説明

冷凍サイクル装置の制御装置

【課題】高圧側領域の冷媒流量を検出する流量センサを備え、その冷媒流量の検出値に基づいてコンプレッサのトルクを推定する冷凍サイクル装置の制御装置において、前記流量センサの故障を正確に検出できるようにする。
【解決手段】流量センサ7にて検出される冷媒流量から推定する第1推定トルクと、冷媒流量を使用しない方法で推定する第2推定トルクとのずれを検出し、その推定トルクずれの検出結果に基づいて流量センサ7の故障の有無を判定する。このような判定処理を採用することにより、流量センサ7の電気的な断線・ショート等の故障に加えて、センシング部の固着や応答遅れなどに関する故障も検出することが可能になり、流量センサ7の故障をより正確に検出することができる。これによって、コンプレッサ2のトルク推定精度を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両空調装置に適用される冷凍サイクル装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両空調装置用の冷凍サイクル装置は、冷媒を圧縮するコンプレッサ(圧縮機)と、コンデンサ(凝縮器)と、レシーバ(気液分離器)と、膨張弁(減圧機構)と、エバポレータ(蒸発器)とを備えている。コンプレッサ、コンデンサ、レシーバ、膨張弁、及びエバポレータは、冷媒配管により環状に接続されており、コンプレッサにより吐出された冷媒は、コンデンサ→レシーバ→膨張弁→エバポレータの順に流れ、コンプレッサに吸入される。
【0003】
このような冷凍サイクル装置において、車両に搭載されたエンジン(内燃機関)によってコンプレッサを駆動する場合、コンプレッサはエンジンの負荷となっており、エンジンはコンプレッサを駆動するための余分なエネルギを必要とする。このため、車両の燃料消費低減の観点から、エンジンの出力は、その負荷であるコンプレッサの運転状態に応じて制御する必要がある。つまり、コンプレッサのトルクを考慮し、そのトルクを余分に発生するように、エンジンの出力が制御される。例えば、アイドリング時に、コンプレッサのトルク分(アイドルアップ量)だけ上乗せするようなエンジンの出力制御が行われる。従って、エンジンによってコンプレッサを駆動する場合には、コンプレッサのトルクを正確に推定することが重要となる。
【0004】
従来では、コンプレッサのトルクは、例えば、冷媒流量とコンプレッサの吐出圧及び吸入圧とに基づいて推定している(例えば、特許文献1参照)。また、従来では、冷凍サイクル装置の高圧側領域(コンプレッサの吐出口から膨張弁の入口までの間)に流量制御弁を設け、この流量制御弁の指示値(電流値)により決定される冷媒流量(指示流量)に基づいてコンプレッサのトルクを推定している。
【0005】
しかし、このような流量制御弁の指示値による指示流量に基づいてコンプレッサのトルクを推定する方法では、例えば、コンプレッサの吸入圧がエバポレータの温度の変化などによって変動した場合や、指示値が変化した場合などの過渡時には、指示流量と実際の冷媒流量との間にずれが生じる可能性があり、正確なトルク推定を行うことができないという問題がある。また、流量制御弁の特性変化などによっても、指示流量と実際の冷媒流量との間にずれが生じる可能性があり、同様の問題が懸念される。
【0006】
このような点を解消することを目的として、本発明者らは、冷凍サイクル装置の高圧側領域に実際に流れる冷媒の流量を流量センサで検出し、その冷媒流量の検出値に基づいてコンプレッサのトルクを推定する技術を提案している。この提案技術によれば、冷媒流量を正確に検出することができるので、トルク推定を精度よく行うことができる。
【特許文献1】特開2004−175290号公報
【特許文献2】特開2006−272982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述した提案技術つまり流量センサにて検出した冷媒流量に基づいてコンプレッサのトルクを推定する技術では、トルクを正確に推定できるものの、流量センサの故障による影響が懸念される。
【0008】
流量センサの故障のうち、電気的な断線・ショート等の故障は検出回路によって検出することは可能であるが、センシング部の固着(例えば図2(b)に示す異物の噛み込みによる測定子721の固着)や応答遅れ・ゲインずれに関しては検出することができない。そして、このような流量センサの故障、特に固着による故障が生じた場合、推定トルクが小さい値または大きい値となる可能性があり、そのままの推定トルクを用いると、例えばアイドル発生トルク指示が小さい値または大きい値となってしまう。こうした状況になると、エンジン回転数の落ち込みや吹け上がりが発生するため、エンジンストール(以下、エンストという)やドライバビリティ不良(例えば、エンスト発生直前の振動やオーバーランなど)が発生する可能性がある。また、トランスミッション協調制御が正しく働かない可能性があり、例えば、車両にベルト式CVT(CVT:Continuously Variable Transmission)が搭載されている場合、ベルト挟圧制御不良が発生して、ベルト滑りが生じる可能性がある。
【0009】
本発明はそのような実情を考慮してなされたもので、圧縮機、凝縮器、減圧機構及び蒸発器を備え、当該冷凍サイクル装置の高圧側領域の冷媒流量を流量センサで検出し、その冷媒流量に基づいて圧縮機のトルクを推定する冷凍サイクル装置の制御装置において、前記流量センサの故障を正確に検出することが可能な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、圧縮機と、凝縮器と、減圧機構と、蒸発器とを備え、車両用空調装置に適用される冷凍サイクル装置の制御装置を前提とし、このような冷凍サイクル装置の制御装置において、前記冷凍サイクル装置の高圧側領域の冷媒流量を検出する流量センサと、前記流量センサにて検出される冷媒流量に基づいて前記圧縮機のトルクを推定する第1トルク推定手段と、前記流量センサにて検出される冷媒流量を用いずに前記圧縮機のトルクを推定する第2トルク推定手段と、前記第1トルク推定手段にて推定される第1推定トルクと前記第2トルク推定手段にて推定される第2推定トルクとのずれを検出し、その推定トルクのずれの検出結果に基づいて前記流量センサの故障の有無を判定する故障判定手段とを備えていることを特徴としている。
【0011】
このように流量センサにて検出される冷媒流量から推定する第1推定トルクと、冷媒流量を使用しない方法で推定する第2推定トルクとのずれを検出し、その推定トルクのずれが大きい場合は、流量センサの故障と判定することができる。つまり、流量センサのセンシング部の固着等による故障が発生した場合は、推定トルクのずれが大きくなるので、流量センサの故障と判定することができる。従って、本発明では、流量センサの電気的な断線・ショート等の故障に加えて、センシング部の固着や応答遅れなどに関する故障も検出することが可能になり、流量センサの故障をより正確に検出することができる。これによって圧縮機のトルク推定精度を高めることができる。
【0012】
本発明の具体的な構成として、前記第1トルク推定手段にて推定される第1推定トルクと前記第2トルク推定手段にて推定される第2推定トルクとの差(推定トルク差)が所定の判定閾値以上となる状態が継続される時間を計測し、その推定トルクずれ継続時間が所定の判定閾値以上になったときに推定トルクがずれていると判定するという構成を挙げることができる。この構成において、流量センサが故障している場合は、上記したように第1推定トルクが小さい値または大きい値となり、推定トルク差が大きくなるという点を考慮して判定閾値を設定すれば、推定トルク差が判定閾値以上である場合は、流量センサの故障が原因であると特定することができる。
【0013】
本発明の具体的な構成として、推定トルクずれ継続時間が前記判定閾値以上になったときに可変容量型の圧縮機の容量可変制御を禁止し、その容量可変制御禁止から一定時間が経過した時点で、前記推定トルクのずれ検出を再度実行するという構成を挙げることができる。さらに、推定トルクずれを検出した回数をカウントし、その推定トルクずれ検出回数が規定回数以上であるときに流量センサが故障していると判定するという構成を挙げることができる。
【0014】
このような構成によれば、上記した第1推定トルクと第2推定トルクとの推定トルクずれが大きいときに、直ぐに流量センサが故障していると判定するのではなく、圧縮機の容量可変制御を禁止し、この禁止後の一定の期間(一定時間)において流量センサの故障が解消(例えば固着等の解消)されるどうかを判断することが可能であるので、故障仮検出中に、例えば流量センサに噛み込んだ異物が取れて流量センサが正常に戻った場合には、その時点で(もしくは正常に戻った後に)、流量センサが正常であるという判定処理を行うことが可能となり、流量センサの状態に即した正確な故障判定を行うことができる。
【0015】
本発明において、車両用空調装置(以下、エアコンともいう)が安定している状態のとき、具体的には、例えば(1)冷凍サイクル装置の液だまり状態が解消している、(2)エアコンがONである、(3)車載バッテリ(図示せず)の電圧が十分である、(3)エンジン回転数Neがトルク推定精度が十分である範囲内である、という条件が成立したときに、前記推定トルクずれ継続時間を計測することが好ましい。
【0016】
本発明において、流量センサの具体的な例として、冷凍サイクル装置の高圧側領域に設けられた絞り(オリフィス)と、この絞りの前後の差圧を検出する差圧検出手段とを備えた構成の流量センサを挙げることができる。なお、上記絞りは、圧縮機と凝縮器との間に設けられていることが好ましい。
【0017】
この構成の流量センサによれば、冷媒流量が変化すると、その変化が絞りの前後の差圧の変化として検出される。そして、差圧検出手段により直接検出された絞りの前後の差圧に基づいて冷媒流量を検出するため、冷媒流量の変動分を冷媒流量の検出結果に速やかに反映させることができる。これにより、冷媒流量が急激に変動したとしても、その冷媒流量を正確に検出することができる。そして、このようにして検出された冷媒流量を圧縮機のトルクの推定に用いることによって、圧縮機の起動時、圧縮機の吸入圧の変動時、過渡時などにおいても、圧縮機のトルクを正確に推定することができる。
【0018】
本発明において、前記第2トルク推定手段の具体的な構成として、冷凍サイクル装置の高圧側領域の冷媒圧力及び可変容量型の圧縮機の容量制御弁の制御電流値に基づいて圧縮機のトルクを推定するという構成を挙げることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、流量センサにて検出される冷媒流量から推定する推定トルク(圧縮機の推定トルク)と、冷媒流量を使用しない方法で推定する推定トルクとのずれを検出し、その推定トルクずれの検出結果に基づいて流量センサの故障の有無を判定するので、流量センサの電気的な断線・ショート等の故障に加えて、センシング部の固着や応答遅れなどに関する故障も検出することが可能になり、流量センサの故障をより正確に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1は本発明を適用する冷凍サイクル装置の概略構成を示す図である。図2は流量センサの構造を模式的に示す図である。
【0022】
この例の冷凍サイクル装置1は、車両空調装置(以下、エアコンともいう)に適用されるものであって、冷媒を圧縮する可変容量型コンプレッサ2(以下、コンプレッサ2という)と、コンデンサ3と、レシーバ4と、膨張弁5と、エバポレータ6とを備えている。
【0023】
この例の冷凍サイクル装置1において、コンプレッサ2、コンデンサ3、レシーバ4、膨張弁5、及び、エバポレータ6は、冷媒配管により環状に接続されており、コンプレッサ2により吐出された冷媒は、コンデンサ3→レシーバ4→膨張弁5→エバポレータ6の順に流れ、コンプレッサ2に吸入される。また、コンプレッサ2とコンデンサ3との間には、冷媒流量を検出する流量センサ7が設けられている。この流量センサ7の詳細については後述する。
【0024】
コンプレッサ2は、車両に搭載されたエンジン11によって駆動される。コンプレッサ2は動力断続用の電磁クラッチ21を備えており、エンジン11の動力がVベルト及び電磁クラッチ21を介してコンプレッサ2に伝達される。電磁クラッチ21への通電のON/OFFはECU(Electronic Control Unit)8によって切り替えられ、電磁クラッチ21の通電がONされて電磁クラッチ21が接続状態になると、コンプレッサ2は運転状態となる。一方、電磁クラッチ21の通電がOFFされて電磁クラッチ21が開離状態になると、コンプレッサ2は停止する。電磁クラッチ21への通電のON/OFFは、例えばエアコンスイッチ9の乗員によるON/OFF操作に連動して行われる。エアコンスイッチ9は、例えば車室内の前部に配置される操作パネルに設けられており、このエアコンスイッチ9がECU8に接続されている。また、エンジン11には、その回転数Neを検出するエンジン回転数センサ12が設けられており、このエンジン回転数センサ12はECU8に接続されている。
【0025】
また、コンプレッサ2は、ECU8からの指令によって吐出容量が可変制御されるように構成されており、吐出容量をほぼ0〜100%の範囲で連続的に変化させることが可能となっている。具体的には、コンプレッサ2は容量制御弁(電磁式)22を備えており、その容量制御弁22に供給される制御電流をECU8が制御することによって、コンプレッサ2の吐出容量が制御される。例えば、容量制御弁22に供給される制御電流値に比例して、その制御電流値が小さくなるほどコンプレッサ2の吐出容量が小さくなり、また、容量制御弁22への制御電流値が大きくなるほどコンプレッサ2の吐出容量が大きくなるように制御される。コンプレッサ2から吐出された高温・高圧のガス冷媒は、流量センサ7のオリフィス71を経てコンデンサ3に導入される。
【0026】
流量センサ7は、図2に示すように、冷媒が流通するメイン通路73、このメイン通路73に設けられたオリフィス(固定絞り)71、オリフィス71をバイパスするようにメイン通路73に並列に接続された検出用通路74、及び、検出用通路74に設けられた差圧センサ72などを備えている。
【0027】
差圧センサ72は、検出用通路74の内部に、冷媒流れ方向に沿って変位自在に収容された測定子721と、この測定子721を保持するコイルばね723、724と、測定子721の変位を検出する変位センサ(例えばホール素子)722とを備えており、測定子721の上流側に作用する冷媒圧力と下流側に作用する冷媒圧力との差圧(前後差圧ΔP)を測定子721の変位によって検出し、その変位検出量(変位センサ722の検出信号)を前後差圧ΔPとして出力するように構成されている。
【0028】
そして、このような流量センサ7においては、メイン通路73の通路面積がオリフィス71によって絞られるので、このオリフィス71を冷媒が通過することで、オリフィス71の前後に冷媒流量に応じた差圧が発生する。このようにして発生したオリフィス71の前後の差圧ΔPを差圧センサ72によって検出するようにしている。差圧センサ72の検出信号はECU8に入力される。
【0029】
コンデンサ3に導入されたガス冷媒は、冷却用ファン(図示略)により送風される外気と熱交換して放熱され、凝縮する。コンデンサ3により凝縮された高温・高圧の冷媒は、レシーバ4に導入される。コンデンサ3の出口直後には高圧圧力センサ31が設けられており、この高圧圧力センサ31により、コンデンサ3の出口から流出される冷媒の圧力(高圧圧力Ph)を検出するようにしている。高圧圧力センサ31は、ECU8に接続されており、この高圧圧力センサ31によって検出された高圧圧力PhがECU8に入力される。なお、高圧圧力センサ31をコンデンサ3の内部に設ける構成としてもよい。
【0030】
レシーバ4に導入された冷媒は、液相と気相とに分離され、液相の冷媒(液冷媒)がレシーバ4内に貯留される。このレシーバ4からの高圧の液冷媒は、膨張弁5により急激に膨張させられ、気液二相の状態となる。
【0031】
膨張弁5により減圧された低圧の冷媒は、エバポレータ6に導入される。このエバポレータ6において、低圧の冷媒は、周囲の空気(空調ケース13の空気通路を流れる送風空気)から吸熱して蒸発(気化)し、ガス冷媒となる。蒸発後のガス冷媒は、再びコンプレッサ2に吸入され、圧縮される。
【0032】
エバポレータ6は、車両用空調装置の空調ケース13内に設置されている。この空調ケース13は、内部に車室内の乗員に向けて空気が送風される空気通路を有し、この空気通路の最上流部には、内気導入口及び外気導入口を有する内外気切替箱(図示略)が設けられている。また、エバポレータ6のフィンにはフィン温度センサなどで構成される温度センサ61が設けられており、この温度センサ61により、エバポレータ6のフィン温度Tefinを検出するようにしている。温度センサ61は、ECU8に接続されており、この温度センサ61によって検出されたエバポレータ6のフィン温度TefinがECU8に入力される。
【0033】
空調ケース13の内外気切替箱内には、内外気切替ドア(図示略)が回転自在に配置されている。この内外気切替ドアは、例えばサーボモータにより駆動され、これにより、内気導入口より内気(車室内空気)を導入する内気モードと、外気導入口より外気(車室外空気)を導入する外気モードとを切り替えることが可能となっている。この内外気切替箱の下流側には、車室内に向かう空気流れを発生させるブロワ14が配置されている。このブロワ14の下流側には、上述したエバポレータ6が配置されており、エバポレータ6により空気通路内を流れる空気が冷却される。つまり、エバポレータ6は、ブロワ14による送風空気を冷却する冷房用熱交換器となっている。
【0034】
また、エバポレータ6の下流側には、このエバポレータ6によって冷却された空気を加熱するヒータコア15が配置されている。このヒータコア15は、エンジン11の冷却水などを熱源としてエバポレータ6の通過後の空気を加熱する暖房用熱交換器であり、その側方にはヒータコア15を迂回する空気が流れるバイパス通路17が形成されている。
【0035】
エバポレータ6とヒータコア15との間には、エアミックスドア16が回転自在に配置されている。このエアミックスドア16は、例えばサーボモータにより駆動され、エアミックスドア16の開度を調整することによって、ヒータコア15を通る空気量(温風量)と、バイパス通路17を通過してヒータコア15を迂回する空気量(冷風量)とを調節することが可能となっている。これにより、車室内に吹き出す空気の吹出温度が調整されるようになっている。また、空調ケース13の空気通路の最下流部には、車両の窓ガラスに向けて空調風を吹き出すデフロスタ吹出口や、乗員の上半身に向けて空調風を吹き出すフェイス吹出口、乗員の足元に向けて空調風を吹き出すフット吹出口(図示略)などが設けられている。
【0036】
上述のように構成される冷凍サイクル装置1は、制御装置であるECU8によって制御される。ECU8は、CPU、ROM、RAMなどを含むマイクロコンピュータとその周辺回路とによって構成され、そのROMに記憶されたプログラムやマップ、テーブル、演算式などにに基づいて各種演算、処理を行う電気制御部である。ECU8には、冷凍サイクル装置1の各種の制御に必要な各種センサの検出信号(検出出力)が入力される。
【0037】
そして、ECU8は冷凍サイクル装置1の制御を含むエアコンの各種制御を実行する。さらに、ECU8は、下記の[第1推定トルクの推定処理]、[第2推定トルクの推定処理]、[推定トルクずれ継続時間の計測処理]、[推定トルクずれ検出処理]、及び、[流量センサの故障判定処理]を実行する。なお、ECU8は、推定トルクずれ検出処理を実行する際に、推定トルクずれ検出回数Nをカウントするカウンタ(図示せず)を備えている。
【0038】
−第1推定トルクの推定処理−
まず、ECU8は、高圧側領域を流れる冷媒流量Rflowを、流量センサ7の差圧センサ72により検出されるオリフィス71の前後の差圧ΔPと、高圧圧力センサ31により検出される高圧圧力Phとに基づいて算出する。この冷媒流量算出処理は、マップ、テーブル、あるいは近似式(演算式)を用いて行うことが可能である。例えば、オリフィス71の前後の差圧ΔPと高圧圧力Phとをパラメータとしたマップに基づいて冷媒流量Rflowを求めることが可能である。
【0039】
ここで、冷凍サイクル装置1において実際の冷媒流量Rflowが変化すると、これに応じてオリフィス71の前後の差圧ΔPが変化する。この例では、実際の冷媒流量Rflowの変化を、オリフィス71の前後の差圧ΔPの変化として検出するようにしている。そして、差圧センサ72により直接検出されたオリフィス71の前後の差圧ΔPに基づいて冷媒流量Rflowを検出するため、実際の冷媒流量Rflowの変動分を冷媒流量Rflowの検出結果に速やかに反映させることができる。これにより、コンプレッサ2の起動時、コンプレッサ2の吸入圧の変動時、過渡時などに、実際の冷媒流量Rflowが急激に変動したとしても、その冷媒流量Rflowを正確に検出することができる。
【0040】
このような処理によって算出した冷媒流量Rfloを用いて、コンプレッサ2のトルクを推定する。具体的には、まずは、冷媒流量Rflowと、コンプレッサ2の吐出圧Pd及び吸入圧Psとに基づいてコンプレッサ2の理論動力Lthを算出する。この理論動力算出処理は、マップ、テーブル、あるいは近似式(演算式)を用いて行うことが可能である。例えば、冷媒流量Rflowとコンプレッサ2の吐出圧Pd及び吸入圧Psとをパラメータとしたマップに基づいて理論動力Lthを求めることが可能である。
【0041】
なお、コンプレッサ2の吐出圧Pd及び吸入圧Psについては、それぞれの圧力を検出する圧力センサを設け、その各センサにより直接検出された値を用いてもよいし、ECU8による推定処理によって求めた値を用いてもよい。
【0042】
コンプレッサ2の吐出圧Pdを推定処理にて求める場合、上記した処理にて算出した冷媒流量Rflowと、高圧圧力センサ31の出力信号から得られる高圧圧力Phとに基づいてマップを参照して求めることができる。吐出圧算出用マップとしては、例えば冷媒流量Rflowと高圧圧力Phとをパラメータとし、コンプレッサ2の吐出口から高圧圧力Phの検出箇所(高圧圧力センサ31の設置箇所)までに発生する圧力損失(コンデンサ3内の圧損及び配管圧損)を考慮した値、つまり、上記圧力損失を冷媒流量Rflowを基に補正した値を反映したマップを用いる。
【0043】
また、コンプレッサ2の吸入圧Psを推定処理にて求める場合、上記した冷媒流量Rflowとエバポレータ6の圧力Plとに基づいて予め作成したマップを参照して求めることができる。吸入圧算出用マップは、例えば冷媒流量Rflowとエバポレータ6の圧力Plとをパラメータとし、エバポレータ6の圧力Plの検出箇所からコンプレッサ2の吸入口までに発生する圧力損失(エバポレータ6内の圧損及び配管圧損)を考慮した値、つまり、上記圧力損失を冷媒流量Rflowを基に補正した値を反映したマップを用いる。なお、エバポレータ6の圧力Plは、温度センサ61により検出されるエバポレータ6のフィン温度Tefinを用いて推定してもよいし、エバポレータ6の圧力Plを検出するセンサを設けて、そのセンサ出力からエバポレータ6の圧力Plを求めるようにしてもよい。
【0044】
そして、以上のような処理にて算出したコンプレッサ2の理論動力Lthを用いて下記の(1)式に基づいてコンプレッサ2の第1推定トルクTrq1を算出する。
【0045】
Trq1=(Lth/ηad)×60/(2π×Nc)×1000 ・・・(1)
ここで、ηadはコンプレッサ2の効率であり、(Lth/ηad)はコンプレッサ2の実動力Lを表す。Ncはコンプレッサ2の回転数である。コンプレッサ2の回転数Ncとしては、センサ(回転数センサ)を設けて、このセンサにより直接検出された値を用いてもよいし、あるいは、エンジン11の回転数Neにプーリ比αを乗じることによって求められた値(Nc=Ne×α)を用いてもよい。
【0046】
なお、第1推定トルクTrq1は、上記した演算により算出してもよいし、予め作成したマップやテーブルを参照して算出するようにしてもよい。
【0047】
−第2推定トルクの推定処理−
この例では、以上の流量センサ7にて検出される冷媒流量Rflowを用いた第1推定トルクの推定処理に加えて、そのような冷媒流量Rflowを使用しない方法で第2推定トルクの推定処理を行う。具体的には、例えば、高圧圧力センサ31の出力信号から得られる冷媒圧力と、コンプレッサ2の容量制御弁22の制御電流値とに基づいてマップ等を参照してコンプレッサ2の第2推定トルクTrq2を算出する。なお、高圧側領域の冷媒圧力と、容量制御弁22の制御電流値とを用いてコンプレッサ2のトルクを推定する処理は、一般に知られている公知の技術であるので、ここでは、その詳細な説明は省略する。
【0048】
ここで、この例において、上記した第1推定トルクTrq1及び第2推定トルクTrq2は、下記の図3の処理のルーチンを実行する毎に推定(算出)される。
【0049】
−流量センサの故障について−
上述したように、流量センサ7の故障のうち、電気的な断線・ショート等の故障は検出回路などによって検出することは可能である。しかし、図2(b)に示すように、異物の噛み込みによる測定子721の固着や応答遅れ・ゲインずれに関しては検出することができない。そして、このような流量センサ7の故障、特に固着による故障が生じた場合、推定トルクが小さい値または大きい値となる可能性があり、そのままの推定トルクを用いると、例えばアイドル発生トルク指示が小さい値または大きい値となってしまう。こうした状況になると、エンジン回転数Neの落ち込みや吹け上がりが発生するため、エンストやドライバビリティ不良(例えばエンスト発生直前の振動やオーバーランなど)が発生する可能性がある。また、トランスミッション協調制御が正しく働かない可能性があって、例えば、車両にベルト式CVTが搭載されている場合、ベルト挟圧制御不良が発生して、ベルト滑りが生じる可能性がある。
【0050】
このような問題を解消するため、この例では、下記の[推定トルクずれ継続時間の計測処理]、[推定トルクずれ検出処理]、及び、[流量センサの故障判定処理]を実行して流量センサ7の故障の有無を判定し、流量センサ7に故障が発生している場合には、エンスト等を回避するために、エアコンをカット状態にする。その各処理について以下に説明する。
【0051】
−推定トルクずれ継続時間の計測処理−
推定トルクずれ継続時間の計測処理について、図3のフローチャートを参照して説明する。図3の制御ルーチンはECU8において所定時間(例えば数msec乃至数十msec程度)毎に繰り返して実行される。
【0052】
ステップST101では、エアコンが安定しているか否かを判定する。具体的には、例えば、(1)冷凍サイクル装置1の液だまり状態が解消している、(2)エアコンがONである、(3)車載バッテリ(図示せず)の電圧が十分である、(3)エンジン回転数Neがトルク推定精度が十分である範囲内(例えば2000rpm以下)である、という条件が成立したときにエアコンが安定していると判定してステップST102に進む。ステップST101の判定結果が否定判定である場合はリターンする。なお、このステップST101の否定判定時に、推定トルクずれ継続時間の計測値がある場合は、その継続時間を初期化(クリア)した後にリターンする(ステップST104)。
【0053】
ステップST102においては、上記した流量センサ7の出力信号から算出される冷媒流量Rflowに基づいて推定した第1推定トルクTrq1と、冷媒流量Rflowを使用しないで容量制御弁22の制御電流値などに基づいて推定した第2推定トルクTrq2との差を算出し、その推定トルク差ΔTrqが所定の判定閾値以上であるか否かを判定する。ステップST102の判定結果が肯定判定である場合は、推定トルクずれ継続時間の計測を開始する(ステップST103)。ステップST102の判定結果が否定判定である場合はリターンする。なお、このステップST102の否定判定時に、推定トルクずれ継続時間の計測値がある場合は、その継続時間を初期化した後にリターンする(ステップST104)。
【0054】
ここで、以上の図3の処理のステップST102の判定に用いる判定閾値については、流量センサ7にて検出した冷媒流量Rflowを用いて推定した第1推定トルクTrq1と、冷媒流量Rflowを使用しない方法で推定した第2推定トルクTrq2との相関(図7)を考慮し、その相関関係が大きく崩れるような値(推定トルク差)を判定閾値とする。具体的には、例えば、図7の相関図に示す推定トルク差許容範囲を、実験・計算等によって経験的に求めておき、その推定トルク差許容範囲から逸脱するような推定トルク差を考慮して判定閾値を適合する。さらに、この判定閾値ついては、流量センサ7が故障している場合は、上記したように第1推定トルクTrq1が小さい値または大きい値となり、これに起因して推定トルク差ΔTrqが大きくなるという点を考慮し、流量センサ7の故障が原因である場合のみに限って、推定トルクずれ継続時間を計測するような大きい値を判定閾値とする。そして、このような判定閾値の設定を行っておくと、第2推定トルクの推定処理つまり高圧側領域の冷媒圧力及び容量制御弁22の制御電流値を用いたトルク推定処理は比較的安定しているので、流量センサ7の故障が原因である場合に限って、推定トルク差ΔTrqが判定閾値を超えるようになる。なお、推定トルクの推定精度は、冷媒流量Rflowを用いた推定処理の方が高い。
【0055】
以上の図3の処理で計測される推定トルクずれ継続時間は、次に説明する図4のフローチャートのステップST202での判定処理に用いられる。
【0056】
−推定トルクずれ検出処理−
推定トルクずれ検出処理について図4のフローチャートを参照して説明する。図4の制御ルーチンはECU8において所定時間(例えば数msec乃至数十msec程度)毎に繰り返して実行される。
【0057】
まず、ステップST201では、推定トルクずれ検出フラグFlgがONである状態が一定時間Thb以上継続した否かを判定する。ここで、推定トルクずれ検出フラグFlgは、図6に示すように推定トルクずれ継続時間(計測時間)が判定閾値Tha以上になったときにONとなるフラグであり、ステップST201の初回判定時には、それまでに推定トルクずれの検出は実施していないので、推定トルクずれ検出フラグFlgはOFFであり、従って、このステップST201の判定結果が否定判定となって、ステップST202に進む。
【0058】
ステップST202では、上記した図3の処理のステップST103において計測を開始した推定トルクずれ継続時間が所定の判定閾値Tha(例えば10秒)以上であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合はステップST203に進む。ステップST202の判定結果が否定判定である場合はリターンする。
【0059】
ステップST203は、推定トルクずれ継続時間が判定閾値Tha以上であるときに、推定トルクずれ検出フラグFlgがOFFであるか否かを判定するステップであり、このステップST203の判定結果が否定判定である場合はリターンする。ステップST203の判定結果が肯定判定である場合は、ステップST204において推定トルクずれ検出回数Nをインクリメント(推定トルクずれ検出回数N←N+1)する。この時点で流量センサ7が故障している可能性があると仮判断(故障仮検出)して、推定トルクずれ検出フラグをONにするとともに、コンプレッサ2の容量可変制御を禁止する。
【0060】
そして、このようにして推定トルクずれ検出フラグをONにした時点から、推定トルクずれ継続時間が一定時間Thb(例えば600秒)以上経過した時点(ステップST201が肯定判定となった時点)で、推定トルクずれ検出フラグをOFFにするとともに、コンプレッサ2の容量可変制御を許可する(ステップST211)。さらにステップST212において推定トルクずれ継続時間を初期化(クリア)する。
【0061】
この後、推定トルクずれ検出フラグがOFFの状態で推定トルクずれ継続時間が判定閾値Tha以上であるときに、推定トルクずれ検出回数Nをインクリメント(推定トルクずれ検出回数N←N+1)して推定トルクずれ検出フラグをONし、そのフラグON後に一定時間Thbが経過した時点で推定トルクずれ検出フラグをOFFにして推定トルクずれ継続時間を初期化する、という処理を順次繰り返して実行する。
【0062】
−流量センサの故障判定処理−
以上の推定トルクずれ検出処理にてカウントした推定トルクずれ検出回数Nに基づいて流量センサ7の故障を判定する。具体的には、図5のフローチャートに示すように、推定トルクずれ検出回数Nが規定回数(例えば3回)以上になったか否かを判定し(ステップST301)、その判定結果が肯定判定となった時点で、流量センサ7が故障していると判定して(ステップST302)、エアコンをカット状態にする。なお、このような状況になったときには、MIL(Malfunction Indicator Lamp)点灯等により警告を出力して、エアコンの修理を運転手等に促すようにしてもよい。
【0063】
以上の処理について図6のタイミングチャートを参照して具体的に説明する。
【0064】
まず、第1推定トルクTrq1と第2推定トルクTrq2との推定トルク差ΔTrqが上記した判定閾値以上になると、その時点t1で推定トルクずれ継続時間の計測を開始する。この推定トルクずれ継続時間の計測を開始する時点t1では推定トルクずれ検出フラグはOFFに設定されている。
【0065】
次に、推定トルクずれ継続時間の計測値が判定閾値Tha(例えば10秒)に達した時点t2で、流量センサ7が故障している可能性があると判断(推定トルクずれ検出)し、推定トルクずれ検出回数Nをインクリメントし(N=1)、推定トルクずれ検出フラグFlgをONにする。また、フラグONと同時に、コンプレッサ2の容量可変制御を禁止するとともに、フラグON継続時間(推定トルクずれ検出中状態の継続時間)の計測を開始する。この後、流量センサ7の故障が解消されること、例えば、コンプレッサ2の容量可変制御の禁止により上記した流量センサ7の固着等が解消されることを期待して一定時間Thb(例えば600秒)だけ待機する。
【0066】
そして、フラグON継続時間が一定時間Thbに達した時点t3で、推定トルクずれ検出継続時間を初期化(=0)するとともに、推定トルクずれ検出フラグFlgをOFFにする。さらに、フラグON継続時間を初期化(=0)して再度検出を行う。
【0067】
その再度検出を開始したときに、流量センサ7の故障が解消されていないと、第1推定トルクTrq1と第2推定トルクTrq2との推定トルク差ΔTrqが上記した判定閾値以上のままの状態であるので(推定トルクずれ検出フラグFlgはOFF)、推定トルクずれ継続時間の計測を開始し、その継続時間の計測値が判定閾値Thaに達した時点t4で、流量センサ7が故障している可能性があると再度判断し、推定トルクずれ検出回数Nをインクリメントする(N=2)。これと同時に、推定トルクずれ検出フラグFlgをONにし、そのフラグON継続時間の計測を開始する。
【0068】
この後、上記した第1回目の検出と同様に、コンプレッサ2の容量可変制御の禁止により、上記した流量センサ7の固着等が解消されることを期待して、一定時間Thb(例えば600秒)だけ待機し、その一定時間Thbが経過した時点t5で、推定トルクずれ検出継続時間を初期化(クリア)するとともに、推定トルクずれ検出フラグFlgをOFFにする。さらに、フラグON継続時間を初期化(クリア)して再度検出を行う。この再度検出を開始したときに、流量センサ7の故障が解消されていないと、第1推定トルクTrq1と第2推定トルクTrq2との推定トルク差ΔTrqが上記した判定閾値以上のままの状態であるので(推定トルクずれ検出フラグFlgはOFF)、推定トルクずれ継続時間の計測を開始し、その継続時間の計測値が判定閾値Thaに達した時点t6で、推定トルクずれ検出回数Nをインクリメントする(N=3)。
【0069】
このようにして推定トルクずれ検出回数Nが規定回数[N=3]に到達した場合、図4の処理を2回実施しても、流量センサ7の故障が解消されなかったと判断して、流量センサ7が故障していると判定する。そして、流量センサ7が故障している場合、その対応として、エンスト等が発生しないようにエアコンをカット状態とし、また、MIL点灯等により警告を出力して、エアコンの修理を運転手等に促す。
【0070】
以上のように、この例によれば、流量センサ7にて検出される冷媒流量Rflowから推定する第1推定トルクと、冷媒流量Rflowを使用しない方法で推定する第2推定トルクとのずれを検出し、その推定トルクずれの検出結果に基づいて流量センサ7の故障の有無を判定するので、流量センサ7の電気的な断線・ショート等の故障に加えて、センシング部の固着や応答遅れなどに関する故障も検出することが可能になり、流量センサ7の故障を正確に検出することができる。これによって、圧縮機のトルク推定精度を高めることができ、エンストやドライバビリティの不良の発生を抑制することができる。また、例えばベルト式CVTのベルト挟圧制御不良の発生を抑制することができる。
【0071】
しかも、この例では、第1推定トルクTrq1と第2推定トルクTrq2との推定トルクずれが大きい場合に、直ぐに流量センサ7が故障していると判定するのではなく、コンプレッサ2の容量可変制御を禁止し、所定の待機時間Thbにおいて流量センサ7の故障が解消(固着等の解消)されるどうかを判断するので、故障仮検出中に、例えば流量センサ7に噛み込んだ異物が取れて流量センサ7が正常に戻った場合には、その時点で(もしくは正常に戻った後に)、流量センサ7が正常であるという判定処理を行うことが可能になり、流量センサ7の状態に即した正確な故障判定を行うことができる。
【0072】
−他の実施形態−
以上、本発明の実施形態について説明したが、ここに示した実施形態は一例であり、さまざまに変形することが可能である。
【0073】
以上の例では、推定トルクずれ継続時間に対して設定する判定閾値Tha(図4のステップST202の処理に用いる判定閾値)を、例えば10秒としているが、これに限定されることなく、その判定閾値Thaは推定トルクずれを安定して検出することが可能な値であればよく、他の適当な数値(時間)を設定してもよい。
【0074】
以上の例では、推定トルクずれ検出フラグON継続時間に対して設定する一定時間Thb(図4のステップST201の処理に用いる一定時間)を、例えば600秒としているが、この一定時間Thbについても、故障仮検出中に流量センサ7の故障が解消される時間等を考慮して、他の適当な数値(時間)を設定してもよい。
【0075】
以上の例では、推定トルクずれ検出回数Nに対して設定する規定回数を、例えば3回としているが、その規定回数については1回乃至2回または4回以上の値を設定してもよい。
【0076】
以上の例では、流量センサ7の設置箇所がコンプレッサ2とコンデンサ3との間であったが、流量センサ7は、冷凍サイクル装置1の高圧側領域(コンプレッサ2の吐出口〜膨張弁5の入口の間)であれば、上記以外の箇所に設けられていてもよい。また、以上の例では、高圧圧力センサ31の設置箇所がコンデンサ3の出口直後であったが、高圧圧力センサ31は、冷凍サイクル装置1の高圧側領域であれば、上記以外の箇所に設けられていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の車両空調装置用の冷凍サイクル装置の概略構成を示す図である。
【図2】図1の冷凍サイクル装置に適用する流量センサの構造を模式的に示す図である。
【図3】ECUにおいて実行する推定トルクずれ継続時間の計測処理の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】ECUにおいて実行する推定トルクずれ検出処理の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図5】ECUにおいて実行する流量センサ故障判定処理の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図6】流量センサ故障判定処理の一例を示すタイミングチャートである。
【図7】第1推定トルクと第2推定トルクとの相関を示す図である。
【符号の説明】
【0078】
1 冷凍サイクル装置
2 コンプレッサ
22 容量制御弁
3 コンデンサ
4 レシーバ
5 膨張弁
6 エバポレータ
7 流量センサ
71 オリフィス(絞り)
72 差圧センサ
721 測定子
722 変位センサ
73 メイン通路
74 検出用通路
8 ECU
11 エンジン
31 高圧圧力センサ
61 温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機と、凝縮器と、減圧機構と、蒸発器とを備えた車両用空調装置用の冷凍サイクル装置の制御装置であって、
前記冷凍サイクル装置の高圧側領域の冷媒流量を検出する流量センサと、前記流量センサにて検出される冷媒流量に基づいて前記圧縮機のトルクを推定する第1トルク推定手段と、前記流量センサにて検出される冷媒流量を用いずに前記圧縮機のトルクを推定する第2トルク推定手段と、前記第1トルク推定手段にて推定される第1推定トルクと前記第2トルク推定手段にて推定される第2推定トルクとのずれを検出し、その推定トルクのずれの検出結果に基づいて前記流量センサの故障の有無を判定する故障判定手段とを備えていることを特徴とする冷凍サイクル装置の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の冷凍サイクル装置の制御装置において、
前記故障判定手段は、前記第1トルク推定手段にて推定される第1推定トルクと前記第2トルク推定手段にて推定される第2推定トルクとの差が判定閾値以上となる状態が継続される時間を計測し、その推定トルクずれ継続時間が判定閾値以上になったときに、推定トルクがずれていると判定することを特徴とする冷凍サイクル装置の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の冷凍サイクル装置の制御装置において、
前記推定トルクずれ継続時間が前記判定閾値以上になったときに前記圧縮機の容量可変制御を禁止し、その容量可変制御禁止から一定時間が経過した時点で、前記推定トルクのずれ検出を再度実行することを特徴とする冷凍サイクル装置の制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の冷凍サイクル装置の制御装置において、
前記推定トルクずれを検出した回数をカウントし、その推定トルクずれ検出回数が規定回数以上になったときに前記流量センサが故障していると判定することを特徴とする冷凍サイクル装置の制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の冷凍サイクル装置の制御装置において、
前記故障判定手段は、車両用空調装置が安定している状態のときに、前記推定トルクずれ継続時間を計測することを特徴とする冷凍サイクル装置の制御装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の冷凍サイクル装置の制御装置において、
前記流量センサは、前記冷凍サイクル装置の高圧側領域に設けられた絞りと、この絞りの前後の差圧を検出する差圧検出手段とを備えていることを特徴とする冷凍サイクル装置の制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載の冷凍サイクル装置の制御装置において、
前記流量センサの絞りは、前記圧縮機と凝縮器との間に設けられていることを特徴とする冷凍サイクル装置の制御装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つに記載の冷凍サイクル装置の制御装置において、
前記第2トルク推定手段は、前記冷凍サイクル装置の高圧側領域の冷媒圧力及び前記圧縮機の容量制御弁の制御電流値に基づいて圧縮機の推定トルクを推定することを特徴とする冷凍サイクル装置の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−23581(P2010−23581A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−184991(P2008−184991)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】