説明

冷却装置

【課題】低コストで冷却液への溶存酸素の影響が抑制できる冷却装置を提供すること。
【解決手段】冷却液流路内を循環させることで内燃機関を冷却する冷却液2と、冷却液の一時貯蔵などを行うリザーバタンク1とを有する。リザーバタンク1は冷却液2よりも密度が小さく冷却液2と分離するシリコンオイル13を内部に備える。つまり、冷却液2における溶存酸素量を少なくする目的で、シリコンオイル13を冷却液2に浮かし酸素を含む空気と冷却液2との接触を抑制している。冷却液の温度変化により、冷却液はリザーバタンク内に出入りし、リザーバタンク内に新たな空気が供給されることになる点では従来通りであるが、冷却液の表面には液体状の保護液が密度差により常に浮かんだ状態になっており、冷却液に空気が直接接触・溶解することが抑制されている。保護液は液体なので冷却液の表面を隙間なく覆うことができ、空気との直接的な接触を効果的に遮断できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの内燃機関を冷却液にて冷却する冷却装置に関し、詳しくは、冷却液の温度変化によりリザーバタンクに出入りする際に外部から酸素を冷却液中に取り込む量を少なくできる冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などに用いられる内燃機関を冷却する冷却装置の一種として水冷式の冷却装置がある。水冷式の冷却装置は水などを主成分とする冷却液(LLCなど)を熱媒体として用い冷却液流路内を循環させている。この冷却液は内燃機関の運転状況や外部環境の変化に応じて温度が変化する際に体積変化を伴う結果、冷却液流路内で冷却液の過不足が生じる。この体積変化に起因する過不足を吸収するために、冷却液を一時的に貯留できるリザーバタンクを冷却装置に設けている。
【0003】
従って、リザーバタンク内には冷却液が頻繁に出入りするので、リザーバタンク内の空気量も大きく変化することになり、空気中の構成成分も冷却液中に溶解することになる。ここで、冷却液中に空気(特に酸素)が溶解すると、冷却液中のエチレングリコールなどの凝固点降下剤や添加剤、冷却液流路を劣化させるなどの不都合が生じるおそれがある。
【0004】
この問題を解決するための従来技術としては、冷却液中の溶存酸素量を測定した上で、酸素濃度が高い場合に、酸素低減機構により酸素を除去する装置が開示されている(特許文献1)。また、冷却液中に不活性ガスを供給するガス供給手段を採用した装置が開示されている(特許文献2)。
【特許文献1】特開平8−121167号公報
【特許文献2】特開2004−69153号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に開示された装置は、効果的ではあるものの新たな機構を設ける必要があり、コストや装置の配置などで制限が大きかった。
【0006】
本発明は上記実情に鑑み為されたものであり、新たに独立した機構を採用することなく且つ低コストで冷却液への溶存酸素の影響が抑制できる冷却装置を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する目的で本発明者らは鋭意研究を行った結果、以下の発明を完成した。すなわち、本発明の冷却装置は、冷却液流路と、該冷却液流路内を循環させることで内燃機関を冷却する冷却液と、温度変化により該冷却液流路内で生じた該冷却液の体積増加/体積減少に応じて該冷却液の一時貯蔵/不足分供給を行うリザーバタンクとを有する。
【0008】
そして、前記リザーバタンクは、前記冷却液よりも密度が小さく、使用温度範囲で該冷却液との間で分離する保護液を内部に備えることを特徴とする。ここで、保護液としてはシリコンオイルが例示される。
【0009】
つまり、冷却液内における溶存酸素量を少なくする目的で、リザーバタンク内にて酸素を含む空気と冷却液との直接的な接触を抑制する手段を採用している。その手段として冷却液とは混和せず、且つ、冷却液上に浮く液体である保護液を採用することで、リザーバタンク内の形状にかかわらず冷却液の表面を追随性よく覆って、冷却液と空気との接触を抑制することが可能になる。
【0010】
そして、前記リザーバタンクは、前記冷却液及び前記保護液のうち、該冷却液のみ選択的に透過する選択透過部材を備えることが望ましい。冷却液流路が破損するなどの万が一の場合や、冷却液の交換時に、リザーバタンク内のすべての冷却液がリザーバタンクの外部に流出しても冷却液のみを選択的に透過させる選択透過部材により、保護液が外部に流出するおそれが少なくできる。
【0011】
前記選択透過部材としては、所定範囲に孔径が制御された網目状部材又は多孔質膜が例示される。更に、選択透過部材を補強するために、前記リザーバタンクは、前記選択透過部材の孔径よりも大きな孔径をもつ網目状の補強部材を備えることが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の冷却装置は上記構成を有することで、以下の作用効果を発揮する。すなわち、冷却液流路内の冷却液の温度変化により、冷却液はリザーバタンク内に出入りして、結果として、リザーバタンク内に新たな空気が供給されることになる点では従来通りであるが、冷却液の表面には液体状の保護液が密度差により常に浮かんだ状態になっており、冷却液に空気が直接接触・溶解することが抑制されている。保護液は液体なので冷却液の表面を隙間なく覆うことができ、空気との直接的な接触を効果的に遮断できる。また、本発明の冷却装置は従来のリザーバタンクに対して、ほぼそのまま適用することができるので空間効率に優れる。また、リザーバタンクに冷却液を補充する場合でも通常通り冷却液をリザーバタンク内に入れるだけでその密度差により自動的に保護液の下部に冷却液が移動するので何らの手間をかける必要もない。
【0013】
そして、選択透過部材を設けた場合、リザーバタンクから冷却液流路内に保護液が移動するおそれを無くすことができるので、保護液として採用できる物質の範囲を広げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の冷却装置について以下、実施形態に基づき詳細に説明する。本実施形態の冷却装置は冷却液流路と冷却液とリザーバタンクとを有する。冷却液流路は特に限定されず、内燃機関との間で熱交換を行う内燃機関のシリンダブロックなどに形成された熱交換器、空気などの外部環境との間で熱交換を行うラジエータなどの熱交換器も含んで冷却液が流れる回路を形成する。
【0015】
冷却液についても特に限定しないが、LLCなどと称される一般的なものが採用できる。通常、LLCは水を主体とし、エチレングリコールなどの凝固点降下剤や、酸化防止剤、防錆剤など種々の添加剤が含有されている。
【0016】
リザーバタンクは冷却液流路内での冷却液の温度変化により生じる体積変化を吸収する部材である。すなわち、リザーバタンクは中空の部材であって、相対的に下方の部分にて冷却液流路に接続されている。そして、膨張により増加した冷却液はリザーバタンクに流入し、反対に収縮により減少した冷却液の量を補うためにリザーバタンク内から冷却液が冷却液流路に流れ込む。リザーバタンクの上部には内外部を連通する孔が形成され、内部の圧力を一定にしている(つまり、リザーバタンク内には空気が自由に出入りできる)。
【0017】
リザーバタンクは保護液を内部に備える。保護液は冷却液よりも比重が小さく、冷却液と混じり合わない液体である。例えば、シリコンオイル、鉱油などから選択される。特に粘度が高いことが望ましい。また、沸点が高いことが望ましい。例えば、想定される使用温度範囲にて充分に低い蒸気圧を示すものである。また、自身が化学的に安定であることが望ましい。従って、シリコンオイルを採用することが望ましい。
【0018】
リザーバタンクの底部近傍に選択透過部材を設けることが望ましい。選択透過部材はリザーバタンクの内部を2以上に区画するように配設されている。具体的には、リザーバタンクの内部に入れられている保護液が冷却液流路に流出しないように、通常の使用範囲では保護液が接触しないような位置に配置されることが望ましい。例えば、冷却液の温度が最も低い内燃機関作動前における液面から、冷却液流路に接続される部分に至るまでの間に設けることが望ましい。選択透過部材はなるべく保護液に接触させないことで選択性が向上するからである。
【0019】
選択透過部材としては多数の孔が形成された膜状部材、多数の網目が形成された網目状部材、多孔質部材などが例示される。これらの部材に対して、冷却液との親和性を向上させ、保護液との親和性を低下させることで、選択的に冷却液を透過させることができる。例えば、親水性を向上させたり、更には疎油性を付与したりすることで、冷却液を選択的に透過できるようになる。具体的には植物繊維、合成繊維、合成樹脂などで表面が親水性のもの、又は親水性に加工したもの、例えば、セルロース、毛、絹、半合成セルロース、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレンなどから形成された多孔質膜(紙、布、不織布などの繊維を固めたものも含む)、金属製のメッシュが挙げられる。
【0020】
また、冷却液に比べて保護液の粘度を高くして粘度の差を利用して選択的に透過させる部材を採用できる。例えば、孔径を所定値以下に制御することで、粘度が高い保護液の通過を実質的に無くすることができる。この場合であっても親和性を差別化することで透過の選択性を向上できる。
【0021】
更に、選択透過部材は通常の使用条件下で冷却液の通過を阻害しないことが望ましいので、なるべく薄い部材であることが望ましい。従って、充分な強度が得られない場合があるので、その場合には選択透過部材がもつ孔よりも孔径が大きい部材(例えば網状部材)であって、強度が高い部材を補強部材として重ね合わせることで補強できる。
【実施例】
【0022】
本発明の冷却装置について実施例に基づき、以下、図面を参照しながら説明する。本実施例の冷却装置は、図1に示すように、冷却液流路(図略)と冷却液2とリザーバタンク1とを有する。冷却液2はいわゆるLLCと称されるものである。リザーバタンク1はリザーバタンク本体11とキャップ12と保護液13とメッシュ14とホース15とを備える。
【0023】
リザーバタンク本体11は中空の部材であり、上部及び下部にて開口する。上部はキャップ12にて開閉自在になっており、下部にはホース15が接続されている。リザーバタンク本体11の下部近傍にはメッシュ14が配設されている。キャップ12は空気抜きの孔や弁が形成されており、リザーバタンク本体11内へ空気を概ね自由に出入りさせている。
【0024】
保護液13はシリコンオイルである。メッシュ14はメンブランフィルター(例えば、孔径0.45μm、アドバンテック社製:強度が足りない場合には金網などで補強できる)などが採用できる。ホース15は一端部がリザーバタンク本体11の下部開口部に接続され、他方が冷却液流路に接続されている。
【0025】
以上の構成を有することから、本実施例の冷却装置は以下の作用効果を発揮する。すなわち、エンジン停止時などの冷却液の温度が低い場合には冷却液が収縮して冷却液流路内に冷却液が充分にない状態になるので、リザーバタンク本体11内の冷却液2が冷却液流路に流出する(図1(a))。その後、エンジンを始動すると、冷却液2の温度が上昇し冷却液2の体積が増加する。冷却液流路からあふれ出した冷却液2はホース15を介してリザーバタンク本体11に流出する(図1(b))。
【0026】
このように、エンジンの始動・停止を繰り返したりすることで、リザーバタンク本体11内から冷却液2が出たり入ったりすることになる。その場合に、リザーバタンク本体11の残余の空間16の体積も変化してリザーバタンク本体11内への空気の出入りが繰り返される。
【0027】
しかしながら、リザーバタンク本体11内では冷却液2の上面には常に保護液13が浮いているので、冷却液2は空間16にある空気に直接触れることはなく、冷却液2に酸素が溶解することはほとんど無くなる。従って、冷却液2に対する酸素の影響は最小限にすることができる。また、温度が高い冷却液2がリザーバタンク本体11内に流入したとしても、冷却液2の表面には保護液13にて覆われているので冷却液2が蒸発により減量するおそれが小さくなる。
【0028】
ここで、メッシュ14は冷却液2に親和性をもつので、冷却液2は容易に通過できるが、保護液13を通過させることはない。従って、何らかの原因(予期せぬ原因や冷却液の交換時など)で冷却液流路から冷却液2が無くなった場合でも、リザーバタンク本体11内の冷却液2は、冷却を確実に行うために、最後の少量に至るまで冷却液流路に流出するが保護液13はメッシュ14に阻まれて冷却液流路に流出することはない(図1(c))。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本実施例の冷却装置を示す断面概略図である。
【符号の説明】
【0030】
1…リザーバタンク
11…リザーバタンク本体 12…キャップ 13…保護液 14…メッシュ 15…ホース 16…空間
2…冷却液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却液流路と、該冷却液流路内を循環させることで内燃機関を冷却する冷却液と、温度変化により該冷却液流路内で生じた該冷却液の体積増加/体積減少に応じて該冷却液の一時貯蔵/不足分供給を行うリザーバタンクとを有する冷却装置において、
前記リザーバタンクは、前記冷却液よりも密度が小さく、使用温度範囲で該冷却液との間で分離する保護液を内部に備えることを特徴とする冷却装置。
【請求項2】
前記保護液は、シリコンオイルである請求項1に記載の冷却装置。
【請求項3】
前記リザーバタンクは、前記冷却液及び前記保護液のうち、該冷却液のみ選択的に透過する選択透過部材を備える請求項1又は2に記載の冷却装置。
【請求項4】
前記選択透過部材は、所定範囲に孔径が制御された網目状部材又は多孔質膜である請求項1〜3のいずれかに記載の冷却装置。
【請求項5】
前記リザーバタンクは、前記選択透過部材の孔径よりも大きな孔径をもち該選択透過部材を補強する補強部材を備える請求項1〜4のいずれかに記載の冷却装置。


【図1】
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【公開番号】特開2007−192054(P2007−192054A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−8896(P2006−8896)
【出願日】平成18年1月17日(2006.1.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(591125289)日本ケミカル工業株式会社 (25)
【Fターム(参考)】