説明

冷凍魚の製造方法及び調理方法

【課題】風味や食感がより良好に保たれるようにした冷凍魚の製造方法及び該冷凍魚を用いた冷凍魚の調理方法を提供する。
【解決手段】リン酸三ナトリウムと有機酸塩と糖類とを含有するpH11.6〜12.6のアルカリ水溶液に、魚体を10分以上浸漬してアルカリ処理した後、冷凍する。このとき、アルカリ処理後の魚体のpHが6.5〜8.5となるように、アルカリ水溶液への魚体の浸漬時間を調整することが好ましい。こうして得られた冷凍魚を、解凍することなく加熱調理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚体をアルカリ水溶液に浸漬して冷凍する冷凍魚の製造方法、及び該冷凍魚を調理する冷凍魚の調理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、魚体の冷凍保存に関して、冷凍保存中の肉質の劣化や、解凍時のドリップ抑制のために、アルカリ剤などを溶解させた前処理液に魚体を浸漬処理した後、冷凍することが行われている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、白身魚などの魚肉をアルカリ性調味液に浸漬して、pH7以上とした後、冷凍することにより、トリメチルアミン−N−オキシドの分解による冷凍変成を防止する技術が記載されている。
【0004】
また、下記特許文献2には、ソルビット、トレハロース、又はそれらと他の糖質及び/又は調味料との組合せと、生の塊状食肉のpHをアルカリ側に調整可能なpH調整剤とを含むことを特徴とする食肉のドリップ抑制剤が開示されており、該ドリップ抑制剤を含むpH7.5を超え9.5未満の水溶液に魚介類を浸漬して凍結保存する技術が記載されている。
【0005】
更に、下記特許文献3には、(a)魚体をpH8.6以上11.5以下に調整されたアルカリ水溶液中に大気圧室温下で30分間以上漬け込む工程と、(b)前記アルカリ処理された魚体を冷凍する工程と、を有することを特徴とする凍ったまま加熱調理できる冷凍魚の製造方法、並びに、pH8.6以上11.5以下に調整されたアルカリ水溶液中に大気圧室温下で30分間以上漬け込み処理することによりpH8.6以上11.5以下に調整された後に冷凍された魚体からなることを特徴とする凍ったまま加熱調理できる冷凍魚が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−269960号公報
【特許文献2】特開2008−289503号公報
【特許文献3】特許第4282746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、魚体を、アルカリ剤などを溶解させた前処理液に浸漬処理した後、冷凍する各種の技術が提案されているが、冷凍保存中の肉質や風味の劣化を防止するという点において、未だ満足できる技術とは言えなかった。
【0008】
また、上記特許文献3には、pH8.6以上11.5以下に調整されたアルカリ水溶液中に魚体を浸漬処理した後に冷凍することにより、魚体を凍ったまま加熱調理できるようにする技術が開示されているが、加熱調理後の魚肉に食感等において未だ満足できるものではなかった。
【0009】
したがって、本発明の目的は、風味や食感がより良好に保たれるようにした冷凍魚の製造方法及び該冷凍魚を用いた冷凍魚の調理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の冷凍魚の製造方法は、リン酸三ナトリウムと有機酸塩と糖類とを含有するpH11.6〜12.6のアルカリ水溶液に、魚体を10分以上浸漬してアルカリ処理した後、冷凍することを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、pH11.6〜12.6という高アルカリ性の水溶液に魚体を浸漬することにより、魚体中に含まれるアンモニアや、トリメチルアミン、ジメチルアミン等のアミン類等に起因する魚臭成分を効果的に溶解、飛散させて減少させることができ、冷凍保存した後の魚体の生臭みを軽減することができる。
【0012】
また、アルカリ処理によって、解凍時、又は解凍することなくもしくは半解凍状態で加熱調理した際のドリップやカードの発生を抑制することができる。
【0013】
また、アルカリ剤として、高pHにすることが可能で、かつ、pH緩衝能の小さいリン酸三ナトリウムを用いることにより、浸漬中における魚体自体のpHの著しい上昇を抑制して、肉質が軟らかくなりすぎるのを防止し、加熱調理後の食味、食感を良好にすることができるのである。
【0014】
また、有機酸塩を用いることにより魚の風味を良好にし、糖類を用いることにより魚肉の肉質を良好にし、凍ったまま加熱調理してもドリップを少なくすることができる。
【0015】
本発明の冷凍魚の製造方法においては、前記アルカリ処理後の魚体のpHが6.5〜8.5となるように、前記アルカリ水溶液への魚体の浸漬時間を調整することが好ましい。これによれば、加熱調理後の魚肉の食感が硬くなるのを防ぎ、風味が悪くなるのを抑制することができる。
【0016】
また、前記アルカリ水溶液への魚体の浸漬時間を1〜15時間とすることが好ましい。これによれば、魚体自体のpHの著しい上昇を抑制しつつ、適度なアルカリ処理を行うことができるので、解凍又は加熱調理時のドリップやカードの発生を低減すると共に、加熱調理後の食味、食感に優れた冷凍魚を提供することができる。
【0017】
また、前記アルカリ水溶液が、リン酸三ナトリウム0.1〜5質量%、有機酸塩0.1〜10質量%、糖類0.05〜10質量%含有するものであることが好ましい。アルカリ水溶液の原料を上記配合割合とすることにより、浸漬処理効果に優れた水溶液を提供することができる。
【0018】
更に、前記有機酸塩が、クエン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、グルコン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩から選ばれた少なくとも1種であることが好ましく、前記糖類が、還元水あめ、水あめ、ショ糖、麦芽糖、デキストリンから選ばれた少なくとも1種であることが好ましく、前記アルカリ水溶液が更に食塩を含有することが好ましい。
【0019】
また、前記アルカリ処理した魚体を一旦冷凍した後、取り出して糖類を含有する水溶液を噴霧又は該水溶液に浸漬して表面に付着させた後、引き続いて冷凍をすることが好ましい。これによれば、冷凍したまま焼成したときに、表面に付着した糖類によって、良好な焦げ目が形成され、良好な外観となる。
【0020】
一方、本発明の冷凍魚の調理方法は、前記方法により製造した冷凍魚を、解凍することなく加熱調理することを特徴とする。この調理方法では、前述したアルカリ水溶液に浸漬処理して冷凍した冷凍魚を用いることにより、解凍することなく加熱調理しても、ドリップやカードの発生を抑制できると共に、加熱調理された魚の風味や食感を良好にすることができる。なお、本発明において、解凍することなくとは、完全な凍結状態だけでなく、半解凍状態も含むものとする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、冷凍保存した後の魚体の生臭みを軽減し、解凍時又は解凍することなく加熱調理した際のドリップやカードの発生を抑制して、加熱調理後の魚肉の食感をパサつかずに、軟らかく保つことができ、風味も良好にすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の対象とする魚としては、特に限定されないが、例えば、サバ、サワラ、ブリ、マグロ、サンマ、赤魚、マダラ、ホキ、メルルーサ、スケソウダラ、キンメダイ、シルバー、カレイ、メバル、サケ、ナイルパーチ、太刀魚、黒ムツ、ホッケ、マカジキなどが挙げられる。この中でも、特にサバ、アジ、赤魚、ホキ、マダラが好ましく適用される。これらの魚は、鮮魚に限らず、冷凍保存したものを解凍して用いてもよい。
【0023】
本発明において、処理対象となる魚体とは、丸ごとの魚体でもよく、切り身でもよく、骨を分離した魚肉でもよいが、特に、魚体を三枚におろしてフィーレ(半身)にし、骨取りをしたものが好ましい。
【0024】
本発明において、前処理液として用いるアルカリ水溶液は、リン酸三ナトリウムと有機酸塩と糖類とを含有し、魚体浸漬前の状態でpH11.6〜12.6になるように調整された水溶液である。アルカリ水溶液のpHは12.0〜12.6がより好ましい。アルカリ水溶液のpHが11.6未満では、アルカリ水溶液の処理効果が弱くなり、魚臭軽減効果も乏しくなる。また、アルカリ水溶液のpHが12.6を超えると、魚体pHが高くなり、風味が悪くなる。
【0025】
本発明で用いるリン酸三ナトリウムは、無水物(Na3PO4)でも、水和物(Na3PO4・12H2O)でもよく、食品原料として使用できるものであればよい。本発明において、アルカリ剤としてリン酸三ナトリウムを用いた理由は、pHを高くすることが可能であると共に、緩衝能が小さいことから魚体pHの著しい上昇を抑制できることによる。すなわち、アルカリ剤としてリン酸三ナトリウムを用い、前述した高いpHに調整されたアルカリ水溶液を用いることにより、浸漬初期の段階で魚体中に含まれるアンモニアや、トリメチルアミン、ジメチルアミン等のアミン類等に起因する魚臭成分を効果的に溶解、飛散させて、冷凍保存した後の魚体の生臭みを軽減できると共に、浸漬中における魚体自体のpHの上昇を抑制して、肉質が軟らかくなりすぎるのを防止して、加熱調理後の食味、食感を良好にすることができる。
【0026】
アルカリ水溶液中におけるリン酸三ナトリウムの含量は、0.1〜5質量%が好ましく、0.3〜1質量%がより好ましい。リン酸三ナトリウムの含量が、0.1質量%では魚体の前処理効果が乏しくなり、5質量%を超えると魚体pHが高くなって風味が悪くなる傾向がある。
【0027】
アルカリ水溶液に添加する有機酸塩としては、例えばクエン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、グルコン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩などが挙げられる。この中でも、特にクエン酸三ナトリウム、酢酸ナトリウムが好ましく採用される。有機酸は、加熱調理した後の魚肉の肉質を良好にし、魚臭を軽減して風味をよくする効果をもたらす。
【0028】
アルカリ水溶液中における有機酸塩の含量は、0.1〜10質量%が好ましく、0.35〜1.5質量%がより好ましい。有機酸塩の含量が、0.1質量%未満では魚肉の肉質や風味を改善する効果が乏しくなり、10質量%を超えると、アルカリ水溶液を高pHに調整しにくくなる傾向がある。
【0029】
アルカリ水溶液に添加する糖類としては、例えば還元水あめ、水あめ、ショ糖、麦芽糖、デキストリンなどが挙げられる。上記糖類の中でも、特に還元水あめが好ましく採用される。糖類は、その保水性によって魚肉の肉質を向上させ、凍ったまま加熱調理した際のドリップを減少させる効果をもたらす。
【0030】
アルカリ水溶液中における糖類の含量は、0.05〜10質量%が好ましく、0.1〜0.8質量%がより好ましい。糖類の含量が、0.05質量%未満ではドリップの軽減や魚肉の肉質を改善する効果が乏しくなり、10質量%を超えると、甘みが強くなり、焼いたときに焦げやすくなり、歩留りが低下する傾向がある。
【0031】
アルカリ水溶液中には、その他、食塩、酸化防止剤等を添加することができる。特に、魚体へのアルカリ剤の浸透性を向上させるため、食塩を添加することが好ましく、その添加量は0.1〜5質量%が好ましい。
【0032】
アルカリ水溶液に魚体を浸漬する際の、魚体に対するアルカリ水溶液の量は、魚体が十分に浸漬できる量であれば特に限定されないが、質量比で、魚体1に対してアルカリ水溶液1/3以上が好ましく、1/2〜2とすることがより好ましい。
【0033】
アルカリ水溶液の浸漬時の温度は、特に限定されず、室温下で行えばよいが、季節や地域による変動などを考慮すると、0〜20℃程度に保たれた室内で行うことが好ましい。
【0034】
アルカリ水溶液への浸漬時間は、10分以上であればよいが、アルカリ処理後の魚体のpHが好ましくは6.5〜8.5、より好ましくは6.5〜8となるように調整することが好ましい。アルカリ処理後の魚体のpHが6.5未満ではアルカリ処理の効果が乏しくなり、同pHが8.5を超えると、魚肉の風味が悪くなると共に、肉質が軟らかくなりすぎる傾向がある。一般的には、浸漬時間は1〜15時間の間で、アルカリ処理後の魚体のpHが上記範囲となるように調整することが好ましい。
【0035】
なお、本発明において、アルカリ水溶液浸漬後の魚体のpHは、アルカリ水溶液浸漬後に凍結させて解凍した魚肉と、蒸留水とを、質量比で魚肉:水=10:90となるように混合し、ホモジナイザーで攪拌した後、その水溶液のpHを測定することにより測定した値を意味することとする。
【0036】
こうして魚体をアルカリ水溶液に浸漬処理した後、常法に従って冷凍する。冷凍は、例えばトンネルフリーザ、スパイラルフリーザ、コンタクトフリーザ等の急速凍結機を用いて−30℃以下で行うことが好ましく、冷凍後の保存は、例えば冷凍庫等を用いて−18℃以下で行うことが好ましい。
【0037】
また、アルカリ処理した魚体を一旦冷凍した後、取り出して糖類を含有する水溶液を噴霧又は該水溶液に浸漬して表面に付着させた後、引き続いて冷凍をしてもよい。魚体の表面に糖類を含有する水溶液を付着させておくことにより、冷凍したまま焼成したときに、上記糖類によって、良好な焦げ目が形成され、良好な外観、風味となる。上記糖類としては、特に限定されないが、例えばキシロース、ブドウ糖、砂糖、麦芽糖などが挙げられ、上記水溶液中の糖類の濃度は、1〜30質量%が好ましい。
【0038】
更に、アルカリ処理した魚体を一旦冷凍した後、取り出して、消費者が利用しやすい適宜大きさに切断し、必要に応じて上記糖類を含有する水溶液を付着させた後、真空パック等により包装して冷凍保存してもよい。この場合には、適宜大きさにして包装された状態で冷凍保存されるので、そのまま販売することができる。
【0039】
本発明の冷凍魚の調理方法は、上記方法により製造した冷凍魚を、解凍することなく加熱調理することを特徴とする。ここで、「解凍することなく」とは、部分的に解凍した状態、すなわち半解凍状態も含むものとする。
【0040】
加熱調理は、電気、ガス等を熱源とする種々の加熱手段、例えば電気オーブン、ガスオーブン、電子レンジ、スチームコンベクション等を用いて行うことができる。加熱方法は、例えば焼成、煮熟、蒸煮、油ちょうなど、各種の手段を採用することができる。加熱調理時に、必要に応じて、しょうゆ、みそ、みりん、清酒等を含有する調味液や調味料を付与してもよい。
【0041】
本発明の冷凍魚の調理方法の好ましい一態様としては、オーブン等を用いて焼成する方法が挙げられる。この場合、前述したように、魚体の表面に糖類を含有する水溶液を付着させておくことにより、表面に適度な焦げ目を形成して、風味を良好にすることができる。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を挙げて本発明の詳細を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
製造例1(基本アルカリ処理剤の製造)
リン酸三ナトリウム30質量%、有機酸塩として、クエン酸三ナトリウム25質量%、酢酸ナトリウム10質量%、糖類として、還元水飴30質量%、デキストリン5質量%を混合して、基本アルカリ処理剤を製造した。
【0044】
製造例2(各種pH のアルカリ水溶液の調製)
製造例1の基本アルカリ処理剤にリン酸二水素ナトリウムや食塩を添加して、下記A〜Cの各種pHのアルカリ水溶液を調製した。また、前記特許文献3の実施例に記載された方法に準じて、下記Dの配合でアルカリ水溶液を調製した。
【0045】
A:基本アルカリ処理剤3質量%+食塩0.8質量%(pH12.0)
B:基本アルカリ処理剤3質量%+リン酸二水素ナトリウム0.2質量%+食塩0.8質量%(pH11.5)
C:基本アルカリ処理剤3質量%+リン酸二水素ナトリウム0.5質量%+食塩0.8質量%(pH10.5)
D:炭酸水素ナトリウム1.2質量%+炭酸水素ナトリウム0.53質量%+クエン酸三ナトリウム0.24質量%+デキストリン0.3質量%(pH10.0)
試験例1(各種pHの水溶液による浸漬処理効果)
冷凍された赤魚を解凍して、3枚におろしてフィーレとし、製造例2で得たアルカリ水溶液A〜Dを、魚体2に対して1の質量比で添加して、5℃にて3時間浸漬し、液切り後に冷凍庫を用いて−30℃で凍結した。その後、取り出して、適宜大きさにカットし、このカット魚肉に、キシロース4質量%を含有する糖水溶液を噴霧して付着させ、−25℃で引き続き冷凍保存した。
【0046】
冷凍保存して7日後に、上記それぞれのカット魚肉を取り出し、解凍することなくそのまま電気オーブンを用いて260℃で15分焼成し、焼き魚を得た。
【0047】
そして、アルカリ水溶液浸漬前の魚体重量、アルカリ水溶液浸漬後の魚体重量、加熱処理後の魚体重量をそれぞれ測定し、歩留りを求めた。
【0048】
更に、アルカリ水溶液浸漬後の魚体pHを前述した方法で測定した。
【0049】
更に、上記方法で冷凍し、解凍した後の魚肉の揮発性塩基態窒素(VBN)値を、下記に示す微量拡散法で測定した。
【0050】
1)原料15gに脱塩水25ml+20%トリクロル酢酸10ml混合
2)ホモジナイザーにより撹拌(5000rpm 3分間)
3)脱塩水を加えて、100mlにメスアップ
4)濾過した後、濾液を試験溶液とする
5)コンウェイ拡散器内室にホウ酸吸収剤1.0ml添加
6)外室に試験溶液1.0ml添加
7)外室に試験溶液と混ざらないように炭酸カリウム飽和溶液1.0ml添加
8)ふたを閉じて密閉
9)外室にある2種の溶液を混合
10)静置(2時間〜3時間ほど)
11)内室のホウ酸吸収剤溶液を0.02N硫酸で滴定
12)滴定値より次式(イ)から揮発性塩基態窒素(VBN)を求める
0.28×(A−B)×f×100/x(mg/100g)…(イ)
(式(イ)中、Aは滴定値、Bは空試験値、fは0.02N硫酸ファクター、xは試験溶液1mlに相当する試料量(g)を表す)
なお、20%トリクロル酢酸は、トリクロル酢酸20gを脱塩水で100mlにメスアップして調製した。また、炭酸カリウム飽和溶液は、炭酸カリウム50gを脱塩水で100mlにメスアップして調製した。更に、ホウ酸吸収剤は、ホウ酸1gを98%エタノールに溶解させた後、混合指示薬を1ml加え、脱塩水により100mlにメスアップして調製した。更に、混合指示薬は、メチルレッド及びブロムクレゾールグリーン各0.066gを、98%エタノールで100mlにメスアップして調製した。
【0051】
なお、アルカリ水溶液に浸漬処理しないで、冷凍のみを行ったサンプルについても、上記と同様にそれぞれの測定を行った。
【0052】
この結果を下記表1に示す。なお、表1中の浸漬歩留り及び加熱歩留りは、下記式(ロ)、(ハ)によって求めた。
浸漬歩留り(%)=(浸漬後質量/原料質量)×100…(ロ)
加熱歩留り(%)=(加熱後質量/浸漬後質量)×100…(ハ)
【0053】
【表1】

【0054】
表1の結果から、pH12に調整したアルカリ水溶液に浸漬処理した試料No.2は、他の試料No.1,3,4,5に比べて、加熱歩留りが最も大きく、VBN値は最も低いことがわかる。
【0055】
試験例2(本発明の処理品と特許文献3による製品の官能評価)
製造例2で調整したAのアルカリ水溶液を用いて、下記工程により、サバ、赤魚、ホキ及びサケについて、アルカリ水溶液の浸漬処理、冷凍、加熱調理を行い、加熱歩留り、加熱調理後の食味、生臭み、食感、カードの少なさ、外観を、10名のパネラーによって評価した。
【0056】
1)魚体を三枚に卸し、骨除去したフィーレにした。
【0057】
2)アルカリ水溶液とフィーレにした魚体とを質量比で1:2となるように混合し、10℃で約3時間浸漬した。
【0058】
3)魚体を取り出して−30℃で凍結した後、半解凍して、1個当たり60gに切身加工した。
【0059】
4)上記切身にキシロース水溶液を噴霧して表面に付着させた。
【0060】
5)トンネルフリーザにて−30℃以下で凍結した。
【0061】
6)冷凍庫に移して−25℃で約7日間冷凍保存した。
【0062】
7)冷凍庫から取り出して、凍ったままガスオーブンで260℃で10分素焼きした。
【0063】
食味等の評価は、調理後20分経過時点で、10名のパネラーにより、5:大変よい、4:良い、3:普通、2:悪い、1:非常に悪い、の5点評価で行い、10名の平均を四捨五入して表した。
【0064】
加熱歩留りは、(調理前重量−調理後重量)/調理前重量×100で求めた。
【0065】
また、前記特許文献3に記載された方法により調製されたとされる市販の冷凍サバ、冷凍赤魚、冷凍ホキ及び冷凍サケについても、同様な条件で加熱調理し、上記と同様な評価を行った。
【0066】
この結果を下記表2に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
表2に示すように、本発明による処理品は、特許文献3の製品よりも、加熱歩留りが高く、食味、生臭み、食感、外観に優れていることがわかる。
【0069】
試験例3(本発明の処理品を解凍しないで焼成したものと、通常冷凍品を解凍して焼成したものとの加熱歩留りの比較)
スケソウダラ、サバ、赤魚、ホキを用いて、試験例2と同様にして、アルカリ水溶液に浸漬処理後、冷凍し、取出して、解凍しないでそのまま加熱調理(ガスオーブンによる焼成)を行い、加熱歩留りを測定した。アルカリ水溶液としては、製造例2のAのアルカリ水溶液を使用した。
【0070】
一方、アルカリ水溶液に浸漬処理せずに、そのまま冷凍した製品であるスケソウダラ、サバ、赤魚、ホキについて、常法に従って解凍した後、試験例2と同様に加熱調理(ガスオーブンによる焼成)し、加熱歩留りを測定した。これらの結果を下記表3、4に示す。
【0071】
【表3】

【0072】
【表4】

【0073】
表3、4に示されるように、アルカリ水溶液に浸漬処理せずに、そのまま冷凍した製品を解凍してから焼成した場合の加熱歩留りよりも、本発明の方法によりアルカリ処理して冷凍した製品を解凍することなく焼成した場合の方が4〜9%ほど加熱歩留りがよいことがわかる。
【0074】
試験例4(本発明の処理品を解凍しないで焼成したものと、通常冷凍品を解凍して焼成したものとの破断強度の比較)
サバ、赤魚を用いて、試験例2と同様にして、アルカリ水溶液に浸漬処理後、冷凍し、取出して、解凍しないでそのまま加熱調理(ガスオーブンによる焼成)を行い、下記方法で破断強度を測定した。アルカリ水溶液としては、下記のものを用いた。
【0075】
サバ…基本アルカリ処理剤2質量%+食塩1質量%(pH12.0)
赤魚…基本アルカリ処理剤3質量%+食塩0.8質量%(pH12.0)
破断強度の測定方法…原料をおよそ2cm角にカットし、直径3cmの円柱型のプランジャーを用いて、測定歪率85%、測定速度1.0mm/secの条件で測定し、最大破断荷重の平均値を測定した。
【0076】
一方、アルカリ水溶液に浸漬処理せずに、そのまま冷凍した製品であるサバ、赤魚について、常法に従って解凍した後、試験例2と同様に加熱調理(ガスオーブンによる焼成)し、上記と同様に破断強度を測定した。これらの結果を下記表5に示す。
【0077】
【表5】

【0078】
表5に示されるように、アルカリ水溶液に浸漬処理せずに、そのまま冷凍した製品を解凍してから焼成した場合の破断強度よりも、本発明の方法によりアルカリ処理して冷凍した製品を解凍することなく焼成した場合の破断強度の方が著しく小さく、本発明の方法により得られた製品の方が、加熱調理後の魚肉が軟らかいことがわかる。
【0079】
試験例5(アルカリ処理後の魚体pH)
サバ、赤魚を、下記アルカリ水溶液E,Fに、それぞれ1時間、3時間、5時間浸漬した後、前述した方法でアルカリ処理後の魚体pHを測定した。また、比較のため、アルカリ処理しないものの魚体pHを測定した。これらの結果を表6、7に示す。
E:製造例1の基本アルカリ処理剤2質量%+食塩0.8質量%(pH11.9)
F:製造例1の基本アルカリ処理剤3質量%+食塩0.8質量%(pH12.0)
【0080】
【表6】

【0081】
【表7】

【0082】
上記のように、本発明の方法によれば、浸漬処理後の魚体pHが8.5を超えることはほとんどなく、通常はpH8以下となることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸三ナトリウムと有機酸塩と糖類とを含有するpH11.6〜12.6のアルカリ水溶液に、魚体を10分以上浸漬してアルカリ処理した後、冷凍することを特徴とする冷凍魚の製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ処理後の魚体のpHが6.5〜8.5となるように、前記アルカリ水溶液への魚体の浸漬時間を調整する請求項1記載の冷凍魚の製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ水溶液への魚体の浸漬時間を1〜15時間とする請求項1又は2記載の冷凍魚の製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ水溶液が、リン酸三ナトリウム0.1〜5質量%、有機酸塩0.1〜10質量%、糖類0.05〜10質量%含有するものである請求項1〜3のいずれか1つに記載の冷凍魚の製造方法。
【請求項5】
前記有機酸塩が、クエン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、グルコン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩から選ばれた少なくとも1種である請求項1〜4のいずれか1つに記載の冷凍魚の製造方法。
【請求項6】
前記糖類が、還元水あめ、水あめ、ショ糖、麦芽糖、デキストリンから選ばれた少なくとも1種である請求項1〜5のいずれか1つに記載の冷凍魚の製造方法。
【請求項7】
前記アルカリ水溶液が更に食塩を含有する請求項1〜6のいずれか1つに記載の冷凍魚の製造方法。
【請求項8】
前記アルカリ処理した魚体を一旦冷凍した後、取り出して糖類を含有する水溶液を噴霧又は該水溶液に浸漬して表面に付着させた後、引き続いて冷凍をする請求項1〜7のいずれか1つに記載の冷凍魚の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1つの方法により製造した冷凍魚を、解凍することなく加熱調理することを特徴とする冷凍魚の調理方法。

【公開番号】特開2011−167159(P2011−167159A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36166(P2010−36166)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【特許番号】特許第4616409号(P4616409)
【特許公報発行日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(503015293)株式会社オカフーズ (2)
【Fターム(参考)】