説明

冷却生地形成のプロセス

【課題】AXの有害な分解の結果として生地における保水力が低下する冷却生地のシロップ化を防ぐためのプロセスを提供すること。
【解決手段】冷却生地を形成するプロセスであって、このプロセスは、穀粉(例えば、小麦粉)および水を、穀粉に存在するアルビノキシランの酵素学的な分解を減少および防止し得るタンパク質と混合する工程を包含する、プロセス。本発明のプロセスによって調製される冷却生地。本発明のプロセスからか、または本発明の冷却生地から調製されるベーカリー製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、プロセスに関連する。詳細には、本発明は、生地の調製プロセスに関連する。さらに詳細には、本発明は、冷却生地の調製プロセスに関連する。
【背景技術】
【0002】
(背景技術)
典型的には、冷却生地は小麦粉および水を含む。この局面において、これは、他の白パン生地と類似している。冷却生地において、小麦粉は胚乳細胞壁由来の2〜5%のアラビノキシラン(arabinoxylan)(AX)(FincherおよびStone,1986)を含む。AXは、水と結合する特有の能力を有する複雑な非デンプンポリマーである。Girhammerは(1992)、AXが自重の約10倍までの量の水を結合し得ると報告している。
【0003】
冷却生地は、パンの市場を急速に増大させている。この点で、生産前の生地(産業的製パン所で調製された)は、長時間保存され得、そして新鮮な焼きパンが、最終消費者によって非常に簡単にかつ素早く作られ得る。冷却生地の概念全体は、消費者(すなわち、開店時間、製パン所への所要期間に依存せずに新鮮な焼きパンを入手し得る)の拡大する要求によく一致する。
【0004】
しかし、冷却生地には問題がある。これに関して、冷却生地は、シロップ化(syruping)を示すことが知られている。シロップ化は、AXの有害な分解の結果であり、そしてこの結果、生地における保水力が低下する。別の表現では、シロップ化は時間の関数としての保水力の欠損であり、その結果生地の表面に液体の沈殿が起きる。
【0005】
AXの分解は、小麦粉における内在性キシラナーゼの活性に原因があると考えられている。小麦粉は、AXを改変し得るいくつかの酵素活性を含み(Cleemput,G.ら(1997)、Bonnin,Eら(1998))、この改変によって、分子量が減少し、そしてこの結果、生地におけるAXの保水力が低下する。
【0006】
作業者は、生地への親水コロイドの添加によって、シロップ化の問題の解決を試みている。これらの親水コロイドは、水と結合し、そしてある程度シロップ化を遅らせる。例として、生地へのキシランの添加を記載する特許文献1が参照され得る。
【0007】
しかし、生地への親水コロイドの添加に関連する問題がある。例として、親水コロイドは、生地の機械適性、生地の粘弾性、および生地内における水分分布をもたらす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5792499号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、シロップ化のレベルが低下するか、またはさらにシロップ化しない生地を提供しようとする。
【0010】
(発明の要旨の局面)
本発明は、タンパク質を使用することによって冷却生地のシロップ化を低下させるかまたはさらに排除することが可能であるという驚くべき発見に基づく。この発見は、親水コロイドの使用という先の当該分野の示唆とは対照的である。この発見は、場合によっては、さらなるタンパク質の添加が、生地に対して有害な影響を有すると予期されていたかもしれないので驚くべきことである。特に、場合によっては、生地に存在する酵素の中の1つのインヒビター(特に、さらなる量の内在性酵素インヒビター)の使用が、得られた生地に対して有害な影響を有すると予期されている。しかし、本発明者らは、驚くべきことに、事実はそうではなく、そして穀粉(特に小麦粉)に存在するアラビノキシランの酵素学的な分解を減少または防止するためにタンパク質の使用が可能であることを見出した。従って、好ましい局面において、本発明者らは、驚くべきことに、穀粉(特に、小麦粉)に存在するアラビノキシランの酵素学的な分解を減少または防止することが可能であることを見出した。好ましい局面において、本発明は、シロップ化を防止するための、冷却生地における内在性キシラナーゼのインヒビターの使用に関連する。1つの好ましい実施形態において、本発明は、シロップ化を防止するための、冷却生地における内在性キシラナーゼインヒビターの使用に関連する。
【0011】
(発明の詳細な局面)
本発明の1つの局面に従って、冷却生地を形成するプロセスが提供される。このプロセスは、穀粉(例えば、小麦粉)および水を、穀粉に存在するアルビノキシランの酵素学的な分解を減少および防止し得るタンパク質と混合する工程を包含する。
【0012】
この生地は、最初に穀粉を水と混合する工程、次いで、タンパク質を添加する工程によって調製され得る。あるいは、この生地は、最初に穀粉およびタンパク質を混合する工程、次いで、水を添加する工程によって調製され得る。あるいは、この生地は、最初に水およびタンパク質を混合する工程、次いで穀粉を添加する工程によって調製され得る。これらのプロセス工程の組み合わせはまた、本発明に包含される。
【0013】
得られた生地は、穀粉、水およびタンパク質以外の成分を含み得る。例えば、生地は、以下の1つ以上の添加量を含み得る:塩、糖、果実、香辛料、キシラナーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、オキシダーゼ、リパーゼのような酵素、パン改良剤など。
【0014】
本発明の1つの局面に従って、本発明のプロセスによって調製される冷却生地が提供される。
【0015】
本発明の1つの局面に従って、本発明のプロセスからか、または本発明の冷却生地から調製されるベーカリー製品が提供される。
【0016】
本発明の1つの局面に従って、穀粉、水、および穀粉に存在するアラビノキシランの酵素学的な分解を減少または防止し得るタンパク質を含む冷却生地が提供される。
【0017】
本発明の1つの局面に従って、冷却生地におけるシロップ化を防止するための、穀類(例えば、コムギ)の内在性キシラナーゼインヒビターの使用が提供される。
【0018】
簡単に参照をするために、本発明のこれらの局面およびさらなる局面は、適切な節の見出しにおいて、そこで議論される。しかし、各節における教示は、各特定の節に必ずしも限定されない。
【0019】
(好ましい局面)
好ましくは、タンパク質は、酵素インヒビターである。
【0020】
好ましくは、タンパク質は、AXに対して有害な影響を有する少なくとも1つの酵素に対して阻害的な影響を有する。
【0021】
好ましくは、タンパク質は、キシラナーゼインヒビターである。
【0022】
好ましくは、キシラナーゼインヒビターは、穀物の内在性キシラナーゼインヒビターである。
【0023】
穀物の内在性キシラナーゼインヒビターは、適切な穀物(例えば、コムギ、ライムギなど)から入手可能であり得る。
【0024】
好ましくは、キシラナーゼインヒビターは、コムギの内在性キシラナーゼインヒビターである。
【0025】
好ましくは、穀粉は、小麦粉である。
・本発明は、以下もまた提供し得る:
・(項目1) 冷却生地を形成するプロセスであって、当該プロセスは、穀粉および水を、当該穀粉中に存在するアラビノキシランの酵素学的な分解を減少または防止し得るタンパク質と混合する工程を包含する、プロセス。
・(項目2) 冷却生地を形成するプロセスであって、当該プロセスは、穀粉および水を、アラビノキシランに対して有害な影響を有する少なくとも1つの酵素に対して阻害的な影響を有するタンパク質と混合する工程を包含する、プロセス。
・(項目3) 上記タンパク質が、酵素インヒビターである、項目1または項目2に記載のプロセス。
・(項目4) 上記タンパク質が、キシラナーゼインヒビターである、項目1〜3のいずれか1項に記載のプロセス。
・(項目5) 上記キシラナーゼインヒビターが、穀物の内在性キシラナーゼインヒビターである、項目4に記載のプロセス。
・(項目6) 項目1〜5のいずれか1項に記載のプロセスによって調製される、冷却生地。
・(項目7) 項目1〜5のいずれか1つに記載のプロセスからか、または項目6に記載の冷却生地から調製される、ベーカリー製品。
・(項目8) 穀粉と、水と、当該穀粉に存在するアラビノキシランの酵素学的な分解を減少または防止し得るタンパク質とを含む、冷却生地。
・(項目9) 上記タンパク質が、酵素インヒビターである、項目8に記載の冷却生地。
・(項目10) 上記タンパク質が、アラビノキシランに対して有害な影響を有する少なくとも1つの酵素に対して阻害的な影響を有する、項目8または項目9に記載の冷却生地。
・(項目11) 上記タンパク質が、キシラナーゼインヒビターである、項目8〜10のいずれか1項に記載の冷却生地。
・(項目12) 上記キシラナーゼインヒビターが、穀物の内在性キシラナーゼインヒビターである、項目11に記載の冷却生地。
・(項目13) 穀物の内在性キシラナーゼインヒビターの使用であって、冷却生地におけるシロップ化を防止するための、使用。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、グラフを示す。
【図2】図2は、生地を例示する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(いくつかの利点)
本発明の冷却生地の1つの主要な利点は、この生地は、シロップ化のレベルが減少しているか、またはシロップ化していないことである。
【0028】
本発明の冷却生地の別の利点は、調製が簡単であることである。
【0029】
本発明の冷却生地の別の利点は、生地が、単に本発明に従う特定のタンパク質または特定のタンパク質の組み合わせを添加することによって、特定の必要要件に合うように簡単に調製され得ることである。
【0030】
本発明の冷却生地の別の利点は、タンパク質(特に、穀物の内在性キシラナーゼインヒビター)の添加が、粉のベーキング吸収(baking absorption)、生地の混合時の性質(mixing properties)、生地の取り扱い時の性質(handling properties)、生地の機械適性のうちの1つ以上に対しても、生地内における水分分布に対しても影響を与えないかもしれないことである。
【0031】
(小麦粉)
本明細書中で使用される用語「小麦粉」は、コムギの細かく砕いたあらびき粉と同義である。しかし、好ましくは、この用語は、コムギそれ自体から得られた、そして他の穀物由来ではない粉末を意味する。従って、別に表現されない限り、本明細書中で使用される「小麦粉」への言及は、好ましくは、小麦粉それ自体への、および媒体(例えば、生地)に存在する場合、小麦粉への言及を意味する。
【0032】
(タンパク質)
本発明の冷却生地の本質的な特徴は、穀粉に存在するアラビノキシランの酵素学的な分解を減少または防止し得るタンパク質の存在である。
【0033】
このタンパク質は、穀粉に存在するアラビノキシランの酵素学的な分解を減少または防止し得る任意の適切なタンパク質であり得る。
【0034】
このタンパク質は、適切な供給源から単離されたタンパク質であってもよいし、または合成的に作製されてもよいし、または組換えDNA技術の使用によって調製されてもよい。このタンパク質はまた、このようなタンパク質の変異体または改変体であり得る。
【0035】
(キシラナーゼ)
キシラナーゼは、数年間、製パンに使用されている。
【0036】
キシラナーゼは、特に、穀物(例えば、コムギ)に存在し得るアラビノキシランの解重合を触媒し得る。例えば、特に、穀物(例えば、コムギ)に存在し得る、水不溶性ペントサン(WIP)の可溶化を触媒し得、そして水溶性ペントサン(WSP)の解重合を触媒し得る酵素である。
【0037】
これに関して、穀粉(例えば、小麦粉)が、胚乳細胞壁由来のアラビノキシランを含むことが知られている。この粉におけるアラビノキシランの量は、この粉の起源に依存して異なる。例えば、Rouauら、Journal of Cereal Science(1994),19,259〜272 Effect of an Enzyme Preparation Containing Pentosanases on the Bread−making Quality of Flour in Relation to Changes in Pentosan Properties;FisherおよびStone,(1986) Advances in Cereal Technology,VIII巻(Y Pomeranz編) AACC,St Paul,Minnesota,207〜295;ならびにMeuserおよびSuckow(1986),Chemistry and Physics of Baking(J.M.V.Blanchard,P J FrasierおよびT
Gillard編) Royal Society of Chemistry,London,42〜61を参照のこと。典型的には、アラビノキシランの量は、2〜5%(穀粉乾燥重量に基づく(w/w))と変動し得る。
【0038】
FincherおよびStone(1986)は、胚乳細胞壁中の多糖の70%が、アラビノキシランであると報告する。アラビノキシランの特有の特徴は、水と結合する能力である。アラビノキシランの一部は、水不溶性ペントサン(WIP)であり、そして一部は、水溶性ペントサン(WSP)である。実験結果は、高分子量(HMW)水溶性ポリマーへのWIPの分解とパンの体積との間の相関を示した。
【0039】
ベーカリー製品の生産の間に、適切な用量におけるキシラナーゼの使用が、より安定な生地の系(典型的には、塩、粉、酵母および水を含む)ならびにより良い体積の、例えば、膨らんだパンを生じ得ることが知られている。
【0040】
この点で、パンの体積を増大させるために良いキシラナーゼは、キシロースオリゴマーへとWSPをさらに分解せずに、WIPを可溶化して増大した粘度を生地の液体に与えるべきである。低分子量(LMW)WSPへのWIPのこの分解は、生地の性質には有害であると考えられ、そして粘着性(stickiness)を生じ得る(Rouauら、およびMcCleary(1986) Internationl Journal of Biological Macro Molecules,8,349−354)。
【0041】
US−A−5306633は、Bacillus subtilis株から得られたキシラナーゼを開示する。明らかに、このキシラナーゼは、粘着性を改善し得、そしてパンおよびパンを含む焼成品の体積を増大させ得る。
【0042】
Bacillus subtilis由来の別のキシラナーゼは、単離され、そして配列決定されている(Paice,M.G.,Bourbonnais,R.,Desrochers,M.,Jurasek,L.およびYaguchi,M.A xylanase gene from Bacillus subtilis:nucleotide sequence and comparison with B.pumilus gene,Arch.Microbiol.144,201〜206(1986)を参照のこと)。
【0043】
現在まで、真菌のキシラナーゼは、典型的にベーキングに使用されている。例えば、J Maatら(Xylans and Xylanases,J Visserら編,349〜360,Xylanases and their application in bakery)は、Aspergillus niger var.awamori株によって産生されたβ−1,4−キシラナーゼを教示する。これらの著者に従って、真菌のキシラナーゼは、他の真菌の供給源または細菌の供給源由来のキシラナーゼに見られ得るような生地の取り扱いに対する負の副作用(生地の粘着性)を生じずに、パンの比体積の増大において効果的である。
【0044】
キシラナーゼの有益な効果が報告されているにもかかわらず、発明者らは、ここで、他の有益な効果が、キシラナーゼのインヒビターを使用することによって得られ得ることを見出した。
【0045】
本発明の好ましい局面において、このインヒビターは、穀粉に存在するアラビノキシランの酵素学的な分解を減少または防止し得る。
【0046】
本発明の非常に好ましい局面において、このインヒビターは、穀粉に存在するアラビノキシランの酵素学的な分解を減少または防止し得るタンパク質である。
【0047】
本発明の非常に好ましい局面において、このインヒビターは、穀粉に存在するアラビノキシランの酵素学的な分解を減少または防止し得るキシラナーゼインヒビターである。
【0048】
エンド−β−1,4−キシラナーゼ活性を決定するためのアッセイを、以下に示す。
【0049】
(キシラナーゼアッセイ(エンド−β−1,4−キシラナーゼ活性))
キシラナーゼサンプルを、クエン酸(0.1M)−リン酸水素二ナトリウム(0.2M)緩衝液(pH5.0)中に希釈し、最後のアッセイにおいて近似の光学密度(OD)=0.7を得た。サンプルの3つの希釈液および規定の活性を有する内部標準を、40℃で5分間、サーモスタッドで調温する。時間が5分になったら、1粒のXylazymeタブ(tab)(架橋化、色素標識キシラン基質)を、酵素溶液に加える。時間が15分になったら、(または、サンプルに存在するキシラナーゼ活性に依存して、いくつかの状況ではより長い)、反応を、10mlの2%TRISを添加することによって終わらせる。この反応混合物を、遠心分離し、そして上清のODを、590nmにおいて測定する。希釈およびキシラナーゼの量を考慮にいれて、サンプルの活性(TXU、全キシラナーゼユニット)を、標準に対して相対的に計算し得る。
【0050】
(キシラナーゼインヒビター)
上記に示されるように、本発明の好ましい局面において、穀粉に存在するアラビノキシランの酵素学的な分解を減少または分解し得る因子は、タンパク質、より好ましくはキシラナーゼインヒビターである。
【0051】
キシラナーゼインヒビターは、任意の適切なキシラナーゼインヒビターであり得る。適切なキシラナーゼインヒビターのスクリーニングのための適切なアッセイは、以後の節に示される。
【0052】
例としては、キシラナーゼインヒビターは、WO−A−98/49278に記載されるインヒビターならびに/またはRouau,X.およびSurget,A.(1998),McLanuchlan,R.ら,(1999)に記載されるキシラナーゼインヒビター、ならびに/または英国特許出願第9828599.2(1998年12月23日出願)、英国特許出願第9907805.7(1999年4月6日出願)および英国特許出願第9908645.6(1999年4月15日出願)に記載されるキシラナーゼインヒビターであり得る。
【0053】
(キシラナーゼインヒビターアッセイ)
100μlの候補のインヒビター画分、250μlのキシラナーゼ溶液(12TXU 微生物キシラナーゼ/mlを含む)および650μlの緩衝液(0.1M クエン酸−0.2M リン酸水素二ナトリウム緩衝液(pH5.0))を混合する。この混合物を、40.0℃で5分間、サーモスタッド調温する。時間が5分になったら、Xylazymeタブを加える。時間が15分になったら、反応を、10mlの2%TRISを添加することによって終わらせる。この反応混合物を、遠心分離(3500g、10分間、室温)し、そして上清を、590nmにおいて測定する。この阻害を、ブランクと比較した残存活性として計算する。このブランクを、100μlのインヒビターを、100μlの緩衝液(0.1M クエン酸−0.2M リン酸水素二ナトリウム緩衝液(pH5.0))で置換したことを除いて、同じ方法で調製する。
【0054】
(特定のキシラナーゼインヒビター)
示されるように、本発明に従って使用され得るキシラナーゼインヒビターは、英国特許出願第9828599.2(1998年12月23日出願)、英国特許出願第9907805.7(1999年4月6日出願)および英国特許出願第9908645.6(1999年4月15日出願)に記載されるキシラナーゼインヒビターである。
【0055】
この内在性エンド−β−1,4−キシラナーゼインヒビターは、小麦粉から入手可能である。このインヒビターは、約40kDa(SDSまたはMSによって測定されるように)の分子量を有し、そして約8から約9.5のpIを有するジペプチドである。
【0056】
今日までの配列解析は、インヒビターが、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6および/または配列番号7として表される、少なくとも1つ以上の配列を有することを明らかにした。
【0057】
従って、本発明は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6および/もしくは配列番号7、またはそれらの改変体、相同体、またはフラグメントとして表される少なくとも1つ以上の配列を含む、エンド−β−1,4−キシラナーゼインヒビターを含む。
【0058】
用語「改変体」または「相同体」は、配列の対立遺伝子改変体と同義である。
【0059】
本発明のインヒビターに関連する用語「改変体」、「相同体」、または「フラグメント」は、この配列からか、またはこの配列への1つ(またはそれより多く)のアミノ酸の任意の置換(substitiution)、変異、改変、置換(replacement)、欠失または付加を含むが、但し、得られるアミノ酸配列は、キシラナーゼ阻害作用を有し、好ましくは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6および/または配列番号7として表される少なくとも1つ以上の配列を有するインヒビターと少なくとも同じ活性を有する。特に、用語「相同体」は、得られたインヒビターは、構造および/または機能に関する相同性を含むが、但し、得られたインヒビターは、キシラナーゼ阻害作用を有し、好ましくは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6および/または配列番号7として表される少なくとも1つ以上の配列を有するインヒビターと少なくとも同じ活性を有する。配列の相同性(すなわち、配列類似性または配列同一性)に関して、添付された配列表に示される配列に対して好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%の相同性がある。添付された配列表に示される配列に対してより好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%の相同性がある。
【0060】
特に、本明細書中で使用される用語「相同性」は、用語「同一性」と同一視され得る。ここで、本発明のヌクレオチド配列および本発明のアミノ酸配列に関する配列相同性は、別の配列と任意の1つ以上の配列との単なる「眼球(eyeball)」での比較(すなわち、厳密な比較)によって決定されて、他の配列が、任意の1つ以上の配列に少なくとも75%の同一性があるかどうかを判断し得る。相対的な配列相同性(すなわち、配列同一性)はまた、2つ以上の配列間の相同性%を計算し得る市販のコンピュータープログラムによって決定され得る。このようなコンピュータープログラムの典型例としては、CLUSTALである。
【0061】
それ故、相同性の比較は、目視によって行われ得る。しかし、より通常には、相同性の比較は、容易に入手できる配列比較プログラムに助けを借りて行なわれる。これらの市販のコンピュータープログラムは、2つ以上の配列間の相同性%を計算し得る。
【0062】
相同性%は、連続する配列にわたって計算され得る(すなわち、1つの配列は他の配列と整列され、そして1つの配列における各アミノ酸は、他の配列における対応するアミノ酸と直接的に比較される(一回に、1つの残基)。これは、「非ギャプ(ungapped)」整列と呼ばれる。典型的には、このような非ギャプ整列は、比較的少数の残基(例えば、50個未満の連続アミノ酸)にわたってのみ行なわれる。
【0063】
これは、非常に簡単なかつ一貫した方法であるが、例えば、他の点では同一な対の配列において、1つの挿入または欠失が、以後のアミノ酸残基を整列させないことを引き起こし、従って、全体の整列が行なわれる場合、潜在的に、相同性の%大きな減少を起こすことを考慮に入れていない。結果的に、大部分の配列比較法は、相同性スコア全体に過度にペナルティを科さずに、可能な挿入および欠失を考慮に入れる最適な整列を生じるように設計される。これは、局所的な相同性を最大化しようとして、配列整列に「ギャップ」を挿入することによって達成される。
【0064】
しかし、これらのより複雑な方法は、整列に生じる各ギャップに「ギャップペナルティ(gap penalties)」を割り当て、その結果、同じ数の同一のアミノ酸について、できるだけ少ないギャップを有する配列の整列(二つの比較される配列間のより高い関連性を反映する)は、多くのギャップを有する配列整列より高いスコアを達成する。ギャップの存在に相対的に高いコストを科し、そしてギャップ中の後に続く各残基により小さいペナルティを科す、「アフィンギャップコスト」(affine gap costs)が、典型的に使用される。これは、最も一般的に使用される、ギャップスコアリングシステム(gap scoring system)である。高いギャップペナルティは、もちろん、より少ないギャップを有する最適化整列を生じる。大抵の整列プログラムは、ギャップペナルティが改変されるのを可能にする。しかし配列比較のためにこのようなソフトウェアを使用する場合、デフォルト値を使用するのが好ましい。例えば、GCG Wisconsin Bestfitパッケージ(以下を参照のこと)を使用する場合、アミノ酸配列のためのデフォルトギャップペナルティは、ギャップに対して−12および各伸長に対して−4である。
【0065】
従って、最大相同性%の計算は、最初に、ギャップペナルティを考慮に入れた、最適整列の産生を必要とする。このような整列を実行するための最適なコンピュータープログラムは、GCG Wisconsin Bestfitパッケージ(University of Wisconsin,U.S.A.;Devereuxら、1984,Nucleic Acids Research 12:387)である。配列比較を実行し得る他のソフトウェアの例としては、BLASTパッケージ(Ausubelら,1999 ibid−18章を参照のこと)、FASTA(Atschulら,1990,J.Mol.Biol.403〜410)およびGENEWORKSパッケージという比較ツールが挙げられるがこれらに限定されない。BLASTおよびFASTAの両方は、オフライン検索およびオンライン検索が利用可能である(Ausubelら,1999 同書,7−58〜7−60を参照のこと)。しかし、GCG Bestfitプログラムを使用するのが好ましい。
【0066】
最終的な相同性%は、同一性に関して測定され得るが、整列プロセスそれ自身は、典型的に、絶対的な対比較に基づかない。代わりに、縮尺化(scaled)類似性スコアマトリックスは、一般的に、スコアを、化学的な類似性または進化距離に基づいて各2つ1組の比較に割り当てるのに使用される。一般に使用されるこのようなマトリックスの例は、BLOSUM62マトリックス(BLASTパッケージのプログラムのためのデフォルトマトリックス)である。GCG Wisconsinプログラムは、一般に、公開デフォルト値か、またはカスタムシンボル(custom symbol)比較表が供給される場合は、それのいずれかを使用する(さらなる詳細については使用者取り扱い説明書を参照のこと)。GCGパッケージには公開デフォルト値を使用し、または、他のソフトウェアの場合は、デフォルトマトリックス(例えば、BLOSUM62)を使用するのが好ましい。
【0067】
一旦、ソフトウェアが、最適整列を産生すると、相同性%、好ましくは配列同一性%を計算することが可能である。このソフトウェアは、典型的に、配列比較の一部としてこれを行ない、そして数的な結果を産生する。
【0068】
好ましくは、配列比較は、デフォルトパラメーターを使用するhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLASTで提供される単純なBLAST検索アルゴリズムを使用して行なわれる。
【0069】
本発明はまた、本明細書中に表される、示されたアミノ酸配列のフラグメントおよびそれらの改変体を含む。適切なフラグメントは、大きさが少なくとも5(例えば、少なくとも10、12、15または20アミノ酸)である。
【0070】
本明細書中に示される配列はまた、保存性置換を含む、1つ以上の(例えば、少なくとも2、3、5または10)の置換、欠失または挿入を含むように改変され得る。
【0071】
保存性置換は保存的な置換を示す以下の表に従って作製され得る。ここで、2番目の列中の同じ枠内のアミノ酸および好ましくは3番目の列中の同じ行のアミノ酸は、互いに置換され得る。
【0072】
【表6】

(ベーカリー製品)
本発明は、食料品(特に冷却生地からのベーカリー製品)を調製するためのプロセスを提供する。本発明に従う典型的なベーカリー(焼成)製品としては、例えば、ローフ、ロールパン、バン、ピザ生地などといったパン、プレッツェル、トルティヤ、ケーキ、クッキー、ビスケット、クラッカーなどが挙げられる。
【0073】
(実施例の節への導入)
本発明は、実施例のみによって、および図面を参照して、ここで記載される。
【0074】
より詳細には:
図1は、添加されたコムギの内在性キシラン分解性(xylanolytic)抽出物の関数としてのキシラナーゼアッセイにおけるOD増加を示すグラフである;そして、
図2は、実施例3に従って作製された4つの生地を例示する。
【実施例】
【0075】
(実施例1:コムギの内在性キシラナーゼインヒビターの精製)
2kgの小麦粉(Danish reform,バッチ99056)を、1:2の粉:水の割合を使用して、10分間攪拌しながら、水で抽出した。この可溶性の内在性キシラナーゼインヒビターを、遠心分離によって、粉−水スラリーから分離した。この抽出および遠心分離を4℃で行なった。このインヒビターを以下のクロマトグラフィー技術および濃縮(up−concentration)技術によって、水抽出物から精製した:HPLC−SEC、HPLC−CIEC、ロータリーエバポレーション、HPLC−HIC、HPLC−SECおよびロータリーエバポレーション。キシラナーゼインヒビターは、上記されるキシラナーゼインヒビターアッセイを使用して、精製の間モニターされ得る。得られたインヒビターの量を決定するために、以下のインヒビター定量方法を使用した。
【0076】
(インヒビター定量方法)
1XIU(キシラナーゼインヒビター単位)は、以下に記載される条件下で、1TXUから0.5TXUまで減少させるインヒビターの量として定義される。
【0077】
1000μlの反応体積を反応させるための、12TXU/mlを含む250μlのキシラナーゼ溶液、100μlキシラナーゼインヒビター溶液およびクエン酸(0.1M)−リン酸水素二ナトリウム(0.2M)緩衝液(pH5.0)を、40℃で5分間、プレインキュベートする。時間が5分になったら、1粒のXylazyme(Megazyme Ireland)タブレットを、反応混合液に添加する。時間が15分になったら、反応を10mlの2%TRIS/NaOH(pH12)の添加によって終わらせる。この溶液を濾過し、そして上清の吸光度を、590nmで測定する。上記のアッセイにおいていくつかの異なる濃度のインヒビターを選択することによって、OD対インヒビター濃度のプロットを作製することが可能である。このプロットからの傾き(a)および切片(b)ならびにキシラナーゼの濃度を使用することによって、所定のインヒビター溶液におけるXIUの量を計算することが可能である(方程式1)。
【0078】
方程式1 ((b/2)/−a)/アッセイにおけるTXU
内在性キシラナーゼインヒビター精製から、以下のインヒビター収量を回収した(表1)。このインヒビターサンプルは、純粋であり、そしてコムギの内在性キシラン分解性活性がなかった。
【0079】
【表1】

(実施例2:精製されたコムギの内在性キシラナーゼインヒビターを使用する、コムギの内在性キシラン分解性活性の阻害)
5gの粉(バッチ99056、590XIU/gを含む)を、攪拌によって15mlの冷水で10分間抽出した。この可溶性キシラン分解性酵素を、遠心分離(10分間、4℃、10000g)によって、粉−水スリラーから分離した。この上清は、抽出可能なキシラン分解性酵素を含んだ。12mlのキシラン分解性抽出物が得られた。
【0080】
異なる量のキシラン分解性の抽出物を、さらなる精製されたコムギの内在性キシラナーゼインヒビターを有す、および有さない、Xylazymeの基質(Megazyme,Ireland)と共にインキュベートした。詳細な実験設定は、以下を参照のこと(表2)。この精製されたインヒビターは、1200XIU/mlを含んだ。全ての試験において、1000μlの反応体積を、クエン酸(0.1M)−リン酸水素二ナトリウム(0.2M)緩衝液(pH5.0)の添加によって達成した。インキュベートを、6時間30分後に、5mlの2%のTRIS/NaOH(pH12)の添加によって終わらせた。
【0081】
【表2】

この精製されたコムギの内在性キシラナーゼインヒビターは、コムギの抽出可能なキシラン分解性酵素を、非常に効率的に阻害し得る。抽出されたこのキシラン分解性酵素は、アッセイにおいて直線的なOD増加を生じ得る(図1を参照のこと)。
【0082】
(実施例3:内在性キシラナーゼインヒビターを使用する生地の調製および評価)
生地を、以下の配合法(表3)および粉2000063を使用して調製する。
【0083】
【表3】

上記の生地の混合は、以下の混合データを示した。
【0084】
【表4】

上記の生地(表3)を、ファリノグラフミキサー(Farinograph mixer)における5分間の混合によって作製した。
【0085】
生地を、10℃で、密封された容器(CO雰囲気が適用された)に10日間保存した。生地を0日目および10日目に視覚的に評価した。表5において、この結果を示す。さらに、結果をまた、図2に視覚化する。図2は、茶色がかったシロップが、生地Aおよび生地Dと比べて、キシラナーゼインヒビターレベルの10倍を含む生地には存在せず、そしてキシラナーゼインヒビターレベルの2倍を含む生地にわずかに存在するのみであることを明らかに示す。
【0086】
【表5】

上の明細書において言及される全ての刊行物は、本明細書中に参考として援用される。本発明の記載される方法および系の種々の改変およびバリエーションは、本発明の趣旨および精神を逸脱することなく当業者に明白である。本発明は、特定の好ましい実施形態と関連して記載されているが、本願本発明が、このような特定の実施形態に過度に限定されるべきでないことは、理解されるべきである。実際は、生化学および生物工学または関連する分野における当業者に明白である、本発明を実施するために記載される形態の種々の改変は、特許請求の範囲の範囲内にあることが意図される。
【0087】
【表7】

【0088】
(配列表)
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書および図面に記載される、発明。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−159993(P2009−159993A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104567(P2009−104567)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【分割の表示】特願2001−552719(P2001−552719)の分割
【原出願日】平成13年1月17日(2001.1.17)
【出願人】(397060588)ダニスコ エイ/エス (67)
【Fターム(参考)】