説明

再生信号評価方法、情報記録再生方法、及び情報記録再生装置

【課題】光位相多値記録再生システムにおいて互換性を確保するための再生信号評価手段を提供する。また、回路規模を抑えた復号手段を提供する。
【解決手段】ユーザデータによって光の位相を変調し、その位相情報を記録媒体に記録する。そして記録媒体に記録された位相情報を光学的に再生し、記録された位相情報を電気信号に変換し、その信号を適応等化し、PRML復号する。再生された位相情報から指定されたパターンのターゲット波形との時間軸方向のずれを検出し、統計平均を算出する。また、再生された位相情報から、指定されたパターンから再生された位相の値を抽出し、統計平均を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の位相を用いて情報を記録及び再生する方式及び再生信号を評価する方式及びそれを体現する情報記録再生装置に関わる。
【背景技術】
【0002】
以下における説明中の用語の一部は、Blu-ray Disc(BD)で使用される表現を用いている。これらは、BD以外のシステムでは、別の呼称が用いられる可能性がある。しかし、当業者であれば容易に読み替えることができることである。
【0003】
光ディスクの記録容量の拡大は、光源の短波長化と対物レンズの開口比(NA)の増大に加えてディスク1枚当たりの記録層数を増やすことにより実現されてきた。BDでは青色半導体レーザと、NAが0.85という高NA対物レンズを用いて2層で50GBの記録容量を実現している。更に、2010年には、記録層の数を3乃至4に増やすと同時に面記録密度も高めることにより100GB以上の記録容量を有するBD XLの実用化に至った。
【0004】
記録波長の短波長化や対物レンズの高NA化は限界に近く、今後、面記録容量を大幅に向上させるのは容易でない。よって、上記以上の記録容量を実現するためには、記録層の数をさらに増大させるのが有力な解決手段の一つである。しかし、従来の多層光ディスクと同様の構成で記録層数を増大させようとすると、記録容量当たりのコスト低減が実現しにくい可能性が高い。何故なら、現行の多層光ディスクの製造コスト及び歩留まりは、専ら記録層の形成プロセスに関わるからである。即ち、層数の増大は工程数の増大に直結し、最終的な歩留まりは1層当たりのスタンパ工程の歩留まりの層数の冪乗で概ね決定されるからである。
【0005】
そこで、従来の多層ディスクのように物理的に定義された記録層を有さない光ディスク及びその記録技術が検討されている。一例として、特許文献1に記載されている技術では、フォトリフラクティブ材料からなる記録領域中にマイクロホログラム、即ち微小な干渉縞を記録している。上記記録領域の中には物理的に記録位置を規定する構造が無いので、各マイクロホログラムの記録位置は、記録に用いる光(記録光)の焦点位置を間接的に制御することにより決定される。また、別の一例を挙げると、特許文献2中の記述にあるように記録領域中にボイド(空隙)を形成することにより記録を行うものもある。これらの記録方法によれば、仮想的な記録層を比較的自由に増やすことが可能であり、ディスク1枚当たりの記録容量増大を図りやすい。尚、本明細書中では、以上のように記録領域中に物理的に記録位置を規定する層が無い方式について便宜上、空間記録と総称することとする。
【0006】
上記の空間記録を含め、記録層の数を増大させた場合に問題となるのが再生している層からの反射光光量の減少である。記録用光源の出力は有限であるから、多数の記録層を有するディスクで再生光の入射面から見て最も奥にある層に対して記録を行うためには、途中の各記録層の透過率が十分に高いことが要求される。逆に言うと、各層の光反射率及び吸収率は十分に小さい必要がある。また、吸収率が小さい記録層に対して記録を行うために記録膜の記録感度が高く設定されているため、再生時のピックアップの出射光(再生光)のパワーを大きくすることには限界がある。このため、一般的に再生時に記録層から返ってくる光量は記録層数が多いほど小さくなる。従って、再生信号の信号対雑音比(SNR)の低下が問題となる。
【0007】
再生信号のSNR低下に対抗する技術として、特許文献3に記載のあるような光学干渉を応用した信号振幅増幅技術がある。即ち、再生光と共通の光源から得た参照光を記録層からの反射光と光検出器上で干渉させることにより再生信号を増幅するものである。尚、本明細書中では、このような再生光と共通の光源から得た参照光と再生光を光検出器上で干渉させる方式及びその再生光学系をそれぞれホモダイン検出及びホモダイン検出系と総称することとする。
【0008】
光ディスクドライブの主要な性能の一つは、記録及び再生の際のデータ転送速度(以後、単に転送速度という)である。これは、特に非民生分野で用いる場合に重要な性能項目である。転送速度は、第一義的には、線記録密度とディスクの線速度で決定される。また、ディスクの線速度は、実現可能なディスクの回転速度によって制限される。ほぼ全ての光ディスクに使用されている材料であるポリカーボネイト製で直径が12cmのディスクの場合、振動や変形を考慮すると回転速度の限界は10000rpm(rotations per minute)程度と考えられている。
【0009】
線記録密度は、第一義的には再生ヘッドの光学分解能で決定され、さらに、実用的な性能余裕(マージン)や信号処理による性能向上効果を考慮して決定されている。光学分解能は、ヘッドが使用する光源の波長と対物レンズの開口比とで決定づけられる。即ち、光ディスクドライブの転送速度の上限は、専ら実現可能なディスクの回転速度の上限と線記録密度で決定されることになる。以上の事項は、当業者には公知であるからこれ以上の詳述は省く。
【0010】
しかし、前述のように、光学分解能は既にほぼ限界に達している状況である。かかる状況で転送速度を現状よりも向上させるためには、従来、1チャネルクロック当たり1ビットを記録するバイナリ記録に代わり、1チャネルクロック当たり1ビットを超える情報を記録する多値記録方式が有望である。多値記録では、単位長さ当たりの記録容量も増えるので、当然、ディスクの記録容量増大にもつながる。
【0011】
多値記録方式に関しては、非特許文献1に記載されている技術がある。これは、従来記録型光ディスク媒体に用いられているのと同類の記録膜に対して、記録波形を改良することにより反射率を従来の2値変調から最大で8値変調に増やすことにより記録容量の増大を図るものである。しかし、再生信号の振幅は従来の光ディスクと同じであるので、反射率の各階調に対応した信号レベル相互のSNRが低下するために、転送速度を向上させるのには必ずしも適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−97723号公報
【特許文献2】特開2009−238285号公報
【特許文献3】特開2009−252337号公報
【特許文献4】特開2010−250881号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Jpn. J. Appl. Phys., Vol.42 (2003), pp.1062-1067
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、多値記録方式を用いた光記録再生技術において、記録容量の増大と転送速度の向上を同時に実現し、当該方式において異なるドライブ間の互換性を確保するための信号評価方式、並びに、これらを体現する装置を提供する。
【0015】
上述したように、ディスクの回転速度及び線記録密度の向上に制約がある下において、現行技術と比べて転送速度を大幅に向上させるためには、1チャネルクロック当たり1ビットを記録するバイナリ記録に代わり、1チャネルクロック当たり1ビットを超える情報を記録する多値記録方式が一つの解である。尚、以下においては、1チャネルクロックに記録される情報単位を単にシンボルと呼ぶ。また、同様に混乱を来たさない範囲において、チャネルビットを単にビットと呼ぶ。また、符号化前の記録すべきデータをユーザデータと呼び、そのバイナリ表現における最小単位をユーザビットと呼ぶこととする。よって、例えば、符号化なしのバイナリ記録では、1シンボルが1ビット、即ち1ユーザビットに対応し、同じく符号化なしの8値記録であれば1シンボルが3ビット、即ち3ユーザビットに対応する。シンボルという表現は、当該分野において広範に使用される語句であるが、混乱を来たさない範囲では上記の意味で使用する。
【0016】
背景技術の項において述べたように、多値記録再生システムを実現する上において、情報を再生する際に得られる信号が振幅変調のみで情報を表現している場合、転送速度の向上は困難である。DVDやBDのような反射光強度変化を用いる光ディスクの場合で考えると、各シンボルの値を判別する光強度の間隔が狭まることになるので、各シンボルのレベルを判定する際の誤り率が2値記録再生の場合よりも大きくなる。このことは、高速転送に必要な帯域幅を有する回路系を用いた場合にはより顕著になるので、結果として高速転送を実現するのは困難になる。
【0017】
また、光ディスクシステムは、記録媒体が可換であるという特徴を有する。よって、同一規格のドライブ相互での互換性の確保が必須である。従来の光ディスクシステムでは、例えば、規定された再生条件下におけるエラーレートと再生信号の品質としてジッターを規定することにより互換性を確保していることは当業者であれば承知していることである。位相記録を用いた多値記録においても、少なくともシンボルエラーレートを規定することは容易に想起される。しかしながら、位相記録における再生信号の品質をジッターで規定できないことは容易に想像される。即ち、光位相多値記録再生システムにおいて互換性を確保する上での課題の一つは、妥当な再生信号評価手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の信号評価方法は、記録媒体に記録されているデジタル情報を光の位相信号として光学的に読み出す工程と、読み出した位相信号から予め指定されたデジタルパターンに対応する位相の値を抽出する工程と、を有する。位相の値に加えて、予め指定されたデジタルパターンに対応したターゲット波形との時間軸方向の変位を抽出する工程を有してもよい。
【0019】
本発明の情報記録方法は、記録媒体にデジタル情報を光の位相として光学的に読み出せるように記録する情報記録方法であり、記録媒体に記録されたデジタル情報を光の位相信号として光学的に読み出す工程と、読み出した位相信号から予め指定されたデジタルパターンに対応する位相の値を抽出する工程と、抽出された位相の値が予め指定された値に概略一致するように記録条件を変更する工程と、を有する。予め指定されたデジタルパターンに対応する位相の値に加えて予め指定されたデジタルパターンに対応するターゲット波形との時間軸方向の変位を抽出し、抽出された時間軸方向の変位が予め指定された値に概略一致するように記録条件を変更する工程を有してもよい。
【0020】
本発明の再生信号評価装置は、記録媒体に記録されたデジタル情報を位相信号として再生する再生部と、位相信号を復号する復号器と、復号器による復号結果から予め指定されたデジタルパターンを検出するパターン検出器と、パターン検出器によって予め指定されたデジタルパターンが検出されたときの位相信号の統計平均を算出する算出手段と、を有する。復号器としてPRML復号器を用い、予め指定されたデジタルパターンの長さを、PRML復号器に適用されているPRクラスの拘束長以上の長さとしてもよい。
【0021】
本発明の情報記録再生装置は、記録媒体にデジタル情報を光の位相として光学的に読み出し可能なように記録し、再生する情報記録再生装置であり、一例として、ユーザデータを畳み込み符号化する手段と、畳み込み符号化したデジタル情報をインターリーブする手段と、インターリーブ後の情報に基づき、光源から発せられたレーザ光の位相を変調し、位相情報を前記記録媒体に記録する手段と、記録媒体に記録された位相情報を光学的に読み出すホモダイン検出系と、光学的に読み出した位相情報をPRML法でデジタル情報に復号する手段と、復号で得られたデジタル情報をデインターリーブする手段と、デインターリーブされたデジタル情報をヴィタビ復号してユーザデータを得る手段と、を有する。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、回路規模の増大を抑えた、多値記録された信号を復号する再生システムが実現される。また、妥当な再生信号評価手段が提供されることにより光位相多値記録再生システムにおいて互換性の確保が容易になる。
上記した以外の、課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の装置構成例を示す機能ブロック図。
【図2】マイクロホログラム記録の様子を説明する図。
【図3】マイクロホログラムを応用した位相記録の方法を説明する図。
【図4】ホモダイン検出技術の説明図。
【図5】符号間干渉が無い場合に観測される位相再生信号の例を示す図。
【図6A】符号間干渉が有限である場合に観測される位相再生信号の例を示す図。
【図6B】符号間干渉が有限である場合に観測される位相再生信号のアイパターンの例を示す図。
【図7A】バイナリ記録における再生波形の例を示す図。
【図7B】多値記録における再生波形の例を示す図。
【図8】再生波形とターゲット波形の例を示す図。
【図9】位相算出の詳細を説明する図。
【図10】変調器のスケール異常に対応可能な位相算出系の構成例を示す機能ブロック図。
【図11】エッジシフト検出の一例を説明する図。
【図12】記録調整時のデータの流れを説明する機能ブロック図。
【図13】記録調整の手順の一例を示す図。
【図14】畳み込み符号化を併用する場合の信号処理の流れを説明する図。
【図15】畳み込み符号化器の構成の一例を示す図。
【図16】畳み込み符号化の効果を示す一例を示す図。
【図17】畳み込み符号化を併用した場合の復号システムの構成例を示す機能ブロック図。
【図18】光ディスク装置の構成例を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
上記多値記録再生システムにおける転送速度の問題を解決する方法としては、振幅以外の情報、即ち位相を用いることが考えられる。光記録において位相を記録する方法としては、特許文献1に記載があるマイクロホログラムを応用する方法が考えられる。特許文献1に記載された方式においては、マイクロホログラムは、単に微小な反射体として用いられている。マイクロホログラムは、図2に示すように、同一光源から発せられた2つのレーザ光を対向させた2つの対物レンズ108a,108bで同一個所に焦点を結ばせ、その焦点近傍に干渉縞を記録することにより記録マークを形成する。再生時には、現行の光ディスクと同様に、このマイクロホログラムからなる記録マークからの反射光強度を検出する。
【0025】
マイクロホログラムに位相を記録するには、図3に示したように、記録に用いる2つのレーザ光のうち片方の位相を記録データに応じて変調すれば良い。半導体レーザ101を発したレーザ光をコリメートレンズ102で平行光線に変換した後、無偏光ハーフビームスプリッタ118で二分し、そのうち一方を、ミラー116aを経て対物レンズ108aを用いて記録媒体1中に焦点を結ばせる。もう一方のレーザ光は、位相変調器10を経た後に、ミラー116b,116c及び対物レンズ108bを経て、同様に記録媒体1中に導かれ、2つのレーザ光線は同一個所で焦点を結ぶ。ここで、記録データに応じて位相変調器10を駆動すると、マイクロホログラムを形成する干渉縞の光軸方向の位置が変化する。つまり、この方式によって記録されたマイクロホログラムを構成する干渉縞の列は、記録データ列に応じた位置変化をしている。
【0026】
マイクロホログラムに再生光を照射した場合を考えると、再生光はマイクロホログラムを構成する各干渉縞で反射され、マイクロホログラムは全体として一つの反射体とみなすことができる。よって、マイクロホログラムを構成する干渉縞の光軸方向の位置が変化すると、反射された再生光の位相が変化する。従って、この再生反射光の位相を判別することにより各マイクロホログラムに記録された位相を知ることができる。また、マイクロホログラムを応用した位相記録においては、従来の光ディスクのような物理的に定義された記録面、或いは、記録層は存在しない。しかし、説明を簡単化するために、便宜上、マイクロホログラムが面状に記録されたものを記録層或いは記録面と呼ぶこととする。同様に、マイクロホログラムが列状に記録されたものをトラックと呼ぶこととする。
【0027】
マイクロホログラムで反射された光の位相変化を検出する手段として、位相ダイバシティ方式ホモダイン検出技術(以下、ホモダイン検出と呼ぶ)が利用できる。以下に、これらについて説明する。初めに、ホモダイン検出について説明する。但し、当業者であればホモダイン検出及びそれを用いた光ディスク装置の構造及び動作に関しては特許文献3を参照することで容易に理解できるので、以下においては本発明の説明に必要な概要のみを説明する。
【0028】
図4は、ホモダイン検出系の動作説明図である。半導体レーザ101からの光をコリメートレンズ102によって平行光として、λ/2板103を透過させて偏光ビームスプリッタ104に入射させる。偏光ビームスプリッタ104は分離面に入射するp偏光(以後、水平偏光と呼ぶ)をほぼ100%透過し、s偏光(以後、垂直偏光と呼ぶ)をほぼ100%反射させる機能を有している。このときλ/2板の光軸のまわりの回転角度の調整することにより、透過光と反射光の強度比を調整することができる。偏光ビームスプリッタ104を透過した光は、λ/4板106aを透過して円偏光に変換され、2次元アクチュエータ107に搭載された対物レンズ108により、光ディスク1上の記録層に集光される。光ディスク1からの反射光は同じ光路を戻り、対物レンズ108によって平行光とされ、λ/4板106aにより最初に入射したときとは90°偏光方向が回転した直線偏光に変換された後、偏光ビームスプリッタ104に入射する。すると偏光が90度回転しているため、反射して集光レンズ113に入射する。
【0029】
一方、半導体レーザ101から出射し、偏光ビームスプリッタ104を反射した光は、λ/4板106bを透過して円偏光に変換され、2次元アクチュエータ107上に搭載されたミラー116に入射する。ミラー(コーナーキューブプリズム)116により反射された光は同じ光路を戻り、λ/4板106bを経て偏光ビームスプリッタ104に入射する。往路と復路の2回λ/4板106bを通過して最初に入射したときとは90°偏光方向が回転した直線偏光に変換されているので、反射光は偏光ビームスプリッタ104を透過し、光ディスクからの反射光と互いに偏光が直交した状態で同軸となって集光レンズ113に入射する。集光レンズ113に入射した二つの光は、無偏光ハーフビームスプリッタ118によってそれぞれ1対1の割合で反射、透過する。透過した光はλ/2板119を透過することにより偏光が45度回転した後、偏光ビームスプリッタ120によって水平偏光成分と垂直偏光成分に分離され、分離されたそれぞれの光は検出器121,122によって検出される。無偏光ハーフビームスプリッタ118を反射した光はλ/4板123を通過した後、偏光ビームスプリッタ124によって水平偏光成分と垂直偏光成分に分離され、分離されたそれぞれの光は検出器125,126によって検出される。
【0030】
光の干渉によって増幅信号を得る過程を詳細に説明する。集光レンズ113に入射する光は、水平偏光であるミラー116からの戻り光と、垂直偏光である光ディスク1からの戻り光が同軸になったものである。従って光の偏光状態をジョーンズベクトルで表すと、次のようになる。
【0031】
【数1】

【0032】
ここでEsは光ディスクからの戻り光の電場、Erはコーナーキューブプリズムからの戻り光の電場である。また、このベクトルの第一成分は水平偏光を、第二成分は垂直偏光を表す。
【0033】
この光は無偏光ビームスプリッタによって2分割され、透過光は軸方向が水平偏光方向から見て22.5度の方向にfast軸を持つλ/2板を通過する。このときジョーンズベクトルは、次のようになる。
【0034】
【数2】

【0035】
次に、偏光ビームスプリッタによって水平偏光成分が透過し、垂直偏光成分が反射するため、透過する光と反射する光の電場はそれぞれ次式のようになる。
【0036】
【数3】

【0037】
一方、無偏光ビームスプリッタを反射した光は、軸方向が水平偏光方向から見て45度の方向にfast軸を持つλ/4板を通過する。このときジョーンズベクトルは、次のようになる。
【0038】
【数4】

【0039】
次に、偏光ビームスプリッタによって水平偏光成分が透過し、垂直偏光成分が反射するため、透過する光と反射する光の電場はそれぞれ次式で表される。
【0040】
【数5】

【0041】
従って、4つの検出器121,122,125,126の検出信号はそれぞれ、式(8)から式(11)となる。ηは検出器の光−電気変換効率である。
【0042】
【数6】

【0043】
従って、アナログ減算器130及び131の出力は、それぞれ式(12),(13)となる。
【0044】
【数7】

【0045】
ここで、φは再生光と参照光の位相差である。尚、以後、特に混乱を生じない限りにおいて参照光と再生光の位相差のことを単に位相と呼ぶこととする(記号はφ)。
【0046】
式(12)及び式(13)から解るように、2つのアナログ減算器の出力から参照光と再生光の位相差を知ることができる。よって、この位相差を時系列的に観測することにより記録時の位相変調量を再現できることは当業者であれば容易に理解できることである。尚、位相はマイクロホログラムの実効的な反射面の位置として記録され、これを反射光で再生するのであるから、記録時の位相変調量は再生時に意図する位相変化量の1/2として記録すべきであることは当業者であれば当然理解されることである。
【0047】
一般的に、アナログ減算器出力から得られる位相には位相定数が加算されて観測される。この位相定数は、作動コーディングや記録フォーマットを併用した校正により解決できる。従って、以下においては、特に必要が無い限りにおいて位相定数を0として扱うこととする。
【0048】
図5に、再生時に観測される上記X及びYの計算例を示す(以後、特に断らない限り、X及びYは、それぞれホモダイン系出力のコサイン及びサイン成分を意味することとする)。ここで、記録時の位相は、0度、45度、90度、135度の4値を用い、それぞれにバイナリデータ‘00’,‘01’,‘10’,‘11’を割り当てた。従って、再生時には、2倍の位相変化として観測されるので図5に示したように0度、90度、180度、270度が観測される。よって、これらの位相を判別できればユーザデータを復号することができる。また、図5に示した例では、記録された位相変調信号の位相遷移間隔を十分に広くとっているので、事実上符号間干渉は無視できる状態となっている。即ち、位相が変化する場合、瞬時に遷移するように観測されるので、図5のように0度、90度、180度、270度の近傍のみに信号が観測されるように見える。また、再生信号の振幅は一定であるとしている。
【0049】
マイクロホログラムに記録されている位相を光学的に再生する際においても、光スポットの大きさが有限であることに起因する符号間干渉を生じる。この場合においても例えば濃淡マークが記録されている従来の光ディスクにおける符号間干渉と同様に考えることができる。即ち、再生光スポット内に異なる位相が記録された領域が存在する場合、ホモダイン検出を用いて観測される位相(参照光との位相差)は、それぞれの位相領域からの反射光量で加重平均した位相値と見なすことができる。このことを用いて符号間干渉がある場合に観測される位相の計算例を図6Aに示す。これは、マイクロホログラムを用いてランダムな4値位相変調信号(ラン長制限なし)がシンボル間隔320nmで記録されたものを、波長405nmのレーザ光とNAが0.85の対物レンズを用いて再生したものである。符号間干渉が無視できた図5と明らかに様子が異なっている。即ち、0度、90度、180度、270度の各点近傍以外の値も観測される一方、270〜360度の間の値は観測されない。これは、前述の符号間干渉の影響を考えれば当然のことである。尚、図6A中で0度、90度、180度、270度の各点の中間に観測される斑点は、同図を描画するのに用いたデータが位相出力の時間離散的なデータ(2倍オーバサンプリング)であるためで、連続信号であれば、3/4円弧が観測される。
【0050】
図6Bは、同じデータを縦軸に位相をとったアイパターンとして描いたものである。多数の線が交差する位相が多数あることが解る。これらが図6A中で0度、90度、180度、270度の各点の中間に観測される斑点に対応する。また、どの位相レベルにおいてもアイの中央付近を通過する線があることが解る。即ち、単純なレベル判定による符号判別は不可能であることを示している。
【0051】
このような符号間干渉を受けている信号から元の4値データ列を復号するのには、バイナリデータの際と同様にPRML(partial response most-likely)法が有効である。PRML法を用いた復号に関しては、当業者の間では広く知られているので、ここでは詳述しない。従来の光ディスクにおけるPRML復号と異なり、多値信号をPRML復号する際に用いるヴィタビ復号器は、必要な数の値を判別するのに必要な内部状態数がバイナリ信号の場合よりも飛躍的に多くなる。ラン長制限が無いと仮定した場合、n値記録に対応するヴィタビ復号器の内部状態数Nは、拘束長をLとすると、次式で与えられる。
【0052】
【数8】

【0053】
つまり、バイナリ記録で拘束長が3であれば、ヴィタビ復号器の内部状態数は、22=4であるのに対し、4値記録の場合は、16である。8値記録では64、16値記録では256である。また、拘束長が4の場合、バイナリ記録では8、4値記録では64、8値記録では512、16値記録では4096となる。記録値の数、或いは、拘束長の増加に対するヴィタビデコーダの内部状態数が急激に増加することが解る。更に、各状態から分岐するブランチの数は、記録値の数と同数あるので、結局、ブランチメトリックを計算する回路の数Mは、次式で与えられる。
【0054】
【数9】

【0055】
PRML復号結果のシンボルエラーレートが十分に低くできないことが予想される場合、信頼性を高めるためにユーザデータを予め符号化することが考えられる。この符号には、畳み込み符号を用いることができ、その場合はPRML復号と合わせてヴィタビ復号器で同時に復号することが可能である。ただし、その分、ヴィタビ復号器の内部状態数、即ち、回路規模が増加する。
【0056】
以上から、多値記録された信号を復号する際の課題の一つは、回路規模の増大を抑えることであることが解る。
【0057】
本発明の情報記録再生装置は、ホモダイン検出系のX、Y出力から位相φを求める手段と、FIR(finite impulse response)型適応等化器と、2値を超える値を判別することができるヴィタビ復号器とを有する。また、これに加えて畳み込み符号を復号することができるヴィタビ復号器を有する場合がある。また、これに加えてデインターリーバを有する場合がある。
【0058】
ユーザデータを用いて光の位相を変調し、その位相情報を記録媒体に記録し、そして記録媒体に記録された位相情報を光学的に再生し、記録された位相情報を電気信号に変換し、その信号を適応等化し、PRML復号する。また、これに加えて、ユーザデータを予め畳み込み符号化の後にインターリーブを行ってから前述方法での記録と再生及びPRML復号を行い、PRML復号の結果をデインターリーブし、その結果をヴィタビ復号することによりユーザデータを復元する。また、再生された位相情報から指定されたパターンのターゲット波形との時間軸方向のずれを検出し、統計平均を算出する。また、再生された位相情報から、指定されたパターンから再生された位相の値を抽出し、統計平均を算出する。これらの統計平均を用いて再生信号を評価する。
【0059】
図1に、本発明による装置構成例を信号フローと共に示す。この例は、ランダムな8値位相変調信号(ラン長制限なし)を記録したマイクロホログラムを、ホモダイン検出系を用いて再生し、その記録状態を評価するものである。記録状態の評価項目は、位相とエッジシフトである。以下に、特に位相を評価する必要性について述べる。
【0060】
記録時には、記録光の位相を、記録するデータに応じて位相変調器で変調する。この時、位相変調器が指示した通りの位相変調を行い、かつ、マイクロホログラム中の干渉縞が意図通りに記録媒体中に形成されることが望ましい。しかし、例えば温度などの環境変化や位相変調器特性の経時変化により意図通りの位相変調ができない場合がある。また、記録光の位相を意図通りに変調できた場合でも、マイクロホログラムを記録したことによる媒体の収縮が起こり、その結果、記録された干渉縞の位置が意図通りにならない可能性がある。この状況は、記録媒体や記録時のパワーなどによって異なる。このように、位相を記録する場合においても意図通りの記録ができるとは限らない。これらは、再生時のディスクチルトなどのマージンやドライブ間の互換性低下の原因になる。また、時間軸方向に関しても位相変調器の周波数特性や媒体の特性により、再生した際に意図通りのタイミングで位相が変化するような信号が得られるとは限らない。これは、現行の光ディスクと類似した事情である。
【0061】
光ディスクでは、ドライブ間の互換性を確保することが特に重要である。そこで、記録した後に再生を行い、記録状態を評価する必要がある。従来の光ディスクでは、この評価は専らエラーレートとジッターで行っていた。従来の光ディスクはバイナリ記録であるから再生信号の0レベルの定義が容易であり、再生信号がこの0レベルをクロスする時刻の揺らぎであるジッターを定義することもまた容易であった。そして、ジッターとランダムエラーの発生頻度の相関があるので評価指標とすることは合理的であった。そして、エッジシフトを小さくすることによりジッターを小さくすることができるので、記録状態の評価指標として用いることが可能であった。
【0062】
それに対し、位相記録ではジッターのような時間軸(横軸)方向の評価に加えて位相(縦軸)の評価が必要である。その理由の一例について図7A及び図7Bを用いて説明する。図7Aは、従来のバイナリ記録でアシンメトリがある再生波形(実線)とアシンメトリが無い再生波形(破線)のエッジ近傍の模式図である。図7Aから推察できるように、アシンメトリの有無に関わらず、エッジ、即ち0レベルを交差する点の近傍における波形の傾きが同じであれば、雑音によるエッジの揺らぎも同等である。即ち、どちらの場合もジッターはほぼ同じである。実際、アシンメトリが極端に大きくなければ、どちらの波形であっても得られるエラーレートに大差は無い。また、どちらの場合でもエッジシフトの影響も同等であることが理解できる。つまり、再生信号の縦軸(信号振幅)の絶対値は重要でないことがわかる。
【0063】
位相記録のような多値記録再生の場合、再生信号の縦軸の絶対値も横軸(時間)と同等の重要度を持つ。その一例について図7Bを用いて説明する。図7Bの縦軸は位相としているが、以下のことは縦軸に他の物理量を取った系にもあてはまる。図7Bで破線は、ほぼ正しく位相が記録されたものを再生した波形である。一方、図7Bで実線は、部分的に位相が正しく記録されていない(時刻6〜9)ものを再生した波形である。この範囲では、本来、位相は270度が記録されるべきであった。しかし、実際にはこれより少し小さい位相が記録されている。その結果、再生時には180度と誤って判別される確率が高くなっている。このように位相多値記録においては意図した通りの位相が記録される必要があることがわかる。また、時間軸方向で意図通りのタイミングで位相が変化している必要性があることは、従来の光ディスクと同様であるので詳述は省く。尚、多値記録の場合においても、観測された位相変化のタイミングと意図するタイミングからのずれをエッジシフトと呼ぶこととする。
【0064】
従って、十分に高い互換性を確保するためには、記録後に意図通りの位相値に意図通りのタイミングで変化していることを確認する手段が必要である。以下に、その例を説明する。
【0065】
図1において、ホモダイン検出系の出力X及びYは、それぞれAD(analog to digital)変換器201a,201bでデジタル信号に変換される。偏角算出回路202は、これらの値からX−Y平面上における点(X,Y)に対応する偏角を算出する。偏角算出回路202は、逆正接関数を級数展開したものを回路化したものである。求められた偏角は、適応等化器203によって等化された後にPRML復号器205に入力され、PRML法で復号される。このPRML復号器のPR(partial response)クラスは、PR(1,2,1)MLである。つまり、拘束長は3である。また、このPRML復号器は、8値の位相変調符号の復調に対応している。よって、内部状態数は64である。
【0066】
適応等化器203は、タップ数15のFIR(finite impulse response)型の等化器で、そのタップ係数はLMS(least mean square)法を用いて決定される。PRML復号器の復号結果は、適応等化器係数制御器204に供給される。適応等化器係数制御器204は、この復号結果を用いてPR(1,2,1)MLに対応したターゲット波形を合成する。適応等化器係数制御器204には、適応等化器の出力も供給される。適応等化器係数制御器204は、PRML復号で生じた遅延を考慮した上でターゲット波形と適応等化器出力を比較して等化誤差を求める。そして、LMS法に基づき、適応等化器203のタップ係数を更新する。LMS法は、当業者の間では広く知られているのでこれ以上の詳述はしない。
【0067】
パターン検出器206は、PRML復号器の復号結果から予め指定されたパターンを探し出す。検索すべきパターンは、識別番号を付与してパターン検出器に記憶しておくことにより同時に複数種を対象とすることができる。検索すべきパターンの詳細については後述する。パターン検出器206は、対象パターンを発見した場合、その識別番号をシフト算出器208または位相算出器209に出力する。尚、シフトを算出する場合に対象とするパターンと、位相を算出する場合に対象とするパターンとは一般的に異なるので、パターン検出器はこれらも判別して対応する先へ出力する。
【0068】
位相算出器209には遅延器207を経由して適応等化器203の出力が供給される。位相算出器209が受け取るパターン検出器206からの対象パターン検出通知のタイミングと当該パターンに対応する適応等化器出力データ列が一致するように遅延器207は、PRML復号及びパターン検出における遅延を調整する。
【0069】
次に、位相算出の詳細について説明する。図8に示した再生波形とターゲット波形の一例を用いて、使用すべき検出パターンについて説明する。図8で横軸は時刻をチャネルクロック単位で示している。縦軸は位相で、45度単位で0度から360度までを表している。横軸の時刻表示の下に、記録した位相の値をやはり45度単位で示してあり、それに対応するPR(1,2,1)MLのターゲット波形を破線で示す。実線が再生波形である。
【0070】
符号間干渉があるので、任意のパターンにおいて位相が正しく記録されているのかを判断するのは容易でない。また、位相変化の速いパターンは、再生時の光学系の収差やフォーカスエラーの影響を受け易い。つまり、位相変化の遅いパターンを用いるのが合理的である。また、復号器のPRクラス(PR(1,2,1)ML)の拘束長は3であるから、同じ位相値が3クロック以上連続する場合、ターゲット波形はフルレスポンスを示す。よって、再生波形もほぼフルレスポンスをすることが期待できる。そこで、ターゲット波形がフルレスポンスを示す時刻に対応する再生波形の値を取得すれば良いことになる。そこで、ここでは、検出対象パターンとして同一位相値が3クロック以上連続するものとした。
【0071】
図9は、位相算出の詳細を説明するものである。検出対象パターンテーブル223には、先に述べたように検出対象とするパターンを記憶している。また、上で述べたように同一位相値が3クロック以上連続するパターンを検出対象とするので、検出対象パターンテーブルには、‘000’,‘111’などのように同じ値が3つ連続した値が0から7までの8種類格納されている。尚、局面によっては‘012’や‘765’のようなパターンを用いることができる可能性もあるので、位相算出器209の内部構成は図9に示すようなものになっている。
【0072】
PRML復号器205の復号結果は、復号パターンレジスタ220に入力される。復号パターンレジスタ220は、長さ3のシフトレジスタで、ここに保持されている3クロック分の値をパターン比較器221で検出対象パターンテーブル223の値と比較する。パターン比較器221は、検出対象パターンを発見すると、当該パターンの識別番号を位相算出器209に通知する。位相算出器209内では、この識別番号はセレクタ224に入力される。セレクタは、識別番号に対応して複数用意されていて、それぞれには識別番号がセットされている。識別番号が通知され、その値が予めセットされている値に該当した場合、当該セレクタは、セレクタ毎に設けられているカウンタ225に対してパルスを出力し、当該カウンタの値を1増加させる。同時に、同じくセレクタ毎に設けられている積算器226に、レジスタ222に保持されている位相値を送出する。積算器226は、レジスタから値を受け取ると、それを自身の現在値に加算する。カウンタ225の値と積算器226の値から目的とする位相の平均値を求めることができる。
【0073】
図1に示した再生復号系では、X及びYから位相(偏角)を求めて、その値に対して適応等化器を用いた線形等化を行っている。このような構成だけでは、再生信号の位相を正しく求められない場合があり得る。例えば、記録時に位相変調の駆動電圧に異常があり、指令値に対して比例して目的の値より小さな位相でしか変調できなかった場合である。この場合、再生された位相波形も全体として縮小した波形となる。このような波形に対して、適応等化を適用すると、等化器は周波数フィルタとして作用すると同時に倍率器としても作用し、縮小した波形の倍率をほぼ適正な値に伸長してしまう。その結果、記録時の異常を検出できない。
【0074】
このような現象を防ぐためには、適応等化前の波形を用いて位相を計測することが考えられる。ただし、この場合は周波数特性が補正されていないので再生時の光スポットに歪の影響を受ける可能性がある。そこで、図10に示した例では、図1の構成に加えて切替器210を設けて、必要に応じて等化前または等化後の波形を選択できるようにしている。つまり、等化前の波形を用いて位相の最小と最大値を計測して、上で述べたような異常の有無を確認することができる。その際、PRML復号器の拘束長よりも長い期間同じ値が連続するパターンを選ぶことにより、周波数特性の影響を少なくすることができる。
【0075】
エッジシフトに関しては、特許文献4に記載の技術と同様の手法を用いて検出可能である。よって、ここでは簡単に述べるのに留める。特許文献4によれば、評価対象の再生エッジ波形(Wとする)に対して適切なパターンの組み合わせ(T,L,R)を選択することにより、以下の式を用いてエッジシフト相当量である拡張エッジシフトDを求めることができる。ここで、W,T,R,L間のユークリッド距離をED(L,W)、ED(T,L)のように表す。
【0076】
【数10】

【0077】
特許文献4は、バイナリ記録を前提に説明がなされているが、実際には多値記録でもこの定式を適用することが可能である。これは、式(16)及び式(17)の第2項がユークリッド距離で規格化されていることによる。一例として、位相が0(0度)から4に遷移する場合について、図11を用いて説明する。図11は、Wが得られた再生波形をチャネルクロックでサンプリングしたものである。エッジは、時刻12と13の間にあるが、時刻のプラス側に12%ずれた位置にある。このため、ターゲット波形Tとは少しずれている。R及びLは、それぞれTを1時刻プラス及びマイナスにシフトさせたエッジである。これらを用いて式(16)〜(18)を用いて拡張エッジシフトを求めると0.11が求まり、与えられたエッジシフトにほぼ相当する量が得られている。
【0078】
上記で求めた位相及びエッジシフトの値は、互換性の保証に用いるのに留まらないのは従来の光ディスクシステムと同様である。即ち、試し書きを含め、記録過程へフィードバックさせることにより記録品質の向上を図ることができる。図12に、そのための仕組みの一例を示す。また、図13にその手順の一例を示す。
【0079】
図12は、上記で求めた位相及びエッジシフトの値を如何に使用するかを説明するための図で、主にデータの流れを説明している。このため、光学系や各種機構系は極力省略されている。よって、説明も専らデータの流れについて述べる。記録時には、位相変調器244は、ユーザデータに応じて光源である半導体レーザ101を発したレーザ光の位相を変調する。その際、位相変調器244は、指令値であるユーザデータで単純に変調するのではなく、補償テーブル243に格納された情報に基づき位相変調量及びそのタイミングを調整している。変調された光を用いて光学系240を通して記録される。
【0080】
補償テーブルの内容は、先に説明したように求めた位相及びエッジシフトを元に決定される。即ち、記録された位相情報は、光学系240を通して光学的に読み出され、ホモダイン検出系241で電気的な位相信号として取り出される。取り出された位相情報は、位相エッジシフト検出系242(図1に相当)でターゲット波形と照合され、位相及びエッジシフトが抽出される。
【0081】
記録調整は、例えば図13に示したように行われる。最初にディスクに記録する際には、ステップ100にあるように、予め指定された記録パラメータ(位相及びエッジの補償値)を用いて記録を行う。尚、記録パワーやその他の調整は完了しているものとする。この記録結果から、ステップ101において、先に述べた手段及び方法を用いて位相値及びエッジシフトを求める。次に、得られたこれらの値を調べ、規定の範囲内に収まっているか否かを判断する(ステップ102)。ここで、規定の範囲内に収まっていれば、記録パラメータの調整は不要であるから記録調整を終了する。既定の範囲内に収まっていないパラメータがある場合には、ステップ103に進んで、補償テーブルの当該パラメータに対応する箇所の値を修正し、修正した値を用いて再度記録を行い、ステップ101へと戻る。これをステップ102にある条件を満たすまで繰り返す。
【0082】
多値データを位相変調信号として記録する場合、ユーザデータを畳み込み符号化してから記録することにより復号時のエラーレートを下げることができる。従来、このようなシステムでは、復号時に符号間干渉と畳み込み符号を同時に解決する復号方法を用いるのが一般的であった。しかし、今の場合、このような手法で復号器を構成しようとすると、復号器の内部状態数が膨大なものになる。例えば、図15に示した拘束長7の符号化器を用いた場合、符号化及び復号に必要な状態数は27-1=64である。また、符号間干渉の解決に必要なPRML復号の拘束長を3とすると、これに必要な状態数も64である。出現する状態の数は、両者の組み合わせになるのでラン長制限が無いとすると、642=4096となる。これだけの内部状態を扱うヴィタビ復号器の回路規模は莫大なものとなり実現性に乏しい。
【0083】
この問題を解決するために、符号間干渉の解決と畳み込み符号の復号をそれぞれ異なる復号器で行うこととした。これにより、内部状態数64のヴィタビ復号器を2つ使用するだけで十分な復号性能を確保できる。両者を合わせた回路規模は、符号間干渉と畳み込み符号を同時に解決する復号器の約1/170に過ぎない。図14に記録及び再生過程のデータ処理の流れを示す。まず、ユーザデータを畳み込み符号化器250で畳み込み符号化する。畳み込み符号化器の構成を図15に示す。b0,b1がユーザデータビットで、c0,c1,c2が符号化データである。6段の1時刻遅延器260からなる長さ7のシフトレジスタが構成されている。c1は、b0及びb0を2,3,5,6の各時刻遅延させたものを2進加算器261で加算したものである。また、c0は、b0及びb0を1,2,3,6の各時刻遅延させたものを2進加算器261で加算したものである。また、b1は符号化せずにそのままc2とした。
【0084】
畳み込み符号化の後に、符号化率を調整するためにパンクチュア器251で一部のビットを規則的に抜き取る。次に、インターリーバ252でインターリーブを掛けてから光ヘッド253を経由して光ディスク1に記録する。再生時には、光ヘッド253を通してホモダイン検出により再生した位相情報をPRML復号器205で復号する。この復号結果は、インターリーブが掛かっているので、デインターリーバ255を用いて元の配列に戻す。デインターリーバ255の出力は、ヴィタビ復号器256に供給され、畳み込み符号を復号する。PRML復号器205の出力には、当然、エラーが含まれていることがある。しかし、ユーザデータは畳み込み符号化してあるのでヴィタビ復号する過程でその多くが訂正される。
【0085】
図16に、畳み込み符号化とヴィタビ復号の効果を表すグラフを示す。これは、図15に示した符号化器を用いて符号化したデータが、シンボル間隔280nmで記録された位相情報を復号した場合の計算結果である。横軸は、位相波形に対する雑音振幅を表し、縦軸はシンボルエラーレートを表す。尚、ここで云うシンボルとは、符号化前ではユーザデータの2ビットの組み(b0,b1)を指し、符号化後は符号化後の3ビットの組み(c0,c1,c2)を指す。また、この時、パンクチュアは行っていない。グラフ中、破線で示した曲線は、PRML復号器出力におけるシンボルエラーレートで、実線がヴィタビ復号器出力におけるシンボルエラーレートである。グラフから、畳み込み符号化により最大約2.8dBのゲインがあることが解る。ただし、パンクチュアは行っていないのでパンクチュアレートによってはこの値は減る。
【0086】
尚、インターリーブの後にラン長を制限する変調を行い、PRML復号後にこれに対応する復調を行うことも可能である。これにより、線記録密度を更に高めることが可能な場合がある。
【0087】
図17は、図14の復号系の詳細を示したものである。図1の構成にデインターリーバ255とヴィタビ復号器256を追加することで構成できる。よって、復号器の回路規模だけでなく適応等化を容易に実現できる点においても有利である。それに対し、符号間干渉と畳み込み符号を同時に解決する復号器では、復号器内部には適応等化器の目標波形を構成するのに必要な情報が陽には存在しないので適応等化の実現は容易でない。
【0088】
図18は、光ディスク装置の構成の一例を示したものである。光ディスク1は、スピンドルモータ52によって回転される。光ヘッド253は、記録再生に用いる光源、対物レンズをはじめとする光学系などで構成されている。本発明に基づく装置であるので、再生光学系にホモダイン検出方式を用いている。ピックアップは、スライダ53によりシークを行う。シーク及びスピンドルモータの回転などはメイン回路54からの指示によって行う。メイン回路54には、信号処理回路やフィードバック調節計などの専用回路及びマイクロプロセッサ、メモリなどが搭載されている。光ディスク装置全体の動作を制御するのはファームウェア55である。ファームウェア55は、メイン回路54中のメモリに格納されている。
【0089】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0090】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部や全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリやハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【符号の説明】
【0091】
1:光ディスク、10:位相変調器、52:スピンドルモータ、53:スライダ、54メイン回路、55:ファームウェア、101:半導体レーザ、102:コリメートレンズ、103:λ/2板、104:偏光ビームスプリッタ、106:λ/4板、107:2次元アクチュエータ、108:対物レンズ、113:集光レンズ、116:ミラー、118:無偏光ハーフビームスプリッタ、119:λ/2板、120:偏光ビームスプリッタ、121,122:検出器、123:λ/4板、124:偏光ビームスプリッタ、125,126:検出器、201:AD変換器、202:偏角算出回路、203:適応等化器、204:適応等化器係数制御器、205:PRML復号器、206:パターン検出器、207:遅延器、208:シフト算出器、209:位相算出器、210:切替器、220:復号パターンレジスタ、221:パターン比較器、222:レジスタ、223:検出対象パターンテーブル、224:セレクタ、225:カウンタ、226:積算器、240:光学系、241:ホモダイン検出系、242:位相エッジシフト検出系、243:補償テーブル、244:位相変調器、250:畳み込み符号化器、251:パンクチュア器、252:インターリーバ、253:光ヘッド、255:デインターリーバ、256:ヴィタビ復号器、260:1時刻遅延器、261:2進加算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に記録されているデジタル情報を光の位相信号として光学的に読み出す工程と、
前記読み出した位相信号から予め指定されたデジタルパターンに対応する位相の値を抽出する工程と、
を有することを特徴とする信号評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載の信号評価方法において、
前記位相信号として無等化信号を用いることを特徴とする信号評価方法。
【請求項3】
請求項1に記載の信号評価方法において、
前記位相信号として等化処理した信号を用いることを特徴とする信号評価方法。
【請求項4】
請求項1に記載の信号評価方法において、
前記位相の値に加えて、予め指定されたデジタルパターンに対応したターゲット波形との時間軸方向の変位を抽出することを特徴とする信号評価方法。
【請求項5】
請求項1に記載の信号評価方法において、
前記読み出した位相信号から予め指定されたデジタルパターンに対応する位相の値を抽出する工程は、前記読み出した位相信号をPRML復号器によって復号する工程と、復号結果から前記予め指定されたデジタルパターンを探索する工程とを含み、
前記デジタルパターンの長さが前記PRML復号器に適用されているPRクラスの拘束長以上であることを特徴とする信号評価方法。
【請求項6】
記録媒体にデジタル情報を光の位相として光学的に読み出せるように記録する情報記録方法において、
記録媒体に記録されたデジタル情報を光の位相信号として光学的に読み出す工程と、
前記読み出した位相信号から予め指定されたデジタルパターンに対応する位相の値を抽出する工程と、
前記抽出された位相の値が予め指定された値に概略一致するように記録条件を変更する工程と、
を有することを特徴とする情報記録方法。
【請求項7】
記録媒体にデジタル情報を光の位相として光学的に読み出せるように記録する情報記録方法において、
記録媒体に記録されたデジタル情報を光の位相信号として光学的に読み出す工程と、
前記読み出した位相信号から予め指定されたデジタルパターンに対応する位相の値及び予め指定されたデジタルパターンに対応するターゲット波形との時間軸方向の変位を抽出する工程と、
前記抽出された時間軸方向の変位が予め指定された値に概略一致するように記録条件を変更する工程と、
を有することを特徴とする情報記録方法。
【請求項8】
記録媒体にデジタル情報を光の位相として光学的に読み出し可能なように記録し、再生する情報記録再生方法において、
ユーザデータを畳み込み符号化する工程と、
前記畳み込み符号化したデジタル情報をインターリーブする工程と、
前記インターリーブ後の情報に基づき、光源から発せられたレーザ光の位相を変調し、位相情報を前記記録媒体に記録する工程と、
前記記録媒体に記録された位相情報を光学的に読み出す工程と、
前記光学的に読み出した位相情報をPRML法でデジタル情報に復号する工程と、
前記復号で得られたデジタル情報をデインターリーブする工程と、
前記デインターリーブされたデジタル情報をヴィタビ復号してユーザデータを得る工程と、
を有することを特徴とする情報記録再生方法。
【請求項9】
記録媒体に記録されたデジタル情報を位相信号として再生する再生部と、
前記位相信号を復号する復号器と、
前記復号器による復号結果から予め指定されたデジタルパターンを検出するパターン検出器と、
前記パターン検出器によって前記予め指定されたデジタルパターンが検出されたときの位相信号の統計平均を算出する算出手段と、
を有することを特徴とする再生信号評価装置。
【請求項10】
請求項9に記載の再生信号評価装置において、
前記位相信号を等化する等化器を備え、
前記復号器は前記等化器によって等化された位相信号を復号し、前記算出手段は前記等化器によって等化された位相信号に対して統計平均を算出することを特徴とする再生信号評価装置。
【請求項11】
請求項9に記載の再生信号評価装置において、
前記再生部はホモダイン検出系を備えることを特徴とする再生信号評価装置。
【請求項12】
請求項9に記載の再生信号評価装置において、
前記復号器はPRML復号器であり、
前記予め指定されたデジタルパターンは、当該PRML復号器に適用されているPRクラスの拘束長以上の長さを有することを特徴とする再生信号評価装置。
【請求項13】
請求項9に記載の再生信号評価装置において、
前記デジタルパターンは、それぞれ異なる位相値に対応させて複数用意されていることを特徴とする再生信号評価装置。
【請求項14】
記録媒体にデジタル情報を光の位相として光学的に読み出し可能なように記録し、再生する情報記録再生装置であって、
ユーザデータを畳み込み符号化する手段と、
前記畳み込み符号化したデジタル情報をインターリーブする手段と、
前記インターリーブ後の情報に基づき、光源から発せられたレーザ光の位相を変調し、位相情報を前記記録媒体に記録する手段と、
前記記録媒体に記録された位相情報を光学的に読み出すホモダイン検出系と、
前記光学的に読み出した位相情報をPRML法でデジタル情報に復号する手段と、
前記復号で得られたデジタル情報をデインターリーブする手段と、
前記デインターリーブされたデジタル情報をヴィタビ復号してユーザデータを得る手段と、
を有することを特徴とする情報記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−174324(P2012−174324A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37574(P2011−37574)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(509189444)日立コンシューマエレクトロニクス株式会社 (998)
【Fターム(参考)】