説明

冷凍食品の製造方法

【課題】 解凍したときでも冷凍前の状態の食感を呈する冷凍食品の製造方法を提供すること。
【解決手段】 野菜類、果実類、魚介類および卵類からなる群から選択される少なくとも一種の食材を、食塩、糖類およびカルシウム塩類を含む水溶液に浸漬する工程、および該水溶液に浸漬された食材を、0℃から−5℃の温度域を15分間以内で通過し−20℃以下の温度範囲に至るまで冷凍する工程、を包含する冷凍食品の製造方法。水溶液が、食塩を1〜5%、糖類を2〜10%、カルシウム塩類を0.1〜0.5%含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、収穫後まもない野菜類、果物類、または漁獲後まもない魚介類及び卵類を、食塩、糖類及びカルシウム塩類を含む水溶液に浸漬後、急速冷凍処理を施すことを特徴とする冷凍野菜類、冷凍果実類、冷凍魚介類などの冷凍食品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、野菜類、魚介類には収穫又は漁獲時期があり、この時期はいわゆる旬といわれ、味もよく収穫量又は漁獲量も多くなる。しかし、これらの野菜類、魚介類の旬の味は一時しか享受できない。また予想以上に収穫又は漁獲される場合は、値崩れがするため、これらの野菜類、魚介類は廃棄されたりしてしまう。
【0003】
従来、食品の冷凍保存方法として、例えば、特開2004−105083号公報(特許文献1)には、りんごの果肉を減圧下にて脱気し、カルシウム及びアルコルビン酸を含む水溶液に浸漬し、これにさらにブランチング処理(加熱処理)を行い、冷却した後に糖類を添加し、冷凍保管することを特徴とする加工用冷凍りんご及びその製造方法が開示されている。
【0004】
しかし、この文献は、りんご特有のしゃきしゃきとした歯ごたえのある食感が得られる加工用冷凍リンゴの提供を目的としたもので、食品の旬の味を保持するようにしたものではなく、また一定量の食塩、糖類及びカルシウム塩類からなる溶液に、食品を浸漬後、急速冷凍することについては開示されていない。
【0005】
特開2002−176908号公報(特許文献2)には、内蔵が除去され切開された原料魚を塩化カリウムおよびアルコルビン酸ナトリウムを含有する食塩水に浸漬し、この食塩水に浸漬した原料魚を乾燥することを特徴とする加工魚の製造方法が開示されている。
【0006】
しかし、この文献は、良好な色彩を示す加工魚を製造することを目的としたもので、この文献も、食品の旬の味が保持できるようにしたものではなく、また一定量の食塩、糖類及びカルシウム塩類からなる溶液に、食品を浸漬後、急速冷凍することについては開示されていない。
【0007】
特開2003−339338号公報(特許文献3)には、果実又は野菜を、アルカリイオン水中に浸漬し、その後、アルカリイオン水から取り出して冷凍し、所定時間経過後に解凍・乾燥処理を行うことを特徴とする果実及び野菜の加工方法が開示されている。
【0008】
しかし、この文献は、渋味成分を取り除くことを目的としたもので、この文献も、食品の旬の味が保持できるようにしたものではなく、また一定量の食塩、糖類及びカルシウム塩類からなる溶液に、食品を浸漬後、急速冷凍することについては開示されていない。
【特許文献1】特開2004−105083号公報
【特許文献2】特開平10−166319号公報
【特許文献3】特開2003−339338号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、解凍したときに冷凍前の状態の食感を呈する冷凍食品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは食材の旬の味がいつでも楽しめ、また廃棄されることのない新しい食材の保存方法を見出すべき研究を重ねた結果、一定量の食塩、糖類及びカルシウム塩類からなる溶液に食材を浸漬後、急速冷凍することによって、上記目的が達成できるという知見を得て本発明を完成したものである。
【0011】
すなわち、本発明の冷凍食品の製造方法は、野菜類、果実類、魚介類および卵類からなる群から選択される少なくとも一種の食材を、食塩、糖類およびカルシウム塩類を含む水溶液に浸漬する工程、および該水溶液に浸漬された食材を、0℃から−5℃の温度域を15分間以内で通過し−20℃以下の温度範囲に至るまで冷凍する工程、を包含し、そのことにより上記目的が達成される。
【0012】
一つの実施形態では、前記水溶液が、食塩を1〜5%、前記糖類を2〜10%、前記カルシウム塩類を0.1〜0.5%含有する。
【発明の効果】
【0013】
食材を、食塩、糖類およびカルシウム塩類を含む水溶液に浸漬した後、この食材を0℃から−5℃の温度域を15分間以内で通過し−20℃以下の温度範囲に至るまで冷凍することにより、食材に含まれる酵素を不活性化して鮮度(収穫時又は漁獲時の食感)を維持し、さらに食材中に含まれる水分によって形成される氷結晶の成長を抑制し、これにより組織破壊を防止し、解凍したときに旨み成分が流出することを防止し、食品素材の冷凍前の状態を保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を具体的に説明する。
【0015】
本発明で使用される食材としては、野菜類、果実類、魚介類および卵類からなる群から選択される少なくとも一種である。
【0016】
対象となる野菜類は、根野菜、葉野菜を含め全ての新鮮な未加工の野菜である。果実類は皮を剥いだもの、あるいは皮を剥いでいない果物類を共に使用できるが、皮を剥いだものが好ましい。
【0017】
例えば、野菜類としては、大根、カブ、人参、ごぼう、たまねぎ、キュウリ、モヤシ、ふき、キャベツ、白菜等があげられるが、これらに限定されるものではない。果実類としては、パイナップル、りんご、なし、みかん、葡萄、桃、バナナ等があげられるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
魚介類は新鮮な未加工の魚介類、軟体動物全てを使用することができる。魚介類としては、例えば、タイ、サンマ、アジ、鯖、スケソウ、タラ、ホッケ、グチ、エソ、イワシ、イカ、タコ、海老、ホタテ等が挙げられ、これらの内蔵を切除したものが好ましく使用される。
【0019】
卵類は、魚卵、鶏卵等全ての卵を使用することができる。
【0020】
浸漬液に用いられる食塩、糖類、カルシウム塩類については次のとおりである。
【0021】
食塩は、岩塩、天日塩、精製塩のいずれも使用可能である。食塩の本来の役目は、野菜類、果実類、魚介類、卵類などの食材に含まれる酵素作用を不活性化させるために用いられる。
【0022】
上記糖類としては、トレハロース、砂糖、オリゴ糖、糖アルコール、水飴及び還元水飴が好適に用いられる。また、これらを組み合わせて使用してもよい。
【0023】
上記カルシウム塩類としては、無機塩、有機塩のいずれも使用可能である。
【0024】
例えば、クエン酸カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム等があげられる。いずれの場合も組み合わせて使用することが可能である。
【0025】
典型的には、上記食塩を1〜5%、糖類を2〜10%、カルシウム塩類を0.1〜0.5%(いずれも重量%)水に分散(あるいは溶解)して水溶液を調製する。これら成分のさらに好ましい含有割合は、食塩が2〜4%、糖類が3〜8%、カルシウム塩類が0.1〜0.3%である。食塩、糖類又はカルシウム塩類が上記範囲より少ない場合には、解凍後の冷凍食品の新鮮度が低い場合があり、逆に食塩、糖類又はカルシウム塩類が上記範囲より多い場合にも、解凍後の冷凍食品の食感が悪くなり易い。
【0026】
上記食材を、食塩、糖類およびカルシウム塩類を含む水溶液に浸漬する。ここで、水溶液の温度および浸漬時間は食材によって異なるが、通常、水溶液の温度は0℃〜25℃、好ましくは5〜10℃であり、浸漬時間は2時間〜20時間、好ましくは3時間〜15時間である。
【0027】
その後、水溶液に浸漬された食材を、0℃から−5℃の温度域を15分間以内で通過し−20℃以下の温度範囲に至るまで冷凍する。本発明で使用される冷凍処理は、0℃から−5℃の温度域を15分間以内に通過し、−20℃以下の温度範囲に至るものであればよい。好ましくは−25℃以下の温度で冷凍する。0℃から−5℃の温度域の通過時間は短い方が好ましく、特に12分間以内が好ましい。
【0028】
冷凍手段としては、高電圧電場アルコール冷凍機、磁場エネルギー冷凍機、液体窒素凍結、ドライアイス凍結等が好適に使用できる。
【0029】
このようにして、解凍後でも収穫又は漁獲した直後の食材の旨さを有した冷凍食品が得られる。
【実施例】
【0030】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明する。
(実施例1)
浸漬液と冷凍食品の品質の関係を調べた。
【0031】
試験対象食品として野菜の輪切り大根(直径60mm、厚さ30mm)、果物のリンゴ(皮むき1/4カット)、魚のタイ(長さ20cm、重さ200g)を用い、表1〜6の各種浸漬液に20℃で3時間浸漬後、液体窒素を用いて急速冷凍した。
【0032】
なお、急速冷凍条件は次の通りであった。
【0033】
0℃から−5℃の所要時間は8〜10分間、冷凍品温は−38℃であった。
【0034】
−38℃で一ヶ月間保存後、解凍し、輪切り大根は90℃で20分間おでん汁で加熱処理をした。リンゴは解凍のまま、タイはおでん汁で90℃、20分間過熱処理した。
【0035】
得られたそれぞれの食品について官能検査を実施した。その結果は表1〜6の通りであった。
【0036】
なお、官能検査は10名のパネルによって実施した。優、良、可、不可で評価し、各区分で最も多かった評価で示した。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
【表3】

【0040】
【表4】

【0041】
【表5】

【0042】
【表6】

(実施例2)
次に、冷凍処理条件と冷凍食品の品質の関係を調べた。
【0043】
試験対象食品として、ふき(直径10mm、長さ8cm)、果物の輪切りパイナップル(直径120mm、厚さ20mm)、ナマコ(長さ15cm、重さ160g)を用い、食塩1.5%、トレハロース5%、塩化カルシウム0.3%からなる浸漬液に、5℃で15時間浸漬した。浸漬後、これらの食材を袋に入れ、脱気シールし、その後、高電圧電場アルコール冷凍機で凍結処理した。
【0044】
区分1群は、0℃〜−5℃の冷凍時間を20分間に調節して−25℃まで冷凍した。
【0045】
区分2群は、0℃〜−5℃の冷凍時間を15分間に調節して−25℃まで冷凍した。
【0046】
区分3群は、0℃〜−5℃の冷凍時間を10分間に調節して−25℃まで冷凍した。
【0047】
区分4群は、0℃〜−5℃の冷凍時間を10分間に調節して−15℃まで冷凍した。
【0048】
区分5群は、0℃〜−5℃の冷凍時間を10分間に調節して−20℃まで冷凍した。
【0049】
区分6群は、0℃〜−5℃の冷凍時間を10分間に調節して−30℃まで冷凍した。
【0050】
次に、上記各区分で冷凍した食材を流水中で解凍後、10名のパネルによって、冷凍をしないもの(対照)と比較した。
0:対照に比べて差なし、
−1:対照に比べて劣る、
+1:対照に比べて優れている、
にて評点し、その平均値を示した。
【0051】
その結果は、表7の通りとなった。
【0052】
すなわち、0℃から−5℃の冷凍時間が15分間以下で、しかも冷凍到達時間が−20℃以下であれば、対照に比べて全く差のない評価となった。
【0053】
【表7】

(実施例3)
生みたての鶏卵(Mサイズ)100個を90℃で16分間、湯で熱処理した。流水で冷却後、殻をむいて、食塩1%、乳酸カルシウム0.1%、トレハロース3%、還元水飴5%からなる浸漬液に5℃で15時間浸漬した。
【0054】
液切り後、おでんだしとともに、袋に5個ずつ入れた。シール後、90℃で20分間加熱処理し、冷却後、液体窒素を用いて、0℃〜−5℃を13分間で通過させ、さらに−25℃まで冷凍した。
【0055】
1ヶ月後、解凍試食したが、冷凍処理をしないゆで卵と全く同じ食感を呈していた。
(実施例4)
大豆もやし100kgを生のまま、食塩2%、クエン酸カルシウム0.1%、トレハロース3%、ソルビトール3%からなる浸漬液に5℃で10時間浸漬した。液切り後、大豆もやしを1kgずつプラスチック袋に入れ、脱気後シールした。
【0056】
高電圧電場アルコール冷凍機を用いて、0℃〜−5℃を12分間で通過させ、さらに−25℃まで冷凍した。2ヶ月後解凍し、もやし炒めを作製したが、冷凍処理をしないもやし炒めと全く同じ食感を呈していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
野菜類、果実類、魚介類および卵類からなる群から選択される少なくとも一種の食材を、食塩、糖類およびカルシウム塩類を含む水溶液に浸漬する工程、および該水溶液に浸漬された食材を、0℃から−5℃の温度域を15分間以内で通過し−20℃以下の温度範囲に至るまで冷凍する工程、を包含する冷凍食品の製造方法。
【請求項2】
前記水溶液が、食塩を1〜5%、前記糖類を2〜10%、前記カルシウム塩類を0.1〜0.5%含有する請求項1に記載の冷凍食品の製造方法。

【公開番号】特開2007−53969(P2007−53969A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−243343(P2005−243343)
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【出願人】(000132172)株式会社スギヨ (23)
【Fターム(参考)】