接着剤本来の必要性能である接着性が不十分になるという欠点が伴う。
【0011】
一方、特許文献6では、再剥離性改善のため、粘着性微球粒子及び該粘着性微球粒子を基材に固定するための結合剤に含まれるカルボキシル基等の官能基と反応する基を1分子中に2個以上含有する架橋剤を含有させ、化学的結合効果により粘着性微球粒子と結合剤との密着性、及び基材への密着性を共に向上させて、ラベルを被着体から剥がす際の糊残りを抑制する方法が提案されている。結合剤は、通常、アクリル系単量体を乳化重合して得られる。しかしこの方法でも、依然、高温多湿等の環境条件下や、過度の加圧下では、経時により糊残りが発生する場合があり、厳しい条件下での再剥離性は不十分であった。
【0012】
また特許文献7には、「弾性微小球」である共重合体及び該「微小球」の全表面を被覆している粘着性共重合体のそれぞれの分子中に官能基を結合させ、且つ該官能基と反応しうる架橋剤を配合することにより、感圧接着剤及び粘着性微小球とを化学結合させ、また、粘着性共重合体及び微小球と基材とを化学結合ないしはアンカー効果により結合させることにより、これら粘着成分の被着体への残留が有効に防止されると記載されている。
【0013】
しかしながら、上記方法でも微球粒子の基材への固着は必ずしも十分とはいいがたく、被着体の種類や環境条件によっては糊残りが発生することがあるという問題があった。さらに結合剤量及び架橋剤量を多くすることにより被着体への糊残りは押さえられる反面、単位面積当たりの微球粒子数の減少、微球粒子の弾性変形能の低下などにより被着体への接触面積が低下するため、比較的高い初期接着力を維持しつつ再剥離・再接着性を両立させることは困難であった。
【0014】
本発明者らは、以上述べた問題点を解決することを目的に、粘着性微球粒子を含有する再剥離型感圧接着剤組成物に関して、特定の貯蔵弾性率を有する粘着性微球粒子を含有してなる再剥離型感圧接着剤組成物(特許文献8)及び、特定範囲のゲル分及び分子量を有する粘着性微球粒子を含有してなる再剥離型感圧接着剤組成物(特許文献9)についての提案を行い、これら本発明者らの提案の再剥離型感圧接着剤組成物に基づく感圧接着シートは、従来技術による感圧接着シートに比較して、初期接着性、再剥離・再接着性の点で非常に優れたものであった。
【0015】
ところで従来から、感圧接着シートの作製に際しては、基材の表面に感圧接着剤組成物を直接塗布・乾燥して基材の表面に感圧接着剤層を形成する直接塗工法よりもむしろ、感圧接着剤組成物を、一旦、離型材(紙やプラスチックフイルムの表面をシリコーン樹脂等で離型処理したもの)上に塗布・乾燥して感圧接着剤層を形成させた後、これを基材表面に転写する転写法が多く採用されている。これは、紙などの基材が感圧接着剤組成物を直接塗布・乾燥することによりしわの発生や収縮などによる変形を起こして、商品としての品質が著しく低下することが多く、さらに基材が感熱記録紙などの場合には、乾燥時の加熱温度を高くできないため加工に長時間を要し、また感圧接着剤組成物中に含まれている成分、例えば界面活性剤や有機溶媒などにより、感熱記録紙に含まれている顔料や染料を含むカプセルが破壊されて発色することがあるなどの理由によるものである。
【0016】
しかしながら、粘着性微球粒子を含む感圧接着剤組成物では、その特徴として、前記のとおり形成された感圧接着剤層の表面には粘着性微球粒子が突出して凹凸状になっており、これをそのまま基材に転写したのでは、基材と感圧接着剤層との接触面積が小さくなって、密着性に問題が生じやすいことは明らかである。また基材に転写後の感圧接着剤層の新たな表面は、転写前には離型材に接触した状態で乾燥されたものであるためかなり平坦な表面となっており、特に結合剤などを含む感圧接着剤組成物にあってはこの傾向が顕著である。このような感圧接着剤組成物を再剥離型感圧接着シート用として用いるときには、前記の微球粒子を含まない感圧接着剤組成物の場合と同様の問題点が存在し、その上感圧接着剤層の基材密着性の不具合から、一層、感圧接着剤転着の問題が生じやすい。そして前記本発明者らによる特許文献8及び9の提案についても、これらの感圧接着剤組成物を転写法で使用するときには、同様の問題点を免れ得ないことが判明した。
【0017】
上記の転写法に伴う問題点を解決するために、特許文献10には、支持体(基材)の少なくとも一面に強粘着剤層が形成され、この強粘着剤層上に微球状粘着剤層が形成されている微粘着層を有する粘着テープが提案されている。この提案によれば、支持体上に直接塗布・乾燥して形成された強粘着剤層と、別途、離型紙上に塗布・乾燥して形成された微球状粘着剤層とを、両粘着剤層が向き合うようにして貼り合わせた後、支持体と離型紙を剥離することにより微球状粘着剤層を支持体上の強粘着剤層の上に転写させている。
【0018】
しかしながら特許文献10の方法では、二つの粘着剤層を別々に塗布・乾燥させて形成するという煩雑でコスト上昇につながる方法を採用しており、その上、基材上の強粘着剤層は直接塗工法により形成されるため、前記の基材変形の問題は免れ得ず、また基材として感熱紙などを用いることは困難であった。
【0019】
そこで、本発明者らは、粘着性微球粒子を含む感圧接着剤組成物を用いて、特に転写法により基材表面に、基材との密着性に優れた感圧接着剤層を形成する方法について開発検討を行い、特許文献11において粘着性微球粒子を含有してなる水性感圧接着剤組成物において、60℃より高い溶融温度を有する微球粒子(A)少なくとも1種及び、60℃以下の溶融温度を有する微球粒子(B)少なくとも1種からなる少なくとも2種の粘着性微球粒子を含有することを特徴とする感圧接着剤組成物は上質紙など汎用の基材上に、比較的容易に転写することができ、得られる感圧接着剤層は基材との密着性に優れ、且つ優れた再剥離性を有していることを見出した。
【0020】
特に特許文献11において提案された水性感圧接着剤組成物は、通常の粘着性微球粒子を含む感圧接着剤組成物では困難な、転写法による感圧接着シートの作製に用いることが可能であり、得られる感圧接着シートも、基材密着性はもとより、被着体に対する接着性、再剥離性、貼付・剥離反復性などにも優れるものであった。
【0021】
しかしながら、基材として用いられる材料は上質紙などの比較的表面が滑らかなものばかりではない。ダンボールは安価で大量に使用される極一般的な基材であるが、表面が凹凸であったり、毛羽立ちやすい紙質のものが多く、より厳しい密着性、再剥離性が要求されている。
【0022】
さらに、食品や薬品等を冷蔵状態で倉庫等に保管する用途に用いられるダンボール箱などに貼り付ける商品ラベル等に用いられる感圧接着剤組成物は、低温状態での軽接着性も優れる必要があり、特許文献11において提案された感圧接着剤組成物でも十分な性能を得ることができなかったのである。
【特許文献1】特開昭50-2736号公報(特許請求の範囲、明細書第1頁第2欄第11〜15行、第5頁第16欄第6行〜第8頁第28欄第12行実施例1〜11)
【特許文献2】特開昭53-65330号公報(特許請求の範囲、明細書第1頁右欄第7〜12行、第2頁右下欄第12〜18行、第3頁右上欄第3行〜左下欄第18行)
【特許文献3】特開昭53-69233号公報(特許請求の範囲、明細書第1頁右欄第7〜13行、第3頁左上欄第4〜8行、第3頁左下欄第4行〜第4頁左上欄第5行)
【特許文献4】特開昭61-148278号公報(特許請求の範囲、明細書第4頁第11欄第7〜8行)
【特許文献5】特開昭61-258854号公報(特許請求の範囲、明細書第5頁左下欄第7行〜第6頁左上欄第19行)
【特許文献6】特開昭61-152779号公報(特許請求の範囲)
【特許文献7】特開昭61-261382号公報(特許請求の範囲)
【特許文献8】特開2000-281996号公報(明細書全文)
【特許文献9】特開2000-281999号公報(明細書全文)
【特許文献10】特開平05-171118号公報(特許請求の範囲、明細書第2頁第2欄[0012]〜第3頁第3欄[0015]、第3頁第3欄[0017]〜第4欄[0020])
【特許文献11】特開2005-179453号公報(明細書全文)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明が解決しようとする課題は、一旦、離型材(紙やプラスチックフイルムの表面をシリコーン樹脂等で離型処理したもの)上に塗布・乾燥して感圧接着剤層を形成させた後、これを基材表面に転写する転写法が適用できる感圧接着剤組成物であって、基材との密着性、初期接着性に優れ、ダンボール等の粗い表面に対して低温でも軽圧着で接着でき、且つ剥がした時に糊残りや毛羽立ちのない 再剥離性のよい水性感圧接着剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者らは、従来提案されている弾性率の異なる微球粒子および、乳化重合により得られる重合体微粒子を含む水性感圧接着剤組成物において、特定の重合体微粒子を選択し、好ましくは特定の微球粒子を選択し、さらに好ましくは感圧接着剤組成物の架橋度を特定の範囲とすることにより前記課題を解決し、本発明を完成するに至った。
【0025】
すなわち、本発明は、
60℃より高い溶融温度を有する微球粒子(A)少なくとも1種及び、60℃以下の溶融温度を有する微球粒子(B)少なくとも1種からなる少なくとも2種の粘着性微球粒子、
乳化重合により得られるアクリル系共重合体微粒子(C)、
粘着付与剤(D)、及び架橋剤(E)からなる水性感圧接着剤組成物であって、
乳化重合により得られるアクリル系共重合体微粒子(C)のガラス転移温度(Tgc)が−70〜−45℃の範囲であり、その含有率が、感圧接着剤組成物に対し、20〜40重量%であって、アクリル系共重合体からなる粘着性微球粒子(A)及び(B)及びアクリル系共重合体微粒子(C)の総反応性官能基に対して0.1〜0.4当量の架橋剤(E)を含有することを特徴とする水性感圧接着剤組成物(請求項1)を 提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明の感圧接着剤組成物は、60℃より高い溶融温度、さらには80℃以上、特には100℃以上の溶融温度を有する微球粒子(A)〔以下、高融点粒子(A)ということがある〕少なくとも1種及び、60℃以下の溶融温度、さらには55℃以下、特には50℃以下の溶融温度を有する微球粒子(B)〔以下、低融点粒子(B)ということがある〕少なくとも1種からなる少なくとも2種の粘着性微球粒子を含有することを特徴とする。
【0027】
高融点粒子(A)の溶融温度が上記溶融温度以上であれば、得られる感圧接着剤組成物を使用して感圧接着シートを製造するに際して、乾燥時に粘着性微球粒子の全てが融解してしまって微小球を組み合わせる利点が損なわれるなどの不都合が生じにくく、また該粘着性微球粒子(A)の圧縮弾性率が、一般には高くなる傾向があり、感圧接着シートの巻き取りや保管時等での外圧により該粘着性微球粒子が扁平化して、感圧接着シートの品質低下が発生するなど製品保存安定性に問題が生じるなどの不具合が生じにくいので好ましく、また低融点粒子(B)の溶融温度が上記溶融温度以下であれば、感圧接着シートを製造するに際して、乾燥時に該粘着性微球粒子(B)のみが溶融することにより低い丘陵状の適度な凹凸が得られ、基材へ転写した場合に基材との密着性が十分に得られるので好ましい。
【0028】
なお、本明細書における「溶融温度」とは、フローテスター〔CFT-500D;(株)島津製作所製〕により測定した溶融粘度が1.0×104Pa・sとなる時の温度をいうものとする。
【0029】
本発明に用いられる高融点粒子(A)は、それ自体が粘着性を有する微球粒子であり、前記条件を満たすものであれば、特に限定されるものではないが、得られる感圧接着剤組成物の諸物性の優秀さの観点から、アクリル系(共)重合体、すなわち、(メタ)アクリル酸エステル単量体少なくとも50重量%を含む単量体に基づく(共)重合体により形成されたものであることが好ましい。
【0030】
このようなアクリル系(共)重合体は、具体的には、下記単量体(a1)〜(a4)、
(a1) 一般式 CH2=CHCOOR1(但し、R1は炭素数4〜10の直鎖又は分枝鎖アルキル基を表す)で示されるアクリル酸エステル単量体、
(a2) カルボキシル基を有する不飽和単量体、
(a3) 分子内に少なくとも2個のラジカル重合性不飽和基を有する単量体、及び、
(a4) 上記単量体(a1)〜(a3)と共重合可能な、該単量体(a1)〜(a3)以外の不飽和単量体、
を(共)重合してなるものであることが好ましい。
【0031】
上記の単量体(a1)は、式CH2=CHCOOR1で表されるアクリル酸エステルであり、そのR1は炭素数4〜10の直鎖もしくは分岐アルキル基を示し、そのような基R1の例としては、n-ブチル基、i-ブチル基、n-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、n-オクチル基、i-オクチル基、n-ノニル基、i-ノニル基、n-デシル基などを挙げることができる。このようなアクリル酸エステルの具体例としては、n-ブチルアクリレート、i-ブチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-オクチルアクリレート、i-オクチルアクリレート、n-ノニルアクリレート、i-ノニルアクリレート、n-デシルアクリレートなどを例示できる。これらの中、n-ブチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-オクチルアクリレート、i-オクチルアクリレート、n-ノニルアクリレート、i-ノニルアクリレート等の使用が好ましい。
【0032】
単量体(a1)であるアクリル酸エステルの使用量は、単量体(a1)〜(a4)の合計100重量%中、例えば60〜100重量%、好ましくは65〜99.8重量%、特に好ましくは70〜99.5重量%である。該単量体(a1)を該下限値以上使用することにより、得られる感圧接着シートが優れた粘着性と接着力を有すると共に、接着力と凝集力の良好なバランス、接着力の経時安定性及び耐熱湿劣化性などを達成することができるので好ましい。一方、該単量体(a1)の使用量を該上限値以下とすることにより、粘着性微球粒子(A)の分散液の機械安定性(せん断力を加えた時の分散液の安定性)を一層向上させることができるので好ましい。
【0033】
前記単量体(a2)であるカルボキシル基を有する単量体としては、α,β-不飽和モノ-もしくはジ-カルボン酸単量体を挙げることができ、炭素数3〜5のα,β-不飽和モノ-もしくはジ-カルボン酸単量体の使用が好ましい。このような単量体の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、シトラコン酸などを例示できる。これらの中では、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸の使用がより好ましい。
【0034】
単量体(a2)の使用量は、単量体(a1)〜(a4)の合計100重量%中、例えば0〜10重量%、好ましくは0.2〜5重量%、特に好ましくは0.5〜2重量%である。該単量体(a2)の使用量が該上限値以下であれば、得られる感圧接着シートが優れた粘着性と接着力を有すると共に、接着力と凝集力の良好なバランス、接着力の経時安定性及び耐熱湿劣化性などを達成することができるので好ましい。一方、該単量体(a2)の使用量を該下限量以上とすることにより、粘着性微球粒子(A)の分散液の機械安定性(せん断力を加えた時の分散液の安定性)を一層向上させることができるので好ましい。
【0035】
さらに前記単量体(a3)である、分子内に少なくとも2個のラジカル重合性不飽和基を有する単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,2-プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレートなどを例示できる。これらの中、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の使用が好ましい。
【0036】
単量体(a3)の使用量は、単量体(a1)〜(a4)の合計100重量%中、例えば0〜1重量%、好ましくは0.001〜0.5重量%、特に好ましくは0.005〜0.2重量%である。該単量体(a2)の使用量が該上限値以下であれば、得られる感圧接着シートが優れた粘着性と接着力を有すると共に、良好な再剥離性を有することができるので好ましい。一方、該単量体(a3)の使用量を該下限量以上とすることにより、感圧接着シートの巻き取りや保管時等での外圧により該粘着性微球粒子が扁平化して、感圧接着シートの品質低下が発生するなど製品保存安定性に問題が生じるなどの不具合が生じにくいので好ましい。
【0037】
さらに前記単量体(a4)である、単量体(a1)〜(a3)と共重合可能な、該単量体(a1)〜(a3)以外の不飽和単量体としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、i-プロピルアクリレート等のアルキル基の炭素数が1〜3のアクリル酸エステル;例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、i-ブチルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類を挙げることができる。
【0038】
また単量体(a4)としては、例えば、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、「バーサチック酸ビニル」(商品名)(好ましくは酢酸ビニル)等の飽和脂肪酸ビニルエステル;例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン(好ましくはスチレン)等の芳香族ビニル単量体;例えば、ジメチルマレート、ジ-n-ブチルマレート、ジ-2-エチルヘキシルマレート、ジ-n-オクチルマレート、ジメチルフマレート、ジ-n-ブチルフマレート、ジ-2-エチルヘキシルフマレート、ジ-n-オクチルフマレート等のマレイン酸又はフマル酸のジエステル;よりえらばれた共単量体も同様に利用できる。
【0039】
さらに単量体(a4)としては、分子内に1個のラジカル重合性不飽和基の他に少なくとも1個のカルボキシル基以外の官能基を有する単量体を用いることもできる。
【0040】
このような単量体(a4)としては、官能基として、例えば、アミド基もしくは置換アミド基、アミノ基もしくは置換アミノ基、ヒドロキシル基、低級アルコキシル基、エポキシ基、メルカプト基又は珪素含有基等を有する単量体を挙げることができる。
【0041】
これら単量体(a4)の具体例としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、N-n-ブトキシメチルアクリルアミド、N-i-ブトキシメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-メチルアクリルアミド(好ましくはアクリルアミド、メタクリルアミド)等のアミド基もしくは置換アミド基含有単量体;例えば、アミノエチルアクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート(好ましくはN,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート)等のアミノ基もしくは置換アミノ基含有単量体;
【0042】
例えば、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、アリルアルコール、メタリルアルコール、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、(好ましくは2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、アリルアルコール、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート)等のヒドロキシル基含有単量体;
【0043】
例えば、2-メトキシエチルアクリレート、2-エトキシエチルアクリレート、2-n-ブトキシエチルアクリレート、2-メトキシエトキシエチルアクリレート、2-エトキシエトキシエチルアクリレート、2-n-ブトキシエトキシエチルアクリレート、2-メトキシエチルメタクリレート、2-エトキシエチルメタクリレート、2-n-ブトキシエチルメタクリレート、2-メトキシエトキシエチルメタクリレート、2-エトキシエトキシエチルメタクリレート、2-n-ブトキシエトキシエチルメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、(好ましくは2-メトキシエチルアクリレート、2-エトキシエチルアクリレート、2-メトキシエチルメタクリレート、2-エトキシエチルメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート)等の低級アルコキシル基含有単量体;
【0044】
例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルアリルエーテル、グリシジルメタリルエーテル(好ましくはグリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート)等のエポキシ基含有単量体;アリルメルカプタン等のメルカプト基含有単量体;
【0045】
例えば、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリブロモシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ-n-プロポキシシラン、ビニルトリ-i-プロポキシシラン、ビニルトリ-n-ブトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリス(2-ヒドロキシメトキシエトキシ)シラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルジエトキシシラノール、ビニルエトキシシラジオール、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、ビニルメチルジアセトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、2-アクリルアミドエチルトリエトキシシラン等の珪素含有基を有する単量体;等の単量体群を挙げることができる。
【0046】
前記単量体(a4)の使用量は、単量体(a1)〜(a4)の合計100重量%中、例えば、0〜40重量%、好ましくは0〜30重量%、特に好ましくは0〜28重量%の範囲である。該単量体(a4)の使用量は、該単量体の種類によっても変わり得るので一義的には決められないが、接着力と粘着性のバランス及びこれらと凝集力とのバランスなどを所望に応じて調整するのに役立つので、そのような目的に合致するように前記範囲量で適宜に選択することができる。
【0047】
単量体(a4)の使用量が上記上限値以下であれば、粘着性が過小となって初期接着性、特に段ボールなどの粗面、ポリエチレン等のポリオレフィン系の被着体に対しての接着力が低下するなどの不都合が起こりにくいので、単量体(a4)を使用する場合には、該上限値の範囲内で適当に選択利用するのが好ましい。
【0048】
本発明の水性感圧接着剤組成物に用いられる高融点粒子(A)は、例えば前記単量体組成(a1)〜(a4)を適宜の方法を用いて(共)重合することにより得られるアクリル系(共)重合体により形成されるものであることが好ましく、このような(共)重合体のガラス転移温度(TgA)は、通常−40℃以下、さらには−50℃以下、特には−60℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度(TgA)が該上限値以下であれば、粘着性が過小となり初期接着性が低下するなどの不利益が生じにくいので好ましい。
【0049】
なお本発明において、高融点粒子(A)並びに、後記する低融点粒子(B)及びアクリル系共重合体の微粒子(C)などの(共)重合体のガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)を用い測定された値である。
【0050】
また高融点粒子(A)の体積平均粒子径(dA)は、通常10〜60μm、好ましくは20〜40μmの範囲である。該粒子径(dA)が該下限値以上であれば、得られる感圧接着剤層の表面に低い丘陵状の適度な凹凸が形成され、優れた粘着性、接着力と共に、良好な再剥離性を有することができるので好ましく、該上限値以下であれば、基材に対する密着性が優れており、且つ良好な再剥離性を有することができるので好ましい。
【0051】
なお、本発明においてTgとは、共重合体を構成するそれぞれの単量体成分の単独重合体のTgを用いて次式によって求めたものである。
1/Tg=w1/Tg1+w2/Tg2+・・・・・・・・・+w/Tg
但し、Tgは共重合体のガラス転移温度であり、Tg1、Tg2、・・・・・・Tgkは各単量体成分の単独重合体のTgであり、w1、w2、・・・・・・wkは各単量体成分の重量分率を表わし、w1+w2+・・・・・・+wk=1である。
ここでいう「単独重合体のガラス転移点(Tg)」は、便覧等に記載されている単量体のガラス転移点が適用される。
【0052】
なお本発明において、高融点粒子(A)及び後記する低融点粒子(B)など粘着性微球粒子の体積平均粒子径は、光散乱式粒子径測定装置〔「マスターサイザー」2000(商品名);シスメックス(株)製〕により測定されたものである。
【0053】
本発明に用いられる高融点粒子(A)は、必ずしも限定されるものではないが、通常は公知の懸濁重合法により製造するのが好ましい。具体的には、例えば、水性媒体中、界面活性剤及び必要に応じて懸濁安定剤の存在下で、前記の単量体(a1)〜(a4)の混合物に重合開始剤を溶解したものを添加して一定時間攪拌し、所望の粒子径範囲の油滴乳化液を得た後、一定攪拌回転数下で昇温し重合反応を開始させることができる。重合温度は、通常、50〜90℃程度を例示することができる。
【0054】
前記懸濁重合時には、生じたラジカルにより単量体が(共)重合して主鎖を形成すると同時に、生じた(共)重合体とラジカルとの間のラジカル連鎖移動反応により架橋反応が起こると考えられる。しかし、このラジカルの連鎖移動反応は不確定要素が大きく、ラジカル反応により常に一定の架橋状態を有する安定した品質を得るためには、重合開始時の初期反応のコントロールが重要であり、例えば、酸素等の重合禁止効果のある物質存在下で前記昇温を行い、目的の温度で窒素等による置換を行うことで該初期反応のコントロールを行うことができる。
【0055】
なお前記の「水性媒体」とは、水又は水溶性有機溶媒の水溶液を意味する。このような水溶性有機溶媒としては、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等の水溶性アルコール類;アセトン等の水溶性ケトン類;メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、カルビトール、ブチルカルビトール等の水溶性エーテル類;等を挙げることができる。これらは単独または複数混合して使用可能であり、その使用量は、水溶性有機溶剤の濃度として0〜約30重量%程度を例示できる。該有機溶媒は、前記の(共)重合体から構成される粘着性微球粒子(A)の溶融温度を調整する目的で使用できるが、該微球粒子(A)を含有してなる水性感圧接着剤組成物の放置安定性、機械安定性等の観点より、実質的にこれら有機溶剤を含まない水中で懸濁重合を行うのがより好ましい。
【0056】
本発明において前記界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤をそれぞれ単独あるいは併用して使用でき、ことに安定に懸濁液を製造するためには、アニオン系界面活性剤が好ましい。
【0057】
上記アニオン系界面活性剤としては、例えばオレイン酸ナトリウム等の高級脂肪酸塩類;例えばドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルアリールスルホン酸塩類;例えばラウリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウム等のアルキル又はアルケニル硫酸エステル塩類;例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステルナトリウム塩、ポリオキシエチレンステアリルエーテル硫酸エステルナトリウム塩、ポリオキシエチレンオレイルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩等のポリオキシエチレンアルキル又はアルケニルエーテル硫酸エステル塩類;例えばポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸エステル塩類;モノオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルスルホコハク酸ナトリウム等、ポリオキシエチレンオレイルスルホコハク酸アンモニウム等のアルキル又はアルケニルスルホコハク酸エステル塩及びその誘導体類;等を例示できる。
【0058】
また本発明において用いることのできるアニオン系界面活性剤としては、さらに、下記一般式、
【0059】
【化1】

【0060】
〔式中、R4は1つ以上の芳香環を含む炭化水素基、M+はNa+、K+又はNH4+等の一価の対イオンを表す〕
上記一般式におけるR4は、下記3種の構造式で示されるジスチリルの何れか又はそれらの混合物から誘導されたものであることが好ましい。
【0061】
【化2】

【0062】
前記一般式におけるポリオキシエチレン鎖の長さ(pの値)としては、一般に4〜50の範囲であり、好ましく5〜45の範囲であるのがよい。
このようなアニオン系界面活性剤の具体例としては、例えば、ハイテノールNF-13、ハイテノールNF-17〔商品名;以上第一工業製薬(株)製〕、ニューコール707SF、ニューコール710SF、ニューコール714SF、ニューコール723SF、ニューコール740SF〔商品名;以上日本乳化剤(株)製〕等を挙げることができる。
【0063】
これらアニオン系界面活性剤は、それぞれ単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0064】
また、前記ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキル又はアルケニルエーテル類;例えば、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類;例えば、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレート等のソルビタン高級脂肪酸エステル類;例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等のポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル類;例えば、オレイン酸モノグリセライド、ステアリン酸モノグリセライド等のグリセリン高級脂肪酸エステル類;例えば、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン・ブロックコポリマー;等を例示できる。
【0065】
これらの界面活性剤は適宜組み合わせて使用でき、その使用量としては一般に前記単量体(a1)〜(a4)の合計100重量部に対して0〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部程度を例示できる。
【0066】
さらにまた、最近、アクリル系共重合体の水性分散液中に汎用されているアルキルフェニル基を含む界面活性剤が、排水中に含まれて河川等に排出されたとき、それら界面活性剤の加水分解によって生じるアルキルフェノールが、それら河川及びそれが流入する海の中に生息する生物、特に魚貝類に取り込まれて、それら生物の内分泌機能(エンドクリン)破壊物質(所謂、環境ホルモン)として作用することが知られるようになった。このようなアルキルフェノールは、これら魚介類の摂取を通して、又は直接それら河川等の水を使用する上水道の水を通して、人の体内に入る危険性が高いことが指摘されている。
【0067】
本発明においては、高融点粒子(A)及び低融点粒子(B)の懸濁重合、並びにアクリル系共重合体微粒子(C)の乳化重合に、前記のノニオン系及びアニオン系界面活性剤の中から、上記のようなアルキルフェニル基を実質的に含まないものを選んで用いることにより上記の問題点を解消した高融点粒子(A)及び低融点粒子(B)の水性懸濁液、並びにアクリル系共重合体微粒子(C)の水性分散液を得ることができ、さらに後記する粘着付与剤(D)や架橋剤その他の添加剤の中にアルキルフェニル基を実質的に含まないもののを選んで用いることにより、アルキルフェニル基を実質的に含まない水性感圧接着剤組成物を得ることができる。
【0068】
このような界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤類として、高級脂肪酸塩類、アルキルアリールスルホン酸塩類、アルキル又はアルケニル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキル又はアルケニルエーテル硫酸エステル塩類、アルキル又はアルケニルスルホコハク酸エステル塩及びその誘導体類等、前記一般式(1)のポリオキシエチレン多環フェニルエーテル型界面活性剤などを使用することができる。またノニオン系界面活性剤類としては、ポリオキシエチレンアルキル又はアルケニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ソルビタン高級脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル類、グリセリン高級脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン・ブロックコポリマーなどを使用することができる。
【0069】
なおここで、「アルキルフェニル基を実質的に含まない」とは、懸濁重合又は後記する乳化重合に当たって、該アルキルフェニル基を含む界面活性剤を意図的には使用しないことを意味するものであり、仮に各素原料中に夾雑物として該界面活性剤が含まれていたとしても、重合の結果得られる(共)重合体の水性懸濁液、水性分散液又は最終製品である水性感圧接着剤組成物中に含まれるアルキルフェニル基を含む界面活性剤の量が100ppm以下、好ましくは50ppm以下であることを意味する。
【0070】
さらに本発明においては、前記界面活性剤のほかに、必要に応じて、懸濁安定剤を使用できる。懸濁安定剤としては、水溶性保護コロイドの使用が好ましく、例えば、部分ケン化ポリビニルアルコール、完全ケン化ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール類;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩等のセルロース誘導体類;等が挙げられる。水溶性保護コロイドの使用量としては一般に前記単量体(a1)〜(a4)の合計100重量部に対して0.1〜5重量部、好ましくは0.5〜3重量部程度を例示できる。
【0071】
本発明に好適に用いられる高融点粒子(A)の製造に際して用いられる前記重合開始剤としては、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、ジイソプロピルペルオキシジカルボナート、ジ-2-エチルヘキシルペルオキシジカルボナート、t-ブチルペルオキシビバラート、t-ブチルペルオキシベンゾアート、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノアート、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2’-アゾビス-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2’-アゾビスメチルイソブチラート等の油溶性重合開始剤の使用が好ましい。該油溶性重合開始剤の使用量は前記単量体(a1)〜(a4)の合計100重量部に対して0.1〜1.2重量部、好ましくは0.2〜1重量部、特に好ましくは0.3〜0.8重量部である。該使用量が該下限値以上の場合には、重合開始時の初期反応をコントロールし易く一定の架橋状態を有する安定した品質が得られ、また、該上限値以下を使用すると分子量が低くなり過ぎる等の不具合が生ずることがないので好ましい。
【0072】
本発明の感圧接着剤組成物は、以上詳述した高融点粒子(A)少なくとも1種と共に、低融点粒子(B)すなわち、60℃以下の溶融温度を有する微球粒子(B)少なくとも1種を含有することを特徴とするものである。このような低融点粒子(B)を含有させることにより、通常の微小粒子含有の感圧接着剤組成物では困難とされていた転写法による感圧接着シートの製造が可能となる。その理由は必ずしもつまびらかではないが、離型材で本発明の水性感圧接着剤組成物を塗布・乾燥するとき、低融点粒子(B)が溶融するためか、得られる感圧接着剤層の表面及び裏面(離型材と接する側の表面)とも、低い丘陵状の適度な凹凸を有するほぼ同様の表面状態を形成していることが判明した。このような感圧接着剤層は上質紙など汎用の基材上に、比較的容易に転写することができ、得られる感圧接着剤層は基材との密着性に優れ、且つ溶融した低融点粒子(B)成分が溶融せずに残っている高融点粒子(A)としっかり接合してその脱落を防止するので、接着剤の被着体への転写が起こりにくく優れた再剥離性を有している。
【0073】
本発明に用いられる低融点粒子(B)もまた、それ自体が粘着性を有する微球粒子であり、60℃以下の溶融温度を有するものである限り、特に限定されるものではないが、得られる感圧接着剤組成物の諸物性の優秀さの観点から、アクリル系(共)重合体、すなわち、(メタ)アクリル酸エステル単量体少なくとも50重量%を含む単量体に基づく(共)重合体により形成されたものであることが好ましい。
【0074】
このようなアクリル系(共)重合体は、具体的には、下記単量体(b1)〜(b3)、
(b1) 一般式 CH2=CHCOOR1〔但し、R1は前記高融点粒子(A)の(a1)で定義したとおりである〕で示されるアクリル酸エステル単量体、
(b2) カルボキシル基を有する不飽和単量体、及び
(b3) 上記単量体(b1)及び(b2)と共重合可能な、該単量体(b1)及び(b2)以外の不飽和単量体、
を(共)重合してなるものであることが好ましい。
【0075】
上記の単量体(b1)としては、前記の高融点粒子(A)における単量体(a1)と同じアクリル酸エステルを使用することができ、n-ブチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-オクチルアクリレート、i-オクチルアクリレート、n-ノニルアクリレート、i-ノニルアクリレート等の使用が好ましい。
【0076】
単量体(b1)であるアクリル酸エステルの使用量は、単量体(b1)〜(b3)の合計100重量%中、例えば60〜100重量%、好ましくは65〜99.8重量%、特に好ましくは70〜99.5重量%である。該単量体(b1)を該下限値以上使用することにより、得られる感圧接着シートが優れた粘着性と接着力を有すると共に、基材との密着性にも優れているので好ましい。一方、該単量体(b1)の使用量を該上限値以下とすることにより、該感圧接着シートが優れた粘着性と接着力を有すると共に、良好な再剥離性を有するので好ましい。
【0077】
前記単量体(b2)もまた、前記の高融点粒子(A)における単量体(a2)と同じα,β-不飽和モノ-もしくはジ-カルボン酸単量体を挙げることができ、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸の使用が好ましい。
【0078】
単量体(b2)の使用量は、単量体(b1)〜(b3)の合計100重量%中、例えば0〜10重量%、好ましくは0.2〜5重量%、特に好ましくは0.5〜2重量%である。該単量体(b2)の使用量が該上限値以下であれば、得られる感圧接着シートが優れた粘着性と接着力を有すると共に、接着力と凝集力の良好なバランス、接着力の経時安定性及び耐熱湿劣化性などを達成することができるので好ましい。一方、該単量体(b2)の使用量を該下限量以上とすることにより、低融点粒子(B)の分散液の機械安定性(せん断力を加えた時の分散液の安定性)を一層向上させることができるので好ましい。
【0079】
さらに前記単量体(b3)である、単量体(b1)及び(b2)と共重合可能な、該単量体(b1)及び(b2)以外の不飽和単量体としては、前記の高融点粒子(A)における単量体(a4)と同じ単量体群、すなわちアルキル基の炭素数が1〜3のアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、飽和脂肪酸ビニルエステル、芳香族ビニル単量体、マレイン酸又はフマル酸のジエステル、分子内に1個のラジカル重合性不飽和基の他に少なくとも1個のカルボキシル基以外の官能基を有する単量体よりえらばれた共単量体も同様に利用できる。
【0080】
前記単量体(b3)の使用量は、単量体(b1)〜(b3)の合計100重量%中、例えば、0〜40重量%、好ましくは0〜30重量%、特に好ましくは0〜28重量%の範囲である。該単量体(b3)の使用量は、該単量体の種類によっても変わり得るので一義的には決められないが、接着力と粘着性のバランス及びこれらと凝集力とのバランスなどを所望に応じて調整するのに役立つので、そのような目的に合致するように前記範囲量で適宜に選択することができる。
【0081】
単量体(b3)の使用量が上記上限値以下であれば、粘着性が過小となって初期接着性、特に段ボールなどの粗面、ポリエチレン等のポリオレフィン系の被着体に対しての接着力が低下するなどの不都合が起こりにくいので、単量体(b3)を使用する場合には、該上限値の範囲内で適当に選択利用するのが好ましい。
【0082】
本発明の水性感圧接着剤組成物に用いられる低融点粒子(B)は、例えば前記単量体組成(b1)〜(b3)を適宜の方法を用いて(共)重合することにより得られるアクリル系(共)重合体により形成されるものであることが好ましく、このような(共)重合体のガラス転移温度(TgB)は、一般には−40℃以下、さらには−50℃以下、特には−60℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度(TgB)が該上限値以下であれば、基材との密着性が不十分になりやすいなどの不利益が生じにくいので好ましい。
【0083】
また低融点粒子(B)の体積平均粒子径(dB)は、通常10〜60μm、好ましくは20〜40μmの範囲である。該粒子径(dB)が該下限値以上であれば、得られる感圧接着シートが優れた粘着性、接着力と共に、良好な再剥離性を有するので好ましく、該上限値以下であれば、該感圧接着シートが優れた粘着性と接着力を有すると共に、基材との密着性にも優れているので好ましい。
【0084】
本発明に用いられる低融点粒子(B)の製造方法は、特に限定されるものではないが、通常は、前記の高融点粒子(A)の製造と同様、例えば前記の単量体(b1)〜(b3)の合計を、界面活性剤、重合開始剤、必要ならば懸濁安定剤などの存在下、水性媒体中で、50〜90℃程度の重合温度で水性懸濁重合することにより製造するのが好ましい。
【0085】
低融点粒子(B)の製造に際して使用される上記各成分の使用量は、前記単量体(b1)〜(b3)の合計100重量部に対して:界面活性剤、一般に0.5〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部程度;懸濁安定剤である水溶性保護コロイド、一般に0.1〜5重量部、好ましくは0.5〜3重量部程度;重合開始剤、一般に0.1〜1.2重量部、好ましくは0.2〜1重量部、特に好ましくは0.3〜0.8重量部;程度を例示することができる。
【0086】
なお低融点粒子(B)の製造に際しては、溶融温度を低めに調整する目的で、水性媒体中に前記の水溶性有機溶媒を、例えば約30重量%以下などの適宜な量含有させることができる。また重合開始剤は、前記高融点粒子(A)の製造に関して例示したものの中から適宜選択して使用することができる。
【0087】
さらに溶融温度を低めに調整する目的で、連鎖移動剤を使用することができ、このような連鎖移動剤としては、例えば、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-ブチルメルカプタン、2-メルカプトエタノール、2-エチルヘキシルチオグリコラート、トリクロロブロモメタン等を挙げることができる。その使用量としては、前記単量体(b1)〜(b3)の合計100重量部に対して、例えば0.001〜0.01重量部の如き使用量を例示できる。
【0088】
本発明の感圧接着剤組成物における高融点粒子(A)及び低融点粒子(B)の含有量の重量比は、必ずしも限定されるものではないが、例えば(A)/(B)が20/80〜70/30の範囲、好ましくは30/70〜65/35の範囲、さらに好ましくは40/60〜60/40の範囲であるのがよい。高融点粒子(A)の使用割合が該下限値以上であれば、得られる感圧接着シートが優れた粘着性、接着力と共に、良好な再剥離性を有するので好ましく、該上限値以下であれば該感圧接着シートが優れた粘着性と接着力を有すると共に、基材との密着性にも優れているので好ましい。
【0089】
本発明の水性感圧接着剤組成物は、以上述べた高融点粒子(A)及び低融点粒子(B)と共に、乳化重合により得られる特定のガラス転移温度範囲のアクリル系共重合体微粒子(C)を含有する。該アクリル系共重合体微粒子(C)は、水性感圧接着剤組成物中では、水性分散液の形で均一に分散された状態で存在して、前記の高融点粒子(A)及び低融点粒子(B)の分散安定性を向上させると共に、感圧接着シートへの加工に際しては、乾燥が進むに従って成膜し、該高融点粒子(A)及び低融点粒子(B)を相互に結合させ、且つこれらを基材に物理的に固着させる結合剤として機能するものと考えられる。
【0090】
アクリル系共重合体、すなわち、(メタ)アクリル酸エステル単量体少なくとも50重量%を含む単量体に基づく共重合体のアクリル系共重合体微粒子(C)は、上記の機能を持つものであれば特に限定されるものではないが、得られる感圧接着剤組成物の諸物性の優秀さより、下記単量体(c1)〜(c3)、
(c1) 一般式 CH2=CR2COOR3(但し、R2はH又はCH3、R3は炭素数4〜12の直鎖又は分枝鎖アルキル基を表す)で示される(メタ)アクリル酸エステル単量体、
(c2) カルボキシル基を有する不飽和単量体、及び
(c3) 上記単量体(c1)及び(c2)と共重合可能な、該単量体(c1)及び(c2)以外の不飽和単量体、
を共重合してなるものであることが好ましい。
【0091】
上記単量体(c1)におけるR3は、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、n-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、n-オクチル基、i-オクチル基、n-ノニル基、i-ノニル基、n-デシル基、n-ドデシル基などを挙げることができる。このような(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、i-オクチル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、i-ノニル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレートなどを例示できる。
【0092】
単量体(c1)の使用量は、単量体(c1)〜(c3)の合計100重量%中、例えば50〜100重量%、好ましくは55〜99.8重量%、特に好ましくは60〜99.5重量%である。単量体(c1)を該下限値以上使用することにより、得られる感圧接着シートが優れた粘着性と接着力を有すると共に、基材との密着性にも優れているので好ましい。一方、該単量体(c1)の使用量を該上限値以下とすることにより、前記のカルボキシル基を含有する単量体などの使用が可能となって、該アクリル系共重合体のアクリル系共重合体微粒子(C)を含む水性分散液そのものの保存安定性に問題が生じにくいので好ましい。
【0093】
前記単量体(c2)であるカルボキシル基を含有する単量体としては、前記の高融点粒子(A)における単量体(a2)と同じα,β-不飽和モノ-もしくはジ-カルボン酸単量体を使用することができ、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸の使用が好ましく、アクリル酸が特に好ましい。
【0094】
単量体(c2)の使用量は、単量体(c1)〜(c3)の合計100重量%中、例えば0.1〜10重量%、好ましくは0.2〜5重量%、特に好ましくは0.5〜2重量%である。該単量体(c2)の使用量が該上限値以下であれば、得られる感圧接着シートが優れた粘着性と接着力を有すると共に、基材との密着性にも優れているので好ましい。一方該下限値以上使用することによって、アクリル系共重合体アクリル系共重合体微粒子(C)を含む水性分散液そのものの保存安定性に問題が生じにくいので好ましい。
【0095】
さらに前記単量体(c3)である、単量体(c1)及び(c2)と共重合可能な、該単量体(c1)及び(c2)以外の不飽和単量体としては、前記の高融点粒子(A)における単量体(a4)で例示した、飽和脂肪酸ビニルエステル、芳香族ビニル単量体、マレイン酸又はフマル酸のジエステル、分子内に1個のラジカル重合性不飽和基の他に少なくとも1個のカルボキシル基以外の官能基を有する単量体よりえらばれた共単量体も同様に利用できる。
【0096】
前記単量体(c3)の使用量は、単量体(c1)〜(c3)の合計100重量%中、例えば、0〜50重量%、好ましくは0〜40重量%、特に好ましくは0〜38重量%の範囲である。該単量体(c3)の使用量は、該単量体の種類によっても変わり得るので一義的には決められないが、接着力と粘着性のバランス及びこれらと凝集力とのバランスなどを所望に応じて調整するのに役立つので、そのような目的に合致するように前記範囲量で適宜に選択することができる。
【0097】
単量体(c3)の使用量が上記上限値以下であれば、得られる感圧接着シートが優れた粘着性と接着力を有すると共に、基材との密着性にも優れているので、単量体(c3)を使用する場合には、該上限値の範囲内で適当に選択利用するのが好ましい。
【0098】
本発明の水性感圧接着剤組成物に用いられるアクリル系共重合体のアクリル系共重合体微粒子(C)は、例えば前記単量体組成(c1)〜(c3)を、適宜の界面活性剤を用い水性媒体中で乳化共重合することにより得られる共重合体により形成されるものであることが好ましく、このような共重合体のガラス転移温度(TgC)は、一般には−70℃〜−45℃、好ましくは−60℃〜−50℃の範囲であることがよい。ガラス転移温度(TgC)が該上限値以下であれば、得られる感圧接着剤組成物に基づく感圧接着シートの粗面へ接着した後の再剥離性や低温軽圧着での接着力が低くなるなどの不都合が生じにくいので好ましく、該下限値以上であれば、該感圧接着シートの初期接着力が低くなるなどの不都合が生じにくいので好ましい。
【0099】
またアクリル系共重合体の微粒子(C)の平均粒子径(dC)は、通常50〜500 nm、好ましくは100〜400 nm、特に好ましくは150〜300
nmの範囲である。該粒子径(dC)が該下限値以上であれば、アクリル系共重合体微粒子(C)を製造する際に多くの乳化剤を必要としないため、得られる感圧接着シートの経時安定性及び耐熱湿劣化性などが優れているので好ましく、該上限値以下であれば、アクリル系共重合体微粒子(C)を含む水性分散液そのものの保存安定性に問題が生じるなどの不具合が生じにくいので好ましい。
【0100】
なお本発明において、アクリル系共重合体の微粒子(C)の平均粒子径は、光散乱式粒子径測定装置「ゼータサイザー1000HS」〔商品名;シスメックス(株)製〕により測定されたものである。
上記アクリル系共重合体微粒子(C)の製造に際して用いられる界面活性剤としては、前記高融点粒子(A)の製造で使用されるものとして例示された、アニオン系界面活性剤及びノニオン系界面活性剤の中から適宜選択したものをそれぞれ単独又は併用して使用することができる。界面活性剤の使用量は、通常、約1〜10重量部の範囲内であることが好ましい。
【0101】
また乳化重合に際しては、水溶性の重合開始剤、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩類、過酸化水素などを、前記単量体(c1)〜(c3)の合計100重量部に対して約0.05〜1重量部の範囲で使用することが好ましい。さらに水性乳化重合に際しては、所望により還元剤として、例えば、アスコルビン酸、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖等の還元性有機化合物;例えば、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム等の還元性無機化合物を、例示することができる。これら還元剤の使用量もまた特に制限されるものではないが、該単量体(c1)〜(c3)の合計100重量部に対して約0.05〜1重量部の範囲で併用することができる。
【0102】
本発明の感圧接着剤組成物においてアクリル系共重合体のアクリル系共重合体微粒子(C)の使用量は、前記高融点粒子(A)及び低融点粒子(B)の合計100重量部に対して、例えば5〜100重量部の範囲、好ましくは10〜50重量部の範囲、さらに好ましくは15〜35重量部の範囲であるのがよい。該アクリル系共重合体微粒子(C)の使用割合が該下限値以上であれば、得られる感圧接着シートが優れた粘着性、接着力と共に、基材との密着性にも優れているので好ましく、該上限値以下であれば、該感圧接着シートが優れた粘着性と接着力を有すると共に、良好な再剥離性を有するので好ましい。
【0103】
本発明の水性感圧接着剤組成物は、以上述べた高融点粒子(A)及び低融点粒子(B)、並びに必要に応じて用いられるアクリル系共重合体の微粒子(C)と共に、さらに必要に応じて、粘着付与剤(D)を含有することができる。該粘着付与剤(D)は、本発明の感圧接着剤組成物の初期接着性、特に軽圧着条件下での段ボール等の粗面被着体、ポリエチレン等の非極性被着体に対する接着性を向上せしめる目的で使用される。
【0104】
上記の粘着付与剤(D)としては、天然系樹脂、合成系樹脂及びそれらの誘導体を挙げることができ、その具体例には、天然系樹脂として、例えばポリテルペン系樹脂、テルペン変性体等のテルペン系樹脂;例えばロジン、ロジンエステル、水添ロジンエステル等のロジン系樹脂;を挙げることができ、合成系樹脂として、例えば脂肪族炭化水素系樹脂、シクロペンタジエン樹脂、C5系石油樹脂、芳香族系石油樹脂等の石油系樹脂;クマロン・インデン樹脂、フェノール樹脂、スチレン樹脂、キシレン樹脂等を挙げることができる。これらのうち、石油系樹脂、ロジン系樹脂又はテルペン系樹脂の使用が好ましい。
【0105】
粘着付与剤(D)の軟化点は、一般に70〜180℃、好ましくは100〜160℃、特に好ましくは120〜150℃であり、その重量平均分子量(Mw)が、5000以下、特には2000〜4000であることが望ましい。
【0106】
また本発明に用いることのできる粘着付与剤(D)は、水系媒体中に安定に分散されうるものであることが望ましく、このときの分散粒子の平均粒子径は、400 nm以下であることが好ましく、50〜350 nmの範囲であることがさらに好ましい。また粘着付与剤(D)は、その水性分散液中にアルキルフェニル系界面活性剤を実質的に含まないものであることが好ましい。
【0107】
粘着付与剤(D)の使用量は、前記高融点粒子(A)及び低融点粒子(B)の合計100重量部に対して、通常25重量部以下であるが、好ましくは0.1〜20重量部、より好ましくは0.5〜15重量部、さらに好ましくは1〜10重量部の範囲であるのがよい。粘着付与剤(D)の使用量が該下限値以上であれば、該感圧接着シートが優れた粘着性と接着力を有するので好ましい。また粘着付与剤(D)は、一般にその使用量が多くなっても得られる感圧接着剤層の物性にそれほど影響を与えないことが多いが、粘着付与剤(D)の種類によっては得られる感圧接着剤組成物の粘度が下がることがあり、その場合増粘剤の使用量が多くなって感圧接着剤層の物性に影響することもあるので、コストの問題等も考慮すると、粘着付与剤(D)は該上限値以下の範囲で使用するのが好ましい。
【0108】
本発明の水性感圧接着剤組成物は、架橋剤(E)を含有する。
本発明の感圧接着剤組成物は、前記高融点粒子(A)、低融点粒子(B)及びアクリル系共重合体微粒子(C)を構成する分子中に、反応性官能基としてカルボキシル基、ヒドロキシル基又はアミノ基を含有するものであるが、該架橋剤(E)は、反応性官能基と反応して架橋構造を形成することによって、前記高融点粒子(A)と溶融した低融点粒子(B)との結合、またこれら粘着性微球粒子と前記アクリル系共重合体の微粒子(C)に基づく皮膜との結合を高め、さらに、基材への密着性を向上せしめ、感圧接着剤層の凝集力、感圧接着剤層と基材の投錨力を高めるものである。特にこの水性感圧接着剤組成物が再剥離型感圧接着剤組成物として使用されるときには、このことにより再剥離性を向上させることができる。
【0109】
架橋剤(E)は、前記高融点粒子(A)、低融点粒子(B)及び/又はアクリル系共重合体の微粒子(C)を構成する分子中に含まれる官能性基と反応性を有する基を、1分子中に2個以上有するものであれば特に限定されるものではないが、水性感圧接着剤組成物への該架橋剤(E)の添加により、該組成物がゲル化を起こしたり、凝集物が発生したりすることのないものであることが好ましい。すなわち、架橋剤(E)は、水性分散体である感圧接着剤組成物中では化学的に安定(貯蔵安定性があるもの)であり、感圧接着剤組成物の塗工時には、分散媒の揮発により又は、感圧接着剤組成物を乾燥させるための熱エネルギーなどの手段により不可逆的な架橋反応を起こすものであることが望ましい。
【0110】
このような架橋剤(E)の具体例としては、例えばカルボジイミド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、ヒドラジン系架橋剤、イソシアネート系架橋剤などを挙げることができるが、得られる感圧接着剤組成物のポットライフ、及び感圧接着剤層乾燥後の架橋速度などの観点から、カルボジイミド系架橋剤が特に好ましい。
【0111】
上記カルボジイミド系架橋剤は、その分子中にカルボジイミド基(−N=C=N−)を2個以上含有する化合物であって、好ましくは水溶性の高いもの、すなわち水100重量部に対して 重量部以上溶解するものがよい。カルボジイミド系架橋剤としては、例えばカルボジライトV-02、V-02-L2、V-04、V-06〔商品名;日清紡(株)製〕などを挙げることができる。
【0112】
架橋剤(E)の使用量は、前記高融点粒子(A)、低融点粒子(B)及び/又はアクリル系共重合体の微粒子(C)中の官能基、すなわち、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボニル基等の合計1当量当たり、通常0.1〜0.4当量、好ましくは0.15〜0.3当量の範囲であるのがよい。
【0113】
架橋剤(E)の使用量が多いと低温接着性が劣り、 少ないと基材密着及び糊残りが悪化する。
【0114】
本発明の水性感圧接着剤組成物は、例えば、前記のように懸濁重合により得られた粘着性の高融点粒子(A)の水性分散液、低融点粒子(B)の水性分散液及び、必要に応じてアクリル系共重合体微粒子(C)水性分散液を所定量ずつ混合し、次いでこれに、必要に応じて粘着付与剤(D)及び架橋剤(E)等を所定量ずつ添加し、また、必要に応じて、その他の添加剤を添加混合ことにより作製することができる。その他の添加剤としては、可塑剤、増粘剤、pH調整剤、消泡剤、防腐防黴剤、顔料、無機充填剤、安定剤、濡れ剤、湿潤剤等を挙げることができる。
【0115】
かくして得られる本発明の水性感圧接着剤組成物は、一般に、固形分含有量10〜60重量%、好ましくは15〜50重量%、さらに好ましくは20〜45重量%であり、B型回転粘度計による20℃、60rpmにおける粘度が100〜10000mPa・s、好ましくは500〜5000 mPa・s、さらに好ましくは1500〜4000 mPa・sの範囲、pH4.0〜8.5、好ましくは6.0〜8.5、さらに好ましくは6.5〜8.5の範囲である。また、前記の環境保全の観点から、アルキルフェニル系界面活性剤を実質的に含まないものであることが好ましい。
【0116】
本発明の水性感圧接着剤組成物は、その用途に応じて選択した上記の適宜の基材の少なくとも一方の面に感圧接着剤層、特に再剥離型感圧接着剤層を形成することにより、感圧接着シート、特に再剥離型感圧接着シートの作製に使用することができる。
【0117】
本発明の水性感圧接着剤組成物を用いて作製することのできる感圧接着シート、特には再剥離型感圧接着シートの表面基材としては、一般に使用されているものを使用することができ、例えば、上質紙、アート紙、コート紙、キャスト紙等の印刷用紙;感熱記録用紙、熱転写記録用紙、静電記録用紙、インクジェット記録用紙等の情報記録用紙;その他クラフト紙、含浸紙、低サイズ紙、水溶紙等の紙基材;また、PETフィルム、PEフィルム、PPフィルム等のフィルム基材;合成紙;不織布;などが挙げられ、これら基材単独、または、感圧接着剤との密着性を向上させる目的でアンカー層を積層した基材を使用できる。
【0118】
上記感圧接着剤層の形成方法としては、一般に公知の塗工手段を用いて、基材の表面に直接塗布し、乾燥し、形成された感圧接着剤層上に離型材を載置し、必要に応じて巻き取り、または、切断するといった方法により作製することができる(直接法)。感圧接着剤層の厚さは、一般に約3〜30g/m2、好ましくは約8〜18g/m2程度となるように調節するのがよい。感圧接着剤層の厚さが該下限値以上であれば、得られる感圧接着シートの接着性能が不十分となるなどの不都合が生じにくいので好ましく、また該上限値以下とすることにより経済上の負担を増すことなく優れた品質の感圧接着シートがえられるので好ましい。なお使用される基材は、得られる感圧接着シートの保存安定性などの観点からその含水水分量を適度に調整しておくことが望ましい。
【0119】
上記直接法では、塗工時の感圧接着剤組成物のしみ込みによるしわ抑制の目的で、基材の塗工面に目止め層が積層されたものを用いることが好ましい。なお目止め層には特に限定はなく、例えば、カゼイン、デキストリン、澱粉、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体、エチレン−塩化ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリル酸エステル共重合体等の天然又は合成樹脂と顔料とを主成分とした材料を用いて、乾燥重量で0.1〜10g/m2程度の厚さで設けることができる。使用される顔料としては、カオリン、炭酸カルシウム、クレー、タルク、焼成カオリン、デラミカオリン、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、シリカ、ホワイトカーボン等の無機顔料;ポリスチレン樹脂微球粒子、尿素−ホルマリン樹脂微球粒子、微小中空粒子等の有機合成顔料;などを用いることができる。
【0120】
また、感熱記録紙や各種フィルムのように熱の影響を受けやすい基材の場合は、耐熱性の高い品種の基材を選択することや、乾燥温度を低くすることで対応することが好ましい。
【0121】
本発明の水性感圧接着剤組成物を塗工するために用いられる前記の塗工手段としては、例えばロールコーター、リバースロールコーター、ナイフコーター、エアーナイフコーター、バーコーター、スロットダイコーター、リップコーター、グラビアコーター、リバースグラビアコーター等を挙げることができ、また、スクリーン印刷、グラビア印刷等の印刷機を使用することもできる。
【0122】
感圧接着剤層の形成方法として直接法を採用することは、前記のように、防しわを目的として基材表面に目止め層を設ける必要があったり、基材の種類や加工条件に制限があったりするなどの問題点がある。その上、感熱記録紙などの中には、感圧接着剤組成物中に含まれている成分、例えば界面活性剤や有機溶媒のために、該感熱記録紙に含まれる顔料や染料を含むカプセルが破壊されて発色してしまうことがあるという問題もある。
【0123】
本発明の水性感圧接着剤組成物は、従来の感圧接着シート製造の分野で広く行われている、間接法(=転写法)−すなわち、感圧接着剤組成物を一旦離型材上に前記の直接法と同様の塗工手段を用いて塗布し、乾燥した後、基材表面に貼り合わせる方法−による優れた品質の感圧接着シートの製造に使用できることを特徴とするものである。
【0124】
従来の粘着性微球粒子を含む感圧接着剤組成物は、その特徴として、表面に粘着性微球粒子が突出して凹凸状となった感圧接着剤層を形成し、そのため得られる感圧接着シートは、被着体の粗さに関わらず一定の接触面積が得られやすく、再剥離、再貼着可能な接着力を維持できるという特長を有しているが、逆に転写法を用いた感圧接着シートの作製に際しては、離型材上に形成された表面に凹凸が突出した感圧接着剤層と基材との接触面積が小さくり、感圧接着剤層の密着性に問題が生じやすい。また基材に転写後の感圧接着剤層の新たな表面は、転写前には離型材に接触した状態で乾燥されたものであるためかなり平坦な表面となっており、特に結合剤などを含む感圧接着剤組成物にあってはこの傾向が顕著である。
【0125】
このように従来の粘着性微球粒子を含む感圧接着剤組成物を用いて、転写法により作製した感圧接着剤シートは、粘着性微球粒子を含む感圧接着層の上記の利点を全く喪失するものであり、その上基材との密着性にも問題が生じやすく、特に転写法による再剥離型感圧接着シートの作製には全く不向きであることが判明した。
【0126】
本発明者らは、粘着性微球粒子を含む感圧接着剤組成物を用いて、特に転写法により基材表面に、基材との密着性に優れた感圧接着剤層を形成する方法について開発検討を行ってきた結果、前記のように、高融点粒子(A)及び低融点粒子(B)を含有する水性感圧接着剤組成物を開発した。本発明の水性感圧接着剤組成物によれば、離型材上に形成された感圧接着剤層は、乾燥温度で溶融する微球粒子(B)の溶融によるためか、その表面も裏面(離型材と接する側の表面)も、低い丘陵状の適度な凹凸を有するほぼ同様の表面状態を形成しており、このような感圧接着剤層は前記各種の基材上に比較的容易に転写することができ、得られる感圧接着剤層は基材との密着性に優れ、且つ優れた再剥離性を有していることを見出した。
【0127】
本発明で用いることのできる離型材は、特に限定されるものではなく、一般のものが使用できる。離型材の基材としては、例えばポリエチレン等のラミネート紙;グラシン紙;クレーコート紙;グラシン紙、クラフト紙もしくは上質紙等に目止め層を0.1〜10g/m2程度となるような厚さで設けた基紙;PETフィルム、PEフィルム、PPフィルム等のフィルム基材;合成紙;不織布;などが挙げられる。
【0128】
上記目止め層には、前記直説法における感圧接着剤形成のための基材におけると同様の材料が使用される。
【0129】
また離型剤としては、一般のものが使用でき、例えば、水分散型、溶剤型あるいは無溶剤型のシリコーン樹脂やフッ素樹脂等が使用され、前記離型材の基材に乾燥重量で0.05〜3g/m2程度となるように塗布した後、熱硬化、電離放射線硬化等によって離型層を形成することにより離型材を得ることができる。
【実施例】
【0130】
以下に実施例、比較例、製造例によって本発明をさらに具体的に説明するが、勿論、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例において用いる試験片の作成及びそれを用いた各種物性試験は以下の方法に従った。
【0131】
(1) 再剥離型感圧接着シートの作製
シリコーン系離型剤で表面処理された離型紙上に、乾燥後の塗布量が15g/m2となるように水性感圧接着剤組成物をワイヤーバーにより塗布し、105℃で90秒間熱風循環式乾燥機にて乾燥して感圧接着剤層を形成した後、該感圧接着剤層の表面に基材〔感熱紙70.4g/m2;王子製紙(株)製〕を、スキージーを用いて貼り合わせ、次いでラミネートロールにてプレスし、これを室温で7日間養生させて再剥離型感圧接着シートを得た。
【0132】
(2) 初期接着力の測定
前(1)項で作成された再剥離型感圧接着シートを、長さ約100mm×巾25mmに裁断して試料とし、Cダンボール紙〔王子製紙(株)製〕(表面平均粗さ22μm)及び租面ダンボール紙(表面平均粗さ36μm)を被着体として用い、この試料をJIS-Z-0237の方法に従ってこれらの被着体に圧着して試験片を作成した。この試験片を、23℃、50%RHの条件下で30分放置した後、同温湿度の条件下、剥離速度300mm/分での180゜剥離における接着力を測定した。
<表面粗さ測定条件>
機器名 :Surftest(サーフテスト)402
メーカー :Mitutoyo
測定環境 :17℃×43%
測定条件 :ノーズピース スキッド付き RANGE 20μm
算出方法 :DIN
なお、再剥離型感圧接着シートの実用適性(被着体から再剥離可能な接着力)を考慮するとき、接着力は30gf/25mm以上が好ましい。
【0133】
(3) 低温接着力の測定(5℃)
前(1)項で作成された再剥離型感圧接着シートを、長さ約100mm×巾25mmに裁断して試料とし、Cダンボール紙〔王子製紙(株)製〕を被着体として用い、5℃の条件下でこの試料を100gロールにて、圧着速さ5mm/S、1往復の条件にて被着体に圧着して試験片を作成した。この試験片を、張り合わせ後直ちに、同温度の条件下、剥離速度300mm/分での180゜剥離における接着力を測定した。
なお、再剥離型感圧接着シートの実用適性(被着体から再剥離可能な接着力)を考慮するとき、接着力は30gf/25mm以上が好ましい。
【0134】
(4) 経時接着力の測定
前(2)項と同様の方法で作成した試験片を、40℃×80%RHの恒温恒湿槽内に7日間放置し、さらに23℃、50%RHの環境に2時間放置した後、前(2)項と同様の方法で接着力を測定した。本試験はCダンボールについてのみ実施した。
【0135】
なお、再剥離型感圧接着シートの実用適性(被着体から再剥離可能な接着力)を考慮するとき、被着体がCダンボールの場合は、被着体の強度を考慮すれば、経時接着力は800gf/25mm以下であることが望ましい。
【0136】
接着力の測定には定速伸張型引張試験機を使用し、得られるチャートから平均的な剥離力(単位;gf/25mm)を求めた。測定は3つの試験片について行い、それらの平均値を試験片の接着力の値とした。
【0137】
(5) 再剥離性の評価
前(4)項の経時接着力測定の際の被着体からの試験片の剥離状態を目視により観察して、下記の評価基準に従って評価した。
【0138】
[評価基準]
○ :感圧接着シート基材及び被着体の紙破れ、並びに剥離時の被着体への糊残り及び感圧接着剤の糸曳き共になし。
○△:感圧接着シート基材及び被着体の紙破れ、並びに剥離時の被着体への糊残りはないが、感圧接着剤の糸曳きあり。
△ :感圧接着シート基材の紙破れは無いが、被着体の一部に毛羽立ち又は、一部で剥離時に被着体への糊残り及び感圧接着剤の糸曳きあり。
× :感圧接着シート基材及び被着体の紙破れあり、又は剥離時に被着体へ糊が面残りし、きれいに剥離できない。
【0139】
〔高融点粒子(A)の製造〕
温度計、攪拌機、原料導入管、窒素導入管及び還流冷却器を備えた反応器に、イオン交換水30重量部、部分ケン化ポリビニルアルコール「ゴーセノールKH-17」〔商品名;日本合成化学(株)製〕(KH-17)の5%重量水溶液60重量部(有効成分量3重量部)、アニオン系界面活性剤「ニューコール707SF」〔商品名;ポリオキシエチレン(n=7)ジスチリルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウム塩及びアンモニウム塩;日本乳化剤(株)製〕(N707SF)の水溶液(有効成分30重量%)0.32重量部(有効成分量0.096重量部)を仕込み充分に攪拌して溶解させた。次に別の容器に2-エチルヘキシルアクリレート(EHA)99.3重量部、アクリル酸(AA)0.7重量部、エチレングリコールジメタクリレート(EDM)0.1重量部、「パーブチルPV」〔商品名;t-ブチルペルオキシピバラート(有効成分濃度70重量%);日本油脂(株)製〕(PBPV)0.34重量部を入れて攪拌混合し、この単量体混合液を先に準備された反応器中の水溶液に添加して攪拌速度300 rpm前後で1時間攪拌した後、反応容器中にイオン交換水61重量部を添加し、窒素置換を行い昇温を開始した。52〜55℃で重合反応が始まり、急激に80℃前後まで発熱した。これを冷却し75℃に保持して3時間反応を行った。その後生成した水性懸濁液は30℃まで冷却させ、2.5%アンモニア水を添加してpH8〜9とした。得られた水性懸濁液の特性値は、固形分40.0重量%、pH
8.4であり、微球粒子の特性値は、体積平均粒子径28μm、溶融温度120℃、共重合体のガラス転移温度は−75℃であった。
【0140】
〔低融点粒子(B)の製造〕
製造例Aで用いたと同様の反応器に、イオン交換水70重量部、部分ケン化ポリビニルアルコールKH-17の5%重量水溶液20重量部(有効成分量1重量部)、アニオン系界面活性剤N707SFの水溶液(有効成分濃度30重量%)1.68重量部(有効成分量0.504重量部)を仕込み充分に攪拌して溶解させた。次に別の容器にEHA 99重量部、AA1重量部、n-ドデシルメルカプタン(nDM)0.04重量部、PBPV 0.34重量部を入れて攪拌混合し、この単量体混合液を先に準備された反応器中の水溶液に添加して攪拌速度300 rpm前後で1時間攪拌した後、反応容器中にイオン交換水92重量部を添加し、窒素置換を行い昇温を開始した。52〜55℃で重合反応が始まり、急激に80℃前後まで発熱した。これを冷却し75℃に保持して4時間反応を行った。その後生成した水性懸濁液は30℃まで冷却させ、2.5%アンモニア水を添加してpH8〜9とした。得られた水性懸濁液の特性値は、固形分35.0重量%、pH
8.5であり、微球粒子の特性値は、体積平均粒子径30μm、溶融温度40℃、共重合体のガラス転移温度は−75℃であった。
【0141】
〔アクリル系共重合体微粒子(C1)の製造〕
製造例C1
製造例Aで用いたと同様の反応器に、イオン交換水44重量部を仕込み、内温を70℃に昇温させた。一方、別の容器にイオン交換水24重量部、アニオン乳化剤「ネオペレックスG−65」〔商品名;アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩(有効成分濃度65重量%);花王(株)製〕3.1重量部(有効成分量2重量部)を仕込み攪拌して溶解させ、次いでこれにブチルアクリレート(BA)99重量部、アクリル酸(AA)1重量部よりなる単量体混合物を加えて攪拌し、単量体プレミックスを得た。反応器の内容物を窒素気流下に攪拌しながら加熱し、反応器内の水温が70℃に達した時点で重合開始剤過硫酸アンモニウム(APS)及び還元剤メタ重亜硫酸ナトリウム(SMBS)それぞれ0.5重量部添加した後、単量体プレミックス、2.5重量%過硫酸アンモニウム(APS)水溶液10重量部及び2.5重量%SMBS水溶液10重量部を逐次添加して重合開始させ、約3時間重合反応を行った。重合反応終了後、同温度で約2時間攪拌を継続してから冷却し、25%アンモニア水を添加してpH調整してアクリル系共重合体微粒子の水性分散液を得た。この水性分散液の特性値は固形分50.0重量%、pH
7.0、粘度75
mPa・s(25℃、BH型回転粘度計20
rpm)、アクリル系共重合体微粒子の特性値は体積平均粒子径291 nm、共重合体のガラス転移温度−55℃であった。
【0142】
製造例C2〜製造例C9
製造例C1において、BA 99重量を用いる代わりに表1に示すようにモノマー組成と量を変え、製造例C1と同様にして重合反応を行った。使用した単量体組成、得られた水性分散液の特性値は表1に示す。
【0143】
【表1】

【0144】
〔再剥離型感圧接着剤組成物の作製〕
実施例1
製造例Aで得られた微球粒子(A)の水性懸濁液100重量部(微球粒子約40重量部)、製造例Bで得られた微球粒子(B)の水性懸濁液171.4重量部(微球粒子約60重量部)に、製造例C1で得られたアクリル系共重合体微粒子(C1)の水性分散液66.6重量部〔微粒子約33.3重量部〕、イオン性粘性調整剤「ニカゾールVT-253A」〔商品名;ポリカルボン酸型粘性調整剤;有効成分27重量%;日本カーバイド工業(株)製〕(VT253A) 15重量部(有効成分4.2重量部)、非イオン性粘性調整剤「SNシックナー621N」〔商品名;ウレタン変性ポリエーテル型粘性調整剤;有効成分30重量%;サンノプコ(株)製〕(SN621N) 9.5重量部(有効成分2.85重量部)、粘着付与剤の水性分散液「スーパーエステルE-788」〔商品名;重合ロジン系粘着付与剤;有効成分50重量%;荒川化学(株)製〕(E788)9.2重量部(有効成分約4.5重量部)を添加し、次いで増粘剤及び25%アンモニア水を添加して粘度を調整した後、架橋剤(E)の水性液「カルボジライトV-04」〔商品名;カルボジイミド系架橋剤(カルボジイミド当量334)、有効成分40重量%;日清紡(株)製〕(V04)を1.96重量部(有効成分約0.78重量部)添加して再剥離型感圧接着剤組成物を作製した。得られた感圧接着剤組成物の特性値は、固形分39.3重量%、pH8.5、粘度3600mPa・sであり、微球粒子(A)、微球粒子(B)及び共重合体微粒子(C)に含まれるカルボキシル基の総量(T)は約0.0168当量部、架橋剤(E)のカルボジイミド基は0.00234当量部であり、カルボキシル基の総量に対するカルボジイミド基の当量比(E/T)は0.139であった。
【0145】
なおここで「当量部」とは、「重量部」をグラム数に読み替えたときの当量数を表すものとし、例えばある物質の100g中に所定の官能基が1当量存在するときには、その物質100重量部中にはその官能基が1当量部存在するものとする。
【0146】
得られた感圧接着剤組成物を用いて、前記に従い感圧接着シートを作製し、各種物性試験を行った。試験結果を表3に示す。
【0147】
実施例2〜7、比較例1〜8
実施例 1 において、粘着性微球粒子(A)、(B) 微粒子(C)及びまたはその使用量等を そ表2に示すようにそれぞれ替えた以外は 実施例1と同様にして再剥離型感圧接着剤組成物を作製した。得られた感圧接着剤組成物を用いて、前記に従い感圧接着シートを作製し、各種物性試験を行った。試験結果を表3に示す。
【0148】
【表2】

【0149】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
60℃より高い溶融温度を有するアクリル系共重合体からなる粘着性微球粒子(A)、少なくとも1種 及び、60℃以下の溶融温度を有するアクリル系共重合体からなる粘着性微球粒子(B)少なくとも1種 からなる少なくとも2種の粘着性微球粒子、
乳化重合により得られるアクリル系共重合体微粒子(C)、粘着付与剤(D)、及び架橋剤(E)からなる水性感圧接着剤組成物であって、
乳化重合により得られるアクリル系共重合体微粒子(C)のガラス転移温度(Tgc)が−70〜−45℃の範囲であり、その含有率が、粘着性微球粒子(A)及び(B)の合計を100重量部としたとき、20〜40重量部であって、
アクリル系共重合体からなる粘着性微球粒子(A)及び(B)及びアクリル系共重合体微粒子(C)の総反応性官能基に対して0.1〜0.4当量の架橋剤(E)を含有することを特徴とする水性感圧接着剤組成物。
【請求項2】
微球粒子(A)の体積平均粒子径(dA)が 10〜60μmの範囲である請求項1記載の水性感圧接着剤組成物。
【請求項3】
微球粒子(B)の体積平均粒子径(d)が 10〜60μmの範囲である請求項1又は2に記載の水性感圧接着剤組成物。
【請求項4】
微球粒子(A)と微球粒子(B)の重量比が (A)/(B)= 20/80〜70/30の範囲である請求項1〜3いずれかに記載の水性感圧接着剤組成物。
【請求項5】
架橋剤(E)が分子内にカルボジイミド基を有する化合物である請求項1〜4いずれかに記載の水性感圧接着剤組成物。
かに記載の感圧接着剤組成物。
【請求項6】
転写塗工法による感圧接着シートの製造に用いられる請求項1〜5いずれかに記載の水性感圧接着剤組成物。
【請求項7】
感圧接着剤組成物が再剥離型感圧接着剤組成物である請求項1〜6の何れか1項に記載の感圧接着剤組成物。

【公開番号】特開2008−222754(P2008−222754A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−59365(P2007−59365)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000004592)日本カーバイド工業株式会社 (165)
【Fターム(参考)】